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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
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45/61

兆し

激しい戦いを終え、ザインたちはエルフ王国の王城へ。


数百年ぶりにこの国を訪れた人間たちを、エルフたちはどう迎えるのか。


そして、共に戦った者たちにも少しずつ変化が――。


第45話、よろしくお願いします!


王城へ向かう道中。


ザインたちは、先ほどまでとはまるで違う視線を浴びていた。


「……あの人たちだ」


「援軍の?」


「ああ。獣王国と一緒に来た人間の騎士団だ」


王都の通り。


壊れた建物。


焼け焦げた壁。


まだ戦闘の痕跡は色濃く残っている。


それでも。


道の両脇には、助かったエルフたちが集まり始めていた。


ザインが周囲を見る。


「……なんか見られてんな」


エリオンが隣を歩く。


「当然だ」


「なんで?」


「貴様らが戦っているところを見た者も多い」


「へぇ」


「それだけではない」


エリオンが前を見る。


「人間が、我々のために命を懸けて戦った」


ザインが横を見る。


「そんな珍しい?」


「この国ではな」


「ふーん」


ザインは特に気にした様子もなく歩く。


その時。


「あっ!」


小さな声。


ザインが振り向いた。


道の端。


一人のエルフの少年。


その隣には母親らしき女性。


少年がザインへ向かって大きく手を振っている。


ザインが少し目を丸くする。


「……俺?」


少年がさらに手を振る。


ザインも。


軽く手を上げた。


少年の顔が明るくなる。


ザインが前へ向き直る。


エリオンが横目で見る。


「随分と人気者になったな」


「俺?」


「貴様らだ」


ザインが後ろを見る。


ガレスは既に別のエルフへ手を振っている。


「おー!」


ロディスが呆れた顔でその横を歩く。


「貴様、誰にでも手を振るのか?」


「振られたら返すだろ!」


「全員にか!?」


「当たり前だろ!」


さらにその後ろ。


リナとセリスは、まだ何か言い合っている。


「だから、あの時の結界はもっと早く崩せたんです!」


「結果的に崩れたでしょう!」


「結果論です!」


「細かいわね!」


ジグとアルトは。


「敵が三方向から来た場合ですが」


「北側の地形ならば、樹根を先に展開する」


「やはりそうですか」


ダリオが二人の間を歩いている。


「……お前らまだその話してんの?」


誰も返事をしない。


「なあ!」


ザインが少し笑った。


「馴染んでんなぁ」


「貴様が一番馴染んでいるように見えるがな」


「俺?」


エリオンがため息をつく。


「もういい」


「なんだよ」


そのまま。


一行は王城へ向かった。



巨大な扉が開く。


「獣王国よりの援軍、並びにエルグラン王国第1軍、入城!」


声が響く。


ザインは中へ入る。


高い天井。


白を基調とした石壁。


壁や柱には植物を模した装飾が施されている。


ザインが上を見る。


「……高ぇ」


隣。


リナが即座に反応する。


「副団長」


「何?」


「ちゃんとしてください」


「してるだろ」


「ずっと天井見てます」


「だって高くね?」


「今それどうでもいいです」


ザインが前を見る。


「はいはい」


玉座の前。


一人の女性。


長い銀髪。


淡い緑色の瞳。


白と深緑を基調とした衣装。


王族であることは。


見れば分かった。


その両脇には、複数のエルフ。


そして。


ザインは一人だけ。


かなり年老いたエルフがいることに気付いた。


白髪。


長い髭。


静かな目。


その老人は。


ザインたちが入ってきた瞬間から。


ずっと。


ザインだけを見ていた。


「……?」


ザインが一瞬見る。


だが。


すぐに前へ向き直った。


「皆様」


銀髪の女性が口を開いた。


声は穏やか。


だが。


玉座の間全体へ届く。


「この度の我が国の危機に際し」


まず。


レグルスたちを見る。


「迅速な援軍を送ってくださった獣王国に、心より感謝いたします」


レグルスが一礼する。


「我らは盟友として当然の責務を果たしたまでです」


女性が頷く。


そして。


ザインたちを見る。


