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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
イリス奪還編
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74/102

散り散りの仲間たち

イリスを救うため、散り散りになった仲間たちを探すことになったザインとノア。


最初に向かった街で二人が見つけたのは――かつてとは随分と雰囲気の変わった、懐かしい仲間の姿だった。

ランフォスがゆっくりと高度を落としていく。


眼下に広がるのは、白い石造りの建物が立ち並ぶ大都市だった。


大通りには色鮮やかな布で飾られた店が軒を連ね、行き交う人々の服装も華やかだ。上空から眺めるだけでも、これまで立ち寄ってきた街とは明らかに雰囲気が違う。


「ここか?」


ザインが眼下を覗き込む。


「はい。僕が最後に聞いた話では、ミレイアさんはこの街にいる可能性が高いです」


後ろに乗ったノアが答える。


「可能性、ねぇ」


「半年も経ってますから。今もいるとは限りませんけど」


「まあ、行けば分かるか」


街から少し離れた場所へランフォスを降ろす。


二人が地面へ降りると、ザインは巨大な翼竜を見上げた。


「しばらく適当に飛んでてくれ。また呼ぶから」


ランフォスが短く鳴く。


巨大な翼が広がり、巻き起こった風が二人の髪と服を激しく揺らした。


そのままランフォスは再び空へ舞い上がっていく。


ザインは遠ざかる姿を見送ると、街へ向かって歩き始めた。


◆


「なんか……すげえ街だな」


街へ入ってしばらくして、ザインが呟いた。


「何がです?」


「キラキラしてる」


「もう少し何かあるでしょう」


大通りには仕立屋や宝飾店、香水を扱う店が並んでいる。


店先を歩く人々も、上等な生地で仕立てられた服を身につけていた。馬車から降りてくる貴族らしき男女の姿も珍しくない。


ザインは完全に場違いだった。


黒い外套に、腰には剣。


半年間、教団の残党を追い続けてきたせいか、華やかな街並みの中では余計に浮いて見える。


「で、どうやって探す?」


「まずは聞き込みですね。ミレイアさんが治癒術師として働いているなら――」


話していたノアの足が止まった。


ザインは数歩進んでから振り返る。


「どうした?」


ノアは答えない。


通りの向こうを見ていた。


ザインもそちらを見る。


大きな服飾店。


その正面に、巨大な広告が掲げられている。


華やかな衣装を纏った一人の女性。


綺麗に整えられた髪。


柔らかな笑み。


ザインはしばらく広告を見上げた。


「…………」


ノアも見上げる。


「…………」


ザインが指を差した。


「ノア」


「はい」


「あれ、ミレイアじゃね?」


「……ミレイアさんですね」


二人は並んで広告を見上げる。


「何やってんだ、あいつ」


「モデルじゃないですか?」


ザインが横を見る。


「それは見れば分かる」


「昨日、僕も同じこと言われた気がするんですけど」


「何の話だ?」


「もういいです」


◆


ミレイアの居場所は、驚くほど簡単に分かった。


服飾店の者へ尋ねれば、少し離れた広場で新作衣装のお披露目が行われているという。


広場へ向かうと、すでに多くの人が集まっていた。


中央に設けられた舞台。


その周囲には貴族や商人らしき人々。


ザインは人混みの向こうに見覚えのある姿を見つけた。


「いた」


舞台の中央にミレイアがいた。


戦場で見慣れていた姿とはまるで違う。


身体に合わせて仕立てられた華やかな衣装。髪には小さな装飾品が添えられ、薄く化粧も施されている。


ザインは腕を組む。


「……すげえことになってんな」


「似合ってますね」


「だな」


やがてお披露目が終わった。


ミレイアが関係者と言葉を交わしながら舞台を降りてくる。


その途中。


ふと、こちらを見た。


ザインと目が合う。


ミレイアの足が止まった。


周囲の声が聞こえなくなったかのように、その場で固まっている。


ザインは笑って片手を上げた。


「よっ」


ミレイアの目が大きく開いた。


「……副団長?」


ザインがもう一度手を振る。


次の瞬間。


「副団長ォォォォォ!!」


「うおっ!?」


ミレイアが走った。


衣装の裾を持ち上げ、周囲の人間を驚かせながら一直線にザインへ向かってくる。


