表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
PR
7/60

捕食者

第7話です。


 ようやく目的地へ繋がる手掛かりを掴んだザインたち。


 しかし、その道を塞ぐように待ち構えていたのは、これまでの受験者とは明らかに格の違う者たちでした。


 今回も楽しんでいただけたら嬉しいです!


 森に埋もれた古い道。


 その先に見えた朽ちた塔を目印に、ザインたちは歩き続けていた。


「この道で合ってると思います」


 ノアが足元の石畳を確認しながら言う。


「少なくとも、あの建物には繋がっているはずです」


「じゃあ、このまま真っ直ぐだね」


 ザインは迷うことなく歩き続ける。


「本当にゴールだったらいいんだけど」


 イリスが遠くの塔を見る。


「違ったら?」


「また探す」


「……そう言うと思った」


 イリスがため息をつく。


 三人は古い道を進んでいった。


 森の中を歩いていた時とは比べものにならないほど進みやすい。


 このまま行けば、そう時間は掛からない。


 そう思っていた。


「……。」


 ザインの足が止まる。


「どうしました?」


「人」


 道の先。


 複数の人影があった。


 一人。


 二人。


 さらに、その後ろにも。


 ザインたちが近づくにつれ、その姿がはっきりしていく。


「……八人」


 ノアが小さく呟いた。


 全員、受験者だ。


 道を塞ぐように広がっている。


 その中心にいるのは、一際大きな男。


 二メートル近い体躯。


 太い腕。


 肩には、巨大な戦斧を担いでいる。


 その隣には、対照的に細身の青年。


 さらに後ろに六人。


「止まれ」


 大男が言った。


 ザインが立ち止まる。


「なに?」


 男は三人を順番に見る。


 ザイン。


 ノア。


 そして――イリス。


 そこで視線が止まった。


「へぇ」


 口元が歪む。


「何よ」


 イリスが露骨に嫌そうな顔をする。


「いや」


 男は斧を肩に担いだまま笑った。


「悪くねぇな」


「……。」


 イリスの眉間に皺が寄る。


 ザインは気にせず尋ねた。


「通してくれる?」


「無理だな」


「そっか」


「納得するの早くない?」


 イリスが横から口を挟む。


 大男は笑った。


「この先に何があるかは知らねぇ」


「だが、どうも当たりくせぇからな」


 足元の石畳を戦斧の柄で軽く叩く。


「ここまで来る奴は減らしておきてぇ」


 ノアがザインの後ろへ少し寄った。


「……やっぱり、同じことを考えてる人はいましたね」


「みたいだね」


 大男が自分たちを指差す。


「俺らは八人」


 次にザインたちを見る。


「お前らを入れりゃ十一人」


 ニヤリと笑った。


「一人溢れちまうからなぁ」


「そうだね」


 ザインが答える。


「ま、問題ねぇ」


 男がイリスを指差した。


「その女だけこっちに来い」


「……は?」


 イリスの声が低くなる。


「男二人はいらねぇ」


 ザインが首を傾げた。


「じゃあ十人にならなくない?」


「後で適当に拾えばいい」


「なるほど」


「納得しないでくれる?」


 イリスがザインを睨む。


「いや、人数の話は分かったから」


「そういう問題じゃないわよ」


 大男がイリスを見る。


「お前、こっちに来い」


「お断りよ」


 即答だった。


 男の眉が動く。


「お前には聞いてねぇ」


 今度はザインを見る。


「女だけ置いて、お前らは消えろ」


「嫌だけど」


「あ?」


「三人で行くって決めてるから」


 ザインは何でもないことのように答えた。


 大男はザインを見つめる。


 数秒。


「……そうかよ」


 肩に担いでいた戦斧を下ろした。


 巨大な刃が地面へ触れる。


「なら――」


 腰を落とす。


「その女だけ置いて、お前らは死ね!」


 地面を蹴った。


「っ!」


 巨体が一気に迫る。


 戦斧が振り上げられた。


「おっと」


 ザインが横へ飛ぶ。


 直後。


 ――ドゴォン!!


