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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
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39/60

選別

獣王国で相次ぐ行方不明事件。


イリスから届いた情報を頼りに、ザインたちは怪しい集団の目撃地点へと向かいます。


果たして、その先に待っているものとは。


第39話、よろしくお願いします!

獣王都を離れ、ザインたちは深い森の中を進んでいた。


整備された街道はとうに途切れている。


周囲にあるのは、どこまでも続く木々と岩肌だけ。


ザインは歩きながら、手元の地図へ目を落とした。


イリスから送られてきたものだ。


地図にはいくつかの印が付けられている。


そのほとんどが、王都から大きく離れた場所に集中していた。


「この辺りか」


ザインが呟く。


隣を歩いていたレグルスが地図を覗き込んだ。


「ああ。この先で間違いない」


「随分と何もねぇ場所だな」


「だからこそ、我々もほとんど警戒していなかった」


レグルスが周囲を見る。


「集落もない。街道もない。商人すら滅多に通らん」


ザインは地図を畳んだ。


「隠れる側からしたら最高だな」


「皮肉か?」


「感想」


後ろから小さく笑い声が聞こえた。


ザインが振り返る。


「ガレス」


「なんだ?」


「何笑ってんだ」


「別に?」


ガレスは笑ったまま肩を竦めた。


「副団長、こういう時ちょっと楽しそうだなって」


「よし。お前先頭」


「なんでだよ!」


ダリオが吹き出す。


「自業自得だろ」


「お前も笑ってただろ!」


「俺は笑ってない」


「嘘つけ!」


「静かにしろ」


ジグの一言で二人が黙った。


周囲を警戒していたジグがザインを見る。


「目撃地点が近いはずです」


「ああ」


ザインも表情を切り替えた。


「リナ」


「はい」


「周囲の反応は?」


リナが目を閉じる。


微弱な魔力が彼女を中心に広がっていく。


しばらくして、ゆっくりと目を開いた。


「大きな魔力反応はありません。小型の魔物が何体かいるくらいです」


「人は?」


「この辺り、少し魔素が濃いです。細かい反応までは……」


「分かった」


ザインは再び歩き出した。


しばらくして。


ザインが突然立ち止まった。


後ろを歩いていた全員も止まる。


「ここだ」


地図を開く。


怪しい集団が何度も目撃された地点。


その中心に近い。


だが。


何もない。


木。


岩。


草。


人がいた形跡すら見当たらない。


レグルスが周囲を見渡す。


「情報が古かったか?」


「かもな」


ザインはしゃがみ込んだ。


地面を見る。


落ち葉を退かす。


湿った土が現れる。


「……」


「何かあるのか?」


「逆」


ザインが立ち上がる。


「何もなさすぎる」


レグルスが眉を寄せた。


「どういう意味だ?」


「目撃情報は一回じゃないんだろ?」


「ああ」


「複数人が何度もこの辺りを歩いてる」


ザインは周囲を指す。


「なのに足跡もねぇ。折れた枝もねぇ。野営した跡もない」


「つまり」


ジグが言った。


「意図的に痕跡を消している」


ザインが頷く。


「多分な」


ガレスが周囲を見る。


「じゃあ、ここに何かあるってこと?」


「それを探す」


ザインは全員を見る。


「散れ。ただし遠くには行くな」


「何か見つけても勝手に触んなよ」


ガレスを見る。


「なんで俺見て言った?」


「一番触りそうだから」


「否定できねぇな」


「しろよ」


ダリオが呆れる。


部隊が散開した。


ザインはレグルスと共に周辺を調べていく。


ザインの視線は地面を這う。


土。


草。


木。


岩。


その時。


「副団長」


ジグの声。


ザインたちが向かう。


ジグは一本の木の前に立っていた。


「ここです」


木の幹に傷がある。


ザインが指でなぞった。


まだ新しい。


「魔物ではないのか?」


レグルスが尋ねる。


「違うな」


ザインは傷の高さを見る。


「何か運んだ時に擦ったんだろ」


その先を見る。


草が僅かに倒れている。


注意して見なければ分からない程度。


ザインが笑った。


「見つけた」


全員を呼び戻す。


そこから痕跡を追った。


折れた枝。


踏まれた草。


僅かに削れた土。


誰かが通った痕跡は確実に続いている。


だが。


途中で突然消えた。


「……ここまでだな」


レグルスが地面を見る。


ガレスが周囲を確認する。


「引き返した?」


「戻った跡がねぇ」


ダリオが上を見る。


「飛んだとか」


ザインがダリオを見る。


「何人もまとめて?」


「ないな」


「だろ」


リナが首を傾げる。


「転移魔法は?」


「だったら最初から転移すりゃいい」


「確かに」


ザインは周囲を見る。


人間が突然消えるはずがない。