そして、そのまま胸へ飛び込んだ。


「副団長! 副団長ぉぉ……!」


「ちょ、待て! ミレイア!」


ザインの服を掴んだまま、ミレイアは完全に泣いていた。


「生きてたんですねぇぇ!」


「見りゃ分かるだろ!」


「どこにいたんですか! 半年ですよ!? 何の連絡もないし、どこを探しても見つからないし!」


「悪かったって!」


「死んじゃったのかと思ったじゃないですかぁ!」


胸元を何度も叩かれる。


ザインは困ってノアを見る。


ノアは助けるどころか、少し離れた場所で笑っていた。


「ノア。見てないで何とかしてくれ」


「無理ですよ。ミレイアさんの言う通りですから」


「お前まで……」


ようやくミレイアが顔を上げる。


目元は真っ赤だった。


それでも、目の前にいるザインを確かめるようにじっと見ている。


「……本当に、生きてる」


ザインは少しだけ表情を和らげた。


「ああ」


その一言で、またミレイアの目に涙が溜まる。


「だから泣くなって」


「副団長のせいです!」


「はいはい。悪かったよ」


「絶対反省してませんよね!?」


「してるって」


「嘘です!」


半年ぶりだというのに。


ほんの数分で、以前と変わらない空気が戻っていた。


◆


しばらくして、ようやくミレイアも落ち着いた。


目元を拭ってから、今度はノアを見る。


「ノアも久しぶりね」


「はい。お久しぶりです、ミレイアさん」


「ノアが副団長を見つけたの?」


「そうです。まあ、見つけること自体はそんなに難しくなかったですけど」


「そうなの?」


「半年間、教団の拠点を潰して回ってたみたいなので」


ミレイアの顔から笑顔が消えた。


ゆっくりとザインを見る。


「……副団長?」


「なんだよ」


「半年間、何してたんですか!」


「だから教団を――」


「一人で!?」


「まあ」


「何考えてるんですか!」


ザインがノアを指差す。


「こいつにも散々言われた」


「じゃあ反省してください!」


「してるって」


「してない顔してます!」


ノアが堪えきれずに笑った。


ザインは不満そうに二人を見る。


そのあと、改めてミレイアの姿を見た。


「それにしても」


「なんですか?」


「似合ってるじゃん、それ」


ミレイアが一瞬止まる。


「…………」


「ん?」


「……ありがとうございます」


「急に静かになったな」


「なんでもありません!」


ザインは首を傾げた。


その横でノアだけが何となく察していた。


◆


仕事を終えたミレイアが普段着へ着替えて戻ってくると、三人は人目の少ない店へ移動した。


そこでザインたちは、互いの半年間について話した。


「最初からモデルになるつもりだったわけじゃないんです」


ミレイアはそう前置きした。


国を離れたあと、まず必要だったのは生活するための金だった。


治癒術師として働くことも考えた。


だが、身元を探られる可能性がある。


そんなとき、偶然服飾関係者から声を掛けられた。


最初は生活費を稼ぐためだった。


だが仕事を続けていくうちに、思いがけない利点に気づいたという。


「この仕事、結構いろんな人と会うんですよ」


「いろんな人?」


「貴族とか、大商人とか。他国から来た方も多いです」


ノアが頷く。


「なるほど。それで情報を?」


「はい。社交の場にも呼ばれるようになったので」


ミレイアはそこで、各国から訪れた者たちの会話を聞いていた。


政治。


交易。


軍。


噂話程度のものも多い。


それでも半年も続けていれば、奇妙な話がいくつも集まってくる。


「最近、国境へ兵を増やした国があるそうです」


ノアの表情が変わる。


「他には?」


「ずっと友好的だった国同士が、急に揉め始めたとか。理由も分からないまま重臣が更迭された国もあるって聞きました」


「王族同士の会談が突然中止になった、って話もあります」


ザインが腕を組んだ。


「……俺の国だけじゃないのか?」


「まだ分かりません」


ノアが答える。


「偶然かもしれない。でも、覚えておいた方がよさそうですね」


ミレイアが二人を見る。


「何かあったの?」


ザインとノアが顔を見合わせた。


ザインが口を開く。


「イリスが見つかった」


ミレイアの表情が変わった。


「……本当ですか?」


「ああ。生きてる」


その瞬間、ミレイアの肩から力が抜けた。


