悪魔
守るために配置されたはずの騎士たちは、なぜアルヴァへ剣を向けたのか。
そして、アルヴァの民を襲う身体の異変。
何週間も続いた平穏の裏で、何が進められていたのか。
ついに、その真相が明らかになります。
第54話、よろしくお願いします。
「全員!!」
ギーファの怒声が。
戦場に響く。
「武器を取れ!!」
一拍。
「敵襲だ!!」
アルヴァの戦士たちが。
一斉に武器を構える。
目の前。
エルグラン王国。
何週間も。
アルヴァを守るため。
周囲へ配置されていた騎士たち。
その全員が。
今。
こちらへ武器を向けている。
「……嘘だろ」
ヴァルドが呟く。
「なんで……」
エルグラン兵。
前進。
「待て!!」
ヴァルドが叫ぶ。
「何かの間違いだ!」
返事はない。
「俺たちは同盟を結んだはずだ!!」
それでも。
止まらない。
「エドガーは!?」
ヴァルドが。
一歩前へ。
「エドガーを呼べ!!」
敵兵。
剣。
振り上げる。
「――ヴァルド!」
ギーファが。
横からヴァルドを突き飛ばす。
直後。
剣。
振り下ろされる。
「何してやがる!」
ギーファが。
敵兵の剣を弾く。
「前見ろ!!」
「でも!」
「でもじゃねぇ!!」
踏み込む。
剣。
振る。
ガキィン!!
「……っ!」
重い。
いつもなら。
武器ごと。
敵の身体ごと。
吹き飛ばせる。
だが。
弾いただけ。
敵兵。
もう一度。
剣。
振る。
ギーファ。
避ける。
踏み込む。
斬る。
敵兵。
倒れる。
「……はっ」
呼吸。
重い。
一人。
倒しただけ。
なのに。
胸が。
大きく上下する。
まるで。
高い山。
空気の薄い場所。
そこで。
全力で走っているような。
「ギーファ!」
横。
アルヴァの戦士。
「なんかおかしい!」
「分かってる!」
「力が出ねぇ!」
敵。
三人。
迫る。
一人目。
ギーファ。
剣を受ける。
腕。
痺れる。
二人目。
避ける。
三人目。
槍。
「チッ!」
身体を捻る。
脇腹。
浅く裂ける。
「……っ」
いつもなら。
避けられた。
いや。
そもそも。
ここまで。
敵を近づけない。
「ギーファ!」
ヴァルドが。
一人。
斬る。
「お前もか!」
「ああ!」
ヴァルドも。
息が荒い。
「なんなんだよ……これ!」
「知らねぇ!」
周囲。
見る。
アルヴァ。
全員。
同じ。
動きが。
鈍い。
息が。
上がっている。
いつもなら。
一人で複数を相手にする戦士たちが。
一人。
二人。
敵兵を相手に。
苦戦している。
「クソが……!」
敵兵。
迫る。
ギーファ。
剣を構える。
一人。
弾く。
二人。
避ける。
三人目。
ギーファの目。
止まる。
「……お前」
敵兵。
一瞬。
怯む。
ギーファが。
剣を持つ腕を掴む。
「なっ――」
捻る。
剣。
落ちる。
そのまま。
腹。
蹴る。
「ぐっ!」
地面。
転がる。
ギーファが。
胸倉を掴む。
持ち上げる。
「おい」
「……っ」
敵兵の顔。
引きつる。
「俺たちに」
ギーファが。
周囲を見る。
苦戦する仲間。
重い身体。
荒い呼吸。
治りの遅い傷。
「何しやがった」
「……」
「答えろ」
「知らない」
ギーファの拳。
敵兵の顔。
「ぐっ!」
「もう一回聞くぞ」
胸倉。
締める。
「何しやがった」
「……っ」
敵兵が。
ギーファを見る。
そして。
僅かに。
笑った。
「もう……遅い」
「……何?」
「完成してる」
