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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
PR
55/65

受け継がれた血

アルヴァの村を覆う戦火。


友を失い、それでもなお立ち続けるギーファ。


そして、何も知らぬまま戦場へ辿り着いたエドガー。


六百年前に何が起こり。


その血が、どのように現代まで繋がったのか。


アルヴァの過去、その結末です。


第55話、よろしくお願いします。

「……ヴァルド?」


エドガーの声が。


震える。


ギーファは。


何も答えない。


腕の中。


動かない男。


何度も話した。


何度も笑った。


エドガーにとっても。


友と呼べる男だった。


「……嘘だろ」


一歩。


エドガーが近づく。


「ヴァルド……?」


返事はない。


「おい……」


また。


一歩。


「やめてくれよ……」


涙。


頬を伝う。


「ヴァルド……!」


ギーファが。


静かに。


ヴァルドを地面へ寝かせる。


「……ギーファ」


エドガーが。


顔を上げる。


「俺は……」


声。


掠れる。


「知らなかった」


ギーファの目。


エドガーを見る。


「父上が……」


「こんなことをするなんて……」


「俺は……!」


エドガーが。


首を振る。


「本当に……何も……!」


「……」


「すまない」


頭。


下げる。


「すまない……!」


涙。


地面へ。


落ちる。


「俺が……」


「俺がもっと早く気づいていれば……!」


「ヴァルドも!」


「みんなも……!」


「……すまない」


ギーファは。


黙っている。


エドガーが。


ゆっくり。


近づく。


「ギーファ……」


「本当に――」


ギーファの腕が。


動く。


「――っ!」


剣。


エドガーの身体を。


斜めに裂く。


「ぐっ……!」


血。


飛ぶ。


エドガー。


地面へ。


倒れる。


「……ギー……ファ……」


ギーファが。


見下ろす。


目。


血走っている。


「……知ってるよ」


「……」


「お前が知らなかったことくらい」


エドガーの目。


僅かに。


開く。


「分かってる」


「……じゃあ……」


ギーファの手。


剣を握る。


震える。


「でも今は……」


一拍。


「お前の顔見てるだけで」


歯。


食いしばる。


「殺したくなる」


「……」


エドガーは。


何も言わない。


ギーファが。


背を向ける。


「……行け」


「……え?」


「次に俺の前に立ったら」


振り返らない。


「今度こそ殺す」


エドガーの意識。


遠のく。


最後に見えたのは。


ヴァルドを残し。


一人。


戦場へ戻っていく。


ギーファの背中だった。



「陛下!」


馬。


止まる。


「こちらです!」


エルグラン国王。


そして。


王国軍本隊。


アルヴァへ到着する。


「……」


国王の目。


細くなる。


想定していた光景とは。


違う。


圧倒的な戦力差。


魔素を奪う結界。


アルヴァの力は。


大幅に削がれている。


ならば。


既に。


終わっているはずだった。


しかし。


「退け!!」


兵士。


走ってくる。


「逃げろ!!」


「来るぞ!!」


戦列。


崩れている。


「何事だ」


国王が。


低く問う。


「陛下!」


兵士。


息。


切らす。


「ギーファが……!」


「ギーファ?」


「止まりません!」


「何?」


「魔法を当てても!」


「斬っても!」


「何度倒しても!!」


兵士の顔。


恐怖。


「立ち上がってくるんです!!」


国王の眉。


僅かに。


動く。


「……ほう」


その時。


「陛下!!」


別の兵。


走る。


「エドガー殿下が!」


国王の表情。


変わる。


「何?」


「こちらです!」


走る。


そこ。


地面。


倒れている。


エドガー。


「エドガー!!」


国王が。


膝をつく。


「おい!」


呼吸。


ある。


「治療班!!」


「はっ!」


