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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
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47/61

戦士の民

物語は六百年前へ。


魔力を持たず、魔法を扱うこともできない。


それでも幾度もの侵略を退け続けた、戦士の民――アルヴァ。


彼らは何を守り、何を願い、そしてなぜ歴史から姿を消したのか。


ここから、アルヴァの物語が始まります。


第47話、よろしくお願いします!


――六百年前。


今よりも遥かに多くの国が争い。


領土を奪い。


資源を奪い。


時には、一つの民族が歴史から消えることすら珍しくなかった時代。


その中で。


何度侵略を受けても。


決して屈しなかった民がいた。


魔力を持たず。


魔法を扱うこともできず。


ただ己の肉体と。


磨き上げた戦闘技術だけを武器とする民。


――アルヴァ。



「前衛、押し込め!!」


怒号が響いた。


アルヴァ領西部。


普段ならば風が草原を撫でるだけの穏やかな丘陵地帯は、今や完全な戦場と化していた。


「魔術師隊! 準備!」


甲冑を纏った兵士たちの後方。


数十人の魔術師が一斉に手を掲げる。


魔法陣が展開。


炎。


氷。


雷。


異なる属性の魔力が次々と膨れ上がっていく。


対する丘の上。


並んでいるのは。


百人にも満たないアルヴァの戦士たち。


侵攻軍。


およそ八百。


数だけを見れば。


勝敗など最初から決まっているように思えた。


侵攻軍の指揮官が剣を振り上げる。


「撃てぇ!!」


魔法が空を埋め尽くした。


火球が。


氷槍が。


雷撃が。


一斉にアルヴァたちへ降り注ぐ。


轟音。


大地が揺れる。


炎が上がり。


丘全体が土煙に包まれた。


敵兵たちから歓声が上がる。


「やったぞ!」


「魔法も扱えぬ連中など、この程度――」


ザッ。


声が止まった。


煙の中。


何かが動く。


一人。


男が歩いてくる。


腕は焼け。


肩から血を流している。


それでも。


歩いている。


「……は?」


敵兵の顔が引きつった。


さらに。


一人。


二人。


三人。


次々と。


煙の向こうからアルヴァの戦士たちが姿を現した。


焼けた皮膚。


傷。


血。


無傷ではない。


だが。


その傷は既に。


ゆっくりと塞がり始めている。


「痛ぇな……」


一人の戦士が肩を回す。


隣の男も剣を握り直した。


「相変わらず魔法ってのは面倒だ」


敵兵が一歩下がる。


「な、なんなんだ……」


その時。


アルヴァ側の中央。


一人の男が剣を掲げた。


ヴァルド。


短く切った黒髪。


鋭い目。


周囲が混乱する中でも、その表情は冷静だった。


「魔術師を先に潰す!」


アルヴァの戦士たちが一斉に見る。


「前衛は相手にするな!」


ヴァルドが剣を前へ向けた。


「一気に抜けるぞ!」


「おお!!」


アルヴァの戦士たちが走り出す。


敵前衛。


盾。


槍。


剣。


一斉に構える。


「止めろ!」


だが。


速い。


「なっ――」


アルヴァの一人が盾へ肩からぶつかる。


衝撃。


盾兵が。


盾ごと後方へ吹き飛んだ。


その隙間へ。


別の戦士。


跳ぶ。


敵前衛の頭上を越える。


「抜けたぞ!」


「囲め!」


遅い。


アルヴァたちは。


正面から敵軍を押し潰すのではない。


隙間。


僅かな間隔。


そこを強引に抜け。


後方の魔術師隊へ一直線に向かっていた。


ヴァルドも。


敵の剣を受け流す。


腹へ蹴り。


「ぐっ!」


そのまま走る。


魔術師たちが慌てる。


「近づけるな!」


魔法陣。


炎。


ヴァルドへ。


「遅い!」


横へ跳ぶ。


直撃を避ける。


爆発。


その煙の中を突き抜ける。


一人。


剣の柄で殴り倒す。


二人目。


腕を掴む。


地面へ投げる。


三人目。


詠唱を始めようとした瞬間。


「させるか!」


蹴り。


魔術師が転がった。


「魔術師隊が!」


侵攻軍が崩れる。


「前衛! 後退しろ!」


「無理です!」


「アルヴァが中に!」


「落ち着け!」


混乱。


その時だった。


少し離れた場所。


「囲んだぞ!」


六人。


一人の男を取り囲んでいる。


ギーファ。


乱れた黒髪。


片手には剣。


ギーファが周囲を見回す。


「……」


敵兵が笑う。


「終わりだ!」


ギーファが首を傾げた。


「それで?」


「何?」


「六人で囲んだ」


ギーファが剣を軽く振る。


「だから何?」


敵兵の顔が歪む。


「殺せ!」


一斉。


剣。


槍。


ギーファが動く。


一歩。


剣を避ける。


もう一歩。


槍が空を切る。


身体を沈める。


横薙ぎ。


一人。


反転。


柄。


二人。


足払い。


三人。


「なっ――」


残りが止まる。


ギーファが前へ。


剣。


四人目。


蹴り。


五人目。


最後。


男が後退する。


「ば、化け物……!」


ギーファが眉を寄せる。


「失礼な奴だな」


背後。


魔力。


ギーファが振り返る。


間に合わない。


ドォン!!


