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二度目の人生は「ゆるりと」生きることに決めました  作者:


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20/45

【20話】花壇と足あと

朝。

いつものように窓を開けて、庭に目を向けて。


「……え?」


私は、そのまま固まった。


庭先。

店の前。

少しずつ育ててきた花壇。


……が。


「えっ」


もう一度言っても、変わらない。


花が倒れている。

葉がちぎれている。

この前芽吹いたばかりの野菜も、いくつか土が掘り返されていた。


「……」


私はしばらく無言のまま、その場に立ち尽くした。


「…………えぇ……」


声が遅れて出た。


ショック、だった。


春に植えて。

少しずつ芽が出て。

水をやって。

雨の日を越えて。


ちゃんと育ってきていたのに。


全部、ではない。

でも、だいぶ。


「……これは、へこみます」


しゃがみこんで、倒れた花をそっと起こす。

茎が折れてしまったものもある。


「……ごめんなさい」


誰に言うでもなく、そんな言葉が出た。


私が悪いわけじゃないのに。

でも、なんとなく。


——からん。


「こんにちは!」


ルゥがやってきて、いつものように明るく……。


「……えっ!?」


止まった。


「な、何があったんですか!?」


「……私も今、知りました」


ルゥは慌てて庭へ出る。


「ひどい……」


「ですよね……」


二人で、しばらくしょんぼりする。


そこへ。


——からん。


「こんにちは」


ミア。


そして、数秒後。


「……荒れてる」


「はい」


「荒れてます」


ミアは静かに庭へ出ると、しゃがみこんだ。


折れた茎。

掘られた土。

葉のちぎれ方。


じっと見て。


「……足あと」


「足あと?」


私は慌てて近づく。


「ほんとだ……」


土のやわらかい場所に、小さな跡。


「これ、何ですか?」

ルゥが聞く。


「森うさぎ」


「……うさぎ?」


ルゥがきょとんとする。


「このへんの森にいる、小さい茶色」


「見たことあるんですか?」


「ある。耳、長い。速い」


泥棒とかじゃなかった。

いや、泥棒も困るけど。


「食べたかった、か」


ミアが土を指で触る。


「新しい芽、やわらかい」


「……なるほど」


悪気は、ない。

たぶん。

ただ、おいしそうだっただけ。


「……でも」

私は少しだけ遠い目になる。


「私も楽しみにしてたんですが……」


「わかります……」

ルゥも、しょんぼり。


少しずつ育つのを見るのが、楽しかった。

花も。

野菜も。


自分の店の前が、少しずつ変わっていく感じが。


だからこそ。

思ったより、地味に心にくる。


「……守る、必要ある」


ミアが言った。


「守る」


「このままだと、また来る」


「……ですよね」


私は立ち上がる。


落ち込むのは、少しだけ。


「……対策、しましょうか」


ルゥが顔を上げる。


「はい!」


そこからは、少しだけ大忙しだった。


ミアは森で、香りの強い虫よけや動物よけになる葉を集めると言う。


「嫌いな匂い、ある」


「すごいですね……」


ルゥは。


「私、柵みたいなの作れるかも」


「柵?」


「編み物みたいに、細い枝なら」


「……ルゥ、器用ですね?」


「た、たぶん」


そして私は。


「……できる範囲で、植え直します」


折れてしまったものは仕方ない。

でも、無事なものもある。

まだ、全部じゃない。


午前中いっぱい。

三人で庭にいた。


枝を組んで。

香り葉を置いて。

土を整えて。


少し乱れてしまった花壇を、もう一度整える。


「……なんだか」

ルゥが小さく笑う。


「前より、ちゃんとしてきましたね」


「ですね」


小さな柵。

自然な香り避け。

少し配置も変わった。


「……結果的に、防犯強化です」


「相手、小動物ですけど」


ルゥが笑う。


ミアも、少しだけ口元を緩めた。


「たぶん、前より平気」


私は庭を見る。


荒らされた朝は、正直ちょっと悲しかった。

育ってきたものが傷つくのは、思ったより堪える。


でも。


それだけ、ちゃんと大事だったんだと思う。


この庭も。

この店も。

少しずつ育っていくものも。


「……守りたい場所、ですね」


ぽつりとそう言うと。


「はい」

ルゥが頷く。


「うん」

ミアも言う。


なんだか、それが少しだけ嬉しかった。


荒らされた花壇。

でも、終わりじゃない。


また整えて。

また育てればいい。


前より少しだけ、守りながら。


庭先には、小さな柵。

風に揺れる花。

そして、新しく置かれた香り葉。


私は土で少し汚れた手を見て、ふっと笑う。


「……次は、負けません」


たぶん。

小さな相手に向ける言葉としては、少しだけ大げさだったけれど。


そのくらいで、ちょうどよかった。

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