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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
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52/68

それぞれの思い

差し出された同盟という名の手。


それを未来への一歩と見るヴァルド。


そして、危険の始まりと見るギーファ。


守りたいものは同じ。


それでも、選ぼうとする道は少しずつ違い始めます。


第52話、よろしくお願いします!


「アルヴァの周りに」


「他国の兵を置くなんて話」


一拍。


「俺は認めねぇ」


風が吹く。


誰も。


すぐには言葉を返さなかった。


ヴァルドは。


手元の書状を見る。


エルグラン王国とアルヴァ。


正式な同盟。


そして。


アルヴァ領周辺への騎士の配置。


これまで。


アルヴァは。


自分たちだけで戦ってきた。


何度。


剣を握ったか。


何度。


仲間を失ったか。


数え切れない。


でも。


これがあれば。


変わるかもしれない。


「……俺は」


ヴァルドが口を開く。


ギーファが見る。


「同盟を結ぶべきだと思う」


ギーファの眉が僅かに動く。


「……本気で言ってんのか」


「本気だよ」


「話聞いてたか?」


「聞いてた」


「なら――」


「ギーファ」


ヴァルドが遮る。


「お前も見てただろ」


「……」


「この数ヶ月」


ヴァルドが村を見る。


「エドガーは何度も来た」


「約束を破ったか?」


ギーファは答えない。


「エルグランの騎士も来た」


「商人も来た」


「誰か問題を起こしたか?」


「……」


「何も起きてない」


ギーファの目が細くなる。


「だから信用しろって?」


「少なくとも」


ヴァルドが答える。


「信用しようとしてもいいだろ」


「……」


「俺たちだって」


「最初はエドガーを疑った」


ヴァルドがエドガーを見る。


「でも」


「話して」


「一緒に飯食って」


「何度も会って」


「分かっただろ」


ギーファが低く答える。


「だから言ってんだろ」


「エドガーは信用してる」


エドガーが黙って二人を見る。


「俺が信用してねぇのは」


ギーファが書状を指す。


「こいつじゃねぇ」


一拍。


「俺たちの周りに置かれる」


「三百人の方だ」


「その三百人だって」


ヴァルドが言う。


「エルグランの騎士だろ」


「だから何だ」


「この数ヶ月!」


ヴァルドの声が少し大きくなる。


「何もなかったじゃん!」


「数ヶ月だろ」


「……何?」


ギーファがヴァルドを見る。


「たった数ヶ月だ」


「それで国一つ信用すんのか?」


「たったじゃない!」


ヴァルドが返す。


「最初は誰だって疑ってただろ!」


「でも」


「少しずつ変わってきた!」


「……」


「子供たちだって」


「今じゃエルグランの奴ら見ても逃げない!」


「商人だって普通にここへ来る!」


「俺たちだって普通に話してる!」


ヴァルドが言う。


「変わってんだよ」


「ギーファ」


「何も変わってねぇよ」


「変わってる!」


「変わってねぇ!」


声がぶつかる。


周囲。


アルヴァの者たちも。


エルグランの騎士たちも。


二人を見る。


「俺たちはずっと戦ってきた!」


ヴァルドが叫ぶ。


「昨日も!」


「先月も!」


「その前も!」


「誰かが来る度に!」


「剣持って!」


「殺して!」


「殺されて!」


「それをずっと繰り返してきた!」


ギーファの表情が険しくなる。


「だから何だ」


「終わらせたいんだよ!」


ヴァルドが言う。


「俺たちの代で!」


「……」


「子供たちまで!」


ヴァルドが村の方を指す。


「あいつらまで同じこと繰り返すのか!?」


「誰かが来る度に武器持たせて!」


「戦い方教えて!」


「殺されない方法を教えて!」


「それを!」


一拍。


「ずっと続けるのかよ!」


「それで生き残ってきたんだろうが!!」


ギーファの怒声。


ヴァルドが止まる。


「俺たちが!」


ギーファが続ける。


「今ここにいるのは!」


「そうやって疑って!」


「そうやって戦って!」


「そうやって守ってきたからだろうが!」


「だから変えたいって言ってんだよ!!」


「変えるために全部失ったら意味ねぇだろ!!」


沈黙。


二人の息だけが。


聞こえる。


ヴァルドが。


拳を握る。


「……お前は」


ギーファを見る。


「疑いすぎなんだよ」


ギーファの表情が。


変わった。


「……何?」


「エドガーが来た時もそうだった」


「ずっと疑ってた」


「今回もそうだ」


「何も起きてないのに」


「ずっと」


「ずっと!」


「最悪のことばっか考えて!」


次の瞬間。


ガッ!!


