奪還
捕らえられたエルフたちを前に、教団の精鋭部隊と対峙するザインとエリオン。
息の合った連携。
未知の拘束魔法。
これまでの教団員とは一線を画す敵を相手に、ザインたちは捕虜の奪還へ挑みます。
第44話「奪還」、よろしくお願いします!
「そいつら全員」
ザインは剣を肩へ担いだ。
一歩。
「返してもらうぞ」
森の中。
ザインとエリオンの前に並ぶ、二十人ほどの黒装束。
その後方には、いくつもの檻が並んでいた。
中にいるのはエルフたち。
女性。
子供。
負傷した騎士。
ザインは一度だけ檻へ視線を向ける。
そして。
「エリオン」
「なんだ」
「檻の方、頼める?」
エリオンがザインを見る。
「貴様は?」
ザインは正面を見る。
二十人。
全員が既に武器を構えている。
「こいつら退かしとく」
「……一人でか?」
「その方が早いだろ」
エリオンがザインを見つめる。
数秒。
「……やはり貴様は頭がおかしい」
「よく言われる」
「褒めていない」
「分かってるよ」
ザインが剣を下ろした。
中央に立っていた男が小さく笑う。
「随分と舐められたものですね」
ザインが男を見る。
「別に舐めてないよ」
「では、一人で我々を相手にすると?」
「うん」
「……」
「だから」
ザインが剣を構える。
「さっさと始めようぜ」
男の笑みが消えた。
「殺せ」
その瞬間。
四人。
同時。
「――!」
ザインが地面を蹴った。
正面。
剣。
首を狙ってくる。
身体を傾ける。
回避。
そのまま懐へ。
――ではなかった。
「っ」
右。
槍。
ザインが剣で弾く。
直後。
背後に魔法陣。
炎。
「チッ」
前へ飛ぶ。
そこへ。
既に一人。
剣が待っていた。
「……!」
ザインが身体を捻る。
刃が服を掠める。
着地。
一度距離を取った。
「へぇ」
四人は追ってこない。
元の位置へ戻る。
ザインが目を細めた。
「ちゃんとしてんな」
「何を余裕ぶっている!」
別の四人。
今度はザインから踏み込む。
一人目。
剣。
ザインが弾く。
二人目。
槍。
避ける。
ザインが一人目へ踏み込もうとした瞬間。
三人目。
魔法。
足元。
「っと」
横へ飛ぶ。
四人目。
そこにいる。
剣。
ガァン!
ザインが受け止める。
力で押し返す。
だが。
その間に残り三人が距離を取っている。
ザインも追わない。
「……なるほど」
剣を肩へ。
「一人じゃなくて」
四人を見る。
「四人で一人か」
誰も答えない。
ザインが笑う。
「面白いじゃん」
◇
「ザイン!」
エリオンが叫ぶ。
「こっちは気にすんな!」
ザインは振り返らない。
「早く助けろ!」
「言われなくとも!」
エリオンが檻へ走る。
当然。
敵もそれを見ている。
三人がエリオンの前へ。
「退け」
返事はない。
剣。
エリオンが踏み込む。
速い。
一人目の攻撃。
僅かに身体をずらす。
すれ違う。
剣を一閃。
「ぐっ!」
次。
槍。
エリオンは剣の腹で受け流す。
そのまま一歩。
柄を顔へ叩き込む。
二人目。
最後。
魔術師。
「燃え――」
最後まで言わせない。
エリオンが一気に距離を詰める。
剣先が喉元で止まった。
「……動くな」
魔術師の顔が引きつる。
エリオンが剣の柄で殴り倒した。
檻の中。
エルフたちが目を見開いている。
「エリオン隊長……!」
「待たせた」
エリオンが鍵を見る。
「すぐに出す」
その時。
背後。
気配。
エリオンが振り返る。
剣。
ガァン!
受け止める。
「まだいるか……!」
「エリオン!」
ザインの声。
「そっちは任せた!」
「分かっている!」
エリオンが敵を押し返す。
「貴様こそ死ぬな!」
ザインが笑った。
「誰に言ってんだ!」
◇
ガァン!
