散り散りの仲間たち
イリスを救うため、散り散りになった仲間たちを探すことになったザインとノア。
最初に向かった街で二人が見つけたのは――かつてとは随分と雰囲気の変わった、懐かしい仲間の姿だった。
ランフォスがゆっくりと高度を落としていく。
眼下に広がるのは、白い石造りの建物が立ち並ぶ大都市だった。
大通りには色鮮やかな布で飾られた店が軒を連ね、行き交う人々の服装も華やかだ。上空から眺めるだけでも、これまで立ち寄ってきた街とは明らかに雰囲気が違う。
「ここか?」
ザインが眼下を覗き込む。
「はい。僕が最後に聞いた話では、ミレイアさんはこの街にいる可能性が高いです」
後ろに乗ったノアが答える。
「可能性、ねぇ」
「半年も経ってますから。今もいるとは限りませんけど」
「まあ、行けば分かるか」
街から少し離れた場所へランフォスを降ろす。
二人が地面へ降りると、ザインは巨大な翼竜を見上げた。
「しばらく適当に飛んでてくれ。また呼ぶから」
ランフォスが短く鳴く。
巨大な翼が広がり、巻き起こった風が二人の髪と服を激しく揺らした。
そのままランフォスは再び空へ舞い上がっていく。
ザインは遠ざかる姿を見送ると、街へ向かって歩き始めた。
◆
「なんか……すげえ街だな」
街へ入ってしばらくして、ザインが呟いた。
「何がです?」
「キラキラしてる」
「もう少し何かあるでしょう」
大通りには仕立屋や宝飾店、香水を扱う店が並んでいる。
店先を歩く人々も、上等な生地で仕立てられた服を身につけていた。馬車から降りてくる貴族らしき男女の姿も珍しくない。
ザインは完全に場違いだった。
黒い外套に、腰には剣。
半年間、教団の残党を追い続けてきたせいか、華やかな街並みの中では余計に浮いて見える。
「で、どうやって探す?」
「まずは聞き込みですね。ミレイアさんが治癒術師として働いているなら――」
話していたノアの足が止まった。
ザインは数歩進んでから振り返る。
「どうした?」
ノアは答えない。
通りの向こうを見ていた。
ザインもそちらを見る。
大きな服飾店。
その正面に、巨大な広告が掲げられている。
華やかな衣装を纏った一人の女性。
綺麗に整えられた髪。
柔らかな笑み。
ザインはしばらく広告を見上げた。
「…………」
ノアも見上げる。
「…………」
ザインが指を差した。
「ノア」
「はい」
「あれ、ミレイアじゃね?」
「……ミレイアさんですね」
二人は並んで広告を見上げる。
「何やってんだ、あいつ」
「モデルじゃないですか?」
ザインが横を見る。
「それは見れば分かる」
「昨日、僕も同じこと言われた気がするんですけど」
「何の話だ?」
「もういいです」
◆
ミレイアの居場所は、驚くほど簡単に分かった。
服飾店の者へ尋ねれば、少し離れた広場で新作衣装のお披露目が行われているという。
広場へ向かうと、すでに多くの人が集まっていた。
中央に設けられた舞台。
その周囲には貴族や商人らしき人々。
ザインは人混みの向こうに見覚えのある姿を見つけた。
「いた」
舞台の中央にミレイアがいた。
戦場で見慣れていた姿とはまるで違う。
身体に合わせて仕立てられた華やかな衣装。髪には小さな装飾品が添えられ、薄く化粧も施されている。
ザインは腕を組む。
「……すげえことになってんな」
「似合ってますね」
「だな」
やがてお披露目が終わった。
ミレイアが関係者と言葉を交わしながら舞台を降りてくる。
その途中。
ふと、こちらを見た。
ザインと目が合う。
ミレイアの足が止まった。
周囲の声が聞こえなくなったかのように、その場で固まっている。
ザインは笑って片手を上げた。
「よっ」
ミレイアの目が大きく開いた。
「……副団長?」
ザインがもう一度手を振る。
次の瞬間。
「副団長ォォォォォ!!」
「うおっ!?」
ミレイアが走った。
衣装の裾を持ち上げ、周囲の人間を驚かせながら一直線にザインへ向かってくる。
そして、そのまま胸へ飛び込んだ。
「副団長! 副団長ぉぉ……!」
「ちょ、待て! ミレイア!」
