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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
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56/66

帰還

長い昔話を終え、ザインは再び現在へ。


獣王国を離れ、復興途中だったラウゼン王国へと戻ります。


少しずつ日常を取り戻していく街。


久しぶりの穏やかな食卓。


けれど、その頃。


遠く離れたエルグラン王国では――。


第56話、よろしくお願いします!

「よう帰ってきた」


老人は、ザインを真っ直ぐ見つめる。


その目は。


どこか懐かしいものを見るようで。


どこか、遠い昔を思い出しているようでもあった。


「セラの息子よ」


「……」


ザインは。


何も言わなかった。


少しだけ。


考える。


そして。


「……息子って」


老人が首を傾げる。


「ん?」


「六百年経ってんだろ」


「……」


「何代挟まってんだよ」


老人は。


一瞬。


目を丸くして。


「ほっほっほ!」


笑った。


「そこが気になるか」


「気になるだろ」


ザインは呆れたように息を吐く。


「せめて子孫とか末裔とかあんだろ」


「細かい男じゃのぉ」


「六百年は細かくねぇよ」


「ほっほ」


老人は楽しそうに笑う。


ザインは。


そんな老人を見ながら。


小さく息を吐いた。


そして。


沈黙。


先ほどまで聞いていた。


六百年前の出来事。


ギーファ。


セラ。


ヴァルド。


エドガー。


アルヴァ。


一つの村が。


一つの国によって。


消された。


その中で。


たった一人。


逃がされたセラ。


その腹に宿っていた命。


それが。


何代も。


何代も。


繋がって。


今。


自分まで辿り着いた。


ザインは。


自分の手を見る。


握る。


開く。


いつもと。


何も変わらない。


「……」


だが。


今までとは。


少しだけ。


違って見えた。


「爺さん」


「なんじゃ」


ザインが顔を上げる。


「一つ聞いていいか」


「構わんよ」


「俺にこんな話聞かせて」


一拍。


「どうしてほしいんだ?」


老人は。


何も答えない。


ザインは続ける。


「アルヴァを滅ぼしたのはエルグランだ」


「そうじゃな」


「俺は今、そのエルグランで暮らしてる」


「……」


「その俺に」


ザインの目。


僅かに細くなる。


「復讐でもしてほしいのか?」


老人は。


ザインを見る。


そして。


静かに。


「いや」


答えた。


「……違うのか」


「違う」


老人は首を横に振る。


「わしの伝えられることは、伝えた」


「……」


「これを聞いて」


「何を思うのか」


「何を選ぶのか」


老人は。


穏やかに笑う。


「それは、お主が決めればよい」


「……」


「何をするのも」


一拍。


「何もしないのも」


「お主次第じゃ」


ザインは。


老人を見つめる。


「じゃあ」


眉を寄せる。


「なんで俺に話した」


老人は。


少しだけ。


目を細めた。


「歴史は」


静かな声。


「伝えねばならん」


「……」


「それが」


老人は。


自分の手を見る。


皺だらけの。


長い時を生きてきた手。


「長く生きた者の務めじゃ」


ザインは。


何も言わない。


「それにの」


老人は笑う。


どこか。


寂しそうに。


「ギーファも」


「ヴァルドも」


「あの日」


「アルヴァで死んでいった者たちも」


ゆっくり。


ザインを見る。


「自分たちの末裔が」


「自分が何者なのかも知らぬまま生きておるというのは」


少し。


間。


「気の毒じゃろ」


「……」


ザインは。


俯く。


自分が。


何を思っているのか。


分からない。


怒っているのか。


悲しいのか。


それとも。


何も感じていないのか。


六百年前。


自分が生まれる。


遥か昔。


会ったこともない。


人間たち。


なのに。


なぜか。


ギーファが死んだ時。


胸の奥が。


妙に。


ざわついた。


セラが泣いた時も。


ヴァルドが死んだ時も。


「……いきなり」


ザインが呟く。


「六百年前の話聞かされて」


頭を掻く。


「どうしろってんだよ」


「ほっほ」


「笑うな」


「すまんすまん」


ザインは。


ため息。


「まあ」


一度。


老人を見る。


「知らねぇよりは」


少し考えて。


「よかった」


老人の目。


僅かに。


開く。


ザインは。


背を向ける。


「ありがとな」


「……」


老人は。


その背中を見つめる。


「ザイン」


ザインが止まる。


「ん?」


「達者でな」


「……ああ」


一歩。


歩く。


「爺さんもな」


「ほっほ」


老人は笑う。


「わしはまだ死なんよ」


ザインは振り返らない。


「そういう奴が一番先に死ぬんだよ」


「縁起でもないことを言うでない!」


ザインは。


小さく。


笑った。


そして。


老人のもとを後にした。



外。


眩しい。


ザインは。


目を細める。


風。


頬を撫でる。


「……」


たった数時間。


それだけのはずなのに。


随分。


