一刀
第9話です!
《ビースト・グラトニー》に呑まれ、完全に魔物と化したガルド。
剣すら通さない怪物を前に、ザインたちは最後の戦いへ挑みます。
今回も楽しんでいただけたら嬉しいです!
――ドンッ!!
「がっ……!」
ザインの身体が宙を舞った。地面へ叩きつけられる。一度、二度。転がりながら剣を地面へ突き立て、どうにか身体を止めた。
「……っ」
立ち上がる。その瞬間。
「──!」
目の前にガルドがいた。
「速──」
振り抜かれた腕。ザインは咄嗟に剣を盾にする。
――ガァン!!
「うおっ!」
再び吹き飛ばされる。背中から木へ激突した。
「ザイン!」
イリスの声。ザインはずるずると木を背に落ちる。
「……」
顔を上げる。魔物と化したガルドが、ゆっくりこちらへ歩いてくる。
「……強すぎない?」
剣を支えに立ち上がった。全身が痛い。右腕はほとんど感覚がない。呼吸も荒い。それでも剣を構える。
「グルルル……」
ガルドが低く唸った。
「話も通じないし」
ザインが小さく息を吐く。
「困ったね」
ガルドが地面を蹴る。
「っ!」
ザインも走った。剣を振る。ガルドの腕、黒く硬質化した外皮へ刃が当たる。
――ギィン!!
「……硬っ」
弾かれた。ザインの身体が僅かに開く。そこへ、拳。
「ぐっ──!」
腹部へ衝撃。ザインの身体が浮く。続けて腕を掴まれた。
「え」
そのまま投げ飛ばされる。
――ドン!!
地面へ。
「ザイン!」
イリスが杖を向ける。
「燃えなさい!」
火球がガルドへ飛ぶ。
――ドン!
直撃。ガルドが炎に包まれる。
「……」
イリスが目を細める。炎の中、影が動いた。
「嘘でしょ」
ガルドが炎を突き破ってくる。
「──っ!」
イリスが飛び退く。巨大な腕が地面へ叩きつけられた。土が爆ぜる。イリスが距離を取る。
「なんなのよ、あの身体……!」
◇
「……」
石壁の裏。ノアは戦場を見つめていた。ザインの剣、通らない。イリスの炎、効いてはいる。だが、倒すには至らない。
「……」
ガルドを見る。魔物化する前とは明らかに違う。黒く変質した外皮、異常な筋力、速度まで上がっている。
「何か……」
ノアは必死に考える。
「何かあるはず……」
◇
ザインが剣を振る。
――ギィン!
また弾かれる。
「っ!」
ガルドの拳。避ける。続けて蹴り。剣で受ける。
――ドン!
ザインが後方へ滑る。止まる。その時には、ガルドが目の前まで来ている。
「……!」
ザインが横へ飛ぶ。腕が頬を掠める。着地。振り返る。ガルドも振り返っている。
「……参ったな」
ザインが剣を握り直す。まともに斬れない。力では勝てない。速度もほとんど変わらない。そしてザイン自身は、既にガルドとの戦闘で消耗している。
「グルァァッ!!」
ガルドが突っ込んでくる。ザインが迎え撃つ。剣、腕、激突。弾かれる。拳、避ける。もう一撃。
「──っ!」
間に合わない。ザインの身体へ直撃した。
――ドンッ!!