「そして」


一拍。


「エルグラン王国第1軍の皆様」


ザインたちが姿勢を正す。


「我が国は、あなた方へ正式な救援要請を出しておりませんでした」


静寂。


「それにも関わらず」


女性の視線がザインへ。


「危険を顧みず、我が民のために剣を取り」


リナ。


ジグ。


ガレス。


ダリオ。


それぞれを見る。


「数多くの命を救ってくださったこと」


女性が。


頭を下げた。


「エルフ王家を代表し、心より感謝申し上げます」


玉座の間が僅かにざわついた。


ザインが。


困った顔になる。


「……えっと」


リナが小声。


「副団長」


「分かってるって」


ザインは女性を見る。


「頭上げてくださいよ」


女性がゆっくり顔を上げる。


ザインは少し頭を掻いた。


「俺らも、頼まれて来ただけなんで」


「しかし」


「それに」


ザインの表情が少しだけ変わる。


「助けられなかった奴もいる」


一瞬。


獣王国の洞窟。


小さな声。


ザインはすぐに前を見る。


「だから」


「礼なら、助かった奴らに言ってやってください」


「生きて帰ってこられてよかったなって」


女性は。


少しだけ目を細めた。


そして。


「……そうですね」


小さく笑う。


「ですが」


「あなた方への感謝が消えるわけではありません」


ザインが肩をすくめる。


「じゃあ、それで」


リナが小さく息を吐く。


「もう少し言い方……」


女性の口元が僅かに緩んだ。


「私はフィリア」


ザインが見る。


「エルフ王国第一王女、フィリア・エルセリアです」


ザインが軽く頭を下げる。


「ザインです」


「知っています」


「そうなの?」


「先ほどから、何度も名を聞いておりますので」


ザインが後ろを見る。


ガレス。


「俺じゃないっすよ」


「まだ何も言ってねぇよ」


ロディスが笑う。


「ガハハ!」


フィリアも僅かに笑った。


張り詰めていた空気が。


少しだけ緩んだ。



「――では」


場所を移し。


王城内部の会議室。


ザインたち。


フィリア。


エリオン。


エルフ側の主要人物。


レグルス。


そして。


ザインが先ほど見た老エルフも。


少し離れた位置に座っていた。


「捕らえた者から得られた情報を整理しましょう」


フィリアが言う。


ザインが腕を組む。


「獣王国でも同じ連中が動いてました」


「具体的には?」


エルフ側の騎士が聞く。


ザインが答える。


「獣人を攫って」


一瞬。


言葉を選ぶ。


「身体を弄ってた」


会議室が静かになる。


「……弄る?」


フィリアの表情が曇る。


レグルスが代わりに説明する。


「身体能力を人為的に強化し」


「結果として、元の姿を失った者も確認されました」


エルフたちの顔が険しくなる。


ザインは続ける。


「で」


机の上。


捕らえた指揮官から聞いた言葉。


「そいつが言ってた」


全員がザインを見る。


「獣人は身体」


一拍。


「エルフは魔力」


静寂。


フィリアの目が細くなる。


「……素材として?」


「多分」


ザインが答える。


リナが片手を上げた。


「おそらく今回の襲撃自体が、目的ではありません」


フィリアがリナを見る。


「どういう意味でしょう」


リナが答える。


「もし国を占領することが目的なら」


「敵は王城、軍事施設、補給路を優先して狙うはずです」


「ですが、今回の行動は違いました」


リナは机の上に広げられた地図を見る。


「複数箇所へ同時に攻撃」


「民間人を含むエルフを可能な限り生け捕り」


「さらに撤退時には、捕虜を優先して運び出している」


セリスが腕を組む。


「つまり」


リナが頷く。


「襲撃そのものが陽動だった可能性があります」


「国全体を混乱させ」


「その隙に、魔力適性の高いエルフを確保する」


フィリアの表情が険しくなる。


「……我々そのものが目的」


「はい」


ザインが椅子へ深く座る。


「趣味悪ぃよな」


「副団長」


リナが見る。


「何?」


「今は真面目なところです」


「俺も真面目だよ」


「本当に?」


「本当に」


フィリアが小さく笑う。


だが。


すぐに表情を戻した。


「既に国外へ連れ去られた者たちについては」


エリオンが答える。


「追跡部隊を編成します」


「敵の撤退経路も一部確認できています」


「分かりました」