「――っ!」


ギーファの手が。


ヴァルドの胸倉を掴んだ。


「ギーファ!」


周囲から声が上がる。


エドガーも一歩動く。


だが。


ヴァルドは。


ギーファから目を逸らさなかった。


「……疑いすぎ?」


ギーファの声が低い。


「疑って」


「何も起きなきゃ」


「それで終わりだ」


胸倉を掴む手。


力が入る。


「俺が馬鹿だった」


「考えすぎだった」


「それで笑って終わりだ!」


「でもな!」


ギーファが。


ヴァルドを引き寄せる。


「てめぇが信じた結果!」


「ここにいる奴らが死んだら!」


「どうすんだ!!」


「……!」


「村が焼かれたら!」


「子供が殺されたら!」


「家族が死んだら!」


「てめぇ!」


ギーファの目。


怒り。


その奥。


恐怖。


「責任取れんのかよ!!」


「だからって!」


ヴァルドも叫ぶ。


「いつまでも誰も信じないで生きるのかよ!!」


「ああ!」


即答。


「それで守れるならそうする!」


「それじゃ何も変わらねぇだろ!」


「変わらなくていい!」


「何!?」


「全員生きてんなら!」


ギーファが叫ぶ。


「何も変わらなくていいんだよ!!」


「……」


ヴァルドの目が。


僅かに揺れる。


「俺は」


ギーファが続ける。


「平和だの!」


「未来だの!」


「そんなもんより!」


一拍。


「明日も!」


「ここにいる奴らが生きてる方が大事だ!!」


ヴァルドは。


何も言わない。


ギーファの拳が。


震えている。


胸倉を掴んだまま。


もう片方の手。


拳。


握られる。


ヴァルドも。


動かない。


そして。


ギーファが。


拳を上げかけた。


その時。


視界。


端。


「……」


セラ。


少し離れた場所。


何も言わない。


ただ。


こちらを見ている。


ギーファの拳が。


止まった。


「……」


セラと。


目が合う。


一秒。


二秒。


ギーファの手から。


少しずつ。


力が抜けていく。


やがて。


ヴァルドの胸倉を離した。


「……ギーファ」


ヴァルドが呼ぶ。


ギーファは。


答えない。


書状を見る。


エドガーを見る。


最後に。


ヴァルドを見る。


「……好きにしろ」


「ギーファ」


「もういい」


踵を返す。


「俺は」


一度。


足を止める。


「賛成しねぇ」


それだけ。


ギーファは。


歩いていった。


セラの横を通る。


セラは。


何も言わない。


ギーファも。


何も言わない。


ただ。


すれ違う瞬間。


ほんの僅かに。


足を止めた。


そして。


そのまま。


歩いていった。



夜。


村から。


少し離れた場所。


焚き火。


その周囲。


数人の男たち。


全員。


ギーファが。


長く共に戦ってきた者たちだった。


幼い頃から知る者。


何度も背中を預けた者。


戦場から。


共に帰ってきた者。


「……で?」


一人が聞く。


「ヴァルドとはどうなった」


ギーファは。


焚き火を見る。


「好きにさせる」


「同盟を?」


「ああ」


周囲の男たちが。


顔を見合わせる。


「いいのか?」


「よくねぇよ」


即答。


「なら止めろよ」


「止めた」


「聞かなかった?」


「ああ」


一人が小さく笑う。


「ヴァルドらしいな」


ギーファが睨む。


「笑い事じゃねぇ」


「悪い」


男の表情が戻る。


「それで」


「俺たちを集めた理由は?」


ギーファが。


顔を上げる。


全員を見る。


「いいか」


声が変わる。


全員。


それだけで分かる。


戦う時の。


ギーファの声。


「同盟が結ばれても」


