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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
イリス奪還編
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受け継がれた血

魔人の天敵――アルヴァ。


古い記録から、自らが国を追われた理由に一つの可能性を見つけたザイン。


しかし、エルフたちはそんなザイン自身に違和感を抱く。


記録に残るアルヴァと、今ここにいるザイン。


その身体には、まだ説明のつかない何かがあった。

古い獣皮に描かれた、魔人とアルヴァ。


ザインはしばらく、その絵を見つめていた。


自分が国を追われた理由。


半年間、答えの出なかった疑問に、ようやく一つの可能性が見えた。


魔人にとって、アルヴァは天敵だった。


だからフィルは、自分を国から排除した。


まだ推測にすぎない。


それでも、これまでの出来事を繋ぐには十分な理由だった。


「……他には?」


顔を上げる。


記録を管理するエルフが、わずかに眉を動かした。


「まだ調べるのか?」


「せっかく来たんだしな」


「ザイン」


イリスが呆れたように名前を呼ぶ。


「何だよ」


「さっきまであんな顔してたのに、もう切り替えたの?」


「考えても答え出ねぇし」


古い獣皮を指先で軽く叩く。


「本人に聞くのが一番早いだろ」


「……フィルに?」


「ああ」


「聞いて素直に答えると思う?」


「答えなかったら、答えるまでやればいい」


「何を?」


「色々」


「絶対ろくなことじゃないでしょ」


ノアが小さく笑った。


そのやり取りを聞いていたエリオンも、わずかに表情を緩める。


だが、記録を管理するエルフだけは違った。


先ほどから、何度もザインを見ている。


「……何?」


「一つ聞きたい」


「どうぞ」


「お前は本当にアルヴァなのか?」


一瞬、空気が止まった。


「……どういう意味?」


イリスが先に反応する。


「さっきまでアルヴァだって前提で話してたじゃない」


「ああ。血を引いていること自体を疑っているわけではない」


机に置かれた木板へ手が伸びる。


「記録に残るアルヴァの性質と、エリオンから聞いたお前の話には一致する部分が多い」


指先が古い文字をなぞる。


「魔素を直接肉体へ取り込むこと」


別の記録へ移る。


「通常の人間を遥かに超える肉体」


さらに一枚。


「そして、魔法そのものを崩す性質」


ザインは黙って聞いていた。


「ここまではいい」


「じゃあ何が変なんだ?」


「それ以外だ」


顔を上げたエルフが、ザインの周囲へ視線を巡らせる。


「先ほどから、お前の周囲の魔素の動きが妙だ」


「魔素?」


自分の周囲を見回す。


当然、ザインの目には何も見えない。


イリスは目を凝らした。


「……確かに、少し集まってる」


「吸収してるんじゃない?」


ノアが聞く。


「ザインは普段から周囲の魔素を身体に取り込んでる」


「それなら記録通りだ」


エルフは首を振った。


「だが、それだけではない」


エリオンもザインを見る。


「私が感じていた違和感も、それかもしれない」


「昨日言ってたやつ?」


「ああ」


以前より、お前を近く感じる。


エリオンがそう言っていたことを思い出す。


「記録に残るアルヴァは、周囲の魔素を強引なほどに取り込んでいたらしい」


記録を管理するエルフが続ける。


「周囲から奪い、自らの肉体へ流し込む。少なくとも、そう読み取れる」


「俺も同じじゃないの?」


「違う」


即答だった。


眉が上がる。


「何が?」


エルフは近くに置かれていた小さな透明の器を手に取った。


中には淡く光る粒子が漂っている。


「手を出せ」


「これ?」


「ああ」


言われるまま右手を差し出す。


透明な器が、その掌の下へ置かれた。


短い詠唱。


器の中で光が揺れる。


次の瞬間。


ふわりと粒子が浮かび上がった。


「お」


器の縁を越えた光が、ザインの手へ近づいていく。


一粒。


二粒。


やがて光のほとんどが掌の周囲へ集まり、そのまま皮膚へ溶け込むように消えた。


「吸った」