ザインの服を掴んだまま、ミレイアは完全に泣いていた。
「生きてたんですねぇぇ!」
「見りゃ分かるだろ!」
「どこにいたんですか! 半年ですよ!? 何の連絡もないし、どこを探しても見つからないし!」
「悪かったって!」
「死んじゃったのかと思ったじゃないですかぁ!」
胸元を何度も叩かれる。
ザインは困ってノアを見る。
ノアは助けるどころか、少し離れた場所で笑っていた。
「ノア。見てないで何とかしてくれ」
「無理ですよ。ミレイアさんの言う通りですから」
「お前まで……」
ようやくミレイアが顔を上げる。
目元は真っ赤だった。
それでも、目の前にいるザインを確かめるようにじっと見ている。
「……本当に、生きてる」
ザインは少しだけ表情を和らげた。
「ああ」
その一言で、またミレイアの目に涙が溜まる。
「だから泣くなって」
「副団長のせいです!」
「はいはい。悪かったよ」
「絶対反省してませんよね!?」
「してるって」
「嘘です!」
半年ぶりだというのに。
ほんの数分で、以前と変わらない空気が戻っていた。
◆
しばらくして、ようやくミレイアも落ち着いた。
目元を拭ってから、今度はノアを見る。
「ノアも久しぶりね」
「はい。お久しぶりです、ミレイアさん」
「ノアが副団長を見つけたの?」
「そうです。まあ、見つけること自体はそんなに難しくなかったですけど」
「そうなの?」
「半年間、教団の拠点を潰して回ってたみたいなので」
ミレイアの顔から笑顔が消えた。
ゆっくりとザインを見る。
「……副団長?」
「なんだよ」
「半年間、何してたんですか!」
「だから教団を――」
「一人で!?」
「まあ」
「何考えてるんですか!」
ザインがノアを指差す。
「こいつにも散々言われた」
「じゃあ反省してください!」
「してるって」
「してない顔してます!」
ノアが堪えきれずに笑った。
ザインは不満そうに二人を見る。
そのあと、改めてミレイアの姿を見た。
「それにしても」
「なんですか?」
「似合ってるじゃん、それ」
ミレイアが一瞬止まる。
「…………」
「ん?」
「……ありがとうございます」
「急に静かになったな」
「なんでもありません!」
ザインは首を傾げた。
その横でノアだけが何となく察していた。
◆
仕事を終えたミレイアが普段着へ着替えて戻ってくると、三人は人目の少ない店へ移動した。
そこでザインたちは、互いの半年間について話した。
「最初からモデルになるつもりだったわけじゃないんです」
ミレイアはそう前置きした。
国を離れたあと、まず必要だったのは生活するための金だった。
治癒術師として働くことも考えた。
だが、身元を探られる可能性がある。
そんなとき、偶然服飾関係者から声を掛けられた。
最初は生活費を稼ぐためだった。
だが仕事を続けていくうちに、思いがけない利点に気づいたという。
「この仕事、結構いろんな人と会うんですよ」
「いろんな人?」
「貴族とか、大商人とか。他国から来た方も多いです」
ノアが頷く。
「なるほど。それで情報を?」
「はい。社交の場にも呼ばれるようになったので」
ミレイアはそこで、各国から訪れた者たちの会話を聞いていた。
政治。
交易。
軍。
噂話程度のものも多い。
それでも半年も続けていれば、奇妙な話がいくつも集まってくる。
「最近、国境へ兵を増やした国があるそうです」
ノアの表情が変わる。
「他には?」
「ずっと友好的だった国同士が、急に揉め始めたとか。理由も分からないまま重臣が更迭された国もあるって聞きました」
「王族同士の会談が突然中止になった、って話もあります」
ザインが腕を組んだ。
「……俺の国だけじゃないのか?」
「まだ分かりません」
ノアが答える。
「偶然かもしれない。でも、覚えておいた方がよさそうですね」
ミレイアが二人を見る。
「何かあったの?」
ザインとノアが顔を見合わせた。
ザインが口を開く。
「イリスが見つかった」
ミレイアの表情が変わった。
「……本当ですか?」
「ああ。生きてる」
その瞬間、ミレイアの肩から力が抜けた。
「よかった……」
「ただ、捕まってる」
