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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
イリス奪還編
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45/102

兆し

激しい戦いを終え、ザインたちはエルフ王国の王城へ。


数百年ぶりにこの国を訪れた人間たちを、エルフたちはどう迎えるのか。


そして、共に戦った者たちにも少しずつ変化が――。


第45話、よろしくお願いします!


王城へ向かう道中。


ザインたちは、先ほどまでとはまるで違う視線を浴びていた。


「……あの人たちだ」


「援軍の?」


「ああ。獣王国と一緒に来た人間の騎士団だ」


王都の通り。


壊れた建物。


焼け焦げた壁。


まだ戦闘の痕跡は色濃く残っている。


それでも。


道の両脇には、助かったエルフたちが集まり始めていた。


ザインが周囲を見る。


「……なんか見られてんな」


エリオンが隣を歩く。


「当然だ」


「なんで?」


「貴様らが戦っているところを見た者も多い」


「へぇ」


「それだけではない」


エリオンが前を見る。


「人間が、我々のために命を懸けて戦った」


ザインが横を見る。


「そんな珍しい?」


「この国ではな」


「ふーん」


ザインは特に気にした様子もなく歩く。


その時。


「あっ!」


小さな声。


ザインが振り向いた。


道の端。


一人のエルフの少年。


その隣には母親らしき女性。


少年がザインへ向かって大きく手を振っている。


ザインが少し目を丸くする。


「……俺?」


少年がさらに手を振る。


ザインも。


軽く手を上げた。


少年の顔が明るくなる。


ザインが前へ向き直る。


エリオンが横目で見る。


「随分と人気者になったな」


「俺?」


「貴様らだ」


ザインが後ろを見る。


ガレスは既に別のエルフへ手を振っている。


「おー!」


ロディスが呆れた顔でその横を歩く。


「貴様、誰にでも手を振るのか?」


「振られたら返すだろ!」


「全員にか!?」


「当たり前だろ!」


さらにその後ろ。


リナとセリスは、まだ何か言い合っている。


「だから、あの時の結界はもっと早く崩せたんです!」


「結果的に崩れたでしょう!」


「結果論です!」


「細かいわね!」


ジグとアルトは。


「敵が三方向から来た場合ですが」


「北側の地形ならば、樹根を先に展開する」


「やはりそうですか」


ダリオが二人の間を歩いている。


「……お前らまだその話してんの?」


誰も返事をしない。


「なあ!」


ザインが少し笑った。


「馴染んでんなぁ」


「貴様が一番馴染んでいるように見えるがな」


「俺?」


エリオンがため息をつく。


「もういい」


「なんだよ」


そのまま。


一行は王城へ向かった。


◇


巨大な扉が開く。


「獣王国よりの援軍、並びにエルグラン王国第1軍、入城!」


声が響く。


ザインは中へ入る。


高い天井。


白を基調とした石壁。


壁や柱には植物を模した装飾が施されている。


ザインが上を見る。


「……高ぇ」


隣。


リナが即座に反応する。


「副団長」


「何?」


「ちゃんとしてください」


「してるだろ」


「ずっと天井見てます」


「だって高くね?」


「今それどうでもいいです」


ザインが前を見る。


「はいはい」


玉座の前。


一人の女性。


長い銀髪。


淡い緑色の瞳。


白と深緑を基調とした衣装。


王族であることは。


見れば分かった。


その両脇には、複数のエルフ。


そして。


ザインは一人だけ。


かなり年老いたエルフがいることに気付いた。


白髪。


長い髭。


静かな目。


その老人は。


ザインたちが入ってきた瞬間から。


ずっと。


ザインだけを見ていた。


「……?」


ザインが一瞬見る。


だが。


すぐに前へ向き直った。


「皆様」


銀髪の女性が口を開いた。


声は穏やか。


だが。


玉座の間全体へ届く。


「この度の我が国の危機に際し」


まず。


レグルスたちを見る。


「迅速な援軍を送ってくださった獣王国に、心より感謝いたします」


レグルスが一礼する。


「我らは盟友として当然の責務を果たしたまでです」


女性が頷く。


そして。