「見れば分かるわよ」


イリスが返す。


だが、エルフたちは黙っていた。


エリオンまで、ザインの手を見つめている。


「……何?」


答えはない。


もう一度、器の中へ魔素が満たされる。


再びザインが手を差し出す。


同じだった。


光は散らない。


押し退けられることもない。


水が低い場所へ流れるように、自然とザインへ集まっていく。


「やはり……」


小さな呟き。


「だから何が?」


「もう少し詳しく調べたい」


「俺を?」


「ああ」


ザインは自分を指差した。


「魔人調べに来たんだけど」


「その魔人と戦うつもりなのだろう?」


「まあ」


「なら、お前自身について知っておくことも無駄ではない」


横からイリスが言った。


「調べてもらえば?」


「他人事だと思って」


「あなた、自分の身体のこと自分でも分かってないじゃない」


「……まあ、それはそう」


「僕も賛成だよ」


ノアも頷く。


「二対一かよ」


「エリオンも入れたら三対一だ」


「まだ何も言ってないだろ」


エリオンを見る。


「調べてもらえ」


「ほら」


「四対一になった」


「数え方おかしくない?」


小さく息を吐く。


「分かったよ」


◆


案内されたのは、記録庫から少し離れた大樹の内部だった。


先ほどまでの場所とは違い、棚や書物はほとんどない。


代わりに、透明な鉱石や植物、水を満たした器が並んでいる。


中央には大きな円形の台。


床には、そこへ向かって何本もの根が伸びていた。


「ここで何すんの?」


台を覗き込む。


「身体と魔素の関係を見る」


別のエルフが数人呼ばれていた。


記録を管理していたエルフと短く言葉を交わしながら、周囲の器具を準備している。


「服脱ぐ?」


「必要ない」


「よかった」


「何でちょっと残念そうなの?」


「いや、こういう検査って脱ぐもんかと」


「どんな検査を想像してるのよ」


促され、台の中央へ立つ。


「動くな」


「はいはい」


床へ触れたエルフの手から、淡い光が広がった。


根を伝い、円形の台を囲むようにいくつもの光が灯る。


空気が変わった。


周囲の魔素が、目に見えるほど濃くなる。


青白い粒子がザインの周りを漂い始めた。


「綺麗……」


イリスが小さく呟く。


ノアも黙って観察している。


やがて。


漂っていた光が動いた。


ザインへ向かって。


ゆっくりと。


だが確実に。


腕。


肩。


胸。


背中。


全身へ吸い寄せられ、そのまま身体の中へ消えていく。


エルフたちの表情が変わった。


「魔力は?」


記録管理者が聞く。


別のエルフが確認する。


「……ない」


「本当に?」


「ああ。全くない」


「それは元々よ」


イリスが答える。


「ザインには魔力がない」


ノアも続けた。


「魔法も使えません」


記録管理者がザインを見る。


「これほど魔素を取り込んでおきながら?」


「使えないもんは使えない」


肩をすくめる。


「昔から一回も」


「魔素を魔力へ変換していない……」


「そのまま身体へ流してるみたい」


イリスが補足する。


エルフたちは何かを話し始めた。


聞き慣れない言葉がいくつも飛び交う。


しばらく聞いていたが、途中で諦めた。


「つまり?」


「まだ分からない」


「分かんないのかよ」


「だから調べている」


「なるほど」


「納得するの早いね」


ノアが苦笑する。


検査はさらに続いた。


腕に薄い光を当てられ。


掌へ別の鉱石を置かれ。


指先から僅かに血を採られる。


その間も、周囲の魔素は絶えずザインへ集まり続けていた。


やがて。


一人のエルフの手が止まる。


「……待て」


全員の視線が集まった。


手には、ザインの血を落とした透明な板。


その表面に、淡い光が浮かんでいる。


「どうした?」


「この反応……」


言葉が途切れる。


記録管理者が板を受け取った。


見る。


黙る。


別の角度から光へ透かす。


「何だよ」


返事はない。


エリオンも近づいた。


「何が分かった?」


「まだ断定できない」


別の器具を手に取り、ザインの腕へ近づける。


光が灯る。


また、沈黙。


「……アルヴァだけではない」


