それぞれの1ヶ月
第11話です!
冒険者になってから、もうすぐ一ヶ月。
三人で冒険者になったザイン、イリス、ノアでしたが――どうやら三人で仲良く依頼をこなしているわけではないようです。
それぞれがどんな冒険者生活を送っているのか。
今回はノア視点でお届けします!
楽しんでいただけたら嬉しいです!
冒険者になってから、一ヶ月が過ぎようとしていた。
僕はてっきり、ザインさんとイリスさんと三人で依頼をこなしながら、冒険者として活動していくのだと思っていた。試験では三人で協力した。大型の魔獣とも戦った。魔物になってしまったガルドさんとも、三人で力を合わせて戦った。だから当然、これからも三人で――。
――どうやら、そう思っていたのは僕だけだったらしい。
◇
「……ザインさん、まだかな」
冒険者になって三日目。僕はギルドの依頼掲示板の前で、一人ザインさんを待っていた。待ち合わせをしていたわけではない。でも、朝からギルドにいればそのうち来るだろう。そう思っていた。
「……」
依頼書を見る。薬草採取、荷物運び、商人の護衛、魔物討伐。
「これなんか三人で──」
「あら、ノアさん」
「?」
受付の女性に声を掛けられた。
「今日は依頼を受けないんですか?」
「あ、いえ。ザインさんたちを待ってるんです」
「ザインさん?」
「はい」
「ザインさんなら、さっき出ていきましたよ?」
「……え?」
「魔物討伐の依頼を受けて」
「……」
僕は入口を見る。いない。
「いつですか?」
「少し前ですね」
「……」
「ノアさん?」
「……ありがとうございます」
翌日、ザインさんを見つけた。
「ザインさん!」
「ん?」
「昨日、依頼に行ったんですか?」
「うん」
「一人で!?」
「うん」
「なんでですか!?」
「……?」
ザインさんが首を傾げる。
「ノアいなかったから」
「待ってくださいよ!」
「なんで?」
「なんでって……!」
「……」
ザインさんが考える。
「一緒に行きたかった?」
「行きたかったですよ!」
「言ってくれればよかったのに」
「言う前に行っちゃったんじゃないですか!」
「そっか」
「そっかじゃないですよ!」
ザインさんは本当に分かっていないらしい。彼の行動は単純だった。ギルドに来る。依頼を見る。面白そうなものを見つける。受ける。行く。以上。時間も決まっていない。朝に来る日もあれば、昼過ぎにふらっと現れることもある。気になる依頼がなければ、そのまま帰ることすらある。完全にザインさんの気分次第だった。
「……まあ」
僕は思った。イリスさんがいる。ザインさんはともかく、イリスさんなら。
◇
「ザインが一人で?」
「はい……」
「ふぅん」
イリスさんが依頼掲示板を見る。
「そう」
「あの、イリスさん」
「何?」
「明日なんですけど、良さそうな依頼があったので三人で──」
「これにするわ」
「え?」
イリスさんが一枚の依頼書を剥がした。魔物討伐。
「……それ、一人で行くんですか?」
「そうだけど」
「どうして!?」
「何が?」
「ザインさんも一人で行っちゃうし!」
「ザインが一人で行けるなら、私も一人で十分でしょう?」
「そういう話じゃないです!」
「何が違うの?」
「全部です!」
イリスさんは首を傾げた。そして、そのまま受付へ向かっていった。
「……」
僕は一人、取り残された。どうやら、ザインさんが一人で依頼をこなしていると知ったことで、イリスさんの何かに火がついてしまったらしい。
「……なんで?」
結局、イリスさんまで一人で依頼へ行くようになった。
◇
そして、冒険者になって一ヶ月。
「ノア君!」
「?」
街を歩いていると、後ろから声を掛けられた。
「あ、こんにちは」
「この前はありがとうねぇ」
振り返ると、顔馴染みになった女性がいた。
「いえいえ。見つかってよかったです」
「ほんとよぉ。あの子ったら、すぐどっか行っちゃうんだから」
「もう逃がさないでくださいね」
「気をつけるわ」
女性が笑う。先日、飼い猫を探してほしいという依頼を受けた。半日ほど街を探し回って、結局見つけたのは家からそれほど離れていない物置の中だった。
「これ、持っていきなさい」
「え?」
果物を一つ渡される。
「いや、悪いですよ」
「いいからいいから」
「でも……」
「この前のお礼!」
