第15階層 責任はどっかしらに発生するから逃げられない
涼「香苗は試験が近くなると毎晩部屋へ突撃してくる」
新たなダンジョン発見の一報が届いた。
場所は先日洞窟道が崩落した事で再度使われるようになった、流通都市グリンダとヴェルーガ村を結ぶ山道にある洞穴。
現地の冒険者ギルドからこの一報を受け、わしがギルドマスターを務める冒険者ギルド本部はすぐにその地の領主と連絡を取った。
幸か不幸か洞窟道の崩落の件で領主が王都に来ていたお陰でスムーズに話が進み、ダンジョンの調査が決定した。
だがヴェルーガ村の主だった冒険者はそのダンジョンで犠牲になったようで、調査はグリンダの冒険者ギルド主体で行う事になった。
調査に派遣されたのはDランクの冒険者三人によるパーティー。
目撃された魔物がゾンビとナイトバットという点から、発生したばかりの低級ダンジョンの可能性が高いとしてDランクの冒険者で充分と判断したようだ。
「大丈夫なのか?」
『ご安心を。彼らは当ギルドのDランクの中でも注目株のパーティーです』
「分かった。報告を待っているぞ」
通信用の魔道具で会話をしたグリンダのギルドマスターは、自信満々に言い切った。
ダンジョンは浅い階層に住む魔物で最上級から低級までの格付けが決まる。
上級のダンジョンには浅い階層から強い魔物がいて、逆に低級のダンジョンの浅い階層には弱い魔物しかいない。
既に一報で低級と予想されているが、入り口付近だけのため油断はできない。
数日後、グリンダのギルドから調査は無事に終わり全員が帰還したと連絡が入った。
『すぐに調査結果をそちらへお送りします』
「うむ、頼む」
数人がかりで行う物質転送の魔法により、報告書が送られてきた。
できればわしを転送してもらいたいが、生憎とこの魔法は生物に対して使えない。
おまけに魔力を多く使う割に、軽い物しか転送できないという欠点もある。
仮に生物に対して使えたとしても、腹が出てきたわしを送るのは無理だろうな。
「どれどれ……ふむ」
届いた報告書によるとダンジョン内部は第一報の通り、泥の足場と隆起した岩があり、膝くらいの高さまで泥水で浸された地下水脈のような洞窟型。
確認した魔物はキラーアント、ロックスパイダー、ナイトバット、それにスライム。
五体のゾンビとやらは下の階層に行ったのか?
マッピングされた地図を見るに分岐点は全て調べてあり、行き止まりについても書かれているがゾンビは確認されずとある。
「ゾンビは確認できなかったのだな?」
『はい。おそらくは下の階層に行ったのではないかと』
「おそらくそうだろう。だとしたら、やはり低級ダンジョンだな」
一階層にいるのがこの程度の魔物でゾンビが下の階層に行くのなら、低級ダンジョンで違いない。
「ご苦労。領主様へダンジョンの認定と公表の許可を頂くまでは、この件は伏せておくように」
『分かっております』
通信用の魔道具を切り、あの地を治める領主の下へ使いを向かわせる。
領主をしておるリンデル伯爵とは第一報を受けた後に会ったが、崩落事故に関する連日の会議と対応で目にクマができていた。
倒れたという話は聞いていないが、果たして大丈夫だろうか。
戻って来た使いによると、明日の午前中なら会えると言うのでそれで予定を組んだ。
そして翌日、準備を整えて副ギルドマスターに留守を任せて伯爵が滞在している屋敷へ向かったのだが……。
「やぁ、コバルド殿。わざわざすまない……」
通された応接室にやってきた伯爵は疲れ切っており、悲壮感を漂わせながらも無理矢理に笑みを浮かべていた。
たった数日の間に、だいぶやつれたように見える。
心なしか、生え際も後退したような……。
「お忙しい中、お時間を頂きありがとうございます。大変な状況だとは思いますが、こちらも無視できる案件ではありませんので」
「いいんだ、気にしないでくれ……。全く、どうしてこんな事に……」
これは相当参っているな。
聞いた話だと、あの洞窟道は先代からの一大事業だったらしい。
