冒険者
第10話です!
長かったギルド試験も、ついに結果発表。
果たして、ザインたち三人は無事に冒険者となれるのか。
そして、試験会場で起きた異変についても少しずつ明らかになっていきます。
今回も楽しんでいただけたら嬉しいです!
「痛い」
ザインが呟いた。
「身体中が痛い」
「でしょうね」
隣を歩くイリスが即答する。
「歩くだけで痛いんだけど」
「昨日あれだけ殴られて、今日歩けてる方がおかしいのよ」
「そうかな」
「そうよ」
「僕もそう思います……」
後ろを歩いていたノアまで同意する。ザインは少しだけ不満そうな顔をした。
昨日、魔物と化したガルドとの戦いを終えたザインは、その場で意識を失った。目を覚ましたのは、それから数時間後。幸い大きな怪我はなかったものの、身体の至るところに包帯を巻かれることになった。
そして翌日、三人はギルド本部へ呼び出されていた。
「でも……」
ノアが不安そうに呟く。
「僕たち、どうなるんでしょう」
「どうなるって?」
「試験です」
ノアがザインを見る。
「結局、僕たち自分でゴールしてませんよね?」
「ああ」
ザインが頷く。
「じゃあ不合格じゃない?」
「そ、そんなあっさり……!」
「だってゴールしてないし」
「そうですけど……!」
ノアの肩が落ちる。
「僕、やっとここまで来たのに……」
「まだ不合格と決まったわけじゃないでしょう」
イリスが言う。
「それを聞くために呼ばれたんじゃないの?」
「そう……ですよね」
「まあ、不合格だったらまた受ければいいよ」
ザインが言う。
「あなたは少しくらい緊張しなさいよ」
「してるよ」
「どこが?」
「身体痛いし」
「それは緊張じゃないわ」
三人がそんな話をしていると。
「ザインさん、イリスさん、ノアさん」
ギルド職員が声を掛けてきた。
「こちらへどうぞ」
三人は顔を見合わせる。
「行こうか」
「はい……!」
「なんであなたが一番気楽なのよ」
◇
案内されたのは、ギルド本部の奥にある一室だった。職員が扉を開く。
「どうぞ」
三人が中へ入る。部屋の奥には、一人の男が座っていた。年齢は五十ほどだろうか。昨日、試験会場で見た試験官とは違う。男の前には三つの椅子が並べられている。
「座れ」
三人はそれぞれ椅子へ腰掛けた。ザインが身体を曲げた瞬間。
「いっ……」
「……」
イリスが横目で見る。
「何?」
「別に」
男が三人を見る。
「昨日の件については、既に報告を受けている」
ノアの背筋が伸びる。
「は、はい」
「お前が事情を説明したそうだな」
「はい」
男は一度頷いた。
「まず、試験の結果から伝えよう」
「……!」
ノアが息を呑む。
「ザイン」
「はい」
「イリス」
「ええ」
「ノア」
「は、はい!」
「以上三名」
一拍。
「合格とする」
「……」
ノアが固まった。
「……え?」
「聞こえなかったか」
「い、いえ!」
ノアが僅かに身を乗り出す。
「ご、合格……ですか?」
「そう言った」
「僕も?」
「三名と言っただろう」
「……」
ノアがゆっくりと椅子へ背を戻す。
「合格……」
その顔が少しずつ緩んでいく。
「僕が……」
「よかったね」
ザインが言う。
「はい!」
ノアがザインを見る。
「よかったです!」
「ちょっと待て」
男の声が飛ぶ。三人が再び前を見る。
「もっとも──」
男の表情は変わらない。
「本来なら、お前たちは不合格だ」
「……え?」
ノアの笑顔が消えた。ザインが首を傾げる。
「やっぱり?」
「最後まで聞け」
「はい」
「今回の試験の合格条件は、指定された本部へ自力で到達することだ」
男が続ける。
「お前たちはその条件を満たしていない。規定だけで判断すれば、不合格となる」
ノアの表情に再び不安が浮かぶ。
「だが」
男が三人を見る。
「昨日の一件は、それを覆すに十分な功績だった」
「昨日の……」
ノアが呟く。
「ガルドという受験者についてだ」
部屋の空気が僅かに変わった。
「現在、ギルドで調査を進めている」
ザインが男を見る。
「あの人、生きてるんですか?」
「ああ」
