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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
イリス奪還編
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33/102

接敵

ラウゼン王国での任務を終え、ザインたちは新たな目的地――獣人王国ガルディアへ向かいます。


ですが、旅というものは目的地へ辿り着くまでが旅。


新たな土地へ向かうその道中でも、世界は静かに動き続けています。


それでは、第33話をお楽しみください。


翌朝。


ラウゼン王国、王城前。


第一軍直属部隊は既に出発の準備を終えていた。


馬車へ荷物を積み込み、武器や食料の最終確認を行う。


「副団長、準備完了しました。」


ガレスが報告する。


「ありがとう。」


ザインは頷くと、ゆっくり王城を見上げた。


「名残惜しいですか?」


リナが尋ねる。


「少しね。」


「いい国だった。」


その言葉に、直属部隊も静かに頷いた。


そこへ。


「ザイン。」


レオニスが歩いてくる。


隣にはリシェルの姿もあった。


「見送りに来てくれたんだ。」


「当然だ。」


レオニスは笑う。


「恩人を見送らない王などいない。」


ザインも笑った。


「大げさだなぁ。」


「事実だ。」


短く言い切る。


リシェルが一歩前へ出た。


「ザイン様。」


「はい。」


「短い間でしたが、本当にありがとうございました。」


深く頭を下げる。


ザインは少し困ったように笑った。


「そんなに畏まらなくても。」


「いえ。」


「ラウゼン王国を代表して、お礼を申し上げます。」


その真っ直ぐな言葉に、ザインも姿勢を正した。


「こちらこそ。」


「みんな温かく迎えてくれて嬉しかった。」


「また来ます。」


リシェルの表情が少し明るくなる。


「本当ですか?」


「うん。」


「今度は観光で。」


「約束。」


リシェルは嬉しそうに微笑んだ。


「はい。」


「約束です。」


その様子を見ていたレオニスが口元を緩める。


「安心した。」


「ラウゼンに帰ってくる理由が一つ増えたな。」


「レオニス。」


「ん?」


「からかうなよ。」


「はは。」


珍しく声を出して笑う。


リシェルは少し頬を赤くしながら兄を軽く睨んだ。


「お兄様。」


「何だ。」


「余計なことは仰らないでください。」


「そうか?」


「そうです。」


ザインは思わず吹き出した。


「仲良いなぁ。」


「昔からこうなんです。」


リシェルが少し恥ずかしそうに笑う。


レオニスはザインへ手を差し出した。


「短い間だったが。」


「助かった。」


ザインもその手を握る。


「こちらこそ。」


「また会おう。」


「ああ。」


固く握られた手。


戦場で出会った二人は、今では友と呼べる存在になっていた。


「それじゃ。」


ザインは直属部隊へ振り返る。


「行こうか。」


「了解!」


馬車がゆっくりと動き出す。


リシェルは姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。


◇


ラウゼン王国を出発して三日。


獣王国へ続く街道を、ザイン率いる第一軍直属部隊は進んでいた。


ラウゼン王国を離れたことで、人の往来はほとんどなくなり、周囲を囲む木々だけが風に揺れている。


「あと二日ってところか。」


地図を見ながらリナが呟く。


「獣王国かぁ。」


ダリオは腕を組み、大きく伸びをした。


「人間嫌いって話だろ?歓迎はされねぇだろうな。」


「歓迎されるために行くわけじゃない。」


ザインは前を向いたまま答える。


「目的は魔人の情報だ。」


「分かってるって。」


ダリオは苦笑した。


その横でガレスが森へ目を向ける。


「……静かですね。」


「そうか?」


「えぇ。」


ガレスは眉をひそめた。


「魔物どころか、鳥の鳴き声まで止んでる。」


その言葉でシグも周囲へ視線を走らせた。


確かに違和感がある。


森は生きている。


風が吹けば葉が揺れ、鳥が鳴き、獣が動く。


だが今は。


まるで森そのものが息を潜めているようだった。


