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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
イリス奪還編
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44/102

奪還

捕らえられたエルフたちを前に、教団の精鋭部隊と対峙するザインとエリオン。


息の合った連携。


未知の拘束魔法。


これまでの教団員とは一線を画す敵を相手に、ザインたちは捕虜の奪還へ挑みます。


第44話「奪還」、よろしくお願いします!


「そいつら全員」


ザインは剣を肩へ担いだ。


一歩。


「返してもらうぞ」


森の中。


ザインとエリオンの前に並ぶ、二十人ほどの黒装束。


その後方には、いくつもの檻が並んでいた。


中にいるのはエルフたち。


女性。


子供。


負傷した騎士。


ザインは一度だけ檻へ視線を向ける。


そして。


「エリオン」


「なんだ」


「檻の方、頼める?」


エリオンがザインを見る。


「貴様は?」


ザインは正面を見る。


二十人。


全員が既に武器を構えている。


「こいつら退かしとく」


「……一人でか?」


「その方が早いだろ」


エリオンがザインを見つめる。


数秒。


「……やはり貴様は頭がおかしい」


「よく言われる」


「褒めていない」


「分かってるよ」


ザインが剣を下ろした。


中央に立っていた男が小さく笑う。


「随分と舐められたものですね」


ザインが男を見る。


「別に舐めてないよ」


「では、一人で我々を相手にすると?」


「うん」


「……」


「だから」


ザインが剣を構える。


「さっさと始めようぜ」


男の笑みが消えた。


「殺せ」


その瞬間。


四人。


同時。


「――!」


ザインが地面を蹴った。


正面。


剣。


首を狙ってくる。


身体を傾ける。


回避。


そのまま懐へ。


――ではなかった。


「っ」


右。


槍。


ザインが剣で弾く。


直後。


背後に魔法陣。


炎。


「チッ」


前へ飛ぶ。


そこへ。


既に一人。


剣が待っていた。


「……!」


ザインが身体を捻る。


刃が服を掠める。


着地。


一度距離を取った。


「へぇ」


四人は追ってこない。


元の位置へ戻る。


ザインが目を細めた。


「ちゃんとしてんな」


「何を余裕ぶっている!」


別の四人。


今度はザインから踏み込む。


一人目。


剣。


ザインが弾く。


二人目。


槍。


避ける。


ザインが一人目へ踏み込もうとした瞬間。


三人目。


魔法。


足元。


「っと」


横へ飛ぶ。


四人目。


そこにいる。


剣。


ガァン!


ザインが受け止める。


力で押し返す。


だが。


その間に残り三人が距離を取っている。


ザインも追わない。


「……なるほど」


剣を肩へ。


「一人じゃなくて」


四人を見る。


「四人で一人か」


誰も答えない。


ザインが笑う。


「面白いじゃん」


◇


「ザイン!」


エリオンが叫ぶ。


「こっちは気にすんな!」


ザインは振り返らない。


「早く助けろ!」


「言われなくとも!」


エリオンが檻へ走る。


当然。


敵もそれを見ている。


三人がエリオンの前へ。


「退け」


返事はない。


剣。


エリオンが踏み込む。


速い。


一人目の攻撃。


僅かに身体をずらす。


すれ違う。


剣を一閃。


「ぐっ!」


次。


槍。


エリオンは剣の腹で受け流す。


そのまま一歩。


柄を顔へ叩き込む。


二人目。


最後。


魔術師。


「燃え――」


最後まで言わせない。


エリオンが一気に距離を詰める。


剣先が喉元で止まった。


「……動くな」


魔術師の顔が引きつる。


エリオンが剣の柄で殴り倒した。


檻の中。


エルフたちが目を見開いている。


「エリオン隊長……!」


「待たせた」


エリオンが鍵を見る。


「すぐに出す」


その時。


背後。


気配。


エリオンが振り返る。


剣。


ガァン!


受け止める。


「まだいるか……!」


「エリオン!」


ザインの声。


「そっちは任せた!」


「分かっている!」


エリオンが敵を押し返す。


「貴様こそ死ぬな!」


ザインが笑った。


「誰に言ってんだ!」


◇


ガァン!