ギーファの眉が。
寄る。
「何が」
「……結界だ」
「結界?」
敵兵。
苦しそうに。
笑う。
「アルヴァ領を……」
一拍。
「全て覆っている」
ギーファの目が。
僅かに開く。
「何言ってやがる」
「お前たちは……気づかなかった」
「……」
「当然だ」
敵兵が。
続ける。
「これほど広い土地を覆う結界だ」
「一日や二日で……作れるものじゃない」
ギーファの手に。
力が入る。
「……いつからだ」
「……」
「いつからやってた」
敵兵は。
答えない。
「答えろ」
ギーファの声。
低い。
「……最初からだ」
一瞬。
ギーファが。
止まる。
「……何?」
「俺たちが」
敵兵が。
笑う。
「ここへ配置された日から」
「……」
「少しずつ」
「少しずつ……」
「お前たちを囲むように」
ギーファの頭。
あの日。
蘇る。
北。
南。
東。
西。
配置された。
三百人。
――守られるんじゃない。
――囲まれるんだ。
「……」
ギーファの顔から。
表情が消える。
「てめぇら……」
「何週間も」
敵兵が言う。
「何も起こらなかっただろ?」
「……」
「平和になったと思ったか?」
ギーファの拳。
震える。
「その時間が」
敵兵が笑う。
「必要だったんだよ」
「……」
「そして」
「この結界の中には」
一拍。
「ほとんど魔素がない」
ギーファが。
自分の手を見る。
「……魔素?」
「ああ」
「外から入ってくる魔素を遮断し」
「内部にある魔素も」
「限界まで薄くする」
敵兵。
ギーファを見る。
「お前たちアルヴァは」
「魔法を使わない」
「だが」
笑み。
「身体は違う」
ギーファの目。
細くなる。
「周囲の魔素を」
「無意識に取り込み」
「肉体を強化している」
「……」
「だから」
敵兵が言う。
「魔素そのものを奪えばいい」
沈黙。
「お前たちは」
「ただの――」
「……そうか」
ギーファの声。
敵兵が。
止まる。
ギーファの手。
離れる。
敵兵。
地面。
落ちる。
「ぐっ……!」
ギーファは。
何も言わない。
振り返る。
戦場。
傷ついた仲間。
逃げる人々。
泣く子供。
戦うアルヴァ。
そして。
北。
南。
東。
西。
エルグラン。
全部。
最初から。
仕組まれていた。
同盟。
友好。
騎士の配置。
何週間もの。
平穏。
その全てが。
この日のため。
ギーファの手。
剣を握る。
ギリッ。
歯。
鳴る。
「……おい」
声。
低い。
誰も。
聞こえない。
ギーファが。
息を吸う。
「おい!!」
怒声。
戦場。
響く。
アルヴァたちが。
振り返る。
「こんなことされて!!」
ギーファが。
エルグラン兵を指す。
「頭に来ねぇ奴はいねぇよな!!」
アルヴァの戦士。
一人。
顔を上げる。
また一人。
ギーファを見る。
「こいつら!!」
ギーファの声。
震える。
怒り。
「俺たちと仲良くするふりして!!」
「守るふりして!!」
「何週間もかけて!!」
剣。
敵へ。
向ける。
「俺たちから力まで奪いやがった!!」
「……」
アルヴァたちの。
目。
変わる。
ギーファが。
笑った。
怒りに。
歪んだ笑み。
「だったら」
一拍。
「見せてやろうぜ」
剣。
構える。
「逃げるのはやめだ!!」
「目の前の馬鹿どもに!!」
「アルヴァの力を見せつけろ!!」
声。
さらに。
大きく。
「魔素がなくても!!」
「頭の先からケツまで!!」