「そうなんだ」
「ただし、未だ意識は戻っていない」
「……」
男は少し間を置いた。
「そして、我々にもあの男に何が起きたのか分かっていない」
ノアが眉を寄せる。
「分からない……?」
「ああ」
「でも、《ビースト・グラトニー》を使いすぎたからじゃ……」
「原因の一つである可能性は高い」
男が答える。
「だが、問題はそこではない」
「……?」
「人間が魔物へ変貌した」
三人が黙る。
「そのような現象は、我々の記録には存在しない」
「……一度もですか?」
ノアが聞いた。
「少なくとも、ギルドが保有する記録にはない」
「……」
ノアの表情が変わる。イリスも僅かに眉をひそめた。
「つまり」
ザインが口を開く。
「結構大変なことだったんだ」
「……結構どころではない」
男がザインを見る。
「前代未聞だ」
「そんなに」
「そんなに、だ」
男が小さく息を吐いた。
「魔物は成長する」
机の上で指を組む。
「魔力を蓄えるもの。捕食によって力を増すもの。長い年月を生きることで強大になるもの。その方法は種によって異なる」
三人は黙って聞く。
「昨日のガルドは、元々《ビースト・グラトニー》によって複数の魔物の力を身体に蓄えていた」
ノアが頷く。
「はい」
「仮に、あの状態のまま森へ逃げていたらどうなっていたと思う?」
「……」
誰も答えない。
「分からない」
男が言った。
「我々にもな」
その目が鋭くなる。
「人としての知性を完全に失ったのか」
「魔物としてさらに成長するのか」
「他の生物を襲い、その力を取り込み続けるのか」
「そもそも、あの現象がガルド一人にしか起こらないものなのか」
「何一つ分かっていない」
沈黙が落ちる。
「だからこそ」
男が三人を見る。
「お前たちの行動を評価した」
「……」
「未知の脅威が力をつける前に、その場で鎮圧した」
ザイン、イリス、ノア。三人を順番に見る。
「逃げるという選択肢もあったはずだ」
「でも」
ノアが口を開く。
「あのまま放っておいたら、他の受験者が……」
「そうだ」
男が頷く。
「お前たちは三人で連携し、事態を収束させた」
そして。
「その功績を考慮し──」
男が改めて告げる。
「ザイン、イリス、ノア」
「三名を特例として合格とする」
「……!」
ノアの顔が再び明るくなる。
「ありがとうございます!」
深く頭を下げた。イリスも小さく息を吐く。
「当然ね」
「嬉しそうだね」
「何?」
「なんでもない」
「そう」
男はそんな二人を見てから、再び口を開いた。
「それと」
三人へ問いかける。
「試験中、他に異変はなかったか?」
「異変?」
ザインが首を傾げる。
「普段とは違う魔物。不可解な現象。些細なことでも構わん」
「……」
ノアが何かを思い出したように顔を上げた。
「ありました」
男の視線がノアへ向く。
「何だ?」
「大型の魔獣です」
ノアが答える。
「五メートルほどの個体でした」
「種類は?」
ノアが説明する。男は黙って聞いている。
「でも……僕が本で読んだ個体とは、明らかに違っていました」
「どう違う」
「身体能力もそうですけど……」
ノアが少し考える。
「何かに苦しんでいるような……そんな感じがしました」
「苦しんでいる?」
「はい。それに、普通の個体より明らかに凶暴でした」
男の表情が変わった。
「……」
「何か関係があるんでしょうか?」
「分からん」
男が答える。
「だが──」
僅かに考え込む。
「詳しく聞かせてもらおう」
◇
その後、三人は試験中に遭遇した大型魔獣について、覚えている限りの情報をギルドへ報告した。ガルドの魔物化との関連性については、現時点では分からない。ギルド側で改めて調査する。そう告げられた。
「さて」
男が机の引き出しを開けた。
「最後に」
三枚のカードを机へ並べる。
「お前たちのものだ」
「……?」
ザインが一枚取る。名前、登録番号、ギルドの紋章。いくつかの情報が刻まれている。
「冒険者証?」
「ああ」
男が答える。
「本日から、お前たちは正式な冒険者だ」
「……!」
ノアが自分のカードを手に取った。
