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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
イリス奪還編
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60/102

明日を託す日

ラウゼンへ迫る、一万の魔改造軍団。


援軍が間に合う保証もない中、ザインたちは戦う覚悟を決めました。


しかし――。


獣王国。


そして、エルフの国。


ザインがこれまで築いてきた縁が、今度は大きな力となってラウゼンへ集います。


第60話「明日を託す日」


よろしくお願いします!



ラウゼン王国。


朝。


復興の音が消えた街には、代わりに武器と鎧の音が響いていた。


城壁の上。


ザインは遠くの街道を眺めていた。


「……お」


視線の先。


こちらへ向かってくる、大きな軍勢。


一つではない。


別方向からも、もう一つ。


風に靡く旗を見て、ザインは目を細めた。


「……意外と早かったな」


隣に立つレオニスも、僅かに安堵したように息を吐く。


「ああ。私も驚いている。連絡を送ってから、まだそれほど経っていない」


「急かしすぎたんじゃねぇの?」


「一刻を争う状況だったんだ。仕方ないだろう」


「まあ、来てくれたなら何でもいいか」


ザインは城壁から離れる。


「行こうぜ。せっかく来てくれたんだ」


◇


城門。


巨大な門が開く。


最初に入ってきたのは、獣王国軍。


人間よりも一回り大きな体躯を持つ者。


巨大な武器を背負う者。


鋭い牙や爪を覗かせる者。


見るからに近接戦に長けた獣人たちが、次々とラウゼンへ入ってくる。


そして。


その先頭。


見覚えのある男。


ザインの口元が上がる。


「レグルス!」


声に気づき。


レグルスもザインを見る。


「ザイン!」


歩み寄る二人。


ザインは、その後ろに続く軍勢を見る。


「すげぇ数連れてきたな」


「当然だ」


「もっと掛かると思ってた」


レグルスが鼻を鳴らす。


「借りを返す機会を、他の誰かに取られてたまるか」


「借り?」


ザインが首を傾げる。


「俺、なんか貸したっけ?」


「……お前は本当に」


レグルスが呆れる。


「こちらが勝手に借りだと思っているだけだ。気にするな」


「なら気にしねぇわ」


「少しくらい気にしろ」


ザインが笑う。


レグルスも小さく笑った。


そして。


「獣王陛下から伝言だ」


「ん?」


レグルスは少しだけ姿勢を正す。


「『頼れと言ったはずだ』――とのことだ」


ザイン。


一瞬。


目を丸くする。


それから。


「……ははっ」


小さく笑った。


「じゃあ、遠慮なく頼らせてもらうわ」


「ああ」


レグルスは拳をザインへ突き出す。


「そのために来た」


ザインも。


拳を合わせる。


「助かる」


その時。


別方向から。


声。


「ザイン!」


「ん?」


振り返る。


今度は。


エルフ国軍。


獣王国軍ほど人数は多くない。


だが。


ザインでも分かるほど、一人一人から濃密な魔力を感じる。


その先頭から。


一人の男が歩いてくる。


「エリオン」


「無事そうですね」


「見りゃ分かるだろ」


「あなたの場合、その判断が難しいんですよ」


「なんでだよ」


「怪我をしていても平然としているでしょう」


「……まあ」


ザイン。


視線。


逸らす。


「否定はしねぇ」


エリオンがため息をつく。


「相変わらずですね」


ザインはエルフ軍を見る。


「お前らも、随分連れてきたな」


「当然です」


「いや」


ザイン。


レグルスを見る。


「こいつにも言ったんだけどさ」


「はい?」


「なんでそんな迷いなく来てくれんの?」


エリオンは一瞬。


ザインを見る。


そして。


小さく笑う。


「あなたには、我々の里で随分と助けられました」


「だから?」


「それもあります」


エリオンはラウゼンの街を見る。


復興途中の建物。


行き交う兵士。


そのさらに奥。


避難する民。


「ですが」


再び。


ザインを見る。


「あなたが命を張って守ろうとしている場所なのでしょう?」


「……」


「ならば」


エリオンは静かに言った。


「今度は、我々があなたに力を貸す番です」


ザイン。


少し。


黙る。


レグルスが横から笑う。


「諦めろ」


「何をだよ」


「お前がどう思っていようと、俺たちはお前に借りがある」


エリオンも頷く。


「同感です」


「……」


ザイン。


二人を見る。


そして。


