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二度目の人生は「ゆるりと」生きることに決めました  作者:


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32/43

【32話】想定以上

収穫祭の一日目。


広場は朝から人の流れが途切れなかった。焼けた木の匂い、果実の甘さ、色々な匂いが混ざって、秋そのものを煮詰めたみたいな空気になっている。


うちの店先も例外じゃなかった。


「スパイスシチュー、残りあと一杯です!」


昼を少し過ぎた頃、行商人の声が一段高くなる。いつもの調子なのに、どこか焦りにも似た熱が混じっていた。


最後の一杯が渡された瞬間、鍋の底が見えた。


「……売り切れ、か」


私は軽く息を吐く。想定より早い。嬉しさと、単純な驚きが同時に来る。


「リゼル、戻る?」

ミアが短く言う。森帰りのせいか、指先にまだ草の匂いが残っている。


「うん。仕込み直す」


ルゥがすぐに鍋を覗き込んで、真面目な顔で頷いた。


「想定以上の売れ行きなので追加で仕込みした方が良さそうですね」


「一応、一週間分作ってはあるけど……」


「追加で作りましょう」


即答だった。


ミアが小さく笑った気がした。


店に戻る道は少しだけ軽い。帰る前に行商人が手を振ってきた。


「先生ぇー!明日も頼みますよ、これマジで売れますからね!」


「無理しない範囲でね」


リゼルがそう返すと、行商人は勝手に感動した顔でうなずいていた。


——夕方前、仕込みのために店へ戻る。


厨房に火を入れ直す音だけが、しばらく続いた。


香辛料を量る手が、少しだけ速くなる。


(……もう少し増やしてもいいかもしれない)


そんなことを考えているうちに、外の光が橙から群青へ変わっていった。


夜。


店の扉が開く音がして、二人が帰ってきた。


ミアは袋を持っていた。ルゥはその後ろで、いつもより少しだけ表情が柔らかい。


「リゼル」


「おかえり」


短いやり取りのあと、ミアが袋を机に置く。


中には、焼菓子の入っていた箱と、アップルコンポートの空き容器。


「全部、評判よかった」


それだけ。


ルゥが補足するように言う。


「焼菓子は特に“軽い甘さがちょうどいい”という評価が多かったです。アップルコンポートは保存性と香りのバランスが高評価で……つまり、評判が良かったと言うことですね!」


「……ふーん」


私は小さく息をついて、少しだけ笑った。


「ちゃんと届いてるんだね」


その言葉に、ミアはただ頷く。


ルゥも頷く。


言葉はそれ以上増えないのに、空気だけが少し温かくなる。


私は火を落としながら、静かに言った。


「じゃあ、明日も頑張ろうか」


ミアが短く答える。


「うん」


ルゥも少し遅れて続く。


「はい!」


収穫祭は、まだ始まったばかりだった。

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