「……ありがとうございます」
断り切れず、受け取る。
「また何かあったらよろしくね」
「はい」
女性と別れる。
「……」
手の中の果物を見る。冒険者になって一ヶ月。僕が受けてきた依頼は、薬草採取、猫探し、荷物運び、落とし物探し、近場への配達、簡単な調査。
「……」
思っていた冒険者生活とは、少し違う。もう少しこう、魔物と戦ったり、危険な場所を冒険したり。そんなものを想像していた。
でも。
「ノア兄ちゃん!」
「?」
今度は子供たちが走ってくる。
「この前の猫見つかった?」
「見つかったよ」
「どこにいたの?」
「物置」
「近っ!」
「僕もそう思ったよ」
子供たちが笑う。
「じゃあね、ノア兄ちゃん!」
「走ると危ないよ!」
「はーい!」
走っていく背中を見る。
「……まあ」
悪くはない。
◇
「ノアさん」
「はい?」
「また薬草ですか?」
ギルドへ戻ると、受付の女性に声を掛けられた。
「またじゃありません」
「昨日も薬草でしたよね?」
「昨日は採取です」
「今日も?」
「今日は種類が違います!」
「薬草ですよね?」
「薬草ですけど……」
受付の女性が笑う。
「ノアさん、すっかりこういう依頼が板についてきましたね」
「褒めてます?」
「もちろん」
「本当かな……」
僕は依頼完了の手続きを済ませる。
「そういえば」
受付の女性が言った。
「ザインさん、今日も討伐に行きましたよ」
「またですか?」
「はい」
「今日は何を?」
「森に出た魔物の討伐ですね」
「……」
ザインさん。相変わらずだった。気になる討伐依頼を見つけては、一人で出ていく。そのうえ、帰ってくるのも早い。
「もう終わったんですか?」
と聞けば。
「うん」
で終わる。本人にとっては、それだけのことらしい。
「イリスさんは?」
「今朝、討伐依頼を受けていきました」
「……」
「ザインさんより少し難しいやつです」
「……絶対張り合ってる」
「何か言いました?」
「いえ……」
僕はため息をついた。
◇
その日の夕方。
「ただいま」
「ここ家じゃないですよ」
「そうなの?」
「そうですよ」
ザインさんがギルドへ戻ってきた。服には土や草が付いている。剣を腰に下げたまま、いつもの調子で受付へ向かっていく。
「終わったんですか?」
「うん」
「早くないですか?」
「そう?」
「そうですよ」
「そんなに強くなかったし」
「……」
やっぱりこの人はよく分からない。
「ザインさん」
「ん?」
「僕、てっきり三人で活動するんだと思ってたんですけど」
「そうなの?」
「そうなの? じゃないですよ!」
「言ってくれれば一緒に行くよ」
「だから行く前に声掛けてください!」
「分かった」
「本当ですか?」
「多分」
「多分……」
そこへ。
「あら」
聞き覚えのある声。振り返る。イリスさんがギルドへ入ってきた。
「珍しくいるのね」
「イリスもね」
ザインさんが答える。
「私は依頼を終えたところよ」
「俺も」
「そう」
「……」
僕は二人を見る。一ヶ月前、三人で冒険者になった。そして今、三人が同時にギルドにいるだけで珍しい。
「……なんか違う」
「何が?」
ザインさんが聞く。
「なんでもないです」
「変なノア」
「誰のせいだと思ってるんですか!」
「?」
「もういいです……」
「ノアは最近何してるの?」
「薬草を採ったり、猫を探したり、荷物を運んだり……」
「楽しそう」
「楽しいですよ!」
反射的に答えてから。
「……いや、そうじゃなくて」
ザインさんが笑う。
「ノア、街の人と仲良くなったよね」
「まあ……最近は声を掛けてもらえるようになりました」
「いいじゃん」
「ザインさんは魔物ばっかりですけどね」
「うん」
「イリスさんも」
「別にいいでしょう」
「……」
やっぱり。三人で冒険者になったはずなのに、全然違う。そんなことを考えていると。
「ザインさん」
「ん?」
「イリスさん、ノアさんも」
三人が振り返る。ギルド職員が立っていた。
「ギルド長がお呼びです」
「……」
僕は瞬きをする。
「僕たち三人を?」
「はい」
ザインさんが首を傾げる。
「なんかした?」
「心当たりがあるの?」
イリスさんがザインさんを見る。
「ない」
「なら聞かないで」
「そっか」
「……行きましょう」
僕は二人を促した。