ザインの剣が弾かれる。


「おっと」


槍。


身体を反らす。


鼻先を通過。


ザインは槍の柄を掴んだ。


引く。


「なっ!」


槍使いが前へ崩れる。


だが。


その瞬間。


ザインは手を離した。


背後。


炎。


爆発。


「くっ!」


煙の中から飛び出す。


剣士。


ザインの脇腹へ剣。


ザインが受ける。


二人目。


背後。


三人目。


横。


「……」


ザインの表情から、少しずつ笑みが消えていく。


何度か。


同じ連携。


何度か。


違う組。


それでも。


基本は同じ。


ザインは剣を振りながら。


見ていた。


一人目が攻撃。


二人目が逃げ道を塞ぐ。


三人目が魔法。


四人目が着地点。


綺麗だ。


無駄がない。


だから。


「――分かった」


ザインが呟いた。


正面。


剣士が来る。


ザインは避けない。


ガァン!


剣で受ける。


右。


槍。


いつもなら避ける。


ザインは。


前へ出た。


「なっ!?」


剣士の胸倉を掴む。


そのまま。


引く。


「お前、そこな」


「何を――」


槍使いが止まれない。


「ぐあっ!」


槍が仲間の肩を掠める。


陣形が崩れる。


魔術師が魔法を撃てない。


ザインが笑った。


「やっぱり」


剣士を投げ飛ばす。


魔術師へ直撃。


「ぐっ!」


ザインが踏み込む。


「連携は綺麗だけどさ」


一人。


剣の腹で殴り飛ばす。


二人目。


蹴り。


三人目。


柄。


最後。


ザインの剣先が首元で止まる。


「綺麗すぎんだよ」


男の顔が引きつった。


ザインが剣を振る。


男が地面を転がる。


「決められた通りに動いてくれるなら」


剣を肩へ。


「逆に読みやすい」


中央。


指揮官の目が細くなる。


「……陣形変更」


その声。


全員が一斉に動いた。


ザインの眉が上がる。


「お」


四人一組だった陣形が崩れる。


前衛。


後衛。


魔術師。


それぞれが別々の位置へ。


「そう来る?」


ザインが笑った。


「いいね」


地面を蹴る。


再び。


戦闘。


◇


「これで最後だ!」


エリオンが剣を振り抜いた。


護衛が倒れる。


すぐに檻へ。


「下がっていろ」


剣を振る。


ガァン!


