接敵
ラウゼン王国での任務を終え、ザインたちは新たな目的地――獣人王国ガルディアへ向かいます。
ですが、旅というものは目的地へ辿り着くまでが旅。
新たな土地へ向かうその道中でも、世界は静かに動き続けています。
それでは、第33話をお楽しみください。
翌朝。
ラウゼン王国、王城前。
第一軍直属部隊は既に出発の準備を終えていた。
馬車へ荷物を積み込み、武器や食料の最終確認を行う。
「副団長、準備完了しました。」
ガレスが報告する。
「ありがとう。」
ザインは頷くと、ゆっくり王城を見上げた。
「名残惜しいですか?」
リナが尋ねる。
「少しね。」
「いい国だった。」
その言葉に、直属部隊も静かに頷いた。
そこへ。
「ザイン。」
レオニスが歩いてくる。
隣にはリシェルの姿もあった。
「見送りに来てくれたんだ。」
「当然だ。」
レオニスは笑う。
「恩人を見送らない王などいない。」
ザインも笑った。
「大げさだなぁ。」
「事実だ。」
短く言い切る。
リシェルが一歩前へ出た。
「ザイン様。」
「はい。」
「短い間でしたが、本当にありがとうございました。」
深く頭を下げる。
ザインは少し困ったように笑った。
「そんなに畏まらなくても。」
「いえ。」
「ラウゼン王国を代表して、お礼を申し上げます。」
その真っ直ぐな言葉に、ザインも姿勢を正した。
「こちらこそ。」
「みんな温かく迎えてくれて嬉しかった。」
「また来ます。」
リシェルの表情が少し明るくなる。
「本当ですか?」
「うん。」
「今度は観光で。」
「約束。」
リシェルは嬉しそうに微笑んだ。
「はい。」
「約束です。」
その様子を見ていたレオニスが口元を緩める。
「安心した。」
「ラウゼンに帰ってくる理由が一つ増えたな。」
「レオニス。」
「ん?」
「からかうなよ。」
「はは。」
珍しく声を出して笑う。
リシェルは少し頬を赤くしながら兄を軽く睨んだ。
「お兄様。」
「何だ。」
「余計なことは仰らないでください。」
「そうか?」
「そうです。」
ザインは思わず吹き出した。
「仲良いなぁ。」
「昔からこうなんです。」
リシェルが少し恥ずかしそうに笑う。
レオニスはザインへ手を差し出した。
「短い間だったが。」
「助かった。」
ザインもその手を握る。
「こちらこそ。」
「また会おう。」
「ああ。」
固く握られた手。
戦場で出会った二人は、今では友と呼べる存在になっていた。
「それじゃ。」
ザインは直属部隊へ振り返る。
「行こうか。」
「了解!」
馬車がゆっくりと動き出す。
リシェルは姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。
◇
ラウゼン王国を出発して三日。
獣王国へ続く街道を、ザイン率いる第一軍直属部隊は進んでいた。
ラウゼン王国を離れたことで、人の往来はほとんどなくなり、周囲を囲む木々だけが風に揺れている。
「あと二日ってところか。」
地図を見ながらリナが呟く。
「獣王国かぁ。」
ダリオは腕を組み、大きく伸びをした。
「人間嫌いって話だろ?歓迎はされねぇだろうな。」
「歓迎されるために行くわけじゃない。」
ザインは前を向いたまま答える。
「目的は魔人の情報だ。」
「分かってるって。」
ダリオは苦笑した。
その横でガレスが森へ目を向ける。
「……静かですね。」
「そうか?」
「えぇ。」
ガレスは眉をひそめた。
「魔物どころか、鳥の鳴き声まで止んでる。」
その言葉でシグも周囲へ視線を走らせた。
確かに違和感がある。
森は生きている。
風が吹けば葉が揺れ、鳥が鳴き、獣が動く。
だが今は。
まるで森そのものが息を潜めているようだった。
ザインも歩みを止める。
「……いるな。」
その一言で直属部隊全員の空気が変わった。
