表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
PR
49/60

殿下

アルヴァの村へ迫る、三十を超える武装した騎士たち。


それを知ったギーファが最初に疑ったのは、村へ迎え入れたエドガーでした。


信じるヴァルド。


疑うギーファ。


そして、未だ素性を明かしていないエドガー。


三者の関係が大きく動き始めます。


第49話、よろしくお願いします!


朝。


アルヴァの村には、いつもと変わらない時間が流れていた。


畑へ向かう者。


朝食を作る者。


剣を振るう者。


子供たちの声。


エドガーも、ようやく一人で歩ける程度まで回復していた。


「もう痛みは?」


ヴァルドが聞く。


「多少は残っている」


エドガーが脇腹へ触れる。


「だが、問題ない」


「無理すんなよ」


「ああ」


その時だった。


「ギーファ!!」


叫び声。


村の入口から、見張りをしていた男が走ってくる。


息を切らしている。


「西から武装した集団が来る!」


空気が変わった。


ギーファが立ち上がる。


「数は」


「二十……いや、三十はいる!」


「所属は?」


「分からない! だが全員騎士だ!」


「……」


ギーファの目が細くなる。


「真っ直ぐこっちへ向かってる!」


「……そうか」


低い声。


「戦える奴を西へ集めろ」


「向こうが武器を抜くまで手は出すな」


「だが、いつでも抜けるようにしておけ」


「分かった!」


男が走り去る。


ヴァルドも剣へ手を伸ばす。


「俺も――」


「ヴァルド」


「ん?」


ギーファは。


ヴァルドを見ていなかった。


その視線の先。


エドガー。


「……」


エドガーも、その意味を理解した。


「こいつから離れろ」


「……ギーファ」


「早くしろ」


声が冷たい。


「待て」


エドガーが口を開く。


「おそらく、その騎士たちは――」


次の瞬間。


ギーファが消えた。


「――っ!」


エドガーの目が見開かれる。


ガッ!


