変化した環境と変わらない仲間たち
ラウゼン王国襲撃から数日。
王都は少しずつ活気を取り戻し始めていました。
戦いが終わったからこそ見える景色。
そして、久しぶりの再会。
今回は少しだけ肩の力を抜いて、お楽しみください。
ラウゼン王都襲撃から数日。
焼け焦げた建物。
崩れた石畳。
瓦礫の山。
王都には、まだあの日の傷跡が色濃く残っていた。
それでも。
人々は前を向いていた。
朝早くから響く木槌の音。
資材を運ぶ荷馬車。
炊き出しの匂い。
子どもたちの笑い声も、少しずつ街へ戻り始めている。
「ザイン! そっち頼む!」
「了解!」
巨大な石柱の下へ潜り込み、そのまま肩で持ち上げる。
「せーの!」
周囲の兵士たちが一斉に押す。
ゴロゴロと音を立てながら石柱が転がり、道が開いた。
「よし! 次!」
「副団長、休憩してください!」
直属の部下が声を掛ける。
「まだ大丈夫。」
「朝から休んでませんよ。」
「君たちもでしょ。」
「僕たちは慣れてます。」
「俺も慣れてる。」
「それは違います。」
「違うの?」
「違います。」
「そっか。」
そんなやり取りをしていると——
「ザイン。」
聞き慣れた声がした。
振り向く。
「レオニス。」
両肩に木材を担いだレオニスが歩いてくる。
「そっちは終わったの?」
「ああ。一通り片付いた。」
「相変わらず仕事早いね。」
「お前ほどではない。」
二人並んで木材を運ぶ。
数日前まで王と騎士団副団長。
そんな関係だったはずなのに。
今では、同じ現場で汗を流す仲間だった。
「陛下ーー!!」
また聞こえた。
ザインは思わず苦笑する。
「あ、来た。」
王城から数人の近衛騎士が駆け寄ってくる。
「陛下! またこちらにおられたのですか!」
「いたら悪いか?」
「悪くはありませんが!」
「では問題ない。」
「問題大ありです!」
レオニスは木材を降ろしながら答える。
「まだ人手が足りない。」
「そのために我々がおります!」
「足りていない。」
「それでも陛下がおやりになる仕事では——」
「民が家を失い、街を直している。」
レオニスは街を見渡した。
「ならば俺も手を動かす。それだけだ。」
騎士たちは何も言えなくなる。
ザインは横で苦笑した。
「毎日こんな感じ?」
「毎日だ。」
「大変だねぇ。」
「他人事のように言うな。」
「止められてるのレオニスだし。」
「お前も手伝え。」
「ちゃんと働いてるじゃん。」
「口も動いている。」
「それは否定できない。」
思わず二人で笑う。
近くで作業していた住民たちも、つられて笑顔になる。
そんな時だった。
一人の少女が、おずおずとザインへ近付いてきた。
「あの……」
「ん?」
十歳くらいだろうか。
両手で木剣を抱えている。
「お兄ちゃん!」
「俺?」
「強いんでしょ!」
「まあ、一応。」
「勝負して!」
「え?」
少女は木剣を突き出す。
周囲の大人たちが慌てる。
「こら!」
「ごめんなさい!」
「邪魔しちゃ駄目でしょう!」
少女はしゅんと俯いた。
ザインは笑う。
「いいよ。」
「え?」
「少しだけね。」
木剣を受け取る。
「じゃあ、来て。」
少女は嬉しそうに構えた。
「えいっ!」
勢いよく振り下ろされる木剣。
ザインは軽く受け流す。
「ほら。」
「もう一回!」
「はい。」
「えい!」
「甘い。」
「えー!」
「もっと腰を使って。」
「こう?」
「そうそう。」
いつの間にか周囲には人だかりが出来ていた。
「副団長が遊んでる……」
直属の部下が呟く。
レオニスは腕を組みながら笑っていた。
「意外だな。」
「何が?」
「戦い方を教えている。」
「遊びだからね。」
「それでも、お前は手を抜き過ぎない。」
「怪我しない程度にはね。」
少女は何度も挑んでくる。
十分ほど経った頃。
「まいりました!」
木剣を置いて頭を下げた。
ザインも笑って木剣を返す。
「強くなったらまた勝負しよう。」
「うん!」
少女は嬉しそうに走っていった。
その姿を見送りながらレオニスが呟く。
「子どもに人気があるんだな。」
「そうかな?」
「気付いていないのか。」
「?」
「ここ数日、お前が作業している場所には必ず子どもが集まる。」
「そうだった?」
「そうだ。」
ザインは周囲を見る。
確かに。
少し離れた場所から何人もの子どもがこちらを見ていた。
目が合うと手を振ってくる。
ザインも振り返す。
「……ほんとだ。」
「英雄だからだろう。」
「やめてよ、その呼び方。」
「違うのか?」
「違わないけど、好きじゃない。」
レオニスは少しだけザインを見る。
「そうか。」
それ以上は聞かなかった。
そこへ——
「副団長!」
直属の部下が再び駆け寄ってくる。
「どうした?」
「エルグランより支援物資が到着しました!」
「もう来た?」
「はい!」
「思ったより早かったね。」
「かなりの量です。」
「分かった。」
手袋を外しながら立ち上がる。
「レオニス。」
「ああ。」
「確認してくる。」
「頼む。」
ザインは直属部隊と共に城門へ向かった。
王都の正門前。
何台もの荷馬車が列を作って停まっていた。
食料。
医薬品。
毛布。
建築資材。
復興に必要な物資が次々と運び込まれている。
「……すご。」
思わず声が漏れた。
「俺、こんなに頼んでないんだけどなぁ。」