安堵はすぐに消えた。
「場所は?」
「大体は分かってる。でも、今の俺たちだけで突っ込むのは厳しい」
ザインは続ける。
「だから、みんなを集めてる」
ミレイアは迷わなかった。
「行きます」
「即答だな」
「当たり前じゃないですか」
「仕事は?」
「しばらく休みます」
「そんな簡単に休めんの?」
ミレイアが少しだけ胸を張る。
「私、一応売れっ子なんですよ?」
ザインは感心したように頷いた。
「モデルってすげえな」
「副団長、多分何も分かってませんよね」
「稼げるってことは分かった」
「そこじゃないです!」
◆
数時間後。
ザインとノアは街の外で、巨大な生き物を見上げていた。
四本の太い脚。
穏やかな顔。
背には短い毛が生え、牛をさらに二回りほど巨大にしたような身体をしている。
その後ろには、大型の車両が繋がれていた。
「…………」
ザインが魔獣を見る。
魔獣もザインを見る。
「これがお前の?」
「はい」
「食わない?」
「何をですか?」
「俺」
「食べませんよ!」
ミレイアが呆れながら車両の扉を開けた。
「大人しい魔獣です。長距離移動用に育てられてるので」
ザインは魔獣の横を通り、車両を見る。
外から見れば、少し大きめの旅用馬車といったところだ。
造りは上等だが、それほど異常なものには見えない。
「これで移動すんの?」
「そうですよ」
ザインが扉をくぐる。
そして。
止まった。
「…………」
後ろから入ろうとしたノアがぶつかりそうになる。
「ザイン?」
ザインは答えず、一度外へ出た。
車体を見る。
横へ回る。
後ろも見る。
そして、もう一度中へ入った。
「……おかしいだろ」
「何がです?」
中は、外観からは想像できないほど広かった。
中央には大きなテーブル。
その周囲を囲むソファ。
壁際には棚や収納。
奥には簡単な調理設備まで備えられている。
さらにその先には扉がいくつか並んでいた。
天井には魔導灯。
床には柔らかな敷物。
ザインは外と中を何度も見比べる。
「絶対、外より中の方がでかい」
「空間拡張の魔法が掛かってるんです」
「そんなことできんの?」
「高級な旅用車両ならありますよ」
ザインは室内を見回した。
「……これ、いくらした?」
「聞かない方がいいですよ」
「聞きたい」
「嫌です」
「なんでだよ」
「副団長が変な顔するからです」
ザインはノアを見る。
「モデルってそんな儲かるの?」
「僕に聞かないでください」
ミレイアが荷物を置きながら言う。
「必要経費です!」
「絶対違うだろ」
「必要経費です!」
どうやら聞いてはいけないらしい。
やがて魔獣車がゆっくりと動き始めた。
車輪の振動は驚くほど小さい。
窓の外では街道の景色が流れていく。
さらに上空。
ランフォスが翼を広げ、魔獣車を追うように飛んでいた。
◆
しばらく走った頃。
「静かね」
ミレイアが呟いた。
向かいに座るノアが顔を上げる。
「そうですね」
二人が同時に奥を見る。
ザインが大きなソファに身体を沈め、眠っていた。
壁へ頭を預け、腕を組んだまま微動だにしない。
「……寝てる」
「寝てますね」
ミレイアはザインを見る。
「昔から、こんなにどこでも寝る人だった?」
「どうでしょう。でも、ここ半年はまともに休んでなかったのかもしれません」
「……そっか」
ミレイアの声が少しだけ小さくなる。
ザインの顔を見る。
寝ていると、二年前から戦場に立ち続けてきた人間には見えない。
まだ二十歳なのだ。
「一人だったんだもんね」
「はい」
「なら……今くらい寝かせてあげよっか」
ノアが頷いた。
「そうですね」
少しの沈黙。
魔獣車はゆっくり街道を進んでいく。
ミレイアが窓の外を見ながら尋ねた。
「ノアも大変だったでしょ?」
「僕ですか?」
「半年間、ずっとイリスを探してたんでしょ?」
「……まあ」
「ちゃんと寝てた?」
ノアが少し困ったように笑った。
「ザインよりは」
「それ比較対象として最低じゃない?」
ノアも笑った。
「そうかもしれません」
ほんの少しだけ。
二人の間にあった半年分の距離が縮まった。
