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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
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戦場の再開

援軍の到着によって、動き始める戦況。


そして戦場の奥で、ザインを待つ者。


第61話です。

戦いが始まってから、どれほどの時間が経ったのか。


ザインには、もう分からなかった。


ただ一つだけ、はっきりしていることがある。


「……減らねぇな」


一体の首を刎ねる。


その身体が地面へ倒れるより早く、次の魔改造兵がザインへ斬りかかってきた。


ザインは身体を沈めて刃をかわし、そのまま懐へ潜り込む。


横薙ぎ。


腹が裂ける。


背後から迫る気配に振り返り、今度は正面から剣を受け止めた。


ガァン!!


「……っ」


重い。


普通の兵士とは、明らかに身体の作りが違う。


それでも、ザインの表情は変わらない。


「お前ら、本当にしぶといな」


押し込まれていた剣を一気に弾き返す。


体勢を崩した相手の胸へ蹴りを叩き込み、後ろにいた数体ごと吹き飛ばした。


ザインは剣を肩へ担ぎ、周囲を見回す。


地面には、既に数え切れないほどの死体が転がっている。


それでも。


前にも。


後ろにも。


右にも左にも。


敵はまだいる。


「一万って聞いた時は、どうなるかと思ったけど」


また一体。


剣が走る。


首が落ちる。


「一体一体なら、別に大したことねぇな」


血を払う。


その向こうから、また次の波が押し寄せてくる。


ザインは小さく息を吐いた。


「問題は、数か」



敵軍最前列。


「右だ!」


ガレスの声が飛ぶ。


ダリオが即座に前へ出ると、巨大な魔改造兵二体が真正面から突っ込んできた。


激突。


鈍い音とともに地面が沈む。


「っ……!」


押される。


だが、ダリオは下がらない。


「リナ!」


「もうやってます!」


後方では、リナが既に片手を向けていた。


詠唱はない。


魔法陣だけが、一瞬で組み上がる。


「ダリオ、伏せて!」


「はい!」


ダリオが身体を沈めた直後、頭上を炎が走った。


爆発。


二体の魔改造兵がまとめて吹き飛び、さらにその後ろにいた敵まで巻き込んでいく。


ダリオは立ち上がりながら、少しだけ振り返った。


「今回は先に言いましたね!」


「前回怒られましたから」


「覚えてたんですね!」


「私を何だと思ってるんですか」


「喋ってる場合か!」


ガレスが横から飛び込んできた敵を斬り伏せる。


「次来るぞ!」


「はい!」


その直後。


一体の魔改造兵が戦線を抜け、城へ向かって走り出した。


ラウゼン兵が気づく。


「抜かれた!」


だが。


三歩も進まない。


喉から刃が突き出る。


「……え?」


倒れる敵兵。


その背後には、いつの間にかシグが立っていた。


「終わり」


短剣を抜く。


ガレスが横目でそれを見る。


「シグ! 左も薄い!」


返事はない。


数秒後。


左側で一人。


二人。


三人。


魔改造兵の首が次々と落ちた。


その中。


シグがぼそりと答える。


「行ってる」


「だったら先に返事しろ!」


後方では、ミレイアが休む間もなく戦場全体へ視線を走らせていた。


「右前方! 負傷者!」


杖を向ける。


淡い光が飛び、裂かれていたラウゼン兵の肩が塞がっていく。


「まだ戦えます!」


「助かる!」


「礼は後で!」


次。


脇腹から血を流す獣人。


さらに、腕を斬られたダリオ。


ミレイアは次々と治癒を飛ばしながら、絶えず戦線を支えていく。


ダリオが一瞬だけ振り返った。


「ありがとうございます!」


「前を見てください! まだ来ます!」


「はい!」


ガレスはその全てを見ながら、戦場の穴を探していた。


「左が薄い! ダリオ、寄れ!」


「了解!」


「リナ! 前列まとめて削れ!」


「もうやってます!」


巨大な魔法陣が展開される。


直後。


爆発。


十数体がまとめて吹き飛んだ。


ガレスは敵を斬りながら、小さく笑う。


「……ったく」


遠く。


敵軍中央。


ザインが一人で暴れている。


「楽な仕事、押し付けやがって」


ダリオが隣を見る。


「これが楽ですか?」


ガレスは一体を斬り倒す。


「言ってみただけだ!」



獣王国側。


レグルスが巨大な武器を振るう。


一撃で魔改造兵三体がまとめて吹き飛び、そのまま地面を転がった。


「押せ!!」


獣人たちが咆哮する。


「前を空けるな!」


「おおおおおお!!」


次の敵が来る。


レグルスは真正面から受け、力任せに押し返した。


「この程度で止まるか!」


さらに一体。


横薙ぎ。


敵が宙を舞う。


反対側。


エルフ軍。


「第二陣!」


エリオンの号令。


後方に並ぶエルフたちが一斉に魔法陣を展開する。


「放て!」


炎。


氷。


雷。


魔法の雨が敵軍へ降り注ぎ、前列を一気に飲み込んだ。


だが。


エリオンはすぐに次を撃たせない。


「第三陣は待機!」


「ですが、まだ押せます!」


「今撃ち切れば後半が持ちません!」


一万。


相手にしているのは、短期戦ではない。


「魔力を残してください!」


「……はい!」


エリオンは戦場を見渡す。


ラウゼン兵。


獣人。


エルフ。


そして。


敵軍中央。


「……あの人は」


遠くで、また魔改造兵が吹き飛ぶ。


ザイン。


一人。


「本当に無茶ばかりする」



そのザインは、まだ止まっていなかった。


一体。


斬る。


次。


また斬る。


「数えてたら途中で飽きそうだな」


真正面から突っ込んできた魔改造兵の剣を受け止める。


ガァン!!


ザインの足元が僅かに沈む。


相手はさらに力を込める。


ザインは目を細めた。


「お前、ちょっとだけ強いな」


剣を押し返す。


一歩。


詰める。


首。


落とす。


「……ちょっとだけだけど」


その時。


遠くで。


ドォン!!


