共闘
王都各地へ散ったザインたち。
これまで互いをほとんど知らなかった人間とエルフが、同じ敵を前に肩を並べます。
異なる戦い方、異なる魔法。
それでも、命を預け合う戦場でなら分かり合えるものもあるのかもしれません。
第43話「共闘」、よろしくお願いします!
「いた!」
森の中を駆けていたガレスが声を上げた。
木々の向こう。
開けた場所に、小さな集落が見える。
その手前では、既に戦闘が始まっていた。
十数人の教団員。
それを迎え撃つエルフたち。
数では明らかに教団側が上回っている。
「援護するぞ!」
ガレスは背負っていた大剣を抜いた。
同行していた獣王国の騎士たちも武器を構える。
「行くぞ!」
ガレスが地面を蹴った。
◇
「ロディス! 右だ!」
「分かってる!」
金髪のエルフが右手を突き出した。
空だった掌へ魔力が集まる。
光。
次の瞬間。
一本の槍が、その手に握られていた。
「ふんっ!」
ロディスが槍を突き出す。
教団員が剣で弾く。
だが。
ロディスは笑った。
槍から手を離す。
武器は地面へ落ちることなく、光の粒となって消えた。
「な――」
教団員が目を見開く。
既にロディスの両手には、二本の短剣が錬成されている。
「遅い!」
一気に懐へ潜る。
短剣が走った。
一人。
だが。
「後ろ!」
仲間の声。
別の教団員がロディスへ剣を振り下ろす。
「チッ!」
振り返る。
間に合わない。
その瞬間。
「どけぇ!!」
巨大な大剣が横から振り抜かれた。
教団員が慌てて剣を構える。
直後。
ガァン!!
「ぐっ!?」
受け止めた剣ごと、教団員の身体が吹き飛んだ。
地面を転がり、木へ激突する。
ロディスが目を見開いた。
大剣を肩へ担いだガレスが、その横へ立つ。
「援軍!」
ロディスはガレスを見る。
尖っていない耳。
「……人間?」
ガレスの眉が寄った。
「その反応もう今日何回目だよ!」
「何?」
「なんでもねぇ!」
周囲を教団員たちが囲む。
ガレスは大剣を構えた。
ロディスも両手を開く。
魔力。
今度は右手に長剣。
左手に小型の盾が作り出された。
ガレスがそれを見る。
「……お前、それ」
「なんだ?」
「武器作ってんの?」
「見れば分かるだろう」
「すげぇ!」
ガレスの目が輝く。
「便利だな、それ!」
ロディスが豪快に笑った。
「ガハハ! そうだろう!」
盾を軽く叩く。
「必要なら貸してやるぞ!」
「いや!」
ガレスが自分の大剣を肩へ担ぎ直す。
「俺には俺の相棒がいるからな!」
大剣の柄を軽く叩いた。
「浮気はできねぇよ!」
「武器に浮気も何もあるか!」
「あるんだよ!」
「面倒な人間だな!」
「お前に言われたくねぇ!」
教団員が二人へ突撃する。
ロディスが笑う。
「足を引っ張るなよ、人間!」
ガレスがロディスを見る。
「……ガレスだ!」
「何?」
「俺の名前!」
ガレスが大剣を振り上げる。
「人間人間うるせぇんだよ!」
敵の剣と大剣が激突。
力で押し切る。
教団員の体勢が大きく崩れた。
その瞬間。
ロディスの長剣と盾が消える。
両手へ二本の短剣。
「遅い!」
ガレスの横を抜ける。
一閃。
もう一人。
魔術師が魔法陣を展開している。
ロディスが片手を突き出した。
短剣が消える。
光。
長槍。
「ふんっ!」
投擲。
槍が一直線に飛び、魔術師の手元を弾いた。
ガレスが笑う。
「やっぱ便利すぎるだろ!」
「羨ましいか!」
「ちょっとだけ!」
「なら覚えろ!」
「俺、魔法無理!」
「なら諦めろ!」
「言われなくても!」
盾を構えた教団員が前へ出る。
ガレスが真正面から突っ込んだ。
「正面から行くのか!?」
「それが一番早い!」
「本当に馬鹿なのか貴様は!」
大剣。
盾へ叩き込む。
ドンッ!!