「恐怖を叩き込んでやれ!!」
一瞬。
静寂。
そして。
「おおおおおおおおおおお!!」
咆哮。
アルヴァ。
反撃。
始まる。
◇
剣。
ぶつかる。
魔法。
飛ぶ。
叫び。
怒号。
アルヴァの戦士たち。
先ほどまでとは。
違う。
力は。
戻っていない。
身体も。
重い。
呼吸も。
苦しい。
それでも。
前へ。
出る。
一人。
倒す。
また一人。
押し返す。
「なんだこいつら……!」
エルグラン兵が。
後退する。
「弱ってるはずだろ!」
「怯むな!」
指揮官。
叫ぶ。
「数はこちらが上だ!」
その時。
「……」
ヴァルドが。
立ち尽くしていた。
周囲。
見る。
北。
エルグラン。
南。
エルグラン。
東。
西。
全て。
自分が。
受け入れた。
騎士たち。
『俺は同盟を結ぶべきだと思う』
自分が。
言った。
『変わってんだよ』
『いつまでも誰も信じないで生きるのかよ!』
ギーファに。
言った。
そして。
ギーファは。
言った。
『だからって他国の兵を自分たちの周りに置くのか!?』
『守られるんじゃない』
『囲まれるんだ』
「……俺だ」
声。
震える。
ギーファが。
敵を斬る。
「ヴァルド!」
「俺が……」
剣。
手。
震える。
「俺が」
周囲。
傷ついた仲間。
倒れた者。
逃げる子供。
「こいつらを……」
自分が。
受け入れた。
三百人。
自分が。
アルヴァを。
囲ませた。
「……俺のせいだ」
「ヴァルド!」
「俺が……」
カラン。
剣。
落ちる。
「俺が……みんなを……」
涙。
溢れる。
「ごめん……」
アルヴァの戦士たちを見る。
「みんな……」
声。
震える。
「ごめん……!」
一人。
仲間が倒れる。
「……っ」
ヴァルドの顔。
歪む。
「ごめん……!」
逃げる子供。
「ごめん……!」
戦う仲間。
「俺が……」
両膝。
地面。
「俺が信じたから……!」
涙。
止まらない。
「本当に……!」
頭。
下がる。
「ごめん……!!」
そして。
ギーファを見る。
「ギーファ……」
「……」
「ごめん……」
次の瞬間。
敵兵。
ヴァルドへ。
剣。
振り上げる。
「――チッ!」
ギーファ。
飛び込む。
ガキィン!!
剣。
弾く。
敵兵。
斬る。
倒れる。
ギーファが。
振り返る。
膝をつく。
ヴァルド。
「……てめぇ」
ギーファの顔。
怒り。
「ギー――」
ガッ!!
胸倉。
掴む。
「何してやがる!!」
「……!」
ヴァルドを。
無理やり。
立たせる。
「悔やんで泣いてる場合かよ!!」
「でも……!」
「でもじゃねぇ!!」
「俺が!」
ヴァルドが叫ぶ。
「俺がこいつらを入れたんだぞ!!」
「ああ!!」
ギーファが叫び返す。
「知ってるよ!!」
ヴァルドが。
止まる。
「てめぇが信じた!」
「てめぇが賛成した!」
「てめぇがこいつらを俺たちの周りに置いた!!」
「……っ」
「だから!!」
ギーファが。
さらに。
ヴァルドを引き寄せる。
「責任持ってこいつら追い出せ!!」
「……」
「悔やんで!」
「泣いて!」
「謝って!」
「それで何か変わんのかよ!!」
「……」
「謝ったら!」
ギーファが叫ぶ。
「倒れた奴らが立ち上がんのか!?」
「村が元に戻んのか!?」
「こいつらが帰ってくれんのかよ!!」
「……!」
「違ぇだろうが!!」
ギーファが。
ヴァルドを。
突き放す。
ヴァルド。
よろめく。
ギーファ。
地面。
剣。
