表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
PR
51/60

交流

少しずつ距離を縮めていく、アルヴァとエルグラン。


かつて互いを警戒していた者たちも、共に過ごす中で少しずつ相手を知っていきます。


ヴァルドが願っていた「剣を抜かなくてもいい関係」は、本当に実現するのか。


第51話、よろしくお願いします!


# 第51話 交流


「魔法見せて!」


「またか?」


エドガーが苦笑する。


「だって前のすごかった!」


「今日は何やるの?」


「火!」


「雷がいい!」


「水!」


好き勝手に叫ぶ子供たち。


その中心。


エドガーは完全に囲まれていた。


少し離れた場所。


エルグランの騎士たちは。


その光景を呆然と見ている。


「……殿下」


一人が呟く。


「随分と……」


言葉が続かない。


彼らが知っているエドガー。


王族。


常に護衛が付き。


城内では誰もが頭を下げる。


その男が今。


見知らぬ子供たちに囲まれている。


「早く!」


「分かった、分かった」


エドガーが右手を上げる。


指先。


小さな光。


それが。


ふわり。


空中へ浮かぶ。


一つ。


二つ。


三つ。


小さな光球が。


子供たちの頭上を飛び回る。


「おお!」


「すげぇ!」


「捕まえろ!」


子供たちが走り出す。


光球も逃げる。


右へ。


左へ。


「待てー!」


その様子を。


ヴァルドが笑いながら見ていた。


「人気者だな」


「お前が最初に見せろと言ったんだろう」


「俺は一回だけだよ」


「その一回のせいでこれだ」


「いいじゃん」


「毎回やらされる側にもなってみろ」


そう言いながらも。


エドガーは。


光球を消さない。


「殿下」


護衛の騎士が近づく。


「そろそろ――」


その瞬間。


子供の一人がエドガーの腕を掴んだ。


「次これ!」


騎士の身体が反応する。


一歩。


前へ。


「殿下に――」


「大丈夫だ」


エドガーが止めた。


騎士が動きを止める。


「しかし」


「子供だ」


「……」


騎士は。


ゆっくり下がった。


その様子。


ヴァルドが見ていた。


「大変だな」


「何が」


「王族って」


「……否定はしない」



村。


騎士たちは。


ゆっくりと歩いていた。


見るもの全てが。


想像とは違う。


家。


畑。


家畜。


食事を作る者。


衣服を干す者。


木材を運ぶ者。


そして。


子供たち。


「……普通だな」


一人の騎士が呟いた。


隣の騎士が見る。


「何がだ」


「いや」


男は周囲を見る。


「もっと……」


言葉に詰まる。


「荒れた場所だと思っていた」


「俺もだ」


アルヴァ。


その名は。


エルグランでも知られている。


魔法を持たない民。


異常な肉体を持つ者たち。


他国の軍すら退ける。


凶暴。


野蛮。


危険。


聞いていた話は。


そんなものばかりだった。


だが。


目の前。


一人の老人が。


畑で腰を曲げている。


その横を。


子供が走っていく。


「おい」


声。