盾は壊れない。
だが。
敵の両腕が沈む。
「ロディス!」
「任せろ!」
ロディスの両手へ魔力が集まる。
錬成されたのは巨大な戦斧。
踏み込む。
「おおおっ!」
戦斧が盾へ叩き込まれた。
今度こそ。
盾が砕け散る。
「ガレス!」
「おう!」
大剣が敵を吹き飛ばした。
二人が背中合わせになる。
「左!」
「任せた!」
「右!」
「おう!」
「後ろ!」
「お前!」
「また私か!」
「頼りにしてる!」
「なら仕方ない!」
一人が崩せば。
もう一人が叩く。
ガレスは一本の大剣。
ロディスは槍、剣、斧、短剣。
戦い方はまるで違う。
それなのに。
妙に噛み合った。
やがて。
最後の教団員が地面へ倒れる。
静寂。
ガレスが大剣を肩へ担いだ。
「終わった?」
ロディスが周囲を見る。
手にしていた戦斧が光となって消える。
「そのようだ」
「よっしゃ」
ガレスがその場へ座ろうとする。
「座るな」
「なんで!?」
「まだ別の場所で戦っている!」
「一分!」
「駄目だ!」
「三十秒!」
「駄目だ!」
ガレスが頭を抱える。
「ダリオと同じこと言いやがる……」
「誰だそれは」
「俺の仲間」
ロディスが笑う。
「人間にしては悪くないな」
ガレスが顔を上げる。
「お前もエルフにしては悪くない」
「どういう意味だ!」
「お前が先に言ったんだろ!」
「私は褒めた!」
「俺も褒めた!」
二人の声が森へ響いた。
◇
魔法が空を埋め尽くしていた。
炎。
雷。
風。
無数の光が交差する。
その中心。
「防壁を維持して!」
淡い金髪を長く伸ばした女性エルフ。
セリス。
その周囲には、複数のエルフ魔術師が並んでいる。
正面。
教団側にも魔術師部隊。
「来るわ!」
一斉に魔法が放たれる。
エルフ側の防壁へ直撃。
爆発。
「くっ……!」
防壁に亀裂が走った。
その時。
「援護します!」
後方から声。
セリスが振り返る。
リナ。
その後ろには獣王国の騎士たち。
セリスの目が細くなる。
「……人間?」
「はい!」
リナは両手を軽く開く。
詠唱はない。
その周囲に、小さな魔法陣がいくつも展開された。
「エルグラン王国第1軍所属、リナです!」
「援軍なら聞いているわ」
「なら――」
「後ろへ」
リナが止まった。
「……はい?」
「ここは私たちで十分よ」
リナが前を見る。
敵。
そして。
亀裂の入った防壁。
「押されてますよね?」
セリスの眉が動いた。
「押されてないわ」
ドォン!!
