英雄失格
第2章、最終話です。
ラウゼンでの戦いを終えたザインは、連絡の途絶えていた自国へと戻ります。
そこで待っていたものとは――。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
戦いが終わってから、数日が経った。
ラウゼンの街には、まだ戦争の傷跡が色濃く残っている。
崩れた建物。
抉られた石畳。
大きく損傷した城壁。
街の至るところで瓦礫の撤去が行われ、負傷者を乗せた担架が行き交っていた。
つい数日前まで敵だった魔改造兵たちも、その中に混じっている。
ラウゼン軍の指示を受けながら瓦礫を運び、負傷者の搬送を手伝っていた。
まだ互いに警戒は残っている。
それでも。
少しずつ。
戦場だった場所が、人の暮らす場所へ戻ろうとしていた。
ザインは城の窓から、その様子を眺めていた。
「……ほんとに働いてんな」
「数千人を遊ばせておけるほど、我が国は裕福ではない」
隣に立つレオニスが答えた。
「王様も大変だな」
「他人事のように言うな」
ザインは小さく笑った。
その時。
「お兄様」
後ろから女性の声がした。
レオニスの妹が歩いてくる。
彼女はザインを見ると、少しだけ足を止めた。
「……ひどい顔」
「第一声それ?」
「事実でしょう?」
ザインの顔や腕には、まだ包帯が巻かれている。
「もう少し休んだ方がいいのでは?」
「十分休んだよ」
「数日です」
「十分じゃん」
「全然です」
ザインが肩を竦める。
レオニスがそんな二人を横目に見た。
「それで?」
「ん?」
「何か話があるのであろう」
「ああ」
ザインは窓の外へ目を向けた。
「俺、一回国に戻るわ」
レオニスの表情が変わる。
「……もうか?」
「うん」
「身体が治ってからでも遅くはないだろう」
「それはそうなんだけどさ」
ザインは少し考えた。
「ラウゼンが襲われた時、援軍頼もうとしただろ?」
「……ああ」
「結局、一回も繋がらなかった」
王国へ何度も連絡を試みた。
援軍を送ってほしいと。
少なくとも、こちらの状況だけでも伝えようとした。
だが。
最後まで応答はなかった。
戦闘中は、それについて深く考える余裕などなかった。
だが、戦いが終わった今。
どうしても引っかかる。
「通信設備の故障という可能性は?」
「だったらいいんだけどな」
ザインは窓から離れた。
「だから、一回確認してくる」
レオニスはしばらく考えた後。
「……分かった」
とだけ答えた。
「俺も行く」
ガレスが当然のように言った。
ザインは即答する。
「駄目」
「なんでだよ」
「お前らはここで休め」
ザインの前には五人がいた。
ガレス。
ダリオ。
ジグ。
ミレイア。
リナ。
誰一人として無傷ではない。
「ザイン副団長」
ダリオが口を開く。
「それを言うのであれば、副団長が一番休むべきでは?」
「俺はいいの」
「よくねぇよ」
ガレスが即座に返した。
ザインは笑う。
「今回は命令な」
その言葉で五人が黙った。
「お前らはここに残れ」
ザインが五人を見る。
「飯食って、寝て、怪我治しとけ」
剣を腰へ差す。
「次に何かあった時、お前ら全員使い物になりませんじゃ困るんだよ」
「それは副団長も同じです」
ミレイアが言った。
「俺は確認してくるだけ」
リナが疑うように見る。
「本当に?」
「本当本当」
「あなたの『確認してくるだけ』は信用できません」
「なんでだよ」
ザインが苦笑する。
「まあ、何もなきゃすぐ戻るから」
軽く手を上げる。
「じゃ、行ってくるわ」
ガレスが何か言おうとする。
だが。
ザインが先に言った。
「休めよ」
それだけ残し。
ザインは一人でラウゼンを発った。
数日後。
ザインは王都を前にしていた。
足が止まる。
「……」
城壁はある。
王城も見える。
街も破壊されていない。
煙も上がっていない。
戦闘が起きた痕跡も見当たらなかった。
ザインは少しだけ肩の力を抜く。
「……なんだ。無事じゃん」
教団の別働隊に襲撃されている可能性も考えていた。