長いところにいた気がする。


六百年。


それだけの時を。


一気に見せられたような。


そんな。


妙な感覚。


「ザイン!」


声。


顔を上げる。


待っていた仲間たち。


「遅かったな」


「何をそんなに話してたんだ?」


ザインは。


一度だけ。


後ろを見る。


老人のいる場所。


そして。


前へ向き直る。


「別に」


歩き出す。


「爺さんの昔話に付き合ってきただけだ」


「昔話?」


「ああ」


「どんな?」


ザインは。


軽く手を振る。


「気にすんな」


「……?」


「長ぇし」


一拍。


「面白くもねぇよ」


そのまま。


歩いていく。


アルヴァ。


ギーファ。


セラ。


自分の中に流れている血。


ザインは。


何も話さなかった。


今は。


まだ。


誰かに話す気には。


なれなかった。


「それより」


ザインが。


両腕を上へ伸ばす。


「ラウゼンに戻るぞ」


「もういいのか?」


「ああ」


ザインは頷く。


「こっちで調べられることは大体調べた」


そして。


少しだけ。


遠くを見る。


「ラウゼンも復興の途中で抜けてきちまったからな」


「今どうなってるか」


「一回見ときたい」


誰も。


反対しなかった。


「じゃ」


ザインは。


歩く。


「帰るか」



獣王のもと。


「そうか」


獣王は。


玉座に座ったまま。


ザインを見る。


「ラウゼンへ戻るか」


「ああ」


ザインは頷く。


「復興途中で抜けてきたからな」


「いつまでもこっちにいるわけにもいかねぇ」


「そうか」


獣王は。


少しだけ。


考える。


そして。


「ザイン」


「ん?」


「此度の件」


「礼を言う」


ザインが。


眉を寄せる。


「何の?」


「……」


獣王の眉間。


皺。


「貴様は」


「本当にそういう男なのだな」


「なんだよ」


「いや」


獣王は。


僅かに笑う。


「気にするな」


「気になるだろ」


ザインが言うが。


獣王は答えない。


代わりに。


「もし」


声。


少しだけ。


低くなる。


「今後」


「何かあれば」


ザインを見る。


「我らを頼れ」


「……」


ザイン。


瞬き。


「急だな」


「今回の借りだ」


「別に貸した覚えねぇけど」


「こちらにはある」


「……そうかよ」


ザインは。


少し考えて。


肩を竦めた。


「じゃあ」


笑う。


「その時は遠慮なく頼むわ」


「ああ」


獣王が頷く。


「必ず応えよう」


ザインは。


手を上げる。


「じゃあな」


「ザイン」


「ん?」


「また来い」


ザインは。


少しだけ。


笑う。


「ああ」


「気が向いたらな」


そして。


ザインたちは。


獣王国を後にした。



数日後。


ラウゼン王国。


城門。


その先。


広がる街。


ザインは。


足を止めた。


「……おお」


以前。


ここを出た時。


まだ。


至るところに。


戦いの跡が残っていた。


崩れた家。


割れた石畳。


積まれた瓦礫。


仮設の住居。


だが。


今。


「結構戻ったな」


瓦礫は。


かなり撤去されている。


崩れていた建物にも。


新しい木材。


新しい石。


職人たち。


声を掛け合いながら。


作業を続けている。


道。


人。


行き交う。


店。


まだ数は少ない。


それでも。


開いている。


「いらっしゃい!」


声。


聞こえる。


子供。


走る。


母親。


追いかける。


ザインは。


それを見る。


「……」


少しだけ。


口元。


緩む。


「ザイン?」


「ん?」


「どうした?」


「いや」


歩き出す。


「なんでもねぇ」


復興は。


進んでいる。


まだ。


元通りとは言えない。


それでも。


確実に。


人々の生活は。


戻り始めていた。



「遅い」


開口一番。


レオニスが言った。


ザイン。


椅子へ座る。


「帰ってきた奴に最初に言うことがそれかよ」


「何日留守にしたと思っている」


「数えてねぇ」


「数えろ」


「面倒くせぇ」


向かい。


レオニスの妹が。


くすりと笑う。


「おかえりなさい、ザイン」


ザインが。


そちらを見る。


「ほら」


レオニスを指差す。


「妹を見習え」


「お前も妹を見習って少しは礼儀を覚えろ」


「俺のどこに礼儀がないんだよ」


「全部だ」


「酷くね?」


食卓。


料理。


並んでいる。


肉。


野菜。


パン。


湯気。


立つ。


ザインは。


早速。


肉へ手を伸ばす。


「おい」


レオニス。


睨む。


「話が先だ」


「食いながらでいいだろ」


「お前は……」


「冷めるぞ」


「誰のせいだ」


ザインは気にせず。


肉。


口へ。


「うま」


「……」


レオニス。


ため息。


妹。


また笑う。


久しぶりの。


穏やかな食事だった。


「それで?」


レオニスが聞く。


「どうだった」


ザインは。


咀嚼。


飲み込む。


「どっちから聞きたい?」


「どっち?」


「エルフか獣人」


レオニス。


額に手。


「お前は本当に……」


「なんだよ」


「少し目を離すと、なぜ二つの国を跨ぐ話になる」


「俺に言うな」