「よかった……」


「ただ、捕まってる」


安堵はすぐに消えた。


「場所は?」


「大体は分かってる。でも、今の俺たちだけで突っ込むのは厳しい」


ザインは続ける。


「だから、みんなを集めてる」


ミレイアは迷わなかった。


「行きます」


「即答だな」


「当たり前じゃないですか」


「仕事は?」


「しばらく休みます」


「そんな簡単に休めんの?」


ミレイアが少しだけ胸を張る。


「私、一応売れっ子なんですよ?」


ザインは感心したように頷いた。


「モデルってすげえな」


「副団長、多分何も分かってませんよね」


「稼げるってことは分かった」


「そこじゃないです!」


◆


数時間後。


ザインとノアは街の外で、巨大な生き物を見上げていた。


四本の太い脚。


穏やかな顔。


背には短い毛が生え、牛をさらに二回りほど巨大にしたような身体をしている。


その後ろには、大型の車両が繋がれていた。


「…………」


ザインが魔獣を見る。


魔獣もザインを見る。


「これがお前の?」


「はい」


「食わない?」


「何をですか?」


「俺」


「食べませんよ!」


ミレイアが呆れながら車両の扉を開けた。


「大人しい魔獣です。長距離移動用に育てられてるので」


ザインは魔獣の横を通り、車両を見る。


外から見れば、少し大きめの旅用馬車といったところだ。


造りは上等だが、それほど異常なものには見えない。


「これで移動すんの?」


「そうですよ」


ザインが扉をくぐる。


そして。


止まった。


「…………」


後ろから入ろうとしたノアがぶつかりそうになる。


「ザイン?」


ザインは答えず、一度外へ出た。


車体を見る。


横へ回る。


後ろも見る。


そして、もう一度中へ入った。


「……おかしいだろ」


「何がです?」


中は、外観からは想像できないほど広かった。


中央には大きなテーブル。


その周囲を囲むソファ。


壁際には棚や収納。


奥には簡単な調理設備まで備えられている。


さらにその先には扉がいくつか並んでいた。


天井には魔導灯。


床には柔らかな敷物。


ザインは外と中を何度も見比べる。


「絶対、外より中の方がでかい」


「空間拡張の魔法が掛かってるんです」


「そんなことできんの?」


「高級な旅用車両ならありますよ」


ザインは室内を見回した。


「……これ、いくらした?」


「聞かない方がいいですよ」


「聞きたい」


「嫌です」


「なんでだよ」


「副団長が変な顔するからです」


ザインはノアを見る。


「モデルってそんな儲かるの?」


「僕に聞かないでください」


ミレイアが荷物を置きながら言う。


「必要経費です!」


「絶対違うだろ」


「必要経費です!」


どうやら聞いてはいけないらしい。


やがて魔獣車がゆっくりと動き始めた。


車輪の振動は驚くほど小さい。


窓の外では街道の景色が流れていく。


さらに上空。


ランフォスが翼を広げ、魔獣車を追うように飛んでいた。


◆


しばらく走った頃。


「静かね」


ミレイアが呟いた。


向かいに座るノアが顔を上げる。


「そうですね」


二人が同時に奥を見る。


ザインが大きなソファに身体を沈め、眠っていた。


壁へ頭を預け、腕を組んだまま微動だにしない。


「……寝てる」


「寝てますね」


ミレイアはザインを見る。


「昔から、こんなにどこでも寝る人だった?」


「どうでしょう。でも、ここ半年はまともに休んでなかったのかもしれません」


「……そっか」


ミレイアの声が少しだけ小さくなる。


ザインの顔を見る。


寝ていると、二年前から戦場に立ち続けてきた人間には見えない。


まだ二十歳なのだ。


「一人だったんだもんね」


「はい」


「なら……今くらい寝かせてあげよっか」


ノアが頷いた。


「そうですね」


少しの沈黙。


魔獣車はゆっくり街道を進んでいく。


ミレイアが窓の外を見ながら尋ねた。


「ノアも大変だったでしょ?」


「僕ですか?」


「半年間、ずっとイリスを探してたんでしょ?」


「……まあ」


「ちゃんと寝てた?」


ノアが少し困ったように笑った。


「ザインよりは」


「それ比較対象として最低じゃない?」


ノアも笑った。


「そうかもしれません」


ほんの少しだけ。


二人の間にあった半年分の距離が縮まった。