地面を転がる。剣が手から離れた。カラン、と音を立てて遠くへ滑っていく。
「……あ」
ザインが剣を見る。そして。
「……」
ガルドが立っていた。ザインが顔を上げる。
「これは……」
ガルドが腕を振り上げた。ザインの身体は動かない。
「ザイン!!」
イリスが叫ぶ。杖を向ける。だが、間に合わない。
ガルドの腕が振り下ろされ――
「うおおおおおお!!」
「……?」
横から何かが飛び込んできた。ガルドの身体へ体当たり。僅かに軌道が逸れる。拳がザインのすぐ横へ叩きつけられた。
「な……」
ザインが目を見開く。
「お前……」
そこにいたのは、先ほど逃げていった、ガルドの子分だった。
「何してんだ!!」
「え?」
「早く立て!!」
ザインが身体を起こす。さらに。
「ガルドさん!!」
「こっちだ!!」
森の中から声。一人、二人。逃げていた子分たちが戻ってくる。
「……戻ってきたんだ」
「うるせぇ!」
一人が武器を構える。
「俺たちじゃガルドさんは止められねぇ!」
別の一人がザインを見る。
「でもお前、さっきまでガルドさんとやり合えてただろ!」
「まあ……一応」
「だったら何とかしろ!!」
「無茶言うね」
「うるせぇ!!」
ガルドが振り返る。
「グルル……」
「……」
子分たちの表情が強張る。それでも。
「こっちだガルドさん!!」
一人が走り出した。ガルドが追う。
「お、おい!」
別方向から声。
「こっちだ!!」
ガルドが振り返る。
「走れ!!」
散開する。ガルドの意識がザインから離れた。
「……」
ザインがその光景を見る。
「時間稼いでくれてるんだ」
「ザインさん!!」
声。ザインが振り返る。ノアが石壁から飛び出してくる。
「ノア」
「分かりました!」
ノアがザインの近くへ走ってくる。
「多分……倒せます!」
「ほんと?」
「多分です!」
「どっち?」
「今は聞かないでください!」
「はい」
イリスも二人のところへ来る。
「何か分かったの?」
「はい」
ノアがガルドを見る。
「ザインさんの剣が通らないのは、あの黒い外皮です」
「硬いよ、あれ」
「はい。でも──」
ノアがイリスを見る。
「イリスさんの炎が当たったところだけ、外皮が変化してました」
「……」
イリスがガルドを見る。
「つまり?」
「熱です」
ノアが答える。
「炎で外皮を焼けば、今より柔らかくできると思います」
「なるほど」
ザインが頷く。
「焼いてから斬ればいいんだ」
「そういうことです」
「簡単に言ってくれるわね」
イリスが小さく息を吐いた。杖を握る。
「私、さっき結構使ったんだけど」
「できますか?」
「……」
イリスはガルドを見る。子分たちが必死に逃げ回っている。一人が転ぶ。
「うわっ!」
ガルドが迫る。別の子分が石を投げる。
「こっちだ!!」
ガルドがそちらを向く。イリスは息を吐いた。
「一発なら」
杖を構える。
「まだ撃てるわ」
「お願いします!」
ノアがザインを見る。
「ザインさん」
「ん?」
「僕の強化魔法も使います」
「前のやつ?」
「……いえ」
ノアが杖を両手で握った。
「出せるだけ、全部掛けます」
「全部?」
「はい」
「大丈夫?」
「分かりません」
「そっか」
「でも──」
ノアがガルドを見る。
「今は、やるしかないです」
ザインは少しだけ笑った。
「そうだね」
地面に落ちた剣を拾う。
「じゃあ、やろう」
◇
「離れなさい!!」
イリスの声が響いた。
「!」
子分たちが一斉にガルドから離れる。ガルドが振り返った。その先、イリス。杖の先に炎が集まっている。
「悪いけど──」
炎が膨れ上がる。イリスの髪が魔力に煽られる。
「少し熱いわよ」
杖を振る。炎が一直線にガルドへ向かった。
――ゴオオオオッ!!
「グァァァァッ!!」
ガルドが炎に包まれる。イリスは杖を向け続ける。
「まだ……!」
炎をさらに強める。黒い外皮が熱を帯びる。
「イリスさん!」
「分かってる!」
炎。さらに。さらに。
「これで──!」
イリスが最後の魔力を叩き込む。
「どうよ!!」
爆炎がガルドを完全に包み込んだ。
「……っ」
イリスが膝をつく。杖で身体を支えた。
「もう……無理」
「十分です!」
ノアがザインの背後へ立つ。
「ザインさん!」
「うん」
ザインが剣を構える。
「行きます!」
ノアの杖が光る。魔力がザインへ流れ込む。
「──っ」
脚、腕、背中、全身。身体の奥から力が溢れ出す。
「……おお」
ザインが自分の手を見る。
「すごいね」
「まだです!」
ノアが歯を食いしばる。
「もっと……!」
さらに魔力。ザインの身体へ。
「ぐっ……!」
ノアの腕が震える。それでも止めない。
「ノア?」
「大丈夫……です!」
魔力を注ぎ続ける。
「出せるだけ……全部……!」
ザインが剣を握る。今までとは違う。身体が軽い。剣すら、ほとんど重さを感じない。
「ザイン……さん……!」
ノアの声が震える。
「長くは……持ちません……!」
ザインが前を見る。炎、その中で巨大な影が動いた。
「一撃あれば十分」
炎が弾けた。
「グルァァァァァァ!!」
ガルドが飛び出してくる。全身から煙を上げている。黒い外皮は熱を持ち、その表面が変質していた。
「ザインさん!!」
「うん」
ザインが地面を蹴った。
――消えた。
「……え?」
ノアの目が追いつかない。ガルドが拳を振り上げる。ザインへ。振り抜く。だが、そこにザインはいない。拳の横、すれ違う。
ザインは剣を両手で握った。残っている力。ノアから与えられた力。その全てを、この一撃へ。
「──ッ!!」
一閃。ザインがガルドの横を通り抜けた。
「……」
静寂。ザインは剣を振り抜いた姿勢で止まる。ガルドも動かない。
「……」
ノアが息を止める。イリスが顔を上げる。そして。
――ミシッ。
「……?」
音。ガルドの向こう、一本の木が傾いた。
――ミシ。
さらに奥、二本目、三本目。
「……え?」
ノアが目を見開く。
――ミシミシミシッ!!
