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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
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34/61

激闘

ここからは、直属部隊とアストラ教団の本格的な戦闘です。


それぞれが全く違う能力を持つ相手との戦い。


果たして、彼らはこの戦いをどう攻略するのか。


それでは、第34話「激闘」をお楽しみください。


森が静まり返った。


先ほどまで響いていた金属音も、魔法の爆発音も、今はない。


ただ四つの戦場だけが、互いに異なる緊張を放っていた。


ガレスは大剣を構えたまま、目の前のグランを見据える。


ダリオは拳を握り、ボルグと向かい合う。


シグは静かに短剣を抜いた。


そしてリナは、傷ついた肩を押さえながらエルマを睨みつけていた。


「……面白ぇ。」


グランが笑った。


「四人とも逃げねぇのか。」


「逃げる?」


ガレスが鼻で笑う。


「副団長に先に行けって言ったのは俺たちだ。」


大剣を肩へ担ぐ。


「だったら、ここで負けるわけにはいかねぇだろ。」


「いいねぇ。」


グランが拳を握る。


「そういうの、嫌いじゃねぇ。」


次の瞬間。


地面が弾けた。


「来いッ!!」


ガレスも同時に踏み込む。


大剣が唸る。


真正面から振り下ろされた一撃を、グランは避けなかった。


**ギィィィン!!**


刃と肉体がぶつかったとは思えない音が森へ響く。


ガレスの目が見開かれる。


刃が――止まった。


グランの肩には傷一つない。


「……は。」


グランが笑う。


「驚いたか?」


ガレスは大剣を引き戻す。


「……なるほど。」


「何がだ?」


「いや。」


ガレスの口元が吊り上がる。


「硬ぇな、お前。」


「それだけか?」


「十分だ。」


再び踏み込む。


今度は横薙ぎ。


グランは腕を掲げて受ける。


**ガギィン!!**


火花が散った。


さらに斬る。


首。


脇腹。


太腿。


全て同じだった。


どこを斬っても、刃が肉へ届かない。


「無駄だ。」


グランが笑う。


「俺の身体は鋼だ。」


拳が飛んでくる。


ガレスは大剣の腹で受け止めた。


**ドゴォッ!!**


身体が後方へ滑る。


両足で地面を削りながら止まった。


「……重い。」


ガレスが呟く。


腕が痺れている。


ただの怪力ではない。


拳を受けただけで、骨まで響いた。


「どうした?」


グランが歩いてくる。


「その程度か?」


ガレスは笑った。


「いや。」


大剣を構え直す。


「まだ始まったばかりだろ?」


「……はっ。」


グランも笑う。


「そうこなくちゃな。」


再び二人がぶつかった。


---


「おらぁっ!!」


ダリオの拳がボルグの顔面へ迫る。


ボルグは避けない。


拳と拳が真正面から激突した。


**ドォン!!**


衝撃が森を揺らす。


「ハハハッ!」


ダリオが笑う。


「いいじゃねぇか!」


「お前もな!」


ボルグも笑い返す。


二人とも下がらない。


拳。


拳。


拳。


互いに一歩も譲らない。


「そらっ!」


ダリオの右拳がボルグの腹へ入る。


確かな手応え。


だが。


次の瞬間。


「――ッ!?」


ダリオの身体が吹き飛んだ。


自分が殴った。


そのはずだった。


なのに。


まるで自分自身が殴り飛ばされたような衝撃。


背中から木へ叩きつけられる。


「ぐっ……!」


木が大きく揺れた。


ボルグは拳を握ったまま笑っている。


「どうした?」


「自分の拳に負けた気分は。」


ダリオはゆっくり立ち上がった。


「……なんだ今の。」


胸を押さえる。


痛い。


間違いなくダメージを受けている。


だが。


ボルグは一歩も動いていない。


「分からねぇか?」


「もっと殴れば分かる。」


「……。」


ダリオは数秒、ボルグを見つめる。


そして。


ニヤリと笑った。


「だったら。」


拳を構える。


「殴るしかねぇな。」


「そうだ!」


再び突っ込む。


ボルグの拳が飛ぶ。


ダリオは避けない。


拳がぶつかる。


**ドゴォン!!**


また衝撃。


また吹き飛ぶ。


それでも。


「ハッハァ!!」


ダリオは笑っていた。


「まだだ!!」


---


一方。


シグの前には、ジードが立っている。


いや。


立っているように見える。


「……。」


シグは動かない。


ジードが笑う。


「どうした?」


一歩。


二歩。


その姿が揺らぐ。


三人。


五人。


八人。


気付けば、シグの周囲をジードが取り囲んでいた。


「俺はここだ。」


「いや、こっちだ。」


「残念。」


「こっちだ。」


声まで重なる。


シグは目を細めた。


短剣を逆手に持つ。


だが。


攻撃しない。


「怖くなったか?」


ジードが笑う。


「なら、俺から行くぞ。」


八人のジードが一斉に動いた。


シグの視界が黒衣で埋まる。


右。


左。


背後。


正面。


どれが本物なのか。


判断できない。


シグは一歩だけ下がった。


その瞬間。


**シュッ!!**


頬を何かが掠める。


血が一筋流れた。


シグは手で触れる。


赤い。


「どうした?」


ジードの声。


「俺を見つけられないのか?」


シグは答えない。


ただ。


ゆっくりと周囲を見渡した。


(速い。)


(だが、分身じゃない。)


(なら……。)