グリンダを流通都市としての機能をさらに拡充させるため、ヴェルーガ村との間にある傾斜が急な上に魔物も出現する危険な山道を使わなくて済むよう、安全かつ通りやすい街道として作られたのが件の洞窟道だった。
山道より通りやすい上に魔物が出ないとあって護衛の経費削減に繋がり、なにより交通量と流通量が増えたとあって評判は上々だったと聞いている。
それがこんなことになったのだから、当然と言えば当然か。
しかし、そのお陰で新しいダンジョンが見つかったのだから数奇なものだ。
「ご苦労様です。早速ですが、こちらがダンジョンに関する報告書です」
差し出した報告書を力なく受け取った伯爵は、猫背になりながら目を通していく。
「低級ダンジョン……という事でいいんだな?」
「はい。理由は報告書にある通りです」
「強力なダンジョンほど、一階層から強い魔物がいるのは私も知っている。確かにこれなら低級だろう」
やはり、だいぶ参っているようだな。
普通ダンジョンが発見されたとなれば、ダンジョン目当ての冒険者だけでなく、その冒険者を相手に商売をする商人が来るようになって領地が経済的に潤うから喜ぶはず。
それに対して伯爵はそんな余裕すら無いのか、全く喜ぶ様子を見せない。
むしろ、余計な案件が増えたと思っているように見える。
気持ちは分からないでもないが、こっちも仕事だからさっさと用事を済ませよう。
「では伯爵様、ダンジョンの認定と公表の許可を頂けますかな」
「分かった。許可を出そう」
追加で差し出した認定書と許可書に目を通し、伯爵は印を押した。
わしもそれを確認して、書類を片付ける。
「確かに。お忙しいところを、申し訳ありませんでした」
「気にするな。よろしく頼むぞ」
「はっ」
屋敷を出たわしはすぐにギルドに戻り、手続きを済ませたら各地の冒険者ギルドへ通信用の魔道具で連絡を取る。
新しい低級ダンジョンの出現とその場所、確認された魔物と一階層だけだが内部の地図。
これらを公表し、冒険者達へ公開するよう指示を出した。
「さてと、これから忙しくなってくるぞ」
低級とはいえダンジョンだから、それなりに冒険者は集まるだろう。
強いて問題があるとすれば、グリンダからもヴェルーガ村からも遠いことだな。
ここはグリンダ支部とヴェルーガ村支部のギルドマスターを交え、馬車便や宿泊設備付きの新しいギルド支部の設立を伯爵へ提案することにしよう。
伯爵には悪いが、これも仕事だから頑張ってもらおう。
「低級とはいえ、簡単に攻略されないでくれよ。精々稼がせてもらうぞ」
冒険者ギルドも組織だから、運営には金が必要なんだ。
なにせこちとら、冒険者や依頼人を相手にした商売なんだからな。
ハッハッハッハッハッ!
****
「……ん?」
「どうか、されまし、たか。マスター、さん」
なんだ今のは、誰かに高笑いされた気がする。
「いや、なんでもない」
偵察要員みたいな冒険者が来てから数日が経過した。
日数からして冒険者ギルドには情報が伝わっているだろうから、何かしらの動きはしているはず。
さっさと公表して、冒険者がここへ来てくれないかな。
(あっ、そういえば今日はあっちの振り込み日だっけ)
プゥサ木工品店との契約だと、今日が振り込み日だったはず。
確かこっちの取り分は、俺の考案品を売って出た利益の四割だっけ。
割と売れているとは聞いているけど、今のところ考案品は蒸篭だけだし税金も引かれるから、それほど大きな期待はしていない。
とはいえ気にはなるから、確認だけはしておこう。
(えぇっと、口座確認で副業を選択っと)
コアにアクセスして口座に振り込まれた金額を表示させると、一瞬目を疑った。
「はぁっ!?」
思わず大声が出て仕事をしていたアッテムとフェルト、研修中の香苗が驚いてこっちを見たけど、それどころじゃない。
だって表示されている金額は四万フィラ、白金貨四枚だぞ。
しかも税金を引かれてこの額だ。おどろくなって言うのが無理だって。
確か販売価格は利益込みで一個銅貨八枚だったはず。
仮に利益を銅貨二枚だとしても、俺が受け取るのは四割だから鉄貨八枚の八フィラ。
それが税金も引かれた上で白金貨四枚以上に達するって、どんだけ売れたんだよ!
