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二度目の人生は「ゆるりと」生きることに決めました  作者:


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31/44

【31話】予定より少し騒がしい

朝はまだ、会場の空気が完全には温まっていなかった。


私は最後の鍋の火を落としながら、静かに息を吐く。

「……よし」


横には、蓋をした鍋がいくつも並んでいる。

スパイスシチュー用のベース。

アップルコンポートの瓶詰め。

焼き菓子の箱。


どれも“いま完成させるもの”じゃなくて、“あっちで仕上げるもの”。


ミアは無言で荷を持ち上げ、台車に積み込む。


軽い動きなのに、揺れがほとんどない。


「大丈夫?」

そう聞くと、ミアは一言だけ。


「平気」

それで終わる。


ルゥは最後に確認するように紙を見ている。

「看板類はすでに行商人さんに預けています。配置も指定済みです」


「……ちゃんとできてるといいけど」

私がそう言うと、ルゥは少しだけ間を置いてから言った。


「彼は“こういう仕事”は得意そうでした」

それは安心材料なのか不安材料なのか分からない。


会場に向かう道中は、妙に静かだった。


朝の準備時間特有の、まだ誰のものでもない空気。


その中を、私たちは料理を運んでいく。


「重い?」

ミアに聞くと、首を横に振る。


「大丈夫」

本当に、それ以上の言葉はいらないらしい。


会場に入ると、空気が一気に変わる。


人の流れ。

設営の音。

そして──中央。


そこに視線を向けた瞬間、私は一度だけ止まった。

「……あそこじゃん」

思わず口から出た。


ど真ん中。

本当に、ど真ん中。

人の動線が交差する、いちばん目立つ場所。


すでにうちの“看板”が設置されている。

木の札。

丁寧な文字。

妙に完成された配置。


ルゥが小さく頷く。

「問題なく設置されていますね」


「いや、目立ちすぎでしょこれ」

ミアはもう鍋の位置を見ている。


「ここ置く」

即決。


そのタイミングで、後ろから声がした。

「先生!!」


振り返るまでもない。

行商人だった。


今日は荷物を持っていない。

代わりに、やけに誇らしげな“やりきった顔”をしている。

「セッティング完了です!!完璧です!!」


「うん……見た」

私は短く返す。


「看板も動線も、全部最適化しました!!人が一番流れる位置に、先生の料理が来るように!!」


「それ、最適化って言うのかな」


ルゥが静かに補足する。

「……かなり攻めた配置ですね」


「攻めたって何?」

私はつぶやく。


「ど真ん中」

ミアが続ける。


うん、それ。


私は鍋を台に置きながら、軽く息を吐いた。

予定とは違う。

事前説明もない。

でも、もう配置は完成している。

行商人は満足そうに頷いているし、ルゥは既に記録を始めているし、ミアは火を見ている。


私は少しだけ肩を落としたあと、言った。

「……まあいいか」


ミアが小さく頷く。

「いい」


ルゥも同じように。

「運用上は問題ありません」


行商人は満面の笑みで拳を握る。

「一週間、よろしくお願いします!!」


私は鍋の蓋に手を置いて、少しだけ笑った。


そして、祭りの音が少しずつ近づいてくる。

まだ始まっていないのに、もう始まってしまっているような──そんな場所の真ん中で。

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