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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
イリス奪還編
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75/102

団長

ミレイア、そしてガレスとの再会を果たしたザイン。


散り散りになった仲間は、あと三人。


半年間、それぞれの場所で生きてきた仲間たちを求めて――ザインたちは再び旅を続ける。

魔獣車の扉を開けたガレスが、中へ一歩入った。


そして止まった。


「…………」


中央には大きなテーブルと、それを囲むソファ。


壁際には収納棚が並び、奥には調理場まである。さらにその先には、寝室へと続く扉がいくつも並んでいた。


ガレスは無言で外へ出た。


車体を見る。


横へ回る。


そして、もう一度中へ入ってくる。


「……おかしいだろ」


ザインが勢いよく立ち上がった。


「だよな!?」


「なんで副団長が嬉しそうなんだよ」


「俺も昨日まったく同じことしたんだよ!」


「二人とも反応が一緒なんですよ」


荷物を整理していたミレイアが呆れたように言う。


ガレスは改めて車内を見回した。


「どうなってんだ、これ」


「空間拡張の魔法です。外より中の方が広くなってるんですよ」


「便利なもんだな」


ガレスは奥のソファへ腰を下ろした。


ザインも向かいへ座る。


ノアはその横で地図を広げていた。


「次はダリオさんとジグさんですね」


「居場所は?」


ザインが尋ねる。


「二人とも、この先の都市を拠点にしていたみたいです。冒険者ギルドに登録して、依頼を受けながら各地を回っていたとか」


「二人一緒なのか?」


「少なくとも少し前までは」


ガレスが笑う。


「相変わらずだな、あいつら」


ザインが窓の外を見る。


魔獣車は街道を進んでいる。


その遥か上空には、ランフォスの姿があった。


昨日まで、ノアと二人だった。


今はミレイアがいる。


ガレスもいる。


そして、これからさらに仲間が増える。


ザインはソファへ深く身体を沈めた。


「もうすぐだな」


誰に聞かせるでもなく呟いた。


◆


昼を過ぎた頃。


魔獣車は目的の都市へ到着した。


ザインたちは街の外に魔獣車を預け、そのまま冒険者ギルドへ向かう。


扉を開けると、酒と料理の匂い、それに冒険者たちの騒がしい声が押し寄せた。


掲示板には大量の依頼書。


受付には列ができている。


依頼帰りらしい冒険者たちが、昼間から酒を飲んでいた。


ザインは中を見回す。


「いるか?」


「ちょっと待ってください」


ノアも周囲を見る。


そのとき。


奥の受付から、一人の男が歩いてきた。


大きな剣を背負っている。


頑丈な鎧。


その一部には新しい傷がいくつも刻まれていた。


男は受付で報酬らしき袋を受け取ると、中身を確認する。


ザインが笑った。


「いた」


こちらへ歩いてきた男が顔を上げる。


そして、止まった。


「…………」


目がザインを捉える。


数秒。


「……副団長?」


ザインが片手を上げた。


「よっ。久しぶり、ダリオ」


ダリオは動かなかった。


ザインの顔をじっと見ている。


やがて。


「……生きてたか」


「おう」


「ならいい」


ダリオが歩いてくる。


ザインも近づいた。


その肩へ。


バンッ!!