炎。


直撃。


「ギーファ!」


ヴァルドが叫ぶ。


煙。


敵魔術師が笑う。


「直撃だ!」


だが。


「……」


煙から。


ギーファが歩いて出てきた。


服。


片側が燃えている。


ギーファは自分の肩を見る。


火。


手で叩いて消す。


「……これ」


敵兵が震える。


ギーファが低い声で言った。


「お気に入りだったんだけど」


魔術師が後退する。


「な、なんなんだお前ら……!」


ギーファが剣を構える。


「なんなんだは」


一歩。


「こっちの台詞だろ」


地面を蹴った。


「人ん家に勝手に入ってきてんじゃねぇよ!」


剣が走った。



「撤退!!」


敵指揮官の声。


兵士たちが次々と退いていく。


追う者はいない。


ヴァルドが剣を下げる。


「深追いするな!」


アルヴァの戦士たちが止まる。


「領地から出たなら、それでいい!」


遠く。


侵攻軍が逃げていく。


しばらく。


誰も動かなかった。


やがて。


一人のアルヴァ戦士が剣を地面へ突き立てる。


「……終わったか」


別の戦士が座り込む。


「腹減った」


「戦場で最初に言うことか?」


「朝から何も食ってねぇ」


小さな笑い。


だが。


ヴァルドは笑わなかった。


少し離れた場所へ歩く。


そこには。


倒れているアルヴァの戦士たち。


一人。


二人。


三人。


戻らない者もいる。


ヴァルドが黙る。


ギーファが隣へ来た。


「……またか」


ヴァルドが言う。


「今月何回目だ?」


「三回」


ギーファが答える。


後ろ。


別の戦士が口を開く。


「四回だ」


ギーファが振り返る。


「東でもあったのか?」


「ああ」


「どこの連中だ」


「分からん」


ギーファが舌打ちする。


「……クソが」


ヴァルドは倒れた仲間を見る。


「俺たちが何したってんだよ」


ギーファが答える。


「何も」


「じゃあなんで来る」


「欲しいからだろ」


ギーファが遠くを見る。


丘。


その向こう。


アルヴァの土地。


「土地」


「水」


「鉱山」


「食い物」


そして。


自分の腕を見る。


「俺たちの力」


ヴァルドが黙る。


ギーファは剣を鞘へ戻した。


「来るなら追い返す」


「それだけだ」


ヴァルドは。


何も言わなかった。



夕方。


村へ戻る。


そこには。


戦場とはまるで違う景色が広がっていた。


畑。


家畜。


木造の家。


走り回る子供たち。


武器を修理する職人。


料理の匂い。


「父ちゃん!」


一人の子供が走る。


戦場で大剣を振り回していた男。


その顔が一瞬で緩んだ。


「おー!」


しゃがむ。


子供が飛びつく。


「ただいま!」


「怪我してる!」


「これくらい平気だ」


「母ちゃんに怒られるよ!」


男の顔が引きつる。


「……それは困る」


周囲から笑い声。


ヴァルドがそれを見る。


小さく笑う。


「何笑ってんだ」


ギーファ。


「いや」


ヴァルドが答える。


「お前も帰れよ」


「分かってる」


二人が村の中へ入る。


その時。


「ギーファ」


声。


ギーファが止まる。


一人の女性。


長い茶髪。


柔らかな雰囲気。


セラ。


両腕を組んでいる。


「……」


ギーファの顔から。


戦場での余裕が消えた。


「ただいま」


セラがギーファを見る。


頭。


肩。


腕。


そして。


破れた服。


「また怪我してる」


「もう治る」


「そういう問題じゃない」


「じゃあどういう問題?」


セラが眉を寄せる。


「心配するっていう問題」


ギーファが黙る。


「……すみません」


ヴァルドが吹き出した。


「お前、戦場より弱いじゃん」


ギーファが睨む。


「うるせぇ」


セラがヴァルドを見る。


「ヴァルドも怪我してるでしょ」


「え?」


「座って」


「俺も?」


「当たり前」


ヴァルドがギーファを見る。


ギーファが笑う。


「ざまぁ」


「お前、後で覚えとけよ」


セラが二人を見る。


「二人とも」


「はい」


「はい」


即答。



夜。


村の外。


小高い丘。


ヴァルドとギーファは並んで座っていた。


遠く。


今日の戦場。


僅かに煙が残っている。


「なあ」


ヴァルドが言う。


「何」


ギーファは草を一本咥えている。


「いつまで続くんだろうな」


