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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
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36/64

凄み

ここまで続いてきた第一軍直属部隊とアストラ教団の戦いも、ついに決着です。


それぞれが自分の戦い方で強敵に立ち向かい、最後まで諦めずに勝利を掴みました。


そして今回は、戦闘の決着だけではありません。


ザインが獣王国で出会った、ある獣人騎士も登場します。


新たな仲間を迎え、物語は次の段階へ。


それでは、第36話「凄み」をお楽しみください。



森に、乾いた風が吹いていた。


四つの戦場。


四人の直属部隊。


そして、四人の敵。


どの戦場も、すでに最初の頃とは空気が違っていた。


能力は見えた。


ならば――。


あとは、それをどう破るか。


「来いよ……!」


グランが拳を握る。


全身を覆っていた鋼のような皮膚が、再び硬質化していく。


ガレスはそれを見て、ゆっくりと大剣を構えた。


「また硬くするのか。」


「そうだ。」


グランが笑う。


「これで終わりだ。」


「そうか。」


ガレスも笑った。


「なら、こっちも終わらせる。」


踏み込む。


大剣が振り下ろされる。


**ギィィン!!**


グランの肩に刃が当たる。


弾かれる。


だが――。


ガレスは止まらない。


二撃。


三撃。


四撃。


同じ場所を狙う。


グランの表情が歪む。


「しつけぇぞ!」


拳が飛ぶ。


ガレスは避ける。


大剣を捨てた。


「……何?」


グランの目が見開かれる。


ガレスは両手を握りしめる。


「斬れねぇんだろ?」


「だったら。」


一歩。


「拳で行かせてもらうわ。」


ガレスの拳が、グランの腹へ叩き込まれた。


**ドゴォン!!**


グランの身体が僅かに揺れる。


「ぐっ……!」


ガレスの拳にも衝撃が返る。


痛い。


拳が軋む。


それでも。


「もう一発。」


二発目。


三発目。


ガレスは拳を止めない。


グランの硬質化は強い。


だが、連続使用によって密度は確実に落ちている。


皮膚が硬い。


ならば。


その内側へ衝撃を通す。


「おおおおおおッ!!」


最後の一撃。


グランの身体が大きく吹き飛んだ。


地面を転がり、木へ激突する。


静寂。


ガレスは荒く息を吐いた。


「……勝った、か。」


拳を見下ろす。


震えている。


それでも。


ガレスは笑った。


「痛ぇ……。」


「けど。」


「悪くねぇな。」


---


「来いッ!!」


ボルグが叫ぶ。


その身体には、これまで受けた攻撃の衝撃が蓄積されていた。


「これで終わりだ!」


拳を握る。


周囲の空気が震える。


ダリオは構えた。


「全部溜め込んだな。」


「ああ。」


ボルグが笑う。


「これを食らえば立っていられねぇぞ!」


拳が振り抜かれる。


ダリオは避けなかった。


真正面から受ける。


**ドォォン!!**


身体が吹き飛ぶ。


地面を転がる。


だが。


「……立つか。」


ボルグが呟く。


ダリオが立ち上がる。


「言っただろ。」


拳を握る。


「全部吐かせるって。」


「馬鹿が!」


ボルグが再び突っ込む。


ダリオは拳を構え――。


振らない。


代わりに。


足を踏み込んだ。


**ドンッ!!**


地面が震える。


ボルグの足元が崩れた。


「なっ!?」


身体が僅かに浮く。


その一瞬。


ダリオが懐へ入った。


「お前の能力は。」


拳を引く。


「受けた衝撃を返す。」


ボルグの目が見開かれる。


「だったらよ。」


ダリオが笑う。


「返せねぇところから殴ればいい。」


拳が叩き込まれる。


**ドゴォォン!!**


ボルグの身体が吹き飛ぶ。


木々をなぎ倒しながら地面へ転がった。


ダリオは拳を下ろした。


「……終わったな。」


そして。


「ハハッ。」


笑った。


---


ジードは焦っていた。


周囲には無数の残像。


だが。


シグはもう、それを見ていない。


「どこを見ている!」


ジードが叫ぶ。


シグは目を閉じた。


風。


葉。


土。


呼吸。


そして。


一つだけ違う音。


「……そこだ。」


シグが動いた。


残像の間を抜ける。


背後。


ジードが短剣を振る。


シグは振り返らない。


身体を僅かに傾ける。


刃が頬を掠める。


そのまま。


シグの短剣が後ろへ走った。


**キィン!**


ジードの武器が弾かれる。


「な……!」


シグが振り返る。


「お前は一人だ。」


ジードの瞳が揺れる。


「残像が何人いようと。」


一歩。


「本体は一人。」


さらに一歩。


「だったら。」


短剣を構える。


「見る必要なんてない。」


次の瞬間。


シグの姿が消えた。


「――ッ!」


ジードが振り返る。


遅い。


一閃。


ジードが膝をつく。


残像がすべて消えた。


シグは短剣を納める。


「終わりだ。」


---


「……もう逃げないの?」


エルマが笑う。


周囲には無数の魔力糸。


触れれば切れる。


避ければ追ってくる。


リナはその中央に立っていた。


「逃げる必要がないもの。」


「強がりね。」


エルマが指を動かす。


魔力糸が一斉に動く。


リナへ迫る。


その瞬間。


リナは一歩前へ出た。


「なっ!?」


糸が腕へ触れる。


リナはあえて避けなかった。


「何をしてるの!?」


