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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
イリス奪還編
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56/102

帰還

長い昔話を終え、ザインは再び現在へ。


獣王国を離れ、復興途中だったラウゼン王国へと戻ります。


少しずつ日常を取り戻していく街。


久しぶりの穏やかな食卓。


けれど、その頃。


遠く離れたエルグラン王国では――。


第56話、よろしくお願いします!

「よう帰ってきた」


老人は、ザインを真っ直ぐ見つめる。


その目は。


どこか懐かしいものを見るようで。


どこか、遠い昔を思い出しているようでもあった。


「セラの息子よ」


「……」


ザインは。


何も言わなかった。


少しだけ。


考える。


そして。


「……息子って」


老人が首を傾げる。


「ん?」


「六百年経ってんだろ」


「……」


「何代挟まってんだよ」


老人は。


一瞬。


目を丸くして。


「ほっほっほ!」


笑った。


「そこが気になるか」


「気になるだろ」


ザインは呆れたように息を吐く。


「せめて子孫とか末裔とかあんだろ」


「細かい男じゃのぉ」


「六百年は細かくねぇよ」


「ほっほ」


老人は楽しそうに笑う。


ザインは。


そんな老人を見ながら。


小さく息を吐いた。


そして。


沈黙。


先ほどまで聞いていた。


六百年前の出来事。


ギーファ。


セラ。


ヴァルド。


エドガー。


アルヴァ。


一つの村が。


一つの国によって。


消された。


その中で。


たった一人。


逃がされたセラ。


その腹に宿っていた命。


それが。


何代も。


何代も。


繋がって。


今。


自分まで辿り着いた。


ザインは。


自分の手を見る。


握る。


開く。


いつもと。


何も変わらない。


「……」


だが。


今までとは。


少しだけ。


違って見えた。


「爺さん」


「なんじゃ」


ザインが顔を上げる。


「一つ聞いていいか」


「構わんよ」


「俺にこんな話聞かせて」


一拍。


「どうしてほしいんだ?」


老人は。


何も答えない。


ザインは続ける。


「アルヴァを滅ぼしたのはエルグランだ」


「そうじゃな」


「俺は今、そのエルグランで暮らしてる」


「……」


「その俺に」


ザインの目。


僅かに細くなる。


「復讐でもしてほしいのか?」


老人は。


ザインを見る。


そして。


静かに。


「いや」


答えた。


「……違うのか」


「違う」


老人は首を横に振る。


「わしの伝えられることは、伝えた」


「……」


「これを聞いて」


「何を思うのか」


「何を選ぶのか」


老人は。


穏やかに笑う。


「それは、お主が決めればよい」


「……」


「何をするのも」


一拍。


「何もしないのも」


「お主次第じゃ」


ザインは。


老人を見つめる。


「じゃあ」


眉を寄せる。


「なんで俺に話した」


老人は。


少しだけ。


目を細めた。


「歴史は」


静かな声。


「伝えねばならん」


「……」


「それが」


老人は。


自分の手を見る。


皺だらけの。


長い時を生きてきた手。


「長く生きた者の務めじゃ」


ザインは。


何も言わない。


「それにの」


老人は笑う。


どこか。


寂しそうに。


「ギーファも」


「ヴァルドも」


「あの日」


「アルヴァで死んでいった者たちも」


ゆっくり。


ザインを見る。


「自分たちの末裔が」


「自分が何者なのかも知らぬまま生きておるというのは」


少し。


間。


「気の毒じゃろ」


「……」


ザインは。


俯く。


自分が。


何を思っているのか。


分からない。


怒っているのか。


悲しいのか。


それとも。


何も感じていないのか。


六百年前。


自分が生まれる。


遥か昔。


会ったこともない。


人間たち。


なのに。


なぜか。


ギーファが死んだ時。


胸の奥が。


妙に。


ざわついた。


セラが泣いた時も。


ヴァルドが死んだ時も。


「……いきなり」


ザインが呟く。


「六百年前の話聞かされて」


頭を掻く。


「どうしろってんだよ」


「ほっほ」


「笑うな」


「すまんすまん」


ザインは。


ため息。


「まあ」


一度。


老人を見る。


「知らねぇよりは」


少し考えて。


「よかった」


老人の目。


僅かに。


開く。


ザインは。


背を向ける。


「ありがとな」


「……」


老人は。


その背中を見つめる。


「ザイン」


ザインが止まる。


「ん?」


「達者でな」


「……ああ」


一歩。


歩く。


「爺さんもな」


「ほっほ」


老人は笑う。


「わしはまだ死なんよ」


ザインは振り返らない。


「そういう奴が一番先に死ぬんだよ」


「縁起でもないことを言うでない!」


ザインは。


小さく。


笑った。


そして。


老人のもとを後にした。


◇


外。


眩しい。


ザインは。


目を細める。


風。


頬を撫でる。


「……」


たった数時間。


それだけのはずなのに。


随分。


