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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
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28/60

戦場で出会った男

ラウゼン王国を襲った謎の集団。


救援に駆けつけたザインたちは、王都各地で襲撃者との戦闘を開始する。


そしてその先でザインが出会ったのは、傷だらけになりながらも民を守り続ける、一人の男だった。


地面を蹴った。


視界が一気に流れる。


敵の一人がこちらを見た。


「な――」


声を発するより先に、その懐へ潜り込む。


踏み込む瞬間だけ脚へ力を集中。


剣を振る瞬間、今度は肩から腕へ。


そのまま横薙ぎに振り抜いた。


「ぐっ――!」


男の身体が吹き飛ぶ。


止まらない。


すぐ隣。


剣を持った男が振りかぶっている。


一歩踏み込み、その内側へ。


柄頭を叩き込み、体勢が崩れたところへ蹴りを入れる。


「がっ!」


さらに一人。


背後から魔法。


「おっと」


身体を捻る。


火球が鼻先を通過した。


そのまま振り向き――。


「そこ!」


地面を蹴る。


一瞬で距離を詰め、剣の腹で男を殴り飛ばした。


「な、なんだこいつ……!」


敵の一人が後退する。


「囲め! 一人だ!」


その声に反応して、周囲の敵が一斉に俺へ向き直った。


十人。


いや、もう少しいるか。


「一人ならやれる! 囲め!!」


「馬鹿!!」


別の男が叫んだ。


「そいつを囲むな!!」


「は?」


思わずそっちを見る。


「なんで?」


囲まれた方が普通不利じゃないの?


「《国斬り》だぞ!!」


「だからその呼び方やめろって!」


俺が言うと、何人かが本気で怯えた顔をした。


……なんなんだよ。


「来ないならこっちから行くけど」


「ひっ――!」


「ザイン!」


後ろから声。


振り返るより先に、大きな盾が俺の横を通過した。


ガァン!!


飛んできた魔法が盾に直撃する。


「前に出すぎです」


「ダリオ。来ると思ってた」


「なら最初から待っていてください」


「いや、行けそうだったから」


「副団長」


「はいはい。ごめんって」


ダリオが巨大な盾を構えたまま前へ出る。


敵の剣が振り下ろされる。


盾で受ける。


そのまま力任せに押し返した。


「ぐっ……!」


「ザイン副団長」


「ん?」


「左を」


「了解!」


ダリオが正面を塞ぐ。


俺はその横を抜けた。


「おらぁ!!」


別方向から豪快な声。


ガレスの一撃が敵の防御ごと吹き飛ばした。


「おいザイン!」


「何!」


「全部取るな! 俺らの仕事なくなるだろ!」


「そっちにもいるじゃん!」


「お前がこっちに飛ばしてんだよ!」


「知らないよ!」


俺が蹴り飛ばした敵がガレスの方へ転がっていく。


「ほら一人追加!」


「いらねぇ!」


ガレスが叫びながら、その敵を殴り飛ばす。


その瞬間。


「ザイン副団長!」


遠くからリナの声。


「そのまま!」


嫌な予感がして、動きを止める。


直後。


俺の頬のすぐ横を光が走った。


「うおっ!?」


背後にいた敵へ直撃。


ドォン!!


「ちっか!!」


「当てません!」


「分かってるけど怖いって!」


「なら動かないでください!」


「戦闘中に無茶言うなよ!」


遠くでリナが次の魔法を準備している。


まあ――当たらないのは分かってる。


だから避けない。


「……ほんと上手くなったよなぁ」


小さく呟く。


「副団長!」


「はいはい!」


目の前へ意識を戻す。


敵が迫る。


剣を握り直した。


     ◇


「こちらへ!」


ミレイアが声を上げる。


「歩ける方は奥へ! 重傷者を先に運んでください!」


王都の一角。


そこには負傷したラウゼン兵や民間人が次々と運び込まれていた。


「痛い……!」


「大丈夫です。すぐ治します」


傷口へ手をかざす。


淡い光が傷を包む。


だが、一人に長く時間はかけない。


「次!」


「こちらの兵士が――」


ミレイアが一瞬だけ見る。


「その方はまだ大丈夫です。先にこちらの子を」


「しかし――」


「呼吸が弱っています。急いで」


「は、はい!」


次。


次。


次。


限られた魔力。


限られた時間。


全員を完全に治す必要はない。


今、命を落としかねない人間を優先する。


『まず死にそうな人から』


ザインの指示。


単純だ。


だからこそ迷わない。


「次の方を!」


     ◇


「ふぅ……」


何人目だ?