◆
次の目的地は、巨大都市の地下に広がる街だった。
地上の華やかな街とは正反対。
薄暗い通路。
酒場。
賭場。
武器屋。
表では扱えない品を並べる商人。
その中心に巨大な地下闘技場がある。
「本当にガレスさん、こんなところにいるんですか?」
ノアが尋ねる。
「いると思うよ」
ミレイアが答えた。
モデルとして集めた情報の中に、この地下闘技場で異様に強い大男が暴れているという噂があった。
特徴を聞けば、まず間違いない。
三人が闘技場へ入った瞬間。
凄まじい歓声が押し寄せた。
円形の観客席。
その中央。
二人の男が殴り合っている。
いや。
もはや殴り合いと呼べる状態ではなかった。
巨大な男の拳を真正面から受けながら、それ以上に重い拳を叩き返している男。
「ハハハハッ! そんなんじゃ効かねぇぞ!」
その声を聞いた瞬間、ザインは笑った。
「いた」
ガレスだった。
相手の拳が頬へ入る。
それでも退かない。
逆に腕を大きく振りかぶった。
次の瞬間、拳を受けた男の身体が吹き飛ぶ。
地面へ転がり、そのまま動かなくなった。
大歓声。
ガレスが両腕を上げる。
「相変わらずですね……」
ノアが呟く。
ザインは楽しそうに笑っていた。
「相変わらず脳筋だな、あいつ」
司会役の男が叫ぶ。
「まだだ! まだこの男は戦えるぞ! 次に挑む奴はいないのかァ!!」
観客席が沸く。
ザインが立ち上がった。
「俺も参加してくるわ」
「え?」
ミレイアが振り返る。
「副団長?」
ザインはすでに階段へ向かっていた。
「ちょっと! 何しに来たと思ってるんですか!」
「迎えに来た」
「迎え方がおかしいです!」
ザインは手を振りながら降りていく。
ミレイアがノアを見る。
「ノア。止めないの?」
「僕にザインを止められると思います?」
ミレイアは闘技場へ向かうザインを見る。
少し考える。
「……思わない」
「ですよね」
二人は揃ってため息をついた。
◆
ザインは受付で参加料を払い、剣を預けた。
「顔を隠せるものあるか?」
受付の男が怪訝な顔をする。
「なんでだ?」
「知り合いなんだよ。ちょっと驚かせたい」
「……好きにしろ」
簡素な黒い覆面を渡される。
ザインはそれを被り、闘技場へ出た。
歓声が降り注ぐ。
ガレスが新しい挑戦者を見る。
「おいおい! 随分細ぇのが来たじゃねぇか!」
ザインは答えない。
軽く拳を構えた。
開始の合図。
ガレスが踏み込む。
巨体からは想像できない速度だった。
拳がザインの顔面へ迫る。
ザインは僅かに身体をずらす。
拳が空を切った。
すぐに脇腹へ蹴りを返す。
鈍い音。
ガレスの身体が僅かに揺れる。
「ほう!」
嬉しそうに笑った。
「やるじゃねぇか!」
再び拳が飛んでくる。
ザインはかわす。
懐へ入り、腹へ拳を叩き込んだ。
だが硬い。
ガレスは腹筋だけで受け止め、そのままザインを捕まえようと腕を伸ばす。
ザインはそれを払って距離を取った。
「ハハハッ!」
ガレスは楽しそうだった。
覆面の下でザインも笑う。
また突っ込んでくる。
避ける気など最初からない。
真正面から力をぶつける。
昔から変わらない。
ザインは拳を腕で受けた。
重い衝撃が肩まで抜ける。
そのまま踏み込み、顎へ拳を返す。
ガレスの顔が跳ねた。
それでも倒れない。
「いい拳だ!」
「そりゃどうも」
ガレスの動きが僅かに止まる。
ザインは構わず踏み込んだ。
拳をかわし、腹へ一発。
さらに脇腹へ。
ガレスが大きく腕を振る。
ザインは後ろへ跳んでかわした。
「けど――」
ザインは覆面の奥で笑う。
「相変わらず脳筋だな、お前は!」
ガレスが止まった。
「…………」
目の前の覆面をじっと見る。
「てめぇ……」
ザインが構え直した。
「やっと気づいたか?」
数秒の沈黙。
やがて。
ガレスの顔に大きな笑みが浮かんだ。
「ザインかァ!!」
一気に踏み込んできた。
先ほどまでより速い。
「うおっ!」
拳がザインの頬を捉える。
「半年も何してやがった!!」
ザインも殴り返した。
「教団潰してた!」
「連絡くらい寄越せ!!」
