人ならざる再戦
かつて刃を交えた二人が、再び戦場で向かい合う。
あの頃より強くなったザイン。
そして――あの頃とは違う何かになったレオンハルト。
二人の再戦が始まります。
二人は、ほぼ同時に地面を蹴った。
最初に間合いへ踏み込んだのはザインだった。
低く構えた剣を横薙ぎに振るう。
レオンハルトは僅かに身体を引いて刃をかわすと、そのままザインの顔面へ拳を振り抜いた。
「っと!」
ザインは首を傾けてかわす。
頬を掠めた拳が風を裂く。
その腕が伸び切るより早く、ザインは懐へ潜り込んだ。
「お返し」
腹部へ蹴りを叩き込む。
鈍い衝撃。
レオンハルトの身体が数メートル後方へ滑った。
だが、倒れない。
「……」
レオンハルトは自らの腹部へ視線を落とし、何事もなかったかのように姿勢を戻した。
「なるほど」
「ん?」
「貴様も以前よりかは、肉体的に強くなったようだな」
「そりゃどうも」
ザインは剣を肩へ担ぐ。
久しぶりに顔を合わせたというのに、妙な感覚だった。
あの時と同じ。
目の前にいる男は敵で。
互いに殺すために向き合っている。
それなのに。
「まあ、前回と違うのは――」
ザインは周囲をちらりと見回した。
怒号。
剣戟。
飛び交う魔法。
そして、血。
「紅茶がないくらいか」
一瞬。
レオンハルトが黙った。
やがて。
「……ふふ」
小さく笑う。
「確かにな」
「だろ?」
「では、終わった後にでも用意するとしよう」
「遠慮しとくわ。前回飲んだあと、碌なことにならなかったからな」
「残念だ」
「全然そう見えねぇけど」
次の瞬間。
ザインの表情から笑みが消えた。
踏み込む。
剣を振り下ろす。
レオンハルトが腕を上げた。
ガァン!!
刃と腕が激突する。
「……っ」
ザインの眉が僅かに動く。
硬い。
以前も異常な肉体だった。
だが。
今は、それ以上。
レオンハルトが腕を振る。
剣が弾かれる。
ザインはその勢いに逆らわず身体を回転させ、踵を側頭部へ叩き込んだ。
レオンハルトの頭が横へ振れる。
ザインは止まらない。
着地。
踏み込み。
今度は剣先を胸へ。
レオンハルトが身体を捻る。
刃が胸を浅く裂いた。
血が飛ぶ。
「お」
ザインが笑う。
「ちゃんと血は出んだな」
「何を期待していた?」
「もっと化け物っぽいの」
「そうか」
レオンハルトは胸の傷を見る。
「期待に沿えず、申し訳ないな」
「別に謝らなくていいよ」
再び。
激突。
剣と拳。
蹴りと蹴り。
ザインが斬れば、レオンハルトがかわす。
レオンハルトが殴れば、ザインが受け流す。
互いに一歩踏み込めば。
互いに一歩を奪い返す。
以前とは違う。
ザイン自身、それは分かっていた。
身体は強くなった。
魔素を取り込む量も。
身体へ回す効率も。
剣の技術も。
あの頃とは比べ物にならない。
それでも。
「……」
ザインはレオンハルトの拳を剣の腹で受けた。
衝撃が腕まで響く。
後ろへ二歩。
下がる。
「やっぱ」
剣を軽く振る。
痺れ。
取る。
「お前も前より強くなってんな」
「当然だ」
レオンハルトが歩いてくる。
「貴様だけが時を過ごしたわけではない」
「そりゃそうだけどさ」
ザインは相手の身体を見る。
違和感。
さっきから。
ずっと。
感じている。
胸。
ザインが裂いた傷。
浅い。
致命傷どころか、大した傷ではない。
それでも普通なら。
動けば。
多少なりとも傷口は開く。
痛みもある。
だが。
レオンハルトには。
それがない。
まるで。
自分の身体ではないかのように。
「……なあ」
ザインが剣先を向ける。
「何だ」
「何された?」
レオンハルトの足が止まる。
「何?」
「その身体」
ザインの目から、少しだけ軽さが消える。
「前のお前じゃねぇだろ」
沈黙。
周囲では戦争が続いている。
それでもレオンハルトは急ぐ様子もなく、自らの右手を見つめた。
「……必要だった」
「何が」
「力が」
ザインは黙って聞く。
「あの日」
レオンハルトがザインを見る。
「貴様に敗れて、理解した」
拳。
ゆっくり。
握る。
「人間のままでは、届かない領域がある」
「……」
「故に」
「越えた」
ザインは少し考える。
「つまり」
一拍。
「人間辞めましたって?」
「結果としては、そうなるな」
「思い切ったなぁ」
「貴様に言われたくはない」
「俺は一応人間だよ」
「そうか?」
「たぶん」
「自信を持て」
ザインが笑う。
「お前に言われるとは思わなかったわ」
レオンハルトも僅かに口元を上げる。
だが。
次の瞬間。
空気が変わった。
ザインの笑みが消える。
「……」
レオンハルトの構え。
さっきまでとは。
違う。
「では」
静かに腰を落とす。
「こちらも少し、上げるとしよう」
ザインが剣を構え直した。
「まだあんの?」
「貴様もあるのだろう?」
「……まあね」
互いに。
それ以上は聞かない。
次の瞬間。
レオンハルトが消えた。
「――っ!」
ザインの目が見開く。
速い。
反射。
剣を上げる。
直後。
横から衝撃。
ドォン!!