騎士が振り返る。


小さな少年。


手には。


木剣。


「それ」


少年が騎士の腰を見る。


剣。


「見せて」


「……これか?」


「うん」


騎士は困った顔をする。


「これは玩具ではない」


「知ってるよ」


少年が木剣を上げる。


「俺も持ってる」


「それは木剣だろう」


「今はね」


「……今は?」


少年が頷く。


「もっと上手くなったら本物使う」


騎士の表情が変わる。


「いくつだ」


「九つ!」


「九歳で……?」


その時。


「そいつ、最近始めたばっかだぞ」


ヴァルド。


「ヴァルド!」


少年が振り返る。


「俺、昨日ギーファに褒められた!」


「ほんとか?」


「一回だけ!」


「一回かよ」


少年が笑う。


騎士は。


その木剣を見る。


「こんな幼い頃から」


ヴァルドが騎士を見る。


「しょうがねぇよ」


「……?」


「自分の身くらい」


ヴァルドが言う。


「自分で守れないと」


少し間。


「ここじゃ、生きていけないから」


騎士は黙った。


「別に」


ヴァルドが続ける。


「戦争したくて教えてるわけじゃない」


「……」


「戦わなくていいなら」


ヴァルドが少年の頭へ手を置く。


「その方がいい」


少年が不満そうに手を払う。


「俺は強くなる!」


「はいはい」


「ギーファより!」


「それはやめとけ」


「なんで!」


「死ぬほど大変だから」


騎士は。


二人を見ていた。



「これは?」


「薬だ」


エドガーが荷物を開く。


「傷薬や解熱剤」


「こっちは?」


「布」


「これ全部?」


「ああ」


ヴァルドが顔をしかめる。


「多くね?」


「そうか?」


「多いだろ」


荷物。


食料。


薬。


布。


農具。


金属。


様々な物資。


「こんなにもらえねぇよ」


「受け取ってくれ」


「いや」


「父からの正式な礼でもある」


「だからって」


ヴァルドが荷物を見る。


「俺」


エドガーを見る。


「別に礼が欲しくて助けたわけじゃないぞ」


「分かっている」


「じゃあ――」


「だからこそだ」


ヴァルドが止まる。


「俺たちが返したい」


エドガーが言う。


「それだけだ」


「……」


「受け取ってもらえない方が困る」


ヴァルドが頭を掻く。


「でもなぁ」


「命を救われた礼としては」


エドガーが荷物を見る。


「これでも足りないくらいだ」


ヴァルドが首を傾げる。


「命ってそんな高いの?」


「……」


エドガーがヴァルドを見る。


「王族の命だぞ」


「俺からしたら」


ヴァルドは普通に答えた。


「エドガーの命だろ」


「……」


エドガーが黙った。


「王族だろうが何だろうが」


「死にそうなら助けるだろ」


ヴァルドが荷物を見る。


「だから」


「こんなに返されても困る」


「……そうか」


「うん」


エドガーが。


少しだけ笑う。


「なら」


「?」


「俺が勝手に返したことにしておいてくれ」


「何だそれ」


「俺が満足したいだけだ」


「じゃあしょうがねぇな」


「そういうことだ」



村の外れ。


金属音。


ガッ!


