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35歳の俺が上司ざまぁするまでの物語  作者: VANRI


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最後の足掻き

 高橋に神妙な面持ちで所長室に招き入れられた。

その時点でいつもと違うことがわかる。

そして悪い話があるのだろうとの予想も出来た。


「大切な話がある……」

ソファに座った俺に静かに話し始めた。


 背筋に緊張が走る。こいつに緊張したことなんか今までないのに。

 俺の動揺は伝わっているだろうが、そこは気にする素振りもない。


「この営業所が閉鎖されるかもしれない」

「……え?」


 言葉を失うが、急いで我を取り戻す。

「『かもしれない』ってことは決定じゃないってことだよな? 理由は?」


 売上か? だが赤字にはなったことがないし、目を付けられるような低い額の売上ではなかったはず。


「次の売上目標額を二倍にされた。それが出来なければ閉鎖するって白井次長が」

「赤字出してないのに!?」

「今までのトータルの売上額が低いからって。

まあ何かと口実を作って潰したいんだろう。

次長になって権力を見せつけたいのかもしれないし、

他の営業所に対しての見せしめもあるだろうな」


「じゃあ、それを到達すればいいってことだな!」


「……え?」

高橋が驚いた顔を上げる。


「そうだろ? そういう無理難題ってやる気出るんだよな、俺」

いつの間にか笑顔になっている自分がいる。


「やるだけやってみよう! 

 それで駄目なら駄目でいいからさ。

無駄でも、みっともなくても、精一杯足掻いて後悔のないようにしたいじゃないか!!」


 高橋がフッと安心したような笑みを見せた。

「お前に話すと、大きな不幸がラッキーに思えてきて怖いな」


―――――――



 それから皆にも協力を仰いだことで、少しずつ売上を伸ばすことが出来た。

 他の営業所も協力姿勢で、次の契約更新分を譲ってくれたり、顧客を紹介してくれたりとプラスの方へ進んでいた。


 まだまだ目標額にはいかないが、皆で力を合わせることの大切さを感じることが出来て、なかなか充実感がある。



 そんな日々が数週間続いた頃、仕事終わりに自販機前で休憩していると藤田が同じようにコーヒーを買って俺の隣に座ってきた。



「残念でしたね、みんな頑張ったけど」

「? 何の話?」

「営業所ですよ、閉鎖決まったんでしょ?」

「いや? 売上次第だろ? まだわからないんじゃないか?」

「決定らしいですよ、俺の同期が人事にいて教えてくれましたから。

 あれ? 成瀬さん副所長だから知ってると思ってましたけど……」




 頭を鈍器で殴られたような衝撃を受ける。

一番避けたかったこと、回避するために頑張っているのに無意味ということか?

 もう終わり? 何しても無駄?



 所長室のドアをどう開けたかも覚えていない。速い鼓動が益々心を焦らせていた。

「高橋!!」


 俺の顔を見て瞬時に察したらしく、目を逸らされる。


「決定なのか!? 売上次第って言ったよな!?」


 高橋は座った体勢のまま俺の方を見ようともしない。

「上の決定だ。変わったんだよ方針が。

しかも、献上金の額を上げられた。収入が増えても支出が増やされれば意味がない」


「なんで今日まで俺に教えてくれなかったんだよ!! 

 何か動きようがあったかもしれないだろ!?

部長に掛け合うとか、社長に相談するとか……!」


「お前に言うと変に動いて目茶苦茶になるだろ!

なんでもお前に言えば解決できるのか!?

 ……もう今日は一人にしてくれ」



 そこまで言われたら何も言えなかった。

 言葉でしか思いを伝えられないはずなのに、今はどんな言葉も意味を持たない気がする。


 脱力感を感じながら所長室を出た。

出た途端に力が抜けたように座り込んでしまう。


 なんで……

俺は頼りないか? 邪魔?

勝手に俺が一心同体と思っていただけ?

 こんな大切なことすら教えてもらえないなんて。

 せめてあいつの口から聞きたかった。

噂話みたいな感じで知るなんて……



「大丈夫ですか?」


 佐伯さんがしゃがみ込み、俺の顔を覗き込んでいた。

こんな時に優しくされたら泣いてしまいそうになる。


 俺が何も言わないのを確認し、

「飲みにでも行きますか」

と笑顔で言われた。


 今は一人になりたくない。

ここにもいたくないし、家にも帰りたくない。


 子供が母親になだめられて後を着いていくように佐伯さんの後を追った。



――――――



 カウンター席に並んで座り、酒を入れると少しずつ話せるようになった。


「俺は……言って欲しかったのに。全部決まってから知ったところで何も出来ないじゃないか……」


「成瀬さんに何も伝えなかったってことは、所長一人で抱え込まれていたってことですかね……」


「なんで一人で抱え込む必要があったんだ、俺がいるのに。こんな風に一人でやるなら何のための副所長かわからない」


「途中経過の時点から苦しんでいたとしたら……」

「……というと?」


「成瀬さんは売上を達成するために、活き活きして仕事していましたよね。いつも笑顔でした。

 その間、所長はずっと苦しんでらっしゃったのではないですか?

 どうせ同じ結果になるのなら、成瀬さんに苦しむ時間をあまり与えないようにと考えられたのではないでしょうか」


「全部私の憶測にはなりますが」

と、優しく微笑んで付け加えられた。


 佐伯さんの予想はだいたい合っていると思う。

高橋の考えそうなことだ。


「私が同じ立場なら、私もそうしたと思います」


 どちらの味方をすることもなく、冷静に分析してくれて助かる。同調されるだけよりマシだ。

 優しい口調や穏やかな表情に癒され、目が離せなくなる。時々見せる、はにかんだ笑顔が可愛いと思う。

 そして気付いた。


 ああ、俺はあの時、この子のこと好きだったんだな……と。

 好きになったのに酒の勢いであんなことになり、いたたまれなくなって逃げたんだろうな……

 その後も連絡とる勇気なくてそのままに……



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