一拍。


「絶対に気を抜くな」


誰も口を挟まない。


「エルグランの兵が」


「どこに配置されるか」


「何人ずついるか」


「誰が指揮してるか」


「交代はいつか」


「全部見とけ」


「……」


「村へ来た奴の顔も」


「出来る限り覚えろ」


一人が聞く。


「そこまでやるのか」


「ああ」


「武器は」


ギーファが続ける。


「毎日手入れしろ」


「いつでも持ち出せるようにしとけ」


「食料もだ」


「普段使う分とは別に」


「少しずつ確保しろ」


男たちの表情が。


少しずつ険しくなる。


「何も起きてなくても」


「夜」


「すぐ動けるようにしとけ」


「家族にも」


「何かあった時」


「どこへ逃げるか決めさせろ」


一人が。


ギーファを見る。


「……お前」


少し間。


「エルグランと戦うつもりなのか?」


「違う」


ギーファは即答した。


「じゃあ何で」


ギーファが。


焚き火を見る。


火。


揺れている。


「戦わなくて済むように」


一拍。


「準備するんだ」


「……」


「何も起きなきゃ」


ギーファが言う。


「俺の考えすぎだった」


「それでいい」


「みんなで俺を笑えばいい」


「……」


「でも」


炎を見る目が。


鋭くなる。


「何か起きた時」


「準備してなかったじゃ」


「済まねぇ」


男たちは。


黙っていた。


誰も。


反論しない。


ギーファの勘。


それだけではない。


これまで。


何度も。


最悪を想定したから。


生き残れた。


それを。


ここにいる者たちは知っている。


「……分かった」


一人が答える。


「俺は北側を見る」


別の男。


「じゃあ俺は南」


「交代の兵も覚えとく」


「俺は食料やる」


ギーファが。


全員を見る。


「頼む」


短い言葉。


それだけ。


「ヴァルドには?」


一人が聞いた。


ギーファの目が。


僅かに動く。


「言うな」


「なんで」


「……」


ギーファは。


少し黙った。


ヴァルド。


昔から。


何度言っても。


自分が正しいと思ったことへ。


真っ直ぐ進む男。


馬鹿で。


甘くて。


それでも。


誰より。


人を見捨てない。


「……あいつは」


ギーファが言う。


「信じることで」


少し間。


「未来を作ろうとしてる」


誰も。


口を挟まない。


「なら」


ギーファが。


炎を見る。


「好きにやらせる」


「俺は」


拳を握る。


「その未来が」


「もし壊れた時に」


一拍。


「みんなを生かす準備をする」


静寂。


焚き火が。


パチッ。


小さく弾けた。


「だから」


ギーファが。


仲間たちを見る。


「警戒を怠るな」


「いつでも」


「戦えるようにしておけ」


全員が。


静かに頷いた。



数日後。


エルグラン王国と。


アルヴァ。


両者の間で。


正式に。


同盟が締結された。


ヴァルドが選んだ。


新しい未来。


そして。


ギーファが選んだ。


その未来が壊れた時のための備え。


同じ民を守ろうとした。


二人の選択は。


この日。


初めて。


別々の道へ。


分かれ始めた。


「信じることで未来を作る」


ヴァルドが選んだ道。


そして、


「その未来が壊れた時に、みんなを生かす準備をする」


ギーファが選んだ道。


激しくぶつかりながらも、二人が守ろうとしているものは同じです。


そしてついに、エルグラン王国とアルヴァの同盟が正式に締結されました。


この選択は、アルヴァにどんな未来をもたらすのか。


次回もよろしくお願いします!


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