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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
イリス奪還編
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36/102

凄み

ここまで続いてきた第一軍直属部隊とアストラ教団の戦いも、ついに決着です。


それぞれが自分の戦い方で強敵に立ち向かい、最後まで諦めずに勝利を掴みました。


そして今回は、戦闘の決着だけではありません。


ザインが獣王国で出会った、ある獣人騎士も登場します。


新たな仲間を迎え、物語は次の段階へ。


それでは、第36話「凄み」をお楽しみください。



森に、乾いた風が吹いていた。


四つの戦場。


四人の直属部隊。


そして、四人の敵。


どの戦場も、すでに最初の頃とは空気が違っていた。


能力は見えた。


ならば――。


あとは、それをどう破るか。


「来いよ……!」


グランが拳を握る。


全身を覆っていた鋼のような皮膚が、再び硬質化していく。


ガレスはそれを見て、ゆっくりと大剣を構えた。


「また硬くするのか。」


「そうだ。」


グランが笑う。


「これで終わりだ。」


「そうか。」


ガレスも笑った。


「なら、こっちも終わらせる。」


踏み込む。


大剣が振り下ろされる。


ギィィン!!


グランの肩に刃が当たる。


弾かれる。


だが――。


ガレスは止まらない。


二撃。


三撃。


四撃。


同じ場所を狙う。


グランの表情が歪む。


「しつけぇぞ!」


拳が飛ぶ。


避ける。


大剣を捨てた。


「……何?」


グランの目が見開かれる。


両手を握りしめる。


「斬れねぇんだろ?」


「だったら。」


一歩。


「拳で行かせてもらうわ。」


ガレスの拳が、グランの腹へ叩き込まれた。


ドゴォン!!


グランの身体が僅かに揺れる。


「ぐっ……!」


拳にも衝撃が返る。


痛い。


軋む。


それでも。


「もう一発。」


二発目。


三発目。


止まらない。


グランの硬質化は強い。


だが、連続使用によって密度は確実に落ちている。


皮膚が硬い。


ならば。


その内側へ衝撃を通す。


「おおおおおおッ!!」


最後の一撃。


グランの身体が大きく吹き飛んだ。


地面を転がり、木へ激突する。


静寂。


荒く息を吐く。


「……勝った、か。」


拳を見下ろす。


震えている。


それでも。


ガレスは笑った。


「痛ぇ……。」


「けど。」


「悪くねぇな。」


◇


「来いッ!!」


ボルグが叫ぶ。


その身体には、これまで受けた攻撃の衝撃が蓄積されていた。


「これで終わりだ!」


拳を握る。


周囲の空気が震える。


ダリオは構えた。


「全部溜め込んだな。」


「ああ。」


ボルグが笑う。


「これを食らえば立っていられねぇぞ!」


拳が振り抜かれる。


避けなかった。


真正面から受ける。


ドォォン!!


身体が吹き飛ぶ。


地面を転がる。


だが。


「……立つか。」


ボルグが呟く。


立ち上がる。


「言っただろ。」


拳を握る。


「全部吐かせるって。」


「馬鹿が!」


再び突っ込む。


ダリオは拳を構え――。


振らない。


代わりに。


足を踏み込んだ。


ドンッ!!


地面が震える。


ボルグの足元が崩れた。


「なっ!?」


身体が僅かに浮く。


その一瞬。


懐へ入った。


「お前の能力は。」


拳を引く。


「受けた衝撃を返す。」


ボルグの目が見開かれる。


「だったらよ。」


ダリオが笑う。


「返せねぇところから殴ればいい。」


拳が叩き込まれる。


ドゴォォン!!


ボルグの身体が吹き飛ぶ。


木々をなぎ倒しながら地面へ転がった。


拳を下ろす。


「……終わったな。」


そして。


「ハハッ。」


笑った。


◇


ジードは焦っていた。


周囲には無数の残像。


だが。


シグはもう、それを見ていない。


「どこを見ている!」


ジードが叫ぶ。


目を閉じた。


風。


葉。


土。


呼吸。


そして。


一つだけ違う音。


「……そこだ。」


動いた。


残像の間を抜ける。


背後。


ジードが短剣を振る。


振り返らない。


身体を僅かに傾ける。


刃が頬を掠める。


そのまま。


短剣が後ろへ走った。


キィン!