ザインの剣が弾かれる。
「おっと」
槍。
身体を反らす。
鼻先を通過。
ザインは槍の柄を掴んだ。
引く。
「なっ!」
槍使いが前へ崩れる。
だが。
その瞬間。
ザインは手を離した。
背後。
炎。
爆発。
「くっ!」
煙の中から飛び出す。
剣士。
ザインの脇腹へ剣。
ザインが受ける。
二人目。
背後。
三人目。
横。
「……」
ザインの表情から、少しずつ笑みが消えていく。
何度か。
同じ連携。
何度か。
違う組。
それでも。
基本は同じ。
ザインは剣を振りながら。
見ていた。
一人目が攻撃。
二人目が逃げ道を塞ぐ。
三人目が魔法。
四人目が着地点。
綺麗だ。
無駄がない。
だから。
「――分かった」
ザインが呟いた。
正面。
剣士が来る。
ザインは避けない。
ガァン!
剣で受ける。
右。
槍。
いつもなら避ける。
ザインは。
前へ出た。
「なっ!?」
剣士の胸倉を掴む。
そのまま。
引く。
「お前、そこな」
「何を――」
槍使いが止まれない。
「ぐあっ!」
槍が仲間の肩を掠める。
陣形が崩れる。
魔術師が魔法を撃てない。
ザインが笑った。
「やっぱり」
剣士を投げ飛ばす。
魔術師へ直撃。
「ぐっ!」
ザインが踏み込む。
「連携は綺麗だけどさ」
一人。
剣の腹で殴り飛ばす。
二人目。
蹴り。
三人目。
柄。
最後。
ザインの剣先が首元で止まる。
「綺麗すぎんだよ」
男の顔が引きつった。
ザインが剣を振る。
男が地面を転がる。
「決められた通りに動いてくれるなら」
剣を肩へ。
「逆に読みやすい」
中央。
指揮官の目が細くなる。
「……陣形変更」
その声。
全員が一斉に動いた。
ザインの眉が上がる。
「お」
四人一組だった陣形が崩れる。
前衛。
後衛。
魔術師。
それぞれが別々の位置へ。
「そう来る?」
ザインが笑った。
「いいね」
地面を蹴る。
再び。
戦闘。
◇
「これで最後だ!」
エリオンが剣を振り抜いた。
護衛が倒れる。
すぐに檻へ。
「下がっていろ」
剣を振る。
ガァン!
鍵が壊れる。
扉を開けた。
「出ろ!」
「ありがとうございます!」
「動ける者は負傷者を支えろ!」
エルフたちが次々と外へ。
エリオンが次の檻へ向かう。
その時。
「そこまでです」
声。
エリオンが止まった。
指揮官。
いつの間にか。
檻の一つ。
その前に立っている。
中には。
小さなエルフの少女。
指揮官の手には魔法。
少女へ向けられていた。
「動かないでください」
エリオンの顔が険しくなる。
「貴様……」
ザインも戦闘の中で気付いた。
「……」
笑みが消える。
指揮官がザインを見る。
「剣を捨てなさい」
ザインは動かない。
「聞こえませんでしたか?」
少女が震えている。
ザインが見る。
そして。
剣から手を離した。
カラン。
地面へ落ちる。
エリオンが目を見開く。
「ザイン!?」
ザインは両手を上げた。
「分かったよ」
指揮官が僅かに笑う。
「賢明です」
「降参する」
「……」
「だから、その子は離せ」
エリオンがザインを見る。
何を考えている。
分からない。
ザインが指揮官を見る。
「ほら」
一歩。
「剣も捨てた」
「止まりなさい」
ザインが止まる。
指揮官の視線。
ザインへ集中する。
「……今」
小さな声。
エリオンの耳が動いた。
一瞬。
理解。
地面を蹴る。
「なっ!?」
エリオンが指揮官の腕へ剣を振る。
指揮官が反応。
少女から手を離す。
魔法がエリオンへ。
その瞬間。
ザインも動いた。
「遅い!」
素手。
指揮官の腕を掴む。
そのまま引き寄せる。
「ぐっ!」
エリオンが檻を開ける。
少女を抱き上げる。
「もう大丈夫だ」
「う……うぅ……」
指揮官がザインを睨む。
「貴様……!」
ザインが笑う。
「悪い」
腕を離す。
「降参やめた」
指揮官が距離を取る。
「殺せ!」
残った精鋭がザインへ向かう。
ザインも地面の剣を拾う。
「第二ラウンド?」
その瞬間。
指揮官の両手に魔力が集まった。
「――《縫界》」
「……?」
ザインの身体が止まった。
完全に。
「……は?」
右腕。
動かない。
脚。
動かない。
指。
動かない。
ザインが目だけを動かす。
「何これ」
指揮官がゆっくり歩いてくる。
「対象の肉体を、魔力によって空間そのものへ固定する拘束術です」
ザインが自分の腕を見る。
「へぇ」
「どれほど速かろうと」
指揮官が笑う。
「動けなければ意味はない」
エリオンがザインを見る。
「ザイン!」
「来るな!」
ザインが即座に叫んだ。
エリオンが止まる。
「でも――」
「捕虜守っとけ!」
ザインは指揮官を見る。
そして。
腕に力を込めた。
「……?」
指揮官の眉が動く。
ザインの腕。
僅かに。
震えた。
「何をしている?」
「何って」
ザインが歯を食いしばる。
ギチッ。
空間が軋むような音。
「動こうとしてんだけど」
指揮官の表情が止まった。
「……は?」
ザインがさらに力を込める。
ギギギギギ――!