肩を掴まれた。


身体が後ろへ引かれる。


そして。


剣が抜かれる。


「ギーファ!」


ヴァルドが叫ぶ。


冷たい刃。


それが、エドガーの首筋へ当てられていた。


「……」


エドガーは動かない。


否。


動けない。


ほんの僅かでも抵抗すれば。


その瞬間。


首を落とされる。


そう理解できるほどの殺気だった。


「言ったよな」


ギーファがヴァルドを見る。


「こいつが来てから何か起きたら」


剣を握る手に力が入る。


「真っ先に疑うって」


「まだエドガーが関係してるって決まったわけじゃねぇ!」


「武装した騎士が三十人」


ギーファが低く言う。


「こいつが来て数日後に、アルヴァへ真っ直ぐ向かってきてる」


「……」


「随分と」


目が鋭くなる。


「都合のいい偶然だな?」


「……おそらく」


エドガーが静かに口を開く。


「俺の部下だ」


ギーファの視線が動く。


「部下?」


「ああ」


「俺を捜しているのだと思う」


「だったら尚更じゃねぇか」


「だが、俺は呼んでいない」


「証明できるのか?」


「……できない」


即答だった。


ギーファは剣を離さない。


「なら黙ってろ」


ヴァルドが一歩近づく。


「ギーファ」


「来るな」


「でも――」


「来るな」


ギーファがヴァルドを見る。


「今はこいつを殺すつもりはねぇ」


一拍。


「今はな」


「……」


「だが」


西を見る。


「来た連中が少しでも妙な真似をしたら」


再びエドガーを見る。


「その瞬間に斬る」


エドガーは何も言わなかった。



村の西。


既に数十人のアルヴァの戦士たちが集まっていた。


剣。


槍。


斧。


それぞれが武器を手に、前方を見据えている。


遠く。


土煙。


馬。


一頭。


二頭。


十。


二十。


その数は三十を超えていた。


甲冑。


紋章。


全員が武装している。


アルヴァの戦士たちの表情が険しくなる。


「止まれ!!」


一人が叫ぶ。


騎士たちが馬を止めた。


距離。


数十歩。


双方が睨み合う。


騎士たちの間にも動揺が走る。


「……アルヴァ」


「ここが……」


「なぜ殿下の痕跡が、この土地へ……」


先頭。


一人の騎士が馬を降りた。


「我々はエルグラン王国騎士団!」


アルヴァ側がざわめく。


「エルグラン……?」


「大国の騎士が、なんでここに」


騎士隊長が続ける。


「この付近に、我々が捜している者がいる可能性がある!」


アルヴァ戦士の一人が答える。


「だから武装して人の土地に入ってきたってのか!」


「敵対の意思はない!」


「三十人も武器持って来といて、信じろって?」


「我々にも事情がある!」


「こっちには関係ねぇ!」


互いの手が武器へ伸びる。


誰か一人でも。


抜けば。


始まる。


その時。


アルヴァ側の後方。


人が割れた。


「……!」


騎士隊長の目が大きく見開かれる。


歩いてくる。


ヴァルド。


その横。


ギーファ。


そして。


ギーファの前。


エドガー。


その首には。


剣が当てられている。


「……」


騎士隊長の顔から血の気が引いた。


「で……」


声が震える。


「殿下……?」


エドガーが騎士たちを見る。


その瞬間。


「――エドガー殿下!!」


空気が爆発した。


ガシャッ!!