「絶対に死なせるな!!」


エドガーが。


運ばれていく。


国王。


立つ。


顔。


怒り。


「……ギーファ」


その名。


吐き捨てる。


そして。


前。


見る。


兵士たち。


逃げてくる。


その向こう。


一人。


歩いている。


全身。


傷。


服。


裂けている。


血。


流れている。


剣。


刃こぼれ。


呼吸。


荒い。


それでも。


歩いている。


「……あれか」


国王が。


呟く。


ギーファ。


顔。


上げる。


国王。


見る。


「……」


目が合う。


「撃て!!」


指揮官。


叫ぶ。


魔術師。


魔法陣。


展開。


炎。


雷。


風。


一斉。


ギーファへ。


飛ぶ。


「……」


ギーファ。


走る。


一つ。


避ける。


二つ。


避ける。


三つ目。


肩。


直撃。


「ぐっ……!」


身体。


傾く。


雷。


直撃。


地面。


転がる。


「今だ!!」


さらに。


魔法。


降る。


爆発。


煙。


「……」


国王。


見る。


煙。


晴れる。


「……っ」


ギーファの手。


地面。


掴む。


立つ。


「……はっ」


呼吸。


荒い。


それでも。


剣。


拾う。


走る。


「来るぞ!!」


一人。


斬る。


二人。


弾く。


三人目。


蹴る。


「撃て!!」


再び。


魔法。


直撃。


倒れる。


立つ。


「……?」


国王の目が。


細くなる。


また。


魔法。


ギーファ。


避けきれない。


炎。


直撃。


吹き飛ぶ。


「……」


倒れる。


しかし。


また。


指。


動く。


「……待て」


国王が。


言う。


「陛下?」


「魔法を撃つな」


魔術師たちが。


振り返る。


「しかし――」


「撃つな」


国王の声。


低い。


「魔法攻撃をやめろ」


「……」


戦場。


魔法。


止まる。


ギーファが。


僅かに。


顔を上げる。


国王は。


その姿を見る。


そして。


笑う。


「……なるほど」


「陛下?」


「そういうことか」


国王が。


一歩。


前へ。


「結界によって」


「この土地の魔素は限界まで薄めた」


「……」


「だが」


ギーファを見る。


「我々が放つ魔法には」


一拍。


「当然、魔素が含まれている」


ギーファの目。


僅かに。


動く。


「奴は」


国王が。


笑う。


「魔法を受けた瞬間」


「そこに含まれる魔素を」


「身体へ取り込んでいる」


兵士たち。


ざわつく。


「そんな……」


「だから……?」


「ああ」


国王。


面白そうに。


ギーファを見る。


「我々は」


「奴を殺すために魔法を撃ちながら」


笑う。


「同時に」


「奴へ餌を与えていたらしい」


ギーファ。


呼吸。


荒い。


傷。


塞がってはいない。


血も。


止まっていない。


国王が。


それを見る。


「もっとも」


「受けた傷を治し切れるほどではない」


「……」


「ただ」


笑み。


「死ぬまでの時間を」


「無理やり引き延ばしている」


ギーファが。


ゆっくり。


立つ。


「……よく喋る王様だな」


国王。


笑う。


「まだ減らず口を叩けるか」


兵士へ。


手。


上げる。


「魔法は禁止だ」


「剣と槍だけで殺せ」


「はっ!」


兵士。


前へ。


ギーファ。


剣。


構える。


「……来いよ」


兵士。


走る。


一人。


ギーファ。


剣を弾く。


斬る。


二人目。


槍。


脇腹。


掠める。


掴む。


引く。


敵兵。


体勢。


崩れる。


剣。


振る。


三人目。


背後。


ギーファ。


振り返る。


遅い。


剣。


背中。


裂く。


「ぐっ……!」


膝。


落ちる。


「今だ!」


敵。


迫る。


ギーファ。


地面。


蹴る。


一人。


脚。


払う。


立つ。


斬る。


「……っ」


呼吸。