大きな手が叩きつけられた。


「いってぇ!」


「半年分だ」


「昨日も似たようなことされたんだけど!」


後ろでガレスが笑う。


「自業自得だろ!」


ダリオがその声に反応した。


「……ガレス」


「よう」


「お前もいたのか」


「昨日拾われた」


ザインが振り返る。


「俺が拾ったみたいに言うなよ」


「実際そんなもんだろ」


「違うだろ!」


ダリオの表情が僅かに緩む。


その視線がミレイアへ移る。


「ミレイアも」


「久しぶり、ダリオ」


最後にノア。


ノアが軽く頭を下げた。


「お久しぶりです、ダリオさん」


「ノアも無事だったか」


「はい」


ザインがギルドの中を見回した。


「ジグは?」


ダリオの表情が少し変わる。


「今はいない」


「どこ行った?」


「知らん」


「知らん?」


「三日前から戻ってきてない」


ミレイアが心配そうに尋ねる。


「大丈夫なの?」


「多分な」


ダリオは近くのテーブルへ荷物を置いた。


「半年間、俺とジグは冒険者として各地を回ってた。表向きは依頼をこなしながら、ギルドや商人、旅人から情報を集めてたんだ」


「何か分かった?」


ザインが聞く。


「細かい話はいくつかある。だが三日前、ジグが妙な男を見つけた」


ノアが反応する。


「妙な男?」


「何度も国境を越えてる商人だ。扱ってる荷物の量に対して、護衛が妙に少ない。行き先も毎回違う」


「それだけなら珍しくないんじゃないか?」


ザインが言う。


「ああ。だから俺も最初は気にしてなかった」


ダリオは続けた。


「だがジグは何か引っかかったらしい。調べてくると言って、それっきりだ」


ガレスが腕を組む。


「あいつらしいな」


ザインは少し考える。


「探すか」


ダリオが頷いた。


「そのつもりだ」


◆


手掛かりは少なかった。


だが、ジグは何も残さず消えたわけではない。


ダリオにしか分からない簡単な目印を、街のいくつかの場所へ残していた。


それを辿っていく。


表通りから裏通りへ。


さらに人通りの少ない区画へ。


やがてザインたちは、使われなくなった倉庫が並ぶ一角へ辿り着いた。


ダリオが一つの建物を指す。


「あそこだ」


ザインが腰の剣へ手を添える。


「何人いる?」


「分からん」


ガレスが拳を鳴らす。


「まあ、入れば分かるだろ」


ノアがガレスを見る。


「ガレスさん、もう少し慎重に行きません?」


「敵がいたら倒せばいい」


「昨日ザインと殴り合ってた人に言うだけ無駄でした」


「なんだと?」


ミレイアが笑いを堪えている。


ザインは倉庫の扉へ手を掛けた。


「行くぞ」


扉を開ける。


全員が構えた。


「…………」


ザインの手が剣から離れる。


床に何人もの男が倒れていた。


机はひっくり返り、木箱が砕けている。


だが戦闘は終わっていた。


「なんだこれ」


ガレスが呟く。


「遅い」


声がした。


全員が振り向く。


倉庫の奥。


積み上げられた木箱の影から、一人の男が出てくる。


ジグだった。


ザインが笑う。


「ジグ!」


「久しぶりだ、副団長」


相変わらず表情はほとんど変わらない。


ザインが歩み寄る。


「無事だったか」


「ああ」


「俺たちが来るって知ってた?」


「知ってた」


「いつから?」


「街に入った時から」


ガレスが大声を上げる。


「だったら顔出せよ!」


「忙しかった」


「三日も何やってたんだ!」


ジグは床に倒れている男たちを見る。


「これを調べてた」


ガレスも倒れた男を見る。


「……終わってんじゃねぇか」


「ああ」


「俺ら来た意味ある?」


「ない」


「お前なぁ!」


ザインが笑う。


ジグはそんなザインをしばらく見ていた。


「……副団長」


「ん?」


「無事でよかった」


ザインが少しだけ驚く。


だが、すぐに笑った。


「お前もな」


ジグはそれ以上何も言わなかった。


◆


倒れていた男たちは、商人ではなかった。


少なくとも、ただの商人ではない。


ジグが机の上へ数枚の紙を並べる。


「こいつらは複数の国へ物資を運んでる」


ノアが紙を手に取る。


「武器……食料……魔導具」


「兵站物資だ」


ダリオが言う。


「それも量が多いですね」


ノアは別の紙を見る。


「行き先が一つじゃない」


ミレイアが覗き込む。


「この国……聞いたことある」