数えるのは途中でやめた。


剣を軽く振る。


周囲には倒れた襲撃者。


さすがに最初より数は減ってきた。


「副団長」


「うおっ!?」


真横。


シグ。


「……シグ」


「はい」


「ほんと心臓に悪いから」


「申し訳ありません」


「絶対思ってないでしょ」


「思っています」


「ほんとかなぁ……」


剣を肩へ乗せる。


「で、なんか分かった?」


「敵に所属を示すものはありません」


「国の紋章とかも?」


「ありません」


「そっか……」


「加えて」


シグが倒れている敵を見る。


「妙な点があります」


「何?」


「襲撃者数名の遺体を確認しました」


「うん」


「保有する魔力量が異常です」


「……魔力量?」


「はい」


俺には魔力なんて分からない。


感じることもできない。


だが――。


「……やっぱ変なんだ」


「お気付きでしたか?」


「いや、魔力とかは分かんないけどさ」


倒れている男を見る。


「強いっていうより……なんか変なんだよな」


「変?」


「身体と力が合ってない感じ」


シグが僅かに目を細める。


「……同意見です」


「だよな」


「さらに詳しく調べます」


「頼む」


「では」


「シグ」


「はい」


「無茶すんなよ」


「善処します」


「……俺が言えたことじゃないけど、その返事怖いな」


シグは既に歩き出していた。


「さて……」


俺も行くか。


その時。


遠くから大きな爆発音。


ドォン!!


「……ん?」


南東。


そちらから黒煙が上がった。


「ザイン副団長!」


ダリオが走ってくる。


「南東区画です! 住民の避難が遅れています。敵も相当数が流れ込んでいるようです!」


「……分かった」


「我々も――」


「いや」


剣を握り直す。


「こっち頼む!」


「しかし――」


「すぐ戻るよ!」


「副団長!」


「大丈夫大丈夫!」


地面を蹴る。


屋根へ。


さらに次の建物。


南東区画へ一直線に向かう。


近づくにつれて戦闘音が大きくなる。


「結構いるな……」


屋根の端まで来る。


下を見る。


「……なんだ、あれ」


敵。


十人。


二十人。


いや、もっといる。


その奥には逃げ遅れた住民たち。


老人。


女性。


子供。


そして。


その間に――。


一人の男が立っていた。


     ◇


「はぁ……はぁ……」


男の呼吸は荒かった。


服は破れ、身体の至るところに傷。


剣を握る手にも血が滲んでいる。


それでも。


退かない。


「いい加減に退け!!」


襲撃者が叫ぶ。


男は剣を構え直した。


「断る」


「貴様一人で何ができる!」


「……そうだな」


男が一瞬だけ背後を見る。


そこには怯える民たち。


そして再び敵へ向き直る。


「少なくとも――」


剣を構える。


「この者たちが逃げ切るまで、ここを通さないことくらいはできる」


「……」


屋根の上から見ていた俺は、思わず口元が緩んだ。


「……すげぇ人いるじゃん」


強い。


かなり。


一人であの人数を相手にしていたらしい。


だけど。


「もう限界だろ……」


敵が一斉に動く。


男も動いた。


一人目。


剣を弾く。


二人目。


斬る。


三人目。


魔法。


避け――。


ない。


「っ!」


身体で受けた。


背後に人がいるからだ。


「……なるほど」


男の身体が揺れる。


そこへ。


敵の一人が剣を振り上げた。


男が反応する。


遅い。


「――っ」


仕方ない。


「よっ!」


屋根を蹴った。


ガァァン!!