「どういう意味?」


イリスが一歩近づいた。


「この身体には、アルヴァの特徴とは別のものがある」


「別のもの?」


ノアも身を乗り出す。


「人間の特徴ですか?」


「いや」


首を振る。


「人間とも違う」


沈黙。


エリオンが透明な板を受け取った。


しばらく見つめる。


その表情が、僅かに変わった。


「これは……」


「お前もそう思うか」


「ああ」


二人の視線がザインへ向く。


「だから何なんだよ」


少しの間。


記録管理者が口を開いた。


「エルフに見られるものと近い」


「…………」


「は?」


「まだ断定はできない」


すぐに言葉が続く。


「だが、この反応は我々の身体に見られるものと非常によく似ている」


自分の腕を見る。


次に耳を触った。


「尖ってないけど」


「耳だけで判断するな」


エリオンが言う。


「じゃあ……」


もう一度、自分の腕を見る。


「俺、エルフ入ってんの?」


「言い方」


ノアがすぐに返した。


「だってそういうことだろ?」


「まあ……そうだけど」


イリスは笑わなかった。


ザインを見たまま、何かを考えている。


やがて。


「……お母さん?」


その一言で、ザインの手が止まった。


母親。


ほとんど何も知らない。


顔も。


声も。


どんな人だったのかさえ。


父親から詳しく聞いた記憶もなかった。


「父親の方がアルヴァなら……」


少しだけ間を置く。


「母親がエルフだったってこと?」


「いや」


記録管理者が否定した。


「そこまでは分からない」


顔を上げる。


「違うの?」


「お前の中にエルフ由来と思われる特徴がある。それだけで、母親がエルフだったとは断定できない」


ノアが聞く。


「もっと前の世代という可能性もある?」


「ああ」


記録管理者は透明な板を見つめた。


「むしろ、その可能性の方が高い」


「何で?」


「純粋なエルフや、近い世代で他種族と交わった者に見られる反応とは少し違う」


「薄いってこと?」


「単純にそうとも言えない」


「難しいな」


「だから説明している」


「簡単に頼む」


横でイリスが小さく笑った。


だが。


エリオンの表情が変わった。


何かを思い出したように、記録管理者を見る。


「……待て」


「どうした?」


「アルヴァの記録だ」


一瞬。


記録管理者も黙る。


そして、同じものへ辿り着いたように目を上げた。


「……なるほど」


「何の話?」


イリスが聞く。


エリオンはザインを見た。


「以前、長老から聞いただろう」


ザインも気づく。


「……セラ?」


「ああ」


その名前を聞いて、ノアとイリスが二人を見る。


「誰?」


「ギーファの奥さんだ」


ザインが答えた。


「前にここへ来た時、長老から聞いた」


六百年前。


アルヴァの村が滅びる直前。


ギーファの子を身籠っていたセラは、村を離れた。


そして辿り着いたのが、このエルフの里だった。


腹の中にいた子供も、ここで無事に生まれた。


そこまでは、すでに知っている。


「記録が残っているはずだ」


エリオンの言葉に、記録管理者が頷いた。


「調べよう」


◆


再び記録庫へ戻る。


先ほどとは別の棚から、古い木板が何枚も運び出された。


机の上へ並べられていく。


「これだ」


記録管理者の指が、古い文字の一箇所で止まった。


「六百年前。セラというアルヴァの女性が、この国へ辿り着いている」


「そこは知ってる」


ザインが木板を見る。


「子供を身籠ったまま逃げてきたんだろ」


「ああ」


「その子もここで生まれた」


「その通りだ」


「前に長老から聞いた」


「なら、重要なのはその先だ」


「その先?」


別の木板が引き寄せられる。


「ここで生まれた子供は、その後もこの国で暮らした」


ノアとイリスが机へ近づく。


「そして、その血筋は途絶えていない」


ザインの表情が変わった。


「……残ってたのか?」


「ああ」


さらに古い記録が並べられる。


年代も形式も違う。


文字が掠れて読めないものもある。


「六百年だ。全ての系譜が完全に残っているわけではない」


指先が、一つの記述で止まる。