魔力が震える。
右腕。
ほんの少し。
前へ。
「なっ……」
指揮官が両手へ力を込める。
「馬鹿な……!」
ザインの足が。
僅かに動く。
「止まれ!」
ザインの額に血管が浮かぶ。
「だから……」
ギギギ――!
一歩。
「無茶……言うなって!」
ズッ。
右足が。
地面を擦りながら前へ出た。
「……!」
指揮官の右腕が震えた。
「ぐっ……!?」
ザインがそれを見る。
「あ?」
指揮官が腕を押さえる。
だが。
術は解除しない。
「止まれ……!」
ザインの口元が上がる。
「もしかして」
さらに一歩。
「これ」
ギチギチギチ――!
「お前にも負担掛かってんの?」
「黙れ!」
指揮官の額から汗。
ザインを固定する魔力。
その一本一本が。
限界まで引き伸ばされている。
エリオンが言葉を失っていた。
「……何をしているんだ、あいつは」
捕虜のエルフも。
精鋭たちも。
全員がザインを見る。
本来。
動けるはずがない。
術式を解除するか。
術者を倒すか。
それ以外に。
この拘束から逃れる方法などない。
なのに。
ザインは。
ただ。
力だけで。
歩いている。
「ぐっ……!」
ザインが顔を歪める。
さすがに。
重い。
全身を無数の鎖で縛られているような感覚。
それでも。
止まらない。
「結構……」
一歩。
「強ぇな……!」
指揮官の腕がさらに震える。
「やめろ……!」
ザインが顔を上げる。
「嫌だね」
踏み込む。
「止まれぇぇぇ!!」
指揮官が魔力を最大まで流し込んだ。
ザインの身体が再び止まりかける。
「……っ!」
一瞬。
ザインの動きが止まる。
だが。
「おおおおっ!!」
力。
純粋な。
肉体の力。
ザインが右腕を。
無理やり。
振り抜いた。
ブチンッ!!
何かが。
切れた。
魔力の拘束。
一本。
二本。
次々と。
ブチッ!
ブチンッ!
ザインを固定していた術式が破断していく。
「馬鹿な……!」
指揮官が目を見開く。
最後。
ザインが一歩。
強く踏み出した。
バキンッ!!
《縫界》。
完全破壊。
同時。
「――ぐぁっ!!」
指揮官の身体が大きく仰け反った。
右腕。
術式の反動が一気に返る。
鈍い音。
指揮官が腕を押さえ、その場へ膝をついた。
「ぐっ……ぁ……!」
腕は力なく垂れ下がっていた。
ザインは。
「……っはぁ」
大きく息を吐いた。
肩を回す。
「……危な」
腕。
脚。
動く。
「もう一回は食らいたくねぇな、これ」
エリオンはザインを見る。
「…………」
ザインが気付く。
「何?」
「いや」
エリオンが首を振る。
「もう貴様について考えるのはやめようと思ってな」
「なんだそれ」
「そのままの意味だ」
ザインが首を傾げる。
「変な奴」
「貴様だけには言われたくない!」
ザインが笑った。
そして。
前を見る。
残った精鋭。
誰も。
すぐには動かない。
指揮官の拘束魔法。
彼らも知っていた。
捕らえた時点で。
終わり。
そういう魔法だった。
それを。
目の前の人間は。
力だけで。
引き千切った。
ザインは地面に落ちていた剣を拾う。
軽く振る。
そして。
肩へ担いだ。
一人。
二人。
三人。
残った精鋭を順番に見る。
ザインの口元が上がった。
「さて」
一歩。
「次は誰がお披露目するのかな?」
誰も答えない。
ザインが笑う。
「来ないなら」
剣を下ろす。
「こっちから行くぞ」
地面が弾けた。
「――ッ!」
ザインが消える。
「散開!」
精鋭たちが一斉に動く。
一人。
ザインの剣が迫る。
防御。
ガァン!