巨大な魔法が防壁へ直撃。
亀裂が広がる。
リナがセリスを見る。
「押されてますよね!?」
「うるさいわね!」
「いや、どう見ても!」
「今のは想定内よ!」
「防壁割れかけてますけど!?」
敵側に再び魔法陣。
「来る!」
セリスが叫ぶ。
エルフ魔術師たちが防壁へ魔力を注ぐ。
一斉攻撃。
直撃。
亀裂。
その瞬間。
リナが右手を前へ突き出した。
詠唱はない。
一瞬で魔法陣が展開。
そこから伸びた魔力が、エルフたちの防壁へ流れ込んでいく。
亀裂が止まった。
「……?」
セリスが横を見る。
「何してるの!」
「助けてるんです!」
「私たちの術式に勝手に――」
「文句は後にしてください!」
リナが左手も上げる。
もう一つ。
魔法陣。
防壁の薄い箇所へ直接魔力を送り込む。
次の攻撃。
爆発。
それでも。
防壁は耐えた。
セリスが一瞬だけリナを見る。
「……今の」
「なんです?」
「別に」
「なんなんですか!」
セリスが前へ向き直る。
「反撃するわよ!」
セリスが片手を上げる。
周囲。
炎。
一つ。
二つ。
十。
二十。
数十の小さな炎が浮かび上がった。
リナの目が僅かに見開かれる。
「……すご」
セリスが腕を振る。
炎が一斉に飛んだ。
だが。
真っ直ぐではない。
曲がる。
交差する。
敵の迎撃魔法を避ける。
それぞれがまったく異なる軌道を描いていた。
炎が敵へ殺到する。
しかし。
巨大な複合結界。
全て弾かれる。
「チッ……」
セリスが舌打ちする。
「火力を上げる!」
炎が一点へ集まり始める。
「待って!」
リナ。
「今度は何!?」
「そこ撃っても無駄です!」
「何ですって?」
リナは敵の結界を見ていた。
右手の人差し指を僅かに動かす。
視線は。
魔力の流れを追っている。
「正面は何重にも補強されてます!」
「なら火力で破壊する!」
「だから!」
リナが指を差す。
「右下!」
セリスが見る。
「……?」
「魔力の流れが一瞬だけ途切れてる!」
「何を――」
セリスが目を凝らす。
複雑に絡み合う魔力。
その中。
ほんの一瞬。
僅かな揺らぎ。
セリスの表情が変わった。
「……あなた」
リナを見る。
「あれが見えるの?」
「見えるから言ってるんです!」
「……」
リナが少し笑う。
「当てられます?」
セリスの眉が動いた。
「誰に言っているの?」
周囲の炎が分裂する。
十。
二十。
五十。
「あなたこそ合わせなさい」
「なんであなたが指示するんですか!」
「私の方が強いからよ!」
「はぁ!?」
「来るわよ!」
「分かってます!」
二人が敵を見る。
リナは両手を開く。
その周囲に魔法陣。
一つ。
二つ。
三つ。
詠唱は一切ない。
「三……」
敵の結界を流れる魔力。
「二……」
変化。
「一……」
一瞬。
右下。
流れが途切れる。
リナが手を握った。
「今!!」
セリスが腕を振る。
無数の炎が飛ぶ。
一度散開。
そして。
空中で全ての炎が軌道を変えた。
一点。
リナが示した場所へ。
数十の炎が同時に突き刺さる。
パキン。
小さな音。
結界に亀裂。
「もう一発!」
「言われなくても!」
セリスが指を鳴らす。
散っていた炎が一ヶ所へ集まる。
圧縮。
巨大な火球。
「吹き飛びなさい!」
直撃。
ドォォン!!
結界が砕け散る。
「全員!」
セリスが叫ぶ。
「撃て!!」
エルフ魔術師たちの一斉砲撃。
防御を失った教団員へ降り注ぐ。
爆発。
煙。
やがて。
静かになる。
リナが両手を下ろした。
「……終わった」
セリスも魔法を解除する。
そして。
リナを見る。
「……まあまあね」
リナがセリスを見る。
「そっちこそ」
「私は最初から強いわ」
「やっぱり嫌いです!」
「奇遇ね。私もよ」
二人が同時にそっぽを向いた。
その時だった。
ドォォォォォン!!
大地が大きく揺れた。
「な、何!?」
リナが王都方向を見る。
巨大な樹木の向こう。
何かが立ち上がった。
「……え」
人型。
だが。
巨大。
建物を軽々と超える。
異様に長い両腕。
背中から突き出した無数の角。
身体中から漏れ出す、不自然な魔力。
異形が腕を振った。
ドォン!!
