暴食の果て
第8話です!
ザインVSガルド、イリスVSリオ。
それぞれの戦いも、いよいよ決着へ。
そして《ビースト・グラトニー》の力は、徐々にその危うさを見せ始めます。
今回も楽しんでいただけたら嬉しいです!
「っ!」
イリスが身体を捻る。
直後、頬の横を何かが通り抜けた。
背後の木に、鋭い切れ目が走る。
「……本当に嫌な魔法ね」
イリスが杖を構える。
その腕や脚には、既にいくつもの細い傷が刻まれていた。
対するリオにも、僅かではあるが傷が増えている。
イリスが放った火球。
炎の槍。
足元から噴き上がる炎。
その全てを防ぎ切れたわけではない。
だが――。
「……。」
イリスが小さく息を吐いた。
決定打にはならない。
「どうした」
リオが片手を上げる。
「さっきまでの威勢は。」
「別に」
イリスの杖の周囲に炎が集まる。
「考えてただけよ」
火球が三つ。
同時に放たれる。
リオが腕を振る。
風。
一つ目が逸れる。
二つ目。
身体を傾けて避ける。
三つ目が肩を掠めた。
「……っ」
リオの服が焦げる。
それでも倒れない。
「やっぱり」
イリスが呟く。
「小さいのを細々と当てても、決定打にならないわね」
「……?」
リオが眉をひそめた。
イリスが杖を下ろす。
「なら――」
空気が変わった。
「!」
リオが反応する。
イリスの周囲。
膨大な魔力が集まり始める。
風が震える。
地面に落ちていた葉が舞い上がる。
赤い光が、イリスの周囲を照らしていく。
「……おい」
リオの表情から余裕が消えた。
「何をする気だ」
「簡単な話よ」
イリスが杖を持ち上げる。
その先に、小さな炎が灯った。
直後。
炎が膨れ上がる。
一メートル。
二メートル。
さらに。
「防がれるなら――」
リオが両手を前へ出した。
風が集まり始める。
先ほどまでとは比べものにならない。
木々が激しく揺れる。
土埃が舞い上がる。
イリスが笑った。
「防げないくらい撃てばいいの」
「馬鹿か……!」
リオの前方。
巨大な風の壁が生まれる。
「そんな魔法を撃ったら――!」
「知らないわ」
イリスが杖を振り下ろした。
「――燃え尽きなさい」
爆炎。
視界が赤く染まった。
――ゴオオオオオオオッ!!
炎と風が激突する。
「ぐっ……!」
リオが両腕を突き出す。
炎が左右へ流れていく。
地面を焼き。
木々を焦がし。
それでも炎は止まらない。
「くっ……!」
リオの足が僅かに後ろへ滑った。
風を強める。
炎が割れる。
だが。
次から次へと押し寄せてくる。
「なんだ……この、魔力量……!」
リオの足元。
地面がさらに抉れる。
イリスは杖を向けたまま動かない。
「言ったでしょう?」
さらに炎が膨れ上がる。
「流せなくなるまで撃つって」
「――っ!」
風の壁が揺らいだ。
炎が押し込む。
「くそ……!」
リオが歯を食いしばる。
さらに風を。
だが――。
限界だった。
風の壁が弾ける。
「なっ――」
爆炎がリオを呑み込んだ。
――ドォン!!
衝撃が周囲へ広がる。
土煙が舞い上がった。
「……。」
イリスは杖を下ろす。
「はぁ……。」
僅かに息を切らしている。
煙が晴れていく。
地面には、リオが倒れていた。
動かない。
イリスはしばらく見つめる。
「相性が悪かったのは認めるわ」
髪を軽く払う。
「でも――」
倒れたリオへ背を向ける。
「火力差までは埋められなかったみたいね」
◇
――ガァン!!
剣と戦斧がぶつかる。
「っ!」
ザインが弾かれる。
着地。
すぐに顔を上げる。
「ハハハハッ!!」
ガルドが迫る。
「どうしたザイン!!」
「元気だね」
斧が振り下ろされる。
ザインが横へ。
地面が砕ける。
そのまま懐へ入り込む。
剣。
「甘ぇ!」
ガルドが斧の柄で受ける。
ザインがすぐに離れた。
「……。」
剣を握る右手が痺れている。
ガルドの《ビースト・グラトニー》。
先ほどまでとは、何もかもが違う。
速さ。
力。
反応。
一発でもまともに食らえば危険だった。
「オラァ!!」
「っと」
横薙ぎ。
ザインが跳ぶ。
その下を巨大な斧が通過する。
着地した瞬間。
「――!」
ガルドの蹴り。
ザインは腕で受けた。
――ドンッ!
