不穏な正体
前回ラスト、自国の騎士団に囲まれていたイリス。
なぜ味方であるはずの騎士たちが、彼女に剣を向けていたのか。
少し時間を遡り、エルグラン王城で起きていた異変が明らかになります。
第57話、よろしくお願いします!
――少し前。
エルグラン王国。
王都。
その中心に聳える、巨大な王城。
「……」
イリスは。
城を見上げていた。
行き交う人々。
門を守る騎士。
いつもと。
何も変わらない。
少なくとも。
外から見れば。
「まさか……」
イリスは。
小さく呟く。
「ここに入るとはね」
視線の先。
王城。
ここ数日。
追い続けていた。
不審な影。
教団について調べるため。
ザインたちと別れ。
一人。
エルグランへ戻った。
そこで。
何度か。
見かけた。
妙な男。
いや。
男なのかどうかすら。
よく分からない。
黒い外套。
人目を避けるように動き。
王都の中を。
転々としていた。
最初は。
教団の人間だと思った。
だから。
追った。
だが。
男は。
教団の拠点へ向かうことも。
仲間と接触することもなかった。
そして。
今日。
辿り着いた先。
それが。
「王城……」
イリスの表情。
険しくなる。
王城へ。
正面から入ることはできる。
イリスは。
エルグラン王国の人間。
騎士団とも。
関わりがある。
だが。
それでは。
相手に気づかれる。
「……仕方ないわね」
イリスは。
城の側面へ。
歩き出した。
◇
城内。
「……」
イリスは。
壁際。
身を潜める。
足音。
近づく。
騎士。
二人。
「異常は?」
「ない」
「そうか」
通り過ぎる。
イリスは。
息を吐く。
「……」
そして。
顔を出す。
誰もいない。
「面倒ね……」
小さく。
呟く。
自分の国。
自分の王城。
なのに。
なぜ。
こんなことをしているのか。
見つかっても。
説明すれば。
恐らく。
どうにかなる。
だが。
今は。
騒ぎを起こしたくない。
何より。
あの男が。
何をしようとしているのか。
確認するまでは。
「……」
歩く。
静かに。
廊下。
階段。
また。
廊下。
男が消えた方向。
記憶。
辿る。
やがて。
イリスの足。
止まる。
「……嘘でしょ」
その先。
王城の。
さらに奥。
一般の者は。
決して。
立ち入ることのできない場所。
王族。
そして。
限られた者しか。
入ることを許されない区画。
「なんで……」
イリスは。
眉を寄せる。
ここまで。
来られる。
ただの侵入者ではない。
騎士に。
見つからなかった?
違う。
それ以前に。
どうやって。
ここまで。
「……」
嫌な予感。
胸。
ざわつく。
イリスは。
進む。
そして。
見つけた。
一つの扉。
僅かに。
開いている。
その奥から。
声。
「――――」
聞き取れない。
イリスは。
足音を殺す。
近づく。
扉。
隙間。
覗く。
「……!」
息。
止まる。
部屋。
その中央。
一人の男。
椅子。
そこへ。
座っている。
見間違えるはずがない。
エルグラン王国。
国王。
そして。
その前。
立っている。
黒い外套の男。
「……」
男の手。
王へ。
向けられている。
指先。
淡い。
光。
いや。
違う。
黒い。
靄。
魔力。
王の頭部。
まとわりつく。
「……何よ、あれ」
イリスの目。
細くなる。
見たことがない。
魔法。
少なくとも。
一般的な。
属性魔法ではない。
火。
水。
風。
雷。
土。
どれでもない。
そして。
何より。
国王。
動かない。
目。
開いている。
なのに。
焦点が。
合っていない。
まるで。
「……」
人形。
イリスの背中。
冷たいもの。
走る。
男。
何かを。
呟いている。
「……あなたは」
王の耳元。
「何も心配する必要はありません」
静かな声。
「ただ」
「私の言う通りにすればよいのです」
国王。
ゆっくり。
口。
開く。
「……分かった」
イリスの目。
見開く。
男。
笑う。
「そう」
「それでよいのです」
「……」
イリス。
拳。
握る。
何をしている。
分からない。
だが。
一つだけ。
確かなこと。
まともなことではない。
イリスは。
扉。
開く。
「そこまでよ」
男の手。
止まる。
国王。
動かない。
男。
背を向けたまま。
沈黙。
イリスは。
部屋へ。
入る。
「王から離れなさい」
「……」
男の肩。
僅かに。
揺れる。
笑った?
