表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
PR
33/60

接敵

ラウゼン王国での任務を終え、ザインたちは新たな目的地――獣人王国ガルディアへ向かいます。


ですが、旅というものは目的地へ辿り着くまでが旅。


新たな土地へ向かうその道中でも、世界は静かに動き続けています。


それでは、第33話をお楽しみください。


翌朝。


ラウゼン王国、王城前。


第一軍直属部隊は既に出発の準備を終えていた。


馬車へ荷物を積み込み、武器や食料の最終確認を行う。


「副団長、準備完了しました。」


ガレスが報告する。


「ありがとう。」


ザインは頷くと、ゆっくり王城を見上げた。


「名残惜しいですか?」


リナが尋ねる。


「少しね。」


「いい国だった。」


その言葉に、直属部隊も静かに頷いた。


そこへ。


「ザイン。」


レオニスが歩いてくる。


隣にはリシェルの姿もあった。


「見送りに来てくれたんだ。」


「当然だ。」


レオニスは笑う。


「恩人を見送らない王などいない。」


ザインも笑った。


「大げさだなぁ。」


「事実だ。」


短く言い切る。


リシェルが一歩前へ出た。


「ザイン様。」


「はい。」


「短い間でしたが、本当にありがとうございました。」


深く頭を下げる。


ザインは少し困ったように笑った。


「そんなに畏まらなくても。」


「いえ。」


「ラウゼン王国を代表して、お礼を申し上げます。」


その真っ直ぐな言葉に、ザインも姿勢を正した。


「こちらこそ。」


「みんな温かく迎えてくれて嬉しかった。」


「また来ます。」


リシェルの表情が少し明るくなる。


「本当ですか?」


「うん。」


「今度は観光で。」


「約束。」


リシェルは嬉しそうに微笑んだ。


「はい。」


「約束です。」


その様子を見ていたレオニスが口元を緩める。


「安心した。」


「ラウゼンに帰ってくる理由が一つ増えたな。」


「レオニス。」


「ん?」


「からかうなよ。」


「はは。」


珍しく声を出して笑う。


リシェルは少し頬を赤くしながら兄を軽く睨んだ。


「お兄様。」


「何だ。」


「余計なことは仰らないでください。」


「そうか?」


「そうです。」


ザインは思わず吹き出した。


「仲良いなぁ。」


「昔からこうなんです。」


リシェルが少し恥ずかしそうに笑う。


レオニスはザインへ手を差し出した。


「短い間だったが。」


「助かった。」


ザインもその手を握る。


「こちらこそ。」


「また会おう。」


「ああ。」


固く握られた手。


戦場で出会った二人は、今では友と呼べる存在になっていた。


「それじゃ。」


ザインは直属部隊へ振り返る。


「行こうか。」


「了解!」


馬車がゆっくりと動き出す。


リシェルは姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。



ラウゼン王国を出発して三日。


獣王国へ続く街道を、ザイン率いる第一軍直属部隊は進んでいた。


ラウゼン王国を離れたことで、人の往来はほとんどなくなり、周囲を囲む木々だけが風に揺れている。


「あと二日ってところか。」


地図を見ながらリナが呟く。


「獣王国かぁ。」


ダリオは腕を組み、大きく伸びをした。


「人間嫌いって話だろ?歓迎はされねぇだろうな。」


「歓迎されるために行くわけじゃない。」


ザインは前を向いたまま答える。


「目的は魔人の情報だ。」


「分かってるって。」


ダリオは苦笑した。


その横でガレスが森へ目を向ける。


「……静かですね。」


「そうか?」


「えぇ。」


ガレスは眉をひそめた。


「魔物どころか、鳥の鳴き声まで止んでる。」


その言葉でシグも周囲へ視線を走らせた。


確かに違和感がある。


森は生きている。


風が吹けば葉が揺れ、鳥が鳴き、獣が動く。


だが今は。


まるで森そのものが息を潜めているようだった。


ザインも歩みを止める。


「……いるな。」


その一言で直属部隊全員の空気が変わった。


武器へ自然と手が伸びる。