「だが、その子孫が後の世代でエルフとの間に子を残した記録がある」


「エルフと?」


今度はザインも身を乗り出した。


「ああ」


記録管理者が頷く。


「セラから続くアルヴァの血統に、途中からエルフの血が加わっている」


ノアがゆっくりザインを見る。


「……それがザインまで続いてるなら」


「ザインの中にエルフの特徴があることも説明できるわね」


イリスが続けた。


机の上に並ぶ木板を見つめる。


六百年前。


以前ここを訪れた時に聞いた、セラとその子供の話。


あの時は、滅びの中から逃げ延びた血があったのだと知っただけだった。


だが。


話には続きがあった。


ここで生まれた子供は成長し。


その子孫もまた、この国で生きた。


やがてエルフと交わり。


それでも血は途絶えず、六百年という時間を繋いできた。


そして今。


その先に、自分がいるのかもしれない。


「でも」


イリスが口を開く。


「これだけで、ザインまで繋がってるって分かるの?」


「断定はできない」


記録管理者はすぐに答えた。


「失われている系譜も多い。ここから現在まで、全てを一本の線で繋ぐことはできない」


「なら――」


「だが」


言葉を遮る。


「アルヴァとエルフ。双方の特徴を持つ者が、今ここにいる」


視線がザインへ向く。


「そして、お前はギーファの血を引いている」


少しの沈黙。


「無関係と考える方が難しい」


自分の手を見る。


アルヴァ。


エルフ。


今まで自分とは別のものとして考えていた二つの種族。


その両方が、自分の中にあるのかもしれない。


「……なるほどな」


小さく呟く。


だが、すぐに別の疑問が浮かんだ。


「でもさ」


顔を上げる。


「だったら、何で今まで何もなかったんだ?」


「何も?」


「昨日、エリオン言ってただろ」


エリオンを見る。


「前に来た時は、俺からこんな感じしなかったって」


「ああ」


「俺だってそうだ。前にここへ来た時は、今みたいにこの国が妙に心地いいなんて思わなかった」


イリスも頷く。


「確かに変ね」


ノアが続ける。


「血が元々あったなら、前から同じ反応があってもいいはずだ」


「そう。それ」


ザインがノアを指差した。


記録管理者はすぐには答えなかった。


机の上の記録へ目を落とす。


やがて、ゆっくり口を開いた。


「血は、最近生まれたものではない」


「そりゃそうだろ」


「お前がこの血統を受け継いでいるのなら、生まれた時から持っていたはずだ」


「じゃあ何で?」


「表に出ていなかった」


眉を寄せる。


「エルフの性質が?」


「ああ」


「長い間、お前の身体ではアルヴァとしての特徴が強く現れていたのだろう」


ノアが聞く。


「それが最近になって変わった?」


「その可能性が高い」


「原因は?」


イリスの問い。


記録管理者はザインを見る。


「魔素だ」


「魔素?」


「お前は長年、周囲の魔素を肉体へ取り込み続けてきた」


「ああ」


「それだけではないだろう」


視線がザインの身体へ向く。


「肉体の限界を越えるほどの魔素を、一度に取り込んだことは?」


少し考える。


ある。


一度ではない。


戦場で。


死にかけながら。


身体を動かすために。


限界を越えるために。


そして――


レオンハルトとの戦い。


自分でも説明できない、あの状態。


「……あるな」


「やっぱり」


イリスが呟く。


「一回どころじゃないでしょ」


「まあ」


「まあ、じゃないわよ」


「そうした経験がきっかけになった可能性がある」


記録管理者が続ける。


ノアが尋ねた。


「長い間表に出ていなかったエルフの特徴が、魔素を取り込み続けたことで強く現れ始めた?」


「ああ」


「特に、極端な変化を何度も経験したのならな」


エリオンが小さく息を吐いた。


「だからか」


ザインを見る。


「以前は感じなかった」


「ああ」


「だが、今は違う」


門にいたエルフもそうだった。


初対面のザインに、説明できない親近感を覚えていた。


そしてザイン自身も。


この国へ入ってから、身体が妙に軽い。


空気が馴染む。


魔素の濃いこの場所が、不思議なほど心地いい。


「……全部、それか」


「おそらくな」


しばらく自分の掌を見る。