ザインたちを見る。


「そして」


一拍。


「エルグラン王国第1軍の皆様」


ザインたちが姿勢を正す。


「我が国は、あなた方へ正式な救援要請を出しておりませんでした」


静寂。


「それにも関わらず」


女性の視線がザインへ。


「危険を顧みず、我が民のために剣を取り」


リナ。


ジグ。


ガレス。


ダリオ。


それぞれを見る。


「数多くの命を救ってくださったこと」


女性が。


頭を下げた。


「エルフ王家を代表し、心より感謝申し上げます」


玉座の間が僅かにざわついた。


ザインが。


困った顔になる。


「……えっと」


リナが小声。


「副団長」


「分かってるって」


ザインは女性を見る。


「頭上げてくださいよ」


女性がゆっくり顔を上げる。


ザインは少し頭を掻いた。


「俺らも、頼まれて来ただけなんで」


「しかし」


「それに」


ザインの表情が少しだけ変わる。


「助けられなかった奴もいる」


一瞬。


獣王国の洞窟。


小さな声。


ザインはすぐに前を見る。


「だから」


「礼なら、助かった奴らに言ってやってください」


「生きて帰ってこられてよかったなって」


女性は。


少しだけ目を細めた。


そして。


「……そうですね」


小さく笑う。


「ですが」


「あなた方への感謝が消えるわけではありません」


ザインが肩をすくめる。


「じゃあ、それで」


リナが小さく息を吐く。


「もう少し言い方……」


女性の口元が僅かに緩んだ。


「私はフィリア」


ザインが見る。


「エルフ王国第一王女、フィリア・エルセリアです」


ザインが軽く頭を下げる。


「ザインです」


「知っています」


「そうなの?」


「先ほどから、何度も名を聞いておりますので」


ザインが後ろを見る。


ガレス。


「俺じゃないっすよ」


「まだ何も言ってねぇよ」


ロディスが笑う。


「ガハハ!」


フィリアも僅かに笑った。


張り詰めていた空気が。


少しだけ緩んだ。


◇


「――では」


場所を移し。


王城内部の会議室。


ザインたち。


フィリア。


エリオン。


エルフ側の主要人物。


レグルス。


そして。


ザインが先ほど見た老エルフも。


少し離れた位置に座っていた。


「捕らえた者から得られた情報を整理しましょう」


フィリアが言う。


ザインが腕を組む。


「獣王国でも同じ連中が動いてました」


「具体的には?」


エルフ側の騎士が聞く。


ザインが答える。


「獣人を攫って」


一瞬。


言葉を選ぶ。


「身体を弄ってた」


会議室が静かになる。


「……弄る?」


フィリアの表情が曇る。


レグルスが代わりに説明する。


「身体能力を人為的に強化し」


「結果として、元の姿を失った者も確認されました」


エルフたちの顔が険しくなる。


ザインは続ける。


「で」


机の上。


捕らえた指揮官から聞いた言葉。


「そいつが言ってた」


全員がザインを見る。


「獣人は身体」


一拍。


「エルフは魔力」


静寂。


フィリアの目が細くなる。


「……素材として?」


「多分」


ザインが答える。


リナが片手を上げた。


「おそらく今回の襲撃自体が、目的ではありません」


フィリアがリナを見る。


「どういう意味でしょう」


リナが答える。


「もし国を占領することが目的なら」


「敵は王城、軍事施設、補給路を優先して狙うはずです」


「ですが、今回の行動は違いました」


リナは机の上に広げられた地図を見る。


「複数箇所へ同時に攻撃」


「民間人を含むエルフを可能な限り生け捕り」


「さらに撤退時には、捕虜を優先して運び出している」


セリスが腕を組む。


「つまり」


リナが頷く。


「襲撃そのものが陽動だった可能性があります」


「国全体を混乱させ」


「その隙に、魔力適性の高いエルフを確保する」


フィリアの表情が険しくなる。


「……我々そのものが目的」


「はい」


ザインが椅子へ深く座る。


「趣味悪ぃよな」


「副団長」


リナが見る。


「何?」


「今は真面目なところです」


「俺も真面目だよ」


「本当に?」


「本当に」


フィリアが小さく笑う。


だが。


すぐに表情を戻した。


「既に国外へ連れ去られた者たちについては」


エリオンが答える。


「追跡部隊を編成します」


「敵の撤退経路も一部確認できています」


