激闘
ここからは、直属部隊とアストラ教団の本格的な戦闘です。
それぞれが全く違う能力を持つ相手との戦い。
果たして、彼らはこの戦いをどう攻略するのか。
それでは、第34話「激闘」をお楽しみください。
森が静まり返った。
先ほどまで響いていた金属音も、魔法の爆発音も、今はない。
ただ四つの戦場だけが、互いに異なる緊張を放っていた。
ガレスは大剣を構えたまま、目の前のグランを見据える。
ダリオは拳を握り、ボルグと向かい合う。
シグは静かに短剣を抜いた。
そしてリナは、傷ついた肩を押さえながらエルマを睨みつけていた。
「……面白ぇ。」
グランが笑った。
「四人とも逃げねぇのか。」
「逃げる?」
ガレスが鼻で笑う。
「副団長に先に行けって言ったのは俺たちだ。」
大剣を肩へ担ぐ。
「だったら、ここで負けるわけにはいかねぇだろ。」
「いいねぇ。」
グランが拳を握る。
「そういうの、嫌いじゃねぇ。」
次の瞬間。
地面が弾けた。
「来いッ!!」
ガレスも同時に踏み込む。
大剣が唸る。
真正面から振り下ろされた一撃を、グランは避けなかった。
**ギィィィン!!**
刃と肉体がぶつかったとは思えない音が森へ響く。
ガレスの目が見開かれる。
刃が――止まった。
グランの肩には傷一つない。
「……は。」
グランが笑う。
「驚いたか?」
ガレスは大剣を引き戻す。
「……なるほど。」
「何がだ?」
「いや。」
ガレスの口元が吊り上がる。
「硬ぇな、お前。」
「それだけか?」
「十分だ。」
再び踏み込む。
今度は横薙ぎ。
グランは腕を掲げて受ける。
**ガギィン!!**
火花が散った。
さらに斬る。
首。
脇腹。
太腿。
全て同じだった。
どこを斬っても、刃が肉へ届かない。
「無駄だ。」
グランが笑う。
「俺の身体は鋼だ。」
拳が飛んでくる。
ガレスは大剣の腹で受け止めた。
**ドゴォッ!!**
身体が後方へ滑る。
両足で地面を削りながら止まった。
「……重い。」
ガレスが呟く。
腕が痺れている。
ただの怪力ではない。
拳を受けただけで、骨まで響いた。
「どうした?」
グランが歩いてくる。
「その程度か?」
ガレスは笑った。
「いや。」
大剣を構え直す。
「まだ始まったばかりだろ?」
「……はっ。」
グランも笑う。
「そうこなくちゃな。」
再び二人がぶつかった。
---
「おらぁっ!!」
ダリオの拳がボルグの顔面へ迫る。
ボルグは避けない。
拳と拳が真正面から激突した。
**ドォン!!**
衝撃が森を揺らす。
「ハハハッ!」
ダリオが笑う。
「いいじゃねぇか!」
「お前もな!」
ボルグも笑い返す。
二人とも下がらない。
拳。
拳。
拳。
互いに一歩も譲らない。
「そらっ!」
ダリオの右拳がボルグの腹へ入る。
確かな手応え。
だが。
次の瞬間。
「――ッ!?」
ダリオの身体が吹き飛んだ。
自分が殴った。
そのはずだった。
なのに。
まるで自分自身が殴り飛ばされたような衝撃。
背中から木へ叩きつけられる。
「ぐっ……!」
木が大きく揺れた。
ボルグは拳を握ったまま笑っている。
「どうした?」
「自分の拳に負けた気分は。」
ダリオはゆっくり立ち上がった。
「……なんだ今の。」
胸を押さえる。
痛い。
間違いなくダメージを受けている。
だが。
ボルグは一歩も動いていない。
「分からねぇか?」
「もっと殴れば分かる。」
「……。」
ダリオは数秒、ボルグを見つめる。
そして。
ニヤリと笑った。
「だったら。」
拳を構える。
「殴るしかねぇな。」
「そうだ!」
再び突っ込む。
ボルグの拳が飛ぶ。
ダリオは避けない。
拳がぶつかる。
**ドゴォン!!**
また衝撃。
また吹き飛ぶ。
それでも。
「ハッハァ!!」
ダリオは笑っていた。
「まだだ!!」
---
一方。
シグの前には、ジードが立っている。
いや。
立っているように見える。
「……。」
シグは動かない。
ジードが笑う。
「どうした?」
一歩。
二歩。
その姿が揺らぐ。
三人。
五人。
八人。
気付けば、シグの周囲をジードが取り囲んでいた。
「俺はここだ。」
「いや、こっちだ。」
「残念。」
「こっちだ。」
声まで重なる。
シグは目を細めた。
短剣を逆手に持つ。
だが。
攻撃しない。
「怖くなったか?」
ジードが笑う。
「なら、俺から行くぞ。」
八人のジードが一斉に動いた。
シグの視界が黒衣で埋まる。
右。
左。
背後。
正面。
どれが本物なのか。
判断できない。
シグは一歩だけ下がった。
その瞬間。
**シュッ!!**
頬を何かが掠める。
血が一筋流れた。
シグは手で触れる。
赤い。
「どうした?」
ジードの声。
「俺を見つけられないのか?」
シグは答えない。
ただ。
ゆっくりと周囲を見渡した。
(速い。)
(だが、分身じゃない。)
(なら……。)
再び短剣を構える。
ジードが笑う。
「諦めたか?」
「……。」
シグは目を閉じた。
「おい。」
ジードの声から、僅かに苛立ちが滲む。
「何をしている?」
シグは答えない。
森を吹き抜ける風。
葉が擦れる音。
土を踏む音。
そして。
ほんの僅かな呼吸音。
シグの眉が動いた。
「……。」
だが、まだ動かない。
---
「――もう!」
リナが叫んだ。
炎の球が次々と生まれる。
一つ。
二つ。
五つ。
十。
それらが一斉にエルマへ飛んでいく。
「そんなに焦って。」
エルマは笑う。
「当たると思う?」
炎が木々を焼く。
地面が焦げる。
しかし。
エルマには届かない。
「くっ……!」
リナは歯を食いしばる。
その瞬間。
右腕に痛みが走った。
「っ!」
まただ。
何も見えない。
だが確実に攻撃されている。
腕から血が流れる。
「どうしたの?」
エルマが笑う。
「さっきより顔が怖いわよ?」
「うるさい!」
リナは叫び返す。
「私は……!」
魔力が膨れ上がる。
炎。
氷。
雷。
風。
複数の魔法が同時に展開する。
エルマの表情が僅かに変わった。
「へぇ。」
「それだけ使えるのね。」
「当たり前でしょう!」
魔法が一斉に放たれる。
森が爆発した。
しかし。
煙が晴れた時。
そこにエルマはいなかった。
「……どこ?」
リナは息を荒くする。
その瞬間。
背後。
「ここよ。」
リナが振り返る。
遅い。
何かが頬を掠めた。
「くっ!」
後退。
頬から血が流れる。
エルマは笑っている。
「あなた。」
「魔法は凄いけど。」
「焦りすぎ。」
「……。」
リナは唇を噛んだ。
悔しい。
腹が立つ。
何より。
自分が相手の能力を理解できていないことが腹立たしかった。
(何なの……。)
(何が私を攻撃してるの?)
