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 はっきりとことが動いたのは、俺がカフェ・サークルに仮雇用されて一週間ほどたった頃だった。

 少しずつ情報を集めながらサークルは真相を探っていた。

 サークルを知っている人は知っているが公にその存在を公言しているわけではない。 そんなことをしてしまえば、まともに調査や対処すらままならなくなる。

 だからどうしても周囲に溶け込んだ調査が必要になるのだ。

 奏太や小春が猫を被って情報収集するのもそれが理由。

 大っぴらに調べてますなんて言って、真実を見失っても困る。

 集めた情報をカフェで交換をしていたところに、陽菜が濡れた傘を持って飛び込んできた。

 海神島は今朝から昼過ぎの今まで、ずっとしとしとと雨が降っていた。

 髪や服を少し濡らした陽菜は、軽く乱れた息を整えながら口を開いた。

「さっき学園で、裏サイトに名前を投稿された生徒が暴れていました。もう、収まったけど……」

 混乱しているのか、陽菜の言っていることは要領を得なかったが言わんとすることは伝わってきた。

「あーあ、ついに裏サイトの影響が現実にも出てきたか」

 円香が困ったように眉を歪めながらため息を吐いた。

 これまで、裏サイトが原因で誰かが不快や迷惑に思うことはあった。

 しかし、ほとんどがせいぜい友人関係程度で起きた問題であった。

 それは、裏サイトの認知度の低さや虚構の情報を鵜呑みにする人間が少なかったからに過ぎない。

 だが、その情報でついに本人が問題を起こしてしまった。

 陽菜は円香に促されて椅子の一つに座ると、奏太の入れた温かいコーヒーを飲んで少しは落ち着いたようだった。

「問題になった生徒は、景山京谷という三年生の先輩です。学校が終わってすぐ、裏サイトに書かれていたという内容で、景山先輩は友人からからかわれていたようです。からかった人たちは、ただ面白半分だったようですが、本人はそれに腹を立て、喧嘩になたらしいです」

 陽菜もあくまで学園で噂になっていることを聞いた程度であるようだった。

「葉月、裏サイトにその情報は?」

 陽菜の話に耳を傾けていた円香が、俺の膝の間に座る葉月に言った。

 ずっとパソコンを打鍵していた葉風は手を止めて首を振った。

「見当たらない。たぶん既に削除されている」

 そりゃあそれだけの騒ぎになったら消されもするか。

「あ、ちょっと待ってください。私がこの話を聞いたときにはまだ投稿が残っていたので、それをコピーしています」

 陽菜は自分のスマホを操作すると、その画面を俺たちに向けた。

 景山京谷。甲子園常連高校で一年生にしてエースで四番というポジションにいたが、チームメイトが不祥事を起こし、大会出場停止処分を受けた。その後、問題となった生徒をバットで殴るなどの暴行を加え、施設に入っていた。

「なるほど、連帯責任ってことだね」

 奏太が苦々しく呟く。

 野球に限らず、世の中には誰かが過ちを犯したらそのチームメイトや周囲の人間も何らかのリスクや罰を受けるということは珍しくない。

 名門で一年生にしてそれだけの立場にいたのであれば、それこそ本気で野球に取り組んでいたのだろう。

 彼らの間で何があったのかは知らないが、そこで喧嘩が起きたとしても不思議ではないように思う。

「これを見た景山先輩の友達は、ふざけ半分でからかった。その結果、怒り出した景山先輩と喧嘩になったそうです」

「宮村先輩はその情報はどこから聞いたんですか?」

 小春が尋ねると、陽菜はスマホをしまいながら答えた。

「学園で喧嘩をしていた生徒が保健室で話しているのを聞いたんです。ちょっと、私も朝から体調悪かったので。それに、喧嘩したときは結構人が集まっていたんで噂になっているんです。景山先輩はつい先日もこの件とは関係ないところで問題を起こしていて、今回の補導を入れて二回目になるそうです」