殺気。


しかも一つや二つではない。


四方から感じる。


その瞬間だった。


**――ドォォン!!**


轟音と共に大木が倒れる。


街道を塞ぐように地面へ叩きつけられ、土煙が舞い上がった。


「来るぞ!」


ガレスが叫ぶ。


木々の上。


岩陰。


街道の正面。


四人の人影がゆっくりと姿を現した。


全員黒衣。


全員武器を持っていない。


だが。


纏う空気だけで分かる。


強い。


「ようやく見つけた。」


中央に立つ大男が笑う。


二メートルを超える巨体。


鍛え抜かれた肉体。


「第一軍直属。」


「副団長ザイン。」


ザインは相手を静かに見据えた。


「何者だ。」


「名乗るほどでもねぇ。」


男は肩を鳴らした。


「俺たちはアストラ教団。」


その名を聞いた瞬間。


空気が一変した。


リナが小さく目を見開く。


「アストラ……。」


「こんなところで会えるとは思わなかったぜ。」


男の口元が吊り上がる。


「教祖様も喜ぶ。」


その言葉と同時に。


周囲から十数人の黒衣が飛び出した。


「雑魚は任せろ!」


ダリオが真っ先に飛び込む。


剣を一閃。


二人。


三人。


一瞬で倒れる。


ガレスも大剣を薙ぎ払い、まとめて吹き飛ばす。


シグの姿はいつの間にか消えていた。


気付けば黒衣の男たちが次々と崩れ落ちていく。


リナは無詠唱で火球を放つ。


爆炎が森を赤く染めた。


「弱ぇな。」


ダリオが鼻で笑う。


「これで終わりか?」


「いや。」


ザインだけは剣を抜かない。


視線はずっと。


四人だけを見ていた。


「……まだだ。」


その瞬間。


四人が同時に前へ出る。


一歩。


それだけで空気が重くなる。


ダリオの笑みが消えた。


「おいおい……。」


ガレスも大剣を握り直す。


「こいつら。」


「さっきの連中とは別格だ。」


中央の男が笑う。


「ようやく気付いたか。」


「俺はグラン。」


「こっちはボルグ。」


「ジード。」


「エルマ。」


「アストラ教団実験部隊。」


四人が横一列に並ぶ。


その圧力に、森の空気が張り詰めた。


ザインは静かに一歩前へ出る。


しかし。


その腕をガレスが掴んだ。


「副団長。」


ザインは振り返る。


ガレスは笑っていた。


「ここは俺たちに任せてください。」


「何言って――」


「獣王国へ行くのが最優先でしょう。」


リナも頷く。


「この人たちの狙いは副団長です。」


「ここで足止めされる方が困ります。」


ダリオが剣を肩へ担ぐ。


「酒の約束、忘れてませんよな?」


シグは短剣を抜き、小さく言った。


「俺たちは。」


「第一軍直属です。」


ザインは四人を見渡した。


誰一人として迷っていない。


恐れてもいない。


その顔を見て、小さく笑った。


「……分かった。」


「だが。」


「死ぬな。」


ガレスが豪快に笑う。


「誰に言ってんですか。」


「副団長。」


「帰ったら一杯奢ってくださいよ。」


ザインは踵を返す。


その横を。


ミレイアが駆け抜けた。


「私は副団長に何かあればすぐ伝えられる位置まで下がります!」


「頼んだ。」


短い返事。


そしてザインは獣王国への道を走り出した。


残された四人は、それぞれ一歩前へ出る。


グランが笑う。


「逃がしたのか。」


ガレスは大剣を構えた。


「違ぇよ。」


「俺たちだけで十分だからだ。」


その瞬間。


四つの戦場が、静かに幕を開けた。


第33話をお読みいただきありがとうございました!


今回は、第一軍直属部隊が本格的に活躍する回となりました。


これまで「ザインの部下」として登場することが多かった彼らですが、それぞれが第一軍直属に選ばれた実力者です。


そして物語の最後、彼らの前に現れたのは、これまでとは明らかに格の違う四人の敵。


直属部隊はこの強敵を相手に、どこまで戦うことができるのか。


次回、第34話『激闘』。


第一軍直属部隊の真価を、ぜひ見届けていただければ嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