フィリアが頷く。


「可能な限り早く」


「ただし」


ザインが口を挟む。


全員が見る。


「急ぎすぎて罠踏むなよ」


エリオンが眉を寄せる。


「言われずとも分かっている」


「ならいいけど」


「貴様は本当に一言多いな」


「今日それ何回目?」


エリオンが黙る。


ザインが笑う。


会議は続いた。



「それでは」


会議が終わる頃。


フィリアが立ち上がった。


「本日は、皆様を我が国の客人としてお迎えしたいと思います」


ザインが顔を上げる。


「客人?」


「はい」


「長い戦闘の後です」


ザインたちを見る。


「今宵くらいは、ゆっくり身体を休めてください」


ガレスの表情が明るくなる。


ザインも。


「飯出ます?」


リナが顔を覆う。


「副団長……」


フィリアが一瞬。


そして。


笑った。


「もちろん」


「王城の料理人に、腕を振るってもらいましょう」


ザインが小さく拳を握る。


「よし」


ガレスも。


「やった!」


エリオンがザインを見る。


「……貴様」


「何?」


「先ほどまで精鋭二十人を相手にしていた男とは思えんな」


ザインが肩をすくめる。


「戦闘と飯は別だろ」


「何の理屈だ」



王城の広間。


長い卓。


料理。


飲み物。


戦いを終えた者たちが。


それぞれ好きな場所へ座っていた。


形式ばった宴ではない。


今回共に戦った者たちを労うための。


ささやかな宴。


「ガレス!」


「ん?」


ロディスが手を上げた。


掌に魔力が集まる。


光。


巨大な大剣。


ガレスのものより。


さらに大きい。


「どうだ!」


ガレスの目が輝く。


「でっけぇ!!」


「ガハハ! 作ろうと思えばこの程度は余裕だ!」


ガレスが近づく。


「ちょっと持たせて!」


「浮気はしないんじゃなかったのか?」


「見るだけ!」


「持つのは見るだけとは言わん!」


ザインが料理を食べながら二人を見る。


「お前らうるせぇぞ」


ガレスが振り返る。


「副団長も見てくださいよ!」


「いいよ」


「興味なさすぎ!」


「俺剣あるし」


ロディスが笑う。


「ガハハ! 上司も同じか!」


「いや」


ザインが自分の剣を見る。


「俺は浮気とかじゃなくて、他の武器使い慣れてないだけ」


ガレスが止まる。


「俺の方が相棒愛強い?」


「知らん」


別の卓。


セリスがリナを見る。


「一つ聞いていい?」


「何です?」


「あなた」


リナの手を見る。


「杖を使わないのね」


リナが首を傾げる。


「はい」


「なぜ?」


「必要ないからです」


セリスが眉を上げる。


「それだけ?」


「それだけです」


リナが片手を上げる。


指先。


小さな魔法陣。


瞬時。


詠唱はない。


セリスが見る。


「それに」


リナが魔法陣を消す。


「持ってると邪魔なので」


「……」


「あと」


「詠唱もしないわね」


「基本は」


リナが頷く。


「時間がもったいないので」


セリスがじっとリナを見る。


「……あなた、本当に人間?」


リナが少し考える。


そして。


ザインを指差した。


「それは副団長に言ってください」


少し離れたところ。


「なんで俺!?」


ザインの声。


セリスが吹き出す。


リナも笑った。


さらに奥。


ジグ。


アルト。


二人は。


机の上に簡単な図を描いていた。


「ここから敵が進入した場合」


「北側を閉じる」


「では東側へ誘導」


「そこへ後衛を配置する」


「同意します」


ダリオが飲み物を片手に二人を見る。


「……なあ」


返事なし。


「宴だぞ?」


二人は図を見る。


「聞いてる?」


「聞いています」


ジグが答える。


「ならなんで戦術会議してんだよ!」


アルトが淡々と言う。


「有益だからだ」


「今!?」


ザインは。


少し離れた場所から。


その光景を眺めていた。


ガレスとロディス。


リナとセリス。


ジグとアルト。


そして。


間に挟まれているダリオ。


「……」


ザインが少し笑う。


つい少し前まで。


知らない国。


知らない種族。


それが。


今では。


普通に笑っている。


「悪くねぇな」


ザインは小さく呟いた。


その時。


「……そなた」


声。


ザインが振り返る。


先ほど。


玉座の間でも。