 しばらく考え込んでいたが、円香は立ち上がりながら言った。

「ちょっと、その場所に実際行ってみようか」

 円香の発案により、俺たちは陽菜に連れられて一時学園に戻った。

 徒歩十分ほどの距離を歩いて学園まで向かっていると、雨は徐々に小雨に変わり、やがて雲の間に切れ間が覗き始めた。

 学園に到着した頃にはすっかり雨は止んでいた。

「ここです」

 陽菜が俺たちを案内した場所は、校舎と校舎の間の中庭だった。

 今は誰もその場にいないが、中庭の土が所々踏み荒らされたようになっており、一悶着あったということがすぐにわかった。

「結構目立つ場所でやってるね」

 円香は淡々とその場を見渡すと、傘を地面に当てて水を落とした。

 確かに、ずいぶん人目に付く場所だ。

 中庭は校舎の中からも校舎間からもよく見える場所で、そこで何かあったのなら誰かの目にとまるだろう。

「喧嘩が始まってすぐに先生や風紀委員が駆けつけたそうですが、それでも野球部にいた人の喧嘩なので、中々止めるのに苦労されたそうです」

「ああ、男性同士の喧嘩って本当に嫌になりますよね。私大嫌いです。うざいです。死ねばいいのに」

 陽菜には聞こえないように小声で毒を吐く小春。

 緑色の腕章をつけた生徒が数人校舎から現れた。

「また興味本位の連中か」

 先頭を歩いていた大柄な生徒がぼそりと呟いた。

 百七十後半の俺の身長よりもさらに頭一つ分ほど高い巨体。柔道でもやってそうだ。

 緑色の腕章、風紀委員の連中だ。

「風紀委員副院長の武田。優羽たちと同じ二年生」

 小さい声で葉風が教えてくれた。

「お前ら、邪魔だからさっさとどこかへ行け。面白半分で見に来るな」

 中庭を見ていた俺たち三人に向かって、大柄な生徒は手を振りながら文句を言った。「えっと、面白半分って何のことですか? 僕らは中庭がなんか荒れていたので見ていただけですが」

 反射的に口からでまかせが出る。

 武田はうんざりしたように首を振ると、心底面倒な視線をこちらに落とした。

「それならなんでもない。早くどこかへ行け。こっちはバカなやつらのせいで迷惑しているんだ」

「何かあったんですか?」

 俺たちの前に躍り出た小春が下から見上げてあざとい仕草で、武田を見やる。

 突然女の子に近づかれ、武田は一瞬ひるんだ。

 二メートル近くある武田と元々小柄な小春は相当な体格差がある。

 そんな小動物のような小春に下から上目遣いで尋ねられれば、ちょっとぐっとくるものがあるのだろう。

 武田の気持ちもわからんでもないが、俺には小春の背中から不快感という黒い悪魔の羽が見える。

「別に、大したことがあったわけではない。ただの喧嘩だ。あまりに暴れるものだから無理矢理押さえつけて生徒指導室にぶちこんできた。今は指導の真っ最中だろう」

 ぶっきらぼうだが、小春の質問には答える武田。

 あっさり落とされてやがる。

「わあっ、頼りになりますね」

 小春は感激したように両手を合わせる。頭の右に結わえたサイドテールが揺れていい香りが漂った。

「でも、こんな目立つ場所で喧嘩なんて、その人たちは決闘でもしてたんですか?」

 さも事情は一切知りませんといった様子で、小春は続ける。

 武田は長々と嘆息を吐いて、騒動があった中庭を見やった。

「バカな連中だ。裏サイトとかいうところで、嫌な話を引っ張り出されたことが原因らしい。野球バカだとは聞いていたが、そこまでバカだとは思わなかった」

 明らかに問題となった三年生のことを言っている。

 武田はよく滑るようになった口を動かし、正直にもここであったことを全て話した。

 陽菜が聞いていた情報で正しいようだ。

「自分が過去やったことでからかわれて、それで怒る方がどうかしている。事実だから仕方ないだろうに」

「……それは違うんじゃないですか?」

 黙っていた奏太が小春の後ろか割り込んだ。

「過去何かをしたとしても、それを理由につけてからかう方がひどいと思いませんか? あなただって、昔のことを引っ張り出されてからかわれでもしたら、不快に思うことくらいあるでしょう?」

