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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
序章
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7/102

捕食者

第7話です。


 ようやく目的地へ繋がる手掛かりを掴んだザインたち。


 しかし、その道を塞ぐように待ち構えていたのは、これまでの受験者とは明らかに格の違う者たちでした。


 今回も楽しんでいただけたら嬉しいです!

 森に埋もれた古い道。その先に見えた朽ちた塔を目印に、ザインたちは歩き続けていた。


「この道で合ってると思います」


 ノアが足元の石畳を確認しながら言う。


「少なくとも、あの建物には繋がっているはずです」


「じゃあ、このまま真っ直ぐだね」


 ザインは迷うことなく歩き続ける。


「本当にゴールだったらいいんだけど」


 イリスが遠くの塔を見る。


「違ったら?」


「また探す」


「……そう言うと思った」


 イリスがため息をつく。三人は古い道を進んでいった。森の中を歩いていた時とは比べものにならないほど進みやすい。このまま行けば、そう時間は掛からない。そう思っていた。


「……」


 ザインの足が止まる。


「どうしました?」


「人」


 道の先、複数の人影があった。一人、二人、さらにその後ろにも。ザインたちが近づくにつれ、その姿がはっきりしていく。


「……八人」


 ノアが小さく呟いた。全員、受験者だ。道を塞ぐように広がっている。その中心にいるのは、一際大きな男。二メートル近い体躯、太い腕。肩には巨大な戦斧を担いでいた。その隣には対照的に細身の青年。さらに後ろに六人。


「止まれ」


 大男が言った。ザインが立ち止まる。


「なに?」


 男は三人を順番に見る。ザイン、ノア、そして――イリス。そこで視線が止まった。


「へぇ」


 口元が歪む。


「何よ」


 イリスが露骨に嫌そうな顔をする。


「いや」


 男は斧を肩に担いだまま笑った。


「悪くねぇな」


「……」


 イリスの眉間に皺が寄る。ザインは気にせず尋ねた。


「通してくれる?」


「無理だな」


「そっか」


「納得するの早くない?」


 イリスが横から口を挟む。大男は笑った。


「この先に何があるかは知らねぇ」


「だが、どうも当たりくせぇからな」


 足元の石畳を戦斧の柄で軽く叩く。


「ここまで来る奴は減らしておきてぇ」


 ノアがザインの後ろへ少し寄った。


「……やっぱり、同じことを考えてる人はいましたね」


「みたいだね」


 大男が自分たちを指差す。


「俺らは八人」


 次にザインたちを見る。


「お前らを入れりゃ十一人」


 ニヤリと笑った。


「一人溢れちまうからなぁ」


「そうだね」


 ザインが答える。


「ま、問題ねぇ」


 男がイリスを指差した。


「その女だけこっちに来い」


「……は?」


 イリスの声が低くなる。


「男二人はいらねぇ」


 ザインが首を傾げた。


「じゃあ十人にならなくない?」


「後で適当に拾えばいい」


「なるほど」


「納得しないでくれる?」


 イリスがザインを睨む。


「いや、人数の話は分かったから」


「そういう問題じゃないわよ」


 大男がイリスを見る。


「お前、こっちに来い」


「お断りよ」


 即答だった。男の眉が動く。


「お前には聞いてねぇ」


 今度はザインを見る。


「女だけ置いて、お前らは消えろ」


「嫌だけど」


「あ?」


「三人で行くって決めてるから」


 ザインは何でもないことのように答えた。大男はザインを見つめる。数秒。


「……そうかよ」


 肩に担いでいた戦斧を下ろした。巨大な刃が地面へ触れる。


「なら──」


 腰を落とす。


「その女だけ置いて、お前らは死ね!」


 地面を蹴った。


「っ!」


 巨体が一気に迫る。戦斧が振り上げられた。


「おっと」


 ザインが横へ飛ぶ。直後。


 ――ドゴォン!!


 巨大な斧が石畳へ叩きつけられた。石が砕け、破片が飛び散る。


「……すご」


 ザインが着地した。斧は地面へ深く食い込んでいる。ザインはすぐに踏み込んだ。だが。


「甘ぇ!」


「──っ!」


 男の脚が飛んでくる。ザインは咄嗟に両腕で受けた。


 ――ドンッ!!


