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二度目の人生は「ゆるりと」生きることに決めました  作者:


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40/44

【40話】春の匂い

朝、外へ出ると、土の匂いがした。

まだ少し冷たい空気。

けれど、冬の匂いではない。


私は店の前で小さく伸びをする。


雪はもうほとんど残っていなかった。

地面は柔らかく、ところどころ湿っている。


「……春だなぁ」


去年の今頃も、こうして土を見ていた気がする。

ただ、あの時は余裕なんて全然なかった。

何を植えればいいのかも分からない。

この世界の季節感も分からない。


とにかく、生きるために必死だった。


私は倉庫から道具を引っ張り出す。

去年使っていた小さな鍬。

少し土が残っていて、柄の部分も少しくたびれていた。


「あー……使ったなぁ」


なんだか妙に懐かしい。

まだ一年しか経っていないのに。


私は土を軽く掘り返していく。

柔らかい。

冬を越えた土は、ひんやりしているのに、どこか暖かさも混ざっていた。


去年は、動物にも結構やられた。


芽が出たと思ったら食べられていたり、掘り返されていたり。

あの時は呆然とした。

そのあとミアとルゥに相談して、途中から簡単な対策をしたんだった。


「この辺は普通に食べられる」


「対策したほうがいいですね」


二人にそう言われて、慌てて柵を作った記憶がある。


今年は最初から準備してある。

私は倉庫の端に立て掛けていた網を持ってくる。

簡単な木の柵。

それから、動物避け用の香草。


去年の経験がちゃんと残っていた。


「今年は食べられませんように……」


小さく呟きながら網を張る。

こういう作業にも、少し慣れた気がする。


全部終わってから、私は種の袋を並べた。


市場で買った野菜の種。

香草。

葉物。

それから、小さな紙袋。

ミアから貰った星灯花の種だ。


私は少しだけ迷ってから、店の入口の近くにしゃがみ込む。

ここなら、咲いた時によく見える。


袋を開ける。


小さな種。

これが本当に花になるんだろうか。


私は土に指で小さな穴を作って、そっと種を入れた。

土をかぶせる。

なんとなく、丁寧に。


「ちゃんと咲くかな」


ミアは咲くって言っていたけれど。


私は水をかけてから立ち上がる。


畑の方を見る。

まだ何も育っていない。

茶色い土が広がっているだけだ。

でも去年も、ここから始まった。


芽が出て。

葉が増えて。

収穫して。

料理になった。


季節が巡っていく。


私はテラス席に座り込んで、持ってきた紅茶を飲む。


風が気持ちいい。

少し前まで雪を見ていたのに、今は土を見ている。

季節はちゃんと進んでいるらしい。


去年は、この世界でちゃんと暮らしていけるのか不安だった。

春を迎えられるかも分からなかった。

でも今は違う。

また春が来ることを、当たり前みたいに思っている。


私は紅茶を飲みながら、小さく笑った。


「今年は何作ろうかな」


誰に聞かせるでもない声が、春の風に溶けていった。

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