王都の建物が吹き飛ぶ。
「何……あれ」
セリスの表情からも余裕が消えた。
「教団が持ち込んだものね」
「魔物……?」
「そんな生易しいものに見える?」
王都の騎士たちが一斉に魔法を放つ。
炎。
雷。
氷。
光。
次々と直撃。
それでも。
異形は歩みを止めない。
王宮方面へ。
「王宮区画へ入れるな!」
エルフ騎士たちの声。
その時。
一人の老人が前へ出た。
白銀の長い髪。
深緑の法衣。
手には古びた杖。
周囲のエルフたちの表情が変わる。
「魔導師長!」
老人は答えない。
杖を。
静かに地面へ突き立てた。
セリスの顔が変わる。
「……下がって」
「え?」
「全員下がって!」
セリスが叫ぶ。
リナも後退する。
老人が目を閉じた。
魔力が広がる。
リナの表情が変わった。
「……なに、これ」
空気中の魔素が動いている。
森。
大地。
空。
王都。
あらゆる方向から老人へ向かって集まっていく。
老人が口を開いた。
「精霊の息吹満ちる、古き大地よ――」
「……詠唱?」
リナが呟いた。
セリスが老人を見る。
「ええ」
「でも、あの人……」
リナにも分かる。
桁違いの魔力制御。
あれほどの魔術師が。
詠唱を省略できないはずがない。
老人の声が響く。
「我らと共に生き」
大地が淡く光る。
「我らと共に歩みし」
木々から光が浮かび上がる。
「名も無き精霊たちよ――」
光が空へ昇る。
一本。
また一本。
数え切れないほどの光。
巨大な異形が老人へ向かって進む。
エルフ騎士たちが魔法を撃ち込み、足止めする。
老人は動かない。
「我が声を聞き」
空が光った。
「我が願いに応え」
雲の下。
巨大な魔法陣が展開する。
リナが空を見上げる。
「……嘘」
魔法陣から。
何かが姿を現す。
剣先。
白く輝く巨大な刃。
ゆっくりと。
空から降りてくる。
「あれ……剣?」
巨大な聖剣。
王都のどこからでも見えるほどの大きさ。
異形が空を見上げる。
咆哮。
老人が杖を掲げた。
「精霊よ――」
無数の光が聖剣へ吸い込まれる。
「我に力を!!」
魔法陣が眩く輝いた。
老人が杖を振り下ろす。
「――《天穿つ精霊の聖剣》!」
聖剣が落ちた。
ズドォォォォォォン!!
凄まじい衝撃。
大地が震える。
風が王都を駆け抜けた。
リナが腕で顔を覆う。
「っ……!」
異形が両腕で聖剣を受け止める。
だが。
止まらない。
巨大な刃が異形を押し下げる。
そのまま。
地面へ。
轟音。
光。
そして。
巨大な異形は。
聖剣によって大地へ縫い止められていた。
「……」
リナは言葉を失った。
やがて。
巨大な聖剣が光の粒となって消えていく。
異形は。
もう動かない。
リナがセリスを見る。
「……エルフって」
「何?」
「みんな、あんなの撃てるんですか?」
セリスが真顔で答える。
「撃てるわけないでしょう」
「ですよね!?」
「あの方は宮廷魔導師長よ」
リナがもう一度老人を見る。
「……すご」
素直に声が漏れた。
そして。
先ほどの疑問。
「でも」
「何?」
「あれだけの人なら、詠唱破棄できますよね?」
「当然よ」
「じゃあ、なんで……」
セリスは空を見る。
「詠唱破棄というのは」
少し間。
「詠唱が必要なくなるという意味ではないわ」
「……?」
「本来必要な工程を、自分の技量で省略しているだけ」
セリスが続ける。
「速さが必要なら、詠唱を捨てる」
「けれど」
先ほどまで聖剣があった空を見上げる。
「術の威力」
「精度」
「安定性」
「その全てを最大まで引き出すなら――」
リナが聞く。
セリスが静かに答えた。
「省けるものなんて何もないのよ」
リナは空を見上げる。