頭。


掻く。


「どいつもこいつも律儀だなぁ」


「文句があるなら帰るぞ」


レグルス。


踵。


返す。


ザイン。


即座。


腕。


掴む。


「待て待て待て!」


「何だ」


「それは困る」


「なら素直に感謝しろ」


「してるって!」


エリオンが笑う。


ザイン。


二人を見る。


「……ありがとな」


レグルス。


鼻。


鳴らす。


「最初からそう言え」


エリオンも微笑む。


「ええ。本当に」


「うるせぇな」


少し離れた場所。


その光景を見ていたレオニスが、小さく笑う。


「……随分と好かれているじゃないか」


ザイン。


振り返る。


「人徳だな」


「それは違う」


レグルス。


即答。


「違いますね」


エリオンも。


即答。


「お前らなぁ!?」


僅かな笑い。


これから戦争が始まるとは思えないほど。


ほんの一瞬だけ。


空気が和らいだ。


◇


王城。


作戦会議。


机の上に広げられた地図を囲み、三国の指揮官たちが集まっていた。


レオニスが口を開く。


「敵は、およそ一万」


地図の一点。


ラウゼンへ向かって伸びる進軍経路を指す。


「ほぼ全てが、教団によって何らかの改造を施された兵士と考えている」


獣王国側。


レグルスが腕を組む。


「こちらの戦力は?」


レオニスが答える。


ラウゼン軍。


獣王国軍。


エルフ国軍。


全てを合わせても。


敵の一万には届かない。


「……」


僅かに空気が重くなる。


ザインは地図を眺めながら頬を掻いた。


「まあ」


顔を上げる。


「数じゃ負けてんな」


レオニスがザインを見る。


「随分と軽く言うな」


「重く言ったら増えんのか?」


「増えない」


「じゃあ同じだろ」


「……お前は」


レオニスがため息をつく。


レグルスが小さく笑った。


「ザインらしい」


「だろ?」


「褒めてはいない」


「お前までそれ言う?」


「ともかく」


レオニスが地図へ視線を戻す。


「戦い方を決める」


中央。


「ラウゼン軍は正面。防衛設備を利用し、戦線を維持する」


左右。


「獣王国軍には両側面から敵陣を崩してもらいたい」


レグルス。


頷く。


「任せろ」


「エルフ国軍は後方から広範囲魔法による支援を」


エリオン。


「承知しました」


そして。


レオニスがザインを見る。


「ザイン」


「ん?」


「お前たちは遊撃だ」


「遊撃?」


「ああ。戦線が崩れた場所、強力な敵が現れた場所。その全てに自由に対応してほしい」


ザイン。


少し考える。


「つまり」


一拍。


「好きに暴れていいってことか」


「……お前の場合は、その説明の方が早そうだな」


ザイン。


笑う。


「最初からそう言えよ」


「軍議だからな!」


「はいはい」


ザインが立ち上がる。


「了解」


その後ろ。


ガレス。


ダリオ。


シグ。


ミレイア。


リナ。


直属の五人も立ち上がった。


ザインは振り返る。


「俺らは一番面倒なところ担当だってよ」


ガレスが鼻で笑う。


「いつも通りじゃねぇか」


「だな」


◇


数時間後。


「――敵軍確認!!」


城壁から響いた声。


一瞬にして。


空気が変わる。


兵士たちが一斉に配置につく。


ザインも城壁へ上がった。


遠く。


地平線。


黒い。


最初は。


一本の線。


それが。


徐々に。


太くなる。


近づく。


やがて。


人の形が見え始める。


人。


人。


人。


人。


人。


地平線を埋め尽くす。


黒い軍勢。


ザッ。


ザッ。


ザッ。


ザッ。


足音が重なる。


遠く離れているというのに。


大地を通じて。


振動が伝わる。


兵士たちがざわつく。


「……あれが」


「全部……?」


「一万……」


数字では聞いていた。


だが。


実際に目の前へ現れた一万は。


まるで違う。


ザインも。


黙っていた。


「……」


炎。


悲鳴。


血。


二年前。


一瞬だけ。


視界に重なる。


ザインは目を閉じる。


息を吐く。


そして。


もう一度。


目を開けた。


「……やっぱ」


剣の柄に手を置く。


「見ると多いな」


その横。


ガレスがザインを見る。


「……」


だが。


何も言わない。


ザインも。


何も言わなかった。


やがて。


レオニスが全軍の前へ出た。


ラウゼン兵。


獣王国軍。


エルフ国軍。


数千の視線が。


一人へ集まる。


レオニスは彼らを見渡した。


「諸君」


ざわめきが消える。