鍵が壊れる。


扉を開けた。


「出ろ!」


「ありがとうございます!」


「動ける者は負傷者を支えろ!」


エルフたちが次々と外へ。


エリオンが次の檻へ向かう。


その時。


「そこまでです」


声。


エリオンが止まった。


指揮官。


いつの間にか。


檻の一つ。


その前に立っている。


中には。


小さなエルフの少女。


指揮官の手には魔法。


少女へ向けられていた。


「動かないでください」


エリオンの顔が険しくなる。


「貴様……」


ザインも戦闘の中で気付いた。


「……」


笑みが消える。


指揮官がザインを見る。


「剣を捨てなさい」


ザインは動かない。


「聞こえませんでしたか?」


少女が震えている。


ザインが見る。


そして。


剣から手を離した。


カラン。


地面へ落ちる。


エリオンが目を見開く。


「ザイン!?」


ザインは両手を上げた。


「分かったよ」


指揮官が僅かに笑う。


「賢明です」


「降参する」


「……」


「だから、その子は離せ」


エリオンがザインを見る。


何を考えている。


分からない。


ザインが指揮官を見る。


「ほら」


一歩。


「剣も捨てた」


「止まりなさい」


ザインが止まる。


指揮官の視線。


ザインへ集中する。


「……今」


小さな声。


エリオンの耳が動いた。


一瞬。


理解。


地面を蹴る。


「なっ!?」


エリオンが指揮官の腕へ剣を振る。


指揮官が反応。


少女から手を離す。


魔法がエリオンへ。


その瞬間。


ザインも動いた。


「遅い!」


素手。


指揮官の腕を掴む。


そのまま引き寄せる。


「ぐっ!」


エリオンが檻を開ける。


少女を抱き上げる。


「もう大丈夫だ」


「う……うぅ……」


指揮官がザインを睨む。


「貴様……!」


ザインが笑う。


「悪い」


腕を離す。


「降参やめた」


指揮官が距離を取る。


「殺せ!」


残った精鋭がザインへ向かう。


ザインも地面の剣を拾う。


「第二ラウンド?」


その瞬間。


指揮官の両手に魔力が集まった。


「――《縫界》」


「……?」


ザインの身体が止まった。


完全に。


「……は?」


右腕。


動かない。


脚。


動かない。


指。


動かない。


ザインが目だけを動かす。


「何これ」


指揮官がゆっくり歩いてくる。


「対象の肉体を、魔力によって空間そのものへ固定する拘束術です」


ザインが自分の腕を見る。


「へぇ」


「どれほど速かろうと」


指揮官が笑う。


「動けなければ意味はない」


エリオンがザインを見る。


「ザイン!」


「来るな!」


ザインが即座に叫んだ。


エリオンが止まる。


「でも――」


「捕虜守っとけ!」


ザインは指揮官を見る。


そして。


腕に力を込めた。


「……?」


指揮官の眉が動く。


ザインの腕。


僅かに。


震えた。


「何をしている?」


「何って」


ザインが歯を食いしばる。


ギチッ。


空間が軋むような音。


「動こうとしてんだけど」


指揮官の表情が止まった。


「……は?」


ザインがさらに力を込める。


ギギギギギ――!


魔力が震える。


右腕。


ほんの少し。


前へ。


「なっ……」


指揮官が両手へ力を込める。


「馬鹿な……!」


ザインの足が。


僅かに動く。


「止まれ!」


ザインの額に血管が浮かぶ。


「だから……」


ギギギ――!


一歩。


「無茶……言うなって!」


ズッ。


右足が。


地面を擦りながら前へ出た。


「……!」


指揮官の右腕が震えた。


「ぐっ……!?」


ザインがそれを見る。


「あ?」


指揮官が腕を押さえる。


だが。


術は解除しない。


「止まれ……!」


ザインの口元が上がる。


「もしかして」


さらに一歩。


「これ」


ギチギチギチ――!


「お前にも負担掛かってんの?」


「黙れ!」


指揮官の額から汗。


ザインを固定する魔力。


その一本一本が。


限界まで引き伸ばされている。


エリオンが言葉を失っていた。


「……何をしているんだ、あいつは」


捕虜のエルフも。


精鋭たちも。


全員がザインを見る。


本来。


動けるはずがない。


術式を解除するか。


術者を倒すか。


それ以外に。


この拘束から逃れる方法などない。


なのに。


ザインは。


ただ。


力だけで。


歩いている。


「ぐっ……!」


ザインが顔を歪める。


さすがに。


重い。


全身を無数の鎖で縛られているような感覚。


それでも。


止まらない。


「結構……」


一歩。


「強ぇな……!」


指揮官の腕がさらに震える。


「やめろ……!」


ザインが顔を上げる。


「嫌だね」


踏み込む。


「止まれぇぇぇ!!」


指揮官が魔力を最大まで流し込んだ。


ザインの身体が再び止まりかける。


「……っ!」


一瞬。


ザインの動きが止まる。


だが。


「おおおおっ!!」


力。


純粋な。


肉体の力。


ザインが右腕を。


無理やり。


振り抜いた。


ブチンッ!!


何かが。


切れた。


魔力の拘束。


一本。


二本。


次々と。


ブチッ!


ブチンッ!


ザインを固定していた術式が破断していく。


「馬鹿な……!」


指揮官が目を見開く。


最後。


ザインが一歩。


強く踏み出した。


バキンッ!!


《縫界》。


完全破壊。


同時。


「――ぐぁっ!!」


指揮官の身体が大きく仰け反った。


右腕。


術式の反動が一気に返る。


鈍い音。


指揮官が腕を押さえ、その場へ膝をついた。


「ぐっ……ぁ……!」


腕は力なく垂れ下がっていた。


ザインは。


「……っはぁ」


大きく息を吐いた。


肩を回す。


「……危な」


腕。


脚。


動く。


「もう一回は食らいたくねぇな、これ」


エリオンはザインを見る。


「…………」


ザインが気付く。


「何?」


「いや」


エリオンが首を振る。


「もう貴様について考えるのはやめようと思ってな」


「なんだそれ」


「そのままの意味だ」


ザインが首を傾げる。


「変な奴」


「貴様だけには言われたくない!」


ザインが笑った。


そして。


前を見る。


残った精鋭。


誰も。


すぐには動かない。


指揮官の拘束魔法。


彼らも知っていた。


捕らえた時点で。


終わり。


そういう魔法だった。


それを。


目の前の人間は。


力だけで。


引き千切った。


ザインは地面に落ちていた剣を拾う。


軽く振る。


そして。


肩へ担いだ。


一人。


二人。


三人。


残った精鋭を順番に見る。


ザインの口元が上がった。


「さて」


一歩。


「次は誰がお披露目するのかな?」


誰も答えない。


ザインが笑う。


「来ないなら」


剣を下ろす。


「こっちから行くぞ」


地面が弾けた。


「――ッ!」


ザインが消える。


「散開!」


精鋭たちが一斉に動く。


一人。


ザインの剣が迫る。


防御。


ガァン!