---
その頃。
ガレスの大剣が再びグランへ叩き込まれる。
**ギィィィン!!**
また止まる。
「何度やっても同じだ!」
グランが笑う。
ガレスは剣を引く。
そして。
また斬る。
**ガギィン!!**
さらに。
**ギィン!!**
斬る。
斬る。
斬る。
「無駄だ!」
グランが拳を振るう。
ガレスは躱す。
反撃。
また斬る。
「お前、馬鹿なのか!?」
グランが笑う。
「何度斬っても俺には効かねぇぞ!」
「そうか?」
ガレスは笑っていた。
「じゃあ。」
また斬る。
「何回まで効かねぇのか。」
「……何?」
一瞬。
グランの笑みが止まった。
ガレスはそれを見逃さなかった。
(今だ。)
ほんの一瞬。
グランの目が動いた。
ガレスはその変化を頭に刻み込む。
(こいつ。)
(ただ硬いだけじゃねぇ。)
---
ダリオは何度も地面へ叩きつけられていた。
それでも立つ。
拳を握る。
「……なぁ。」
ボルグを見る。
「お前。」
「何だ?」
「俺が殴った分だけ。」
一歩。
「俺に返してるんじゃねぇか?」
ボルグの口元が僅かに上がった。
「さぁな。」
「……そうか。」
ダリオは笑った。
「なら。」
肩を回す。
「試してみるか。」
「何を?」
「殴らねぇ。」
ボルグの表情が変わる。
ダリオは剣を抜いた。
「今度は斬る。」
「……。」
「どうなるか。」
---
シグはまだ目を閉じている。
ジードが苛立つ。
「ふざけるな。」
八つの影が動く。
「殺すぞ。」
その言葉。
シグの目が開いた。
「……そうか。」
短剣を握り直す。
「分かった。」
「何がだ!?」
シグは一歩だけ踏み込んだ。
そして。
振り返る。
誰もいない。
「……。」
何もない空間へ短剣を突き出す。
**キィン!!**
金属音。
ジードの短剣が弾かれた。
「なっ……!?」
シグは初めて口元を僅かに緩めた。
「そこだ。」
---
リナは動かなかった。
炎も出さない。
氷も出さない。
ただ。
周囲を見ている。
エルマが笑う。
「諦めた?」
「……違う。」
リナは答える。
「考えてる。」
「何を?」
リナは周囲を見渡す。
燃えた木。
散った灰。
揺れる葉。
そして。
自分の足元に落ちた一枚の葉。
その葉には。
不自然な切れ目が入っていた。
リナの目が細くなる。
(……見えないんじゃない。)
(見えない"もの"を探していたから、分からなかった。)
「……なるほど。」
小さく呟く。
エルマは笑った。
「何か分かった?」
リナは答えない。
ただ。
魔力を練り始めた。
---
四つの戦場。
四人の直属部隊。
四人の敵。
まだ。
誰一人として倒れていない。
だが。
戦いは確実に変わり始めていた。
敵の能力を知らない。
だから苦戦している。
それでも。
ガレスは笑っていた。
ダリオも笑っていた。
シグは静かに敵を見据えている。
そしてリナは、怒りと焦りを抱えながらも思考を止めていない。
彼らはまだ知らない。
この四人が相手にしているのが、アストラ教団の本当の幹部ではないことを。
それでも。
目の前の敵を倒す。
その覚悟だけは、四人とも同じだった。
そして森の奥。
誰もいないはずの空間で。
ミレイアは一人、ザインを追って走っていた。
「副団長……!」
その胸には、嫌な予感が残っていた。
「どうか……何も起きませんように……。」
今回は、4つの戦場を同時に描いてみました。
それぞれ戦い方も性格も違うので、今後は一人ひとりの戦闘をじっくり描いていく予定です。
まだ敵の能力の正体は明らかになっていません。
そして、今回戦っている4人は――アストラ教団の幹部ですらありません。
ここからさらに激しい戦いになっていきます。
次回もお楽しみに!