 巨大な斧が石畳へ叩きつけられた。


 石が砕け、破片が飛び散る。


「……すご」


 ザインが着地した。


 斧は地面へ深く食い込んでいる。


 ザインはすぐに踏み込んだ。


 だが。


「甘ぇ!」


「――っ!」


 男の脚が飛んでくる。


 ザインは咄嗟に両腕で受けた。


 ――ドンッ!!


「うおっ!」


 身体が浮く。


 そのまま後方へ吹き飛ばされた。


「ザイン!」


「ザインさん!」


 ザインは地面へ着地すると、数歩滑って止まった。


「……。」


 蹴りを受けた腕を見る。


 痺れている。


「すごい力」


 口ではそう言いながら、ザインは僅かに眉を寄せた。


 今の蹴り。


 受け方を間違えていれば、腕を持っていかれていた。


 大男は地面から斧を引き抜いた。


 ザインが立っているのを見ると、一瞬だけ目を見開く。


 そして。


「ハッ!」


 嬉しそうに笑った。


「やるじゃねぇか!」


「今ので終わりだと思ったんだがな!」


 ザインは剣を抜く。


「危ないなぁ」


「気に入った!」


 男は巨大な斧を肩へ乗せる。


「俺はガルド!」


 ザインを指差した。


「お前は!」


「ザイン」


「ザインか!」


 ガルドが笑う。


「覚えたぜ!」


 戦斧を構える。


「お前は俺がぶっ潰す!」


「物騒だね」


 ザインも剣を構えた。


「リオ!」


 ガルドが叫ぶ。


 隣にいた細身の青年が前へ出る。


「何だ」


 ガルドがイリスを顎で示した。


「お前は女を片付けとけ!」


「……。」


 イリスが杖を握る。


「仲間にするんじゃなかったの?」


「気が変わった!」


「最低ね」


「俺に言われても困る」


 リオが静かに答える。


 イリスがリオを見る。


「あなたも大変そうね」


「否定はしない」


 リオが右手を上げた。


 風が吹く。


「だが、命令は命令だ」


「そう」


 イリスも杖を向ける。


「なら遠慮しないわ」


     ◇


 ザインが走る。


 ガルドも走る。


 剣と戦斧が激突した。


 ――ギィン!!


「っ!」


 ザインの腕へ重い衝撃が走る。


「ハハッ!」


 ガルドが笑う。


「どうした!」


 斧が振られる。


 ザインは後ろへ。


 石畳が砕ける。


 横薙ぎ。


 身体を反らす。


 巨大な刃が鼻先を通過した。


「危な」


 ザインが踏み込む。


 剣を振る。


 ガルドが斧の柄で受けた。


「いいなぁ!」


「そう?」


「もっと来い!」


 力任せに押し返される。


 ザインは一歩下がる。


 すぐに踏み込む。


 速さならザイン。


 力ならガルド。


 斧が振られる。


 避ける。


 剣を振る。


 受けられる。


 また斧。


 ザインは横へ。


 石畳が砕ける。


 ガルドが笑う。


 ザインも笑っていた。


 だが、その目は一瞬たりともガルドから離れない。


「楽しくなってきた」


「そうだろ!」


     ◇


 一方。


 イリスは杖をリオへ向けていた。


「――燃えなさい」


 炎が一直線に放たれる。


 リオへ迫る。


 だが。


 リオが片手を横へ払った。


 ――ゴォッ!


「……!」


 強烈な風。


 炎が横へ流され、木へ直撃した。


「炎か」


 リオがイリスを見る。


「相性が悪かったな」


「……。」


 イリスの目が細くなる。


「たった一度防いだくらいで――」


 杖の先。


 先ほどより大きな炎が生まれる。


「調子に乗らないで」


 炎が放たれた。


 リオは両手を前へ出す。


 風が集まる。


 巨大な炎と風が正面から衝突した。


 ――ゴオオオオッ!!