そして。
ゆっくり。
振り返る。
「おやおや」
口元。
笑み。
「見つかってしまいましたか……」
目。
異様。
人間とは。
どこか。
違う。
「ふふふ」
イリスは。
右手。
上げる。
炎。
灯る。
「何をしていたの?」
「何を?」
男は。
首を傾げる。
「見れば分かるでしょう?」
「分からないから聞いてるのよ」
「なるほど」
男。
笑う。
「これは失礼」
イリスの視線。
国王へ。
「王に何をしたの」
「何も」
「嘘」
即答。
男の笑み。
深くなる。
「随分と」
「怖いお嬢さんですねぇ」
「質問に答えなさい」
炎。
大きくなる。
「もう一度だけ聞くわ」
イリス。
男を睨む。
「王に」
「何をしたの?」
男。
黙る。
数秒。
そして。
「少し」
口。
開く。
「考え方を」
「変えていただいただけですよ」
「……」
イリスの目。
鋭くなる。
「考え方?」
「ええ」
「人というものは」
男は。
国王の肩へ。
手を置く。
「実に面倒でしょう?」
「欲」
「感情」
「倫理」
「誇り」
「そんなものに」
「いちいち」
「判断を邪魔される」
男は。
笑う。
「ですから」
「少しだけ」
指。
国王の頭。
指す。
「綺麗にして差し上げたのです」
「……王から手を離しなさい」
声。
低い。
男。
笑み。
崩さない。
「嫌だと言ったら?」
炎。
爆ぜる。
「焼く」
「ふふ」
「実に分かりやすい」
その時。
足音。
イリスの耳。
動く。
廊下。
大量。
金属。
鎧。
「……!」
来た。
騎士団。
イリスは。
一瞬。
安堵する。
これだけの騒ぎ。
誰かが。
気づいた。
男も。
足音を聞く。
だが。
焦らない。
むしろ。
笑っている。
「何がおかしいの?」
「いえ」
「随分と」
「運が悪い方だと思いまして」
「……?」
扉。
勢いよく。
開く。
騎士たち。
次々。
入ってくる。
「イリス様!」
先頭の騎士。
叫ぶ。
イリス。
男を指す。
「こいつよ!」
「王に妙な魔法を使っていた!」
「今すぐ捕らえて!」
騎士たち。
「……」
動かない。
イリス。
眉を寄せる。
「何してるの?」
「早く――」
金属音。
剣。
抜かれる。
イリスは。
男を見る。
「大人しく――」
違う。
切っ先。
男へ。
向いていない。
「……え?」
一人。
剣。
イリスへ。
二人。
イリスへ。
三人。
四人。
次々。
騎士たち。
剣。
抜く。
全て。
イリスへ。
向けられる。
「……あなたたち」
返事。
ない。
その目。
虚ろ。
国王と。
同じ。
「まさか……」
イリスは。
男を見る。
男は。
笑っている。
楽しそうに。
「ふふふ」
「いつから……」
イリスが。
呟く。
男。
首。
傾ける。
「さて」
一歩。
後ろへ。
「いつからでしょうねぇ」
騎士。
増える。
廊下。
左右。
背後。
完全に。
包囲。
「……」
イリスは。
ゆっくり。
息を吐く。
額。
手。
当てる。
「……厄介なことになったわね」
「はぁ……」
右手。
炎。
灯る。
騎士たち。
一斉に。
剣を構える。
男は。
その光景を。
眺めている。
「どうします?」
「彼らは」
笑う。
「あなたが守るべき」
「この国の騎士ですよ?」
「……」
イリス。
歯。
噛む。
その通り。
敵ではない。
操られている。
だけ。
なら。
殺せない。
「……本当に」
炎。
揺れる。
「性格悪いわね、あなた」
「よく言われます」
「でしょうね!」
騎士。
踏み込む。
一人。
正面。
剣。
振り下ろす。
イリス。
身体。
ずらす。
避ける。
手。
伸ばす。
「燃えなさい!」
炎。
騎士の足元。
爆発。
「ぐっ!」
吹き飛ぶ。
だが。
火力。
抑える。
殺さない。
次。
背後。
剣。
イリス。
振り返る。
炎。
壁。
作る。
騎士。
止まらない。
炎の中。
突っ込む。
「なっ……!」
鎧。
焼ける。
それでも。
前へ。
「止まりなさい!」
反応。
ない。
痛み。
感じていない?
