捕食者
第7話です。
ようやく目的地へ繋がる手掛かりを掴んだザインたち。
しかし、その道を塞ぐように待ち構えていたのは、これまでの受験者とは明らかに格の違う者たちでした。
今回も楽しんでいただけたら嬉しいです!
森に埋もれた古い道。その先に見えた朽ちた塔を目印に、ザインたちは歩き続けていた。
「この道で合ってると思います」
ノアが足元の石畳を確認しながら言う。
「少なくとも、あの建物には繋がっているはずです」
「じゃあ、このまま真っ直ぐだね」
ザインは迷うことなく歩き続ける。
「本当にゴールだったらいいんだけど」
イリスが遠くの塔を見る。
「違ったら?」
「また探す」
「……そう言うと思った」
イリスがため息をつく。三人は古い道を進んでいった。森の中を歩いていた時とは比べものにならないほど進みやすい。このまま行けば、そう時間は掛からない。そう思っていた。
「……」
ザインの足が止まる。
「どうしました?」
「人」
道の先、複数の人影があった。一人、二人、さらにその後ろにも。ザインたちが近づくにつれ、その姿がはっきりしていく。
「……八人」
ノアが小さく呟いた。全員、受験者だ。道を塞ぐように広がっている。その中心にいるのは、一際大きな男。二メートル近い体躯、太い腕。肩には巨大な戦斧を担いでいた。その隣には対照的に細身の青年。さらに後ろに六人。
「止まれ」
大男が言った。ザインが立ち止まる。
「なに?」
男は三人を順番に見る。ザイン、ノア、そして――イリス。そこで視線が止まった。
「へぇ」
口元が歪む。
「何よ」
イリスが露骨に嫌そうな顔をする。
「いや」
男は斧を肩に担いだまま笑った。
「悪くねぇな」
「……」
イリスの眉間に皺が寄る。ザインは気にせず尋ねた。
「通してくれる?」
「無理だな」
「そっか」
「納得するの早くない?」
イリスが横から口を挟む。大男は笑った。
「この先に何があるかは知らねぇ」
「だが、どうも当たりくせぇからな」
足元の石畳を戦斧の柄で軽く叩く。
「ここまで来る奴は減らしておきてぇ」
ノアがザインの後ろへ少し寄った。
「……やっぱり、同じことを考えてる人はいましたね」
「みたいだね」
大男が自分たちを指差す。
「俺らは八人」
次にザインたちを見る。
「お前らを入れりゃ十一人」
ニヤリと笑った。
「一人溢れちまうからなぁ」
「そうだね」
ザインが答える。
「ま、問題ねぇ」
男がイリスを指差した。
「その女だけこっちに来い」
「……は?」
イリスの声が低くなる。
「男二人はいらねぇ」
ザインが首を傾げた。
「じゃあ十人にならなくない?」
「後で適当に拾えばいい」
「なるほど」
「納得しないでくれる?」
イリスがザインを睨む。
「いや、人数の話は分かったから」
「そういう問題じゃないわよ」
大男がイリスを見る。
「お前、こっちに来い」
「お断りよ」
即答だった。男の眉が動く。
「お前には聞いてねぇ」
今度はザインを見る。
「女だけ置いて、お前らは消えろ」
「嫌だけど」
「あ?」
「三人で行くって決めてるから」
ザインは何でもないことのように答えた。大男はザインを見つめる。数秒。
「……そうかよ」
肩に担いでいた戦斧を下ろした。巨大な刃が地面へ触れる。
「なら──」
腰を落とす。
「その女だけ置いて、お前らは死ね!」
地面を蹴った。
「っ!」
巨体が一気に迫る。戦斧が振り上げられた。
「おっと」
ザインが横へ飛ぶ。直後。
――ドゴォン!!
巨大な斧が石畳へ叩きつけられた。石が砕け、破片が飛び散る。
「……すご」
ザインが着地した。斧は地面へ深く食い込んでいる。ザインはすぐに踏み込んだ。だが。
「甘ぇ!」
「──っ!」
男の脚が飛んでくる。ザインは咄嗟に両腕で受けた。
――ドンッ!!