なら。


この場所に何かある。


ザインはゆっくり歩いた。


木。


岩。


岩壁。


そこで止まる。


「リナ」


「はい?」


ザインが正面の岩壁を指した。


「あれ、調べられるか?」


「岩ですか?」


「ああ」


リナが岩壁へ近づく。


手を伸ばした。


魔力を流す。


直後。


「……え?」


リナの手が岩へ沈んだ。


レグルスが目を見開く。


「これは……」


「幻惑魔法です」


リナがさらに魔力を流す。


岩壁が水面のように揺れた。


そして。


消える。


その奥にあったのは。


暗い洞窟。


ガレスが小さく息を吐いた。


「マジかよ」


ザインは洞窟を見つめる。


「大当たりだな」


ダリオが剣へ手を掛けた。


「入るか?」


「待て」


ザインが止める。


「敵の数が分からねぇ」


「でも――」


「攫われた奴らが中にいる可能性が高い」


ザインの声が低くなる。


「俺たちが暴れたせいで人質にされたら終わりだ」


ダリオは剣から手を離した。


レグルスがザインを見る。


「どうする?」


「入口を監視する」


ザインは洞窟周辺へ視線を巡らせる。


「それと別の出入口を探す。これだけ隠してる奴らだ。逃げ道くらい作ってるだろ」


「ジグ、ガレス。向こう側を探せ」


「了解」


「ダリオ、リナはここ」


二人が頷く。


ザインはレグルスを見る。


「俺たちは反対側だ」


「分かった」


二人は洞窟を迂回する。


岩場を進みながら、レグルスが口を開いた。


「ザイン」


「ん?」


「行方不明者についてだ」


ザインが横を見る。


「町で集めた情報を覚えているか?」


「ああ」


行方不明になった獣人たち。


全員が完全に同じ条件ではない。


だが、共通点はあった。


若い者が多い。


健康。


大きな持病を抱えている者はほとんどいない。


そして。


「魔力量も平均以上の者が多かった」


レグルスが言う。


「偶然じゃねぇだろうな」


「やはりそう思うか」


ザインは歩き続ける。


「子供や年寄りがほとんどいない」


「病人もいない」


「金持ちばかりでもない」


ザインが指を一本立てる。


「つまり金目的じゃない」


二本目。


「特定の家柄でもない。恨みでもない」


三本目。


「なのに身体と魔力量には共通点がある」


レグルスの表情が険しくなる。


「選んでいるのか」


「ああ」


ザインが前を見る。


「攫う奴をな」


「何のために?」


「それを調べに来た」


その時だった。


ザインの右手が上がる。


レグルスは即座に口を閉じた。


声が聞こえる。


二人は岩陰へ身を隠す。


少し先。


岩壁の隙間から二人の男が現れた。


黒い外套。


ザインとレグルスが目を合わせる。


「今日の分は?」


男の一人が尋ねる。


「問題ない」


「選別は?」


「まだだ。奥でやってる」


ザインの目が細くなる。


「数が足りないんじゃなかったか?」


「だから追加を探してるんだろ」


「面倒だな」


「仕方ない。上からの命令だ」


二人が歩いていく。


「使えない個体は?」


「知らん」


「また処分か?」


「だから知らんって」


ザインの顔から表情が消えた。


男たちが十分に離れる。


ザインがレグルスへ二本指を見せた。


左右を指す。


レグルスが頷く。


次の瞬間。


ザインが飛び出した。


「――ッ!」


男が振り返るより早く、ザインが口を塞ぐ。


足を払う。


地面へ叩きつける。


もう一人もレグルスに腕を捻り上げられていた。


ザインは男の背中へ膝を置く。


「騒ぐな」


低い声。


「死にたくなけりゃな」


男が暴れる。


ザインが腕をさらに捻る。


「聞こえなかったか?」


動きが止まった。


ザインは外套を探る。


小さな金属製の装飾。


そこに刻まれた紋章。


ザインの目つきが変わった。


「……やっぱりお前らか」


レグルスが見る。


「知っているのか?」


「ああ」


ザインは紋章を男へ見せる。


「アストラ教団」


男の身体が僅かに強張った。


「正解みたいだな」


ザインは男を起こし、岩壁へ押し付ける。


「中に獣人がいるな?」


返事はない。


「何人いる?」


沈黙。


ザインは男を見る。


「質問を変える」


男の胸倉を掴む。


「何人攫った?」


男は答えない。


ただ。


笑った。


ザインの眉が僅かに動く。


「何がおかしい?」


「……遅かったな」


「何?」


男の口元が歪む。


「もう始まってる」


ザインの目が細くなる。


「何がだ」


男は答えない。


その瞬間。


ズン――。


地面が僅かに揺れた。


ザインが振り返る。


洞窟の方角。


そして。


空気中の魔素が動いた。


ザインには分かる。


僅かだが。


周囲の魔素が洞窟へ吸い寄せられている。


「……チッ」


ザインは男をレグルスへ押し付けた。


「戻るぞ」


二人が走る。


洞窟前へ戻ると、リナが岩壁へ手を当てていた。


顔色が変わっている。