「私は今日」


静かな声。


「お前たちに、生きて帰れとは言えない」


兵士たちの顔が強張る。


「敵は一万」


「我々より遥かに多い」


「戦えば」


一拍。


「多くの者が命を落とすだろう」


誰も。


目を逸らさない。


「それでも」


レオニスは続ける。


「私は、お前たちに戦えと命じなければならない」


拳を握る。


「我々がここで退けば」


振り返る。


その先。


ラウゼンの街。


「次に剣を向けられるのは、武器を持たぬ民だ」


「子供がいる」


「家族がいる」


「ようやく戻り始めた、この国の日常がある」


風が吹く。


三国の旗が大きく揺れる。


レオニスは。


再び。


兵士たちを見る。


「だから――」


息を吸う。


「今日は」


一拍。


「明日を生きる民のために」


「己の明日を捨てて」


声が響く。


「戦ってほしい」


静寂。


あまりにも。


残酷な言葉。


だが。


レオニス自身。


それを理解している。


だから。


誤魔化さない。


「これは、身勝手な願いだ」


「それでも――」


胸へ手を置く。


「この国の明日を」


全員を見る。


「私に預けてくれ」


一秒。


二秒。


一人の兵士が。


槍を掲げる。


「おおおおおおお!!」


次。


剣。


「おおおおおお!!」


また。


次。


次。


そして。


数千の声が。


一つになる。


「おおおおおおおおおおおおお!!」


大地。


震える。


ザインは。


その光景を黙って見ていた。


やがて。


後ろを振り返る。


ガレス。


ダリオ。


シグ。


ミレイア。


リナ。


「……聞いたか、お前ら」


ガレスが答える。


「ああ」


他の四人も。


ザインを見る。


ザインは剣を抜いた。


「俺らは今回」


剣を肩へ乗せる。


「最高火力だと思え」


五人の表情が変わる。


「俺らが一人多く殺せば」


「その分だけ」


後ろ。


兵士たちを見る。


「誰かが一人生き残る」


再び。


敵軍へ。


視線。


「ラウゼンの明日を確保したけりゃ――」


ザインの目が鋭くなる。


「躊躇うな」


一拍。


「殺せ」


さらに。


「殺して」


「殺して」


「殺しまくれ」


ガレスが苦笑する。


「相変わらず酷ぇ激励だな、ザイン」


ザインが見る。


「王子様より分かりやすいだろ」


「まあ」


ガレス。


剣を抜く。


「否定はしねぇよ」


ダリオが武器を握る。


「命令、承知しました」


リナも前を見る。


「やることはいつもと同じですね」


シグ。


短く。


「問題ない」


ミレイアは杖を握り締める。


「支援は任せてください、隊長」


ザイン。


笑う。


「頼んだ」


◇


敵軍。


さらに。


近づく。


レオニスが手を上げた。


「全軍!!」


ラウゼン兵。


盾。


前へ。


槍。


構える。


獣人たち。


低く。


姿勢を取る。


エルフ軍。


一斉に杖を掲げる。


「構え!!」


空。


魔法陣。


一つ。


二つ。


十。


数十。


大量の魔法陣が空を埋める。


ザインが見上げる。


「……派手だな」


リナが横から言う。


「見惚れないでください、隊長」


「綺麗だろ」


「今から人を殺す魔法ですよ」


「……それもそうだな」


レオニスが敵との距離を見る。


そして。


手を振り下ろした。


「――放て!!」


瞬間。


空が光る。


炎。


氷。


雷。


風。


無数の魔法。


一斉に。


降り注ぐ。


ドォォォォォォォン!!


大地。


揺れる。


敵軍前方。


爆発。


炎。


巻き上がる。


何十。


何百。


魔改造兵。


吹き飛ぶ。


ラウゼン兵から歓声。


「直撃だ!!」


「やったぞ!!」


「かなり削った!!」


だが。


ザインは。


煙を見ていた。


「……」


歓声。


徐々に。


消える。


煙。


その中。


一つ。


影。


歩く。


腕。


ない。


身体。


焼けている。


それでも。


歩く。


次。


腹。


裂けている。


歩く。


顔。


半分。


焼けた者。


歩く。


次。


また。


次。


止まらない。


「……は?」


兵士。


声。


震える。


「なんで……」


「なんで動ける……?」


ザインが剣を構えた。


「言っただろ」


低く。


「普通の人間だと思うな」


直後。


魔改造軍団。


走り出す。


一万。


一斉。


ドドドドドドドドド――!!