爆音。


ザインが顔を上げる。


「……?」


今の魔法。


敵じゃない。


味方。


それも。


どこか見覚えがある。


続けて、強烈な風が戦場を横切った。


魔改造兵が数体まとめて吹き飛ぶ。


ザインの表情が変わる。


「……まさか」


背後。


聞き覚えのある声。


「なんだ」


ザインがゆっくり振り返る。


「随分と楽しそうじゃないか」


「……」


そこにいた男。


剣を肩へ担ぎ。


その後ろには、見覚えのある鎧と紋章。


エルグラン王国。


第1軍。


ザインの目が僅かに開く。


「……アーヴェル?」


アーヴェルは笑った。


「久しぶりだな」


「なんでお前らがここにいんだよ」


一体の魔改造兵が横から襲いかかる。


アーヴェルは視線すら向けず、剣を振った。


風が炸裂し、敵兵が吹き飛ぶ。


「国外任務の帰りだ」


アーヴェルは周囲の軍勢を見る。


「妙な軍勢がラウゼン方面へ向かっているのが見えてな」


一拍。


「寄ってみた」


ザインは周囲を見回す。


一万。


血。


死体。


魔法。


「寄ってみたって規模じゃねぇだろ」


「そうか?」


「そうだよ」


ザインは少しだけ笑う。


「つーか、遅ぇんだよ」


「何?」


「各地で土産でも選びすぎて、時間掛かったか?」


アーヴェルの眉が動く。


「助けに来た人間に、それが第一声か?」


「久しぶりだからな」


「ならもう少し感動しろ」


ザインは少し考える。


「泣く?」


「気色悪いからやめろ」


「だろ?」


二人。


笑う。


その間にも、敵は止まらない。


アーヴェルが剣を構える。


ザインも横に並んだ。


「で?」


ザインが聞く。


「やれんの?」


アーヴェルはザインを見る。


「誰に聞いている」


その後ろ。


第1軍が一斉に武器を構えた。


「第1軍団長」


アーヴェルが剣先を敵軍へ向ける。


「アーヴェル・グランツだ」


ザインの口元が上がる。


「……頼もしいねぇ」


アーヴェルはザインを横目で見る。


「疲れでも溜まってるか?」


ザインの眉が上がる。


「は?」


「少し動きが雑だ」


「来て早々、喧嘩売ってんの?」


「事実を言っただけだ」


ザインは一歩前へ。


「じゃあ見とけよ」


敵が迫る。


次の瞬間。


ザインの姿が消えた。


首が一つ。


二つ。


三つ。


飛ぶ。


ザインは血を払って振り返る。


「どう?」


アーヴェルは少しだけ黙る。


「……まあ」


「何だよ」


「まだ使えそうだな」


「上から言うな!」


そして。


第1軍が戦場へ雪崩れ込む。


一気に。


魔改造兵が押し返される。


剣。


槍。


魔法。


今まで物量で押していた教団軍の勢いが、明らかに鈍り始めた。


ラウゼン兵たちから声が上がる。


「援軍だ!」


「エルグランだ!」


「第1軍だ!!」


レグルスも遠くからその軍勢を見る。


「……あれが」


エリオンも続く。


「ザインの所属する第1軍……」


前線。


ガレスが敵を斬りながら笑う。


「やっと来たか」


ダリオが見る。


「来ると知っていたんですか?」


「いや」


ガレスは次の敵を斬り倒す。


「なんとなくだ!」


「適当ですね!」


第1軍が加わったことで。


戦況は。


僅かに。


こちらへ傾き始める。


ザインは剣についた血を払い、敵軍の奥を見る。


「……いいねぇ」


アーヴェルも並ぶ。


「このまま押すぞ」


「ああ」


その時。


敵軍の奥で。


動きがあった。


八人。


周囲の魔改造兵とは明らかに違う者たちが、ゆっくりと前へ出てくる。


一人は退屈そうに首を鳴らし。


一人は手についた血を舐め。


一人は、笑っていた。


その中から。


男が一人。


前へ。


「……」


ザインの目が細くなる。


違う。


今までの雑兵とは。


