凄み
ここまで続いてきた第一軍直属部隊とアストラ教団の戦いも、ついに決着です。
それぞれが自分の戦い方で強敵に立ち向かい、最後まで諦めずに勝利を掴みました。
そして今回は、戦闘の決着だけではありません。
ザインが獣王国で出会った、ある獣人騎士も登場します。
新たな仲間を迎え、物語は次の段階へ。
それでは、第36話「凄み」をお楽しみください。
森に、乾いた風が吹いていた。
四つの戦場。
四人の直属部隊。
そして、四人の敵。
どの戦場も、すでに最初の頃とは空気が違っていた。
能力は見えた。
ならば――。
あとは、それをどう破るか。
「来いよ……!」
グランが拳を握る。
全身を覆っていた鋼のような皮膚が、再び硬質化していく。
ガレスはそれを見て、ゆっくりと大剣を構えた。
「また硬くするのか。」
「そうだ。」
グランが笑う。
「これで終わりだ。」
「そうか。」
ガレスも笑った。
「なら、こっちも終わらせる。」
踏み込む。
大剣が振り下ろされる。
**ギィィン!!**
グランの肩に刃が当たる。
弾かれる。
だが――。
ガレスは止まらない。
二撃。
三撃。
四撃。
同じ場所を狙う。
グランの表情が歪む。
「しつけぇぞ!」
拳が飛ぶ。
ガレスは避ける。
大剣を捨てた。
「……何?」
グランの目が見開かれる。
ガレスは両手を握りしめる。
「斬れねぇんだろ?」
「だったら。」
一歩。
「拳で行かせてもらうわ。」
ガレスの拳が、グランの腹へ叩き込まれた。
**ドゴォン!!**
グランの身体が僅かに揺れる。
「ぐっ……!」
ガレスの拳にも衝撃が返る。
痛い。
拳が軋む。
それでも。
「もう一発。」
二発目。
三発目。
ガレスは拳を止めない。
グランの硬質化は強い。
だが、連続使用によって密度は確実に落ちている。
皮膚が硬い。
ならば。
その内側へ衝撃を通す。
「おおおおおおッ!!」
最後の一撃。
グランの身体が大きく吹き飛んだ。
地面を転がり、木へ激突する。
静寂。
ガレスは荒く息を吐いた。
「……勝った、か。」
拳を見下ろす。
震えている。
それでも。
ガレスは笑った。
「痛ぇ……。」
「けど。」
「悪くねぇな。」
---
「来いッ!!」
ボルグが叫ぶ。
その身体には、これまで受けた攻撃の衝撃が蓄積されていた。
「これで終わりだ!」
拳を握る。
周囲の空気が震える。
ダリオは構えた。
「全部溜め込んだな。」
「ああ。」
ボルグが笑う。
「これを食らえば立っていられねぇぞ!」
拳が振り抜かれる。
ダリオは避けなかった。
真正面から受ける。
**ドォォン!!**
身体が吹き飛ぶ。
地面を転がる。
だが。
「……立つか。」
ボルグが呟く。
ダリオが立ち上がる。
「言っただろ。」
拳を握る。
「全部吐かせるって。」
「馬鹿が!」
ボルグが再び突っ込む。
ダリオは拳を構え――。
振らない。
代わりに。
足を踏み込んだ。
**ドンッ!!**
地面が震える。
ボルグの足元が崩れた。
「なっ!?」
身体が僅かに浮く。
その一瞬。
ダリオが懐へ入った。
「お前の能力は。」
拳を引く。
「受けた衝撃を返す。」
ボルグの目が見開かれる。
「だったらよ。」
ダリオが笑う。
「返せねぇところから殴ればいい。」
拳が叩き込まれる。
**ドゴォォン!!**
ボルグの身体が吹き飛ぶ。
木々をなぎ倒しながら地面へ転がった。
ダリオは拳を下ろした。
「……終わったな。」
そして。
「ハハッ。」
笑った。
---
ジードは焦っていた。
周囲には無数の残像。
だが。
シグはもう、それを見ていない。
「どこを見ている!」
ジードが叫ぶ。
シグは目を閉じた。
風。
葉。
土。
呼吸。
そして。
一つだけ違う音。
「……そこだ。」
シグが動いた。
残像の間を抜ける。
背後。
ジードが短剣を振る。
シグは振り返らない。
身体を僅かに傾ける。
刃が頬を掠める。
そのまま。
シグの短剣が後ろへ走った。
**キィン!**
ジードの武器が弾かれる。
「な……!」
シグが振り返る。
「お前は一人だ。」
ジードの瞳が揺れる。
「残像が何人いようと。」
一歩。
「本体は一人。」
さらに一歩。
「だったら。」
短剣を構える。
「見る必要なんてない。」
次の瞬間。
シグの姿が消えた。
「――ッ!」
ジードが振り返る。
遅い。
一閃。
ジードが膝をつく。
残像がすべて消えた。
シグは短剣を納める。
「終わりだ。」
---
「……もう逃げないの?」
エルマが笑う。
周囲には無数の魔力糸。
触れれば切れる。
避ければ追ってくる。
リナはその中央に立っていた。
「逃げる必要がないもの。」
「強がりね。」
エルマが指を動かす。
魔力糸が一斉に動く。
リナへ迫る。
その瞬間。
リナは一歩前へ出た。
「なっ!?」
糸が腕へ触れる。
リナはあえて避けなかった。
「何をしてるの!?」
「捕まえた。」
リナの魔力が走る。
自分の身体へ触れている糸。
そこから逆に魔力を流し込む。
エルマの表情が変わった。
「私の糸に……!」
「そう。」