だが。
少なくとも外から見る限り、その形跡はない。
城門を通る。
そして。
すぐに違和感を覚えた。
「……?」
静かだった。
あまりにも。
普段なら人で溢れている大通りに、ほとんど人影がない。
商人の声も。
馬車の音も。
子供の声も聞こえない。
店の扉は閉じられている。
ザインの足音だけが石畳へ響く。
「なんだこれ……」
破壊されてはいない。
だが。
正常でもない。
ザインは歩く速度を上げた。
まずは国王に任務完了を報告する。
その後で、連絡が途絶えていた理由を確認する。
王城へ辿り着く。
門を守る騎士たちがザインを見る。
どこか様子がおかしい。
それでも。
ザインが名乗ると、城内へ通された。
廊下を歩く。
やはり静かだった。
騎士の数だけが妙に多い。
ザインが通るたび。
視線が向けられる。
やがて。
謁見の間の扉が開いた。
玉座には国王がいた。
ザインはその前まで歩く。
「ただいま戻りました」
「うむ」
いつもの声だった。
ザインは僅かに安心する。
「ラウゼン防衛の任務について報告します」
「ああ。聞こう」
「ラウゼンを襲撃していた軍勢は撃破しました」
国王が静かに頷く。
「襲撃していたのは、アストラ教団です」
国王の表情が僅かに動いた。
「……教団?」
「はい」
ザインが続ける。
「約一万の魔改造兵が投入されていました」
謁見の間がざわめく。
「一万……?」
「敵の指揮官はレオンハルトでした」
国王の表情が明確に変わった。
「レオンハルト……」
「教団の零号機です」
ザインは淡々と報告する。
「俺とアーヴェルで交戦しました」
そこで。
言葉が止まった。
国王がそれに気づく。
「どうした」
ザインは一度だけ目を伏せた。
「……アーヴェルは死にました」
謁見の間が静まり返る。
「戦闘中、レオンハルトの攻撃を受けて」
ザインは続けた。
「最後まで戦ってくれました」
国王は何も言わなかった。
しばらくして。
「……そうか」
静かな声が返ってきた。
「アーヴェルが……」
ザインが頷く。
「レオンハルトは俺が倒しました」
「そうか」
「残っていた魔改造兵は武器を捨てました。レオニスが受け入れて、今はラウゼン軍に加わっています」
国王はしばらくザインを見ていた。
やがて。
「大儀であった」
ザインが顔を上げる。
「ラウゼンを守り、敵将を討ち取った。その働き、見事である」
「ありがとうございます」
「傷も深いようだな」
「まあ、結構やられました」
「まずは身体を休めるがよい」
ザインが頷く。
「はい。その前に一つ聞きたいんですけど」
「なんだ?」
「ラウゼンから何度か連絡したんです」
国王を見る。
「援軍要請も出した。でも一度も繋がらなかった」
国王は黙っている。
「こっちで何かあったんですか?」
返事がない。
「……陛下?」
国王がゆっくりとザインを見る。
「ザイン」
「はい」
「改めて言おう」
国王の声は穏やかだった。
「此度の働き、大儀であった」
ザインは何も答えない。
何かがおかしい。
「ラウゼンを守った功績も、敵将を討ち取った功績も見事なものだ」
国王が片手を上げる。
その瞬間。
両脇に並んでいた騎士たちが一斉に剣へ手をかけた。
ザインの目が動く。
右。
左。
背後。
囲まれている。
そして。
国王の声が響いた。
「こやつを捕らえよ!」
一斉に。
剣が抜かれた。
ザインはしばらく動かなかった。
国王を見る。
騎士を見る。
もう一度。
国王を見る。
「……は?」
「何をしている! 早く捕らえよ!」
騎士たちが動いた。
左右から二人。
正面から一人。
「ちょ、待て!」
ザインが身体を逸らす。
剣が鼻先を通過した。
腕を掴み、引く。
騎士の身体が前へ崩れる。
背中を押し、後ろから来た騎士へぶつける。
「おい! 何だよこれ!」
返事はない。
ザインも剣を抜いた。
刃と刃がぶつかる。
弾く。
だが。
斬らない。
「陛下!」
国王を見る。
「何があったんだよ!」
「捕らえよ!」
それしか返ってこない。