「何か知ってる?」


ノアが尋ねる。


「少し前に国境へ兵を増やしたって噂があったところ」


ザインが腕を組んだ。


ミレイアが集めた情報。


各国で起こり始めている、不可解な変化。


そして今。


そのうちの一国へ、正体不明の者たちが大量の軍需物資を運び込んでいる。


ザインが口を開く。


「やっぱり、何かあるな」


ノアは紙を見つめたまま頷く。


「偶然で片づけるには、少し多すぎますね」


「教団か?」


「まだ分かりません」


ノアは即答した。


「今は決めつけない方がいいです」


ザインは頷く。


ジグが別の紙を一枚取り出した。


「あと」


「まだあるの?」


「リナの居場所が分かった」


全員がジグを見る。


ザインが聞き返す。


「……知ってんの?」


「ああ」


「いつから?」


「二週間くらい前」


「先に言えよ!」


「聞かれなかった」


ガレスが頭を抱える。


「相変わらずだなお前!」


「何がだ?」


「そういうところだよ!」


ジグは本気で分かっていないようだった。


◆


夕方。


街の中心部から少し離れた場所に、その店はあった。


二階建ての大きな酒場。


まだ日が沈みきっていないにもかかわらず、中からは多くの客の声が聞こえてくる。


ザインが扉の前に立つ。


「ここ?」


ジグが頷く。


「ああ」


「本当にリナいるの?」


「ああ」


ザインは扉を開けた。


カラン、とベルが鳴る。


「いらっしゃいませー! 空いてる席へどうぞー!」


店の奥から女性の声。


ザインが笑う。


「いるな」


一人のウェイターが、料理を載せた皿を両手に持って歩いている。


リナだった。


ザインたちは入口で立ち止まる。


リナはまだ気づいていない。


テーブルへ料理を運び終え、振り返った。


「ご注文が決まりましたら――」


止まった。


「…………」


ザイン。


ノア。


ミレイア。


ガレス。


ダリオ。


ジグ。


全員いる。


リナの目が大きく開く。


ザインが片手を上げた。


「よっ」


「…………え?」


ミレイアが笑う。


「久しぶり、リナ」


「え?」


リナは全員の顔を順番に見る。


そしてもう一度ザインへ戻る。


「えぇ!? みんな!? なんで!? え!? 副団長!?」


「そこから?」


「だって! え!? 生きてたんですか!?」


「今日じゃないけど、最近よく言われるな、それ」


リナが持っていた盆を落としそうになる。


「ちょ、ちょっと待ってください! なんで全員いるんですか!? いつ集まったんですか!? というか副団長、半年間どこに――」


店の奥から怒鳴り声が飛んだ。


「リナ! 注文!」


「今それどころじゃないです!」


「こっちはそれどころなんだよ!」


一瞬。


ザインたちは黙った。


そしてガレスが吹き出した。


「ハハハハハ!」


「笑わないでください!」


「とりあえず座ろうぜ」


ザインが空いている大きなテーブルを指す。


「俺、腹減った」


「副団長!」


「客だからいいだろ」


「そういう問題じゃありません!」


ザインたちは笑いながら席へ向かった。


◆


「なんで私だけ働いてるんですか……」


しばらくして、リナが料理をテーブルへ置いた。


ガレスが肉を頬張りながら答える。


「仕事中だからだろ」


「分かってますよ!」


ザインが手を上げる。


「リナ、酒」


「副団長は水です」


「なんで?」


「半年間一人で無茶してた罰です」


ザインがミレイアを見る。


「お前、何か言った?」


「何も?」


「じゃあなんで知ってんだよ」


「さっき聞きました」


「誰に?」


リナがノアを見る。


ノアは料理を食べながら答えた。


「事実を伝えただけですよ」


「ノア、お前最近本当に俺への扱い雑じゃない?」


「気のせいです」


「絶対違うだろ」


テーブルに笑い声が広がった。


リナはまだ仕事中だった。


注文が入れば席を離れ、料理を運び、また戻ってくる。


そのたびに質問が飛んでくる。


誰を最初に見つけたのか。


ガレスはなぜ顔が腫れているのか。


ミレイアはなぜモデルになっているのか。


ジグは相変わらず何を考えているのか分からない。


半年分の話が、一度に飛び交っていた。


やがて客足が少し落ち着く。


リナが店主に声を掛け、短い休憩をもらった。