吹き飛ぶ。


二人目。


魔法。


ザインは走りながら避ける。


三人目。


槍。


掴む。


引く。


膝。


「ぐっ!」


四人目。


剣。


ザインが受ける。


蹴り飛ばす。


先ほどまで。


ザインを攻略しようとしていた陣形。


今は。


違う。


崩されている。


「右だ!」


「分かっている!」


「魔法を――」


遅い。


ザインが懐へ。


柄。


一人。


回転。


蹴り。


二人。


背後。


ザインは振り返らない。


剣を後ろへ。


ガァン!


「なっ!」


ザインが振り向く。


「そこ」


敵の顔が引きつる。


「さっきもいたよな?」


剣の腹。


吹き飛ばす。


一人。


また一人。


精鋭が倒れていく。


そして。


最後。


「くっ……!」


一人の剣士が後退する。


ザインが前。


エリオンが後ろ。


逃げ場はない。


ザインが剣を肩へ担ぐ。


「終わり?」


男が剣を落とした。


「……降参する」


ザインが止まる。


「そう」


剣を下ろす。


「じゃあ座ってて」


「……?」


「変なことしたら斬るから」


男は黙って地面へ座った。


ザインが周囲を見る。


終わった。


エリオンが檻から最後のエルフを出す。


「これで全員だ」


ザインが近づく。


「怪我人は?」


「いる。だが、命に関わる者はいない」


「そっか」


ザインが息を吐いた。


「よかった」


その時。


「……まだです」


ザインが振り返る。


指揮官。


地面へ膝をついたまま。


折れた腕を押さえている。


それでも。


笑っていた。


「何?」


ザインが近づく。


指揮官が檻の中にいたエルフたちを見る。


「我々が……ここで捕らえた者が」


笑う。


「全員だとでも?」


ザインの表情が変わった。


エリオンも。


「……何?」


指揮官が笑う。


「既に」


一呼吸。


「何人も運び出していますよ」


エリオンが男へ掴みかかる。


「どこへ連れて行った!」


「さあ」


「答えろ!」


ザインがエリオンの肩を掴む。


「待て」


「だが!」


ザインが男の前へしゃがむ。


目線を合わせる。


「一個聞きたいんだけど」


指揮官がザインを見る。


「獣王国でも」


ザインの声が低くなる。


「獣人を攫ってた」


「……」


「今度はエルフ」


沈黙。


ザインが続ける。


「何が目的?」


指揮官は。


笑った。


「……より優れた素材が必要なのですよ」


ザインの眉が動く。


「素材?」


「獣人は」


男がゆっくり言う。


「身体」


エリオンの表情が険しくなる。


そして。


男の視線がエルフたちへ。


「エルフは」


笑み。


「魔力」


ザインから表情が消えた。


「……」


獣人。


身体。


エルフ。


魔力。


頭の中。


繋がる。


あの洞窟。


人の形を失った獣人たち。


あの子供。


最後に。


目の前で――。


ザインの手が僅かに握られた。


「……そういうことか」


「ザイン?」


ザインが立ち上がる。


「こいつ」


指揮官を見る。


「生かして連れて帰ろう」


エリオンも頷く。


「当然だ」


「知ってること全部吐かせる」


指揮官は。


それでも笑っていた。


ザインはその顔を一度だけ見る。


「……気に入らねぇ」


その時。


森の向こう。


足音。


ザインたちが一斉に構える。


「副団長ー!!」


聞き覚えのある声。


ザインが剣を下ろす。


「……ガレスか」


木々の向こうから。


ガレス。


その隣。


ロディス。


さらに。


リナとセリス。


ジグ。


ダリオ。


アルト。


そして獣王国の騎士たち。


全員が姿を現した。


「副団長!」


ガレスが手を上げる。


「無事でしたか!」


ザインが周囲を見る。


「見りゃ分かるだろ」


「ですよね!」


ガレスの隣。


ロディスがザインを見る。


「お前がザインか!」


ザインも見る。


「誰?」


ガレスがロディスの肩を叩く。


「俺の新しい友達!」


「友達とは言ってない!」


「仲良いじゃん」


ザインが言う。


「だろ?」


「違うと言っている!」


