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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
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11/60

それぞれの1ヶ月

第11話です!


 冒険者になってから、もうすぐ一ヶ月。


 三人で冒険者になったザイン、イリス、ノアでしたが――どうやら三人で仲良く依頼をこなしているわけではないようです。


 それぞれがどんな冒険者生活を送っているのか。


 今回はノア視点でお届けします!


 楽しんでいただけたら嬉しいです!





 冒険者になってから、一ヶ月が過ぎようとしていた。


 僕はてっきり。


 ザインさんとイリスさん。


 三人で依頼をこなしながら、冒険者として活動していくのだと思っていた。


 試験では三人で協力した。


 大型の魔獣とも戦った。


 魔物になってしまったガルドさんとも、三人で力を合わせて戦った。


 だから当然。


 これからも三人で――。


 ――どうやら。


 そう思っていたのは、僕だけだったらしい。


     ◇


「……ザインさん、まだかな」


 冒険者になって三日目。


 僕はギルドの依頼掲示板の前で、一人ザインさんを待っていた。


 待ち合わせをしていたわけではない。


 でも、朝からギルドにいればそのうち来るだろう。


 そう思っていた。


「……。」


 依頼書を見る。


 薬草採取。


 荷物運び。


 商人の護衛。


 魔物討伐。


「これなんか三人で――」


「あら、ノアさん」


「?」


 受付の女性に声を掛けられた。


「今日は依頼を受けないんですか?」


「あ、いえ。ザインさんたちを待ってるんです」


「ザインさん?」


「はい」


「ザインさんなら、さっき出ていきましたよ?」


「……え?」


「魔物討伐の依頼を受けて」


「……。」


 僕は入口を見る。


 いない。


「いつですか?」


「少し前ですね」


「……。」


「ノアさん?」


「……ありがとうございます」


 翌日。


 ザインさんを見つけた。


「ザインさん!」


「ん?」


「昨日、依頼に行ったんですか?」


「うん」


「一人で!?」


「うん」


「なんでですか!?」


「……?」


 ザインさんが首を傾げる。


「ノアいなかったから」


「待ってくださいよ!」


「なんで?」


「なんでって……!」


「……。」


 ザインさんが考える。


「一緒に行きたかった?」


「行きたかったですよ!」


「言ってくれればよかったのに」


「言う前に行っちゃったんじゃないですか!」


「そっか」


「そっかじゃないですよ!」


 ザインさんは本当に分かっていないらしい。


 彼の行動は単純だった。


 ギルドに来る。


 依頼を見る。


 面白そうなものを見つける。


 受ける。


 行く。


 以上。


 時間も決まっていない。


 朝に来る日もあれば、昼過ぎにふらっと現れることもある。


 気になる依頼がなければ、そのまま帰ることすらある。


 完全にザインさんの気分次第だった。


「……まあ」


 僕は思った。


 イリスさんがいる。


 ザインさんはともかく、イリスさんなら。


     ◇


「ザインが一人で?」


「はい……」


「ふぅん」


 イリスさんが依頼掲示板を見る。


「そう」


「あの、イリスさん」


「何?」


「明日なんですけど、良さそうな依頼があったので三人で――」


「これにするわ」


「え?」


 イリスさんが一枚の依頼書を剥がした。


 魔物討伐。


「……それ、一人で行くんですか?」


「そうだけど」


「どうして!?」


「何が?」


「ザインさんも一人で行っちゃうし!」


「ザインが一人で行けるなら、私も一人で十分でしょう?」


「そういう話じゃないです!」


「何が違うの?」


「全部です!」


 イリスさんは首を傾げた。


 そして、そのまま受付へ向かっていった。


「……。」


 僕は一人、取り残された。


 どうやら。


 ザインさんが一人で依頼をこなしていると知ったことで。


 イリスさんの何かに火がついてしまったらしい。


「……なんで?」


 結局。


 イリスさんまで一人で依頼へ行くようになった。


     ◇


 そして。


 冒険者になって、一ヶ月。


「ノア君!」


「?」


 街を歩いていると、後ろから声を掛けられた。


「あ、こんにちは」


「この前はありがとうねぇ」


 振り返ると、顔馴染みになった女性がいた。


「いえいえ。見つかってよかったです」


「ほんとよぉ。あの子ったら、すぐどっか行っちゃうんだから」


「もう逃がさないでくださいね」


「気をつけるわ」


 女性が笑う。


 先日、飼い猫を探してほしいという依頼を受けた。


 半日ほど街を探し回って、結局見つけたのは家からそれほど離れていない物置の中だった。