ザインも歩みを止める。


「……いるな。」


その一言で直属部隊全員の空気が変わった。


武器へ自然と手が伸びる。


殺気。


しかも一つや二つではない。


四方から感じる。


その瞬間だった。


**――ドォォン!!**


轟音と共に大木が倒れる。


街道を塞ぐように地面へ叩きつけられ、土煙が舞い上がった。


「来るぞ!」


ガレスが叫ぶ。


木々の上。


岩陰。


街道の正面。


四人の人影がゆっくりと姿を現した。


全員黒衣。


全員武器を持っていない。


だが。


纏う空気だけで分かる。


強い。


「ようやく見つけた。」


中央に立つ大男が笑う。


二メートルを超える巨体。


鍛え抜かれた肉体。


「第一軍直属。」


「副団長ザイン。」


ザインは相手を静かに見据えた。


「何者だ。」


「名乗るほどでもねぇ。」


男は肩を鳴らした。


「俺たちはアストラ教団。」


その名を聞いた瞬間。


空気が一変した。


リナが小さく目を見開く。


「アストラ……。」


「こんなところで会えるとは思わなかったぜ。」


男の口元が吊り上がる。


「教祖様も喜ぶ。」


その言葉と同時に。


周囲から十数人の黒衣が飛び出した。


「雑魚は任せろ!」


ダリオが真っ先に飛び込む。


剣を一閃。


二人。


三人。


一瞬で倒れる。


ガレスも大剣を薙ぎ払い、まとめて吹き飛ばす。


シグの姿はいつの間にか消えていた。


気付けば黒衣の男たちが次々と崩れ落ちていく。


リナは無詠唱で火球を放つ。


爆炎が森を赤く染めた。


「弱ぇな。」


ダリオが鼻で笑う。


「これで終わりか?」


「いや。」


ザインだけは剣を抜かない。


視線はずっと。


四人だけを見ていた。


「……まだだ。」


その瞬間。


四人が同時に前へ出る。


一歩。


それだけで空気が重くなる。


ダリオの笑みが消えた。


「おいおい……。」


ガレスも大剣を握り直す。


「こいつら。」


「さっきの連中とは別格だ。」


中央の男が笑う。


「ようやく気付いたか。」


「俺はグラン。」


「こっちはボルグ。」


「ジード。」


「エルマ。」


「アストラ教団実験部隊。」


四人が横一列に並ぶ。


その圧力に、森の空気が張り詰めた。


ザインは静かに一歩前へ出る。


しかし。


その腕をガレスが掴んだ。


「副団長。」


ザインは振り返る。


ガレスは笑っていた。


「ここは俺たちに任せてください。」


「何言って――」


「獣王国へ行くのが最優先でしょう。」


リナも頷く。


「この人たちの狙いは副団長です。」


「ここで足止めされる方が困ります。」


ダリオが剣を肩へ担ぐ。


「酒の約束、忘れてませんよな?」


シグは短剣を抜き、小さく言った。


「俺たちは。」


「第一軍直属です。」


ザインは四人を見渡した。


誰一人として迷っていない。


恐れてもいない。


その顔を見て、小さく笑った。


「……分かった。」


「だが。」


「死ぬな。」


ガレスが豪快に笑う。


「誰に言ってんですか。」


「副団長。」


「帰ったら一杯奢ってくださいよ。」


ザインは踵を返す。


その横を。


ミレイアが駆け抜けた。


「私は副団長に何かあればすぐ伝えられる位置まで下がります!」


「頼んだ。」


短い返事。


そしてザインは獣王国への道を走り出した。


残された四人は、それぞれ一歩前へ出る。


グランが笑う。


「逃がしたのか。」


ガレスは大剣を構えた。


「違ぇよ。」


「俺たちだけで十分だからだ。」


その瞬間。


四つの戦場が、静かに幕を開けた。


第33話をお読みいただきありがとうございました!


今回は、第一軍直属部隊が本格的に活躍する回となりました。


これまで「ザインの部下」として登場することが多かった彼らですが、それぞれが第一軍直属に選ばれた実力者です。


そして物語の最後、彼らの前に現れたのは、これまでとは明らかに格の違う四人の敵。


直属部隊はこの強敵を相手に、どこまで戦うことができるのか。


次回、第34話『激闘』。


第一軍直属部隊の真価を、ぜひ見届けていただければ嬉しいです!


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