ザインの表情から笑みが消えた。
明らかにおかしい。
王都へ入ってから感じていた違和感。
途絶えていた連絡。
そして。
目の前の国王。
何かが起きている。
ザインは騎士の剣を弾き飛ばす。
腹を蹴る。
もう一人の顎へ柄を叩き込む。
「ザインを逃がすな!」
「門を閉じろ!」
次々と騎士が入ってくる。
「……くそ」
ここで戦っていても仕方がない。
今は。
確かめなければならない。
ザインが走った。
窓へ向かって。
「待て!」
そのまま飛び込む。
ガラスを突き破った。
城外へ落下する。
着地。
「ぐっ……!」
脚に痛みが走る。
それでも止まらない。
ザインは走り出した。
「イリス……!」
王都を駆ける。
背後では鐘が鳴り始めていた。
「ザインを探せ!」
「城門を封鎖しろ!」
路地へ入る。
壁を蹴り。
屋根へ。
建物から建物へ飛び移る。
やがて。
イリスの屋敷が見えた。
ザインは屋根から飛び降りる。
門を抜け。
玄関へ走った。
「イリス!」
扉へ手をかける。
開いている。
ザインの動きが止まった。
「……」
ゆっくりと押す。
中へ入った瞬間。
足が止まる。
「……なんだよ、これ」
家具が倒れている。
割れた食器。
散乱した紙。
引き出しは開け放たれ、中身が床へぶち撒けられていた。
明らかに。
誰かが荒らしている。
「イリス!」
ザインが走る。
部屋を開ける。
いない。
次。
いない。
「イリス!」
階段を駆け上がる。
寝室。
空。
別の部屋。
誰もいない。
「……くそ」
廊下を進み。
ザインの足が止まった。
「ノア!」
返事はない。
「ノア! いるなら返事しろ!」
次々と扉を開ける。
「イリス!」
誰もいない。
「ノア!」
返事はない。
使用人すら。
一人も。
ザインは一階へ戻った。
荒れ果てた玄関ホール。
その中央で立ち止まる。
「……二人ともいねぇ」
国王がおかしい。
騎士団もおかしい。
イリスがいない。
ノアもいない。
屋敷には誰も残っていない。
「何が起きてんだよ……」
その時。
外から大量の足音が聞こえた。
ザインが顔を上げる。
窓の外。
次々と騎士たちが現れる。
正面。
左右。
裏手。
屋敷を包囲していく。
鎧に刻まれているのは。
王国騎士団第三軍の紋章。
「……第三軍」
ザインは剣を持ち。
外へ出た。
数百の騎士が並んでいる。
その中央から。
一人の男が前へ出てきた。
王国騎士団第三軍団長。
ザインは顔だけなら知っている。
城で何度か見た。
だが。
まともに話した記憶はほとんどない。
第三軍団長はザインを見ると、剣を抜いた。
「ザイン」
「……何?」
「国王陛下の命だ」
剣先がザインへ向く。
「大人しく投降しろ」
ザインは周囲を見る。
完全に囲まれている。
「その前に聞きたいんだけど」
第三軍団長を見る。
「イリスとノア、どこ行った?」
「知らんな」
「じゃあ陛下はなんで俺を捕まえようとしてんの?」
「貴様が知る必要はない」
ザインの眉が僅かに動く。
「……そっか」
「剣を捨てろ」
ザインは動かない。
「聞こえなかったか?」
「聞こえてるよ」
剣を持ったまま答える。
「でも無理」
第三軍団長の顔が歪む。
そして。
僅かに笑った。
「……以前から貴様が気に食わなかった」
「……そう」
「騎士でもない。軍人としてまともな教育を受けたわけでもない。それにもかかわらず、戦場で功績を上げたというだけで英雄と呼ばれる」
ザインは黙って聞いていた。
「挙げ句の果てには、副団長などという立場まで与えられた」
第三軍団長の声に怒りが滲む。
「我々が何年積み重ねてきたと思っている」
ザインは首を傾げた。
「知らない」
第三軍団長の顔が引きつる。
「……何?」
「俺、お前のことほとんど知らねぇし」
沈黙。
第三軍団長の表情から笑みが消えた。
「……貴様」
ザインは剣を持ち上げる。
「悪いけど、今それどころじゃないんだわ」
「ザイン!!」
第三軍団長が叫ぶ。
「捕らえろ!!」
第三軍が一斉に動いた。
最前列の騎士たちがザインへ殺到する。