ジードの武器が弾かれる。


「な……!」


振り返る。


「お前は一人だ。」


ジードの瞳が揺れる。


「残像が何人いようと。」


一歩。


「本体は一人。」


さらに一歩。


「だったら。」


短剣を構える。


「見る必要なんてない。」


次の瞬間。


シグの姿が消えた。


「――ッ!」


ジードが振り返る。


遅い。


一閃。


ジードが膝をつく。


残像がすべて消えた。


短剣を納める。


「終わりだ。」


◇


「……もう逃げないの?」


エルマが笑う。


周囲には無数の魔力糸。


触れれば切れる。


避ければ追ってくる。


リナはその中央に立っていた。


「逃げる必要がないもの。」


「強がりね。」


エルマが指を動かす。


魔力糸が一斉に動く。


リナへ迫る。


その瞬間。


一歩前へ出た。


「なっ!?」


糸が腕へ触れる。


あえて避けなかった。


「何をしてるの!?」


「捕まえた。」


魔力が走る。


自分の身体へ触れている糸。


そこから逆に魔力を流し込む。


エルマの表情が変わった。


「私の糸に……!」


「そう。」


リナが笑う。


「あなたの魔力を辿ってる。」


エルマが慌てて糸を切ろうとする。


だが。


遅い。


魔力が糸を伝ってエルマへ届く。


「――捕まえた。」


炎が弾ける。


エルマの周囲を炎が包み込む。


「こんな……!」


魔力糸が一斉に崩れた。


エルマが膝をつく。


肩で息をしながら立っていた。


「……私だって。」


「考えて戦えるのよ。」


◇


四つの戦場。


静寂が戻ってくる。


ガレス。


ダリオ。


シグ。


リナ。


全員が立っていた。


傷はある。


疲労もある。


だが。


誰一人として倒れてはいない。


「……終わったか。」


ガレスが呟く。


ダリオが笑う。


「俺たち、結構やるじゃねぇか。」


「まだまだ。」


シグが淡々と答える。


リナは息を整えながら苦笑した。


「もう少しで死ぬところだったけどね。」


「死んでねぇなら勝ちだ。」


ガレスが笑う。


その時だった。


倒れていたグランが、ゆっくりと立ち上がった。


「……フ。」


「?」


四人が振り返る。


グランは笑っていた。


「お前ら。」


「強いな。」


ダリオが眉をひそめる。


「まだやる気か?」


「いや。」


グランは首を横に振った。


「俺たちじゃ、お前らには勝てねぇ。」


そして。


胸元に手を当てる。


黒い紋章。


そこから魔力が漏れ始めた。


シグの表情が変わる。


「……何かする。」


「全員、離れて!」


リナが叫ぶ。


ボルグも。


ジードも。


エルマも。


同じように紋章へ手を当てた。


「待て!」


ガレスが叫ぶ。


「何をする気だ!」


グランが笑う。


「俺たちは。」


「まだひよっこだ。」


「……何?」


グランの目が細くなる。


「本当のアストラ教団は。」


「こんなもんじゃねぇ。」


四人の紋章が強く輝く。


そして。


「アストラ教団――。」


「万歳!!」


魔力が弾けた。


――ドォォォォン!!