完全詠唱。
たった一つの魔法。
それだけで。
あれほどの異形が倒された。
「……エルフ、怖」
セリスの眉が上がる。
「褒め言葉として受け取っておくわ」
「褒めてます」
「ならいいわ」
ほんの僅か。
二人が笑った。
その直後。
遠くから再び戦闘音。
セリスが前を向く。
リナも両手を軽く開いた。
指先の周囲に魔力が集まる。
「行くわよ、人間」
「リナです!」
「知ってるわ」
「なら名前で呼んでください!」
二人は次の戦場へ走り出した。
◇
「正面十一」
ジグが言った。
隣。
銀髪のエルフが敵陣を見る。
「右奥六。左に魔術師四」
「先に魔術師を落とすべきです」
「同意する」
「右から回り込みます」
「なら我々は正面を引き付ける」
「お願いします」
ダリオが二人を見る。
「……お前ら知り合い?」
「違う」
二人同時。
「じゃあなんでそんな息合ってんだよ」
二人とも答えない。
「無視!?」
銀髪のエルフが剣を抜く。
「私はアルトだ」
「今!?」
「名乗っていなかった」
「ダリオ!」
「聞いていない」
「なんでだよ!」
ジグが前を見る。
「来ます」
教団員が突撃する。
アルトが片手を地面へ向けた。
魔法陣。
「――捕らえろ」
地面が隆起した。
巨大な根。
何本もの木の根が地面を突き破る。
教団員の足へ絡みつく。
「なっ!?」
一人。
二人。
三人。
動きが止まる。
アルトが剣を上げた。
「今だ!」
エルフ騎士たちの魔法。
一斉攻撃。
拘束された敵へ直撃する。
ダリオが口を開けた。
「……便利だな」
ジグが淡々と言う。
「戦場制御に向いていますね」
アルトがジグを見る。
「分かるか」
「はい」
「敵の進路を限定できる」
「その上、射線も作れます」
「そうだ」
ダリオが二人を見る。
「また始まったよ……」
その時。
「きゃっ!」
小さな声。
木の陰。
エルフの子供。
逃げ遅れている。
近くの教団員も気付いた。
「捕らえろ!」
ダリオが即座に走った。
「ダリオ!」
「子供がいる!」
教団員の剣を弾く。
子供を抱き上げる。
「大丈夫か!」
「う、うん……!」
「走れる?」
頷く。
「ならあっち!」
エルフ騎士たちを指す。
「絶対振り返んな!」
子供が走る。
だが。
ダリオの周囲。
教団員が集まる。
「……あ」
ダリオが周囲を見る。
「これまずいやつ?」
ジグが状況を見る。
数秒。
「……好都合です」
「何が!?」
アルトも理解する。
片手を地面へ。
「なるほど」
「お前まで納得すんな!」
ジグが叫ぶ。
「ダリオ、そのまま引き付けてください!」
「俺を囮にする気か!?」
「既になっています」
「言い方!」
アルトの魔力が地面へ流れ込む。
「三歩下がれ!」
「なんで!?」
「早く!」
ダリオが三歩下がる。
直後。
目の前。
無数の根が地面から飛び出した。
追ってきた教団員たちへ絡みつく。
「うおっ!?」
ダリオの目が見開かれる。
アルトが剣を上げる。
「ここが射線になる」
ジグが頷く。
「合理的です」
ダリオが二人を見る。
「またお前らだけ分かってんのかよ!」
「放て!」
一斉砲撃。
拘束された敵へ魔法が直撃する。
爆発。
煙。
やがて。
静かになる。
アルトがダリオへ近づく。
「無茶な男だ」
「誰のせいだよ!」
「最初に飛び出したのはお前だ」
「それは……」
ダリオが黙る。
アルトが保護された子供を見る。
そして。
「だが」
ダリオを見る。
「助かった」
ダリオが少しだけ目を見開いた。
「……おう」
ジグが前を見る。
「次へ行きます」
ダリオが振り返る。
「少しくらい休ませろ!」