「分かりました」


フィリアが頷く。


「可能な限り早く」


「ただし」


ザインが口を挟む。


全員が見る。


「急ぎすぎて罠踏むなよ」


エリオンが眉を寄せる。


「言われずとも分かっている」


「ならいいけど」


「貴様は本当に一言多いな」


「今日それ何回目?」


エリオンが黙る。


ザインが笑う。


会議は続いた。


◇


「それでは」


会議が終わる頃。


フィリアが立ち上がった。


「本日は、皆様を我が国の客人としてお迎えしたいと思います」


ザインが顔を上げる。


「客人?」


「はい」


「長い戦闘の後です」


ザインたちを見る。


「今宵くらいは、ゆっくり身体を休めてください」


ガレスの表情が明るくなる。


ザインも。


「飯出ます?」


リナが顔を覆う。


「副団長……」


フィリアが一瞬。


そして。


笑った。


「もちろん」


「王城の料理人に、腕を振るってもらいましょう」


ザインが小さく拳を握る。


「よし」


ガレスも。


「やった!」


エリオンがザインを見る。


「……貴様」


「何?」


「先ほどまで精鋭二十人を相手にしていた男とは思えんな」


ザインが肩をすくめる。


「戦闘と飯は別だろ」


「何の理屈だ」


◇


王城の広間。


長い卓。


料理。


飲み物。


戦いを終えた者たちが。


それぞれ好きな場所へ座っていた。


形式ばった宴ではない。


今回共に戦った者たちを労うための。


ささやかな宴。


「ガレス!」


「ん?」


ロディスが手を上げた。


掌に魔力が集まる。


光。


巨大な大剣。


ガレスのものより。


さらに大きい。


「どうだ!」


ガレスの目が輝く。


「でっけぇ!!」


「ガハハ! 作ろうと思えばこの程度は余裕だ!」


ガレスが近づく。


「ちょっと持たせて!」


「浮気はしないんじゃなかったのか?」


「見るだけ!」


「持つのは見るだけとは言わん!」


ザインが料理を食べながら二人を見る。


「お前らうるせぇぞ」


ガレスが振り返る。


「副団長も見てくださいよ!」


「いいよ」


「興味なさすぎ!」


「俺剣あるし」


ロディスが笑う。


「ガハハ! 上司も同じか!」


「いや」


ザインが自分の剣を見る。


「俺は浮気とかじゃなくて、他の武器使い慣れてないだけ」


ガレスが止まる。


「俺の方が相棒愛強い?」


「知らん」


別の卓。


セリスがリナを見る。


「一つ聞いていい?」


「何です?」


「あなた」


リナの手を見る。


「杖を使わないのね」


リナが首を傾げる。


「はい」


「なぜ?」


「必要ないからです」


セリスが眉を上げる。


「それだけ?」


「それだけです」


リナが片手を上げる。


指先。


小さな魔法陣。


瞬時。


詠唱はない。


セリスが見る。


「それに」


リナが魔法陣を消す。


「持ってると邪魔なので」


「……」


「あと」


「詠唱もしないわね」


「基本は」


リナが頷く。


「時間がもったいないので」


セリスがじっとリナを見る。


「……あなた、本当に人間?」


リナが少し考える。


そして。


ザインを指差した。


「それは副団長に言ってください」


少し離れたところ。


「なんで俺!?」


ザインの声。


セリスが吹き出す。


リナも笑った。


さらに奥。


ジグ。


アルト。


二人は。


机の上に簡単な図を描いていた。


「ここから敵が進入した場合」


「北側を閉じる」


「では東側へ誘導」


「そこへ後衛を配置する」


「同意します」


ダリオが飲み物を片手に二人を見る。


「……なあ」


返事なし。


「宴だぞ?」


二人は図を見る。


「聞いてる?」


「聞いています」


ジグが答える。


「ならなんで戦術会議してんだよ!」


アルトが淡々と言う。


「有益だからだ」


「今!?」


ザインは。


少し離れた場所から。


その光景を眺めていた。


ガレスとロディス。


リナとセリス。


ジグとアルト。


そして。


間に挟まれているダリオ。


「……」


ザインが少し笑う。


つい少し前まで。


知らない国。


知らない種族。


それが。


今では。


普通に笑っている。


「悪くねぇな」


ザインは小さく呟いた。


その時。


「……そなた」


声。


ザインが振り返る。


先ほど。


玉座の間でも。