「アルヴァで」


指を一本立てる。


「エルフも入ってて」


もう一本。


「でも魔力はゼロ」


「そこは変わらない」


記録管理者が即答した。


「何でだよ」


「私に聞くな」


ノアが吹き出した。


イリスも笑う。


「やっぱりザインね」


「どういう意味だよ」


少しだけ、空気が緩んだ。


だが。


記録管理者は笑っていなかった。


ザインを見ている。


正確には、その身体へ絶えず流れ込んでいる魔素を。


「……もう一つ聞きたい」


「ん?」


「先ほど、限界を越えるほどの魔素を取り込んだことがあると言ったな」


「ああ」


「その中で、自分の身体に明らかな異常を感じたことは?」


問いかけに、ザインの表情が変わった。


すぐには答えない。


思い出したのは、レオンハルトとの戦いだった。


あの時。


普段のフル出力とは、明らかに違った。


「……一回だけある」


イリスとノアがザインを見る。


二人とも、初めて聞く話だった。


「一回?」


イリスが聞く。


「ああ」


「いつ?」


「レオンハルトと戦った時」


「そんなこと、聞いてないけど」


「言ってなかったからな」


「なんで?」


「俺もよく分かってねぇんだよ」


自分の手を見る。


戦っていたことは覚えている。


レオンハルトを倒さなければならない。


それだけを考えていた。


だが、自分自身が外からどう見えていたのかまでは分からない。


「途中から、身体の感じが変わった」


「フル出力とは違ったの?」


ノアが聞く。


「ああ」


「どう違った?」


「それが説明できねぇ」


しばらく言葉を探す。


「力を出してる感じがなくなったっていうか……」


掌を握る。


「身体の限界そのものが、なくなったみたいな感じだった」


イリスの表情から笑みが消えた。


「それ、かなり危なくない?」


「今生きてるから大丈夫だろ」


「そういう問題じゃないでしょ」


記録管理者が問いを重ねる。


「その時のことは全て覚えているのか?」


「戦ってたことはな」


「自分の身体がどうなっていたかは?」


「分かんねぇ」


首を振る。


「自分で自分を見ることなんてできねぇし」


当然だった。


あの戦場で、ザインが知っていたのは自分の感覚だけ。


身体の外側で何が起きていたのか。


周囲の魔素がどう動いていたのか。


自分がどんな姿になっていたのか。


それを、自分自身が知る術はなかった。


記録管理者は少し考える。


「その状態を外から見ていた者は?」


「いる」


短く答える。


レオンハルトとの戦場には、自分以外にも人間がいた。


ならば、自分がどうなっていたのかを知っている者もいる。


「その者たちの証言があれば、もう少し詳しく調べられる」


「証言?」


「ああ」


「お前自身の感覚だけでは判断できない」


机に並ぶ古い記録へ視線を落とす。


「アルヴァについては分かった」


次に、ザインを見る。


「エルフの血を引いている可能性も極めて高い」


一拍。


「だが、お前がその戦いで経験したという現象が、その二つとどう関係しているのかはまだ分からない」


ザインは黙ったまま、自分の手を見る。


アルヴァ。


エルフ。


そして。


そのどちらだけでも、まだ説明のつかない自分自身。


どうやら――


知らないことは、まだ残っているらしい。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


今回は、ザインの中に流れるもう一つの血について明らかになる回でした。


六百年前、ギーファの子を身籠ったままエルフの里へ逃れたセラ。


そこで生まれた子供の血は途絶えることなく受け継がれ、後の世代ではエルフとも交わっていました。


そして六百年後。


その二つの特徴を持つザインが、再びエルフの国を訪れています。


以前の訪問では感じられなかった変化が、なぜ今になって現れ始めたのか。


そして、アルヴァとエルフ。


その二つだけでは説明できない、ザインがレオンハルト戦で見せた異常な状態。


次回は、その正体へさらに踏み込んでいきます。


次話もよろしくお願いします!

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