「これ、持っていきなさい」


「え?」


 果物を一つ渡される。


「いや、悪いですよ」


「いいからいいから」


「でも……」


「この前のお礼!」


「……ありがとうございます」


 断り切れず、受け取る。


「また何かあったらよろしくね」


「はい」


 女性と別れる。


「……。」


 手の中の果物を見る。


 冒険者になって一ヶ月。


 僕が受けてきた依頼は。


 薬草採取。


 猫探し。


 荷物運び。


 落とし物探し。


 近場への配達。


 簡単な調査。


「……。」


 思っていた冒険者生活とは、少し違う。


 もう少しこう。


 魔物と戦ったり。


 危険な場所を冒険したり。


 そんなものを想像していた。


 でも。


「ノア兄ちゃん!」


「?」


 今度は子供たちが走ってくる。


「この前の猫見つかった?」


「見つかったよ」


「どこにいたの?」


「物置」


「近っ!」


「僕もそう思ったよ」


 子供たちが笑う。


「じゃあね、ノア兄ちゃん!」


「走ると危ないよ!」


「はーい!」


 走っていく背中を見る。


「……まあ」


 悪くはない。


     ◇


「ノアさん」


「はい?」


「また薬草ですか?」


 ギルドへ戻ると、受付の女性に声を掛けられた。


「またじゃありません」


「昨日も薬草でしたよね?」


「昨日は採取です」


「今日も?」


「今日は種類が違います!」


「薬草ですよね?」


「薬草ですけど……」


 受付の女性が笑う。


「ノアさん、すっかりこういう依頼が板についてきましたね」


「褒めてます?」


「もちろん」


「本当かな……」


 僕は依頼完了の手続きを済ませる。


「そういえば」


 受付の女性が言った。


「ザインさん、今日も討伐に行きましたよ」


「またですか?」


「はい」


「今日は何を?」


「森に出た魔物の討伐ですね」


「……。」


 ザインさん。


 相変わらずだった。


 気になる討伐依頼を見つけては、一人で出ていく。


 そのうえ、帰ってくるのも早い。


「もう終わったんですか?」


 と聞けば。


「うん」


 で終わる。


 本人にとっては、それだけのことらしい。


「イリスさんは?」


「今朝、討伐依頼を受けていきました」


「……。」


「ザインさんより少し難しいやつです」


「……絶対張り合ってる」


「何か言いました?」


「いえ……」


 僕はため息をついた。


     ◇


 その日の夕方。


「ただいま」


「ここ家じゃないですよ」


「そうなの?」


「そうですよ」


 ザインさんがギルドへ戻ってきた。


 服には土や草が付いている。


 剣を腰に下げたまま、いつもの調子で受付へ向かっていく。


「終わったんですか?」


「うん」


「早くないですか?」


「そう?」


「そうですよ」


「そんなに強くなかったし」


「……。」


 やっぱりこの人はよく分からない。


「ザインさん」


「ん?」


「僕、てっきり三人で活動するんだと思ってたんですけど」


「そうなの?」


「そうなの? じゃないですよ!」


「言ってくれれば一緒に行くよ」


「だから行く前に声掛けてください!」


「分かった」


「本当ですか?」


「多分」


「多分……」


 そこへ。


「あら」


 聞き覚えのある声。


 振り返る。


 イリスさんがギルドへ入ってきた。


「珍しくいるのね」


「イリスもね」


 ザインさんが答える。


「私は依頼を終えたところよ」


「俺も」


「そう」


「……。」


 僕は二人を見る。


 一ヶ月前。


 三人で冒険者になった。


 そして今。


 三人が同時にギルドにいるだけで珍しい。


「……なんか違う」


「何が?」


 ザインさんが聞く。


「なんでもないです」


「変なノア」


「誰のせいだと思ってるんですか!」


「?」


「もういいです……」


「ノアは最近何してるの?」


「薬草を採ったり、猫を探したり、荷物を運んだり……」


「楽しそう」


「楽しいですよ!」


 反射的に答えてから。


「……いや、そうじゃなくて」


 ザインさんが笑う。


「ノア、街の人と仲良くなったよね」


「まあ……最近は声を掛けてもらえるようになりました」


「いいじゃん」


「ザインさんは魔物ばっかりですけどね」


「うん」


「イリスさんも」


「別にいいでしょう」


「……。」


 やっぱり。


 三人で冒険者になったはずなのに。


 全然違う。


 そんなことを考えていると。


「ザインさん」


「ん?」


「イリスさん、ノアさんも」


 三人が振り返る。


 ギルド職員が立っていた。


「ギルド長がお呼びです」


「……。」


 僕は瞬きをする。


「僕たち三人を?」


「はい」


 ザインさんが首を傾げる。


「なんかした?」


「心当たりがあるの?」


 イリスさんがザインさんを見る。