「何が」


「これ」


ヴァルドが遠くを見る。


「倒しても」


「追い返しても」


「また別の国が来る」


ギーファは黙る。


ヴァルドが続ける。


「今日も三人死んだ」


「先月も」


「その前も」


ギーファが草を吐き捨てる。


「だから?」


ヴァルドが見る。


「俺はいつか」


少し間。


「アルヴァが剣を持たなくていい時代を作りたい」


ギーファが即答した。


「無理だろ」


「早ぇよ!」


「だって無理だ」


「なんで」


ギーファが指を折る。


「俺たちは強い」


一本。


「土地も豊か」


二本。


「水もある」


三本。


「鉱山もある」


四本。


「欲しがる奴はいなくならねぇ」


ヴァルドが眉を寄せる。


「だからって諦めるのか?」


ギーファが見る。


「違う」


剣の柄へ手を置く。


「来た奴を追い返す」


「俺はそれでいい」


「それじゃ、ずっと戦い続けることになる」


「守るためならな」


ヴァルドが黙る。


二人の間を。


風が抜ける。


しばらくして。


ヴァルドが村を見る。


灯り。


家。


人。


「俺たちが」


「普通に暮らしてる奴らだって分かれば」


「変わる奴もいるかもしれない」


ギーファがため息をつく。


「甘いな」


「よく言われる」


「……本気で言ってんのか?」


「何が?」


ギーファの眉が寄る。


「他国の連中と話し合うって?」


「他国だけじゃない」


ヴァルドは遠くを見る。


「俺たちを敵だと思ってる奴ら全員だ」


ギーファが鼻で笑う。


「もっと無理だろ」


「やってみなきゃ分からない」


「昨日、そいつらに殺されかけたばっかだぞ」


ヴァルドがギーファを見る。


「昨日来た奴らが、外の奴ら全員じゃないだろ」


ギーファは黙る。


ヴァルドは少し笑った。


「話せる奴がいるなら、俺は話してみたい」


「俺たちが何者なのか」


「何を守って戦ってるのか」


「ちゃんと知ってもらえれば――」


村の灯りを見る。


「剣を抜かなくても済む相手が、一人くらい増えるかもしれない」


ギーファがため息をついた。


「……やっぱり甘いな」


「よく言われるって」


「そのうち騙されるぞ」


ヴァルドが笑う。


「そん時は助けてくれ」


ギーファが鼻で笑った。


「嫌だね」


「冷てぇな」


「自分で何とかしろ」


「幼馴染だろ」


「関係ない」


二人が笑う。


この時は。


まだ。


ただの冗談だった。



翌朝。


ヴァルドは一人。


村から少し離れた森を歩いていた。


昨日の戦闘。


別の侵入者が残っていないか。


確認するための巡回。


「……」


鳥。


風。


木々。


静かだった。


その時。


ヴァルドが止まる。


地面。


赤。


「……血?」


しゃがむ。


指先で触れる。


まだ新しい。


ヴァルドが視線を上げた。


血痕は。


点々と。


森の奥へ続いている。


ヴァルドは剣へ手を置いた。


ゆっくり。


進む。


血。


折れた枝。


踏み荒らされた草。


そして。


「……」


木の根元。


一人の青年が。


倒れていた。


上等な服。


だが。


酷く破れている。


肩。


腹。


血。


かなり深い傷。


ヴァルドが警戒しながら近づく。


「おい」


反応はない。


「生きてるか?」


青年の目が。


僅かに開いた。


「……」


ヴァルドを見る。


その顔。


その装い。


そして。


青年の目が僅かに見開かれた。


「……その姿……」


掠れた声。


ヴァルドの手が剣の柄へ触れる。


青年は。


苦しそうに息をしながら。


呟いた。


「……アルヴァの民か……?」


ヴァルドは。


青年を見下ろす。


「だったら」


一拍。


「なんだ」


二人は。


まだ知らない。


この出会いが。


アルヴァという民の未来を。


大きく変えることになるなど。


圧倒的な肉体と戦闘技術を持ちながら、彼らが望んでいたのは戦争ではなく、ごく普通の暮らしでした。


「アルヴァが剣を持たなくていい時代を作りたい」


そう願うヴァルドと、


「そのうち騙されるぞ」


そう警告するギーファ。


そして翌朝、ヴァルドが森で出会った一人の青年。


この出会いは、アルヴァに何をもたらすのか。


次回もよろしくお願いします!


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