過去との対峙
佐伯さんの歓迎会を兼ねた飲み会をすることになった。
もう何ヶ月か経っていたが、高橋や俺の昇進祝いも含めてすると藤田に言われた。
まあ、ただ単に飲みたくなっただけだろう。
この令和時代、飲み会はもちろん自由参加。来たくない人も断りやすい時代になった。
だがこの営業所はほとんど参加してる印象。
これもポワポワしてるお陰でかな?
昔ながらの居酒屋、個室が数個ある。そのうちの一つを貸し切りにしてもらった。
戸を開けると、焼き鳥のいい匂いが漂ってきた。
これは当たりだろう。
そして! よりによって佐伯さんが俺の横に座った。
高橋は俺の前に座り、ニヤニヤしながら俺たちの様子を見ている。
同じ事があったら同じようにやり返してやるのだが、高橋は昔から抜け目ないのでそのような状況になることはないだろう。
うわ〜緊張する〜!!
酒飲んでも酔える気がしないし、むしろ飲み過ぎて昔の二の舞になったら……!?
皆の話がちゃんと入って来ないし集中できない!
飲み会が中盤になったあたりで、佐伯さんに小声で話しかけられる。
「私のこと思い出してくれました?」
こーーーわ!!!
無難に答えなくては。
口が裂けても、俺たちヤッたよね? なんて言えない!
佐伯さんに合わせて小声で話す。
「昔、飲みに行ったよね……あの時結構酔っててあまり覚えてないんだよね……」
しまった!! つい言ってしまったけど、酔ってて覚えてないですが抱きました、とか失礼千万じゃないか!?
恐る恐る顔を見ると、笑みを浮かべていた。
「私も酔ってたし昔の事だからあまり覚えてなくて……」
え? これセーフ? お互い様だから許される?
でもこういうのって全面的に男が悪になるよね?
女がどんなに色仕掛けして誘ってきたとしても、結局ヤッてしまったこっちが悪になるよね?
なんでだろ。男が力強いから?
男尊女卑? いや女尊男卑だろ。
でもこの子と本当にヤッたんだろうか……
記憶が曖昧過ぎて情けない。
この子の裸見た……? 見るどころじゃないそれ以上の……
ああ! ヤバいヤバい! 想像しようとしてた!
「最後まではしてないですよ」
「……え!?」
驚き過ぎて小声を忘れて声を上げた。
高橋が面白そうにこっちを見ている。
あいつ他人事だから面白いだけじゃねえか!
「本当?」
また小声に戻す。
「はい」
「でも俺裸になってなかった?」
「服が汚れてたから洗ったりしてたので……」
そう言えば朝から服を着た時に濡れていて、シャツがベタッと身体に張り付いた感覚があったような。
俺の安心した顔を見て笑う。
いやでも、確実にキスした記憶が……
「キスはしましたけどね」
上目遣いで言われて心臓が跳ね上がる。
もしあの時、酔わない状態で家に行っていたら、酔っていても自我を保てるくらいだったら、
こんなに面倒見のいい優しい子とわかってたら付き合っていたかもしれない……
なんかもったいないことした気が。
でも俺が? 理性失った状態で手を出さないとかある?
自分が信用出来ない分、この子の意見を信じるしかないのだが。
気を遣って言ってくれている可能性も否定出来ないか。
「あの日、覚えてらっしゃらないだろうけど、たくさん話したんですよ。その時に周りを思いやる素敵な人なんだなって思いました。まさかまた会えるとは思いませんでした」
会話してたんだ……本当に覚えてなくて申し訳ない。
あれ? この感じだと今も脈アリ……?
考え終わる前に笑顔で言われる。
「でも私、既婚者には興味ないので安心してくださいね」
「ハハ……そうなんだ」
そうなんだって何だ俺の答え!
他にいい回答例あったら誰か教えてくれ!!
安心感と残念感が混ざり合った複雑な感情が湧いてくる。
高橋との帰り道、さっきの出来事を話しながら歩いていた。
「凄くいい子だった……」
力ない声で呟いてしまう。
「だろ〜? だからあの子にお前の看病託したんだよ〜。遊んでそうな女だったら止めてたさ」
「え、そこまで考えて……?」
「当たり前だろ〜、親友を不幸な目に遭わせたりするわけないだろ、この俺が」
親友という言葉の使い道がうますぎる。
こいつは言葉の使い方がうまいから、今まで男も女も周りに集まってきたんだろうな、とふと思った。
高橋が歩きながら続ける。
「まあ、残念ながら俺の思惑通りにはならなかったけど……」
「あれ?」
不意に顔を覗き込まれる。
「もしかして、もったいないことしたとか思ってる?」
図星のため動揺してしまう。
「え……まあ……」
「じゃあ、やっちゃう? 不倫!」
「はぁっ!? やんねえよ!
そんな一時的な感情で動ける程若くねえし、
一瞬幸せは感じてもそれはすぐ消えてしまいそうだし……」
「ハハ……そういうと思った!」
くそ〜またからかわれた〜!!
でもあれだ。初恋みたいな淡い感情を思い出すことが出来た。懐かしいな、こんな感覚。
手に入れることが出来ないものに出逢った時、
こんなにも切なくなるとは。
胸を掻きむしりたい衝動に駆られる。
そしてキスしたってことは……それなりに好意あったと思うんだけど……