森を白い光が包み込む。


ガレスたちは咄嗟に身を伏せる。


爆風が木々を薙ぎ倒す。


しばらくして。


静寂。


煙がゆっくりと晴れていく。


「……ったく。」


聞き慣れた声。


ガレスが顔を上げる。


「……副団長?」


ザインが立っていた。


その隣には。


見慣れない人物がいる。


獣の耳。


鋭い瞳。


そして人間とは明らかに異なる風貌。


だが、その獣人は険しい顔をするでもなく。


むしろ柔らかな笑みを浮かべていた。


「全員、生きてるな。」


「はい。」


ガレスが立ち上がる。


四人を見回す。


「……無茶しやがって。」


「副団長。」


ダリオが笑う。


「遅いですよ。」


眉をひそめる。


「お前らが勝手に残ったんだろ。」


「まぁまぁ。」


ダリオが笑う。


「結果オーライってことで。」


呆れたように息を吐いた。


そして。


隣に立つ獣人へ視線を向ける。


「紹介する。」


獣人が一歩前へ出た。


「初めまして。」


穏やかな声だった。


「俺はレグルス。」


「獣王国騎士団に所属している。」


四人が顔を見合わせる。


レグルスは笑顔を崩さない。


「獣王陛下の許可を得て、皆さんの調査に同行させてもらうことになりました。」


「正式なご挨拶は、これから伺う予定です。」


ガレスが少し驚いたように尋ねる。


「……人間と一緒に行動することに抵抗はないんですか?」


レグルスは少し考えてから答えた。


「俺自身は、特にありません。」


「……珍しいな。」


シグが呟く。


レグルスは苦笑した。


「よく言われます。」


「獣王国では、人間を快く思っていない者の方が多いですから。」


補足する。


「獣王も同じだ。」


「俺たちを歓迎してるわけじゃねぇ。」


「ただ、今回の件では協力する価値があると判断した。」


レグルスは頷く。


「獣王陛下は人間を好まれてはいません。」


「ですが。」


四人を見る。


「それと、目の前にいる人間をどう見るかは別の話だと俺は思っています。」


その言葉に。


ガレスが笑った。


「いい奴じゃねぇか。」


「ありがとうございます。」


レグルスも笑う。


ダリオが肩を叩く。


「じゃあ、これからよろしくな。」


レグルスは少し驚きながらも。


「ああ。」


と笑った。


「こちらこそ。」


その時。


「――待ってください!」


森の奥から、息を切らした声。


全員が振り返る。


木々の間を抜けて、ミレイアが駆けてくるところだった。


「ミレイア?」


ガレスが目を丸くする。


「なんでここに。」


「伝令を出し終えたので、急いで追いかけてきました。」


ミレイアは息を整えながら、倒れている黒衣の男たちと、焼け跡になった周囲を見回す。


「……間に合いませんでしたね。」


「間に合わなくて正解だ。」


ダリオが笑う。


「お前が来てたら、また誰か治す羽目になってたぞ。」


「それが仕事です。」


ミレイアは涼しい顔で言い返した。


ザインがミレイアを見る。


「連絡、片付いたか。」


「はい。」


「後方への報告と、追加物資の要請は済ませてあります。」


「助かる。」


ザインは頷くと、レグルスへ視線を戻した。


「紹介する。」


「彼女もうちの直属だ。」


「ミレイア。」


「回復役をやってる。」


ミレイアが一礼する。


「よろしくお願いします。」


レグルスも礼を返した。


「こちらこそ。」


「回復術師がいるのは、正直ありがたいです。」


「頼りにしてください。」


ミレイアが小さく笑った。


「獣王国へ続く道を見る。」


「行くぞ。」


「まだ調査は始まったばかりだ。」


五人が立ち上がる。


その後ろを。


獣人騎士レグルスが歩き始めた。


ラウゼン王国を出発してから始まった今回の旅。


アストラ教団との接触。


そして。


新たな仲間との出会い。


ザインたちの旅は。


次なる舞台へと進んでいく。

第一軍直属部隊とアストラ教団の戦い、いかがでしたでしょうか。


今回は四人それぞれの戦い方を意識して描いてみました。


力で押し切る者。


相手の能力を利用する者。


静かに隙を突く者。


そして、魔法と知略で戦う者。


全員が違った形で勝利を掴みました。


そして最後には、獣王国から新たな仲間も加わりました。


次回からは舞台を獣王国へ移し、魔人についての調査が始まります。


獣王国の人々はザインたちをどう迎えるのか。


そして、アストラ教団が追う「魔人」とは何なのか。


ここからまた新しい物語が始まります。


次回もお楽しみに!


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