◇
ギルド長室。一ヶ月ぶりに、僕たちは三人並んで座っていた。
「来たか」
机の向こう、ギルド長が僕たちを見る。
「急に呼び出してすまんな」
「いえ」
僕が答える。
「それで、何かあったんですか?」
「ああ」
ギルド長の表情は硬い。
「お前たち三人に、頼みたい任務がある」
「僕たち三人に?」
「そうだ」
ザインさんが少し身を乗り出す。
「どんな?」
「待て」
ギルド長が机の上に地図を広げた。
「ここだ」
指を置く。王都から街道を進んだ先、それほど遠くない場所に、一つの村が記されている。
「この村がどうかしたんですか?」
僕が尋ねる。
「三日前から」
ギルド長が言った。
「連絡が途絶えている」
「……」
三人とも地図を見る。
「連絡が?」
「ああ」
「何かあったってこと?」
ザインさんが聞く。
「それを調べてほしい」
「魔物ですか?」
僕が聞く。
「分からん」
ギルド長が答える。
「盗賊?」
今度はイリスさん。
「それも分からん」
「……」
「村からの連絡が一切ない。今分かっているのは、それだけだ」
僕は地図を見る。王都からそう離れた村ではない。街道も通っている。突然、連絡が途絶えるような場所には見えない。
「だから調査……」
「そういうことだ」
ギルド長が僕を見る。
「村へ向かい、何が起きているのか確認してほしい」
「でも」
僕は少し考える。
「どうして僕たちなんですか?」
冒険者になって、まだ一ヶ月。ザインさんとイリスさんはともかく、僕なんて、薬草を採って猫を探しているだけだ。
ギルド長は僕たち三人を見た。
「この一ヶ月、お前たちの活動は見ていた」
「……」
「ザイン」
「はい」
「お前の戦闘能力は十分確認した」
「そうなんだ」
「イリス」
「何?」
「お前も同様だ」
「当然ね」
「そしてノア」
「は、はい」
「お前は派手な仕事こそしていないが、依頼の達成率は高い」
「……!」
「事前に情報を調べ、問題があれば自分で考えて対処しているそうだな」
「まあ……はい」
「それでいい」
ギルド長が続ける。
「今回必要なのは、単純な戦力だけではない」
地図を見る。
「何が起きているのかすら分からんからな」
「……」
「それに」
ギルド長が僕たちを見る。
「お前たちは一ヶ月前にも、我々が予測していなかった事態に遭遇した」
ガルドさん。すぐに分かった。
「その中で生き残り、状況を判断し、事態を収束させた」
「……」
「だから、お前たち三人を選んだ」
僕は隣を見る。ザインさん。反対側。イリスさん。一ヶ月、それぞれ好き勝手に活動していた三人。なのに。
「いつ行くの?」
ザインさんが聞いた。
「明朝だ」
「分かった」
「私は構わないわ」
イリスさんも答える。
「ノアは?」
「……」
二人が僕を見る。思わず、少しだけ笑ってしまった。
「なんで笑ってるの?」
ザインさんが聞く。
「いえ」
「?」
「ようやく三人ですね」
「……?」
ザインさんが首を傾げる。イリスさんは小さく息を吐いた。
「別に遊びに行くわけじゃないわよ」
「分かってますよ」
「ならいいけど」
ギルド長が地図を畳む。
「話は以上だ」
そして。
「何が起きているか分からん以上、十分に警戒しろ」
「はい」
僕は頷いた。ザインさんとイリスさんも立ち上がる。
こうして、冒険者になって一ヶ月。僕たちは初めて、三人揃って、ギルドから任務を任されることになった。
近隣の村から、突如として途絶えた連絡。その村で、一体何が起きているのか。
この時の僕たちはまだ――。
何も知らなかった。
第11話を読んでいただき、ありがとうございました!
三人で冒険者になったのに、気付けば全員バラバラ。
自由気ままに討伐へ向かうザイン。
そんなザインに対抗するように、一人で討伐へ向かうイリス。
そして薬草を採り、猫を探し、いつの間にか街の人たちに愛され始めているノア。
三人とも、それぞれらしい冒険者生活になりました。
そんな三人に、ギルド長から初めての指名任務。
突如として連絡が途絶えた近隣の村。
ようやく三人揃っての任務ですが、果たして村では何が起きているのか。
次回から、新たな任務の始まりです!
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!