「という訳でお訪ねしたんですけど、あの額って本当ですか?」
気になって仕方ないから留守を任せ、戸倉をお供に連れてプゥサ木工店へ出向いた。
今日は定休日だったけど快く迎え入れてもらえ、定休日なのをいいことに真昼間から上機嫌に酒を飲んでいるベアングのおっちゃんに尋ねた。
「おうよ。なんせ評判を聞いた別のエリアからも客や注文が来たからな!」
だからってあの値段に達するか?
消耗品じゃないから、よほど乱暴に扱わなければ当分は使い続けられるんだぞ。
「それに普通の大きさのは家庭向けだから銅貨八枚だけどよ、飲食店向けはもっと大きく作って、その分値段も上げているんだ。他にも大人数を抱えたダンジョンや商会がデカいのを特注するから、結構利益が出てんだよ」
ああそうか。俺が提案したのは一般家庭で使う大きさだから、飲食店や大人数を抱えている所向けじゃないんだ。
となると当然、大きくする必要があるから値段も上がる。
おまけに数も必要だから、一度に大量購入するだろう。
そりゃあ利益も出るだろうな。
「つうわけで、あの額で間違いねぇよ」
「……そうですか」
「凄いね柊君。大ヒット商品生みの親だよ」
生み出してない。単に元いた世界にあった物を再現してもらっただけだ。
だとしても、蒸篭がここまでヒットするとは思いもよらなかった。
「で、今日来たのはそれだけか? 何か新しい商品の発想はないのか?」
蒸篭の大成功で味をしめたのか、身を乗り出して新しいアイディアを求めてきた。
まあ多額の収入があるのは悪いことないし、一つ出してみるか。
「実は最近、俺の所で働く人が増えて思ったことがあるんです」
「そりゃなんでぇ?」
「ベアングさんの所もそうですけど、ダンジョンタウンって一家庭当たりの人数が多いじゃないですか」
なにせ一夫多妻可能な上に、ローウィの実家みたいに子沢山の家庭が多い。
ダンジョンも基本的に共同生活しながらの仕事だから、必然的に人数が増えてしまう。
人数が少ない家庭は子供が独立した後の老夫婦か新婚夫婦か、家を出て一人暮らしを始めた人ぐらい。
そういう一部の例外を除いて、大家庭や共同生活が抱える問題がある。
「人数に増えるとテーブルを大きくするか増やすかするし、椅子の数も増やしますよね。それって結構場所を取ると思いませんか?」
前にローウィが実家のことを愚痴っていた。
ただでさえ人数が多いのに、増えたテーブルと大量の椅子にスペースを取られ、掃除をしたり洗濯物を運んだりするのが大変だと。
「そうだな。ガキや嫁の数が増えるたびに、最低でも椅子は買わなきゃならんな」
椅子が必要無い和室ならそういう悩みは少ないんだろうけど、ダンジョンタウンは洋室が主体だから椅子が増える点は無視できない。
だからといって、住みやすいようにリフォームしたり広い家を購入したりなんて簡単にできるはずがない。
そこで今回俺が提案するのがこれだ。
「俺のいた世界には、折りたたみ可能な椅子とテーブルがあるんです」
「ほう?」
「使わない時は折りたたんで端に置いておけば、家の中を広く使えます」
そうなれば家事がやりやすいだろうし、新しく買い足してもさほど場所を取らない。
さらにこれもローウィから聞いたことなんだけど、小さい子が椅子やテーブルに乗って遊んでいると落下して怪我をすることがあるらしい。
折りたたんで片付けておけば、それを防げる効果もあると思う。
絵の上手い戸倉の協力で図を使って構造と有用性を説明していくと、興味深そうな顔をして目を輝かせていく。
「なかなか面白いじゃねぇか。確かに脚だけでも折りたたんで壁に立てかけておけば、場所を取らずに済むな」
「そういうことです。いかがでしょうか」
説明を終えるとおっちゃんはしばらく考え込み、奥さんの一人にジョッキで水を持ってくるように言った。
それを一息で飲み干すと、両手で頬を叩いて立ち上がる。
「よっしゃぁ! 坊主、この発想買わせてもらうぜ!」
「どうぞどうぞ。契約通りの分け前を頂ければ、文句はありませんから」
「そこはしっかり守ってやるぜ。おいサブ! 試作するから手伝え!」
「えぇぇぇぇ!? 親方、今日は休みじゃないっすか!」
「うるせぇ、ちゃんと休日手当も出すから手伝え!」
「へ、へぇい!」
サブと呼ばれた猿人族の住み込み弟子と共に、早速作業場に入って試作に取り掛かった。
さっきまで酒を飲んでいたのに大丈夫か?
