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第14階層 何事も金が絡むのは避けられない

葵「柊君との妄想恋愛小説的な日記を書いてました」


ブクマが100越えました。ありがとうございます。


 砂糖を売却した翌日、訪問者が次から次へと俺の下へやって来ている。

 雇ってほしいという売り込み、娘や妹や親戚の少女との縁談話、奴隷を買わないかという奴隷商。

 こいつらが尋ねて来る最大の理由は、昨日得た金だ。

 金に余裕があるのなら雇え、その金を目的とした縁談、金があるなら見目麗しい女奴隷を買わないか、そんなんばっかりだ。

 売り込みと奴隷商は現在の規模でこれ以上の人手は必要無いと追い返し、縁談は今はダンジョン運営に集中したいからで押し通して返ってもらった。


「まったく、ああいうのを金の亡者っていうのか?」


 朝から引っ切り無しに来る訪問客に、正直ストレスが溜まっている。


「どさくさ紛れに姿絵を残していくのもいるしな」

「絶対過度に美化されてるって、これ」


 縁談を持って来た奴の中には、姿絵を残していったのもいる。

 それを回収している香苗は相手の図々しさに呆れ、洗い物を終えた戸倉は少女マンガを思わせる絵を見ながら冷めた目をしている。


「で、次の面会は?」

「今日はこれで終わりだ。これ以上はダンジョン運営に支障をきたすからって、イーリアさんが全て断ったんだと。明日、また三人ぐらい面会予定が入ってるけど」


 ……いい加減にしてくれ。

 香苗からの報告に力無く頷きながら、俺はようやく司令室へと入った。

 中で俺の代わりに働いていたイーリアとアッテムに休憩を取るように言いつけて、昨夜と今日の状況を確認する。


「結局、昨日の収穫は猪二頭だけか。売却は……済んでいるか」


 どうやら以前に外へ逃げた連中による動きは、まだ何も無いようだ。

 別に焦る必要は無いんだけど、早めに来てくれても構わない。

 迎撃準備は常に整っているからな。


「マスター様、外部から人間が三名が侵入しました」


 おっと、動物じゃなくて人間が入って来たか。

 今回はどんな奴らだ?


「ユーリット、音声を入れておけ」

「分かりました」


 侵入の報告から数秒後、モニターには入り口付近にいる三人の冒険者が映った。

 先頭は大きめの剣を背負った男の剣士。

 続いていかにも魔法使いといったローブを羽織った女。

 最後の一人はダガーを手にした盗賊風の男だ。

 斥候を含む前衛二人、後衛一人のパーティーか。


『うん、これは確かにダンジョンだ』

『中は地下水脈のような水浸しの洞窟。報告の通りね』

『うひゃあ、マジで足場は泥だし壁や地面から岩が隆起してやがる。索敵スキルがないと、岩陰から襲われるかもな』


 報告っていうのは、以前にここから逃げた狩人とギルドマスターからのものか?

 だとしたら、こいつらは偵察か調査に来たんだろう。


『確認されている魔物は複数のナイトバット、それとゾンビが五体か』

『そのゾンビって、報告者の護衛で同行した冒険者四人と元冒険者だろ? そんなにすぐゾンビになるものなのか?』


 へぇ、魔物の情報もちゃんと届いていたか。

 だけど残念、ただのゾンビじゃなくてパンデミックゾンビだ。

 ちなみに話に出ていたゾンビだけど、現在育成スペースでうーとかあーとか言いながら訓練に励んでいる。


『強い恨みや憎しみを抱いて死ねば、すぐにゾンビになることがあるわ。元冒険者の人はここで息子さんが死んだかもしれないから、可能性はあるわね。後の四人は判断材料が無いから分からないけど』


 へぇ、パンデミックゾンビの感染スキル以外の理由でも、すぐにゾンビになることがあるのか。


『待てよ、死霊魔法って可能性は?』

『なくもないけど、可能性は限りなくゼロね。死霊魔法を使う魔物は基本アンデッドだから、そういうのがいるダンジョンの階層には独特の鼻を刺すような匂いが漂っているの。でも、ここにはそれが無いわ』