「うおっ!」
後方へ吹き飛ぶ。
地面を転がり、すぐに剣を突き立てて止まった。
「……痛いなぁ」
ザインが立ち上がる。
「ハハッ!」
ガルドが笑う。
「まだ立つか!」
「そっちこそ」
ザインは剣を構え直す。
「そろそろ疲れてくれてもいいんだけど」
「まだまだこれからだろうが!」
「そう?」
ザインが地面を蹴る。
ガルドも斧を構えた。
その時。
「随分楽しそうね」
「?」
ザインが横を見る。
イリスが歩いてくる。
服の所々が切れている。
頬にも細い傷。
だが、立っている。
「終わったの?」
「見れば分かるでしょう」
ザインがイリスの後ろを見る。
遠くでリオが倒れている。
「強いね」
「今更?」
ザインが肩を竦める。
「じゃあ、代わる?」
「嫌よ」
「だよね」
「でも――」
イリスがザインの隣へ並ぶ。
杖を構えた。
「手伝うくらいならしてあげる」
「助かる」
ガルドが二人を見る。
「……。」
そして。
ニヤリと笑った。
「いいじゃねぇか」
斧を肩へ乗せる。
「二人まとめて来い!!」
「元気ね」
「ほんとにね」
ザインが剣を構える。
イリスの周囲に炎が灯る。
「行くよ」
「言われなくても」
二人が同時に動いた。
◇
ガルドの斧がザインへ振り下ろされる。
ザインが避ける。
「そこ」
イリスの火球。
「チッ!」
ガルドが身体を捻る。
炎が肩を掠めた。
その瞬間。
ザインが懐へ。
剣が脇腹を斬る。
「ぐっ!」
ガルドがザインを蹴ろうとする。
ザインは既に離れている。
「邪魔よ」
炎。
「オラァ!!」
ガルドが斧を振り回す。
風圧で炎が散る。
「ハッ!」
ガルドが笑う。
だが。
「後ろ」
「あ?」
ザイン。
剣が背中を掠める。
「テメェ!」
振り返る。
「こっちよ」
「――!」
火球。
――ドンッ!
ガルドの身体が揺れた。
「ぐっ……!」
ザインとイリス。
二人を同時に相手にする。
ザインを追えば炎が来る。
イリスを狙えばザインが入る。
「……。」
ガルドの身体に少しずつ傷が増えていく。
肩。
腕。
脇腹。
背中。
「ハッ……」
それでも。
ガルドは笑っていた。
「ハハッ……!」
「まだ笑えるんだ」
ザインが剣を構える。
「当たり前だろ……!」
ガルドが斧を握る。
「こんな面白ぇ戦い――」
息を吐く。
「そうそうねぇからな!」
「変な人」
イリスが呟く。
「同感」
「テメェに言われたくねぇ!!」
ガルドが踏み込む。
ザインも前へ。
激突。
――ギィン!!
ザインが斧を逸らす。
イリスが杖を向ける。
「燃えなさい」
「――っ!」
炎がガルドへ直撃する。
――ドン!!
「ぐぉっ!」
ガルドが後方へ飛ばされた。
地面を転がる。
斧が手から離れ、石畳を滑った。
「……。」
ザインが止まる。
イリスも杖を向けたまま動かない。
「終わった?」
「……。」
ガルドの指が動く。
地面へ手をつく。
「ハッ……」
ゆっくりと立ち上がる。
「まだだ……」
ザインの目が細くなる。
「まだやるの?」
「足りねぇ……」
ガルドが俯く。
「……?」
「まだ……足りねぇ」
身体から。
再び魔力が溢れ始める。
ザインの表情が変わった。
「……また?」
イリスも眉をひそめる。
「まだ強化する気?」
ガルドが笑う。
「もっとだ……」
魔力が膨れ上がる。
「もっと……!」
◇
「……。」
地面に倒れていたリオ。
指先が僅かに動いた。
「……ぅ」
ゆっくり目を開く。
視界が霞んでいる。
身体が動かない。
「……。」
遠く。
ガルドが見えた。
その身体から溢れ出す、異常な魔力。
「……!」
リオの目が見開かれる。
「ガ……ルド……」
声が掠れる。
ガルドには届かない。
「もっと……」
ガルドが拳を握る。
腕が膨れ上がる。
「もっと出せる……!」
「ガ……ガルド……!」
リオが必死に身体を起こそうとする。
動かない。
それでも。
声を絞り出す。
「これ……以上……は……」
ガルドは聞いていなかった。
「《ビースト・グラトニー》!!」
――瞬間。
ガルドの身体から魔力が爆発した。
「っ!」
「なっ――!」
ザインとイリスが同時に距離を取る。
地面が震える。
風が吹き荒れる。
