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35歳の俺が上司ざまぁするまでの物語  作者: VANRI


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31/52

最後の日〜今までありがとう

 最後の一日が始まった。

正直この日が来るのが怖かった。どれだけでも遅くなればいいと思っていたが、あっという間に訪れてしまった。


 すでに必要な荷物は全て運び出しが終わっており、本来なら皆来る必要はないのだが、自然と全員が出勤する形となった。


 皆が揃ったのを確認し、高橋が最後の挨拶を始めた。


「まずは、今までありがとうございました。

所長になってからは皆さんに支えられることが多くて、このメンバーで良かったと思った場面が数多くありました。


 私は大切なものに順位をつけていました。

一番は一緒に働くあなた方、二番にお客さん、三番目が売上でした。会社は正反対の順位を求めてきます。

 今回のことを受け、私は間違っていたのかと自問自答しました。

 売上を重視しなかったせいで一番大切なあなた方を失う結果になってしまった。

 ですが今、皆さんの顔を一人一人見て確信しました。

 やはり、私の一番大切なものはあなた方でした。


 今回、私の力不足もありこのような結果になってしまったことをとても申し訳なく思っています。

 今まで支えて頂いたお返しも出来ず、皆さんにどんな顔で会っていいかわからなくなった。

 それなのに最後まで優しく受け止めてくださってありがとうございました。

 一年後にここを再開出来るよう、希望を見失わずに前向きに進んで行きたいと思います。

 私はまた皆さんと一緒にこの景色が見れることを心から願っています。

 今日までありがとうございました。」

 高橋が深々と頭を下げるとわっと拍手が起こった。


 頷きながら聞く者、目を潤ませる者、寂しそうな表情を浮かべたり、目頭を押さえたり……皆の表情を見るだけで胸が締め付けられる。



 営業所の中は物がなくなり、知らない場所のように感じた。こんなにも殺風景になると広く感じる。



「あれ〜? 今日までだっけ〜?」


 聞き覚えのある、とぼけた声!

「真田ぁ〜!」


 手を上げ、いたずらっ子のように笑いながら近付いてくる。

「なんだ〜落ち込んでる顔見ようと思ったのに、いつもと変わんねえのかよ〜つまんなー」


 いつもと同じ悪態に真田の優しさを感じずにはいられない。


「とか言って、俺のこと心配で来てくれたんだろ〜?」

「違うわ! 俺はお前と違って忙しいんだよ!

通りかかっただけだし、あと……これ」

「USB?」

 USBメモリーを手渡される。

「如月の営業所に行くんだろ?

 俺がいた時に作った資料や顧客に関しての情報とか。役に立つかわかんねえけど。俺はもう不要だからやるよ」


「お前……わざわざ……」

やばい目頭が熱くなる。


 真田は察したようで、

「じゃあな! 売上あげろよ!」と言い残し去って行った。


 ただでさえ最終日ということもあり、情緒不安定なのだ。ポーカーフェイスを決め込んでいるが、もう中身はグラグラ。一日中ずっと泣きながら過ごしていたい。



――――――



 廊下で佐伯さんと出くわした。

ドキッとした後、鼓動が速くなる。収まる気配はない。あれから目が合うと緊張するし、自然と目で追う日々が続いていた。


 どちらからともなく近付き足を止める。

「今日で最後になりますね……」

佐伯さんが先に話し出す。


「ああ、でもまた一年後に会えるのを楽しみにやっていかないとな……」

我ながら無難な浅い会話。


 一年も会えないのか。いや、一年経って会える保証もない。毎日会っていたのに会えなくなるなんて。

この笑顔も見れなくなるのか。

胸が締め付けられる。


「じゃあ……また」

また無難に会釈をしながら通り過ぎる。


 手を……握手をするぐらい駄目だろうか。

もし歯止めが効かなくなっても職場だし、出来ることもたかが知れてる。

 もういっそ抱きついてくれないか。そうなれば絶対離さないのに。もうそのまま堕ちてしまっていい……


「成瀬さん!」


 慌てて振り返る。


「また飲みに行きましょうね!」

と、遠い位置のまま言われる。


 俺は目を細めゆっくり頷く。

やはり想像通りにはならないものだと痛感。


 こんな年になってまで馬鹿みたいに恋をするとは思わなかった。

 このこそばゆい感情を、壊さないようそっと包み込み、誰にもとられないように隠しておきたい。




――――――



 帰る寸前、安田がやって来た。

「成瀬さーん」

「安田ぁ〜!!」

熱い抱擁を交わす。


「来てくれたんだな、わざわざ……」

もう涙目。ダム決壊寸前。


「当たり前ですよ! 俺はここで育ったんですから!

 あ、これ差し入れでーす」


 ここには安田も含め、たくさんの思い出がある。

今となっては、見慣れた柱の傷さえも愛おしく尊い。


 安田と今まであった思い出深い仕事の話や大変だった話など一通り振り返る。


 安田は帰る前に営業所全体を見回した。

「俺、また一年後に来ますね!

 それまで忘れないように、この景色目に焼き付けときます!」

「ありがとうな、その言葉でまたやる気が湧いてくるよ」


 安田の背を見送る。これまで何人の背を見送ってきたことか。

 今度は自分が出て行く番なのか……


――――――



 皆を見送り、最後に高橋と二人きりになる。

自販機前で二人でコーヒーで乾杯をした。


 高橋が口を開く。

「なんかさ……最後の挨拶もありきたりな言葉しか言えなくて、言いたいことみんなにちゃんと伝わったか不安……」


「ちゃんと伝わったさ。ありきたりな言葉でも、お前が必要と思って使った言葉は、お前の言葉として心に沁みるもんさ」


「ハハ……最後まで嬉しいこと言ってくれるな。」


 高橋は深く息を吐いて遠くを見るような目をした。

「でもこれで終わりじゃないんだな」


「ああ、始まりだ。第二章がやっと始まるんだよ」



 ドラマや映画なら閉鎖寸前にヒーローが現れ助けてくれるのだろう。

 だが現実は自分の力でどうにかするしかない。

今回はどうにもできなかった結果だ。受け止めるしかない。



 夕陽が差し込み、営業所内にオレンジの帯が現れる。

 何回も見てきたはずの夕陽を新鮮に感じた。




営業所閉鎖に伴い一旦終わりと致しますが、人生と同じでお話は死ぬまで終わりません。

また新たな地で何やら起こるでしょうし、一年後また営業所を再開出来ればそこでまた何かあるでしょう。

ただ、とてもキリがいいのでここで一旦閉じます。

一旦、完結済みにしますが、気づいたらいつの間にか連載開始しているやもしれません。

ご愛読ありがとうございました。

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