ロディスの声が響く。


ザインが少し笑った。


その後ろ。


「だからあなたの火力だけじゃ――」


「あなたが細かすぎるのよ!」


リナ。


セリス。


まだ何か言い争っている。


ザインがそちらを見る。


「……何か楽しそうだなお前ら」


「どこがですか!」


リナが即答。


「仲良くなった?」


「なってません!」


セリスも同時。


「なってないわ!」


ザインが笑う。


「息ぴったりじゃん」


「副団長!」


さらに後ろ。


ジグ。


ダリオ。


アルト。


ザインがアルトを見る。


「そっちは?」


ダリオが答える。


「なんかジグと気が合うエルフ」


アルトが眉を寄せる。


「なんかとは何だ」


ジグがザインを見る。


「非常に合理的な戦い方をする方です」


「お前が言うなら相当だな」


「はい」


ダリオが頭を抱える。


「また始まった……」


ザインは。


少しだけ周囲を見た。


人間。


エルフ。


獣人。


つい数時間前まで。


互いのことすらほとんど知らなかった者たち。


それが。


今は。


同じ場所に立っている。


「……そっちも終わったみたいだな」


ガレスが頷く。


「はい!」


セリスも答える。


「王都周辺の敵はほぼ排除したわ」


その時。


エリオンの通信石が光った。


『――エリオン隊長。応答せよ』


エリオンが取り出す。


「こちらエリオン」


『東部地区、敵部隊撤退!』


別の声。


『西部、制圧完了!』


さらに。


『王宮区画、安全を確保!』


そして。


数秒後。


『確認された敵勢力が撤退を開始しています!』


静寂。


エリオンが。


大きく息を吐いた。


「……終わったか」


ザインが横を見る。


「いや」


エリオンがザインを見る。


ザインは。


捕らえた指揮官へ視線を向けていた。


「まだだろ」


「……」


「連れて行かれた奴がいる」


ザインは続ける。


「そいつら取り返すまで」


剣を鞘へ。


「終わりじゃない」


エリオンはザインを見る。


そして。


小さく頷いた。


「ああ」


再び。


通信石。


『エリオン隊長』


「なんだ」


『王女殿下より命令です』


全員が静かになる。


『援軍を率い、王城へ帰還せよとのこと』


エリオンが答える。


「承知した」


通信が切れる。


ザインがエリオンを見る。


「援軍って」


「貴様らだ」


「俺らも?」


「当然だ」


ザインが露骨に嫌そうな顔をした。


「マジか……」


「なんだその顔は」


ザインは腹を押さえる。


「いや」


少し考える。


「飯出る?」


「貴様はこの状況で飯の心配か!?」


ガレスが手を上げる。


「俺も気になってました!」


「お前もか!」


ロディスが豪快に笑う。


「ガハハ! 安心しろ! 王城の飯は美味いぞ!」


ザインとガレスが同時に振り返る。


「マジ?」


「本当か!?」


リナが頭を抱えた。


「もう……」


セリスが呆れた顔でザインを見る。


「これが人間の騎士団なの?」


リナが少し考える。


「……否定できません」


「おい」


ザインが振り返る。


小さな笑い声。


エルフ。


人間。


獣人。


誰からともなく。


笑っていた。


つい先ほどまで。


国中で戦っていたというのに。


ザインは頭を掻く。


「……じゃ」


王城の方向を見る。


「行くか」


誰も異論はなかった。


戦いは。


ひとまず終わった。


だが。


ザインたちはまだ知らない。


この国へ来たことが。


そして。


この国でザインが剣を振るったことが。


彼自身すら知らなかった過去へと。


繋がっていることを。


「獣人は身体。エルフは魔力。」


教団の口から語られた、種族を“素材”として扱う目的の一端。


王都を守ることには成功しましたが、既に連れ去られてしまった者たちも残されています。


そして、つい先ほどまで距離のあった人間、獣人、エルフたちも、共に戦ったことで少しずつ戦友へ。


ひとまず戦いを終え、ザインたちはエルフ王城へ向かいます。


そこで待っているのは――。


次回もよろしくお願いします!


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