違う。
感じている。
顔。
歪んでいる。
それでも。
身体が。
止まらない。
「……最悪」
イリス。
炎。
消す。
騎士の胸。
掌。
当てる。
小さな。
爆発。
吹き飛ばす。
次。
横。
剣。
「っ!」
避けきれない。
頬。
浅く。
切れる。
血。
一筋。
「……」
イリスの目。
鋭くなる。
「いい加減に――!」
炎。
一気に。
膨れ上がる。
部屋。
熱。
上がる。
騎士たち。
止まらない。
イリスは。
拳。
握る。
撃てる。
ここで。
全力を出せば。
一瞬。
全員。
焼き払える。
だが。
「……っ」
できない。
この者たちは。
自分たちを。
守ってきた。
騎士。
国を。
守る者。
殺せるわけがない。
その。
一瞬の迷い。
背後。
「イリス様」
「……!」
聞き慣れた声。
振り返る。
騎士。
一人。
剣。
柄。
イリスの腹部へ。
「がっ……!」
身体。
浮く。
息。
抜ける。
膝。
落ちる。
「っ……!」
炎。
消える。
「イリス様」
騎士。
無表情。
剣。
振り上げる。
「……!」
横。
転がる。
剣。
床。
叩く。
石。
砕ける。
イリス。
立つ。
だが。
呼吸。
乱れる。
数。
多い。
殺せない。
しかも。
相手は。
痛みを無視して。
襲ってくる。
「……本当に」
息。
吐く。
「面倒……!」
炎。
放つ。
一人。
二人。
三人。
吹き飛ばす。
だが。
後ろから。
また。
来る。
一人。
倒しても。
次。
また。
次。
廊下。
まだいる。
「……っ!」
腕。
斬られる。
浅い。
血。
飛ぶ。
肩。
鎧の柄。
打ち込まれる。
「ぐっ……!」
壁。
ぶつかる。
視界。
揺れる。
男。
遠く。
立っている。
何もしない。
ただ。
笑っている。
「……あんた」
イリス。
息。
荒い。
「見てないで……自分で来たら?」
男。
笑う。
「必要ありませんので」
「……」
「あなたは」
周囲。
騎士たち。
剣。
構える。
「彼らを殺せない」
イリス。
睨む。
「そして彼らは」
男。
指。
鳴らす。
騎士たち。
一斉に。
踏み込む。
「あなたを殺すことに」
「何の躊躇もない」
「……っ!」
炎。
爆発。
数人。
吹き飛ぶ。
その奥。
また。
騎士。
「くっ……!」
剣。
避ける。
二本目。
腕。
受ける。
血。
三本目。
脇腹。
掠める。
「っ!」
足。
もつれる。
膝。
床。
つく。
「……まだ」
炎。
灯す。
「終わって……」
背後。
衝撃。
「――っ!」
頭。
強く。
殴られる。
視界。
白。
身体。
前へ。
倒れる。
手。
床。
つく。
炎。
消える。
「……」
音。
遠い。
騎士たちの足音。
近づく。
イリス。
腕。
動かそうとする。
動かない。
「……ザインなら」
掠れた声。
「こういう時……」
何て言うだろう。
考える。
そして。
少しだけ。
笑う。
「……面倒くせぇ、とか……言うのかしら」
視界。
暗くなる。
最後に。
見えた。
男。
笑っている。
「おやすみなさい」
その声を最後に。
イリスの意識は。
途切れた。
◇
どれほど。
時間が経ったのか。
分からない。
「……」
瞼。
重い。
イリスは。
ゆっくり。
目を開く。
「……ここ」
身体。
痛む。
頭。
鈍い。
痛み。
起き上がる。
「っ……」
周囲。
狭い。
石壁。
ベッド。
机。
それだけ。
扉。
鉄。
窓。
一つ。
イリスは。
ふらつきながら。
窓へ。
近づく。
外。
「……」
高い。
あまりにも。
高い。
眼下。
王城。
そのさらに先。
王都。
小さい。
建物。
人。
遥か。
下。
イリスの表情。
固まる。
「……塔」
王城にある。
最も高い塔。
その。
最上階。
「……冗談でしょ」
扉へ。
向かう。
取っ手。
動かない。
当然。
鍵。
外から。
掛けられている。
「……」
イリスは。
扉へ。
額。
つける。
「はぁ……」
そして。
振り返る。
窓。
その先。
広がる。
エルグラン王国。
自分の国。
なのに。
今。
国王は。
操られている。
騎士団も。
どこまで。
既に。
手に落ちている?
分からない。
誰が。
まだ。
味方なのか。
それすら。
分からない。
「……」
イリスは。
拳を握る。
そして。
小さく。
呟いた。
「最悪ね……」
誰にも。
届かない。
その声だけが。
塔の最上階。
静かな部屋に。
消えていった。
イリスが追っていた不審な影。
その正体は、国王にまで手を伸ばしていました。
そして、既に騎士団にも異変が――。
味方であるはずの騎士たちを殺すことができず、捕らえられてしまったイリス。
王城の塔、その最上階へ幽閉されることとなりました。
一方、ザインたちはまだこの事実を知りません。
エルグラン王国で何が起きているのか。
そして、この異変はどこまで広がっているのか。
次回もよろしくお願いします!