できない。


視界。


滲む。


魔法は。


もう。


来ない。


身体へ入る魔素も。


ない。


それでも。


一人。


また一人。


倒れる。


国王。


見ている。


「……素晴らしい」


隣。


騎士団長。


見る。


「陛下……?」


「見ろ」


国王の目。


輝く。


「魔素を断ち」


「これほどの傷を負わせ」


「それでもなお」


ギーファ。


敵兵。


倒す。


「我が兵を退ける」


「……」


「惜しい」


国王が。


呟く。


「実に惜しい」


手。


上げる。


「止まれ」


兵士たち。


止まる。


ギーファ。


息。


荒い。


「……なんだ」


国王が。


兵士の間。


歩く。


ギーファの前へ。


「ギーファ」


「……」


「私の下へ来い」


「……あ?」


騎士団長。


驚く。


「陛下!」


国王。


手。


上げる。


黙らせる。


「貴様ほどの戦士を」


「ここで殺すのは惜しい」


ギーファ。


国王を見る。


「我が国には」


「貴様のような強い戦士が必要だ」


「……」


「地位」


「金」


「女」


「望むものがあるなら」


国王が。


両腕。


広げる。


「全て与えよう」


「……」


「私に仕えろ」


沈黙。


ギーファの肩。


小さく。


揺れる。


国王が。


眉を寄せる。


「……?」


「……は」


ギーファが。


笑う。


「はは……」


血。


口元。


流れる。


それでも。


笑う。


「何がおかしい」


「いや……」


ギーファが。


顔を上げる。


「お前」


一拍。


「本当に馬鹿なんだなと思ってよ」


国王の笑み。


消える。


「……何?」


「俺の仲間殺して」


一歩。


「俺の村潰して」


一歩。


「俺たちを騙して」


剣。


握る。


「その口で」


ギーファが。


国王を睨む。


「仲間になれ?」


「……」


「頭ん中どうなってんだ」


兵士たち。


剣。


構える。


国王が。


止める。


「生きたくはないのか?」


「……」


「ここで死ねば」


「全て終わりだ」


ギーファが。


笑う。


「終わり?」


「そうだ」


「……」


ギーファ。


国王を見る。


「勝った気になるなよ」


「……何?」


「俺たちを殺した程度で」


ギーファの目。


鋭くなる。


「アルヴァまで殺せると思うな」


国王。


鼻で笑う。


「この村を見ても同じことが言えるか?」


「言えるね」


即答。


「……」


「俺たちの血は」


ギーファが。


剣を構える。


「てめぇらが思ってるほど」


一歩。


「柔じゃねぇ」


国王が。


目を細める。


「……ならば死ね」


兵士たち。


一斉。


動く。


「殺せ!!」


ギーファ。


走る。


一人。


剣。


受ける。


押し返す。


二人目。


斬る。


三人目。


槍。


腹。


刺さる。


「――っ!」


兵士。


笑う。


「捕らえ――」


ギーファが。


槍。


掴む。


「……え」


自分から。


さらに。


前へ。


「なっ……!」


槍。


身体。


深く。


入る。


それでも。


距離。


詰める。


剣。


振る。


敵兵。


倒れる。


「こいつ……!」


四人。


五人。


「止めろ!!」


「王に近づけるな!!」


ギーファ。


走る。


脚。


動かない。


なら。


引きずる。


呼吸。


できない。


なら。


吐く。


血。


流れる。


なら。


流せ。


一人。


倒す。


また。


一人。


「止めろ!!」


騎士団長。


叫ぶ。


「何をしている!!」


ギーファ。


国王。


距離。


十歩。


八歩。


六歩。


「殺せ!!」


剣。


ギーファの肩。


刺さる。


「……っ」


止まらない。


腕。


掴む。


敵兵。


投げる。


四歩。


国王の顔。


初めて。


変わる。


「……」


三歩。


「止めろ!!」


二歩。


「ギーファ!!」


一歩。


ガッ!!