◆


次の目的地は、巨大都市の地下に広がる街だった。


地上の華やかな街とは正反対。


薄暗い通路。


酒場。


賭場。


武器屋。


表では扱えない品を並べる商人。


その中心に巨大な地下闘技場がある。


「本当にガレスさん、こんなところにいるんですか?」


ノアが尋ねる。


「いると思うよ」


ミレイアが答えた。


モデルとして集めた情報の中に、この地下闘技場で異様に強い大男が暴れているという噂があった。


特徴を聞けば、まず間違いない。


三人が闘技場へ入った瞬間。


凄まじい歓声が押し寄せた。


円形の観客席。


その中央。


二人の男が殴り合っている。


いや。


もはや殴り合いと呼べる状態ではなかった。


巨大な男の拳を真正面から受けながら、それ以上に重い拳を叩き返している男。


「ハハハハッ! そんなんじゃ効かねぇぞ!」


その声を聞いた瞬間、ザインは笑った。


「いた」


ガレスだった。


相手の拳が頬へ入る。


それでも退かない。


逆に腕を大きく振りかぶった。


次の瞬間、拳を受けた男の身体が吹き飛ぶ。


地面へ転がり、そのまま動かなくなった。


大歓声。


ガレスが両腕を上げる。


「相変わらずですね……」


ノアが呟く。


ザインは楽しそうに笑っていた。


「相変わらず脳筋だな、あいつ」


司会役の男が叫ぶ。


「まだだ! まだこの男は戦えるぞ! 次に挑む奴はいないのかァ!!」


観客席が沸く。


ザインが立ち上がった。


「俺も参加してくるわ」


「え?」


ミレイアが振り返る。


「副団長?」


ザインはすでに階段へ向かっていた。


「ちょっと! 何しに来たと思ってるんですか!」


「迎えに来た」


「迎え方がおかしいです!」


ザインは手を振りながら降りていく。


ミレイアがノアを見る。


「ノア。止めないの?」


「僕にザインを止められると思います?」


ミレイアは闘技場へ向かうザインを見る。


少し考える。


「……思わない」


「ですよね」


二人は揃ってため息をついた。


◆


ザインは受付で参加料を払い、剣を預けた。


「顔を隠せるものあるか?」


受付の男が怪訝な顔をする。


「なんでだ?」


「知り合いなんだよ。ちょっと驚かせたい」


「……好きにしろ」


簡素な黒い覆面を渡される。


ザインはそれを被り、闘技場へ出た。


歓声が降り注ぐ。


ガレスが新しい挑戦者を見る。


「おいおい! 随分細ぇのが来たじゃねぇか!」


ザインは答えない。


軽く拳を構えた。


開始の合図。


ガレスが踏み込む。


巨体からは想像できない速度だった。


拳がザインの顔面へ迫る。


ザインは僅かに身体をずらす。


拳が空を切った。


すぐに脇腹へ蹴りを返す。


鈍い音。


ガレスの身体が僅かに揺れる。


「ほう!」


嬉しそうに笑った。


「やるじゃねぇか!」


再び拳が飛んでくる。


ザインはかわす。


懐へ入り、腹へ拳を叩き込んだ。


だが硬い。


ガレスは腹筋だけで受け止め、そのままザインを捕まえようと腕を伸ばす。


ザインはそれを払って距離を取った。


「ハハハッ!」


ガレスは楽しそうだった。


覆面の下でザインも笑う。


また突っ込んでくる。


避ける気など最初からない。


真正面から力をぶつける。


昔から変わらない。


ザインは拳を腕で受けた。


重い衝撃が肩まで抜ける。


そのまま踏み込み、顎へ拳を返す。


ガレスの顔が跳ねた。


それでも倒れない。


「いい拳だ!」


「そりゃどうも」


ガレスの動きが僅かに止まる。


ザインは構わず踏み込んだ。


拳をかわし、腹へ一発。


さらに脇腹へ。


ガレスが大きく腕を振る。


ザインは後ろへ跳んでかわした。


「けど――」


ザインは覆面の奥で笑う。


「相変わらず脳筋だな、お前は!」


ガレスが止まった。


「…………」


目の前の覆面をじっと見る。


「てめぇ……」


ザインが構え直した。


「やっと気づいたか?」


数秒の沈黙。


やがて。


ガレスの顔に大きな笑みが浮かんだ。


「ザインかァ!!」


一気に踏み込んできた。


先ほどまでより速い。


「うおっ!」


拳がザインの頬を捉える。


「半年も何してやがった!!」


ザインも殴り返した。


「教団潰してた!」


「連絡くらい寄越せ!!」


「どうやってだよ!!」


拳。