 表向きこそ無表情だが、奏太の言葉の端からはちりちりと鋭い感情が漏れていた。

 武田はふんと鼻を鳴らして奏太に目を向ける。

「関係ない。昔のやったことなんて今の自分に関係あるわけないだろう? 今の俺がよければ、昔何をしたかなんて問題にならない。喧嘩をしたやつは、以前高校野球で問題を起こしたそうだが、それを言われたからって、今の自分とは関係ないっていうだけでよかった。怒る気持ちが理解できない。エースで四番が聞いて呆れる」

 奏太の目が、一瞬不快感に歪み、そしてわずかな憐れみを覚えた。

 武田のいうことは誤りではない。

 自分が今しっかりしているから、過去何かあったかどうかではなくて、今の自分で判断してほしいと思うのは自然なことだ。

 人間誰しも、以前にやったことをいつまでもとやかく言われることは嬉しいわけではないし、過ちも罪も償うことができる。

 しかし武田は、ただ過去から逃げているだけだ。

 過去の自分を認めず、その過去を自分ではないと切り捨てている。

 それは成長ではなく、むしろ退行。

 人間は過去からよかったところ、悪かったところを見つけ成長する。

 武田は、自分が行った悪をなかったことにして、自分には関係ないと距離を置いて、前に進んだ気でいる。

 ただ自分が、事実から逃げているだけだというのに。

「ま、俺は悪いことなんて今までしたことがないからな。だからこうして風紀委員で副委員長を任せられている」

 自慢げに小春を見下ろして武田は言った。

 過去は自分に関係ないと切り捨てているからか、自分がやったことが善悪かなんて区別していないからかはわからないが、武田の発言はひどく薄っぺらく聞こえた。

 不意に、円香が小春の横に立った。

「武田君はさ、裏サイトとか見たりするのかな」

 突然の問いに武田は首を傾げた。

 そして目をぱちくりとした後、眉をひそめながら言った。

「見たことがあるわけがないだろうあんなもの。話に聞いたことがあるだけだ。そんなバカ連中の集まる場所に行くつもりはない」

「そっか。ごめんね。変なこと聞いて」

 武田はおそらく気づいていないだろう。

 円香が、清々しいほど黒い笑みを浮かべていたことに。

 

    Θ    Θ    Θ


「この裏サイトの一件に、風紀委員は深く関わっている」

 カフェに戻ってきた円香は一番にそういった。

 陽菜は、保健室にいたこともあり体調が悪いというので今日は帰っている。

「まだ確定するのは早くありませんか?」

 小春が心配そうな声を出す。

 それでも円香は首を振って言った。

「いや、間違いないね。武田君は、裏サイトを見ている。絶対に」

 俺も先ほどの問答から、なんとなく感じ取っていた。

「景山先輩が喧嘩を行ったのは先ほど武田君と話したせいぜい一、二時間前。それなのに、その時点で武田は景山先輩の情報を把握していた。野球部であること、エースで四番などというフレーズ。この学園に来る前の情報で、喧嘩に発展したことで露呈した情報を、彼らが知るチャンスはなかったんじゃないかな」