武器へ自然と手が伸びる。
殺気。
しかも一つや二つではない。
四方から感じる。
その瞬間だった。
**――ドォォン!!**
轟音と共に大木が倒れる。
街道を塞ぐように地面へ叩きつけられ、土煙が舞い上がった。
「来るぞ!」
ガレスが叫ぶ。
木々の上。
岩陰。
街道の正面。
四人の人影がゆっくりと姿を現した。
全員黒衣。
全員武器を持っていない。
だが。
纏う空気だけで分かる。
強い。
「ようやく見つけた。」
中央に立つ大男が笑う。
二メートルを超える巨体。
鍛え抜かれた肉体。
「第一軍直属。」
「副団長ザイン。」
ザインは相手を静かに見据えた。
「何者だ。」
「名乗るほどでもねぇ。」
男は肩を鳴らした。
「俺たちはアストラ教団。」
その名を聞いた瞬間。
空気が一変した。
リナが小さく目を見開く。
「アストラ……。」
「こんなところで会えるとは思わなかったぜ。」
男の口元が吊り上がる。
「教祖様も喜ぶ。」
その言葉と同時に。
周囲から十数人の黒衣が飛び出した。
「雑魚は任せろ!」
ダリオが真っ先に飛び込む。
剣を一閃。
二人。
三人。
一瞬で倒れる。
ガレスも大剣を薙ぎ払い、まとめて吹き飛ばす。
シグの姿はいつの間にか消えていた。
気付けば黒衣の男たちが次々と崩れ落ちていく。
リナは無詠唱で火球を放つ。
爆炎が森を赤く染めた。
「弱ぇな。」
ダリオが鼻で笑う。
「これで終わりか?」
「いや。」
ザインだけは剣を抜かない。
視線はずっと。
四人だけを見ていた。
「……まだだ。」
その瞬間。
四人が同時に前へ出る。
一歩。
それだけで空気が重くなる。
ダリオの笑みが消えた。
「おいおい……。」
ガレスも大剣を握り直す。
「こいつら。」
「さっきの連中とは別格だ。」
中央の男が笑う。
「ようやく気付いたか。」
「俺はグラン。」
「こっちはボルグ。」
「ジード。」
「エルマ。」
「アストラ教団実験部隊。」
四人が横一列に並ぶ。
その圧力に、森の空気が張り詰めた。
ザインは静かに一歩前へ出る。
しかし。
その腕をガレスが掴んだ。
「副団長。」
ザインは振り返る。
ガレスは笑っていた。
「ここは俺たちに任せてください。」
「何言って――」
「獣王国へ行くのが最優先でしょう。」
リナも頷く。
「この人たちの狙いは副団長です。」
「ここで足止めされる方が困ります。」
ダリオが剣を肩へ担ぐ。
「酒の約束、忘れてませんよな?」
シグは短剣を抜き、小さく言った。
「俺たちは。」
「第一軍直属です。」
ザインは四人を見渡した。
誰一人として迷っていない。
恐れてもいない。
その顔を見て、小さく笑った。
「……分かった。」
「だが。」
「死ぬな。」
ガレスが豪快に笑う。
「誰に言ってんですか。」
「副団長。」
「帰ったら一杯奢ってくださいよ。」
ザインは踵を返す。
その横を。
ミレイアが駆け抜けた。
「私は副団長に何かあればすぐ伝えられる位置まで下がります!」
「頼んだ。」
短い返事。
そしてザインは獣王国への道を走り出した。
残された四人は、それぞれ一歩前へ出る。
グランが笑う。
「逃がしたのか。」
ガレスは大剣を構えた。
「違ぇよ。」
「俺たちだけで十分だからだ。」
その瞬間。
四つの戦場が、静かに幕を開けた。
第33話をお読みいただきありがとうございました!
今回は、第一軍直属部隊が本格的に活躍する回となりました。
これまで「ザインの部下」として登場することが多かった彼らですが、それぞれが第一軍直属に選ばれた実力者です。
そして物語の最後、彼らの前に現れたのは、これまでとは明らかに格の違う四人の敵。
直属部隊はこの強敵を相手に、どこまで戦うことができるのか。
次回、第34話『激闘』。
第一軍直属部隊の真価を、ぜひ見届けていただければ嬉しいです!




