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二度目の人生は「ゆるりと」生きることに決めました  作者:


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【34話】三つの手袋

収穫祭が終わって、数日ぶりの定休日だった。


朝の店は、久しぶりに静かだった。

広場から聞こえていた賑わいもなくて、扉を開けても香辛料と紅茶の匂いしかしない。

……少しだけ、ほっとする。


私はカウンターに売上袋を広げて、中身をもう一度確かめた。

数え間違いじゃない。

「……こんなに」

思わず声が漏れる。


祭の間は仕込みと店番で考える余裕もなかったけれど、改めて見ると、やっぱり想像より多かった。


向かいからルゥが覗き込む。

「七日分ですからね。焼菓子もアップルコンポートも、たくさんの方に喜んでいただけましたし」

穏やかな声。


誇らしげ、というよりは、ちゃんと届いた結果を一緒に喜んでくれている感じがする。


ミアも隣から袋を見て、それから短く言った。

「冬」


……うん。

その一言で、だいたい分かった。


「たしかに」

朝晩はもう、少し冷える。

店の椅子も、もう少しあったかいほうがいい。

毛布もほしいし、クッションもあったら長居しやすいかもしれない。

ついでに、鍋も少し使い込んできた。


私は売上袋を閉じて、小さく笑った。

「今日は、買い物にしようか」


「うん」


「いいですね」

二人とも、すぐに頷いた。


町の市場は、祭の派手さが消えたぶん、いつもの季節に戻っていた。

その代わり、あちこちに冬支度の気配がある。


厚手の布。

編み物。

湯気の立つ屋台。

保存食用の瓶。


秋の終わりと、冬の始まりが並んでいるみたいだった。


最初に寄ったのは布屋だった。

店先には毛布や厚手の布が並んでいて、見ているだけで少しあたたかそうだ。


「店に置くなら、丈夫で手入れしやすいものが良さそうです」

ルゥが布を見ながら言う。


私は椅子に掛けやすそうなものを選びながら、ふと隣を見る。


ミアが、一枚の毛布をじっと触っていた。

深い緑色で、森みたいな色合い。


「……ミア?」

呼ぶと、ミアは少しだけ手を止めて、


「やわらかい」

と言った。


……珍しい。

私はその毛布を手に取ってみる。

軽いのに、ちゃんとあたたかい。

「じゃあ、これにしようか」


ミアが小さく頷く。

それだけなのに、なんとなく正解を引いた気がした。


次は雑貨屋。

クッション、少し厚手のカップ、新しい焼き型。

今すぐ必要じゃないけど、あったら少し良くなるもの。


前の私なら、たぶん迷った。

“まだ使えるから”とか、

“もっと頑張ってから”とか。

でも今は、

少し楽になることとか、

少し心地いいことも、

たぶん大事だと思う。

無理しないために生きるって、こういうことかもしれない。

そう思いながら、新しい深鍋も選んだ。

今までより少し大きい。

これなら冬の煮込みにも、林檎にも使いやすそうだった。


帰り際、小さな衣料品店の前でミアが足を止めた。


珍しい。


視線の先を見ると、手編みらしい手袋が並んでいた。

色違いで、同じ形。

生成り、深緑、紺。


「……これ」

ミアが深緑を手に取る。


ルゥも紺色を見て、

「暖かそうですね。細かい作業もしやすそうです」


私はなんとなく生成りを持つ。

試しにはめてみると、思ったより柔らかくて、ちゃんと暖かい。

「……いいかも」

そう言ったら、


ミアはもう深緑を離さないし、


ルゥも静かに頷いている。


「……三つ、ください」

気づいたら、そう言っていた。


おそろい、というほど大げさじゃない。

ただ、たまたま三人とも気に入っただけ。

たぶん、それくらいがちょうどいい。


店に戻る頃には、空気が少し冷えていた。

新しい毛布は窓際の席へ。

クッションは椅子へ。

鍋は厨房へ。


少しずつ、店が冬に近づいていく。

大きく変わったわけじゃない。

でも、ちゃんと良くなっている。


私は新しいカップを軽く洗って、いつものように紅茶を淹れた。

湯気がゆっくり立ちのぼる。

こういう時間が、やっぱり落ち着く。


ミアは椅子に座って、毛布にくるまりながら手袋を見ていた。

「……あったかい」

短いけれど、満足そうだった。


ルゥも手元を見て、少しだけ笑う。

「冬も悪くなさそうですね」

私は自分の手袋をはめたまま、カップを包む。


あたたかい。

窓の外では、秋の終わりが少しずつ近づいている。


でも去年より、

前より、

きっと今年は、少しだけいい冬になる。

「……うん」

私は湯気の向こうで、二人を見ながら笑った。

「ちゃんと、準備できそうだね」

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