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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
序章
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8/102

暴食の果て

第8話です!


 ザインVSガルド、イリスVSリオ。


 それぞれの戦いも、いよいよ決着へ。


 そして《ビースト・グラトニー》の力は、徐々にその危うさを見せ始めます。


 今回も楽しんでいただけたら嬉しいです!

「っ!」


 イリスが身体を捻る。直後、頬の横を何かが通り抜けた。背後の木に、鋭い切れ目が走る。


「……本当に嫌な魔法ね」


 イリスが杖を構える。その腕や脚には、既にいくつもの細い傷が刻まれていた。対するリオにも、僅かではあるが傷が増えている。イリスが放った火球、炎の槍、足元から噴き上がる炎。その全てを防ぎ切れたわけではない。だが――。


「……」


 イリスが小さく息を吐いた。決定打にはならない。


「どうした」


 リオが片手を上げる。


「さっきまでの威勢は」


「別に」


 イリスの杖の周囲に炎が集まる。


「考えてただけよ」


 火球が三つ、同時に放たれる。リオが腕を振る。風。一つ目が逸れる。二つ目、身体を傾けて避ける。三つ目が肩を掠めた。


「……っ」


 リオの服が焦げる。それでも倒れない。


「やっぱり」


 イリスが呟く。


「小さいのを細々と当てても、決定打にならないわね」


「……?」


 リオが眉をひそめた。イリスが杖を下ろす。


「なら──」


 空気が変わった。


「!」


 リオが反応する。イリスの周囲、膨大な魔力が集まり始める。風が震える。地面に落ちていた葉が舞い上がる。赤い光が、イリスの周囲を照らしていく。


「……おい」


 リオの表情から余裕が消えた。


「何をする気だ」


「簡単な話よ」


 イリスが杖を持ち上げる。その先に、小さな炎が灯った。直後、炎が膨れ上がる。一メートル、二メートル、さらに。


「防がれるなら──」


 リオが両手を前へ出した。風が集まり始める。先ほどまでとは比べものにならない。木々が激しく揺れ、土埃が舞い上がる。


 イリスが笑った。


「防げないくらい撃てばいいの」


「馬鹿か……!」


 リオの前方に、巨大な風の壁が生まれる。


「そんな魔法を撃ったら──!」


「知らないわ」


 イリスが杖を振り下ろした。


「──燃え尽きなさい」


 爆炎。視界が赤く染まった。


 ――ゴオオオオオオオッ!!


 炎と風が激突する。


「ぐっ……!」


 リオが両腕を突き出す。炎が左右へ流れていく。地面を焼き、木々を焦がし、それでも炎は止まらない。


「くっ……!」


 リオの足が僅かに後ろへ滑った。風を強める。炎が割れる。だが、次から次へと押し寄せてくる。


「なんだ……この、魔力量……!」


 リオの足元、地面がさらに抉れる。イリスは杖を向けたまま動かない。


「言ったでしょう?」


 さらに炎が膨れ上がる。


「流せなくなるまで撃つって」


「──っ!」


 風の壁が揺らいだ。炎が押し込む。


「くそ……!」


 リオが歯を食いしばる。さらに風を。だが――限界だった。風の壁が弾ける。


「なっ──」


 爆炎がリオを呑み込んだ。


 ――ドォン!!


 衝撃が周囲へ広がる。土煙が舞い上がった。


「……」


 イリスは杖を下ろす。


「はぁ……」


 僅かに息を切らしている。煙が晴れていく。地面には、リオが倒れていた。動かない。


 イリスはしばらく見つめる。


「相性が悪かったのは認めるわ」


 髪を軽く払う。


「でも──」


 倒れたリオへ背を向ける。


「火力差までは埋められなかったみたいね」


◇


 ――ガァン!!


 剣と戦斧がぶつかる。


「っ!」


 ザインが弾かれる。着地。すぐに顔を上げる。


「ハハハハッ!!」


 ガルドが迫る。


「どうしたザイン!!」


「元気だね」


 斧が振り下ろされる。ザインが横へ。地面が砕ける。そのまま懐へ入り込む。剣。


「甘ぇ!」


 ガルドが斧の柄で受ける。ザインがすぐに離れた。


「……」


 剣を握る右手が痺れている。ガルドの《ビースト・グラトニー》。先ほどまでとは、何もかもが違う。速さ、力、反応。一発でもまともに食らえば危険だった。


「オラァ!!」


「っと」


 横薙ぎ。ザインが跳ぶ。その下を巨大な斧が通過する。着地した瞬間。


「──!」


 ガルドの蹴り。ザインは腕で受けた。


 ――ドンッ!


