女装生活の始まり
数えるのも億劫になるほどの斬撃をすべて剣で受け止める。
どれほど現金をつぎ込んだのかは知らないが最高レア度の装備で全身を埋め尽くし、レベルもカンストさせている相手プレイヤー。
当たれば一撃で自分のHPは半分以上、下手すれば瀕死の状態にまでなるだろうが、当たらなければ何の問題はない。
前大会の優勝者ということもあり、多少は動けるみたいだが大したことはなかった。
一瞬動きが止まった僕を見て、チャンスと見たのか相手は上に振り上げた剣を勢いよく振り下す。
意識的か、無意識化は知らないが、変に力が入り大振りになっており、避けるのは簡単だった。
上から迫りくる剣を最小限の動きで回避し、そのままがら空きとなった相手の首目がけて一閃。
それにより相手のHPは0となり試合終了を告げるブザーが響き渡る。
『きぃまったああぁぁーーー!! 勝者K選手だあああ!! K選手のプレイヤースキルは圧倒的だったッ! 周りの参加者が皆レベル100、つまりカンストの中、K選手はなんとレベル88! なんとレベル差12!――――』
その後、簡単なインタビューと、優勝賞品を受け取って仮想世界からログアウトした。
被っていたフルフェイス型のVR機器を外し、一息つき顔を上げると部屋内に見知らぬ少女が立っていた。
「先ほどの試合、お見事でした。その活躍により新規闘資家として活動する権利が与えられました。どうなさいますか?」
その少女はメイド服と呼ばれるものを着ていた。それもコスプレなどできるような薄っぺらいものではなく、ただの高校生である僕でさえ見るだけでかなり質の高いものだとわかるレベルだ。
顔立ちは日本人というよりはロシアとかそんな感じ。それもかなりの美少女だった。プラチナブロンドの髪を腰あたりまで伸ばしているのがとても似合っていた。
「お前は誰だ。どうやってこの部屋に入ってきた」
少女に見惚れていたこともあり、少女の存在に気が付いてから一瞬遅れて体を起こし、警戒する。
「違う空間から跳んできた、わかりやすく言うと転移してきた、でしょうか。言葉だけでは納得もしづらいでしょう」
少女が指をはじいて音を鳴らすと周囲の景色が一変した。
ワンルームマンションの自宅から、変わった街並みが広がる広場へと。街の造形は現代日本風ではなくヨーロッパ辺りに似ている。しかし、広場の端には僕と同じくらいの大きさの結晶が宙に浮いていたり、歩いている人たちは皆、剣や槍などで武装している。
「ここは選ばれし者だけが来ることができる世界最古の街リシアです。さて、話を戻しますが、あなたには新規闘資家として活動する権利が与えられております。闘資家になればあなたが望んでいる強者と戦いたいという願いをかなえることも可能です。それだけでなく、闘資家として活動すれば表世界で普通に働くよりも多くお金を稼ぐことができます」
目の前の少女の話が全て本当ならば、闘資家になるべきだろう。闘資家で活動すれば強者と戦えるだけでなく、普通に働くよりも稼げるということは、闘資家だけで生活することもでき、僕の願いも叶う。
「いいね、闘資家になるよ」
一瞬で転移なんていうファンタジーなことができる人物だ、僕に危害を加えようとおもっているのならばこんな手間のかかったことをする必要がない。
まぁ、ただ僕を罠にはめて苦しませて殺そうとしているという可能性もなくはない。けどもそんなことを気にしていたらやっていけない。
「では、もう一度転移します」
少女の指の弾く音が鳴ると同時に景色が神殿っぽい場所へと変わる。
「ここは祝福の間といい、新たに闘資家になる人はそこに見える魔法陣の中心でこの結晶を握りつぶしてください」
少女が懐から取り出した小さな結晶を受け取り魔法陣の中心へ歩いていく。
「闘資家になった者には例外なく一つ贈り物が目の前に出現します。現れる贈り物は人によって違い、剣であったり槍であったり、盾や鎧などの装備関係からアイテムなどいろんなものが存在します。それらには等級が存在し、全部で七段階に分けられていますが、最上位の等級だった者は数えるほどしかいません。しかし最上位の等級の贈り物をもらった闘資家は例外なく大成するといわれるほどに強力な一品です」
少女の話に耳を傾けながらも歩き続け魔法陣の中心へたどり着く。
そのまま少女に言われたとおりに、受け取った結晶を握りつぶすため手に力を籠めた。
結晶は簡単に砕け、破片が魔法陣の上に落ちていき、魔法陣に触れた瞬間、強烈な光に包まれた。
あまりの眩しさに目を瞑り、ゆっくりと目を開いていくと目の前には黒を基調とし赤で飾った和風ドレスと呼ばれる服が置かれていた。
「こ、これは……」
少女の声が震えるのもわかる。男である僕に女物、それもスカートの服はない。
「最上位である六ツ星の贈り物……!」