そしてようやく、仲間たちと同じテーブルへ座った。


「それで」


リナがザインを見る。


「何があったんですか?」


ザインの表情から笑みが少し消えた。


「イリスが見つかった」


リナが息を呑む。


「生きてるんですか?」


「ああ」


「よかった……」


「でも捕まってる」


リナの表情が引き締まる。


ザインはこれまでと同じ説明をした。


イリスが囚われていること。


救出するために仲間を集めていること。


そして、王国そのものにも何か異常が起きている可能性があること。


リナは最後まで黙って聞いた。


「だから」


ザインが言う。


「お前にも来てほしい」


「行きます」


答えは早かった。


ザインが笑う。


「やっぱみんな即答だな」


「断ると思ったんですか?」


「いや」


ザインはテーブルを見渡した。


ガレス。


ダリオ。


ジグ。


ミレイア。


リナ。


あの日。


戦場を離れてから、散り散りになった五人。


半年間、それぞれ違う場所で生きていた。


それが今。


全員、目の前にいる。


ザインは少しだけ笑った。


「……揃ったな」


誰もすぐには答えなかった。


その言葉が意味するものを、全員が分かっていた。


ただ一人。


ここにはいない男がいる。


アーヴェル・グランツ。


かつて彼らを率いていた団長。


ザインは一瞬だけ空席へ目を向けた。


そして、いつもの調子に戻る。


「よし。じゃあ明日から――」


「その前によ、副団長」


ガレスが遮った。


「ん?」


「そろそろ、その呼び方やめねぇか」


ザインが首を傾げる。


「何の話だ?」


ガレスは持っていた杯をテーブルへ置いた。


「アーヴェル団長は、もういねぇ」


空気が変わった。


さっきまでの賑やかさが消える。


ザインは何も言わない。


「俺たちは半年間、バラバラだった」


ガレスが続ける。


「それでも今、ここに集まった」


ザインを見る。


「誰に呼ばれて集まった?」


「…………」


「誰について、もう一度戦おうとしてる?」


ザインの表情から笑みが消えた。


「ガレス」


「俺はもう決めてる」


ダリオが口を開く。


「俺もだ」


ザインがダリオを見る。


ジグも頷いた。


「異論はない」


ミレイアもザインを見ていた。


リナも同じだった。


全員がザインを見ている。


ガレスが笑った。


「俺たちの団長は、お前だろ」


ザインはしばらく何も言わなかった。


自分より年上の五人。


アーヴェルの下で共に戦った仲間たち。


彼らが今、自分を見ている。


ザインは頭を掻いた。


「……勝手に決めんなよ」


ガレスが笑う。


「もう決めた」


「俺の意見は?」


「聞いてねぇ」


「ひでえな」


少しだけ笑いが戻った。


その中で。


ミレイアが小さく口を開く。


「……団長」


ザインの動きが止まった。


「…………」


ミレイア自身も少し照れくさそうだった。


「なんか変ですね」


「だろ?」


リナも笑う。


「私も慣れません」


「じゃあ副団長でいいじゃん」


「それはダメです」


「なんでだよ」


ガレスが豪快に笑った。


ザインは困ったように五人を見る。


けれど。


嫌ではなかった。


ノアはそのやり取りを黙って見ていた。


これは自分が口を挟むことではない。


アーヴェルと共に戦った彼らが、自分たちで決めたことだ。


ザインが椅子の背へ身体を預ける。


「……好きにしろ」


ガレスが笑う。


「おう、団長」


ダリオも。


ジグも。


ミレイアも。


リナも。


もう誰も、副団長とは呼ばなかった。


散り散りになっていた五人が戻った。


そして。


アーヴェル・グランツが遺したものを引き継ぐように。


彼らはもう一度、一人の男の下へ集った。


半年ぶりに。


ザインの部隊が、戻ってきた。

第75話をお読みいただき、ありがとうございます!


ダリオ、ジグ、そしてリナとの再会。

これで、散り散りになっていた五人が再び揃いました。


そして「副団長」から「団長」へ。


アーヴェルがいなくなった今、誰について戦うのか。

それを決めたのはザインではなく、共に戦ってきた仲間たちでした。


ここまでで仲間再集結編は一区切り。


次回から、ザインたちはイリス奪還へ向けて動き始めます。

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