 炎が左右へ割れる。


「……っ」


 イリスの髪が激しく揺れた。


 炎が身体の左右を通過していく。


「火力は凄い」


 リオが言う。


「でも、炎なら流せる」


「そう」


 イリスは杖を構え直す。


「なら、流せなくなるまで撃つだけよ」


「怖いな」


 リオが指を動かした。


「……?」


 何も起きない。


 そう見えた。


 ――シュッ。


「っ!」


 イリスの腕に細い傷が走った。


 服の袖が切れる。


「何――」


 ――シュッ。


 今度は頬。


「っ!」


 イリスが後ろへ飛ぶ。


 さらに。


 ――シュッ!


 脚。


 ――シュッ!


 肩。


 イリスは杖を振る。


 炎が周囲へ広がった。


 リオは風を起こし、炎を吹き飛ばす。


「炎は見える」


 リオが静かに言う。


「風は見えない」


「……随分と」


 イリスが頬へ触れる。


 指先に僅かな血が付いた。


「嫌な魔法ね」


「よく言われる」


     ◇


「……。」


 その頃。


 ノアはザインを見る。


 ガルドと戦っている。


 イリスを見る。


 リオと戦っている。


 残った六人を見る。


「……。」


 六人もノアを見る。


「……。」


 ノアがゆっくりと後ろへ下がった。


 一歩。


 二歩。


「おい」


「ひっ」


 ノアが固まる。


「お前は戦わねぇのか?」


「……僕がですか?」


「お前以外に誰がいる」


 ノアはザインを見る。


 イリスを見る。


 自分を見る。


「……無理です」


「あ?」


「では!」


 全力で走った。


「おい!」


 古い石壁の残骸。


 その裏へ滑り込む。


 しゃがむ。


「……。」


 子分たちが顔を見合わせた。


「ほっとくか」


「だな」


 ノアは石壁の裏で小さく息を吐く。


「……怖い」


 それでも、その場から逃げはしなかった。


 石壁の隙間から戦場を覗く。


 ザイン。


 イリス。


 ガルド。


 リオ。


 全員の動きが見える。


 ノアはじっと戦場を観察し始めた。


     ◇


 ザインの剣がガルドの肩を掠める。


「おっ」


 服が裂ける。


 ガルドが斧を振る。


 ザインは避けた。


「遅いよ」


「言ってろ!」


 ザインが右へ走る。


 ガルドが斧を振る。


 ザインは直前で左へ切り返した。


「なっ――」


 一気に懐へ。


 剣がガルドの脇腹を斬る。


「……!」


 浅い。


 だが、確実に届いた。


 ザインはすぐに距離を取る。


「……。」


 ガルドが脇腹を見る。


 血が滲んでいた。


「斧、重そうだね」


 ザインが言う。


「俺ならもっと軽いの使うけど」


「……ハッ」


 ガルドが笑う。


「なるほどな」


 戦斧を肩へ担ぐ。


「普通じゃ追いつけねぇか」


 ガルドの身体から魔力が漏れ始めた。


「……。」


 ザインの表情が変わる。


 魔法に詳しくないザインでも分かる。


 さっきまでとは明らかに違う。


「なんだ、それ」


 ガルドが笑う。


「知りてぇか?」


「ちょっとね」


「なら見せてやるよ!」


 魔力が一気に膨れ上がった。


 ガルドの筋肉が隆起する。


 首。


 肩。


 腕。


 全身に力が満ちていく。


 足元の石畳が軋んだ。


「……身体強化?」


 物陰から見ていたノアが呟く。


 だが。


「違う……?」


 一つの魔力ではない。


 いくつもの異質な魔力が混ざり合っている。


「何ですか……あれ……。」


 ザインは剣を構えた。


「なんかデカくなった?」


「ハハハハッ!!」


 ガルドが両腕を広げる。


「見たかザイン!!」


 身体から溢れ出す魔力が周囲の空気を震わせた。


「これが俺の――」


 ガルドが拳を握り締める。


「《ビースト・グラトニー》だ!!」


「ビースト・グラトニー?」


「ああ!」


 ガルドは自分の胸を拳で叩いた。


「俺が仕留めた魔物の力を、この身体に蓄える!」


「そして好きな時に――」


