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二度目の人生は「ゆるりと」生きることに決めました  作者:


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19/43

【19話】ちょうどいい距離

次の日。


私はいつものように店を開けて、いつものようにカップを並べていた。


窓から入る光はやわらかくて、雨上がりの庭は少しだけ色が濃い。


昨日、森で摘んできた花と葉は、小さな瓶に分けてカウンターの端へ置いてある。


名前は、まだ知らない。


でも、知らないまま置いてある感じも少しだけ嫌いじゃなかった。


——からん。


「こんにちは!」


ルゥがやってくる。


「こんにちは」


ルゥはカウンターの花を見るなり、少し目を丸くした。


「わぁ、昨日摘んできた花ですよね!」


「はい。綺麗だったので」


昨日のことは、なんとなく二人だけの小さな探検みたいで、少し楽しかった。


「名前はわかりませんけど」


「ミアさんなら、知ってそうです」


「ですね」


そう言った、そのとき。


——からん。


「こんにちは」


振り向くと、そこには本当にいつも通りの顔のミアがいた。


二週間ぶりだというのに、あまりにも普段通りで、少しだけ可笑しくなる。


「こんにちは、ミアさん!」


ルゥが嬉しそうに手を振る。


ミアは小さく頷いて、いつもの席へ。


何も特別なことは言わない。


どこへ行っていたとか。

どうしていたとか。


聞こうと思えば、聞ける。


でも。


たぶん、今はそれじゃない。


「今日は、少し落ち着くお茶にしますね」


私はそう言って、三人分を用意する。


お茶の湯気がゆっくり立ちのぼる。


「昨日、森に行ったんです」


私がそう言うと、ミアが少しだけ顔を上げた。


「森」


「はい。少し散歩みたいな感じで」


「花、あった」


「ありました」


私はカウンターの瓶を持ってくる。


「これとか」


ミアが花を見る。


少しだけ近づいて。


「……これは、香り花」


「香り花?」


「乾かすと、少し甘い香り。お茶にもできる」


「……え」


私は思わず花を見直す。


「お茶に」


「うん」


ルゥも目を輝かせる。


「すごい……!」


「こっちは?」


今度は葉。


ミアは一枚指先で触れる。


「眠り葉」


「名前がちょっとすごいですね」


「少し落ち着く。夜向き」


「……なるほど」


昨日、なんとなく“ハーブっぽい”と思っていたものに、ちゃんと意味がついていく。


「ミアさん、やっぱり詳しいですね」


「森、長い」


短いけれど、それで十分だった。


「……そういえば」


ミアがぽつりと言う。


「昨日」


「?」


「いた」


「……え?」


私とルゥが、ぴたりと止まる。


「リゼルとルゥ」


「……」


ルゥが先に固まった。


「気づいてたんですか……?」


ミアはこくりと頷く。


「少し」


「少し、ですか」


「花、見てた」


「……」


私は思わずルゥを見る。


ルゥも、同じように少し気まずそうだった。


探しに行った、とは言っていない。


言わないままでいいと思っていた。


でも、どうやら気づかれていたらしい。


「……声、かけてくれてもよかったのに」


ルゥが少しだけ口を尖らせる。


するとミアは、少し考えてから。


「楽しそうだったから」


「……え?」


「ふたり」


「……」


昨日。


花を見て。

葉を見て。

思ったより普通に楽しんでいた。


その通りすぎて、何も言い返せない。


「……見られてたんですね」


「少し」


少し、の範囲が気になるところだけど。


でも。


なんとなく、そのままでよかった気もした。


無理に合流しなくても。

説明しなくても。


お互い、それぞれで。


それで、こうしてまたいつものようにお茶を飲んでいる。


「……まあ」


私は小さく笑う。


「次は、見つけたら声くらいかけてください」


ミアは少しだけ考える。


「気分」


「そうですか」


ルゥが吹き出した。


「ミアさんらしいです」


結局、それで納得してしまう。


たぶん。


全部を知る必要はない。


どこにいたか。

何をしていたか。

どうして会わなかったか。


聞きたいことがないわけじゃない。


でも、聞かないままでもいいこともある。


来たいときに来て。

話したいことを話して。

またこうして、席につく。


それくらいの距離が、今はちょうどいい。


「じゃあ、この花は乾かしてみましょうか」


「うん」


「楽しみです」


三人分のお茶の湯気が、静かに揺れる。


森のこと。

知らない花。

言わないこと。

でも、ちゃんと伝わること。

全部を言葉にしなくても。


こうして同じ時間を過ごせるなら。


それはきっと、悪くない関係だった。

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