会議室でも。


ずっとザインを見ていた。


老エルフ。


ザインが首を傾げる。


「俺?」


老人は答えない。


ただ。


ザインをじっと見る。


顔。


瞳。


身体。


腕。


そして。


腰の剣。


「……何ですか?」


老人がゆっくり近づく。


「名は?」


「ザイン」


「ザイン……」


老人がその名を繰り返す。


「今日」


ザインを見る。


「そなたの戦いを見ていた」


ザインが料理を口へ運ぶ。


「そりゃどうも」


「褒めているのではない」


「違うの?」


老人の目が僅かに細くなる。


「奇妙だった」


ザインの手が止まる。


「何が?」


「そなたには」


一拍。


「魔力がない」


ザインの表情が少し変わった。


「……ああ」


「生まれつきか?」


「そうだけど」


「魔法は?」


「使えない」


「一度も?」


「一度も」


老人が黙る。


ザインが少し頭を掻く。


「それなら昔から散々珍しいって言われてきましたよ」


「珍しい……か」


老人が小さく呟く。


そして。


「それだけではない」


ザインが見る。


老人は。


ザインの身体を見る。


「そなたは」


「周囲の魔素を取り込んでいる」


ザインの目が僅かに開いた。


「……そこまで分かるんだ」


老人の表情が変わった。


「知っているのか?」


ザインが自分の胸を軽く指す。


「昔、身体を調べてもらったことがある」


「俺の身体には」


指を動かす。


「普通の人間にはない、すげぇ細い経路があるらしい」


老人が黙る。


「そこから周囲の魔素を勝手に吸って」


「身体を動かしたり、傷を治したりする方に使ってるとかなんとか」


ザインが肩をすくめる。


「詳しくは知らねぇけど」


老人は。


何も言わない。


「?」


ザインが首を傾げる。


「どうしたんですか?」


老人の目。


先ほどまでとは違う。


驚き。


疑念。


そして。


何かを。


確かめたような目。


「……そうか」


ザインの眉が寄る。


「だから何が?」


長い沈黙。


宴の声が。


遠く感じる。


老人はザインを真っ直ぐ見た。


「ザイン」


「はい」


「知りたくはないか?」


ザインの眉が僅かに動く。


「何を?」


老人は。


静かに言った。


「自分について」


一拍。


「そして」


老人の目が細くなる。


「――そのルーツについて」


ザインの表情が止まった。


「……俺の?」


「そうだ」


老人が踵を返す。


「興味があるのなら」


歩き出す。


「明日、私を訪ねなさい」


ザインが老人を見る。


そして。


「ちょっと待って」


老人が止まる。


ザインは。


少しだけ真剣な表情になっていた。


「俺のこと」


一拍。


「何か知ってるんですか?」


老人は振り返らない。


静かに。


答えた。


「少なくとも」


ザインの目が細くなる。


「そなた自身が知っているよりはな」


老人は。


そのまま歩き去っていった。


ザインは。


その場へ残される。


手には料理。


遠くでは。


「だから持たせろって!」


「浮気者が!」


ガレスとロディス。


「あなたはもっと精密制御を――」


「あなたはもっと火力以外を見てください!」


リナとセリス。


いつものような。


騒がしい声。


なのに。


ザインの耳には。


老人の言葉だけが残っていた。


自分について。


そして。


そのルーツについて。


ザインは。


老人が消えた方向を見つめる。


「……なんだよ、それ」


その夜。


ザインの中に生まれた小さな疑問は。


やがて。


自身の存在だけではなく。


六百年前。


この世界から消えた一つの民族と。


エルグラン王国に隠された歴史へと。


繋がっていくことになる。


戦いを終え、少しずつ距離を縮めていく人間、獣人、そしてエルフたち。


しかし、ザインを待っていたのは一人の老エルフでした。


「自分について」


「そして、そのルーツについて」


魔力を持たず、周囲の魔素を身体へ取り込むザイン。


これまで当たり前のように受け入れてきた自身の身体には、一体どんな秘密が隠されているのか。


ここから、ザイン自身も知らない過去へと踏み込んでいきます。


次回もよろしくお願いします!


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