 女魔法使いの説明を聞き、剣士と盗賊がダンジョン内の匂いを嗅いだ。

 あの階層には現在アンデッド系はいないから、匂いなんてするはずがない。

 そのため剣士と盗賊は女魔法使いの説明に納得している。


『ところで依頼内容は一階層の調査って事だけど、どうする?』

『つい最近できたみたいだから、油断しなければDランクの私達でも攻略できるかもしれないわ』


 攻略する気なら、こっちも相応の対策はさせてもらおう。

 今から地下一階層を元の奇襲だらけに戻す事はできないけど、地下二階層でゴブリンとオークの連合を準備するには充分だ。

 地下一階層のフロアリーダーにはバイソンオーガが控え、魔物の育成スペースで休憩中のパンプキンゴーストと二体のスケルトンも、すぐに地下二階層のフロアリーダーの部屋に行かせられる。

 攻略するつもりなら、どうぞ進んでください。


『いや、予定通り一階層のボスの間まで調べたら引き上げる。今日は下見を兼ねた調査に専念して、攻略は後日だ』


 リーダーっぽい剣士の指示に女魔法使いは頷き、盗賊の男は少し残念そうに返事をした。

 こっちも少し残念だ。今のバイソンオーガがDランクを三人相手に、どの程度通用するのかを確かめたかったのに。

 通路に移してもいいけど、大柄のバイソンオーガには狭いからやめておこう。


「どうしますか、主様」

「一応警戒は続けるけど、地下一階層は今のままでいい。どんな魔物がいるのか、情報を持って帰ってもらう」


 今からじゃ魔物を入れ替えるのが間に合わないし、弱い魔物しかいないと思ってくれた方が、冒険者が来やすくなるだろうから好都合だ。

 人を呼び込まないことには、ダンジョンでの収入が上がらないからな。


『岩で道幅が狭まっているから、縦隊列でいく』

『先頭はいつも通り、俺が行くぜ』

『私は後方ね。水生の魔物が水中から来るかもしれないから、注意してね』

『わぁってるって』


 盗賊の男を先頭に剣士、女魔法使いの順でダンジョンの奥へ進み始めた。

 俺は侵入者が来たから撃退しろとだけ指示して、モニターからの映像を見物する。

 岩に擬態した状態のロックスパイダーが風魔法の刃で切り裂かれ、水に擬態して接近するスライムにも冷静に対処し、壁を伝って来るキラーアントにも連携して対処する。ナイトバットも近づいた瞬間に風魔法で壁に叩きつけられて剣士と盗賊に倒された。

 罠の方も盗賊の男が気付いて手早く解除していく。


「やるな、あの三人」


 元は冒険者をやっていた香苗やフェルトやミリーナの話だと、Dランクは一人前の一歩手前というところらしい。

 冒険者はCランクからようやく一人前で、それ未満はよほどの力を備えていないと半人前扱いされてしまう。

 中には強い仲間に依存して、大した力も無いのにCランクになる奴もいるらしいけど、そういう奴は評判が良くないので一人前の二流などと呼ばれているそうだ。

 あの三人の戦いを見る限りはそうしたタイプの人間はおらず、全員がDランクなのも頷ける戦いを見せている。


「ただ、個々の力より連携で力を発揮するみたいだな」


 はっきり言って、個々の戦闘力は剣士以外はさほど高くない。

 盗賊は素早さと手数で補っているけど、攻撃そのものが軽いのかキラーアントの体を傷つけるのに苦戦している。

 女魔法使いは魔法の威力と使う魔法の判断は良いと思うけど、魔法を放つまでに時間が掛かっている。

 前衛の二人が押さえていなかったら、あっという間にやられそうだ。


「ユーリット、あの魔法使いの魔法をどう見る?」

「もっと素早く出せると思いますけど、威力を出そうと余計に魔力を込めていますね。だから発動が遅れています」


 なるほど、威力を出そうとして効率が下がったようなものか。

 ちょっと勿体無いな。


『よし、急いで剥ぎ取るぞ』

『俺が警戒しているから、さっさとやっちまえよ』


 盗賊が見張りをしている間に倒したキラーアントから顎と甲殻、魔心晶を剥ぎ取って袋に入れている。

 そういえばさっきから、剥ぎ取った素材は全部あの中に入れてるな。

 袋の大きさよりもたくさん入れているのに、どうして膨らんですらいないんだ?