拾う。
「てめぇが間違えたってんなら!」
ヴァルドへ。
突き出す。
「最後まで!!」
剣。
ヴァルドの胸へ。
押しつける。
「てめぇで責任取れ!!」
「……」
ヴァルドが。
剣を見る。
「悔やむのも!」
「泣くのも!」
「謝るのも!」
一拍。
「全部!!」
ギーファの目。
ヴァルドを見る。
「こいつら追い出してからにしろ!!」
「……」
ヴァルドの手。
震えている。
ギーファが。
睨む。
「立て」
「……」
「ヴァルド」
ヴァルドが。
ゆっくり。
顔を上げる。
「俺たちの村だろ」
「……」
涙。
まだ。
流れている。
ヴァルドが。
腕で。
乱暴に拭う。
剣。
握る。
「……ああ」
ギーファの表情。
僅かに。
緩む。
ヴァルド。
もう一度。
涙を拭く。
敵を見る。
「……悪かった」
「だから謝んなっつってんだろ」
「違う」
ヴァルドが。
剣を構える。
「今ので最後」
「……」
「次に謝るのは」
一歩。
前へ。
「全部終わってからにする」
ギーファが。
鼻を鳴らす。
「そうしろ」
敵兵。
迫る。
ヴァルド。
横を見る。
「ギーファ」
「あ?」
「手伝ってくれる?」
「……」
ギーファが。
剣を構える。
「誰に言ってんだ」
二人。
並ぶ。
「行くぞ」
「ああ!」
走る。
敵兵。
五人。
ギーファ。
正面。
ヴァルド。
右。
一人目。
ギーファが。
剣を弾く。
「ヴァルド!」
「分かってる!」
ヴァルド。
横から。
斬る。
二人目。
ヴァルドへ。
「右!」
「見えてる!」
受ける。
ギーファ。
仕留める。
三人。
四人。
五人。
二人。
止まらない。
「三人行った!」
ヴァルドが叫ぶ。
「そっちは!?」
「五人!」
「代わる!?」
「舐めんな!!」
「ははっ!」
ヴァルドが。
笑う。
目。
まだ赤い。
それでも。
笑う。
「やっぱ!」
敵の剣。
受ける。
「お前と戦うと!」
押し返す。
「楽だわ!!」
「喋ってねぇで動け!!」
「はいはい!」
背中。
合わせる。
何度。
こうして。
戦ったか。
分からない。
考え方は。
違った。
何度も。
喧嘩した。
今回だって。
最後まで。
意見は合わなかった。
それでも。
戦場で。
背中を預ける相手だけは。
昔から。
変わらなかった。
◇
「撃て!!」
魔法陣。
複数。
展開。
火。
雷。
風。
飛ぶ。
「散れ!」
ギーファ。
右。
ヴァルド。
左。
火球。
ギーファ。
身体を沈める。
頭上。
通過。
風刃。
剣。
逸らす。
雷。
「っ!」
肩。
掠める。
「ギーファ!」
「平気だ!」
走る。
魔法使い。
目の前。
「ひっ――」
剣。
振る。
敵兵。
倒れる。
ヴァルド。
二人。
相手。
一人。
弾く。
もう一人。
斬る。
「はっ……!」
呼吸。
苦しい。
身体。
限界。
それでも。
前へ。
「きゃああああ!!」
声。
ヴァルドが。
振り返る。
「……!」
村。
奥。
子供。
数人。
逃げている。
後ろ。
エルグラン兵。
「ギーファ!」
「あ!?」
「あっち頼む!」
「おい!」
ヴァルド。
走る。
「ガキが残ってる!」
「ヴァルド!」
「すぐ戻る!」
「待て!」
聞かない。
「クソ!」
ギーファ。
目の前。
敵。
斬る。
「おい!」
仲間へ。
「ここ頼む!」
「ああ!」
ギーファも。
走る。
◇
「走れ!!」
ヴァルドが。
叫ぶ。
「振り返んな!!」
子供たち。