苦笑しながら馬車へ近付く。
「エルグラン第一軍副団長ザインです。支援物資の確認に——」
そこで言葉が止まった。
馬車の先頭。
腕を組んで立っている男と目が合う。
「よう。」
「……ロイド?」
その瞬間。
後ろから勢いよく飛び出してくる影。
「ザイン!」
「うわっ!」
思い切り肩を叩かれる。
「カイル!?」
「久しぶりだな!」
「痛い痛い!」
豪快に笑うカイル。
その後ろでは、一人の女性がゆっくりと荷台から降りてくる。
「久しぶりね。」
「セレナ!」
四年。
イリスやノアとは定期的に会っていた。
だが、この三人が揃うのは本当に久しぶりだった。
「なんで三人がいるの!?」
ロイドが静かに答える。
「ヴァレンシュタイン家からギルドへ依頼が来た。」
「物資運搬と護衛ね。」
セレナが続ける。
「届け先を見たらお前だった。」
カイルが笑う。
「だったら俺たちが行くしかねぇだろ!」
「いや、そんな理由で決まるの!?」
「決まった。」
ロイドが真顔で頷く。
「ギルド長にも許可は取ってある。」
「自由だなぁ……。」
思わず笑ってしまう。
直属部隊の五人も後ろで目を丸くしていた。
ザインは振り返る。
「紹介するよ。」
「俺がギルドに入った頃、お世話になった先輩たち。」
「ロイド。」
「カイル。」
「セレナ。」
直属部隊は一斉に頭を下げた。
「初めまして!」
「副団長にはいつもお世話になっています!」
カイルがニヤリと笑う。
「へぇ〜。」
「お前、人の上に立ってんだな。」
「その反応何?」
「いやぁ。」
「昔のお前知ってると不思議でさ。」
ロイドも小さく頷く。
「最初は毎日のように怒られていたな。」
「ロイドまで!?」
セレナが腕を組む。
「依頼を受けて一日目で迷子になったものね。」
「それは一回だけ!」
「二回。」
「二回だったっけ?」
「三回よ。」
「増えてる!」
直属部隊が笑いを堪えている。
「副団長でもそんな時代が……。」
「ちょっと!」
「信じられません。」
「信じて!」
カイルが腹を抱えて笑う。
「いやぁ!懐かしい!」
「昔はこいつ、失敗ばっかだったからな!」
「今言わなくていいじゃん!」
「今だから言えるんだろ!」
その空気に、周囲で作業していた兵士たちまで笑い始める。
レオニスもゆっくり歩いてきた。
「こちらが噂の先輩方か。」
ロイドたちはすぐ姿勢を正した。
「ラウゼン国王陛下。」
「この度は——」
「いい。」
レオニスが軽く手を上げる。
「今は仕事の最中だ。」
「畏まる必要はない。」
「……承知しました。」
「それより。」
レオニスが馬車を見る。
「これほどの物資を短期間で集めるとは。」
ロイドが答える。
「ヴァレンシュタイン家が各地の商会へ声を掛けたそうです。」
「なるほど。」
「我々は運ぶだけです。」
「十分助かる。」
レオニスは深く頭を下げた。
「ラウゼン王国を代表して礼を言う。」
「ありがとうございます。」
王が頭を下げる。
その姿に、兵士たちも静かになった。
カイルが小さく呟く。
「……いい王様だな。」
ザインも自然と頷いていた。
「ああ。」
「俺もそう思う。」
そこへ一人の兵士が走ってくる。
「陛下!」
「どうした。」
「東地区の瓦礫撤去が終了しました!」
「負傷者は?」
「軽傷者のみです!」
「分かった。」
レオニスはザインを見る。
「俺は向こうへ行く。」
「了解。」
「物資は頼んだ。」
「任せて。」
レオニスは軽く手を挙げ、そのまま歩いていく。
その背中を見送りながら、カイルが呟く。
「ザイン。」
「ん?」
「いい人に出会ったな。」
「うん。」
短い返事だった。
でも、それだけで十分だった。
ロイドが荷馬車へ向き直る。
「さて。」
「荷降ろしを始めるか。」
「よし!」
ザインが手を叩く。
「みんな!」
直属部隊も集まる。
「今日は一気に終わらせるよ!」
「了解!」
「ロイドたちは長旅で疲れてるだろうし、荷降ろし終わったら今日はゆっくり飯でも食べよう!」
「賛成!」
カイルが真っ先に手を挙げる。
セレナは呆れたようにため息をつく。
「あなたはそれしかないの?」
「飯は大事だろ!」
「否定はしないけど。」
ロイドが珍しく笑う。
「四年経っても変わらないな。」
ザインも笑った。
「あはは。」
「そうかも。」
四年という時間は長かった。
立場も変わった。
住む場所も変わった。
背負うものも変わった。
それでも。
こうして顔を合わせれば。
あの頃と何一つ変わらない空気が、そこにはあった。
第30話をお読みいただきありがとうございます!
今回は戦闘ではなく、復興と日常を中心に描いてみました。
第2章は第1章よりも世界が大きく広がる物語です。
だからこそ、「守るべき国」や「帰ってきたくなる場所」を丁寧に描いていきたいと思っています。
そして久しぶりのロイド、カイル、セレナ。
四年という時間が流れても、ザインとの距離感はあの頃のままです。
レオニスという王も、少しずつどんな人物なのか伝わってきたでしょうか。
王でありながら誰よりも民の近くに立つ――そんな彼だからこそ、ザインも自然と信頼を寄せています。
次回は、ラウゼン王国の新たな一面。
そして、レオニスの妹も登場予定です。
引き続きお楽しみください!