「あの袋は何だ?」

「確か収納袋という地上の魔道具です。効果はマジックバックと同じですが、小さい分入れられる量が少ないとか」


 へぇ、地上にもああいう魔道具があるのか。

 やっぱり荷物が少ない方が動きやすいし、重い物を運びやすいもんな。


『なんか大した魔物はいないみたいだな』


 天井から飛来したナイトバットを盗賊の男が切り裂き、魔心晶と牙を剥ぎ取る。

 今日だけで七体はやられたか。


『ここまでに遭遇したのは、スライムとキラーアント、ナイトバットにロックスパイダーね』

『暗い天井から襲ってきたり、擬態したり、壁や天井を伝って来たりするのは厄介だけど、油断しなければ大丈夫そうだな』


 ふむふむ、索敵有りでDランクだとこれくらいは楽勝か。

 索敵妨害無しでのデータを取りたくてナイトバットに妨害させずにいるけど、お陰で良いデータが取れている。

 全体的に相手になっていない訳じゃないけど、冒険者達を追い詰めた訳でもない。

 良くて拮抗ってところだけど、魔法を撃ち込まれて劣勢に陥って敗北というパターンだ。


「普通にやればこんなものなのか」


 訓練させていない魔物と冒険者の戦いは初めて見たけど、やっぱり冒険者の方が有利だ。

 もしも広報活動のために始末しない、ていう条件が無ければ色々と試したい。

 あの場にパンデミックゾンビ化したナイトバットを投入とか、スローゴブリンにどう対処するのかとか。

 でもそういった情報は後々に知らしめた方が面白そうだから、今回は見送っておこう。

 そんな事を考えている間にも、冒険者達はダンジョン内を進んで行く。


「侵入者、間もなく地下一階層のフロアリーダーの間へ到達します」


 もうそんな所まで進んだのか。

 予定通りなら、ここで地上へ引き返すはずだ。

 でも予定は変更されるかもしれないから、本当に帰るまでは警戒しておこう。


『着いた。ここがボスの間だ』

『マッピングはできているわ。これで内部情報の分、報酬が上乗せね』

『よっしゃ、さっさと帰ろうぜ』


 冒険者達はフロアリーダーの間の手前に必ず設置されている、ダンジョンの外へ転移できる転移石に触れて地上へ帰還した。

 これならもう、警戒を解いても平気だろう。


「警戒態勢を解く。被害状況を調べてくれ。それと魔物達の死体を回収、種類は問わないから三体分を残して他は食って良し」


 残した魔物の死体は、新しく考えた実験に使わせてもらう。


「了解しました。すぐに回収に向かわせます」

「頼むぞ」


 指示を出し終えた俺は椅子に深く座り、背もたれに身を預ける。

 何度やっても侵入者が来ると緊張するな。

 油断するよりはいいけど、少しは慣れないと後々に冒険者が多く来るようになったら、精神的に休まる時が無くてぶっ倒れる気がする。

 もうちょっと気楽に構えたいけど、まだそんな風に構えられるほど余裕がある訳でもないから、致し方ないか。


「マスター様、魔物の死体の回収が終了しました」

「分かった。代わりの魔物達は俺が配置しておくから、引き続き被害状況の調査を頼む」

「了解しました」


 魔力を消費して減った分の魔物を補充し終えた後、ふと気づいた。

 こんな調子でやっていると、魔物の補充に必要な魔力が足りなくなるんじゃないかと。


(倒した相手の魔力と新種認定以外にも、魔力を溜める手段は無いか?)


 もしも倒した相手の魔力より魔物の消費の方が大きければ、魔物の数が足りなくなる恐れがある。

 新種認定なんてそうそう起こることじゃないし、考えた手段を実行したからって必ず新種になるとは限らない。

 この可能性を考慮していなかったのは、俺の失策だ。


(他に手段は無いか?)


 イーリアに聞けば早いんだろうけど、今は休憩中だからそっとしておこう。

 代わりに魔石盤で検索を掛けて、それらしい情報を調べてみた。

 けれどそんな都合の良い話はそうそう無く、ランクが上がれば魔力吸収トラップっていうのを設置して、吸収した魔力をダンジョン用に溜める事ができるのが分かったくらいだ。


「うぅん、何かないか……」


 表示されている情報を読み流していると、ある記録が目に映った。


「これはまた……」


 そこにあった記録は、捕まえた冒険者を売ることも自分の奴隷にすることもせず、何度もダンジョンで気絶させてダンジョンに魔力を溜めさせるという手段だった。

 捕まえた冒険者の装備と持ち物だけ奪ってダンジョン内に放置し、起きたらすぐに魔物に襲わせて気絶させる。

 これを繰り返して魔力を搾り取るだけ搾り取ったら、精神が壊れる前に捕まえて売るか、命を奪って最後までダンジョンの糧にする。

 理屈は分かるけど、なんとも胸糞悪くなる手段だ。

 しかもこれを考えたのが大昔に来た異世界人のダンジョンマスターだから、なお気分が悪い。


「手段としては間違っていないんだろうけど、とてもやる気にはならないな」


 こんな情報はさっさと消して、もう少しマシな手段が無いか探してみよう。

 でもやっぱり有用な情報が無い。

 そろそろ諦めて後でイーリアに聞いてみようかと思っていたら、ある機能を見つけた。


「『金銭魔力変換機能』? コアに金銭を支払って、ダンジョン用の魔力を溜める機能か」


 こんな機能があったのか。

 けど、なんでイーリアはこれのことを教えてくれなかったんだ?