泣きながら。
走る。
敵兵。
前。
ヴァルド。
一人。
「……」
剣。
構える。
息。
荒い。
脚。
重い。
でも。
後ろ。
子供。
「……通さねぇよ」
敵兵。
走る。
ヴァルド。
踏み込む。
一人。
斬る。
二人目。
剣。
受ける。
「ぐっ!」
三人目。
横。
蹴る。
四人目。
槍。
「……っ!」
避けきれない。
脇腹。
傷。
それでも。
踏み込む。
斬る。
「このっ!」
剣。
迫る。
ヴァルド。
受ける。
押される。
膝。
地面。
「……まだ」
立つ。
「まだだ……!」
子供たち。
遠ざかる。
あと少し。
「走れ!!」
敵兵。
三人。
ヴァルドへ。
「来いよ……!」
剣。
握る。
「俺が」
息。
吸う。
苦しい。
「全部」
一歩。
「追い出してやる!!」
◇
「ヴァルド!!」
ギーファ。
走る。
敵兵。
倒れている。
一人。
二人。
三人。
その先。
最後の敵。
ヴァルドの剣。
敵兵。
倒す。
「……はっ」
ヴァルド。
振り返る。
「……ギーファ」
「馬鹿!」
ギーファが。
走る。
「一人で――」
ヴァルドの身体。
揺れる。
「……あ」
膝。
落ちる。
「ヴァルド!」
ギーファが。
受け止める。
「おい」
返事。
ない。
「おい!」
ヴァルドの目。
僅かに。
開く。
「……うるせぇな」
「喋んな」
「どっちだよ……」
「黙ってろ」
ギーファが。
身体を見る。
傷。
多い。
「そんな顔……すんなよ」
「してねぇ」
「してるって……」
ヴァルドが。
小さく笑う。
「……ガキ」
「?」
「逃げた?」
ギーファが。
後ろを見る。
遠く。
子供たち。
走っている。
「……ああ」
「逃げた」
ヴァルドが。
笑う。
「……そっか」
「よかった」
「喋んな」
「なぁ……」
「黙れって」
「ギーファ」
「……」
ヴァルドの声。
弱い。
「俺……」
少し。
間。
「大間違いだったな」
ギーファの目。
ヴァルドへ。
「……」
「お前が……正しかった」
「……」
ギーファは。
少し。
黙る。
そして。
「ああ」
ヴァルドの目が。
僅かに。
動く。
「お前は大間違いだ」
「……はは」
「とんでもねぇ馬鹿野郎だよ」
ヴァルドが。
少し笑う。
「そこまで……言うかよ」
「言うだろ」
ギーファが。
ヴァルドを抱える腕に。
力を込める。
「人を信じすぎなんだよ」
「……そうかもな」
「ああ」
「……」
「だから」
ギーファが言う。
「来世では」
一拍。
「もう少し人を疑え」
ヴァルドが。
小さく。
笑う。
「……来世か」
「ああ」
「じゃあ……」
ヴァルドが。
ギーファを見る。
「お前は……」
「?」
「もう少し……人を信じろよ」
ギーファが。
止まる。
「……余計なお世話だ」
「はは……」
小さな。
笑い声。
「それじゃ……」
息。
細い。
「また……喧嘩になるな」
「その時も俺が勝つ」
「いや……」
ヴァルドの目。
ゆっくり。
閉じていく。
「次は……俺が……」
「無理だろ」
「……言ってろ」
それが。
最後だった。
「……」
ギーファは。
何も言わない。
腕の中。
ヴァルド。
動かない。
遠く。
剣。
ぶつかる音。
叫び。
魔法。
爆発。
戦場。
なのに。
ギーファの周りだけ。
何も。
聞こえない。
「……ヴァルド」
返事はない。
一滴。
地面へ。
落ちる。
「……馬鹿野郎」
ギーファは。
ヴァルドを。
静かに。