騎士たちが一斉に剣を抜く。


「殿下から離れろ!!」


「その御方に何をした!!」


「剣を下ろせ!!」


同時。


アルヴァの戦士たちも武器を抜いた。


「てめぇらこそ下ろせ!」


「やる気か!」


「一歩でも入ってみろ!」


互いの殺気がぶつかる。


ヴァルドが叫ぶ。


「待て!!」


だが。


止まらない。


騎士隊長が一歩前へ出る。


「その御方を解放しろ!!」


ギーファの目が騎士隊長を見る。


「動くな」


低い。


静かな声。


だが。


その場にいた全員へ届いた。


騎士隊長が止まる。


「一歩でも近づいてみろ」


ギーファの剣が僅かに動く。


刃が。


エドガーの首筋へ押し当てられる。


「こいつの首が落ちるぞ」


「貴様……!!」


「ギーファ!!」


ヴァルドが叫ぶ。


エドガーの首。


そのすぐ傍にある刃。


あと僅か。


本当に。


あと少し力を加えるだけで。


命を奪える。


「剣を離せ!!」


騎士の一人が叫ぶ。


「その御方が誰か分かっているのか!!」


ギーファの視線がエドガーへ向く。


「……殿下」


一拍。


「お前、王族だったのか」


「……ああ」


エドガーが答える。


「黙っていてすまない」


ギーファの表情は変わらない。


「そうかよ」


それだけだった。


相手が王族だと分かっても。


剣は。


一切離れない。


「ギーファ!」


ヴァルドが前へ出ようとする。


「動くなって言っただろ!」


「でも!」


ヴァルドがギーファを見る。


「こいつは何もしてねぇ!」


「それであいつらは何だ」


「エドガーを捜しに来たんだろ!」


「だから何でここが分かった」


「それは……」


ヴァルドが詰まる。


ギーファの目が細くなる。


「答えられねぇだろ」


「でも!」


ヴァルドが叫ぶ。


「五日間!」


ギーファが見る。


「五日間ずっと俺が見てた!」


「……」


「お前が言ったんだろ!」


ヴァルドが自分の胸を指す。


「俺が連れてきたんだから!」


「俺が責任持って見ろって!」


「だから見てた!」


ギーファは何も言わない。


「こいつは誰にも連絡なんて取ってねぇ!」


「村の中を探ってもない!」


「何かを仕掛けてもない!」


「何もしてねぇ!」


「……」


「こいつらが来た理由は分からねぇ!」


「でも!」


ヴァルドがエドガーを見る。


そして。


再びギーファへ。


「少なくとも」


「エドガーが呼んだんじゃない!」


ギーファの剣は。


まだ離れない。


その時。


「殿下!」


騎士の一人が耐えきれず。


一歩。


踏み出した。


ギーファの腕に力が入る。


「やめろ!!」


ヴァルドが叫ぶ。


「殿下!!」


騎士たちが動く。


アルヴァの戦士たちも前へ出る。


その瞬間。


「――武器を下ろせ!!」


声が響いた。


全員が止まる。


エドガー。


首に剣を当てられたまま。


騎士たちを睨んでいる。


「全員だ!」


「今すぐ武器を下ろせ!」


騎士隊長が目を見開く。


「しかし殿下!」


「命令だ」


「ですが!」


騎士隊長がギーファを見る。


「その者は今、殿下を殺そうとしております!」


「分かっている」


「なら!」


「それでもだ!」


エドガーが叫ぶ。


騎士たちが黙る。


「武器を」


エドガーが繰り返す。


「下ろせ」


「……」


騎士隊長の手が震える。


目の前。


主君の首には剣。


それでも。


命令。


やがて。


騎士隊長がゆっくりと剣を下げた。


「……武器を下ろせ」


後ろの騎士たちが見る。


「隊長!」


「殿下の命令だ!」


一人。


また一人。


剣が下がる。


最後には。


全員が武器を下ろした。


エドガーが息を吐く。


「この人たちは平気だ」


騎士たちを見る。


「今は突然武装した我々が現れたことで」


「警戒しているだけだ」


「殿下……」


「俺は」


エドガーが続ける。


「彼らに捕らえられていたのではない」


騎士たちがエドガーを見る。


「彼らに救われたんだ」


「……」


「森で倒れていた俺を」


「アルヴァの民が見つけ」


「村へ運び」


「傷を治療してくれた」


「食事を与え」


「何者かも分からない俺を」


「傷が癒えるまで置いてくれた」


騎士たちの表情が変わる。


エドガーがアルヴァの戦士たちを見る。


「俺が今」


「ここに立っていられるのは」


一拍。


「彼らのおかげだ」


沈黙。


誰も何も言わない。


「それに」


エドガーは騎士たちへ視線を戻す。


「考えてみろ」


「他国から何度も侵攻を受けている土地へ」


「突然」


「三十人を超える武装した騎士が踏み込んできた」


「……」


「我々が彼らの立場なら」


静かに言った。


「同じように警戒したはずだ」


騎士隊長が何も言えなくなる。


「だから」


エドガーが言う。


「彼らは敵ではない」


「……」


ヴァルドがギーファを見る。


「ギーファ」


返事はない。


「俺を信じろ」


ギーファの目がヴァルドへ向く。


幼い頃から。


何度も見てきた顔。


無茶をして。


突っ走って。


何度止めても。


自分が正しいと思ったことを曲げない。


その男が今。


真っ直ぐこちらを見ている。


「……」


ギーファがエドガーを見る。


エドガーも。


逃げずにギーファを見ていた。


次に。


騎士たち。


全員。


武器を下ろしている。


長い沈黙。


そして。


「……チッ」


ギーファの剣が。


ゆっくりと。


エドガーの首から離れた。


そのまま。


鞘へ収める。


騎士たちから僅かに安堵の息が漏れる。


ギーファはエドガーを見る。


「……次はない」


エドガーが頷く。


「ああ」


「お前を完全に信用したわけじゃねぇ」


「分かっている」


ギーファが騎士団を見る。


「あいつらもだ」