 ひょっとしてアレか、経費とかの問題で余裕ができるまで黙っていたとか。

 昨日の砂糖とかで大金手に入れるまでは借金での運営だったから、気を遣ってくれていたのかな。

 そんなことを考えていると、休憩を終えたイーリアがリンクスと戸倉と先生を伴って現れた。


「ヒイラギ様、そろそろ交代しますね」

「ちょうどいいところに来た。これについて聞きたい」


 表示させている金銭魔力変換機能を指差すと、少し気まずい表情を浮かべた。


「も、申し訳ありません。借金運営している間は無暗にお金を消費しない方がいいと思い、黙っていました」


 やっぱりか。

 申し訳なさそうに頭を何度も下げているけど、別にそこまで気にしていないから謝らなくてもいいのに。


「で、これって今の俺でも使えるのか?」

「はい! お金を支払うだけなので、ランクに関係なくどなたでも使えます!」


 なら使わない手はないな。

 その前にもう少し説明をっと。

 ええっと、一番価値の低い石貨が魔力一で、そこからは金の価値と同じく十進法だから白金貨一枚だと十万も溜まるのか。

 これを見てたら、副業をしてまで金を集めるのは必要経費のためだけじゃなくて、こういうので消費するからだと思えてくるな。

 ホント変な所で金が絡むよ、ここのダンジョン運営は。


「とりあえず、試しに銀貨を二枚、いや三枚ぐらい使ってみるか」


 機能を作動させると、自販機の硬貨入れみたいな投入口と変換ボタンが現れた。


「……そうやるのかよ」


 どうやるのかと楽しみにしていたのに、あまりに普通で少しがっかりだ。

 気を取り直して、手元に用意した銀貨を三枚投入して変換ボタンを押す。

 すると投入口と変換ボタンが消え、魔力が三千蓄えられましたという表示が数秒だけ映って消えた。


「どれどれ?」


 確認のためにダンジョン用の魔力の数値を表示させると、確認前の数値より魔力が三千増えていた。

 うん、金に余裕があればこれを使うのは有りだな。


「という訳で早速」


 せっかく三千も溜まったから、少しだけ使ってみることにした。

 どうせなら生活環境の改善をしてみるか。

 俺の部屋を良くするのに百、雇用者の部屋を男女別でそれぞれ百、そして奴隷の部屋は男女別でそれぞれ五十。居住部のリビングと台所にそれぞれ二百、トイレに百五十、井戸に二百の魔力を使った。合計で千百五十の大判振る舞いだ。


「皆、居住部の環境を良くしたから、確認を」


 して来てくれという前に、居住部にいた面々が司令室に駆け込んできた。


「ご主人様! 急に部屋の質が良くなったんですけど、何かあったんですか!」

「涼! ボロボロだったトイレが小奇麗になったぞ!」

「あ、あの、井戸の所が、ポンプ、式の、水場に、なりまし、た!」

「大変です! 台所とかが突然広くなって、設備も少しマシな物に変化しました!」


 ……うん、変更するならするで先に一声かけた方が良かったな。

 混乱する香苗達を落ち着かせて生活環境を改善した事を伝え、改めて確認してもらうと変更前よりもマシな部屋になっていると教えてくれた。

 早速俺も自分の部屋を確認したら、今にも抜けそうだった床板はしっかりしたものになり、室内も少し明るい印象になっている。

 そして寝床! 木枠に藁を詰めて布を敷いただけの寝床が、ちょっとボロイけどベッドになっている!