吹き飛ぶ。
二人目。
魔法。
ザインは走りながら避ける。
三人目。
槍。
掴む。
引く。
膝。
「ぐっ!」
四人目。
剣。
ザインが受ける。
蹴り飛ばす。
先ほどまで。
ザインを攻略しようとしていた陣形。
今は。
違う。
崩されている。
「右だ!」
「分かっている!」
「魔法を――」
遅い。
ザインが懐へ。
柄。
一人。
回転。
蹴り。
二人。
背後。
ザインは振り返らない。
剣を後ろへ。
ガァン!
「なっ!」
ザインが振り向く。
「そこ」
敵の顔が引きつる。
「さっきもいたよな?」
剣の腹。
吹き飛ばす。
一人。
また一人。
精鋭が倒れていく。
そして。
最後。
「くっ……!」
一人の剣士が後退する。
ザインが前。
エリオンが後ろ。
逃げ場はない。
ザインが剣を肩へ担ぐ。
「終わり?」
男が剣を落とした。
「……降参する」
ザインが止まる。
「そう」
剣を下ろす。
「じゃあ座ってて」
「……?」
「変なことしたら斬るから」
男は黙って地面へ座った。
ザインが周囲を見る。
終わった。
エリオンが檻から最後のエルフを出す。
「これで全員だ」
ザインが近づく。
「怪我人は?」
「いる。だが、命に関わる者はいない」
「そっか」
ザインが息を吐いた。
「よかった」
その時。
「……まだです」
ザインが振り返る。
指揮官。
地面へ膝をついたまま。
折れた腕を押さえている。
それでも。
笑っていた。
「何?」
ザインが近づく。
指揮官が檻の中にいたエルフたちを見る。
「我々が……ここで捕らえた者が」
笑う。
「全員だとでも?」
ザインの表情が変わった。
エリオンも。
「……何?」
指揮官が笑う。
「既に」
一呼吸。
「何人も運び出していますよ」
エリオンが男へ掴みかかる。
「どこへ連れて行った!」
「さあ」
「答えろ!」
ザインがエリオンの肩を掴む。
「待て」
「だが!」
ザインが男の前へしゃがむ。
目線を合わせる。
「一個聞きたいんだけど」
指揮官がザインを見る。
「獣王国でも」
ザインの声が低くなる。
「獣人を攫ってた」
「……」
「今度はエルフ」
沈黙。
ザインが続ける。
「何が目的?」
指揮官は。
笑った。
「……より優れた素材が必要なのですよ」
ザインの眉が動く。
「素材?」
「獣人は」
男がゆっくり言う。
「身体」
エリオンの表情が険しくなる。
そして。
男の視線がエルフたちへ。
「エルフは」
笑み。
「魔力」
ザインから表情が消えた。
「……」
獣人。
身体。
エルフ。
魔力。
頭の中。
繋がる。
あの洞窟。
人の形を失った獣人たち。
あの子供。
最後に。
目の前で――。
ザインの手が僅かに握られた。
「……そういうことか」
「ザイン?」
ザインが立ち上がる。
「こいつ」
指揮官を見る。
「生かして連れて帰ろう」
エリオンも頷く。
「当然だ」
「知ってること全部吐かせる」
指揮官は。
それでも笑っていた。
ザインはその顔を一度だけ見る。
「……気に入らねぇ」
その時。
森の向こう。
足音。
ザインたちが一斉に構える。
「副団長ー!!」
聞き覚えのある声。
ザインが剣を下ろす。
「……ガレスか」
木々の向こうから。
ガレス。
その隣。
ロディス。
さらに。
リナとセリス。
ジグ。
ダリオ。
アルト。
そして獣王国の騎士たち。
全員が姿を現した。
「副団長!」
ガレスが手を上げる。
「無事でしたか!」
ザインが周囲を見る。
「見りゃ分かるだろ」
「ですよね!」
ガレスの隣。
ロディスがザインを見る。
「お前がザインか!」
ザインも見る。
「誰?」
ガレスがロディスの肩を叩く。
「俺の新しい友達!」
「友達とは言ってない!」
「仲良いじゃん」
ザインが言う。
「だろ?」
「違うと言っている!」
ロディスの声が響く。