「ぐっ……!」
ザインの身体が吹き飛んだ。
地面へ落ちる。
一度。
二度。
跳ねる。
ザインは空中で身体を捻り、剣を地面へ突き刺した。
ザザザザザッ!!
土を抉りながら、ようやく止まる。
「……」
頬。
血。
ザインは親指で拭った。
遠く。
レオンハルト。
立っている。
「……なるほどね」
ザインは立ち上がる。
さっきまでとは違う。
速さ。
力。
どちらも。
明確に上がった。
「これは」
ザインは剣を引き抜く。
「ちょっと面倒かもな」
◇
その頃。
別の場所でも。
戦場の空気が変わり始めていた。
ザインが一人を瞬殺したことで。
残った教団幹部は七人。
その七人が、それぞれ散った。
「来るぞ!」
ガレスが剣を構える。
その正面。
巨大な斧を担いだ男が笑う。
「貴様が俺の相手か」
「らしいな」
ガレスは周囲を確認する。
ダリオ。
シグ。
リナ。
ミレイア。
さらに。
レグルス。
エリオン。
それぞれの前に。
一人ずつ。
敵。
「ザインの野郎」
ガレスが小さく笑う。
「本当に一人一体置いていきやがった」
ダリオが武器を構える。
「分かりやすくていいじゃないですか!」
「お前は前向きだな!」
少し離れた場所。
リナは自分の正面に立つ女を見ながら、片手を上げる。
「……面倒そうですね」
女が笑う。
「随分と余裕そうね」
「そう見えます?」
「ええ」
「なら」
魔法陣。
展開。
「そのまま勘違いしていてください」
炎。
放たれる。
さらに別の場所。
レグルスは拳を鳴らした。
「一対一か」
正面。
幹部。
剣。
構える。
「獣人如きが――」
「お」
レグルスが笑う。
「そういう感じか」
一歩。
前へ。
「いいぞ」
牙。
見える。
「嫌いじゃねぇ」
エリオンも。
杖。
構える。
シグは何も言わず。
短剣を抜く。
ミレイアは周囲を確認しながら、正面の敵から目を離さない。
そして。
ダリオも。
武器を握る。
七人。
七人。
戦場の各所で。
新たな戦いが始まった。
そのさらに外側では。
第1軍が魔改造兵を押し返している。
「前列、進め!」
アーヴェルの号令。
第1軍が一斉に前進する。
「突出するな! 隊列を維持しろ!」
魔法。
飛ぶ。
敵。
倒れる。
さらに。
剣。
槍。
次々。
魔改造兵を押し返す。
アーヴェルは自らも敵を斬りながら、戦場全体を見ていた。
七人の幹部。
ザインの部下たち。
獣王国。
エルフ国。
ラウゼン軍。
そして。
「……」
ザイン。
かなり。
遠い。
敵軍の奥。
既に姿はほとんど見えない。
「また勝手に行きやがって」
小さく呟く。
その時。
ドォン!!
遠く。
巨大な音。
アーヴェルの視線が向く。
「……?」
何か。
飛んだ。
人。
地面。
跳ねる。
剣。
突き刺す。
止まる。
「……」
アーヴェルの表情が変わった。
ザイン。
吹き飛ばされた。
あのザインが。
「団長!」
部下の声。
「右から来ます!」
「分かっている!」
アーヴェルは迫ってきた敵を斬る。
だが。
視線。
もう一度。
奥へ。
ザインが立ち上がる。
そして。
その向こう。
一人。
男。
立っている。
遠い。
顔。
僅かに。
見える。
「……」
アーヴェルの目が細くなる。
知っている。
見間違えるはずがない。
エルグラン国内で。
何度も。
その名を聞いた。
顔を合わせたこともある。
「……レオンハルト」
だが。
同時に。
違和感。
知っている男。
なのに。
知らない。
何だ。
あの身体。
何だ。
あの気配。
アーヴェルの表情から、僅かに余裕が消えた。
「……お前」
遠く。
レオンハルトを見る。
「何になった」
ここまでお読みいただきありがとうございます!
久しぶりのザインVSレオンハルト。
ザインだけでなく、レオンハルトもまた、以前とは大きく変わっていました。
そして、その異変に気づいたアーヴェル。
一方では七人の幹部との戦いも始まり、戦場はさらに激しくなっていきます。
次回もよろしくお願いします!