大地。


震える。


その中。


ザインだけが。


城壁の上から。


迫る軍勢を見下ろしていた。


「……」


一度。


五人を見る。


「じゃ」


剣を肩に乗せる。


「先行くわ」


「……は?」


ガレス。


目を丸くする。


ザイン。


城壁の縁へ。


片足。


乗せる。


ダリオがザインを見る。


「……隊長?」


リナ。


嫌な予感。


顔。


引きつる。


「まさか――」


ザインは。


五人を振り返った。


「お前らは」


迫る敵軍を指す。


「一匹たりとも城に近づけんな」


ミレイアがザインを見る。


「隊長は?」


「俺?」


ザイン。


一万の軍勢。


見る。


口元。


上がる。


「真ん中行ってくる」


「……」


五人。


固まる。


周囲。


ラウゼン兵も。


固まる。


ガレス。


一拍。


「……は?」


ザイン。


城壁。


蹴る。


「ちょっ――」


リナ。


手。


伸ばす。


「隊長!?」


遅い。


ザインの身体。


宙。


舞う。


「ザイン!!」


ガレスの声。


ザイン。


空中。


振り返る。


「言っただろ!!」


敵軍。


真下。


「一匹も通すなよ!!」


そのまま。


敵軍へ。


落ちていく。


「……」


ダリオ。


呆然。


「本当に行ってしまいましたが」


ガレス。


額。


押さえる。


「……あの馬鹿」


シグ。


既に。


敵を見る。


「来るぞ」


ガレス。


顔。


上げる。


敵軍。


目前。


「……ったく」


剣。


構える。


「行っちまったもんは仕方ねぇ」


四人を見る。


「聞いたな、お前ら」


ダリオ。


前へ。


「はい」


リナ。


魔力。


高める。


「もちろん」


ミレイア。


後方。


下がる。


「支援に入ります」


シグ。


姿勢。


低くする。


ガレス。


笑う。


「ザインの命令通りだ」


剣。


構える。


「一匹も――」


一拍。


「通すな!!」


「了解!!」


◇


その頃。


ザインは、敵軍の頭上にいた。


見下ろす先は、どこまでも敵で埋まっている。


「……多いなぁ」


落下の速度が上がる。


剣を抜き、頭上の魔改造兵を見据えると、身体を捻った。


そして。


一万の、ど真ん中へ。


ズドォォォン!!


地面が爆ぜ、土煙が巻き上がる。


周囲の魔改造兵が、衝撃で一斉に吹き飛んだ。


煙の中、ザインはゆっくり立ち上がる。


前も後ろも右も左も、全方向に敵。


剣を肩へ乗せ、周囲を見渡した。


「……よし」


口元が笑う。


「これなら」


一拍。


「間違えて味方斬ることもねぇな」


魔改造兵が一斉に襲いかかる。


一体、踏み込んで首を飛ばす。


振り返りざま、二体目の腹を裂く。


右から三体、同時に迫る。


身体を沈め、剣を横に薙ぐ。


二体の首と、一体の胸が同時に裂けた。


「次」


前の敵の剣を弾き、懐へ入って首を落とす。


「次」


背後には振り返らず、剣を後ろへ突き出す。


喉を貫き、抜くと血が散った。


さらに次、また次。


敵軍中央、ザイン一人によって進軍が乱れていく。


魔改造兵たちが、次々とザインへ向きを変える。


ザインは笑った。


「そうそう」


一体斬って、「こっち来い」


二体殺して、「俺だけ見てろ」


軍勢の内部が、少しずつ崩れ始める。


◇


一方。


敵軍最前列。


「来るぞ!!」


ガレス。


叫ぶ。


魔改造兵。


雪崩れ込む。


その真正面。


ダリオ。


一人。


前へ。


巨大な魔改造兵。


三体。


突っ込む。


一体。


激突。


ガァン!!


地面。


ダリオの足元。


沈む。


二体目。


さらに。


三体目。


加わる。


それでも。


ダリオ。


動かない。


歯。


食い縛る。


「ここから先は――」


腕。


力。


込める。


一気に。


押し返す。


「通さん!!」


三体。


体勢。


崩れる。


「リナ!」


ガレス。


叫ぶ。


だが。


リナは。


既に。


手。


向けている。


「分かってます」


魔法陣。


展開。


「ダリオ」


「はい?」


「三歩下がってください」


「なぜ――」


「早く」


ダリオ。


三歩。


下がる。


直後。


ドォン!!


