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二度目の人生は「ゆるりと」生きることに決めました  作者:


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【38話】春の種

朝、外へ出ると、空気が少し違っていた。


まだ寒い。

吐く息も白い。

けれど、冬の真ん中みたいな刺さる冷たさではなかった。


屋根の端から、ぽた、ぽたと雫が落ちている。


私は店の前にしゃがみ込む。

雪の下から、地面が少し見えていた。


「……春、近いのかな」


去年の今頃は、そんなことを考える余裕もなかった気がする。

寒さを越えるだけで精一杯だった。


でも今年は違う。

春が来るのを、少し楽しみにしている自分がいた。


立ち上がった時、ふとポストが目に入る。

珍しく、中に封筒が入っていた。


私は首を傾げながら取り出す。

差出人を見て、少し驚いた。


ミアだ。


わざわざ手紙なんて珍しい。


店へ戻って封を開ける。

中には、小さな紙袋が入っていた。


さらさらと乾いた音。

種だ。


一緒に入っていた紙には、短く文字が書かれていた。


『星灯花の種。春に咲く。店の前、合うと思う』


……短い。

でも、なんとなくミアらしかった。


私は紙袋を光に透かしてみる。

小さな種。


どんな花なんだろう。

名前の響きだけは綺麗だった。


「私も、何か植えようかな」


そう呟いて、私は街へ行く準備を始めた。


冬の間は静かだった道も、今日は少し人が多い。

雪解けで動きやすくなったからか、市場の通りにも活気が戻り始めていた。


行き交う人。

聞こえる声。

荷物を運ぶ音。


私はその中をゆっくり歩く。


前なら、人の多い場所は少し苦手だった。

疲れるし、気を張るし、帰る頃にはどっと消耗していた気がする。

でも今日は、不思議とそこまで嫌じゃない。

人の流れを避けながら歩いても、息苦しさみたいなものがない。


私はふと、小さく瞬きをした。


(……平気だ)


それが少し不思議で、少しだけ可笑しかった。


市場を抜けたところで、小さな本屋が目に入る。

そういえば、冬の間に読んでいた本も途中だった。

私はなんとなく足を止め、そのまま中へ入った。

気づけば本を二冊買っていた。


そのあと焼菓子の店で、季節限定だという蜂蜜入りの焼菓子を見つける。

少し迷って、買う。


さらに茶葉の店で香りを試しているうちに、「これ、店で飲むのによさそう」と思ってしまい、結局それも買った。


帰る頃には、両手の荷物が増えていた。


「……買いすぎたかも」


少し苦笑いしながら、私は店へ戻る。


暖かい店内に入って、机に荷物を並べる。


本。

焼菓子。

茶葉。

それから、雑貨屋でつい買ってしまった小さな花柄の布。


私は並べ終わって、それからふと止まった。


「……あ」


種。

見てない。


私はしばらく黙ったまま机を見る。


街へ行った目的を、綺麗に忘れていた。


沈黙。


それから、小さく笑ってしまう。


「まあ、いっか」


机の端には、ミアから届いた星灯花の種がある。

とりあえず、春に植える種はもうあった。


窓の外を見る。


雪はかなり減っている。

雫が落ちる音が、静かに響いていた。

春は、もうすぐそこまで来ていた。

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