剣がぶつかる。


ギーファ。


その周囲。


三人のアルヴァの戦士。


同時。


三方向。


ギーファが一歩下がる。


剣を流す。


身体を捻る。


一人の腕を掴む。


投げる。


「うおっ!」


地面。


次。


横薙ぎ。


屈む。


足。


払う。


二人目が倒れる。


三人目。


背後。


剣。


ギーファは。


振り返らない。


身体を僅かにずらす。


刃が横を通る。


肘。


腹。


「ぐっ!」


男が膝をつく。


数秒。


三人。


地面。


「……」


少し離れた場所。


エルグランの騎士たちが見ていた。


「三人を……」


「ほとんど同時に」


そのうちの一人。


49話。


エドガーの首へ剣を当てていた男。


忘れるはずがない。


「……あれが」


「ギーファ」


地面。


一人の若者が立ち上がろうとする。


「まだ!」


ギーファが見る。


「終わりだ」


「まだやれます!」


「やめろ」


「でも!」


ギーファが男の腕を掴む。


少し動かす。


男の顔が歪む。


「痛ぇだろ」


「……」


「さっきから動き悪くなってる」


「まだ――」


「死んでからじゃ遅ぇんだよ」


ギーファが手を離す。


「今日は休め」


「……はい」


若者が悔しそうに下がる。


騎士たちは。


黙って見ていた。


強い。


恐ろしい。


だが。


それだけではない。


「……」


一人の騎士が。


少しだけ。


ギーファを見る目を変えた。



夕方。


「ギーファ」


「何」


エドガーが隣へ立つ。


ギーファは。


剣の汚れを拭いている。


「少しいいか」


「もう話してるだろ」


「……そうだな」


エドガーが座る。


少し。


沈黙。


「昨日の書状」


ギーファの手は止まらない。


「それが?」


「本当に」


エドガーが聞く。


「何も感じなかったのか」


ギーファが見る。


「何か感じろって?」


「父が正式に」


「アルヴァへ敵意がないと――」


「紙は信用しねぇって言ったろ」


「……」


エドガーが黙る。


ギーファは。


再び剣を見る。


「でも」


エドガーが顔を上げる。


「お前が約束守って来たことは見た」


「……」


「事前に知らせた」


「人数も絞った」


「勝手に土地へ入らなかった」


ギーファが布を置く。


「そういうのを見て」


「俺は決める」


エドガーは。


少し黙った後。


「なら」


ギーファを見る。


「これからも見ていてくれ」


「……」


「エルグランが」


「信用に値する国なのか」


ギーファは。


何も答えない。


だが。


エドガーも。


返事を求めなかった。



それから。


時間が流れた。


一度だった訪問は。


二度になった。


二度だったものは。


三度になった。


最初はエドガーだけだった。


次に。


騎士。


そして。


商人。


「これ」


アルヴァの男が布を触る。


「丈夫だな」


「エルグラン南部で作られたものです」


商人が答える。


「代わりに」


机。


置かれた鉱石。


「これは?」


「山で採れる」


商人が手に取る。


目が変わる。


「……この純度」


別の日。


「この薬草は?」


「熱に効く」


「いくらで売っていただけますか?」


「金?」


「ええ」


「肉じゃ駄目?」


「……肉?」


「昨日狩った」


そんなやり取りも。


少しずつ。


当たり前になっていった。


アルヴァの子供たちは。


エルグランの騎士を見ても。


逃げなくなった。


騎士たちも。


アルヴァを見て。


剣へ手を伸ばさなくなった。


最初は。


互いに遠かった。


だが。


少しずつ。


その距離は縮まっていった。


ヴァルドが望んだように。


剣を抜かなくても済む相手が。


一人。


また一人。


増えていった。


ギーファは。


何も言わなかった。


ただ。


ずっと。


見ていた。



数ヶ月後。


「ヴァルド」


エドガーが。


再び村へやってきた。


だが。


いつもとは違う。


笑っていない。


手には。


一通の書状。


ヴァルドが気付く。


「どうした?」


「今日は」


エドガーが言う。


「友人として来たわけじゃない」


ヴァルドの表情が変わる。


少し離れた場所。


ギーファも見る。


「エルグラン王家の人間として」


エドガーが書状を差し出す。


「正式な話をしに来た」


ヴァルドが受け取る。


「正式な?」


「ああ」


エドガーが頷く。


「エルグラン王国と」


一拍。


「アルヴァとの同盟についてだ」


「……同盟?」


ヴァルドが書状を見る。


エドガーが続ける。


「父上は」


「アルヴァがこれまで」


「周辺諸国から何度も侵攻を受けてきたことを重く見ている」


「……」


「そこで」