「うおっ!」


 身体が浮く。そのまま後方へ吹き飛ばされた。


「ザイン!」


「ザインさん!」


 ザインは地面へ着地すると、数歩滑って止まった。


「……」


 蹴りを受けた腕を見る。痺れている。


「すごい力」


 口ではそう言いながら、ザインは僅かに眉を寄せた。今の蹴り、受け方を間違えていれば腕を持っていかれていた。


 大男は地面から斧を引き抜いた。ザインが立っているのを見ると、一瞬だけ目を見開く。そして。


「ハッ!」


 嬉しそうに笑った。


「やるじゃねぇか!」


「今ので終わりだと思ったんだがな!」


 ザインは剣を抜く。


「危ないなぁ」


「気に入った!」


 男は巨大な斧を肩へ乗せる。


「俺はガルド!」


 ザインを指差した。


「お前は!」


「ザイン」


「ザインか!」


 ガルドが笑う。


「覚えたぜ!」


 戦斧を構える。


「お前は俺がぶっ潰す!」


「物騒だね」


 ザインも剣を構えた。


「リオ!」


 ガルドが叫ぶ。隣にいた細身の青年が前へ出る。


「何だ」


 ガルドがイリスを顎で示した。


「お前は女を片付けとけ!」


「……」


 イリスが杖を握る。


「仲間にするんじゃなかったの?」


「気が変わった!」


「最低ね」


「俺に言われても困る」


 リオが静かに答える。イリスがリオを見る。


「あなたも大変そうね」


「否定はしない」


 リオが右手を上げた。風が吹く。


「だが、命令は命令だ」


「そう」


 イリスも杖を向ける。


「なら遠慮しないわ」


◇


 ザインが走る。ガルドも走る。剣と戦斧が激突した。


 ――ギィン!!


「っ!」


 ザインの腕へ重い衝撃が走る。


「ハハッ!」


 ガルドが笑う。


「どうした!」


 斧が振られる。ザインは後ろへ。石畳が砕ける。横薙ぎ。身体を反らす。巨大な刃が鼻先を通過した。


「危な」


 ザインが踏み込む。剣を振る。ガルドが斧の柄で受けた。


「いいなぁ!」


「そう?」


「もっと来い!」


 力任せに押し返される。ザインは一歩下がり、すぐに踏み込む。速さならザイン、力ならガルド。斧が振られる。避ける。剣を振る。受けられる。また斧。ザインは横へ。石畳が砕ける。


 ガルドが笑う。ザインも笑っていた。だが、その目は一瞬たりともガルドから離れない。


「楽しくなってきた」


「そうだろ!」


◇


 一方、イリスは杖をリオへ向けていた。


「──燃えなさい」


 炎が一直線に放たれる。リオへ迫る。だが、リオが片手を横へ払った。


 ――ゴォッ!


「……!」


 強烈な風。炎が横へ流され、木へ直撃した。


「炎か」


 リオがイリスを見る。


「相性が悪かったな」


「……」


 イリスの目が細くなる。


「たった一度防いだくらいで──」


 杖の先、先ほどより大きな炎が生まれる。


「調子に乗らないで」


 炎が放たれた。リオは両手を前へ出す。風が集まる。巨大な炎と風が正面から衝突した。


 ――ゴオオオオッ!!


 炎が左右へ割れる。


「……っ」


 イリスの髪が激しく揺れた。炎が身体の左右を通過していく。


「火力は凄い」


 リオが言う。


「でも、炎なら流せる」


「そう」


 イリスは杖を構え直す。


「なら、流せなくなるまで撃つだけよ」


「怖いな」


 リオが指を動かした。


「……?」


 何も起きない。そう見えた。


 ――シュッ。


「っ!」


 イリスの腕に細い傷が走った。服の袖が切れる。


「何──」


 ――シュッ。


 今度は頬。


「っ!」


 イリスが後ろへ飛ぶ。さらに。


 ――シュッ!


 脚。


 ――シュッ!