 できれば畳に布団がいいけど、贅沢は言わない。


「今回は悪かったな。今後は変更前に一声かけるから」

「お願いします。すっごい驚きました」

「思わずトイレに落ちるかと思ったぞ!」


 うん、マジ悪かった。特にトイレ掃除していた香苗は。

 しかしこうまで金が絡んでくると、余計に金を稼ぐのが重要になるな。

 ファンタジーな世界のファンタジーな場所なのに、何かと金が絡むから現実的で世知辛さを覚える。


「ところで交代の方は……」

「おっと、そうだったな。育成スペースの方にいるから、何かあったら呼んでくれ」

「承知しました」


 司令室を交代したイーリアに任せ、ちょっとした物を居住部へ取りに行ってから育成スペースへ向かう。

 出入り口から少し離れた位置に、さっきの戦闘でやられたナイトバット、ロックスパイダー、キラーアントの死体がそれぞれ一体ずつ置かれている。

 他は魔物達の胃袋行きか。


「さて、やってみるか」


 腕まくりをして、居住部へ取りに行った魔心晶二つを取り出す。

 前に倒した冒険者が持っていたこれを使って今回試すのは、魔剣を生み出したときに得た知識から思いついたもの。

 魔剣のような武器を得る手段は、魔物から魔心晶を取り出さずに魔力を流す事にあると魔剣・腐滅は言っていた。

 だったら、人の手で魔心晶を魔物の死体に埋め込んで魔力を流せばどうなるのか?

 何も起きないならそれでも構わない。でも何か起きるのなら、どんな事が起きるのかを知りたい。

 魔剣になるのか、ゾンビ系の魔物として生き返るのか、予想だにしない変化をするのか。


「まずはこいつで……」


 最初は一番体の小さいナイトバットで試す事にした。

 念のために魔物と鴨は離れた場所へ避難してもらい、畑からも離れた場所で実験を開始。

 まずは魔心晶があった位置に用意した魔心晶を埋め込むんだけど、前と違って体を捌かなくて良いのは助かる。

 魔心晶のサイズがちょっと合わないけど、相手は死んでいるから気にせず少々強引に埋め込む。


「後はあの時と同じく、少量をゆっくりと……」


 前回を思い出しながら慎重に魔力を流していく。

 生きていたゾンビ……っていう言い方も変か。

 とにかく、前回と違って死んでいるから動かれなくて楽だ。

 

「さぁ、何が起こるか」


 徐々に魔力が溜まり、やがて魔心晶に魔力が溜まり終えた。

 でも何も起きない。

 魔剣に変化もしないし、ゾンビとしても生き返らないし、爆発すらしない。

 いや、爆発はしなくていいんだけど。


「よし、気を取り直して次! パンプキンゴースト、来てくれ!」


 呼ばれたパンプキンゴーストが、同じゴーストで気が合ったのかフレアゴーストと共にやってきた。


「こいつらに死霊魔法を使ってくれないか?」


 埋め込んだ魔心晶を取り出したナイトバットとキラーアントを指差して指示を出すと、パンプキンゴーストは頷いて死霊魔法を発動させた。

 するとナイトバットとキラーアントの開かれた胸元に新たに小さな魔心晶が生まれ、傷口が開いたままゾンビ化して蘇った。

 ただ、剥ぎ取られた素材に当たる部分は再生されていない。


「一度死んで魔心晶を抜かれた後でも、ゾンビ化はできるのか。でも魔心晶が剥き出しなのは、なんか怖いな」


 ゾンビ化する時に新しい魔心晶ができたから、これは新しい魔物へ生まれ変わったって事なのか?