目の前。


爆発。


魔改造兵。


まとめて。


吹き飛ぶ。


ダリオ。


爆風。


浴びる。


「……先に説明してください!」


リナ。


次。


魔法。


構築。


「下がれと言ったでしょう」


「そういう意味ではありません!」


「無事なら問題ありません」


「あります!」


「喧嘩は後にしろ!!」


ガレス。


敵。


斬りながら。


叫ぶ。


その横。


一体。


戦線。


抜ける。


ラウゼン兵。


気づく。


「抜かれた!」


魔改造兵。


城へ。


走る。


一歩。


二歩。


三歩。


そして。


首。


落ちる。


「……え?」


兵士。


目。


見開く。


いつの間にか。


その横。


シグ。


立っている。


短剣についた血。


払う。


ガレス。


叫ぶ。


「シグ! 右も薄い!」


返事。


ない。


次の瞬間。


右側。


一人。


二人。


三人。


魔改造兵。


倒れる。


その中。


シグ。


「行ってる」


ガレス。


敵。


蹴り飛ばす。


「だから返事が遅ぇんだよ!!」


後方。


ミレイアは、戦場全体を見渡していた。


派手な魔法も、豪快な一撃もない。


ただ、視線だけが休みなく動き続けている。


右前方、槍を握る手が震えている兵士。


左手前、片膝をついたまま立てずにいる獣人。


中央付近、傷口を押さえながらも武器を離さない者。


「右前方、負傷者」


杖を向け、光を送る。


裂かれた肩が塞がっていく。


「まだ動けます!」


「す、すまない!」


「礼は後で」


返す声は短い。


視線はもう次へ移っている。


脇腹から血を流す獣人へ、止血の光を飛ばす。


ダリオの腕の傷にも、間を置かず魔法を重ねた。


ダリオが一瞬振り返る。


「ありがとうございます!」


「前を」


短く言って、ミレイアはまた戦場を見渡す。


誰よりも敵を斬っていない。


誰よりも多く、味方を立たせている。


「左が薄い!」


ガレスの声に、ミレイアは既に気づいていた。


「ダリオさん、左です」


「リナさん、前列まとめて」


指示は淡々としている。


だが、その一言ごとに、崩れかけた戦線が持ち直していく。


ダリオが即座に移動する。


「リナ! 前列まとめて削れ!」


「もうやってます!」


巨大な魔法陣が展開し、爆発が敵十数体を吹き飛ばす。


「シグ!」


返事はない。


ガレスが一体の首を落とす。


「……まあ」


遠くで、また一体倒れる。


「やってるならいいか」


五人は止まらない。


ザインを追わない。


ザインを守らない。


ただ、命令はひとつ。


敵を城へ近づけない。


ダリオが止め、リナが消し飛ばし、シグが抜けた敵を殺し、ミレイアが傷ついた者を立たせ、ガレスが全てを繋ぐ。


一体、また一体。


次、また次。


五人の前に、敵が積み上がっていく。


その左右。


ラウゼン軍。


獣王国軍。


エルフ国軍。


全面。


衝突。


レグルス。


大きく。


武器。


振る。


魔改造兵。


まとめて。


吹き飛ぶ。


「押せ!!」


獣人たち。


吠える。


「ザイン一人に好き勝手させるな!!」


「おおおおおお!!」


反対側。


エリオン。


杖。


振る。


魔法。


敵陣。


炸裂。


「前列、下がらないでください!」


エルフたち。


次々。


魔法陣。


展開。


「我々が援護します!」


炎。


剣。


血。


怒号。


悲鳴。


魔法。


戦場。


瞬く間に。


地獄へ。


変わる。


◇


その中央で、ザインはまだ斬り続けていた。


一体の首を落とし、返す刃で腹を裂く。


胸を貫き、また首を落とす。


血が身体を染める。


ほとんどが返り血だった。


「……何体目だ?」


分からない。


十や二十は、とうに越えている。


それでも敵は来る。


斬っても、殺しても、また来る。


「……」


ザインは一瞬、顔を上げた。


周囲には死体が大量に転がっている。


なのに、その向こうにはまだ敵が続き、地平線を埋めている。


思わず息を吐いた。


「……マジかよ」


剣の血を払う。


「全然」


一拍。


「減ってる気がしねぇ」


敵がまた、ザインへ向かってくる。


「……ったく」


剣を構え直す。


昨日聞いた「一万」という数字。


今、ようやく身体でその意味を理解する。


小さく笑った。


「長ぇ一日に」


地面を蹴る。


「なりそうだな」


再び、敵軍へ飛び込んだ。


戦いは、まだ始まったばかりだった。

ついに始まった、ラウゼン防衛戦。


レグルス率いる獣王国軍。


エリオン率いるエルフ国軍。


そして、ラウゼン王国軍。


それぞれがザインとの縁を胸に、同じ戦場へ集いました。


「明日を生きる民のために、己の明日を捨てて戦ってほしい」


レオニスの残酷な願いを受け、ザインたちもそれぞれの役目へ。


そしてザインは――。


まさかの単騎で敵軍一万のど真ん中へ。


戦いは、まだ始まったばかりです。


次回もよろしくお願いします!


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