「気にしなくていいよ、異世界人の兄ちゃん」
「うちらの亭主にとっちゃ、この程度の量なんて飲んだうちに入らないさ」
「これで昼間から飲もうとしなければ、文句は無いんだけどね」
おっちゃん、理解ある奥さん達もらったんだから、昼酒くらい我慢しようぜ。
「では俺達はこれで。試作品が完成したら、教えてください」
「あいよ、任せておきな」
約束を取り付け、奥さん達に見送られて帰路へ着く。
ダンジョンへ帰って皆へ事の経緯を説明したら、そんなに売れているのかと驚かれた。
その後は通常業務へ戻って監視や魔物の指導をこなし、休憩時間に居住部で寛いでいたらミリーナから来客を告げられた。
「今日は来客の予定は無かっただろ。誰だ?」
「ダンジョンギルドでサトウさんを売れと言った方の父親が、先日のお詫びをしたいと訪ねて来られました」
ああ、あのケンタウロスの親父さんか。
聞いた話だと色々大変だそうだけど、わざわざ来てくれたのか。
「分かった、会おう。連れて来てくれ」
「承知しました」
一礼して対応へ戻ったミリーナに連れて来られたのは、すっかり疲れ切っている様子のあの親父さんだった。
「急な来訪にも関わらず、対応して頂きありがとうございます。何分、なかなか時間が取れないものでして」
頭をペコペコ下げる姿は、なんか気の毒だな。
責任はやらかした息子にあるとはいえ、店側や親父さんにも影響が出てるんだから。
案内してきたミリーナもそう思っているのか、気の毒そうな表情を向けている。
「改めまして。先日は愚息があなた様に、大変ご迷惑をおかけしました」
そんな顔色の悪い状態で頭を下げられると、逆にこっちが申し訳ない気がする。
でもあいつのせいで不快な思いをしたのは確かだから、ここは素直に謝罪を受け取っておこう。
「わざわざありがとうございます。ですが、あまり気にしないでください。あなた自身に非はありませんから」
「いいえ。私が愚息の育て方を誤ったからこそ、こうした事態になったのです。そういう意味では私にも非はあります」
親父さんは真面目で誠実だってラーナさんは言っていたけど、本当にそうなんだな。
こういう真面目な人は力を抜くタイミングを分かっていなさそうだから、今回の後始末で体を壊さないといいけど。
「それと、こうしてお詫びに参っておいて図々しいとは思いますが、一つお頼みしたい事がありまして」
頼み事だって?
ダンジョンタウンに来て一ヶ月ちょいの俺に何を頼みたいんだよ
「此度の件で当店に処分が下されたのですが、幸いにも営業停止は免れました。しかし業務縮小を命じられ、扱っていた奴隷を三割減らさなければならないのです」
そういう処分になったのか。
まあ営業停止を免れたのなら良かったんじゃないかな?