「何これ……!」
イリスが腕で顔を庇う。
ザインは剣を構えたままガルドを見る。
「……なんか、まずそうだね」
魔力の中心。
ガルドが立っている。
「ぐ……」
身体が震える。
「ぐ、ぉ……!」
腕。
首。
肩。
黒いものが皮膚を覆い始める。
硬質な、魔物のような外皮。
身体がさらに大きくなる。
呼吸が荒くなる。
手から戦斧が落ちた。
――ガラン。
「……ガルド?」
ザインが呼ぶ。
「……。」
返事はない。
「おい」
ガルドが顔を上げた。
「……。」
ザインが黙る。
目が違う。
先ほどまでそこにあった戦いへの喜び。
興奮。
理性。
その全てが消えている。
「……何よ、あれ」
イリスが呟いた。
「分かんない」
ザインは剣を握り直す。
「でも――」
ガルドが低く唸る。
「もう話は通じなさそう」
◇
「ガ、ガルドさん……?」
後ろで見ていた子分の一人が声を掛けた。
ガルドの首が動く。
「……。」
ゆっくりと振り返る。
「ガルドさん?」
次の瞬間。
消えた。
「え――」
「危ない!」
ザインが飛び込む。
――ドン!!
「っ!!」
ガルドの腕を剣で受ける。
ザインの身体が横へ吹き飛ばされた。
「ザイン!」
地面を転がる。
すぐに立ち上がる。
「いった……!」
子分が尻餅をついたまま震えている。
「な……」
ガルドを見る。
「なんだよ……」
「ガルドさん……?」
「……。」
ガルドが再び子分へ身体を向ける。
「おい……」
一人が後ろへ下がる。
「嘘だろ……?」
ガルドが地面を蹴った。
「う、うわああああ!!」
子分たちが一斉に散った。
「逃げろ!!」
「ガルドさんがおかしくなった!!」
「早くしろ!!」
六人が森の中へ走っていく。
ガルドがその背中を追おうとする。
「そっちはダメ」
ザインが前へ回り込んだ。
剣を構える。
「……。」
ガルドがザインを見る。
低い唸り声。
ザインが僅かに眉を寄せる。
「誰が誰かも分かってないみたいだね」
イリスがザインの隣へ来る。
「みたいね」
「困ったな」
「随分余裕そうだけど?」
「そう見える?」
「ええ」
「結構困ってるよ」
「でしょうね」
その時。
「ザ、ザインさん……!」
二人が振り返る。
石壁の裏。
ノアが顔だけ出している。
「大丈夫?」
「僕は大丈夫です!」
「よかった」
「それより!」
ノアがガルドを見る。
「あれ……多分、《ビースト・グラトニー》のせいです!」
「やっぱり?」
「複数の魔物の魔力を身体に溜め込んで、それを一気に使ったから……!」
ノアが息を呑む。
「魔物の力に、身体が耐えられなくなったんだと思います……!」
「なるほど」
ザインがガルドを見る。
「使いすぎたんだ」
「そんな軽い話じゃないでしょう」
イリスが呆れる。
「そう?」
「見れば分かるでしょ」
「確かに」
ザインが剣を握り直した。
ガルドが低く唸る。
四つん這いになるように身体を沈めた。
「……。」
ザインの表情から笑みが消える。
「来るよ」
イリスも杖を構えた。
石壁の裏でノアが身を縮める。
遠くでは、倒れたリオが辛うじて顔を上げていた。
「ガル……ド……」
ガルドが咆哮する。
その声が古い軍道を震わせた。
「……試験って」
ザインが剣を構える。
「こんなのも出るんだ」
「出るわけないでしょう」
「だよね」
次の瞬間。
魔物と化したガルドが地面を蹴った。
第8話を読んでいただき、ありがとうございました!
相性が悪いなら、相性なんて関係ないくらいの火力で吹き飛ばせばいい。
そんなイリスらしい決着となりました。
そして、ザインとイリスを相手にさらなる力を求めたガルド。
魔物を喰らい、自らの力へと変える《ビースト・グラトニー》。
しかし、その力には大きすぎる代償があったようです。
敵味方の区別すら失い、ついには人の姿まで失い始めたガルド。
果たしてザインたちは、この怪物を止められるのか。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!
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