「時間がありません」
「お前ザイン副団長に似てきてない!?」
「それは光栄です」
「褒めてねぇ!」
三人は次の戦場へ走り出した。
◇
剣が走る。
一人。
ザインが身体を回す。
二人目。
背後。
「ザイン!」
エリオンの声。
ザインが身体を屈める。
その頭上をエリオンの剣が通過。
背後の教団員を斬る。
「助かった!」
「前を見ろ!」
「見てる!」
ザインは地面を蹴る。
教団員が魔法を放つ。
横へ。
回避。
踏み込む。
柄を顎へ叩き込む。
敵が倒れる。
「次!」
ザインが走り出す。
「待て!」
エリオンも追う。
森を抜ける。
戦闘。
移動。
また戦闘。
それが何度も続いた。
エリオンが最後の一人を倒す。
「はぁ……」
息を吐く。
顔を上げる。
ザインは既に先へ歩いていた。
「……おい」
「ん?」
ザインが振り返る。
エリオンが呼吸を整える。
「貴様、疲れないのか?」
ザインが首を傾げる。
「疲れ?」
自分の身体を見る。
腕。
脚。
特に何も感じない。
「別に?」
「……」
「何?」
「貴様は獣王国でも戦ってきたのだろう?」
「ああ」
「そのまま転移してきた」
「そうだな」
「そして今も、ほぼ休まず戦っている」
「うん」
「……」
ザインが首を傾げる。
「だから何?」
エリオンはザインを見つめる。
「……化け物か、貴様は」
ザインが笑った。
「エルフに言われたくねぇな」
「我々も疲れる!」
「そうなの?」
「当たり前だ!」
「勝手に疲れないイメージあった」
「どんなイメージだ!」
「悪い悪い」
ザインが笑う。
その時。
表情が変わった。
「……待て」
エリオンも止まる。
「どうした」
ザインが前を見る。
森の向こう。
気配。
多い。
それも。
今までとは違う。
「いる」
ザインが低く言った。
二人はゆっくり進む。
木々を抜ける。
開けた場所。
ザインの目が細くなった。
二十人ほど。
黒装束。
だが。
これまでの教団員とは装備が違う。
統一された防具。
武器。
立ち位置にも隙がない。
中央。
一人だけ異なる服を着た男。
指揮官。
そして。
その後ろ。
「……ッ!」
エリオンの表情が変わった。
檻。
いくつも並んでいる。
中にはエルフたち。
女性。
子供。
負傷した騎士。
手を縛られている者もいる。
ザインから笑みが消えた。
「……あいつらか」
「捕虜……!」
エリオンが剣を握る。
教団員たちも二人へ気付いた。
一斉にこちらを見る。
中央の男が一歩前へ。
「これはこれは」
ザインを見る。
「獣王国からの援軍だけかと思いましたが」
視線がザインの耳へ。
「人間までいらっしゃいましたか」
ザインは剣を抜いた。
「悪いな」
一歩。
「予定外で」
男が小さく笑う。
「それで?」
両手を広げる。
「お二人で何をしに?」
ザインは答えない。
檻を見る。
怯えている子供。
怪我をしているエルフ。
そして。
男を見る。
「返してもらいに来た」
「……何を?」
ザインが剣を肩へ担いだ。
「決まってんだろ」
エリオンもザインの横へ並ぶ。
剣を抜く。
ザインは教団員たちを見渡した。
「そいつら全員」
一歩。
「返してもらうぞ」
ガレスとロディス。
リナとセリス。
ジグ、ダリオ、そしてアルト。
最初は距離のあった者たちも、共に戦う中で少しずつ互いを認め始めました。
そして、宮廷魔導師長が見せた完全詠唱による大魔法。
魔法に秀でたエルフ王国の本領も、ようやく見え始めています。
一方、ザインとエリオンの前には、捕らえられたエルフたちを連れた教団の精鋭部隊が。
次なる戦いが始まります。
次回もよろしくお願いします!