 言われてみれば確かにその通りだ。

 第一景山先輩は、喧嘩の後すぐに生徒指導室に連れて行かれたと、武田自身が言っていた。

 無論、裏サイトを直接見たのではなくても、誰かから聞くという方法でその情報を把握することはできる。

 一般生徒であれば問題ない。

 だが、武田は風紀委員だ。風紀を乱す裏サイトなんて存在があるのに、取り締まるべき対称を見ないというのは逆におかしい。

 また、美化委員の天城女王様が言っていたが、他の委員でも裏サイトのことは話題に上がると言っていた。風紀委員が把握していないはずがない。

 それなのに、武田は見ていないと言った。

 見たけどどうでもいいとか、風紀のためにチェックしているとか、本来簡単な答えがたくさんあるにも関わらず、武田は見ていないと嘘を吐いた。

 ましてや、武田はあんなものを見ていないと言った。それはむしろ見たから言えるような言葉だ。

 裏を返せば、武田は見ていないと言いたくなるような、何かを持っているから嘘を吐いたのだ。

「ちょっとこれからどうするかは考えないといけないねぇ……」

 円香は背もたれに体を倒して上方を仰いだ。

「どうして? まっすぐ行けばどうにかなるんじゃない?」

 奏太が意外そうに眉をひそめながら聞くと、円香はうなりながら首を振った。

「それじゃあダメだよ。今のところ決定的な証拠がないからね。やるにもそれなりの準備が必要だよ」

「……そっか」

 奏太は小さく頷き納得すると、それっきり口を閉ざしてしまった。

「どちらにしても、もう少し手がかりを集める必要がある。ことが別の角度に動く可能性もあるから、ちょっと静観と行こう。景山先輩のこともあったばかりだから、裏サイト側も何か動きがあるかもしれないしね」

 しかし、円香の考えとは違い、景山先輩の騒動から数日たっても、何かが変化するということはなかった。

 俺は円香に着いて回る形で、他のサークルメンバーたちが調査を行っている様子を眺めていた。

 円香と二人で聞き込みを行うこともあった。

 二人とは違う切り口から情報を集めていき、裏サイトや投稿されている情報について調べを続ける。

 そして三日もたつと、新たに二件の投稿があった。

 以前と変わらず裏サイトは平常運転を続けている。

 ただ、こちらから調査は行っているが新しい情報を得ることはできず、歯がゆい思いをしていた。

「なんか、最近円香が円香らしくないんだよね」

 カフェの厨房で一緒に仕込みと後片付けをしていると、奏太が言った。

 今カフェには俺と奏太しかいない。

 営業時間の九時を過ぎ、慌ただしかった店から人がいなくなり、女性陣三人は早めに帰宅している。

「俺は普段のあいつがどんなやつなのかがわからないからなんとも言えないんだが。なんか違うのか?」

「違うね。どうもやりにくそうにしている。いつもの切れも鋭さもない」

 奏太は野菜を刻みながら手早く仕込みを行っていき、俺はひたすら皿洗いや調理器具の片付けに徹していた。

「俺からはあいつのすごさがいまいち伝わってこないんだが、どうなの? 実際のところ」

 確かに鋭いところや思考が研ぎ澄まされているのはなんとなくわかるが、いまいちつかみどころがない女の子くらいの認識しかない。

 俺の言葉に奏太は笑いながら仕込み終えたものを冷蔵庫にしまっていく。

「ははは、まあそうだろうね。円香はその辺りもすごいんだけど、一番すごいのはなんといっても、物事を自分の思い通りに進める力かな」

「今はそれがうまくいっていないと?」

「そう。いつもならもっとスムーズに物事を正解に導く。円香はそれだけの力を持っているから」

 先に仕込みが終わった奏太は、こちらの仕事を手伝い始めた。

「僕もサークルには入ったのはせいぜい一年くらい前なんだけどね。優羽と同じで、初めはサークルに入る気なんて微塵もなかったんだ。それなのに、あれよあれよと巻き込まれてサークルに入った。今は入ってよかったかなって思ってるけど、当時は絶対に入るわけがないって思ってたからね」

「俺と同じで第一印象がよくなかったからか?」

 皮肉も込めて言ってやると、奏太は苦笑しながら言った。

「そういうわけではないんだけどね。優羽や小春ちゃんがそうであるように、円香がサークルに求める人物は、何かしら過去に罪を抱えている人間なんだ。僕も、昔色々あってね。友達や仲間なんて、もう絶対に作るもんかって思ってんだ」

 あまりに意外で、俺は皿洗いの手を止めて奏太の顔を見返した。

 奏太の周りにはいつも誰かがあふれている。友達や仲間と呼べるものではないのは知っているが、そんな奏太が友達や仲間自体が依頼なと思っている。

 その言葉が驚きでならなかった。

 奏太はそっと、首に掛けた赤と黒を基調としたヘッドホンに手を当てた。

 仕事中に何を掛けているんだと思われるかもしれないが、円香は認めているしお客の前に基本的に立たない奏太は掛けていても問題がない。

 常に肌身離さず身につけているそれには、何かしらの強い思い入れがあるんだとわかる。

「もう何年も昔だけど、僕は音楽で、一番の友達であり仲間でありライバルであった人の、音楽人生を奪ってしまったんだ。だから、もう二度と僕は親しい友達は作らない、そう決めてたんだ。それでも、円香が僕の前に現れてね。言ったんだ」