「うおっ!」


 後方へ吹き飛ぶ。地面を転がり、すぐに剣を突き立てて止まった。


「……痛いなぁ」


 ザインが立ち上がる。


「ハハッ!」


 ガルドが笑う。


「まだ立つか!」


「そっちこそ」


 ザインは剣を構え直す。


「そろそろ疲れてくれてもいいんだけど」


「まだまだこれからだろうが!」


「そう?」


 ザインが地面を蹴る。ガルドも斧を構えた。


 その時。


「随分楽しそうね」


「?」


 ザインが横を見る。イリスが歩いてくる。服の所々が切れている。頬にも細い傷。だが、立っている。


「終わったの?」


「見れば分かるでしょう」


 ザインがイリスの後ろを見る。遠くでリオが倒れている。


「強いね」


「今更?」


 ザインが肩を竦める。


「じゃあ、代わる?」


「嫌よ」


「だよね」


「でも──」


 イリスがザインの隣へ並ぶ。杖を構えた。


「手伝うくらいならしてあげる」


「助かる」


 ガルドが二人を見る。


「……」


 そして、ニヤリと笑った。


「いいじゃねぇか」


 斧を肩へ乗せる。


「二人まとめて来い!!」


「元気ね」


「ほんとにね」


 ザインが剣を構える。イリスの周囲に炎が灯る。


「行くよ」


「言われなくても」


 二人が同時に動いた。


◇


 ガルドの斧がザインへ振り下ろされる。ザインが避ける。


「そこ」


 イリスの火球。


「チッ!」


 ガルドが身体を捻る。炎が肩を掠めた。その瞬間、ザインが懐へ。剣が脇腹を斬る。


「ぐっ!」


 ガルドがザインを蹴ろうとする。ザインは既に離れている。


「邪魔よ」


 炎。


「オラァ!!」


 ガルドが斧を振り回す。風圧で炎が散る。


「ハッ!」


 ガルドが笑う。だが。


「後ろ」


「あ?」


 ザイン。剣が背中を掠める。


「テメェ!」


 振り返る。


「こっちよ」


「──!」


 火球。


 ――ドンッ!


 ガルドの身体が揺れた。


「ぐっ……!」


 ザインとイリス、二人を同時に相手にする。ザインを追えば炎が来る。イリスを狙えばザインが入る。


「……」


 ガルドの身体に少しずつ傷が増えていく。肩、腕、脇腹、背中。


「ハッ……」


 それでも、ガルドは笑っていた。


「ハハッ……!」


「まだ笑えるんだ」


 ザインが剣を構える。


「当たり前だろ……!」


 ガルドが斧を握る。


「こんな面白ぇ戦い──」


 息を吐く。


「そうそうねぇからな!」


「変な人」


 イリスが呟く。


「同感」


「テメェに言われたくねぇ!!」


 ガルドが踏み込む。ザインも前へ。激突。


 ――ギィン!!


 ザインが斧を逸らす。イリスが杖を向ける。


「燃えなさい」


「──っ!」


 炎がガルドへ直撃する。


 ――ドン!!