エドガーは少しだけ間を置き。


答えた。


「それでいい」



騎士隊長がゆっくりとエドガーへ近づく。


今度は。


誰も止めなかった。


「殿下……」


エドガーが見る。


「よく」


騎士隊長の声が震える。


「よくぞ、ご無事で……」


「……お前たちも」


エドガーが周囲を見る。


見覚えのある顔。


傷だらけ。


鎧も壊れている。


だが。


いる。


「生きていたのか」


「……はい」


騎士隊長が頭を下げる。


「あの日」


「殿下を逃がした後、我々も何とか包囲を突破しました」


エドガーが目を閉じる。


「……そうか」


小さな声。


「よかった」


その一言に。


どれほどの思いが込められているのか。


ヴァルドには。


なんとなく分かった。


「殿下」


騎士隊長が続ける。


「国へ戻りましょう」


「皆、殿下を待っております」


「……ああ」


エドガーが頷く。


「戻ろう」



出発の準備が進む。


エドガーは。


ヴァルドとギーファの前に立っていた。


「世話になった」


ヴァルドが答える。


「気にすんな」


エドガーは次に。


ギーファを見る。


「ギーファ」


「何だ」


「王族であることを黙っていたことは謝る」


「すまなかった」


ギーファは少しだけエドガーを見る。


「別に」


「……?」


「そこはどうでもいい」


エドガーの眉が僅かに動く。


ギーファは腕を組む。


「お前が王族だろうが」


「ただの兵士だろうが」


「俺には関係ねぇ」


「……」


「俺が知りたいのは」


エドガーを見る。


「お前が信用できる奴かどうかだけだ」


エドガーは黙る。


「ヴァルドが五日間見てた」


「お前が何もしてねぇって言うなら」


一拍。


「今はそれを信じる」


ヴァルドが僅かに目を見開く。


ギーファは続ける。


「でも」


視線。


エルグランの騎士たち。


「お前個人を信用できるかと」


再びエドガーを見る。


「お前の国を信用できるかは」


「別の話だ」


「……ああ」


エドガーは真っ直ぐギーファを見る。


「それで構わない」


「国を信用しろとは言わない」


「俺たちが信用に値するのか」


少し間。


「これから見てくれればいい」


ギーファは何も答えなかった。



やがて。


出発の時。


エドガーが馬へ乗る。


騎士たちも準備を終えていた。


「ヴァルド」


「ん?」


「礼は必ず返す」


「別にいいよ」


「そういうわけにはいかない」


エドガーが村を見る。


子供たち。


家々。


畑。


ここへ来るまで。


自分が想像すらしていなかった。


アルヴァの暮らし。


「……ヴァルド」


「ん?」


「また」


少し間。


「ここへ来てもいいか?」


ヴァルドはすぐに答えた。


「ああ」


「好きに来ればいい」


その横で。


ギーファは何も言わない。


エドガーがそちらを見る。


「ギーファ」


「……何だ」


「お前にも聞いている」


「……」


ギーファは。


しばらくエドガーを見ていた。


やがて。


小さく息を吐く。


「殺されたくなきゃ」


低い声。


「二度と近づくな」


「……」


エドガーは。


黙ってその言葉を受け止める。


ギーファは背を向ける。


数歩。


歩く。


そして。


足を止めた。


「……と」


エドガーが顔を上げる。


ギーファは振り返らない。


「言いたいところだが」


一拍。


「次からは事前に知らせろ」


「武装した連中まで連れてくるなら尚更だ」


「……」


エドガーは。


その背中を見つめた。


やがて。


「ああ」


静かに答える。


「必ずそうする」


ギーファは返事をしなかった。


そのまま歩いていった。


エドガーはしばらく。


その背中を見つめていた。


そして。


手綱を握る。


「では」


ヴァルドを見る。


「また会おう」


「ああ」


騎士たちが動き始める。


一頭。


また一頭。


アルヴァの村を離れていく。


ヴァルドは。


その姿が見えなくなるまで。


見送っていた。



やがて。


最後の一騎も見えなくなった。


ヴァルドが小さく息を吐く。


「……悪い奴じゃなかっただろ」


少し離れた場所。


ギーファが足を止める。


「少しくらい安心した?」


返事はない。


ヴァルドが振り返る。


ギーファは。


エドガーたちが去っていった方向を見ていた。


そして。


静かに口を開く。


「安心するなよ、ヴァルド」


「……何?」


ギーファの表情に。


先ほどまでの迷いはない。


「俺は」


一拍。


「俺たちを脅かす存在は、必ず排除する」


ヴァルドの表情が変わる。


「それが誰だろうと関係ねぇ」


「一人だろうが」


「軍だろうが」


風が吹く。


ギーファの髪が揺れる。


そして。


「――たとえ相手が」


遠くを見据えたまま。


静かに言った。


「国だったとしてもな」


「……」


ヴァルドは何も答えなかった。


ギーファは踵を返す。


村へ向かって歩き始める。


ヴァルドは。


その背中を見つめた後。


もう一度だけ。


エドガーたちが去った方向を見る。


そして。


ギーファの後を追った。


この時。


ヴァルドはまだ知らなかった。


ギーファのその言葉が。


いつか。


アルヴァという民の運命そのものを背負う言葉になることを。


明らかになったエドガーの正体。


彼は、大国エルグランの王族でした。


命を救われた恩を忘れず、自国の騎士たちを前にアルヴァを「敵ではない」と言い切ったエドガー。


それでもギーファが信用したのは、あくまでエドガー個人だけ。


「俺たちを脅かす存在は、必ず排除する」


「たとえ相手が、国だったとしても」


この言葉が意味するものを、この時はまだ誰も知りません。


次回もよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