 ――君、ずいぶんすごい仮面を被ってるね。


 嘲るでも嘲笑するでもない、ただ期待と感動を込めて、円香は言ったらしい。

 友達を作らないと決めても、奏太の周りには自然と人が集まってくる。そんな彼らの相手をしている奏太を円香が見て、一対一になった際に円香が言ったそうだ。

 当時のことを思い出しているのか、奏太は乾いた笑いを浮かべた。

「驚いたよ。円香とは一度も話をしたこともなかったのに、一言目で完全に言い当てられたからね。僕が他人の前では嘘を顔に貼り付けてるって」

 それからサークルに誘われ、あっという間にサークルに引き込まれてしまったそうだ。

「この間のチョコレート争奪戦もね。かなり際どい状態になっちゃったけど、それは僕のミスが原因だったんだ。それと君に責はないけど、時間を取られてしまったこと。これがなければ争奪戦なんてそもそも起きず、ただの運び屋の仕事で終わっていたはずなんだ。それほど円香のやり方は本来鮮やかなもんなんだよ」

 片付けを一通り終えて、俺たちは一息吐いた。

 奏太がいつものようにコーヒーを淹れてくれて、俺は一口飲んだ。

 暖かく甘い心地よさが体に広がっていく。

「でも、今回はスムーズではないと」

「うん、だから優羽も、もし円香のリーダーとして優秀かどうかでサークルに入るか決めるなら、勘違いしてほしくないと思ってね」

「そんなことを要素にするつもりはないよ」

 そもそも、実際俺がサークルに残るかどうか迷っているのはそんな部分ではないのだ。

 俺個人の問題だ。

「にしても、友達や仲間を作ることが嫌いな奏太でも、円香たちのことはちゃんと友達として、仲間として認めているんだな」

 今度は奏太が意外そうに眉を上げた。

「……まあ、一年も一緒に働いていたら、そりゃあね」

 仕方ないと割り切っているような口ぶりではあったが、その口元は嬉しそうにほころんでいた。

 それを見ると、俺も自然と笑みがこぼれていた。

「じゃあ俺はどうだ? もう半月くらいは一緒に働いているんだけど、お前にとっては友達で仲間になってるか?」

 奏太はクラスメイトの前では見せないような、意地の悪い笑みを浮かべて言った。

「どうだろうね。優羽がサークルに入るかどうか決めた後なら、それを教えてあげるよ」

「……なかそれずるくないか?」

「ずるいよ。ずるいのが僕だからね」

 否定するどころかむしろ開き直り、奏太は楽しそうに笑っていた。


 アパートへの帰り道、俺は一人夜空を見上げていた。

 小春も奏太も、単純にすごいと思った。

 あいつらは、自分の過去にあったことを否定していない。 

 風紀委員のやつらとは決定的に違う。

 過去を受け入れた上で、それでも前に進もうとしているのだ。

 自分の力を何かに使おうとしている。

 俺はどうだろう。

 自分の中で考えると、答えはすぐに出た。

 風紀委員の奴らと同じように、過去を認めていない。

 俺はなかったことにしようしていた。

 過去に自分がした行いを、陽菜や夕凪にやってきたことを、自分の罪を。

 だから俺は偽善者という言葉が嫌いだった。

 一度悪のレッテルを貼られた俺は、もう二度と善人になることはできない。

 嘘と欺瞞によって塗り固めようとした。

 天城たちに件からもわかるが、俺は普通人とはちょっと外れた部分がある。

 でも、それは俺の本質だ。

 悪くても、その部分を否定するべきではない。

 この間先生にも言われたじゃないか。

 責任を持つなら、自分の信じた力を使えばいいのだと。

 たとえなんと言われようが、俺は俺が信じる道を進むべきなのだ。


 そして、そのときはあっという間にやってきた。


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