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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
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静かなる異変

ラウゼン王国での日々も、いよいよ一区切り。


平和を取り戻した街の裏で、世界は静かに動き始めます。


今回は久しぶりに、あの二人も登場です。


ラウゼン王国での復興支援が始まってから、およそ二週間。


王都はすっかり活気を取り戻していた。


倒壊していた建物の多くは修復され、人々の表情にも笑顔が戻っている。


市場には再び商人たちの声が響き、子どもたちは広場を駆け回っていた。


「副団長!」


直属部隊の一人が駆け寄ってくる。


「西地区の修復も完了しました!」


「本当?」


「はい! これで予定されていた復興作業は全て終了です!」


ザインは街を見渡した。


あの日とは別の街のようだった。


「……よかった。」


自然と笑みがこぼれる。


その時だった。


「ザイン。」


聞き慣れた声がする。


「レオニス。」


レオニスも街を見回し、小さく息を吐いた。


「ようやくここまで来たな。」


「うん。」


「本当に助かった。」


「俺だけじゃないよ。」


ザインは後ろを振り返る。


直属部隊。


ラウゼン騎士団。


冒険者。


そして何より、この街の住民たち。


「みんなで直した街だから。」


レオニスは静かに頷いた。


「そうだな。」


すると、一人の兵士が駆け込んできた。


「陛下!」


「どうした。」


「エルグランからお越しになっていたギルドの皆様が、そろそろ出発されるそうです。」


ザインが反応する。


「もう?」


「はい。」


「分かった。」


レオニスはザインを見る。


「見送りに行ってこい。」


「いいの?」


「こちらはもう大丈夫だ。」


「ありがとう。」


ザインは直属部隊を連れ、正門へ向かった。



正門前。


荷馬車の準備は既に終わっていた。


カイルは荷台に腰掛け、ロイドは最終確認をしている。


セレナは御者と何か話していた。


「おーい!」


ザインが手を振る。


「お。」


カイルが笑う。


「来たな!」


「もう帰っちゃうの?」


「依頼は終わったからな。」


ロイドが答える。


「ギルドにも仕事が山積みだ。」


「そっか。」


少しだけ寂しい。


カイルがザインの肩を叩く。


「そんな顔すんな。」


「また会えるだろ。」


「そうだけどさ。」


「今度は依頼じゃなく遊びで会おうぜ。」


「いいね。」


ザインが笑う。


「約束。」


「約束だ。」


二人は軽く拳を合わせた。


ロイドが口を開く。


「ザイン。」


「ん?」


「体には気を付けろ。」


「分かってる。」


「本当か?」


「……たぶん。」


「信用できんな。」


珍しくロイドが笑う。


その横でセレナが腕を組んだ。


「無茶だけはしないこと。」


「努力する。」


「努力じゃなくて守りなさい。」


「善処します。」


「その返事が一番信用できないのよ。」


ザインは苦笑する。


「ひどいなぁ。」


「事実よ。」


四人で笑い合う。


直属部隊の五人は少し離れた場所からその様子を見ていた。


一人が小さく呟く。


「副団長、あんな顔もするんですね。」


「昔の仲間だからだろう。」


「なんだか安心しました。」


「副団長にも新人時代があったんだなぁ。」


「おい。」


ザインが聞こえていたらしい。


「そこ、聞こえてるから。」


「失礼しました!」


一斉に頭を下げる。


カイルが大笑いした。


「いい部下持ったな!」


「ほんとだよ。」


ザインも笑う。


すると、ロイドが一通の封筒を取り出した。


「そうだ。」


「これを預かっている。」


「ん?」


「イリスからだ。」


ザインは受け取る。


「珍しい。」


「開けてみろ。」


封を切る。


中から出てきたのは、一枚だけの便箋だった。


『復興支援、お疲れ様。』


『まずはラウゼン王国の皆さんが落ち着いたと聞いて安心したわ。』


『それと、必要な物資は今後もいつでも送れるよう準備してあるから安心して。』


『ノアが張り切って倉庫を整理しているわ。』


ザインは思わず笑う。


「ノアらしい。」


セレナも小さく笑った。


「目に浮かぶわね。」


ザインは続きを読む。


『細かい報告については、もう少し情報が集まってから送るわ。』


『だから今は、少しだけ休みなさい。』


『あなたは頑張りすぎるから。』


『イリスより。』


読み終えたザインは、小さく息を吐いた。


「……休め、か。」


「イリスらしいな。」


ロイドが言う。


「いつもお前のことをよく見ている。」


「そうだね。」


ザインは封筒を大切に胸ポケットへしまった。


「伝えといて。」


「ありがとうって。」


「ああ。」


ロイドは静かに頷く。


御者が声を上げた。


「そろそろ出発します!」


「おし。」


カイルが荷台へ飛び乗る。


「じゃあな!」


「また会おう!」


「うん!」


セレナも小さく手を振る。


「元気で。」


「そっちもね。」


ロイドは最後に一言だけ。


「困ったら連絡しろ。」


「もちろん。」


荷馬車がゆっくりと動き始める。


ザインは見えなくなるまで手を振り続けた。


「……行っちゃいましたね。」


直属部隊の一人が呟く。


「うん。」


少し寂しい。


でも、不思議と心は温かかった。