ザインは剣を構えた。
「……悪い」
振り下ろされた剣を横へかわす。
ザインの剣が走る。
騎士の胸が裂けた。
倒れるより早く、その横を抜ける。
二人目。
剣を弾き、そのまま首元を斬る。
「今、手加減してやるほど余裕ねぇんだわ」
左右から同時に剣が迫る。
一歩下がる。
二本の剣が目の前で交差した。
踏み込む。
一人の腹を斬り。
身体を回しながら、もう一人の胸へ剣を突き立てる。
引き抜く。
背後。
振り返る。
間に合わない。
「っ!」
剣が肩を掠めた。
血が飛ぶ。
ザインはそのまま相手の懐へ入り、柄を顎へ叩き込む。
仰け反ったところへ。
首を斬る。
「囲め!」
第三軍がザインを包囲する。
前。
左右。
背後。
ザインは自ら包囲の一角へ突っ込んだ。
一人。
二人。
三人。
斬り抜け。
隊列の外へ出る。
直後。
魔法が飛んできた。
地面を蹴る。
炎が背後で炸裂する。
爆風が身体を押した。
着地。
別方向から氷の槍。
一本目をかわす。
二本目を剣で弾く。
三本目。
避けきれない。
脇腹を掠めた。
「……っ!」
服が裂け、血が滲む。
ザインは魔法使いへ向かって走る。
「前衛! 止めろ!」
騎士たちが割って入る。
一人目の剣を受け流す。
二人目をかわす。
三人目。
身体を沈める。
僅かに遅れた。
刃が背中を浅く裂いた。
ザインの表情が歪む。
「……くそ」
それでも止まらない。
一人を斬る。
その身体を押し退け。
次へ。
剣。
拳。
蹴り。
必要な動きだけを繋げる。
一人ずつ。
確実に。
地面へ倒していく。
「なんなんだ、こいつ……!」
「止まるな!」
「相手は一人だぞ!」
その一人を。
止められない。
ザインが剣を振る。
血が地面へ散った。
「下がれ!!」
第三軍団長の声が響く。
騎士たちが一斉にザインから距離を取った。
ザインも追わない。
その間を。
第三軍団長が歩いてくる。
「……所詮は寄せ集めか」
ザインが言った。
第三軍団長の顔が歪む。
「貴様……!」
「で?」
ザインが剣を向ける。
「お前は来ないの?」
「いいだろう」
第三軍団長が剣を構えた。
「そこまで死に急ぐというのなら――」
魔力が膨れ上がった。
周囲の空気が震える。
第三軍団長の足元に巨大な術式が広がっていく。
さらに。
その外側へ。
複数の術式が重なり始める。
周囲の騎士たちが慌てて距離を取った。
「団長が使うぞ!」
「離れろ!」
地面が震える。
大量の魔素が第三軍団長へ集まっていく。
「見るがいい、ザイン!」
第三軍団長が剣を掲げる。
「これこそが第三軍を率いる者にのみ許された――」
ザインが地面を蹴った。
「――え?」
目の前。
すでにザインがいる。
剣が走った。
第三軍団長の胸が深く裂ける。
「が……っ」
展開されていた術式が消えた。
集められていた魔力が霧散する。
第三軍団長がザインを見る。
「き……貴様……」
ザインは剣についた血を払った。
「待つわけないだろ」
第三軍団長の身体が揺れる。
「敵なんだから」
そのまま。
前へ倒れた。
「……」
第三軍の騎士たちが動きを止める。
ザインは倒れた第三軍団長を見る。
肩を軽く回した。
「……いってぇ」
腕を動かす。
身体の奥が軋む。
「さすがに治りきってねぇな」
ザインが自分の身体を見る。
「身体が軋んでるわ」
それでも。
剣を持ち上げた。
残された第三軍へ向ける。
「まだやる?」
誰も前へ出なかった。
ザインはしばらく待った。
そして。
剣を下ろす。
「じゃあ、行くわ」
倒れた第三軍団長の横を通り過ぎる。
誰も。
追うことはできなかった。
その日のうちに。
ザインは王都を出た。
正門は使わず。
城壁を越え。
街道を避けて森へ入る。
どこへ向かうかは決めていない。
何が起きているのかも分からない。
ただ。
今この国に留まれば。
また騎士団が来る。
それだけは分かる。
森を抜けたところで。
ザインは一度だけ振り返った。
遠くに王都が見える。
十六歳の時。
初めてやってきた場所。