この親父さんなら信頼もありそうだし、なんとかやり直せるだろう。
「減らす分の奴隷は知り合いの奴隷商と交渉し、だいぶ引き取ってもらったのですが三人余ってしまいまして」
「ひょっとして、その三人を俺に差し出したいとでも?」
「いいえ、違いますよ。どこか知り合いの奴隷商がいたら、紹介していただけないかと」
ああなるほど、そこに余った三人を引き取ってもらえないか交渉するんだな。
といっても、俺が紹介できそうなのはアッテムの実家だけだ。
既にそこと交渉していたら、それ以上は協力はできそうにない。
「生憎と利用したことのある奴隷商は一軒しかないのですが……」
そう前置きをしておいてアッテムの実家を告げると、是非紹介してほしいと返された。
「どうかお願いします。当方はその奴隷商と繋がりが無いんです、この通り」
こんな若造に頭を下げてまで頼むなんて、よっぽど真剣なんだな。
少しは協力できそうで良かった。
「分かりました。ですが、引き取ってもらえるかまでは保障できません」
「構いません。そこからは私の仕事です」
「成功を祈ります」
「ありがとうございます」
そうと決まればすぐに動こう。
まだ休憩時間はあるからミリーナにお供を頼み、三人でアッテムの実家へ向かう。
急な来訪にも対応してくれたアッテムの両親は親父さんの申し出を快諾、後日詳細を詰めようということで交渉は成功した。
ホッと胸を撫で下ろす親父さんの様子に、これで一安心だと油断してお茶を飲もうとしたら……。
「ところで娘との子はいつ頃?」
「ぶほぁぁっ!?」
アッテムの母親に不意打ちを喰らって思わず咽てしまい、今のところ予定は無いと返す。
今のところは、ということはいずれは……という返しには沈黙を貫いた。
「という事があったんだ」
「ひゃわわあああぁぁぁっ!」
帰ってきてすぐに司令室に入った俺は、アッテムの実家での出来事を本人へ告げた。
そうしたら、交代したアッテムが奇声を上げて居住部へ逃げた。
自分の親もそういう認識なのかと、頬を染めてブツブツ呟くローウィは気にしないっと。
「そういえば涼、その店にオレ達の知り合いはいなかったのか?」
「あっ、聞いてなかった」
機会があれば調べようと思っていたのを、すっかり忘れてた。
「そうよねぇ。他の皆はどうしているのかしら」
やっぱり副担任としては、教え子の現状が気になるのかな?
「ハーレムだとかモテモテ主人公だとか無敵の勇者だとか言って、冒険者になった高本君達の一派は何をしているのかしら」
高本一派ってあれか、互いを同志って呼び合っている三人組か。
いつも後ろの方の席に集まって、小説や漫画の批評をしたり妄想じみた会話をしたりしてたっけ。
「やっぱり彼らも大和田君のような展開に……」
「アレは特殊すぎる例なんで参考にしないでください」
訂正、先生は相変わらず先生だった。
「そういえば、昨日侵入した兎の皮やゴブリンの棍棒を売却しに行った時、ダンジョンギルドで聞いたんですけど」
なんだユーリット、何を聞いたんだ。
「ピッグンさんが、そのオーワダって人の子種を高値で売っているそうです」
「うおいっ!」
どういう展開だよそりゃ。
あいつも異世界人だし、それを公にすれば高値で取引できるだろうけどさ、どうなんだそれって。
「種付けが一回金貨五枚だと聞きました」
「競走馬の交配か!」
「ていうか高っ!」
おそらくは異世界人の子種って事で、その値段にしているんだろう。
だけどラーナ情報だと豚に気に入られて毎晩相手をさせられているらしいし、相手が女だけまだマシか?
扱いとしちゃ完全に種馬だけど。
「毎晩尻を掘られながら、金で女の相手もさせられているのか、あいつは」
どんな類の爛れた生活を送ってるんだか。
「あぁぁぁ。いっそ大和田君に女装させて男の娘にすれば、大ヒット作が書ける気がするのに」
頼むから先生は自重しろ。
ていうか何で女装したら男の子なんだ?
「あの、外聞もありますのでヒイラギ様はそんな商売は」
「誰がやるか!」
そこまで節操無しになるつもりは無い。
例え金を貰う側だとしてもな。
「うえへへへ……。滾る、妄想が滾るよ」
この……腐女子、だっけ? 妄想腐女子教師が!
さっさと現実に戻ってこい!
「ふんっ!」
「あ痛ぁっ!?」
先生を現実に引き戻すため、頭上へチョップを落とした俺は悪くない。