「うおっ!」
身体が浮く。そのまま後方へ吹き飛ばされた。
「ザイン!」
「ザインさん!」
ザインは地面へ着地すると、数歩滑って止まった。
「……」
蹴りを受けた腕を見る。痺れている。
「すごい力」
口ではそう言いながら、ザインは僅かに眉を寄せた。今の蹴り、受け方を間違えていれば腕を持っていかれていた。
大男は地面から斧を引き抜いた。ザインが立っているのを見ると、一瞬だけ目を見開く。そして。
「ハッ!」
嬉しそうに笑った。
「やるじゃねぇか!」
「今ので終わりだと思ったんだがな!」
ザインは剣を抜く。
「危ないなぁ」
「気に入った!」
男は巨大な斧を肩へ乗せる。
「俺はガルド!」
ザインを指差した。
「お前は!」
「ザイン」
「ザインか!」
ガルドが笑う。
「覚えたぜ!」
戦斧を構える。
「お前は俺がぶっ潰す!」
「物騒だね」
ザインも剣を構えた。
「リオ!」
ガルドが叫ぶ。隣にいた細身の青年が前へ出る。
「何だ」
ガルドがイリスを顎で示した。
「お前は女を片付けとけ!」
「……」
イリスが杖を握る。
「仲間にするんじゃなかったの?」
「気が変わった!」
「最低ね」
「俺に言われても困る」
リオが静かに答える。イリスがリオを見る。
「あなたも大変そうね」
「否定はしない」
リオが右手を上げた。風が吹く。
「だが、命令は命令だ」
「そう」
イリスも杖を向ける。
「なら遠慮しないわ」
◇
ザインが走る。ガルドも走る。剣と戦斧が激突した。
――ギィン!!
「っ!」
ザインの腕へ重い衝撃が走る。
「ハハッ!」
ガルドが笑う。
「どうした!」
斧が振られる。ザインは後ろへ。石畳が砕ける。横薙ぎ。身体を反らす。巨大な刃が鼻先を通過した。
「危な」
ザインが踏み込む。剣を振る。ガルドが斧の柄で受けた。
「いいなぁ!」
「そう?」
「もっと来い!」
力任せに押し返される。ザインは一歩下がり、すぐに踏み込む。速さならザイン、力ならガルド。斧が振られる。避ける。剣を振る。受けられる。また斧。ザインは横へ。石畳が砕ける。
ガルドが笑う。ザインも笑っていた。だが、その目は一瞬たりともガルドから離れない。
「楽しくなってきた」
「そうだろ!」
◇
一方、イリスは杖をリオへ向けていた。
「──燃えなさい」
炎が一直線に放たれる。リオへ迫る。だが、リオが片手を横へ払った。
――ゴォッ!
「……!」
強烈な風。炎が横へ流され、木へ直撃した。
「炎か」
リオがイリスを見る。
「相性が悪かったな」
「……」
イリスの目が細くなる。
「たった一度防いだくらいで──」
杖の先、先ほどより大きな炎が生まれる。
「調子に乗らないで」
炎が放たれた。リオは両手を前へ出す。風が集まる。巨大な炎と風が正面から衝突した。
――ゴオオオオッ!!
炎が左右へ割れる。
「……っ」
イリスの髪が激しく揺れた。炎が身体の左右を通過していく。
「火力は凄い」
リオが言う。
「でも、炎なら流せる」
「そう」
イリスは杖を構え直す。
「なら、流せなくなるまで撃つだけよ」
「怖いな」
リオが指を動かした。
「……?」
何も起きない。そう見えた。
――シュッ。
「っ!」
イリスの腕に細い傷が走った。服の袖が切れる。
「何──」
――シュッ。
今度は頬。
「っ!」
イリスが後ろへ飛ぶ。さらに。
――シュッ!
脚。
――シュッ!
肩。
イリスは杖を振る。炎が周囲へ広がった。リオは風を起こし、炎を吹き飛ばす。
「炎は見える」
リオが静かに言う。
「風は見えない」
「……随分と」
イリスが頬へ触れる。指先に僅かな血が付いた。
「嫌な魔法ね」
「よく言われる」
◇
その頃、ノアはザインを見る。ガルドと戦っている。イリスを見る。リオと戦っている。残った六人を見る。
「……」
六人もノアを見る。
「……」
ノアがゆっくりと後ろへ下がった。一歩、二歩。
「おい」
「ひっ」
ノアが固まる。
「お前は戦わねぇのか?」
「……僕がですか?」
「お前以外に誰がいる」
ノアはザインを見る。イリスを見る。自分を見る。
「……無理です」
「あ?」
「では!」
全力で走った。
「おい!」
古い石壁の残骸。その裏へ滑り込む。しゃがむ。
「……」
子分たちが顔を見合わせた。
「ほっとくか」
「だな」
ノアは石壁の裏で小さく息を吐く。
「……怖い」
それでも、その場から逃げはしなかった。石壁の隙間から戦場を覗く。ザイン、イリス、ガルド、リオ。全員の動きが見える。ノアはじっと戦場を観察し始めた。
◇
ザインの剣がガルドの肩を掠める。
「おっ」
服が裂ける。ガルドが斧を振る。ザインは避けた。
「遅いよ」
「言ってろ!」
ザインが右へ走る。ガルドが斧を振る。ザインは直前で左へ切り返した。
「なっ──」
一気に懐へ。剣がガルドの脇腹を斬る。
「……!」