 まぁ、そこら辺の細かい事はいいや。

 じゃあ次は……ちょっと心苦しいけど。


「悪いな。サンダー」

「ギギャッ!?」


 雷魔法を二発ほど放ち、ゾンビ化させたばかりのナイトバットとキラーアントを倒してナイトバットから魔心晶を取り出す。

 そしてもう一度死霊魔法を掛けさせたが、今度はどちらもゾンビとして復活しなかった。

 どうやらゾンビをゾンビとして復活させるのは、魔心晶の有無に関係無く不可能みたいだ。


「ありがとう。戻っていいぞ」


 用が済んだ事を伝えると、パンプキンゴーストはフレアゴーストと共に元いた場所へ戻って行った。

 やけに仲が良いけど、ゴースト同士で恋愛って成立するんだろうか。


「というかパンプキンゴーストはオスなのか? よく分からないな」


 うん、とりあえずは実験を優先しよう。

 次に実験するのは魔剣・腐滅の効果が死体に使えるかどうかだ。

 これまでのパンデミックゾンビは、死霊魔法によるゾンビを経由してから生み出してきた。

 過去の実験で成功する事が分かっていたから、わざわざそうやっているんだけど、死体から直接パンデミックゾンビにできるのなら手間が省ける。

 実験前に本人……って言っていいのか? 魔心晶と一緒に持ってきた腐滅に直接確認をしたところ、生きているのはともかく、死体に対してはよく分からないと言われた。

 だったらなおのこと、実験してみよう。


「いくぜ!」

【承知!】


 腐滅を振るってロックスパイダーの死体に切り傷を作る。

 だけど傷口は腐敗せず、ゾンビになる様子も無い。

 同様にナイトバットとキラーアントにも切り傷を付けたけど、こちらも何も起きなかった。


「どうやら効果は無いみたいだ」

【申し訳ありませぬ、創造主よ】

「お前のせいじゃない。駄目で元々のつもりだったから、気にするな」


 気を取り直して最後の実験に移ろう。

 不滅は端の方へ置いておき、ゾンビ化させた後で再度死なせたけど、魔心晶は回収していないキラーアントの魔心晶に触れて魔力を流し込む。

 さっきと同様にゆっくりと、でも今回は以前とは違う。

 腐滅は武器を思い浮かべながらこれをやれば、その武器になる言っていた。

 だったら、もしも思い浮かべたのが武器じゃなければどうなるか。

 今思い浮かべているのは頭部用の防具。

 剣道の面、戦国武将の兜、西洋甲冑の頭部分、そういった類の物を思い浮かべながら魔力を流していくと、腐滅を生み出した時と同じ黒い輝きが発せられた。


「うっ!」


 咄嗟に距離を取って目を庇い、輝きが静まるのを待つ。

 そして一瞬の強い輝きの後、キラーアントの死体のあった場所には蟻の顔を模した形状の防具、というよりもフルフェイス型のヘルメットが転がっていた。

 どうしてこうなったんだ? イメージがアバウトだったからか?


「ともかく、効果を調べなくちゃな。お前達、ここの死体は食っていいぞ」


 ヘルメットを拾い上げ、ナイトバットとロックスパイダーの死体の捕食許可を出して司令室へ向かう。

 仕事中に悪いと思ったけどイーリアに鑑定スキルで調べてもらったら、これの効果はなかなかのものだった。



 名称:魔面まめん蟻走ありそう

 属性:土

 品質:低級魔道具

 製作者:ヒイラギ・リョウ

 効果:この面を着けている間は天井だろうと壁だろうと自在に移動できます

    壁や天井で直立する事も可能です

    着ける対象の顔の大きさや形状に合わせ、自動で形状変化します

 注意:この面には呪いが掛かっています

    製作者以外の方が着けたら外れなくなります

    製作者以外の方が着けた場合、破壊以外に外す手段はありません



 名前が微妙で品質は低級だけど、得られる効果は悪くない。

 一度ゾンビにしたから呪いが掛かっているのは仕方ないとして、これは草原のような開けた場所じゃなく、ダンジョンのような壁や天井がある場所での使用に向いている。


「へぇ、壁や天井を自在に動けるんですか」

「しかも直立できるって事は、天井から足だけでぶら下がったり、壁に対して垂直に立つ事もできるんですね」


 そういうことだ。

 とはいえ呪いの品には違いないから、今回はミリーナに頼んで解呪をしてもらった。

 これで魔面・蟻走は、壁や床を自由に動いたり止まったりできるヘルメットになった。


「とりあえずバイソンオーガに使わせてみるか」


 効果を考えると通路内よりも、フロアリーダーの間のような密閉空間向きだと思う。

 それでいて浮遊しているパンプキンゴーストには無用の品だから、バイソンオーガ一択だった。

 早速これを装着させると形状が顔に合わせて変化し、角を通す為の穴もできた。

 装着した状態で実際に壁や天井を移動してもらったところ、本当に天井から逆さまにぶら下がったり、壁を疾走できた。

 問題は視界が狭くならないかという点だけど、そこは広視野スキルが補ってくれた。

 このスキルのお陰で視界に影響は無く、今まで通りに戦える事がゴブリン軍団との戦闘訓練で判明した。


「じゃあこいつは預けるから、戦う時はちゃんと被れよ」

「ブオッ!」


 外した魔面・蟻走を脇に抱えたバイソンオーガが姿勢を正して敬礼した。

 そういえば最近、ゴブリンとかオーガもよく敬礼しているな。ローウィの教育の影響か?

 ちょっと堅苦しいけど、規律がしっかりしているみたいだから良しとしよう。

 今回の実験の収穫は、あの魔面と魔心晶が一つか。何も無かったよりはいいか。


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