纏う空気が。


明らかに違う。


男もザインを見た。


「……貴様が」


ザインは剣を肩へ担ぐ。


「ん?」


「ザインか」


「そうだけど」


男は一歩前へ出る。


「我が名は――」


ザインの姿が消えた。


「――」


男の目が見開く。


次の瞬間。


首が飛ぶ。


血が噴き上がり、身体がゆっくりと崩れ落ちる。


その背後。


ザインは剣についた血を払った。


「悪い」


振り返らない。


「今、自己紹介聞いてる暇ねぇんだわ」


残った七人。


表情が変わる。


ザインは剣先を向けた。


「お前ら!」


声が飛ぶ。


ガレス。


ダリオ。


シグ。


ミレイア。


リナ。


さらに。


レグルス。


エリオン。


全員がザインを見る。


ザインは残った七人を示す。


「こいつら、任せた!」


ガレスの眉が寄る。


「お前は?」


ザインは答えない。


視線は。


七人のさらに奥。


軍勢の奥。


その向こう。


そこに。


一人。


男が立っている。


「……」


ザインの表情が変わる。


何だ。


分からない。


だが。


違う。


今まで倒してきた敵とも。


目の前の七人とも。


何かが。


明らかに違う。


身体が。


本能が。


警告している。


ザインは剣を強く握った。


「……なんだ、あれ」


ガレスがザインを見る。


「ザイン?」


ザインは目を離さない。


「悪い」


一歩。


前へ。


「こいつら頼む」


「だから、お前はどこ行くんだよ!」


ザインは軍勢の奥を指した。


「俺は――」


一拍。


「……あいつに集中しなきゃいけなさそうだ」


地面を蹴る。


一直線。


男へ。


何百もの魔改造兵が道を塞ぐ。


ザインは止まらない。


一体。


斬る。


二体。


蹴り飛ばす。


三体。


首を落とす。


進行方向にいる敵だけを倒し。


横から来る敵には構わない。


ただ。


一直線。


その男へ。


距離が縮まる。


顔が。


少しずつ。


見えてくる。


「……」


ザインの目が細くなる。


見覚えがある。


いや。


まさか。


最後の一体。


斬り伏せる。


その先。


男が一人。


静かに立っていた。


ザインの足が止まる。


「……」


男がゆっくり顔を上げる。


ザインの目が見開く。


「……お前」


男の口元が僅かに上がった。


「久しいな」


一拍。


「ザイン」


ザインはしばらく何も言わなかった。


そして。


その名を口にする。


「……レオンハルト」


レオンハルトは静かに笑う。


ザインは剣を下げたまま、相手を見つめる。


「お前……まだ生きてたのかよ」


レオンハルトは自分の身体へ視線を落とした。


「生きている、か」


少しだけ間を置く。


「それが今の俺に適切な表現なのかは、俺にも分からんな」


ザインはゆっくりと剣を構えた。


レオンハルトも構える。


周囲では。


怒号。


悲鳴。


魔法。


剣戟。


戦争が続いている。


それでも。


二人の間だけは。


まるで別の空間のように。


静かだった。


ザインの口元が少しだけ上がる。


「……まあ」


剣を握り直す。


「生きてようが、死んでようが」


一歩。


「関係ねぇか」


レオンハルトも笑う。


「そうだな」


ザインは姿勢を低くした。


「じゃあ――」


目が鋭くなる。


「続き、やろうぜ」


次の瞬間。


二人は同時に地面を蹴った。

ここまでお読みいただきありがとうございます!


ついに、ザインは戦場の奥にいた男と再会しました。


第1軍の参戦、教団幹部たちの登場。

そして、止まっていた二人の戦いが再び動き始めます。


次回もよろしくお願いします!

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