↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
序章
PR
4/102

臆病な少年

第4話です。


 ザインとイリス、二人だけの同盟に新たな出会いが。


 今回も楽しんでいただけたら嬉しいです!

 試験開始から二日目。


 焼け焦げた森を抜け、ザインとイリスは再び深い森の中を歩いていた。聞こえるのは鳥のさえずりと、足元で落ち葉を踏む音だけだ。


 しばらく無言が続いたあと、イリスが耐えきれなくなったように口を開いた。


「……ちょっと」


「ん?」


「本当にこっちで合ってるんでしょうね?」


 ザインは前を向いたまま首を傾げる。


「知らないよ」


「……は?」


「地図にも載ってない場所だし」


 あっさりと返され、イリスのこめかみに青筋が浮かんだ。


「知らないのに歩いてるの?」


「うん」


「どういうことよ」


「進まなきゃ着かないだろ」


 あまりにも当然のように言われ、イリスは額へ手を当てる。


「本当に脳筋なんだから……」


「そう?」


「褒めてないわ」


「そっか」


 本人はまったく気にした様子もなく、歩き続けていく。イリスは深いため息をついた。


(この人と一緒にいると調子が狂うわ……)


 その時だった。


 ザインの足が止まる。


「……ん?」


 視線が右手の茂みへ向いた。草がわずかに揺れる。


 ザインは腰のナイフを抜いた。


「ちょっと、何──」


 言い終わる前に、ナイフは一直線に飛んだ。


「ひぃぃぃっ!!」


 ガサガサッ!


 茂みから一人の少年が転がり出る。年齢はザインたちより少し下だろうか。栗色の髪に、小柄な体格。腰を抜かしたまま震えている。ナイフは少年の服の袖を木へ縫い付けていた。


「あ、ああ……」


 少年は涙目になりながら何度も頷く。ザインは近寄り、ナイフを引き抜いた。


「ごめん」


「魔物かと思った」


「い、いえ……」


 少年は胸を押さえ、何度も深呼吸する。ようやく落ち着いたところで、ザインが首を傾げた。


「で」


「何してたの?」


 少年は視線を泳がせる。言うべきか迷っている様子だった。やがて諦めたように、小さく息を吐く。


「……怖かったんです」


「試験が始まってから、ずっと」


 イリスは眉をひそめる。


「怖い?」


「僕……」


 少年は自分の服をぎゅっと握った。


「貴族なんです」


 その言葉に、イリスが少しだけ反応する。


「……だった、が正しいですけど」


 少年は苦笑した。


「兄弟の中で、一番魔法の才能がなくて」


「家には必要ないって言われました」


「だから冒険者になろうと思って、この試験を受けたんです」


 一度言葉を切り、俯いたまま続けた。


「でも……」


「魔物を見て、人が戦っているのを見て」


「急に怖くなって」


「ここから動けなくなってしまいました」


 沈黙が落ちる。イリスは静かに口を開いた。


「それで?」


「試験が終わるまで隠れているつもりだったの?」


 少年は何も答えられず、ただ俯いている。


 その様子を見ていたザインが、ぽつりと言った。


「じゃあ」


「一緒に来る?」


 少年が顔を上げる。


「……え?」


「一人より三人の方が楽だし」


「でも、僕は……」


「戦えないんです」


 ザインは少し考えるように顎へ手を当てた。


「そうなんだ」


 それだけだった。


「……え?」


「戦えないなら、その時考えればいい」


「今は一人でいる方が危ないでしょ」


 少年は目を見開いた。そんな言葉を掛けられるとは、思ってもいなかった。


 イリスは呆れたようにザインを見る。


「そんな簡単に決めるの?」


「だめ?」


「……」


 反対したい。けれど、言い返す理由も見つからない。


「好きにすれば」


 そう言って肩をすくめた。


 少年は二人を何度も見比べる。


「本当に……」


「いいんですか?」


「うん」


「置いていく理由もないし」


 少年の目にうっすらと涙が浮かんだ。


「ありがとうございます……」


「僕、ノアっていいます」


「ザイン」


「イリス」


 二人も短く名乗る。


 ノアは大事そうに背負っていた鞄を下ろした。


「その……」


「もしご一緒させてもらえるなら」


「これ、役に立つかもしれません」


 中から一枚の地図を取り出す。細かな文字や印がびっしりと書き込まれていた。


 イリスが目を丸くする。


「これ……全部あなたが?」


「はい」


 ノアは照れくさそうに頷いた。


「隠れている間、周りを観察していました」


「西の方には渓流があります」


「向こうから水の音が聞こえたので」


 地図の一角を指差す。


「それと、北へ真っ直ぐ向かった受験者が七人」


「東へ向かったのは三人」


「途中で引き返した人が二人いました」


「あと、この辺りには大型の魔物の足跡も」


 ザインは地図を覗き込み、感心したように声を漏らした。


「へぇ」


「すごいね」


 ノアは一瞬固まる。


「え……」


「こんなに見てたんだ」


「助かるよ」


 その一言だけだった。けれどノアは、信じられないものを見るようにザインを見つめる。


 家では、一度も褒められたことがなかった。努力しても、勉強しても、魔法の才能がないというだけで価値はないと言われ続けてきた。


 だから。


「……ありがとうございます」


 その言葉は、少し震えていた。


 ザインは地図を返す。


「じゃあ」


「案内お願い」


「は、はい!」


 ノアは力強く頷いた。


 森の中を、三人が歩き始める。


 剣を振るう少年。炎を操る少女。そして、地図を抱えた臆病な少年。


 まだ誰も知らない。この出会いが、それぞれの運命を大きく変えていくことを。


第4話を読んでいただき、ありがとうございました!


 新たに登場したノア。


 戦うことを恐れ、試験開始早々に立ち止まってしまった彼ですが、どうやら何もできない少年というわけではなさそうです。


 ザイン、イリス、ノア。


 性格も得意なこともまったく違う三人が、ここからどう試験を進んでいくのか。


 次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!


 ブックマークや評価も、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。