再び短剣を構える。


ジードが笑う。


「諦めたか?」


「……。」


シグは目を閉じた。


「おい。」


ジードの声から、僅かに苛立ちが滲む。


「何をしている?」


シグは答えない。


森を吹き抜ける風。


葉が擦れる音。


土を踏む音。


そして。


ほんの僅かな呼吸音。


シグの眉が動いた。


「……。」


だが、まだ動かない。


---


「――もう!」


リナが叫んだ。


炎の球が次々と生まれる。


一つ。


二つ。


五つ。


十。


それらが一斉にエルマへ飛んでいく。


「そんなに焦って。」


エルマは笑う。


「当たると思う?」


炎が木々を焼く。


地面が焦げる。


しかし。


エルマには届かない。


「くっ……!」


リナは歯を食いしばる。


その瞬間。


右腕に痛みが走った。


「っ!」


まただ。


何も見えない。


だが確実に攻撃されている。


腕から血が流れる。


「どうしたの?」


エルマが笑う。


「さっきより顔が怖いわよ?」


「うるさい!」


リナは叫び返す。


「私は……!」


魔力が膨れ上がる。


炎。


氷。


雷。


風。


複数の魔法が同時に展開する。


エルマの表情が僅かに変わった。


「へぇ。」


「それだけ使えるのね。」


「当たり前でしょう!」


魔法が一斉に放たれる。


森が爆発した。


しかし。


煙が晴れた時。


そこにエルマはいなかった。


「……どこ?」


リナは息を荒くする。


その瞬間。


背後。


「ここよ。」


リナが振り返る。


遅い。


何かが頬を掠めた。


「くっ!」


後退。


頬から血が流れる。


エルマは笑っている。


「あなた。」


「魔法は凄いけど。」


「焦りすぎ。」


「……。」


リナは唇を噛んだ。


悔しい。


腹が立つ。


何より。


自分が相手の能力を理解できていないことが腹立たしかった。


(何なの……。)


(何が私を攻撃してるの?)


---


その頃。


ガレスの大剣が再びグランへ叩き込まれる。


**ギィィィン!!**


また止まる。


「何度やっても同じだ!」


グランが笑う。


ガレスは剣を引く。


そして。


また斬る。


**ガギィン!!**


さらに。


**ギィン!!**


斬る。


斬る。


斬る。


「無駄だ!」


グランが拳を振るう。


ガレスは躱す。


反撃。


また斬る。


「お前、馬鹿なのか!?」


グランが笑う。


「何度斬っても俺には効かねぇぞ!」


「そうか?」


ガレスは笑っていた。


「じゃあ。」


また斬る。


「何回まで効かねぇのか。」


「……何?」


一瞬。


グランの笑みが止まった。


ガレスはそれを見逃さなかった。


(今だ。)


ほんの一瞬。


グランの目が動いた。


ガレスはその変化を頭に刻み込む。


(こいつ。)


(ただ硬いだけじゃねぇ。)


---


ダリオは何度も地面へ叩きつけられていた。


それでも立つ。


拳を握る。


「……なぁ。」


ボルグを見る。


「お前。」


「何だ?」


「俺が殴った分だけ。」


一歩。


「俺に返してるんじゃねぇか?」


ボルグの口元が僅かに上がった。


「さぁな。」


「……そうか。」


ダリオは笑った。


「なら。」


肩を回す。


「試してみるか。」


「何を?」


「殴らねぇ。」


ボルグの表情が変わる。


ダリオは剣を抜いた。


「今度は斬る。」


「……。」


「どうなるか。」


---


シグはまだ目を閉じている。


ジードが苛立つ。


「ふざけるな。」


八つの影が動く。


「殺すぞ。」


その言葉。


シグの目が開いた。


「……そうか。」


短剣を握り直す。


「分かった。」


「何がだ!?」


シグは一歩だけ踏み込んだ。


そして。


振り返る。


誰もいない。


「……。」


何もない空間へ短剣を突き出す。


**キィン!!**


金属音。


ジードの短剣が弾かれた。


「なっ……!?」


シグは初めて口元を僅かに緩めた。


「そこだ。」


---


リナは動かなかった。


炎も出さない。


氷も出さない。


ただ。


周囲を見ている。


エルマが笑う。


「諦めた?」


「……違う。」


リナは答える。


「考えてる。」


「何を?」


リナは周囲を見渡す。


燃えた木。


散った灰。


揺れる葉。


そして。


自分の足元に落ちた一枚の葉。


その葉には。


不自然な切れ目が入っていた。


リナの目が細くなる。


(……見えないんじゃない。)


(見えない"もの"を探していたから、分からなかった。)


「……なるほど。」


小さく呟く。


エルマは笑った。


「何か分かった?」


リナは答えない。


ただ。


魔力を練り始めた。


---


四つの戦場。


四人の直属部隊。


四人の敵。


まだ。


誰一人として倒れていない。


だが。


戦いは確実に変わり始めていた。


敵の能力を知らない。


だから苦戦している。


それでも。


ガレスは笑っていた。


ダリオも笑っていた。


シグは静かに敵を見据えている。


そしてリナは、怒りと焦りを抱えながらも思考を止めていない。


彼らはまだ知らない。


この四人が相手にしているのが、アストラ教団の本当の幹部ではないことを。


それでも。


目の前の敵を倒す。


その覚悟だけは、四人とも同じだった。


そして森の奥。


誰もいないはずの空間で。


ミレイアは一人、ザインを追って走っていた。


「副団長……!」


その胸には、嫌な予感が残っていた。


「どうか……何も起きませんように……。」


今回は、4つの戦場を同時に描いてみました。


それぞれ戦い方も性格も違うので、今後は一人ひとりの戦闘をじっくり描いていく予定です。


まだ敵の能力の正体は明らかになっていません。


そして、今回戦っている4人は――アストラ教団の幹部ですらありません。


ここからさらに激しい戦いになっていきます。


次回もお楽しみに!

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