会議室でも。


ずっとザインを見ていた。


老エルフ。


ザインが首を傾げる。


「俺?」


老人は答えない。


ただ。


ザインをじっと見る。


顔。


瞳。


身体。


腕。


そして。


腰の剣。


「……何ですか?」


老人がゆっくり近づく。


「名は?」


「ザイン」


「ザイン……」


老人がその名を繰り返す。


「今日」


ザインを見る。


「そなたの戦いを見ていた」


ザインが料理を口へ運ぶ。


「そりゃどうも」


「褒めているのではない」


「違うの?」


老人の目が僅かに細くなる。


「奇妙だった」


ザインの手が止まる。


「何が?」


「そなたには」


一拍。


「魔力がない」


ザインの表情が少し変わった。


「……ああ」


「生まれつきか?」


「そうだけど」


「魔法は?」


「使えない」


「一度も?」


「一度も」


老人が黙る。


ザインが少し頭を掻く。


「それなら昔から散々珍しいって言われてきましたよ」


「珍しい……か」


老人が小さく呟く。


そして。


「それだけではない」


ザインが見る。


老人は。


ザインの身体を見る。


「そなたは」


「周囲の魔素を取り込んでいる」


ザインの目が僅かに開いた。


「……そこまで分かるんだ」


老人の表情が変わった。


「知っているのか?」


ザインが自分の胸を軽く指す。


「昔、身体を調べてもらったことがある」


「俺の身体には」


指を動かす。


「普通の人間にはない、すげぇ細い経路があるらしい」


老人が黙る。


「そこから周囲の魔素を勝手に吸って」


「身体を動かしたり、傷を治したりする方に使ってるとかなんとか」


ザインが肩をすくめる。


「詳しくは知らねぇけど」


老人は。


何も言わない。


「?」


ザインが首を傾げる。


「どうしたんですか?」


老人の目。


先ほどまでとは違う。


驚き。


疑念。


そして。


何かを。


確かめたような目。


「……そうか」


ザインの眉が寄る。


「だから何が?」


長い沈黙。


宴の声が。


遠く感じる。


老人はザインを真っ直ぐ見た。


「ザイン」


「はい」


「知りたくはないか?」


ザインの眉が僅かに動く。


「何を?」


老人は。


静かに言った。


「自分について」


一拍。


「そして」


老人の目が細くなる。


「――そのルーツについて」


ザインの表情が止まった。


「……俺の?」


「そうだ」


老人が踵を返す。


「興味があるのなら」


歩き出す。


「明日、私を訪ねなさい」


ザインが老人を見る。


そして。


「ちょっと待って」


老人が止まる。


ザインは。


少しだけ真剣な表情になっていた。


「俺のこと」


一拍。


「何か知ってるんですか?」


老人は振り返らない。


静かに。


答えた。


「少なくとも」


ザインの目が細くなる。


「そなた自身が知っているよりはな」


老人は。


そのまま歩き去っていった。


ザインは。


その場へ残される。


手には料理。


遠くでは。


「だから持たせろって!」


「浮気者が!」


ガレスとロディス。


「あなたはもっと精密制御を――」


「あなたはもっと火力以外を見てください!」


リナとセリス。


いつものような。


騒がしい声。


なのに。


ザインの耳には。


老人の言葉だけが残っていた。


自分について。


そして。


そのルーツについて。


ザインは。


老人が消えた方向を見つめる。


「……なんだよ、それ」


その夜。


ザインの中に生まれた小さな疑問は。


やがて。


自身の存在だけではなく。


六百年前。


この世界から消えた一つの民族と。


エルグラン王国に隠された歴史へと。


繋がっていくことになる。


戦いを終え、少しずつ距離を縮めていく人間、獣人、そしてエルフたち。


しかし、ザインを待っていたのは一人の老エルフでした。


「自分について」


「そして、そのルーツについて」


魔力を持たず、周囲の魔素を身体へ取り込むザイン。


これまで当たり前のように受け入れてきた自身の身体には、一体どんな秘密が隠されているのか。


ここから、ザイン自身も知らない過去へと踏み込んでいきます。


次回もよろしくお願いします!


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