ギーファの手。


国王の胸倉。


掴む。


「……!」


国王の目。


見開かれる。


「捕まえた」


「貴様……!」


国王。


剣。


ギーファの腹へ。


突き刺す。


「ぐっ……!」


それでも。


手。


離れない。


「離せ!!」


「……は」


ギーファ。


笑う。


「さっき」


「……?」


「生きたくねぇのかって」


国王の顔。


恐怖。


「聞いたよな」


ギーファの腕。


国王の首へ。


回る。


「……やめろ」


初めて。


王の声が。


震える。


ギーファの口元。


笑う。


「てめぇの下で生きるくらいなら」


力。


込める。


「ここで死んだ方が」


国王。


必死に。


腕。


掴む。


「百倍マシだ」


「やめ――」


鈍い音。


国王の身体から。


力。


抜ける。


「……」


ギーファ。


腕。


離す。


国王。


地面へ。


倒れる。


誰も。


動かない。


「……陛下?」


兵士。


呟く。


「……」


国王。


動かない。


「陛下……?」


「……」


「陛下あああああああ!!」


叫び。


戦場。


響く。


ギーファは。


立っている。


「……はっ」


血。


地面へ。


落ちる。


剣。


手。


滑る。


カラン。


それでも。


立っている。


兵士たち。


誰も。


近づかない。


「……」


騎士団長。


ギーファを見る。


国王。


殺された。


何百もの兵。


殺された。


結界。


完成している。


魔素。


ない。


身体。


傷だらけ。


それなのに。


最後には。


王まで。


「……化け物」


ギーファが。


ゆっくり。


騎士団長を見る。


「……っ!」


騎士団長。


一歩。


後退。


ギーファが。


一歩。


踏み出す。


「ひっ……」


兵士。


逃げる。


ギーファ。


もう一歩。


膝。


僅かに。


揺れる。


それでも。


来る。


「……近づくな」


騎士団長が。


呟く。


「団長?」


「近づくな……!」


「しかし!」


「全軍!!」


騎士団長。


叫ぶ。


「後退!!」


「……え?」


「アルヴァから離れろ!!」


兵士たち。


戸惑う。


「急げ!!」


「ですが――」


騎士団長が。


ギーファを見る。


目。


恐怖。


「あれを……」


唾。


飲む。


「人の手で殺そうとするな」


「……」


魔術師たちを見る。


「大魔法の準備をしろ」


「……団長?」


「最大規模だ」


魔術師。


顔色。


変わる。


「まさか……」


騎士団長が。


村を見る。


「アルヴァごと」


一拍。


「消せ」


「……!」


「ですが!」


「まだ味方が!」


「退避させろ!!」


騎士団長が。


怒鳴る。


「絶対に!」


ギーファを指す。


「あれをここから出すな!!」



兵士。


走る。


逃げる。


一人。


また一人。


アルヴァから。


離れていく。


ギーファ。


立っている。


「……」


空。


巨大な。


魔法陣。


一つ。


二つ。


三つ。


重なる。


雲。


渦巻く。


空。


赤く。


染まる。


残っていたアルヴァの者たち。


空を見る。


「……なんだ」


「おい……」


「なんだよ……あれ」


遠く。


魔術師たち。


詠唱。


重なる。


大地。


震える。


空。


燃える。


そして。


雲の向こう。


巨大な。


影。


現れる。


「……」


ギーファが。


見上げる。


巨大な。


岩塊。


炎。


纏い。


空から。


ゆっくり。


落ちてくる。


「……は」


ギーファが。


笑う。


血。


吐く。


「そこまでしねぇと……」


空。


見る。


「俺一人」


笑み。


「殺せねぇか」


目。


閉じる。


浮かぶ。


セラ。


『明日には戻るから』


昨日。


そう言った。


「……」


ギーファの口元。


僅かに。


緩む。


「戻ってくんなよ……」


次。


ヴァルド。


『お前は……もう少し人を信じろよ』


「……」


ギーファが。


鼻で笑う。


「無理だったわ」


空。


光。


満ちる。


ギーファは。


最後まで。


立っていた。


そして――


落ちた。


轟音。


大地。


揺れる。


光。


全てを。


呑み込む。


家。


木々。


地面。


人。


アルヴァという。


一つの村。


一つの歴史。


その全てが。


巨大な光の中へ。


消えていった。



森。


一人。


女。


走っている。


「はっ……!」


「はっ……!」


セラ。


走る。


ギーファに。


追い出されてから。


ずっと。


遠くへ。


遠くへ。


「……っ」


足。


痛い。


呼吸。


苦しい。


それでも。


走る。


『一度くらい俺の言うこと聞け』


「……馬鹿」


走る。


「帰ったら……」


息。


吸う。


「絶対……」


涙。


滲む。


「文句言ってやるんだから……」


一歩。


二歩。


脚。


もつれる。


「……っ!」


転ぶ。


地面。


手。


「……」


立とうとする。


腕。


力。


入らない。


「ギーファ……」


視界。


暗くなる。


「……迎えに……来なさいよ……」


身体。


倒れる。


そのまま。


セラの意識は。


途切れた。



「――おい!」


声。


「誰か倒れてるぞ!」


複数。


足音。


「女だ!」


「生きてる!」


「急げ!」