「なっ!?」


敵の剣を受け止める。


男の目が見開かれた。


「……誰だ」


「援軍」


敵の剣を弾き返す。


「悪い、遅くなった」


「援軍……?」


「エルグランから来た」


男の前へ立つ。


「まだ動ける?」


「……無論だ」


「そっか」


剣を構える。


「じゃあ、もうちょい付き合って」


「……ふっ」


背後から小さな笑い声。


「面白い男だ」


「よく言われる」


敵が向かってくる。


「行くよ!」


「ああ!」


     ◇


速い。


レオニスは目の前の青年を見ていた。


魔法を使っている様子がない。


だが。


「はっ!」


一歩。


敵との距離が消える。


剣が走る。


一人。


身体を捻る。


二人。


蹴り。


三人。


(なんだ、この身体能力は……)


それだけではない。


無駄が少ない。


相手が攻撃する瞬間。


必要なだけ動く。


必要なだけ力を使う。


「危ない!」


「っ!」


レオニスの死角から迫っていた敵を、青年が蹴り飛ばした。


「悪い!」


「助かった!」


直後。


今度は青年の背後。


「後ろだ!」


「おっと!」


レオニスが剣を振る。


敵の剣を弾く。


「ありがと!」


「前を見ろ!」


「見てるって!」


初めて組んだ。


名前すら聞いていない。


それなのに。


妙に戦いやすい。


(……待て)


レオニスの中で。


一つの噂が蘇った。


二年前。


大陸中へ広がった話。


エルグラン王国。


若き騎士。


魔法に頼らず。


剣と己の肉体だけで戦場を駆ける男。


そして。


敵国が恐怖と共につけた異名。


(黒髪……)


(この若さ)


(エルグラン王国の援軍……)


目の前で青年が敵の攻撃を避ける。


懐へ潜る。


一撃。


(この戦い方……)


レオニスの目が細くなる。


(まさか――)


青年が振り返った。


「そっち行った!」


「任せろ!」


レオニスも剣を振るう。


     ◇


最後の一人が倒れた。


「……ふぅ」


剣を下ろす。


「とりあえず、この辺は終わりかな」


「ああ」


隣の男も剣を下ろした。


改めて見ると酷い怪我だ。


「大丈夫?」


「問題ない」


「いや、めっちゃ血出てるけど」


「この程度なら死にはしない」


「そういう問題?」


変な人だな。


男がこちらを見る。


「助かった」


「気にしなくていいよ。仕事だし」


「それでもだ」


男は少しだけ笑った。


「礼を言う。ザイン殿」


「……」


ん?


「俺、名前言ったっけ?」


「いや」


「じゃあなんで知ってんの?」


「有名人だからな」


「……あー」


嫌な予感。


男が口を開く。


「《国斬り》――」


「あー! そこから先はいい!」


「……?」


「その呼び方嫌いなんだよ」


「そうなのか?」


「うん。めちゃくちゃ嫌い」


「……そうか」


男は少し考えて。


「ならば控えよう」


「ありがと」


話が早い。


いい人だな、この人。


「俺はレオニスだ」


「レオニス?」


「ああ」


「よろしく。レオニス」


「……」


なぜか一瞬、レオニスが黙った。


「何?」


「いや」


小さく笑う。


「なんでもない」


「変なの」


まあいいか。


「それより」


レオニスの表情が変わる。


倒れている敵ではない。


背後の民たちを見る。


「まずは救護を進めよう」


「うん」


その言葉には迷いがなかった。


「動ける者から安全な場所へ。負傷者を優先する」


「俺の仲間に治療できる人いるよ」


「ならば重傷者をそちらへ運ぼう」


「分かった」


二人で民の方へ向かう。


「レオニス様……!」


「ご無事だったのですね!」


「俺は大丈夫だ。それより子供たちを先に」


「はい!」


……。


なんか。


めちゃくちゃ慕われてるな。


「レオニスって偉い人?」


「……まあ、それなりにな」


「へぇ」


「興味ないのか?」


「役職とか覚えるの苦手なんだよね」


「そうか」


「うん」


レオニスがまた笑った。


なんなんだ?


