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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
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極限の30秒

アーヴェルの一撃を受け、それでも立ち上がったレオンハルト。


再び始まる戦闘の中、ザインはアーヴェルへ新たな一撃を要求する。


必要な時間は――三十秒。


その三十秒を作るため、ザインもまた切り札を解放する。

「同じ手は、二度と喰らわんぞ」


レオンハルトの身体は、未だ半壊したままだった。


焼け落ちた皮膚。欠損した腕。砕けた外殻。


その全てがゆっくりと再生を続けている。


だが、先ほどまでとは明らかに遅い。


ザインはその時間を与えなかった。


地面を蹴り、一気に距離を詰める。首を狙った剣をレオンハルトが身体を反らしてかわすと、返す刃で胸を斬り、さらに腹部へ蹴りを叩き込んだ。


吹き飛んだ先へ、アーヴェルの圧縮した大気が炸裂する。


轟音とともに身体が横へ弾かれ、そこへザインが追いついた。


肩を斬る。


血が飛ぶ。


傷は塞がり始めるが、その前に次の傷が増えていく。


アーヴェルの一撃は確実に効いている。


このまま押し切る。


ザインが再び踏み込もうとした時、レオンハルトの身体から焼け焦げた外殻が崩れ落ちた。


防御だけに特化していた異形の肉体が、少しずつ元の形へ戻っていく。


その一方で、首筋に太い血管が浮かび上がった。


腕、胸、額。


全身へ。


深く息を吸い込んだレオンハルトの足元に亀裂が走る。


次の瞬間。


姿が消えた。


「――っ!」


ザインが剣を上げる。


拳と刃が激突し、凄まじい衝撃が腕を突き抜けた。


身体が後方へ弾き飛ばされる。


アーヴェルが大気の壁で受け止めるが、着地した時には既にレオンハルトが目の前まで迫っていた。


二撃目。


ザインは身体を沈めてかわす。


直後、全身が地面へ引き寄せられた。


「ぐっ……!」


重力。


両足が地面へ沈み、そこへ蹴りが突き刺さる。


ザインの身体が再び吹き飛んだ。


速さも、力も、重力の強さも。


全てが一段上がっている。


レオンハルトはザインを追わなかった。


そのままアーヴェルへ向かう。


圧縮された大気が正面から炸裂するが、両腕で受けながら突き進む。肩の肉が抉れても止まらない。


アーヴェルとの距離が縮まる。


その間へザインが滑り込んだ。


剣と拳がぶつかる。


「そっちは行かせねぇよ」


ザインが押し返す。


だが、レオンハルトは即座に横方向へ重力を発生させた。


身体が強引に引かれ、アーヴェルへの道が開く。


ザインが戻る。


殴られる。


また戻る。


重力で飛ばされても、すぐに二人の間へ入る。


三人の攻防が続く中で、ザインは気づいた。


レオンハルトの意識が、明らかにアーヴェルへ向いている。


大気が集まり始めれば重力で崩す。


距離を取れば引き寄せる。


大きな術式を構築する時間を与えない。


先ほどの一撃を警戒している。


ザインはレオンハルトの拳をかわし、剣を返しながら口を開いた。


「アーヴェル」


「何だ」


「さっきの光、一ヶ所に集めて撃てる?」


「……プラズマか」


「それ。広いのはいらねぇ。一点だけでいい」


アーヴェルはザインの意図を理解した。


先ほどのような巨大な真空領域を形成する必要はない。


広範囲をプラズマで満たす必要もない。


大気を一点へ圧縮し、膨大なエネルギーを与えて電離させる。


それをさらに圧縮し、一方向へ撃ち出す。


理論上は可能。


「……できる」


ザインはレオンハルトの蹴りをかわし、脇腹へ剣を走らせた。


「どのくらい時間かければ撃てそう?」


「三十秒」


「三十?」


「今ここで術式を組み直す」


アーヴェルが後方へ下がる。


「俺に三十秒間、近づけるな」


ザインは一度だけ大きく息を吐いた。


「ふぅ……案外短いな」


剣先をレオンハルトへ向ける。


「任せろ」


当然、その会話はレオンハルトにも聞こえている。


三十秒。


それが何を意味するのかも。


全身に浮き出た血管が、さらに太くなる。


レオンハルトが地面を蹴った。


狙いはアーヴェル。


ザインが間に入る。


拳を剣で受ける。


重い。


さらに重力まで重なり、両足が地面へ沈んだ。


レオンハルトが強引に押し切る。


ザインが剣を返すが、かわされる。


拳が肩へ直撃した。


身体が吹き飛ぶ。


そのままレオンハルトはアーヴェルへ向かう。


ザインが追いつく。


また間に入る。


拳。


重力。


地面へ叩きつけられる。


それでも起き上がる。


だが、ザインには分かっていた。


このままでは。


三十秒、守り切れない。


「……しゃーねぇな」


全身に張り巡らされた微細な管へ意識を向ける。


周囲から取り込んだ魔素が、その中を流れていた。


普段は必要な場所へ、必要な量だけを送る。


腕。


脚。


背中。


一部位であれば、限界まで出力を引き上げても維持できる。


だが。


今からやるのは、それではない。


ザインが息を吸う。


魔素が流れる。


脚へ。


腕へ。


胸へ。


背中へ。


全身へ。


全てを同時に限界まで引き上げる。


「――100%」


ドンッ!!