地面へ寝かせる。
剣。
握る。
立つ。
「……」
敵兵。
迫る。
「いたぞ!」
「ギーファだ!」
「囲め!」
ギーファが。
顔を上げる。
目。
見開かれている。
呼吸。
荒い。
「撃て!!」
火球。
飛ぶ。
ギーファ。
首。
傾ける。
通過。
風刃。
身体。
捻る。
避ける。
雷。
「――っ!」
直撃。
爆発。
「やった!」
煙。
敵兵。
安堵。
一歩。
音。
「……?」
煙。
中。
人影。
ギーファ。
出てくる。
肩。
焼けている。
血。
流れている。
それでも。
止まらない。
「な……」
敵兵。
後退。
「なんで……」
ギーファ。
走る。
「来るぞ!!」
一人。
斬る。
二人。
三人。
「距離取れ!!」
魔法。
飛ぶ。
避ける。
当たる。
転ぶ。
立つ。
走る。
斬る。
「なんだよ……!」
兵士が叫ぶ。
「なんなんだよこいつ!!」
ギーファ。
答えない。
呼吸。
荒い。
「……ッ」
目。
血走っている。
痛み。
ある。
身体。
限界。
そんなもの。
もう。
どうでもいい。
敵。
倒す。
次。
敵。
倒す。
次。
それだけ。
「魔法隊!!」
指揮官が叫ぶ。
「一斉に撃て!!」
複数。
魔法陣。
展開。
「放て!!」
炎。
雷。
風。
ギーファへ。
飛ぶ。
一歩。
踏み込む。
炎。
避ける。
雷。
横。
風。
肩。
裂く。
止まらない。
炎。
身体。
掠める。
止まらない。
「なんでだ……」
魔法使い。
震える。
「なんで止まらない……!」
ギーファ。
目の前。
「ひっ――」
剣。
振る。
次。
「退け!!」
指揮官。
叫ぶ。
「距離を取れ!!」
兵士たち。
後退。
一人。
剣。
落とす。
カラン。
「……無理だ」
「何してる!」
「無理だ……!」
「拾え!」
「無理だ!!」
ギーファが。
歩いてくる。
「来るぞ!」
「構えろ!」
「嫌だ!」
兵士。
後退。
「勝てるわけねぇだろ!!」
「相手は一人だぞ!!」
「一人だから何だ!!」
兵士が。
叫び返す。
「見ろよ!!」
ギーファ。
傷。
血。
荒い呼吸。
それでも。
こちらへ。
来る。
「何発当てたと思ってんだ!!」
「なんで!!」
声。
震える。
「なんでまだこっちに来るんだよ!!」
一人。
逃げる。
二人。
続く。
「戻れ!!」
「逃げるな!!」
戦列。
崩れる。
ギーファ。
追う。
敵兵。
転ぶ。
「……っ!」
振り返る。
ギーファ。
目の前。
「ま、待て!」
剣。
捨てる。
「降伏する!」
ギーファ。
止まらない。
「もう戦わない!」
一歩。
「頼む……!」
一歩。
「助けてくれ!!」
命乞い。
ギーファの耳には。
もう。
届いていなかった。
剣。
振る。
声。
途切れる。
「……」
別の兵士。
それを見る。
顔。
青ざめる。
「……悪魔」
ギーファが。
ゆっくり。
顔を向ける。
兵士。
震える。
「あれは……」
一歩。
後退。
「悪魔だ……」
その言葉が。
伝わる。
一人。
また一人。
「悪魔……」
「来るぞ!」
「逃げろ!!」
エルグラン兵。
たった一人の男から。
逃げ始めた。
◇
エルグラン王国。
王宮。
「……」
エドガーは。
窓の外を見ていた。
今朝。
父。
国王は。
城を出た。
『少し視察へ出る』
それだけ。
どこへ。
何のために。
聞いても。
曖昧だった。
「……」
胸。
騒ぐ。
何か。
おかしい。
エドガーが。