浅い。だが、確実に届いた。ザインはすぐに距離を取る。
「……」
ガルドが脇腹を見る。血が滲んでいた。
「斧、重そうだね」
ザインが言う。
「俺ならもっと軽いの使うけど」
「……ハッ」
ガルドが笑う。
「なるほどな」
戦斧を肩へ担ぐ。
「普通じゃ追いつけねぇか」
ガルドの身体から魔力が漏れ始めた。
「……」
ザインの表情が変わる。魔法に詳しくないザインでも分かる。さっきまでとは明らかに違う。
「なんだ、それ」
ガルドが笑う。
「知りてぇか?」
「ちょっとね」
「なら見せてやるよ!」
魔力が一気に膨れ上がった。ガルドの筋肉が隆起する。首、肩、腕。全身に力が満ちていく。足元の石畳が軋んだ。
「……身体強化?」
物陰から見ていたノアが呟く。だが。
「違う……?」
一つの魔力ではない。いくつもの異質な魔力が混ざり合っている。
「何ですか……あれ……」
ザインは剣を構えた。
「なんかデカくなった?」
「ハハハハッ!!」
ガルドが両腕を広げる。
「見たかザイン!!」
身体から溢れ出す魔力が周囲の空気を震わせた。
「これが俺の──」
ガルドが拳を握り締める。
「《ビースト・グラトニー》だ!!」
「ビースト・グラトニー?」
「ああ!」
ガルドは自分の胸を拳で叩いた。
「俺が仕留めた魔物の力を、この身体に蓄える!」
「そして好きな時に──」
足元の石畳が砕けた。
「俺自身の力に変えられる!!」
「へぇ」
ザインが感心したようにガルドを見る。
「便利だね」
「……」
ガルドの眉が動く。
「それだけか?」
「え?」
「もっと驚けや!!」
「いや、俺魔法よく分かんないし」
「テメェ……!」
ザインは剣を構え直した。
「でも」
少しだけ笑う。
「さっきより強そうなのは分かるよ」
「……ハッ!」
ガルドも笑う。
「上等だ!」
巨大な斧を構えた。
「行くぜ、ザイン!!」
地面を蹴る。
「──!」
ザインの目が見開かれた。速い。先ほどとはまるで違う。巨体が一瞬で目の前へ。戦斧が振り下ろされる。ザインは剣を合わせた。
――ガァン!!
「っ!」
衝撃。ザインの身体が大きく後ろへ押される。剣を握る手が痺れた。
(……これは、まずいな)
「ハハハハッ!!」
ガルドが追う。
「どうした!!」
二撃目。ザインが横へ避ける。石畳が爆ぜる。三撃目。
「っ!」
後退。四撃目。剣で受ける。再び腕に衝撃が走った。
「さっきより全然違うね」
「そうだろ!」
「これが俺の力だ!!」
ガルドが斧を振り回す。ザインは避け続ける。一撃が重い。その上、速い。まともに受け続ければ先にこちらの腕が潰れる。
ザインの表情からは、いつもの軽さが消えない。だが――今までとは違う。剣を握る手にも、地面を蹴る脚にも。ザインは既に、ほとんど余力を残していなかった。
ガルドの斧が横薙ぎに迫る。ザインが僅かに屈む。頭上を巨大な刃が通過した。
「……なるほど」
ザインが小さく呟く。
「何がだ!」
「いや」
剣を握り直す。
「そろそろ慣れてきた」
「あぁ!?」
ザインが踏み込む。ガルドの斧が振り下ろされる。その直前、ザインは横へ抜けた。
「──!」
剣がガルドの腕を掠める。ザインがそのまま通り抜けた。
「……」
ガルドがゆっくり振り返る。腕から血が流れている。
「……ハッ」
笑う。
「面白ぇ」
ザインも振り返った。
「まだやる?」
「当たり前だろ!!」
ガルドの身体から再び魔力が溢れ出す。
「……」
ザインの笑みが、ほんの僅かに固まった。まだ、上がる。
「また……?」
物陰から見ていたノアも眉をひそめる。ガルドの身体へ、さらに異質な魔力が流れ込んでいく。
その時。
「……?」
ノアの目が止まる。ガルドの右腕。一瞬、皮膚の一部が黒く見えた。
「……」
ノアは目を擦る。もう一度見る。普通の肌。
「見間違い……?」
「もっとだ!!」
ガルドが叫ぶ。さらに魔力を解放する。
「もっと出せる!!」
ザインは黙って剣を構えた。その向こう、リオが一瞬だけガルドへ視線を向ける。眉が僅かに動いた。
「……ガルド?」
ガルドは答えない。巨大な斧を握り締める。ザインだけを見て、笑っていた。
第7話を読んでいただき、ありがとうございました!
今回はザインVSガルド、イリスVSリオ。
それぞれタイプの違う強敵との戦いになりました。
そして、ガルドの持つ《ビースト・グラトニー》。
倒した魔物の力を自身の力へと変える、強力な能力。
その力をさらに解放しようとするガルドですが、どこか様子がおかしいような……。
一方、物陰へ全力避難したノアは何かに気付き始めています。
戦いの行方はどうなるのか。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!
ブックマークや評価も、とても励みになります。