リナが笑う。
「あなたの魔力を辿ってる。」
エルマが慌てて糸を切ろうとする。
だが。
遅い。
リナの魔力が糸を伝ってエルマへ届く。
「――捕まえた。」
炎が弾ける。
エルマの周囲を炎が包み込む。
「こんな……!」
魔力糸が一斉に崩れた。
エルマが膝をつく。
リナは肩で息をしながら立っていた。
「……私だって。」
「考えて戦えるのよ。」
---
四つの戦場。
静寂が戻ってくる。
ガレス。
ダリオ。
シグ。
リナ。
全員が立っていた。
傷はある。
疲労もある。
だが。
誰一人として倒れてはいない。
「……終わったか。」
ガレスが呟く。
ダリオが笑う。
「俺たち、結構やるじゃねぇか。」
「まだまだ。」
シグが淡々と答える。
リナは息を整えながら苦笑した。
「もう少しで死ぬところだったけどね。」
「死んでねぇなら勝ちだ。」
ガレスが笑う。
その時だった。
倒れていたグランが、ゆっくりと立ち上がった。
「……フ。」
「?」
四人が振り返る。
グランは笑っていた。
「お前ら。」
「強いな。」
ダリオが眉をひそめる。
「まだやる気か?」
「いや。」
グランは首を横に振った。
「俺たちじゃ、お前らには勝てねぇ。」
そして。
胸元に手を当てる。
黒い紋章。
そこから魔力が漏れ始めた。
シグの表情が変わる。
「……何かする。」
「全員、離れて!」
リナが叫ぶ。
ボルグも。
ジードも。
エルマも。
同じように紋章へ手を当てた。
「待て!」
ガレスが叫ぶ。
「何をする気だ!」
グランが笑う。
「俺たちは。」
「まだひよっこだ。」
「……何?」
グランの目が細くなる。
「本当のアストラ教団は。」
「こんなもんじゃねぇ。」
四人の紋章が強く輝く。
そして。
「アストラ教団――。」
「万歳!!」
魔力が弾けた。
**――ドォォォォン!!**
森を白い光が包み込む。
ガレスたちは咄嗟に身を伏せる。
爆風が木々を薙ぎ倒す。
しばらくして。
静寂。
煙がゆっくりと晴れていく。
「……ったく。」
聞き慣れた声。
ガレスが顔を上げる。
「……副団長?」
ザインが立っていた。
その隣には。
見慣れない人物がいる。
獣の耳。
鋭い瞳。
そして人間とは明らかに異なる風貌。
だが、その獣人は険しい顔をするでもなく。
むしろ柔らかな笑みを浮かべていた。
ザインが口を開く。
「全員、生きてるな。」
「はい。」
ガレスが立ち上がる。
ザインは四人を見回した。
「……無茶しやがって。」
「副団長。」
ダリオが笑う。
「遅いですよ。」
ザインは眉をひそめる。
「お前らが勝手に残ったんだろ。」
「まぁまぁ。」
ダリオが笑う。
「結果オーライってことで。」
ザインは呆れたように息を吐いた。
そして。
隣に立つ獣人へ視線を向ける。
「紹介する。」
獣人が一歩前へ出た。
「初めまして。」
穏やかな声だった。
「俺はレグルス。」
「獣王国騎士団に所属している。」
四人が顔を見合わせる。
レグルスは笑顔を崩さない。
「今回は獣王陛下の命を受け、皆さんの調査に同行することになりました。」
ガレスが少し驚いたように尋ねる。
「……人間と一緒に行動することに抵抗はないんですか?」
レグルスは少し考えてから答えた。
「俺自身は、特にありません。」
「……珍しいな。」
シグが呟く。
レグルスは苦笑した。
「よく言われます。」
「獣王国では、人間を快く思っていない者の方が多いですから。」
ザインが補足する。
「獣王も同じだ。」
「俺たちを歓迎してるわけじゃねぇ。」
「ただ、今回の件では協力する価値があると判断した。」
レグルスは頷く。
「獣王陛下は人間を好まれてはいません。」
「ですが。」
四人を見る。
「それと、目の前にいる人間をどう見るかは別の話だと俺は思っています。」
その言葉に。
ガレスが笑った。
「いい奴じゃねぇか。」
「ありがとうございます。」
レグルスも笑う。
ダリオが肩を叩く。
「じゃあ、これからよろしくな。」
レグルスは少し驚きながらも。
「ああ。」
と笑った。
「こちらこそ。」
ザインは獣王国へ続く道を見る。
「行くぞ。」
「まだ調査は始まったばかりだ。」
四人が立ち上がる。
その後ろを。
獣人騎士レグルスが歩き始めた。
ラウゼン王国を出発してから始まった今回の旅。
アストラ教団との接触。
そして。
新たな仲間との出会い。
ザインたちの旅は。
次なる舞台へと進んでいく。
第一軍直属部隊とアストラ教団の戦い、いかがでしたでしょうか。
今回は四人それぞれの戦い方を意識して描いてみました。
力で押し切る者。
相手の能力を利用する者。
静かに隙を突く者。
そして、魔法と知略で戦う者。
全員が違った形で勝利を掴みました。
そして最後には、獣王国から新たな仲間も加わりました。
次回からは舞台を獣王国へ移し、魔人についての調査が始まります。
獣王国の人々はザインたちをどう迎えるのか。
そして、アストラ教団が追う「魔人」とは何なのか。
ここからまた新しい物語が始まります。
次回もお楽しみに!