長いところにいた気がする。


六百年。


それだけの時を。


一気に見せられたような。


そんな。


妙な感覚。


「ザイン!」


声。


顔を上げる。


待っていた仲間たち。


「遅かったな」


「何をそんなに話してたんだ?」


ザインは。


一度だけ。


後ろを見る。


老人のいる場所。


そして。


前へ向き直る。


「別に」


歩き出す。


「爺さんの昔話に付き合ってきただけだ」


「昔話?」


「ああ」


「どんな?」


ザインは。


軽く手を振る。


「気にすんな」


「……?」


「長ぇし」


一拍。


「面白くもねぇよ」


そのまま。


歩いていく。


アルヴァ。


ギーファ。


セラ。


自分の中に流れている血。


ザインは。


何も話さなかった。


今は。


まだ。


誰かに話す気には。


なれなかった。


「それより」


ザインが。


両腕を上へ伸ばす。


「ラウゼンに戻るぞ」


「もういいのか?」


「ああ」


ザインは頷く。


「こっちで調べられることは大体調べた」


そして。


少しだけ。


遠くを見る。


「ラウゼンも復興の途中で抜けてきちまったからな」


「今どうなってるか」


「一回見ときたい」


誰も。


反対しなかった。


「じゃ」


ザインは。


歩く。


「帰るか」


◇


獣王のもと。


「そうか」


獣王は。


玉座に座ったまま。


ザインを見る。


「ラウゼンへ戻るか」


「ああ」


ザインは頷く。


「復興途中で抜けてきたからな」


「いつまでもこっちにいるわけにもいかねぇ」


「そうか」


獣王は。


少しだけ。


考える。


そして。


「ザイン」


「ん?」


「此度の件」


「礼を言う」


ザインが。


眉を寄せる。


「何の?」


「……」


獣王の眉間。


皺。


「貴様は」


「本当にそういう男なのだな」


「なんだよ」


「いや」


獣王は。


僅かに笑う。


「気にするな」


「気になるだろ」


ザインが言うが。


獣王は答えない。


代わりに。


「もし」


声。


少しだけ。


低くなる。


「今後」


「何かあれば」


ザインを見る。


「我らを頼れ」


「……」


ザイン。


瞬き。


「急だな」


「今回の借りだ」


「別に貸した覚えねぇけど」


「こちらにはある」


「……そうかよ」


ザインは。


少し考えて。


肩を竦めた。


「じゃあ」


笑う。


「その時は遠慮なく頼むわ」


「ああ」


獣王が頷く。


「必ず応えよう」


ザインは。


手を上げる。


「じゃあな」


「ザイン」


「ん?」


「また来い」


ザインは。


少しだけ。


笑う。


「ああ」


「気が向いたらな」


そして。


ザインたちは。


獣王国を後にした。


◇


数日後。


ラウゼン王国。


城門。


その先。


広がる街。


ザインは。


足を止めた。


「……おお」


以前。


ここを出た時。


まだ。


至るところに。


戦いの跡が残っていた。


崩れた家。


割れた石畳。


積まれた瓦礫。


仮設の住居。


だが。


今。


「結構戻ったな」


瓦礫は。


かなり撤去されている。


崩れていた建物にも。


新しい木材。


新しい石。


職人たち。


声を掛け合いながら。


作業を続けている。


道。


人。


行き交う。


店。


まだ数は少ない。


それでも。


開いている。


「いらっしゃい!」


声。


聞こえる。


子供。


走る。


母親。


追いかける。


ザインは。


それを見る。


「……」


少しだけ。


口元。


緩む。


「ザイン?」


「ん?」


「どうした?」


「いや」


歩き出す。


「なんでもねぇ」


復興は。


進んでいる。


まだ。


元通りとは言えない。


それでも。


確実に。


人々の生活は。


戻り始めていた。


◇


「遅い」


開口一番。


レオニスが言った。


ザイン。


椅子へ座る。


「帰ってきた奴に最初に言うことがそれかよ」


「何日留守にしたと思っている」


「数えてねぇ」


「数えろ」


「面倒くせぇ」


向かい。


レオニスの妹が。


くすりと笑う。


「おかえりなさい、ザイン」


ザインが。


そちらを見る。


「ほら」


レオニスを指差す。


「妹を見習え」


「お前も妹を見習って少しは礼儀を覚えろ」


「俺のどこに礼儀がないんだよ」


「全部だ」


「酷くね?」


食卓。


料理。


並んでいる。


肉。


野菜。


パン。


湯気。


立つ。


ザインは。


早速。


肉へ手を伸ばす。


「おい」


レオニス。


睨む。


「話が先だ」


「食いながらでいいだろ」


「お前は……」


「冷めるぞ」


「誰のせいだ」


ザインは気にせず。


肉。


口へ。


「うま」


「……」


レオニス。


ため息。


妹。


また笑う。


久しぶりの。


穏やかな食事だった。


「それで?」


レオニスが聞く。


「どうだった」


ザインは。


咀嚼。


飲み込む。


「どっちから聞きたい?」


「どっち?」


「エルフか獣人」


レオニス。


額に手。


「お前は本当に……」


「なんだよ」


「少し目を離すと、なぜ二つの国を跨ぐ話になる」


「俺に言うな」