森に住む。


エルフの民。


一人。


セラを。


抱き起こす。


「ひどい疲労だ」


「村へ運ぼう」


「早く」


セラは。


何も知らない。


自分が。


帰ろうとしていた場所が。


もう。


この世のどこにも。


存在しないことを。



数日。


過ぎた。


「……」


セラの目。


開く。


知らない。


天井。


「……ここ」


身体。


起こす。


「目が覚めたか」


エルフの女。


椅子。


座っている。


「……あなたは?」


「ここは我々の集落だ」


「森で倒れていた」


「……」


セラの目。


見開く。


「何日……?」


「三日ほど」


「三日!?」


身体。


起こす。


「待て」


「行かなきゃ」


「まだ動くな」


「アルヴァに戻らないと!」


「……」


エルフ。


黙る。


「ギーファが待ってる」


「……」


「私」


ベッド。


降りようとする。


「帰らないと」


「……」


「どうしたの?」


エルフたち。


目。


合わせない。


「……何?」


セラの顔。


少しずつ。


強張る。


「何よ」


一人。


年老いたエルフが。


口を開く。


「……戻ることはできぬ」


「……え?」


「アルヴァの集落は」


言葉。


止まる。


そして。


「超大規模魔法によって」


静かに。


「消滅した」


「……」


セラ。


瞬き。


しない。


「……何言ってるの?」


「……」


「村が」


笑おうとする。


「村が消えるわけないじゃない」


誰も。


答えない。


「ギーファがいるのよ?」


「……」


「ヴァルドも」


声。


震える。


「みんな……」


「……」


「いるのよ?」


誰も。


セラを。


見ない。


「……」


セラの口。


僅かに。


開く。


「……嘘」


返事は。


ない。


「嘘……」


「……」


「嘘よ」


涙。


一滴。


落ちる。


「だって……」


セラが。


自分の服。


握る。


「帰ったら……」


声。


崩れる。


「文句……言ってやろうって……」


涙。


止まらない。


「また……」


息。


震える。


「喧嘩して……」


「……」


「それで……」


両手。


顔。


覆う。


「また……」


声。


出ない。


その日。


セラは。


何度。


ギーファの名を呼んだのか。


誰にも。


分からなかった。



それから。


時が流れた。


セラは。


エルフの集落で。


生きた。


そして。


その身に。


一つの命が。


宿っていることを知った。


「……」


セラの手。


腹。


触れる。


まだ。


何も。


分からない。


小さな。


小さな。


命。


「……馬鹿」


涙。


落ちる。


「こんなの……」


腹。


抱く。


「一人で」


声。


震える。


「どうしろっていうのよ……」


それでも。


その手は。


離れなかった。


やがて。


セラは。


一人の子を産んだ。


ギーファの血。


セラの血。


アルヴァの血。


受け継いだ。


小さな命。


その子は。


育った。


やがて。


また。


子を残した。


その子も。


次へ。


その次も。


また。


次へ。


百年。


二百年。


三百年。


長い。


長い時。


流れた。


国。


変わった。


人。


変わった。


歴史。


変わった。


アルヴァという名を。


知る者は。


少なくなった。


やがて。


自らの身体に。


その血が流れていることすら。


知らぬ者も。


現れた。


それでも。


血だけは。


途絶えなかった。


親から。


子へ。


子から。


その子へ。


何度も。


何度も。


受け継がれ。


六百年。


長い時を。


彷徨い続けた。


そして――


「その血は」


老人の声。


静かに。


響く。


「やがて」


一拍。


「一人の少年へと辿り着いたようじゃの」


「……」


ザインは。


何も言わない。


老人が。


ゆっくり。


顔を上げる。


その目。


ザインを見る。


「そう――」


僅かに。


笑う。


「お主じゃ」


「……」


ザインの目が。


僅かに。


開く。


老人は。


ザインを。


じっと。


見つめる。


六百年前。


アルヴァから。


姿を消した。


一人の女。


セラ。


その腹に。


宿っていた。


誰も。


まだ。


知らなかった。


小さな命。


その命が。


何世代も。


何世代も。


繋がり。


今。


再び。


この地へ。


戻ってきた。


老人の顔。


穏やかな。


笑み。


「……長かったのぉ」


「……?」


ザインが。


眉を寄せる。


老人は。


懐かしむように。


ザインを見る。


そして。


静かに。


言った。


「よう帰ってきた」


一拍。


「セラの息子よ」

アルヴァの村は消えました。


ギーファも。


ヴァルドも。


そこで生きていた多くの者たちも。


それでも――


アルヴァの血まで消すことはできませんでした。


ギーファが理由も分からぬままセラを逃がした、あの夜。


その選択によって守られた小さな命は、六百年という長い時を越え、ついに一人の少年へと辿り着きます。


「よう帰ってきた。セラの息子よ」


ここまで語られたのは、ザイン自身のルーツ。


では、これを知ったザインは何を思い、何を選ぶのか。


次回、現在へ戻ります。


よろしくお願いします。

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