エドガーが言う。


「エルグランから」


「騎士を派遣したい」


ヴァルドが顔を上げる。


「騎士?」


「ああ」


「選抜された」


「特別な訓練を受けた騎士たちだ」


ギーファの目が。


僅かに細くなる。


「アルヴァ領の周辺へ」


エドガーが続ける。


「分散して配置する」


「他国の軍勢が侵攻した場合」


「彼らが迎撃する」


ヴァルドが。


少し驚く。


「それって」


「俺たちだけで戦わなくていいってことか?」


「そうだ」


「エルグランも」


「一緒に戦ってくれる?」


「ああ」


エドガーが頷く。


「それが同盟だ」


ヴァルドが。


書状を見る。


今まで。


何度。


戦った。


村を守るため。


家族を守るため。


仲間を守るため。


剣を握った。


もし。


エルグランがいるだけで。


敵が来なくなるなら。


もし。


戦わなくても。


守れるのなら。


「……いいじゃん」


ヴァルドが呟く。


エドガーが僅かに笑う。


だが。


「……何人だ」


声。


ギーファ。


エドガーが見る。


「何?」


「派遣する騎士」


ギーファが。


真っ直ぐエドガーを見る。


「何人だ」


「……三百名ほどを予定している」


「三百」


「ああ」


「どこに置く」


「アルヴァ領の外周」


エドガーが答える。


「特に」


「他国の軍が侵入しやすい場所を中心に」


「分散して配置する予定だ」


「誰が場所を決める」


「双方で協議して決める」


「いつまでいる」


エドガーが少し止まる。


「同盟が続く限り」


沈黙。


ヴァルドが。


ギーファを見る。


「ギーファ?」


「……」


ギーファは。


何も言わない。


「どうした?」


ヴァルドが聞く。


ギーファは。


エドガーを見る。


そして。


「気に入らねぇ」


ヴァルドの表情が変わる。


「何が?」


「全部だ」


「でも」


ヴァルドが書状を持ち上げる。


「守ってくれるって言ってんだぞ」


「逆だ」


「……何が?」


ギーファが。


ヴァルドを見る。


「俺たちの土地の周りに」


一拍。


「他国の兵が三百人」


「常にいるって話だろ」


「……」


ヴァルドが黙る。


「守られる?」


ギーファが言う。


「違ぇ」


エドガーを見る。


「囲まれるんだよ」


エドガーの表情が僅かに変わる。


「ギーファ」


「エドガー」


ギーファが遮る。


「勘違いすんな」


「……」


「お前は信用してる」


ヴァルドが少し驚く。


エドガーも。


僅かに目を見開いた。


ギーファが。


そんな言葉を。


はっきり口にしたのは。


初めてだった。


「お前が」


ギーファは続ける。


「俺たちを嵌めようとしてるとは思ってねぇ」


「だったら――」


「でも」


ギーファの声が強くなる。


「お前が」


「エルグランの全部じゃねぇだろ」


「……」


エドガーは。


何も言えなかった。


否定できない。


「俺たちを守るため」


ギーファが続ける。


「そう言えば」


「兵を置ける」


「道を使える」


「俺たちがどこで暮らしてるかも」


「どこからなら入れるかも」


「全部分かる」


ヴァルドが眉を寄せる。


「考えすぎだろ」


ギーファが見る。


「かもな」


「だったら――」


「考えすぎで済んだなら」


一拍。


「それでいい」


「……」


「何も起きなきゃ」


「俺が馬鹿だったって笑えばいい」


ギーファが。


エドガーの持つ書状を見る。


「でも」


「何か起きてからじゃ」


「遅ぇんだよ」


ヴァルドは。


黙っていた。


エドガーも。


何も言わない。


風が吹く。


それまで。


少しずつ。


確かに縮まっていた。


アルヴァと。


エルグランの距離。


その先に。


初めて差し出された。


同盟という名の手。


ヴァルドには。


それが。


剣を置くための手に見えた。


だが。


ギーファには。


違って見えていた。


「……俺は反対だ」


ギーファが言う。


ヴァルドが顔を上げる。


「ギーファ」


ギーファは。


エドガーではなく。


その手にある書状を見ていた。


「アルヴァの周りに」


「他国の兵を置くなんて話」


一拍。


「俺は認めねぇ」


交流を重ね、ついに持ちかけられた正式な同盟。


エルグランの騎士がアルヴァ領周辺を守ってくれる。


ヴァルドにとっては、ずっと望んでいた「戦わなくても守れる未来」へ近づく提案でした。


しかしギーファが見たものは、まるで違うもの。


「守られるんじゃない。囲まれるんだ」


エドガー個人を信用しても、エルグランという国までは信用しない。


その警戒は、考えすぎなのか。それとも――。


次回もよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