 足元の石畳が砕けた。


「俺自身の力に変えられる!!」


「へぇ」


 ザインが感心したようにガルドを見る。


「便利だね」


「……。」


 ガルドの眉が動く。


「それだけか?」


「え?」


「もっと驚けや!!」


「いや、俺魔法よく分かんないし」


「テメェ……!」


 ザインは剣を構え直した。


「でも」


 少しだけ笑う。


「さっきより強そうなのは分かるよ」


「……ハッ!」


 ガルドも笑う。


「上等だ!」


 巨大な斧を構えた。


「行くぜ、ザイン!!」


 地面を蹴る。


「――!」


 ザインの目が見開かれた。


 速い。


 先ほどとはまるで違う。


 巨体が一瞬で目の前へ。


 戦斧が振り下ろされる。


 ザインは剣を合わせた。


 ――ガァン!!


「っ!」


 衝撃。


 ザインの身体が大きく後ろへ押される。


 剣を握る手が痺れた。


(……これは、まずいな。)


「ハハハハッ!!」


 ガルドが追う。


「どうした!!」


 二撃目。


 ザインが横へ避ける。


 石畳が爆ぜる。


 三撃目。


「っ!」


 後退。


 四撃目。


 剣で受ける。


 再び腕に衝撃が走った。


「さっきより全然違うね」


「そうだろ!」


「これが俺の力だ!!」


 ガルドが斧を振り回す。


 ザインは避け続ける。


 一撃が重い。


 その上、速い。


 まともに受け続ければ先にこちらの腕が潰れる。


 ザインの表情からは、いつもの軽さが消えない。


 だが――。


 今までとは違う。


 剣を握る手にも。


 地面を蹴る脚にも。


 ザインは既に、ほとんど余力を残していなかった。


 ガルドの斧が横薙ぎに迫る。


 ザインが僅かに屈む。


 頭上を巨大な刃が通過した。


「……なるほど」


 ザインが小さく呟く。


「何がだ!」


「いや」


 剣を握り直す。


「そろそろ慣れてきた」


「あぁ!?」


 ザインが踏み込む。


 ガルドの斧が振り下ろされる。


 その直前。


 ザインは横へ抜けた。


「――!」


 剣がガルドの腕を掠める。


 ザインがそのまま通り抜けた。


「……。」


 ガルドがゆっくり振り返る。


 腕から血が流れている。


「……ハッ」


 笑う。


「面白ぇ」


 ザインも振り返った。


「まだやる?」


「当たり前だろ!!」


 ガルドの身体から再び魔力が溢れ出す。


「……。」


 ザインの笑みが、ほんの僅かに固まった。


 まだ、上がる。


「また……?」


 物陰から見ていたノアも眉をひそめる。


 ガルドの身体へ、さらに異質な魔力が流れ込んでいく。


 その時。


「……?」


 ノアの目が止まる。


 ガルドの右腕。


 一瞬。


 皮膚の一部が黒く見えた。


「……。」


 ノアは目を擦る。


 もう一度見る。


 普通の肌。


「見間違い……?」


「もっとだ!!」


 ガルドが叫ぶ。


 さらに魔力を解放する。


「もっと出せる!!」


 ザインは黙って剣を構えた。


 その向こう。


 リオが一瞬だけガルドへ視線を向ける。


 眉が僅かに動いた。


「……ガルド?」


 ガルドは答えない。


 巨大な斧を握り締める。


 ザインだけを見て。


 笑っていた。

第7話を読んでいただき、ありがとうございました!


 今回はザインVSガルド、イリスVSリオ。


 それぞれタイプの違う強敵との戦いになりました。


 そして、ガルドの持つ《ビースト・グラトニー》。


 倒した魔物の力を自身の力へと変える、強力な能力。


 その力をさらに解放しようとするガルドですが、どこか様子がおかしいような……。


 一方、物陰へ全力避難したノアは何かに気付き始めています。


 戦いの行方はどうなるのか。


 次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!


 ブックマークや評価も、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