     ◇


それからしばらく。


俺たちは救護に回った。


瓦礫をどかす。


人を運ぶ。


火を消す。


ミレイアのところへ負傷者を送る。


気付けば、空は赤く染まり始めていた。


「……腹減った」


「奇遇だな」


隣にいたレオニスが答える。


「レオニスも?」


「ああ。朝から何も食べていない」


「俺も」


「この状況では店も開いていないだろう」


「なんかあるでしょ」


「楽観的だな」


「腹減ってるからね」


結局。


救援物資として配られていた簡単な食事を二人分もらった。


「ここでいい?」


「構わない」


道端。


半壊した建物の壁にもたれかかって座る。


「いただきます」


「……いただきます?」


「言わない?」


「いや。あまり聞かないな」


「そっか」


飯を口へ運ぶ。


「……うま」


「そうか?」


「腹減ってる時はなんでもうまいよ」


「それは分かる」


しばらく無言で食べる。


「ザインは二十歳だったか」


「うん。なんで知ってんの?」


「有名人だと言っただろう」


「あー……そうだった」


「本当に自覚がないんだな」


「ないよ。レオニスは?」


「二十五だ」


「五個上じゃん」


「今気付いたのか?」


「見た目じゃ分かんないって」


「そういうものか」


「そういうもん」


また食べる。


不思議な人だ。


偉そうな喋り方をする割に、全然話しづらくない。


「しかし」


レオニスが俺を見る。


「噂とは随分印象が違う」


「どんな噂?」


「聞きたいか?」


「ちょっとだけ」


「冷酷」


「うん」


「無慈悲」


「うん?」


「敵を前にすれば一切の情けをかけず――」


「誰それ」


「ザインという男だ」


「俺じゃん」


レオニスが吹き出した。


「ははっ!」


「笑うなよ!」


「すまない。あまりにも噂と違うものでな」


「他国の奴ら好き勝手言いやがって……」


俺も笑う。


「まあ……」


レオニスの声が少しだけ落ち着いた。


「二年前の戦争についても聞いている」


「……」


手が止まった。


二年前。


「……そっか」


「ああ」


それだけ。


レオニスは何も聞いてこなかった。


何をしたのか。


どうやったのか。


何人倒したのか。


何も。


「……ありがと」


「何がだ?」


「なんでもない」


「そうか」


それで終わった。


……やっぱり。


いい人だな。


しばらくして、食事を終える。


「よし」


立ち上がる。


「そろそろ戻るかな」


「俺も行こう」


「どこ?」


「城だ」


「城?」


「今回の襲撃について情報を整理する必要がある」


「あー……」


そういえば。


アーヴェルも絶対そこにいるな。


「俺も行く」


「そうするといい」


「レオニスも軍の偉い人なんでしょ?」


「……まあ」


また妙な間。


「それなりにな」


「ふーん」


二人で城へ向かって歩き出す。


王都にはまだ煙が上がっている。


だが、先ほどまで響いていた戦闘音はかなり少なくなっていた。


「ザイン」


「ん?」


「今日は本当に助かった」


「だから気にしなくていいって」


「それでも言っておきたかった」


「そっか」


少し考える。


「じゃあ、どういたしまして」


「ああ」


並んで歩く。


「城までどれくらい?」


「ここからなら、そう遠くない」


「そっか」


大きく伸びをする。


戦って。


人を運んで。


飯も食った。


あとは状況を整理して――。


「じゃ、行こうぜ。レオニス」


「……ああ」


俺たちは並んで、王城へと歩き出した。


お読みいただきありがとうございます!


4年後、初の本格戦闘でした!


第一章の頃と比べると、ザインもかなり戦い慣れています。

そして今回から、直属の仲間たちも少しずつ戦闘に参加していきます!


そんな中で出会ったレオニス。


初対面にもかかわらず一緒に戦い、救助をして、最後には道端で飯を食べるという妙に気の合う二人でした。


一方、襲撃者たちにはどうやら普通ではない部分もあるようで……。


次回、王城へ。

今回の襲撃について情報を整理していきます!


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