地面が爆ぜた。


レオンハルトの顔が横を向く。


ザインがいない。


直後。


脇腹へ強烈な蹴りが突き刺さった。


レオンハルトの身体が真横へ吹き飛ぶ。


その先には既にザインがいる。


剣。


咄嗟に上げた腕へ刃が深く食い込み、そのまま地面へ叩き落とした。


轟音とともに大地が砕ける。


レオンハルトが即座に重力を発生させる。


ザインがいた場所が陥没した。


だが。


そこにはもう誰もいない。


背後。


剣が走る。


レオンハルトの背中が大きく裂けた。


振り返った時には、もういない。


右。


拳が顔面へ直撃する。


身体が飛ぶ。


ザインが追いつく。


蹴り。


今度は逆方向へ吹き飛ばされる。


重力がザインを追う。


だが、発生した時には既に次の場所へ移動している。


右。


左。


背後。


上。


地面が次々と重力で陥没する。


その全てが、ザインの残像を追うように僅かに遅れていた。


重力が遅いわけではない。


ザインが速すぎる。


レオンハルトが攻撃を止めた。


両腕を上げる。


剣が叩き込まれる。


防ぐ。


次の瞬間には横から蹴り。


受ける。


今度は背後から剣。


首を守る。


ザインが消える。


拳。


腹部。


身体が浮く。


追撃。


再び剣。


今は。


防ぐしかない。


アーヴェルは術式を構築しながら、その戦いを視界の端で捉えていた。


先ほどまでとは明らかに違う。


ザインが踏み込むたびに大地が砕け、レオンハルトの重力すらその動きを捉えられていない。


だが、それ以上に気になるものがあった。


剣を振るうたび、ザインの腕が僅かに震えている。


踏み込む脚には、尋常ではない負荷がかかっている。


呼吸も、心拍も。


明らかに正常ではない。


――あの出力。


かなり肉体に負担をかけている。


それ故の力か。


長くは持たない。


アーヴェルは術式の構築を急いだ。


一秒たりとも無駄にはできない。


剣先へ大気を集める。


圧縮。


さらに圧縮。


その間もザインは止まらない。


レオンハルトが拳を振るう前に斬る。


重力を発生させる前に移動する。


防御を固めれば、別方向から蹴りを叩き込む。


完全にザインが押している。


それでも。


その身体には確実に負荷が蓄積していた。


腕が軋む。


脚が悲鳴を上げる。


全身を流れる魔素が、人間の肉体を限界まで駆動し続ける。


三十秒。


それだけでいい。


レオンハルトも、このままではザインを捉えられないと判断した。


自分自身を中心に。


重力を発生させる。


周囲一帯の地面が沈んだ。


「っ……!」


ザインの身体が一気に重くなる。


初めて。


その速度が僅かに落ちた。


レオンハルトが拳を振るう。


ザインは剣で受ける。


轟音。


足元が砕けた。


それでも退かない。


重力圏の中を、力ずくで踏み込む。


一歩。


さらに一歩。


剣を振るう。


レオンハルトが腕で防ぐ。


そのままザインの蹴りが腹部へ突き刺さった。


レオンハルトの身体が重力圏の外へ飛び出す。


ザインも追う。


再び。


剣。


拳。


蹴り。


レオンハルトは防御に徹する。


だが、ザインの身体も限界へ近づいている。


剣先へ集まった大気が、青白く光り始めた。


電離。


アーヴェルはさらに圧縮する。


青白い光が、徐々に白へ近づいていく。


ザインがレオンハルトの腕を斬る。


肩を斬る。


腹を裂く。


高速再生が追いつかない。


レオンハルトは防ぐ。


ザインは攻め続ける。


そして。


ザインの右脚が僅かに沈んだ。


「……っ」


ほんの一瞬。


踏み込みが遅れる。


レオンハルトは見逃さなかった。


重力。


ザインの身体が地面へ叩きつけられる。


「ぐっ……!」


その隙にレオンハルトが走る。


アーヴェルへ。


ザインが顔を上げた。


距離が開く。


レオンハルトが迫る。


アーヴェルは動かない。


剣先には、既に白い光が形成されている。


あと僅か。


ザインが立ち上がろうとする。


全身が軋む。


その時。


「ザイン!」


アーヴェルの声が戦場に響いた。


剣先。


そこには。


眩いほどの白い光があった。


周囲の大気を一点へ圧縮し。


電離させ。


さらに逃げ場を失うほど押し込められた、高密度のプラズマ。


アーヴェルが剣を構える。


「できたぞ」


三十秒。


ザインはレオンハルトを見る。


もう。


守る必要はない。


ここからは――


当てるために動く。


ザインは再び剣を握った。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


ついにザインが、全身100%を解放しました。


これまでも部位ごとに限界まで出力を引き上げることはありましたが、今回は全身を同時に100%へ。


レオンハルトの重力すら捉えきれない速度で、三十秒間ほぼ一方的に攻め続けます。


ただし、制御できることと、肉体が耐えられることは別。


アーヴェルがその異常な負荷に気づく中、約束の三十秒が経過しました。


超圧縮されたプラズマは完成。


あとは――当てるだけ。


次回、決着へ。

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