イリスと出会った。
ノアと出会った。
仲間ができた。
十八歳で。
英雄と呼ばれるようになった。
そして。
二十歳になった今。
その国から追われている。
「……意味わかんねぇ」
ザインは小さく呟いた。
「イリス……ノア……」
二人ともいない。
国王も何も答えなかった。
「どこ行ったんだよ」
返事などない。
ザインは王都に背を向けた。
そして。
歩き出した。
数日後。
一枚の書状がラウゼンへ届いた。
レオニスは執務室でそれを開いた。
読む。
「……」
もう一度。
最初から読む。
「…………は?」
向かいにいたガレスが顔を上げた。
「どうした?」
レオニスは書状を机へ置く。
ガレスが取った。
ダリオ。
ジグ。
ミレイア。
リナ。
五人が集まる。
そして。
言葉を失った。
そこに書かれていた名前。
ザイン。
王命への反逆。
王国騎士団への攻撃。
第三軍団長殺害。
第三軍兵士多数殺害。
逃亡。
国家反逆者として。
指名手配。
「……ふざけんな!!」
ガレスが叫んだ。
「ザイン副団長が反逆だと!?」
「第三軍を殺したこと自体は、おそらく事実でしょう」
ダリオが静かに言う。
ガレスが振り返った。
「お前!」
「問題はそこではありません」
ダリオは書状を見る。
「なぜ、副団長が第三軍を殺さなければならなかったのかです」
誰も答えられない。
レオニスが書状を取る。
「ザインが理由もなく自国の騎士を殺すとは思えん」
「調べる」
ジグが短く言った。
レオニスが頷く。
「頼む」
同じ知らせは。
獣王国にも届いた。
書状を読んだレグルスは、そこに書かれた内容を何度も確認した。
「……何があった?」
そして。
エルフの国。
エリオンもまた。
ザインが国家反逆者として手配されたことを知る。
ラウゼンを守るために戦い。
アストラ教団の零号機を討ち取った男。
その直後。
自国から反逆者として追われた。
誰も。
すぐには信じなかった。
それから。
王国から遠く離れた街。
ザインは一人、大通りを歩いていた。
外套を羽織り。
剣を腰に下げている。
「腹減ったな……」
辺りを見る。
飯屋を探していた時。
街角の掲示板が目に入った。
一度通り過ぎる。
「……ん?」
戻る。
掲示板を見る。
一枚の紙。
そこに。
見覚えのある顔が描かれていた。
黒い髪。
ザインは黙って読む。
国家反逆者。
ザイン。
王国騎士団第三軍を襲撃。
第三軍団長を含む多数の騎士を殺害。
現在逃亡中。
発見した場合は王国へ通報すること。
「……」
自分の顔を見る。
手配書を見る。
もう一度。
自分の顔を触る。
「……マジかよ」
昨日まで。
英雄と呼ばれていた。
国を守った。
人を守った。
それが。
今では。
国家反逆者。
ザインは手配書を剥がさなかった。
そのまま背を向ける。
外套のフードを被った。
なぜ連絡が途絶えていたのか。
なぜ国王は自分を捕らえようとしたのか。
イリスはどこへ消えた。
ノアはどこへ行った。
何一つ。
分かっていない。
なら。
調べるしかない。
ザインは歩き出す。
剣一本を腰に下げて。
英雄と呼ばれた少年は。
この日。
帰る国を失った。
――第二章 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
これにて第2章完結です。
ラウゼンを救い、レオンハルトを倒したザイン。
それでも帰ってきた自国で待っていたのは、英雄としての歓迎ではなく、国家反逆者としての指名手配でした。
なぜ国との連絡が途絶えていたのか。
なぜ国王はザインを捕らえようとしたのか。
そして、イリスとノアはどこへ消えたのか。
第3章では、その謎を追うところから物語が動き始めます。
第2章までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
引き続き、ザインの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。