「ない」


「なら聞かないで」


「そっか」


「……行きましょう」


 僕は二人を促した。


     ◇


 ギルド長室。


 一ヶ月ぶりに。


 僕たちは三人並んで座っていた。


「来たか」


 机の向こう。


 ギルド長が僕たちを見る。


「急に呼び出してすまんな」


「いえ」


 僕が答える。


「それで、何かあったんですか?」


「ああ」


 ギルド長の表情は硬い。


「お前たち三人に、頼みたい任務がある」


「僕たち三人に?」


「そうだ」


 ザインさんが少し身を乗り出す。


「どんな?」


「待て」


 ギルド長が机の上に地図を広げた。


「ここだ」


 指を置く。


 王都から街道を進んだ先。


 それほど遠くない場所に、一つの村が記されている。


「この村がどうかしたんですか?」


 僕が尋ねる。


「三日前から」


 ギルド長が言った。


「連絡が途絶えている」


「……。」


 三人とも地図を見る。


「連絡が?」


「ああ」


「何かあったってこと?」


 ザインさんが聞く。


「それを調べてほしい」


「魔物ですか?」


 僕が聞く。


「分からん」


 ギルド長が答える。


「盗賊?」


 今度はイリスさん。


「それも分からん」


「……。」


「村からの連絡が一切ない。今分かっているのは、それだけだ」


 僕は地図を見る。


 王都からそう離れた村ではない。


 街道も通っている。


 突然、連絡が途絶えるような場所には見えない。


「だから調査……」


「そういうことだ」


 ギルド長が僕を見る。


「村へ向かい、何が起きているのか確認してほしい」


「でも」


 僕は少し考える。


「どうして僕たちなんですか?」


 冒険者になって、まだ一ヶ月。


 ザインさんとイリスさんはともかく。


 僕なんて、薬草を採って猫を探しているだけだ。


 ギルド長は僕たち三人を見た。


「この一ヶ月、お前たちの活動は見ていた」


「……。」


「ザイン」


「はい」


「お前の戦闘能力は十分確認した」


「そうなんだ」


「イリス」


「何?」


「お前も同様だ」


「当然ね」


「そしてノア」


「は、はい」


「お前は派手な仕事こそしていないが、依頼の達成率は高い」


「……!」


「事前に情報を調べ、問題があれば自分で考えて対処しているそうだな」


「まあ……はい」


「それでいい」


 ギルド長が続ける。


「今回必要なのは、単純な戦力だけではない」


 地図を見る。


「何が起きているのかすら分からんからな」


「……。」


「それに」


 ギルド長が僕たちを見る。


「お前たちは一ヶ月前にも、我々が予測していなかった事態に遭遇した」


 ガルドさん。


 すぐに分かった。


「その中で生き残り、状況を判断し、事態を収束させた」


「……。」


「だから、お前たち三人を選んだ」


 僕は隣を見る。


 ザインさん。


 反対側。


 イリスさん。


 一ヶ月。


 それぞれ好き勝手に活動していた三人。


 なのに。


「いつ行くの?」


 ザインさんが聞いた。


「明朝だ」


「分かった」


「私は構わないわ」


 イリスさんも答える。


「ノアは?」


「……。」


 二人が僕を見る。


 思わず。


 少しだけ笑ってしまった。


「なんで笑ってるの?」


 ザインさんが聞く。


「いえ」


「?」


「ようやく三人ですね」


「……?」


 ザインさんが首を傾げる。


 イリスさんは小さく息を吐いた。


「別に遊びに行くわけじゃないわよ」


「分かってますよ」


「ならいいけど」


 ギルド長が地図を畳む。


「話は以上だ」


 そして。


「何が起きているか分からん以上、十分に警戒しろ」


「はい」


 僕は頷いた。


 ザインさんとイリスさんも立ち上がる。


 こうして。


 冒険者になって一ヶ月。


 僕たちは初めて。


 三人揃って、ギルドから任務を任されることになった。


 近隣の村から、突如として途絶えた連絡。


 その村で。


 一体何が起きているのか。


 この時の僕たちはまだ――。


 何も知らなかった。

第11話を読んでいただき、ありがとうございました!


 三人で冒険者になったのに、気付けば全員バラバラ。


 自由気ままに討伐へ向かうザイン。


 そんなザインに対抗するように、一人で討伐へ向かうイリス。


 そして薬草を採り、猫を探し、いつの間にか街の人たちに愛され始めているノア。


 三人とも、それぞれらしい冒険者生活になりました。


 そんな三人に、ギルド長から初めての指名任務。


 突如として連絡が途絶えた近隣の村。


 ようやく三人揃っての任務ですが、果たして村では何が起きているのか。


 次回から、新たな任務の始まりです!


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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