「どうやってだよ!!」
拳。
拳。
次第に二人とも避けることすら減っていく。
「俺らがどんだけ探したと思ってやがる!!」
「悪かったって!!」
「死んだかと思っただろうが!!」
拳がザインの頬へ入った。
ザインが数歩後退する。
観客席は大歓声。
当然、二人が何の話をしているのかなど誰にも分からない。
ミレイアは呆れたように闘技場を見ていた。
「……会話しながら殴り合ってるんだけど」
「そうですね」
「男の人ってみんなこうなの?」
「一緒にしないでください」
即答だった。
ミレイアが笑う。
「じゃあ、あの二人だけ?」
「多分」
闘技場では、またガレスの拳がザインへ飛んでいた。
「死んだと思っただろうが!!」
その言葉に、ミレイアの笑みが少しだけ消える。
「……ガレスも同じだったのね」
ノアが横を見る。
「何がです?」
「ずっと心配してた。副団長が生きてるのか」
少しだけ間が空く。
ノアは闘技場へ視線を戻した。
「僕もですよ」
ミレイアが横を見る。
「……そっか」
ザインがガレスの拳をかわす。
今度はザインの拳がガレスへ入った。
「ノアもなんだ」
「はい」
ミレイアは少し笑った。
「じゃあ、同じね」
「そうですね」
目の前では、心配されていた本人が楽しそうに殴り合っている。
ミレイアが呆れたように言った。
「……なんか、心配してたのが馬鹿らしくなってきた」
「それはちょっと分かります」
二人は顔を見合わせ、小さく笑った。
◆
ザインとガレスが距離を取る。
二人とも呼吸が荒くなっていた。
ガレスが拳を握る。
「最後だ!」
ザインも構える。
「来い!」
ガレスが地面を蹴った。
真正面。
ザインも踏み込む。
ガレスの拳が迫る。
ザインは寸前で頭をずらした。
拳が頬を掠める。
同時に。
ザインの足が強く地面を踏み込んだ。
脚。
腰。
背中。
肩。
全身を連動させる。
拳がガレスの腹へ深く突き刺さった。
「――ッ!」
巨体が浮いた。
そのまま後方へ吹き飛び、地面へ倒れる。
一瞬。
闘技場から音が消えた。
ザインだけが立っている。
そして。
爆発するような歓声が響いた。
ザインは覆面を外した。
倒れたガレスは天井を見ながら笑っていた。
「……強くなったな」
ザインが歩み寄る。
「お前もな」
「勝った奴が言うんじゃねぇよ」
ザインが手を差し出す。
ガレスはその手を見ると、力強く掴んだ。
ザインが引き起こす。
半年ぶりに、二人が真正面から顔を合わせる。
ザインが笑った。
「久しぶり、ガレス」
ガレスも笑う。
「遅ぇんだよ、馬鹿野郎」
◆
闘技場を出たあと。
ザインたちはガレスへ事情を説明した。
イリスが生きていること。
捕らえられていること。
そして彼女を救うため、散り散りになった仲間たちを集めていること。
ガレスは黙って最後まで聞いた。
ザインが尋ねる。
「来てくれるか?」
ガレスは鼻で笑う。
「今さら何言ってやがる」
「じゃあ」
「行くに決まってんだろ」
大きな手がザインの肩を叩いた。
「副団長がまた馬鹿やるってんなら、誰かが見張っとかねぇとな」
「俺が馬鹿やる前提なの?」
ノアが口を挟む。
「僕もそう思います」
ザインが振り返る。
「お前、最近俺への扱い雑になってない?」
「気のせいですよ」
ミレイアも笑っていた。
散り散りになった仲間は、まだいる。
全員がどこで何をしているのかも分からない。
それでも。
昨日までは、ザインとノアだけだった。
今日、ミレイアが戻った。
そしてガレスも戻った。
少しずつ。
あの日失ったものが、もう一度集まり始めている。
ザインは仲間たちを見渡すと、いつもの調子で笑った。
「よし。じゃあ次、行くか」
再び、共に戦うために。
第74話をお読みいただき、ありがとうございます!
半年ぶりの再会となったミレイアとガレス。
泣きながら飛びつく者もいれば、殴り合いながら再会を喜ぶ者もいるようです。
散り散りになった仲間たちは、まだ全員揃っていません。
次は誰が、どこで、どんな半年間を過ごしているのか。
引き続きお楽しみいただければ嬉しいです!