拳。


次第に二人とも避けることすら減っていく。


「俺らがどんだけ探したと思ってやがる!!」


「悪かったって!!」


「死んだかと思っただろうが!!」


拳がザインの頬へ入った。


ザインが数歩後退する。


観客席は大歓声。


当然、二人が何の話をしているのかなど誰にも分からない。


ミレイアは呆れたように闘技場を見ていた。


「……会話しながら殴り合ってるんだけど」


「そうですね」


「男の人ってみんなこうなの?」


「一緒にしないでください」


即答だった。


ミレイアが笑う。


「じゃあ、あの二人だけ?」


「多分」


闘技場では、またガレスの拳がザインへ飛んでいた。


「死んだと思っただろうが!!」


その言葉に、ミレイアの笑みが少しだけ消える。


「……ガレスも同じだったのね」


ノアが横を見る。


「何がです?」


「ずっと心配してた。副団長が生きてるのか」


少しだけ間が空く。


ノアは闘技場へ視線を戻した。


「僕もですよ」


ミレイアが横を見る。


「……そっか」


ザインがガレスの拳をかわす。


今度はザインの拳がガレスへ入った。


「ノアもなんだ」


「はい」


ミレイアは少し笑った。


「じゃあ、同じね」


「そうですね」


目の前では、心配されていた本人が楽しそうに殴り合っている。


ミレイアが呆れたように言った。


「……なんか、心配してたのが馬鹿らしくなってきた」


「それはちょっと分かります」


二人は顔を見合わせ、小さく笑った。


◆


ザインとガレスが距離を取る。


二人とも呼吸が荒くなっていた。


ガレスが拳を握る。


「最後だ!」


ザインも構える。


「来い!」


ガレスが地面を蹴った。


真正面。


ザインも踏み込む。


ガレスの拳が迫る。


ザインは寸前で頭をずらした。


拳が頬を掠める。


同時に。


ザインの足が強く地面を踏み込んだ。


脚。


腰。


背中。


肩。


全身を連動させる。


拳がガレスの腹へ深く突き刺さった。


「――ッ!」


巨体が浮いた。


そのまま後方へ吹き飛び、地面へ倒れる。


一瞬。


闘技場から音が消えた。


ザインだけが立っている。


そして。


爆発するような歓声が響いた。


ザインは覆面を外した。


倒れたガレスは天井を見ながら笑っていた。


「……強くなったな」


ザインが歩み寄る。


「お前もな」


「勝った奴が言うんじゃねぇよ」


ザインが手を差し出す。


ガレスはその手を見ると、力強く掴んだ。


ザインが引き起こす。


半年ぶりに、二人が真正面から顔を合わせる。


ザインが笑った。


「久しぶり、ガレス」


ガレスも笑う。


「遅ぇんだよ、馬鹿野郎」


◆


闘技場を出たあと。


ザインたちはガレスへ事情を説明した。


イリスが生きていること。


捕らえられていること。


そして彼女を救うため、散り散りになった仲間たちを集めていること。


ガレスは黙って最後まで聞いた。


ザインが尋ねる。


「来てくれるか?」


ガレスは鼻で笑う。


「今さら何言ってやがる」


「じゃあ」


「行くに決まってんだろ」


大きな手がザインの肩を叩いた。


「副団長がまた馬鹿やるってんなら、誰かが見張っとかねぇとな」


「俺が馬鹿やる前提なの?」


ノアが口を挟む。


「僕もそう思います」


ザインが振り返る。


「お前、最近俺への扱い雑になってない?」


「気のせいですよ」


ミレイアも笑っていた。


散り散りになった仲間は、まだいる。


全員がどこで何をしているのかも分からない。


それでも。


昨日までは、ザインとノアだけだった。


今日、ミレイアが戻った。


そしてガレスも戻った。


少しずつ。


あの日失ったものが、もう一度集まり始めている。


ザインは仲間たちを見渡すと、いつもの調子で笑った。


「よし。じゃあ次、行くか」


再び、共に戦うために。

第74話をお読みいただき、ありがとうございます!


半年ぶりの再会となったミレイアとガレス。

泣きながら飛びつく者もいれば、殴り合いながら再会を喜ぶ者もいるようです。


散り散りになった仲間たちは、まだ全員揃っていません。

次は誰が、どこで、どんな半年間を過ごしているのか。


引き続きお楽しみいただければ嬉しいです!

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