「お前以外に誰に言う」


ザインは。


パン。


千切る。


「まずエルフの里だな」


そして。


話した。


エルフの国で。


起きたこと。


そこで出会った者たち。


教団を追い。


辿り着いた場所。


起きた事件。


リナたちのこと。


必要なところだけ。


ザインは。


簡単に。


話していく。


「……なるほど」


レオニス。


腕を組む。


「教団については」


「思ったほど掴めなかった」


ザインが答える。


「ただ」


「連中が色んなところで動いてんのは間違いねぇ」


「そうか」


「で」


ザインは。


次の料理へ。


手。


伸ばす。


「そのあと獣王国」


妹が。


身を乗り出す。


「獣王国はどうでした?」


「最初は最悪」


即答。


「ザイン」


「本当だろ」


「もう少し言い方がある」


「人間嫌われてんだから仕方ねぇだろ」


ザインは。


獣王国で起きたことも。


話す。


人間への不信。


そこで起きた騒動。


獣王とのやり取り。


そして。


最終的に。


少なくとも。


以前よりは。


互いに。


歩み寄れたこと。


話を聞き終え。


レオニスが。


ザインを見る。


「……つまり」


「ん?」


「教団を追って国を出た結果」


指。


一本。


「エルフの国へ行き」


二本。


「獣王国へ行き」


ザイン。


肉。


食う。


「うん」


「両方と関係を作って帰ってきた」


「まあ」


ザイン。


首。


傾げる。


「そうなるな」


「……」


レオニス。


黙る。


ザイン。


眉を寄せる。


「なんだよ」


「いや」


レオニスは。


小さく息を吐く。


「お前は一体何をしに行ったのかと思ってな」


「教団の調査だよ」


「それは分かっている」


「なら聞くなよ」


「そういう意味ではない!」


妹。


笑いを堪える。


ザインは。


気にせず。


食べる。


「で」


今度は。


ザインが聞く。


「こっちは?」


レオニスの表情。


少し変わる。


「見てきただろう」


「ああ」


ザインは頷く。


「思ってたより戻ってた」


「皆、よく働いてくれている」


レオニスが。


食卓へ視線を落とす。


「瓦礫の撤去は大部分が終わった」


「住居の再建も進んでいる」


「市場も少しずつだが再開している」


「へぇ」


「ただ」


一拍。


「まだ完全には程遠い」


「……」


「人手も」


「物資も足りない」


「被害の大きかった地区は、まだ手つかずの場所もある」


ザイン。


黙って聞く。


「それでも」


レオニスは。


少しだけ。


笑う。


「以前よりは」


「随分と国らしくなった」


ザインも。


笑う。


「そっか」


「戻ってきてよかったか?」


レオニスが聞く。


ザイン。


パン。


口へ放り込む。


「まあな」


そして。


料理を見る。


「飯も出るし」


「そこか」


「重要だろ」


「……お前という奴は」


夜。


更けていく。


笑い声。


時折。


響く。


戦い。


教団。


国。


そんなものを。


ほんの少しだけ。


忘れられる。


穏やかな。


時間。


ザインも。


久しぶりに。


肩の力を抜いていた。


この時。


まだ。


誰も。


知らなかった。


遠く離れた。


エルグラン王国で。


既に。


異変が。


起きていることを。



石造りの廊下。


静寂。


「……」


イリスは。


立っていた。


その周囲。


騎士。


一人。


二人。


三人。


さらに。


奥から。


次々と。


現れる。


十人。


二十人。


いや。


それ以上。


鎧。


擦れる音。


剣。


抜かれる音。


金属音。


廊下に。


響く。


「……」


イリスの目。


左右へ。


正面。


騎士。


背後。


騎士。


左右。


騎士。


完全に。


囲まれている。


そして。


何より。


おかしい。


彼らが。


向けている剣。


その切っ先。


全てが。


イリスへ。


向いていた。


「……あなたたち」


返事。


ない。


騎士たちの目。


虚ろ。


誰一人。


いつもの表情をしていない。


「……」


イリスは。


ゆっくり。


息を吐いた。


逃げ道。


なし。


数。


多すぎる。


そして。


この者たちは。


敵ではない。


自国の。


騎士。


「……はぁ」


額。


押さえる。


「厄介なことになったわね……」


騎士。


一斉に。


剣を構える。


イリスの目。


鋭くなる。


右手。


炎。


灯る。


小さな火。


瞬く間に。


大きく。


燃え上がる。


「……仕方ないわね」


イリスも。


構える。


そして。


騎士たちが。


一斉に。


地面を蹴った。

獣王国とエルフの国での出来事を終え、ザインたちはラウゼン王国へ帰還しました。


復興も少しずつ進み、久しぶりに穏やかな時間を過ごすザインたち。


一方――。


イリスはなぜか、自国の騎士たちに剣を向けられていました。


なぜ騎士団がイリスを囲んでいるのか。


その裏で、一体何が起きているのか。


次回、少し時間を遡ります。


よろしくお願いします!

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