立ち上がる。
「誰か!」
騎士。
入る。
「はっ」
「アルヴァ周辺へ配置した部隊」
「……」
「連絡は取れるか?」
騎士の表情。
僅かに。
変わる。
エドガーが。
それを見逃さない。
「……何だ」
「いえ」
「何か知ってるのか」
「……」
「答えろ」
騎士。
黙る。
エドガーの顔から。
血の気。
引く。
「……まさか」
走る。
「殿下!」
「馬を出せ!!」
◇
「殿下!」
馬。
走る。
「お待ちください!」
エドガー。
止まらない。
アルヴァ。
近づく。
その途中。
兵。
道。
塞ぐ。
「殿下!」
「止まってください!」
エドガーが。
馬を止める。
「退け」
「ここから先は立入禁止です!」
「誰の命令だ」
「……」
「誰の命令だ!!」
兵士。
俯く。
「国王……陛下です」
エドガーの目。
見開かれる。
「……退け」
「殿下」
「退け!!」
「できません!」
エドガー。
馬。
走らせる。
「殿下!!」
突破。
アルヴァへ。
近づく。
煙。
見える。
「……」
エドガーの顔。
強張る。
「嘘だろ……」
さらに。
進む。
村。
見える。
戦場。
エルグラン兵。
剣。
アルヴァ。
逃げる人々。
燃える建物。
「……なんだよ」
馬。
止める。
降りる。
「なんだよ……」
声。
震える。
「これ……」
涙。
滲む。
「何なんだよ!!」
その時。
子供。
走る。
後ろ。
エルグラン兵。
「待て!」
兵士。
剣。
振り上げる。
「やめろ!!」
エドガー。
間。
入る。
剣。
受ける。
「……殿下!?」
兵士。
固まる。
エドガーが。
睨む。
「何をしている」
「しかし!」
「何をしていると聞いている!!」
「これは国王陛下の――」
「黙れ!!」
エドガー。
自国の兵へ。
剣。
向ける。
「この者たちに」
声。
震える。
「手を出すな!!」
兵士。
動けない。
エドガー。
子供たちへ。
振り返る。
「逃げろ!」
子供。
固まっている。
「早く!!」
「でも……」
「いいから!」
エドガーが叫ぶ。
「逃げろ!!」
子供たち。
走る。
エドガーは。
周囲を見る。
「ヴァルド……」
走る。
「ギーファ!」
戦場。
進む。
「ヴァルド!!」
返事。
ない。
「どこだ!!」
涙。
流れる。
「ギーファ!!」
その時。
兵士たち。
逃げてくる。
「逃げろ!」
「悪魔だ!」
「来るぞ!!」
エドガーが。
止まる。
「……?」
兵士たちの向こう。
一人。
歩いてくる。
全身。
傷。
血。
剣。
握っている。
ギーファ。
そして。
その腕。
一人。
抱えている。
エドガーの目が。
大きくなる。
「……」
足。
動かない。
見覚え。
ある。
髪。
服。
顔。
何度も。
話した。
何度も。
笑った。
男。
「……ヴァルド?」
ギーファが。
止まる。
ゆっくり。
顔を上げる。
二人。
目が合った。
信じることで未来を変えようとしたヴァルド。
最後まで疑うことで仲間を守ろうとしたギーファ。
考え方は正反対で、何度もぶつかった二人でした。
それでも最後まで、背中を預ける相手だけは変わらなかった。
「来世では、もう少し人を疑え」
「じゃあ、お前はもう少し人を信じろよ」
そして、ヴァルドを失ったギーファは止まらない。
そんな戦場へ、何も知らなかったエドガーが辿り着きました。
次回、アルヴァの戦いは最後の局面へ。
よろしくお願いします。