 肩。


 イリスは杖を振る。炎が周囲へ広がった。リオは風を起こし、炎を吹き飛ばす。


「炎は見える」


 リオが静かに言う。


「風は見えない」


「……随分と」


 イリスが頬へ触れる。指先に僅かな血が付いた。


「嫌な魔法ね」


「よく言われる」


◇


 その頃、ノアはザインを見る。ガルドと戦っている。イリスを見る。リオと戦っている。残った六人を見る。


「……」


 六人もノアを見る。


「……」


 ノアがゆっくりと後ろへ下がった。一歩、二歩。


「おい」


「ひっ」


 ノアが固まる。


「お前は戦わねぇのか?」


「……僕がですか?」


「お前以外に誰がいる」


 ノアはザインを見る。イリスを見る。自分を見る。


「……無理です」


「あ?」


「では!」


 全力で走った。


「おい!」


 古い石壁の残骸。その裏へ滑り込む。しゃがむ。


「……」


 子分たちが顔を見合わせた。


「ほっとくか」


「だな」


 ノアは石壁の裏で小さく息を吐く。


「……怖い」


 それでも、その場から逃げはしなかった。石壁の隙間から戦場を覗く。ザイン、イリス、ガルド、リオ。全員の動きが見える。ノアはじっと戦場を観察し始めた。


◇


 ザインの剣がガルドの肩を掠める。


「おっ」


 服が裂ける。ガルドが斧を振る。ザインは避けた。


「遅いよ」


「言ってろ!」


 ザインが右へ走る。ガルドが斧を振る。ザインは直前で左へ切り返した。


「なっ──」


 一気に懐へ。剣がガルドの脇腹を斬る。


「……!」


 浅い。だが、確実に届いた。ザインはすぐに距離を取る。


「……」


 ガルドが脇腹を見る。血が滲んでいた。


「斧、重そうだね」


 ザインが言う。


「俺ならもっと軽いの使うけど」


「……ハッ」


 ガルドが笑う。


「なるほどな」


 戦斧を肩へ担ぐ。


「普通じゃ追いつけねぇか」


 ガルドの身体から魔力が漏れ始めた。


「……」


 ザインの表情が変わる。魔法に詳しくないザインでも分かる。さっきまでとは明らかに違う。


「なんだ、それ」


 ガルドが笑う。


「知りてぇか?」


「ちょっとね」


「なら見せてやるよ!」


 魔力が一気に膨れ上がった。ガルドの筋肉が隆起する。首、肩、腕。全身に力が満ちていく。足元の石畳が軋んだ。


「……身体強化?」


 物陰から見ていたノアが呟く。だが。


「違う……?」


 一つの魔力ではない。いくつもの異質な魔力が混ざり合っている。


「何ですか……あれ……」


 ザインは剣を構えた。


「なんかデカくなった?」


「ハハハハッ!!」


 ガルドが両腕を広げる。


「見たかザイン!!」


 身体から溢れ出す魔力が周囲の空気を震わせた。


「これが俺の──」


 ガルドが拳を握り締める。


「《ビースト・グラトニー》だ!!」


「ビースト・グラトニー?」


「ああ!」


 ガルドは自分の胸を拳で叩いた。


「俺が仕留めた魔物の力を、この身体に蓄える!」


「そして好きな時に──」


 足元の石畳が砕けた。


「俺自身の力に変えられる!!」


「へぇ」


 ザインが感心したようにガルドを見る。


「便利だね」


「……」


 ガルドの眉が動く。


「それだけか?」


「え?」


「もっと驚けや!!」


「いや、俺魔法よく分かんないし」


「テメェ……!」


 ザインは剣を構え直した。


「でも」


 少しだけ笑う。


「さっきより強そうなのは分かるよ」


「……ハッ!」


 ガルドも笑う。


「上等だ!」


 巨大な斧を構えた。


「行くぜ、ザイン!!」


 地面を蹴る。


「──!」


 ザインの目が見開かれた。速い。先ほどとはまるで違う。巨体が一瞬で目の前へ。戦斧が振り下ろされる。ザインは剣を合わせた。


 ――ガァン!!


「っ!」


 衝撃。ザインの身体が大きく後ろへ押される。剣を握る手が痺れた。


(……これは、まずいな)


「ハハハハッ!!」


 ガルドが追う。


「どうした!!」


 二撃目。ザインが横へ避ける。石畳が爆ぜる。三撃目。


「っ!」


 後退。四撃目。剣で受ける。再び腕に衝撃が走った。


「さっきより全然違うね」


「そうだろ!」


「これが俺の力だ!!」


 ガルドが斧を振り回す。ザインは避け続ける。一撃が重い。その上、速い。まともに受け続ければ先にこちらの腕が潰れる。


 ザインの表情からは、いつもの軽さが消えない。だが――今までとは違う。剣を握る手にも、地面を蹴る脚にも。ザインは既に、ほとんど余力を残していなかった。


 ガルドの斧が横薙ぎに迫る。ザインが僅かに屈む。頭上を巨大な刃が通過した。


「……なるほど」


 ザインが小さく呟く。


「何がだ!」


「いや」


 剣を握り直す。


「そろそろ慣れてきた」


「あぁ!?」


 ザインが踏み込む。ガルドの斧が振り下ろされる。その直前、ザインは横へ抜けた。


「──!」


 剣がガルドの腕を掠める。ザインがそのまま通り抜けた。


「……」


 ガルドがゆっくり振り返る。腕から血が流れている。


「……ハッ」


 笑う。


「面白ぇ」


 ザインも振り返った。


「まだやる?」


「当たり前だろ!!」


 ガルドの身体から再び魔力が溢れ出す。


「……」


 ザインの笑みが、ほんの僅かに固まった。まだ、上がる。


「また……?」


 物陰から見ていたノアも眉をひそめる。ガルドの身体へ、さらに異質な魔力が流れ込んでいく。


 その時。


「……?」


 ノアの目が止まる。ガルドの右腕。一瞬、皮膚の一部が黒く見えた。


「……」


 ノアは目を擦る。もう一度見る。普通の肌。


「見間違い……?」


「もっとだ!!」


 ガルドが叫ぶ。さらに魔力を解放する。


「もっと出せる!!」


 ザインは黙って剣を構えた。その向こう、リオが一瞬だけガルドへ視線を向ける。眉が僅かに動いた。


「……ガルド?」


 ガルドは答えない。巨大な斧を握り締める。ザインだけを見て、笑っていた。


第7話を読んでいただき、ありがとうございました!


 今回はザインVSガルド、イリスVSリオ。


 それぞれタイプの違う強敵との戦いになりました。


 そして、ガルドの持つ《ビースト・グラトニー》。


 倒した魔物の力を自身の力へと変える、強力な能力。


 その力をさらに解放しようとするガルドですが、どこか様子がおかしいような……。


 一方、物陰へ全力避難したノアは何かに気付き始めています。


 戦いの行方はどうなるのか。


 次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!


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