「ザイン!」


「何があった?」


「中です!」


リナが洞窟を見る。


「急に大きな魔力反応が発生しました!」


ダリオが剣を抜く。


ザインは一瞬だけ考えた。


人質。


敵の数。


内部構造。


何も分からない。


だが。


――もう始まってる。


ザインも剣を抜いた。


「予定変更」


戻ってきたジグとガレスを見る。


「突入する」


レグルスが捕らえた男を木へ縛り付ける。


「人質は?」


「最優先」


ザインは暗い洞窟を見る。


「行くぞ」


全員が洞窟へ入った。


中は暗い。


リナが小さな光球を生み出す。


岩壁。


湿った地面。


一本道が奥へ続いている。


「足元気をつけろ」


ザインが先頭を歩く。


しばらく進むと。


匂いが変わった。


ザインが眉を寄せる。


「……」


レグルスも気付いたらしい。


「これは……」


ザインは何も言わない。


さらに進む。


やがて。


人工的に掘り広げられた空間へ出た。


岩壁には魔法灯。


机。


器具。


大量の紙。


檻。


そして。


「……なんだよ、これ」


ガレスの声から、いつもの軽さが消えた。


壁際に。


獣人たちがいた。


何人も。


手足を拘束されている。


ザインたちを見て目を見開く者。


怯えて身体を縮める者。


意識を失っている者。


「レグルス」


ザインが言った。


「ああ」


レグルスが前へ出ようとした。


その時。


ドンッ!!


奥の扉が吹き飛んだ。


「――!」


全員が武器を構える。


何かが。


ゆっくりと出てくる。


最初。


ザインにはそれが何なのか分からなかった。


大きい。


ザインより遥かに。


不自然に膨れ上がった身体。


歪んだ四肢。


身体の一部には獣人だった頃の毛が残っている。


だが。


もう獣人とは呼べない。


顔の形すら変わっている。


口元も大きく変形し、言葉を発するための形を残していなかった。


「……魔物?」


リナが呟く。


違う。


ザインには分かった。


以前にも見た。


洞窟。


教団。


人間を材料に作られた魔物。


だが。


あの時とは。


何もかも違う。


目の前のそれから感じる圧力。


魔力量。


肉体。


比較にならない。


レグルスが息を呑む。


「まさか……」


ザインは怪物の身体を見る。


片方の耳。


先端が欠けている。


その特徴。


聞いたことがあった。


町で。


行方不明になった兄を探していた獣人の女性。


――兄は右耳の先が少し欠けています。


ザインの目が止まる。


「……お前」


怪物がザインを見る。


次の瞬間。


地面が砕けた。


「ッ!」


ザインが剣を構える。


速い。


巨体からは想像できない速度。


振り抜かれた腕をザインが剣で受ける。


轟音。


「ぐっ……!」


ザインの身体が後方へ吹き飛んだ。


岩壁へ叩きつけられる。


「ザイン!」


レグルスが叫ぶ。


「来るな!」


ザインが即座に制止した。


瓦礫を払いながら立ち上がる。


腕が痺れている。


「……マジか」


怪物が低い音を漏らす。


言葉ではない。


唸り声とも違う。


喉そのものが正常な機能を失っている。


ザインは剣を握り直した。


強い。


以前の実験体とは比べ物にならない。


そして。


奥を見る。


拘束された獣人たち。


まだ生きている。


「ジグ」


ザインが怪物から目を離さず言った。


「はい」


「全員連れて奥へ行け」


ジグが一瞬だけ止まる。


「しかし」


「まだ助けられる奴がいる」


ザインは怪物を見る。


「そっちを助けろ」


レグルスが剣を握る。


「ザイン」


「お前も行け」


「これは我が国の民だ」


「だからだよ」


ザインが答える。


怪物が身体を震わせる。


「こいつは俺がやる」


「お前は――」


ザインが僅かに振り返る。


「まだ助けられる奴のところに行ってやれ」


レグルスが黙った。


ザインは再び怪物を見る。


「ジグ」


「……了解」


「ガレス、ダリオ、リナも行け」


ガレスがザインを見る。


「死ぬなよ、副団長」


ザインが鼻で笑った。


「誰に言ってんだ」


ジグたちは走り出す。


レグルスも一度だけ怪物を見ると、捕らわれた獣人たちのもとへ向かった。


残ったのは。


ザイン。


そして。


かつて獣人だったもの。


怪物がザインへ向き直る。


ザインは静かに剣を構えた。


「……悪いな」


誰に言ったのか。


自分でも分からない。


怪物が地面を蹴る。


ザインも踏み込んだ。


洞窟の中で。


二つの影が激突した。

ついに辿り着いたアストラ教団の拠点。


そこでザインたちが目にしたのは、かつて獣人だった「何か」でした。


まだ助けられる者たちを仲間に託し、ザインは一人その場に残ります。


次回、ザインVS実験失敗個体。


引き続きよろしくお願いします!

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