四年経っても。


離れていても。


あの三人は変わらない。


「さて。」


ザインが振り返る。


「俺たちも戻ろうか。」


「はい!」


復興を終えたラウゼン王国。


その平和な空気は、まだ誰も知らない新たな異変の前触れだった。



――同じ頃。


エルグラン王国。


ヴァレンシュタイン家。


当主執務室。


机の上には、各国から届いた報告書が山のように積まれていた。


「イリスさん。」


静かに扉が開く。


「新しい報告書が届きました。」


「ありがとう、ノア。」


ノアは丁寧に一礼すると、数枚の書類を机へ並べた。


「ラウゼン王国は?」


「復興は順調です。」


「ザインさんたちの任務も、もうすぐ終わるかと。」


「そう。」


イリスは小さく安堵の息を漏らす。


「少しは休めるといいのだけれど。」


ノアは苦笑した。


「難しいでしょうね。」


「本人が休む気ありませんから。」


「……それもそうね。」


二人は思わず笑う。


イリスは一枚ずつ報告書へ目を通していく。


南方の交易状況。


北方の天候。


西部国境の魔物被害。


どれも平時なら珍しくない内容だった。


しかし。


一枚の報告書で、手が止まる。


「……これは。」


ノアも資料を覗き込む。


『獣人王国ガルディア。


 ここ数か月、若い獣人の行方不明者が急増。』


「また増えてる。」


イリスが小さく呟く。


「前回より二十七名……。」


ノアは別の資料を重ねる。


「こちらは商会経由です。」


イリスは受け取った。


『旅商人の証言。


 夜中、黒いローブを纏った集団が獣人を連れ去っていた。』


「証言だけでは弱いわね。」


「はい。」


「でも。」


イリスは机へ地図を広げた。


赤い印がいくつも付いている。


「全部、この辺り。」


「ええ。」


ノアも頷く。


「場所が偏っています。」


「偶然とは思えない。」


イリスはさらに別の資料を手に取る。


今度は冒険者ギルド経由。


『原因不明の魔物増加。


 調査隊二班が消息不明。』


「……。」


部屋に静かな空気が流れた。


ノアが口を開く。


「イリスさん。」


「ん?」


「ここ半年で起きた出来事を重ねてみました。」


一枚の大きな地図。


各国で起きた事件が細かく書き込まれている。


そのほとんどは無関係に見えた。


だが。


獣人王国周辺だけ、異様に印が集中している。


「やっぱり……。」


イリスの表情が変わる。


「何かある。」


ノアも同意した。


「僕もそう思います。」


その時だった。


コンコン。


扉がノックされる。


「失礼します。」


一人の使用人が部屋へ入る。


「奥様。」


「例の商人がお見えになりました。」


「通して。」


入ってきたのは、中年の商人だった。


「ヴァレンシュタイン様。」


「約束の情報を。」


「ええ。」


男は周囲を確認し、声を潜める。


「最近、裏市場で妙な名前を耳にします。」


「名前?」


「ええ。」


「――アストラ。」


イリスとノアの視線が交わる。


「その組織をご存知ですか?」


商人は首を横に振った。


「詳しくは。」


「ただ。」


「金払いが異様に良く。」


「人を探しているそうです。」


「人?」


「魔力の高い者を。」


部屋の空気が一気に重くなる。


イリスは机を軽く叩いた。


「ありがとう。」


「十分よ。」


商人が去る。


扉が閉まる。


ノアが静かに言った。


「イリスさん。」


「ええ。」


「繋がったわね。」


イリスは椅子へ深く腰掛ける。


獣人王国。


行方不明者。


魔力の高い者。


黒いローブ。


そして――アストラ。


「証拠はまだ足りない。」


「でも。」


「嫌な予感しかしない。」


ノアも珍しく険しい表情だった。


「ザインさんへ知らせますか?」


イリスは少し考える。


そして頷いた。


「ええ。」


机へ便箋を置く。


ペンを走らせる。


『ザインへ。』


『追加で気になる情報が入ったわ。』


『獣人王国ガルディアで、若い獣人の行方不明者が急増している。』


『現時点では確証はないけれど、アストラという組織が関わっている可能性があるわ。』


そこで一度ペンが止まる。


イリスは窓の外を見る。


「……。」


ノアが静かに待つ。


再びペンが動いた。


『これは証拠ではなく、私の勘。』


『でも、嫌な予感がする。』


『できるだけ早く確認してちょうだい。』


『気を付けて。』


『イリスより。』


封を閉じる。


ノアが受け取った。


「すぐ伝書鳩を飛ばします。」


「お願い。」


ノアが部屋を出て行く。


一人残ったイリスは、広げられた世界地図を見つめていた。


「……何も起きなければいいのだけれど。」


しかし、その願いとは裏腹に。


世界は静かに、確実に動き始めていた。


第32話をお読みいただきありがとうございました!


今回は戦闘こそありませんでしたが、第2章の物語が本格的に動き出すための大切な一話となりました。


久しぶりに登場したイリスとノア。

離れていても、ザインを支え続ける二人の存在は、第2章でも欠かせないものになっていきます。


そして、獣人王国で起きている不可解な事件。


まだ点と点に過ぎない情報ですが、それらは少しずつ一つの線へと繋がり始めています。


次回、ザインたちは新たな任務のため、ラウゼン王国を後にします。


新たな国で待ち受ける出会いと事件を、ぜひお楽しみに!


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