「お前以外に誰に言う」


ザインは。


パン。


千切る。


「まずエルフの里だな」


そして。


話した。


エルフの国で。


起きたこと。


そこで出会った者たち。


教団を追い。


辿り着いた場所。


起きた事件。


リナたちのこと。


必要なところだけ。


ザインは。


簡単に。


話していく。


「……なるほど」


レオニス。


腕を組む。


「教団については」


「思ったほど掴めなかった」


ザインが答える。


「ただ」


「連中が色んなところで動いてんのは間違いねぇ」


「そうか」


「で」


ザインは。


次の料理へ。


手。


伸ばす。


「そのあと獣王国」


妹が。


身を乗り出す。


「獣王国はどうでした?」


「最初は最悪」


即答。


「ザイン」


「本当だろ」


「もう少し言い方がある」


「人間嫌われてんだから仕方ねぇだろ」


ザインは。


獣王国で起きたことも。


話す。


人間への不信。


そこで起きた騒動。


獣王とのやり取り。


そして。


最終的に。


少なくとも。


以前よりは。


互いに。


歩み寄れたこと。


話を聞き終え。


レオニスが。


ザインを見る。


「……つまり」


「ん?」


「教団を追って国を出た結果」


指。


一本。


「エルフの国へ行き」


二本。


「獣王国へ行き」


ザイン。


肉。


食う。


「うん」


「両方と関係を作って帰ってきた」


「まあ」


ザイン。


首。


傾げる。


「そうなるな」


「……」


レオニス。


黙る。


ザイン。


眉を寄せる。


「なんだよ」


「いや」


レオニスは。


小さく息を吐く。


「お前は一体何をしに行ったのかと思ってな」


「教団の調査だよ」


「それは分かっている」


「なら聞くなよ」


「そういう意味ではない!」


妹。


笑いを堪える。


ザインは。


気にせず。


食べる。


「で」


今度は。


ザインが聞く。


「こっちは?」


レオニスの表情。


少し変わる。


「見てきただろう」


「ああ」


ザインは頷く。


「思ってたより戻ってた」


「皆、よく働いてくれている」


レオニスが。


食卓へ視線を落とす。


「瓦礫の撤去は大部分が終わった」


「住居の再建も進んでいる」


「市場も少しずつだが再開している」


「へぇ」


「ただ」


一拍。


「まだ完全には程遠い」


「……」


「人手も」


「物資も足りない」


「被害の大きかった地区は、まだ手つかずの場所もある」


ザイン。


黙って聞く。


「それでも」


レオニスは。


少しだけ。


笑う。


「以前よりは」


「随分と国らしくなった」


ザインも。


笑う。


「そっか」


「戻ってきてよかったか?」


レオニスが聞く。


ザイン。


パン。


口へ放り込む。


「まあな」


そして。


料理を見る。


「飯も出るし」


「そこか」


「重要だろ」


「……お前という奴は」


夜。


更けていく。


笑い声。


時折。


響く。


戦い。


教団。


国。


そんなものを。


ほんの少しだけ。


忘れられる。


穏やかな。


時間。


ザインも。


久しぶりに。


肩の力を抜いていた。


この時。


まだ。


誰も。


知らなかった。


遠く離れた。


エルグラン王国で。


既に。


異変が。


起きていることを。


◇


石造りの廊下。


静寂。


「……」


イリスは。


立っていた。


その周囲。


騎士。


一人。


二人。


三人。


さらに。


奥から。


次々と。


現れる。


十人。


二十人。


いや。


それ以上。


鎧。


擦れる音。


剣。


抜かれる音。


金属音。


廊下に。


響く。


「……」


イリスの目。


左右へ。


正面。


騎士。


背後。


騎士。


左右。


騎士。


完全に。


囲まれている。


そして。


何より。


おかしい。


彼らが。


向けている剣。


その切っ先。


全てが。


イリスへ。


向いていた。


「……あなたたち」


返事。


ない。


騎士たちの目。


虚ろ。


誰一人。


いつもの表情をしていない。


「……」


イリスは。


ゆっくり。


息を吐いた。


逃げ道。


なし。


数。


多すぎる。


そして。


この者たちは。


敵ではない。


自国の。


騎士。


「……はぁ」


額。


押さえる。


「厄介なことになったわね……」


騎士。


一斉に。


剣を構える。


イリスの目。


鋭くなる。


右手。


炎。


灯る。


小さな火。


瞬く間に。


大きく。


燃え上がる。


「……仕方ないわね」


イリスも。


構える。


そして。


騎士たちが。


一斉に。


地面を蹴った。

獣王国とエルフの国での出来事を終え、ザインたちはラウゼン王国へ帰還しました。


復興も少しずつ進み、久しぶりに穏やかな時間を過ごすザインたち。


一方――。


イリスはなぜか、自国の騎士たちに剣を向けられていました。


なぜ騎士団がイリスを囲んでいるのか。


その裏で、一体何が起きているのか。


次回、少し時間を遡ります。


よろしくお願いします!

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