斬撃の軌道上、何本もの木々が次々と斜めにずれていく。そして。
――ズズン。
一本。
――ドォン。
二本。
次々と木々が倒れていった。
「……」
ノアは言葉を失った。
「いや……」
自分の杖を見る。
「いくら僕が全力で強化したとはいえ……」
再び、ザインを見る。
「ここまでの破壊力なんて……」
強化魔法は、何もないところから力を生み出す魔法ではない。対象が持つ力を引き上げる。なら。
「……ザインさん」
ノアが小さく呟いた。ガルドの身体が傾く。そのまま地面へ倒れた。もう、動かなかった。
「……」
ザインがゆっくり剣を下ろす。一歩。足がふらつく。
「ザイン?」
イリスが呼ぶ。
「……」
返事がない。もう一歩。膝から力が抜けた。
「ザイン!」
剣が手から落ちる。そのままザインは地面へ倒れ込んだ。
「ザインさん!」
ノアが駆け寄る。
「ザイン!」
イリスも身体を引きずるように近づく。ノアがザインの様子を確認する。
「……」
呼吸、ある。
「大丈夫です」
ノアが息を吐く。
「気を失ってるだけです」
「……そう」
イリスもその場に座り込んだ。しばらく、誰も喋らなかった。ガルドの子分たちも、倒れたガルドを遠巻きに見つめている。
戦いは、終わった。
◇
「――何事だ!!」
「……?」
ノアが顔を上げる。遠くから声。
「こっちだ!」
「急げ!」
複数の足音。古い道の先から、人影が現れた。
「……あ」
ノアが目を瞬く。試験官たちだった。その後ろ、森の奥に建つ古い建物。
「……」
ノアは建物を見る。
「本部……」
どうやら、ザインたちは知らないうちに、ゴールのすぐ近くまで来ていたらしい。試験官たちが現場へ到着する。そして、全員が足を止めた。
「……」
焼け焦げた地面。砕けた石畳。斬り倒された木々。倒れている受験者たち。そして、人とは思えない姿へ変貌したガルド。
「……何があった」
試験官の一人が呟いた。ノアが立ち上がる。
「あ、あの!」
試験官たちのもとへ走っていった。
◇
その後、ノアが試験官たちへ事情を説明した。ザインをはじめとした負傷者は本部へ運ばれ、魔物化したガルドも試験官たちによって回収された。
そして――。
ザインたち三人の試験は、そこで終わることになった。合格。不合格。そのどちらなのかは、この日、告げられることはなかった。
◇
そして翌日。
ザイン、イリス、ノア。
三人は――。
ギルド本部へ呼び出されていた。
第9話を読んでいただき、ありがとうございました!
魔物と化したガルドとの戦い、ついに決着です。
イリスが焼き、ノアが強化し、最後はザインの一刀。
さらに、一度は逃げたガルドの仲間たちも最後の最後で時間を稼いでくれました。
そして、ノアの全力の強化を受けたザインが放った一撃。
ガルドだけでなく、その先の木々まで斬り倒すほどの威力を見て、強化した本人であるノアも何かを感じたようです。
果たして、あの力は本当に強化魔法だけによるものだったのか。
試験の合否も告げられないまま、翌日ギルド本部へ呼び出された三人。
次回、いよいよ試験の結果が明らかになります!
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