ザインが少し笑った。
その後ろ。
「だからあなたの火力だけじゃ――」
「あなたが細かすぎるのよ!」
リナ。
セリス。
まだ何か言い争っている。
ザインがそちらを見る。
「……何か楽しそうだなお前ら」
「どこがですか!」
リナが即答。
「仲良くなった?」
「なってません!」
セリスも同時。
「なってないわ!」
ザインが笑う。
「息ぴったりじゃん」
「副団長!」
さらに後ろ。
ジグ。
ダリオ。
アルト。
ザインがアルトを見る。
「そっちは?」
ダリオが答える。
「なんかジグと気が合うエルフ」
アルトが眉を寄せる。
「なんかとは何だ」
ジグがザインを見る。
「非常に合理的な戦い方をする方です」
「お前が言うなら相当だな」
「はい」
ダリオが頭を抱える。
「また始まった……」
ザインは。
少しだけ周囲を見た。
人間。
エルフ。
獣人。
つい数時間前まで。
互いのことすらほとんど知らなかった者たち。
それが。
今は。
同じ場所に立っている。
「……そっちも終わったみたいだな」
ガレスが頷く。
「はい!」
セリスも答える。
「王都周辺の敵はほぼ排除したわ」
その時。
エリオンの通信石が光った。
『――エリオン隊長。応答せよ』
エリオンが取り出す。
「こちらエリオン」
『東部地区、敵部隊撤退!』
別の声。
『西部、制圧完了!』
さらに。
『王宮区画、安全を確保!』
そして。
数秒後。
『確認された敵勢力が撤退を開始しています!』
静寂。
エリオンが。
大きく息を吐いた。
「……終わったか」
ザインが横を見る。
「いや」
エリオンがザインを見る。
ザインは。
捕らえた指揮官へ視線を向けていた。
「まだだろ」
「……」
「連れて行かれた奴がいる」
ザインは続ける。
「そいつら取り返すまで」
剣を鞘へ。
「終わりじゃない」
エリオンはザインを見る。
そして。
小さく頷いた。
「ああ」
再び。
通信石。
『エリオン隊長』
「なんだ」
『王女殿下より命令です』
全員が静かになる。
『援軍を率い、王城へ帰還せよとのこと』
エリオンが答える。
「承知した」
通信が切れる。
ザインがエリオンを見る。
「援軍って」
「貴様らだ」
「俺らも?」
「当然だ」
ザインが露骨に嫌そうな顔をした。
「マジか……」
「なんだその顔は」
ザインは腹を押さえる。
「いや」
少し考える。
「飯出る?」
「貴様はこの状況で飯の心配か!?」
ガレスが手を上げる。
「俺も気になってました!」
「お前もか!」
ロディスが豪快に笑う。
「ガハハ! 安心しろ! 王城の飯は美味いぞ!」
ザインとガレスが同時に振り返る。
「マジ?」
「本当か!?」
リナが頭を抱えた。
「もう……」
セリスが呆れた顔でザインを見る。
「これが人間の騎士団なの?」
リナが少し考える。
「……否定できません」
「おい」
ザインが振り返る。
小さな笑い声。
エルフ。
人間。
獣人。
誰からともなく。
笑っていた。
つい先ほどまで。
国中で戦っていたというのに。
ザインは頭を掻く。
「……じゃ」
王城の方向を見る。
「行くか」
誰も異論はなかった。
戦いは。
ひとまず終わった。
だが。
ザインたちはまだ知らない。
この国へ来たことが。
そして。
この国でザインが剣を振るったことが。
彼自身すら知らなかった過去へと。
繋がっていることを。
「獣人は身体。エルフは魔力。」
教団の口から語られた、種族を“素材”として扱う目的の一端。
王都を守ることには成功しましたが、既に連れ去られてしまった者たちも残されています。
そして、つい先ほどまで距離のあった人間、獣人、エルフたちも、共に戦ったことで少しずつ戦友へ。
ひとまず戦いを終え、ザインたちはエルフ王城へ向かいます。
そこで待っているのは――。
次回もよろしくお願いします!




