想い人
今月の売上額、来月の目標額について高橋と二人で話し合う。もうこれも何回目かになるので慣れてきた。
話が終わり、部屋を出ようとすると高橋に呼び止められる。
「そう言えば、阿部が結婚するらしいよ」
「えぇっ!?」
目を見開けるだけ見開いて高橋を見る。
「お前さ! こないだの真田の時もだけどその発表の仕方どうにかなんねえの!?
『冷やし中華始めました』くらいの軽い感じで言うなよ〜!」
「え? そうだったか?
まあ他人事だし? 俺に直接影響ないし」
「俺ならもったいぶって、じゃじゃーんって感じで発表すんのに!」
「ハハ……本当にやりそうだな。
じゃあ俺の結婚の時、誰かに報告するならそうやってくれ」
軽い溜め息をつきながら出ようとすると、
また高橋が言ってきた。
「相手は如月所長だってさ」
「はあ〜ッ!?
それだよそれ!! その発表方法を言ってんだよ!!
それ大事件レベルの話じゃねえか!!」
「あれ? そんな驚くと思わなかった」
脳天気な高橋は置いておいて、阿部を呼び出して俺と高橋を含めた三人で飲みながら話を聞くことにした。
大衆酒場風の居酒屋なので気楽に飲みやすい。
戸を開ける前から、煙と一緒に肉を焼く香ばしい匂いが漂ってくる。
ビールと適当につまみを頼み話が始まる。
「アハハ……それは高橋の言い方が悪いや」
阿部が笑いながら続ける。
「俺は結婚『したい』って言っただけで、『する』とは言ってないから!」
「でも付き合ってるってのは本当か……?」
疑いを込めて聞いた。まだ信じられない。
「うん、まだ何ヶ月かだけど」
「なんで……?」
現実味なさ過ぎて失礼な質問をしてしまう。
「なんでって……。
見た目とか? 俺の横にいても美観を損なわないかなって。ほら、連れて歩く女もファッションの一つって言うだろ」
フフンと笑いながら返答される。
「そんな理由……」
「マジか……」
「嘘だよ!! 二人して普通に引くなよ!!
話してて仕事熱心だし、あれで家庭的なとこあって可愛いって思ったんだよ!!」
「なんだ……良かった、ちゃんとした理由あったんだな」
「ああ、本当に外見で選んだのかと思った……」
高橋と二人で顔を見合わせ安堵する。
阿部がビールを飲みながら話し出した。
「俺は……2番目なんだよ」
「え? どういうこと?」
「何それ! 話せ話せ!」
わくわくして阿部の発言を待つ。
「そもそも如月さんは別に好きな人がいて、その恋愛相談とか聞いてて流れでそうなっただけで。
本当はまだそいつのこと好きなのかもしれない」
「いや、流石にそれはないだろ〜なあ?」
「ああ、付き合う時点でお前のこと好きになってるって」
「あ、もしかして」
高橋が何かに気づいた。
それに阿部も反応し、頷く。
二人の人差し指が同じタイミングで俺に向けられる。
「え? 俺が何?」
「こいつか〜」
高橋がやれやれといった表情を浮かべる。
「な? 面倒くさいだろ」
阿部も嫌そうな顔をする。
高橋が俺に目をやりながら話し始める。
「如月さんが成瀬のこと気になってるのは薄々感じてたけど、恋愛相談するまでとは思わなかったな」
「え! 全然気付かなかった……」
「お前鈍感だもん」
阿部が当然のように言う。
「変なところでモテるんだよな、お前って。
飲み会やっても全然誰にも見向きされない時もあるのに、ピンポイントに好かれたり」
高橋が呆れているのがわかる。
「でも何で俺?」
「色々理由は聞いたけど、聞けば聞くほど虚しくなるからあんまりちゃんと入ってこなかった」
「今どんなにモテたとしてもモテ損だな、何も出来ないし。残念だな、成瀬」
「まあ、そうだけど……悪い気はしないよな」
「うわ〜モテ男っぽい発言〜。
ねえどう思う? もう成瀬より俺のこと好きになってくれてるかな?」
必死に高橋に答えを求めている。
「どうだろうな〜……実らない恋ほど引きずったりするからな〜、なあ成瀬」
「え、俺に聞く?」
「だって最近失恋しただろ〜?」
「え! なにそれ! 面白そうじゃん!
詳しく聞かせて!」
阿部が身を乗り出してくる。
高橋が先日の話を面白おかしく話してみせる。
阿部はそれに相槌を打ちながら興味津々に聞いている。
「叶わぬ恋って引きずるもんな〜。その点俺は実ってるからまだマシかな〜」
阿部が俺を見ながらしみじみ呟く。
二人を見ながら思わず言ってしまう。
「二人とも恋愛できるからいいよな、楽しいもんな……結婚したらそんなの出来ないし。
20歳からお酒飲めるようになって、何人かと付き合って結婚したけど、たった10年よ、俺の大人になっての恋愛人生。少なくない? 短くない?
人生80年としても少すぎだろ、一瞬だろ」
思わず深い溜め息をついてしまった。
「何こいつ、病んでんの?」
阿部が引き気味に高橋に言っている。
「こないだから俺の結婚を妨害しようとしてくるんだよ、怖いよな」
「そういう気分にもなる時があんだよ〜独身っていいなーみたいな」
旦那や嫁に恋愛感情を持てばいい、と理想論を言われるが実際それが出来る夫婦はひと握り……いやひとつまみではないか。
そういうのではなく、恋の駆け引きとか恋愛成就するまでのドキドキ感を味わいたくなるけど、まあまず無理だろう。
こうやって考えるだけで罪悪感すら感じるのだから。