「ぐぉっ!」


 ガルドが後方へ飛ばされた。地面を転がる。斧が手から離れ、石畳を滑った。


「……」


 ザインが止まる。イリスも杖を向けたまま動かない。


「終わった?」


「……」


 ガルドの指が動く。地面へ手をつく。


「ハッ……」


 ゆっくりと立ち上がる。


「まだだ……」


 ザインの目が細くなる。


「まだやるの?」


「足りねぇ……」


 ガルドが俯く。


「……?」


「まだ……足りねぇ」


 身体から、再び魔力が溢れ始める。ザインの表情が変わった。


「……また?」


 イリスも眉をひそめる。


「まだ強化する気?」


 ガルドが笑う。


「もっとだ……」


 魔力が膨れ上がる。


「もっと……!」


◇


「……」


 地面に倒れていたリオ。指先が僅かに動いた。


「……ぅ」


 ゆっくり目を開く。視界が霞んでいる。身体が動かない。


「……」


 遠く、ガルドが見えた。その身体から溢れ出す、異常な魔力。


「……!」


 リオの目が見開かれる。


「ガ……ルド……」


 声が掠れる。ガルドには届かない。


「もっと……」


 ガルドが拳を握る。腕が膨れ上がる。


「もっと出せる……!」


「ガ……ガルド……!」


 リオが必死に身体を起こそうとする。動かない。それでも、声を絞り出す。


「これ……以上……は……」


 ガルドは聞いていなかった。


「《ビースト・グラトニー》!!」


 ――瞬間。


 ガルドの身体から魔力が爆発した。


「っ!」


「なっ──!」


 ザインとイリスが同時に距離を取る。地面が震える。風が吹き荒れる。


「何これ……!」


 イリスが腕で顔を庇う。ザインは剣を構えたままガルドを見る。


「……なんか、まずそうだね」


 魔力の中心、ガルドが立っている。


「ぐ……」


 身体が震える。


「ぐ、ぉ……!」


 腕、首、肩。黒いものが皮膚を覆い始める。硬質な、魔物のような外皮。身体がさらに大きくなる。呼吸が荒くなる。手から戦斧が落ちた。


 ――ガラン。


「……ガルド?」


 ザインが呼ぶ。


「……」


 返事はない。


「おい」


 ガルドが顔を上げた。


「……」


 ザインが黙る。目が違う。先ほどまでそこにあった戦いへの喜び、興奮、理性。その全てが消えている。


「……何よ、あれ」


 イリスが呟いた。


「分かんない」


 ザインは剣を握り直す。


「でも──」


 ガルドが低く唸る。


「もう話は通じなさそう」


◇


「ガ、ガルドさん……?」


 後ろで見ていた子分の一人が声を掛けた。ガルドの首が動く。


「……」


 ゆっくりと振り返る。


「ガルドさん?」


 次の瞬間。消えた。


「え──」


「危ない!」


 ザインが飛び込む。


 ――ドン!!


「っ!!」


 ガルドの腕を剣で受ける。ザインの身体が横へ吹き飛ばされた。


「ザイン!」


 地面を転がる。すぐに立ち上がる。


「いった……!」


 子分が尻餅をついたまま震えている。


「な……」


 ガルドを見る。


「なんだよ……」


「ガルドさん……?」


「……」


 ガルドが再び子分へ身体を向ける。


「おい……」


 一人が後ろへ下がる。


「嘘だろ……?」


 ガルドが地面を蹴った。


「う、うわああああ!!」


 子分たちが一斉に散った。


「逃げろ!!」


「ガルドさんがおかしくなった!!」


「早くしろ!!」


 六人が森の中へ走っていく。ガルドがその背中を追おうとする。


「そっちはダメ」


 ザインが前へ回り込んだ。剣を構える。


「……」


 ガルドがザインを見る。低い唸り声。ザインが僅かに眉を寄せる。


「誰が誰かも分かってないみたいだね」


 イリスがザインの隣へ来る。


「みたいね」


「困ったな」


「随分余裕そうだけど?」


「そう見える?」


「ええ」


「結構困ってるよ」


「でしょうね」


 その時。


「ザ、ザインさん……!」


 二人が振り返る。石壁の裏。ノアが顔だけ出している。


「大丈夫?」


「僕は大丈夫です!」


「よかった」


「それより!」


 ノアがガルドを見る。


「あれ……多分、《ビースト・グラトニー》のせいです!」


「やっぱり?」


「複数の魔物の魔力を身体に溜め込んで、それを一気に使ったから……!」


 ノアが息を呑む。


「魔物の力に、身体が耐えられなくなったんだと思います……!」


「なるほど」


 ザインがガルドを見る。


「使いすぎたんだ」


「そんな軽い話じゃないでしょう」


 イリスが呆れる。


「そう?」


「見れば分かるでしょ」


「確かに」


 ザインが剣を握り直した。ガルドが低く唸る。四つん這いになるように身体を沈めた。


「……」


 ザインの表情から笑みが消える。


「来るよ」


 イリスも杖を構えた。石壁の裏でノアが身を縮める。遠くでは、倒れたリオが辛うじて顔を上げていた。


「ガル……ド……」


 ガルドが咆哮する。その声が古い軍道を震わせた。


「……試験って」


 ザインが剣を構える。


「こんなのも出るんだ」


「出るわけないでしょう」


「だよね」


 次の瞬間、魔物と化したガルドが地面を蹴った。


第8話を読んでいただき、ありがとうございました!


 相性が悪いなら、相性なんて関係ないくらいの火力で吹き飛ばせばいい。


 そんなイリスらしい決着となりました。


 そして、ザインとイリスを相手にさらなる力を求めたガルド。


 魔物を喰らい、自らの力へと変える《ビースト・グラトニー》。


 しかし、その力には大きすぎる代償があったようです。


 敵味方の区別すら失い、ついには人の姿まで失い始めたガルド。


 果たしてザインたちは、この怪物を止められるのか。


 次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!


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