「……」
じっと見つめる。そこには、自分の名前が刻まれている。
「……僕の名前がある」
「そりゃあるでしょ」
「分かってますよ!」
ノアがザインを見る。
「分かってますけど……」
もう一度カードを見る。
「……本当に、冒険者になれたんだなって」
「そうだね」
「はい」
ノアは大切そうに冒険者証を握った。イリスも自分のカードへ視線を落とす。
「これでようやくね」
「うん」
ザインも自分の冒険者証をしばらく眺める。そして、懐へしまった。
◇
ギルド本部を出たところで、三人は足を止めた。
「じゃあ、今日はここまでかな」
ザインが言う。
「そうね」
イリスが答える。
「私は色々と揃えたいものがあるから、街を見てくるわ」
「冒険の道具?」
「それもあるわね」
「そっか」
ザインが頷く。
「俺も帰ろうかな」
「ザインさんは何かあるんですか?」
ノアが聞く。
「引っ越しの準備」
「引っ越すんですか?」
「うん」
ザインがギルドの建物を見上げる。
「これからここに来ること増えるだろうし、近くに住んだ方が楽かなって」
「なるほど……」
「じゃあ、また明日?」
「ええ」
「はい!」
三人はそこで別れた。ザインは引っ越しの準備へ。イリスは必要なものを揃えるため、街へ。そして。
◇
「……」
ノアは一人、ギルドへ戻ってきていた。
「さて……」
改めて中を見渡す。昨日までは試験を受けることで頭がいっぱいだった。ギルドがどんな仕事を扱っているのか。冒険者として、どんな知識が必要になるのか。詳しく調べる余裕などなかった。
「まずは……」
ノアは依頼掲示板へ向かった。壁一面に貼られた依頼書。一枚ずつ目を通していく。魔物の討伐。薬草や鉱石の採取。商人の護衛。荷物の運搬。周辺地域の調査。
「こんなに種類があるんだ……」
依頼ごとに記された内容も違う。目的地、報酬、必要な人数、注意事項。ノアは一つ一つ確認していく。
「これは街の外……」
別の依頼を見る。
「こっちは北の街道か」
さらに隣。
「護衛依頼……」
ノアは依頼書から顔を離した。
「……」
今度はギルド内に置かれていた周辺地図へ向かう。街、森、街道、川、近隣の村。依頼書で見た地名と照らし合わせていく。
「この街道を使う依頼が多い……」
地図へ顔を近づける。
「こっちは魔物の目撃情報……」
一つ確認すると、また一つ気になる。
「なら、この辺りへ行く時は……」
別の資料を手に取る。気付けば、かなりの時間が経っていた。
「……」
ノアは資料から顔を上げた。窓から差し込む光は、既に傾き始めている。
「もうこんな時間……」
ノアは手元の資料を見る。ザインは強い。イリスも強い。自分には、二人のような力はない。でも、試験を通して分かったことがある。戦うことだけが、役割ではない。地図を読む。情報を集める。相手を観察する。状況を整理して、勝つための方法を考える。自分にできることは、ちゃんとある。
「……」
ノアは小さく笑った。
「僕にもできる」
資料を元の場所へ戻す。最後にもう一度、依頼掲示板を見る。明日、二人と相談してみよう。
「……よし」
冒険者証をしまう。鞄を手に取った。
「さて、帰るか」
ノアは一人、ギルドを後にした。
こうして、三人のギルド試験は終わった。そして同時に――。
ザイン、イリス、ノア。三人の冒険者としての日々が、始まろうとしていた。
第10話を読んでいただき、ありがとうございました!
ザイン、イリス、ノア。
三人とも無事、冒険者になることができました!
これにてギルド試験編は終了です。
ただ、ガルドに起きた前代未聞の魔物化や、試験中に遭遇した異常な魔獣など、まだ分からないことも残っています。
そして最後は、早速これからの活動に向けて情報を集め始めるノア。
試験中にも少しずつ見えてきた三人それぞれの役割が、これからどう形になっていくのか。
次回から、ザインたちの冒険者としての日々が始まります!
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!