「捕まえた。」


リナの魔力が走る。


自分の身体へ触れている糸。


そこから逆に魔力を流し込む。


エルマの表情が変わった。


「私の糸に……!」


「そう。」


リナが笑う。


「あなたの魔力を辿ってる。」


エルマが慌てて糸を切ろうとする。


だが。


遅い。


リナの魔力が糸を伝ってエルマへ届く。


「――捕まえた。」


炎が弾ける。


エルマの周囲を炎が包み込む。


「こんな……!」


魔力糸が一斉に崩れた。


エルマが膝をつく。


リナは肩で息をしながら立っていた。


「……私だって。」


「考えて戦えるのよ。」


---


四つの戦場。


静寂が戻ってくる。


ガレス。


ダリオ。


シグ。


リナ。


全員が立っていた。


傷はある。


疲労もある。


だが。


誰一人として倒れてはいない。


「……終わったか。」


ガレスが呟く。


ダリオが笑う。


「俺たち、結構やるじゃねぇか。」


「まだまだ。」


シグが淡々と答える。


リナは息を整えながら苦笑した。


「もう少しで死ぬところだったけどね。」


「死んでねぇなら勝ちだ。」


ガレスが笑う。


その時だった。


倒れていたグランが、ゆっくりと立ち上がった。


「……フ。」


「?」


四人が振り返る。


グランは笑っていた。


「お前ら。」


「強いな。」


ダリオが眉をひそめる。


「まだやる気か?」


「いや。」


グランは首を横に振った。


「俺たちじゃ、お前らには勝てねぇ。」


そして。


胸元に手を当てる。


黒い紋章。


そこから魔力が漏れ始めた。


シグの表情が変わる。


「……何かする。」


「全員、離れて!」


リナが叫ぶ。


ボルグも。


ジードも。


エルマも。


同じように紋章へ手を当てた。


「待て!」


ガレスが叫ぶ。


「何をする気だ!」


グランが笑う。


「俺たちは。」


「まだひよっこだ。」


「……何?」


グランの目が細くなる。


「本当のアストラ教団は。」


「こんなもんじゃねぇ。」


四人の紋章が強く輝く。


そして。


「アストラ教団――。」


「万歳!!」


魔力が弾けた。


**――ドォォォォン!!**


森を白い光が包み込む。


ガレスたちは咄嗟に身を伏せる。


爆風が木々を薙ぎ倒す。


しばらくして。


静寂。


煙がゆっくりと晴れていく。


「……ったく。」


聞き慣れた声。


ガレスが顔を上げる。


「……副団長?」


ザインが立っていた。


その隣には。


見慣れない人物がいる。


獣の耳。


鋭い瞳。


そして人間とは明らかに異なる風貌。


だが、その獣人は険しい顔をするでもなく。


むしろ柔らかな笑みを浮かべていた。


ザインが口を開く。


「全員、生きてるな。」


「はい。」


ガレスが立ち上がる。


ザインは四人を見回した。


「……無茶しやがって。」


「副団長。」


ダリオが笑う。


「遅いですよ。」


ザインは眉をひそめる。


「お前らが勝手に残ったんだろ。」


「まぁまぁ。」


ダリオが笑う。


「結果オーライってことで。」


ザインは呆れたように息を吐いた。


そして。


隣に立つ獣人へ視線を向ける。


「紹介する。」


獣人が一歩前へ出た。


「初めまして。」


穏やかな声だった。


「俺はレグルス。」


「獣王国騎士団に所属している。」


四人が顔を見合わせる。


レグルスは笑顔を崩さない。


「今回は獣王陛下の命を受け、皆さんの調査に同行することになりました。」


ガレスが少し驚いたように尋ねる。


「……人間と一緒に行動することに抵抗はないんですか?」


レグルスは少し考えてから答えた。


「俺自身は、特にありません。」


「……珍しいな。」


シグが呟く。


レグルスは苦笑した。


「よく言われます。」


「獣王国では、人間を快く思っていない者の方が多いですから。」


ザインが補足する。


「獣王も同じだ。」


「俺たちを歓迎してるわけじゃねぇ。」


「ただ、今回の件では協力する価値があると判断した。」


レグルスは頷く。


「獣王陛下は人間を好まれてはいません。」


「ですが。」


四人を見る。


「それと、目の前にいる人間をどう見るかは別の話だと俺は思っています。」


その言葉に。


ガレスが笑った。


「いい奴じゃねぇか。」


「ありがとうございます。」


レグルスも笑う。


ダリオが肩を叩く。


「じゃあ、これからよろしくな。」


レグルスは少し驚きながらも。


「ああ。」


と笑った。


「こちらこそ。」


ザインは獣王国へ続く道を見る。


「行くぞ。」


「まだ調査は始まったばかりだ。」


四人が立ち上がる。


その後ろを。


獣人騎士レグルスが歩き始めた。


ラウゼン王国を出発してから始まった今回の旅。


アストラ教団との接触。


そして。


新たな仲間との出会い。


ザインたちの旅は。


次なる舞台へと進んでいく。


第一軍直属部隊とアストラ教団の戦い、いかがでしたでしょうか。


今回は四人それぞれの戦い方を意識して描いてみました。


力で押し切る者。


相手の能力を利用する者。


静かに隙を突く者。


そして、魔法と知略で戦う者。


全員が違った形で勝利を掴みました。


そして最後には、獣王国から新たな仲間も加わりました。


次回からは舞台を獣王国へ移し、魔人についての調査が始まります。


獣王国の人々はザインたちをどう迎えるのか。


そして、アストラ教団が追う「魔人」とは何なのか。


ここからまた新しい物語が始まります。


次回もお楽しみに!


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