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剣しか持ちえない少年の英雄譚  作者: 喜怒哀楽
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27/61

四年後

第一章から四年後――。


それぞれの道を歩み始めたザインたち。


十六歳だったザインも二十歳となり、王国騎士団での日々を過ごしていました。


第二章、開幕です!


王国騎士団に入団してから、四年が経った――。


長かったような気もするし、あっという間だったような気もする。


色々あった。


本当に、色々あった。


十六歳だった俺も、今では二十歳。


そして何をどう間違えたのか――。


「ザイン副団長、おはようございます!」


「おはよう~」


すれ違った騎士に軽く手を上げ、そのまま廊下を歩く。


王国騎士団第一軍。


王国に存在する十の騎士団、その中でも最前線を任されることの多い、いわゆる花形だ。


俺は現在――その第一軍で、副団長なんてものをやっている。


「副団長」


「ん?」


後ろから声をかけられ、振り返る。


そこにいたのはダリオだった。


俺より年上で、身体も俺より一回りデカい。


本人曰く、俺の部下らしい。


いや、実際そうなんだけど。


「本日の訓練ですが、予定通り第三訓練場でよろしいですか?」


「あー……そうだった。今日俺だっけ?」


「はい」


「忘れてた」


「だと思いました」


ダリオが真顔で答える。


ひどくない?


「ザイン副団長!」


今度は廊下の向こうから女の声。


大量の書類を抱えたリナが、小走りでこちらへ向かってくる。


「おはようございます!」


「おはよう~。それ何?」


「副団長の確認待ちの書類です!」


「……俺の?」


「はい!」


「そんなあんの?」


「三日分です!」


「…………」


「ザイン副団長?」


「明日やる」


「昨日も聞きました!」


「じゃあ明後日」


「増えてます!」


そのやり取りを見ていたダリオが小さく息を吐いた。


「おいおい、朝っぱらから何やってんだ、国斬り」


「やめろって、その呼び方」


背後から笑い声。


ガレスだ。


第一軍でもかなり長くいる古参で、俺が入団した頃から知っている。


だからなのか、副団長になった今でも遠慮というものが一切ない。


「いいじゃねぇか。格好いいだろ、《国斬り》」


「どこがだよ」


「他国じゃ有名人だぞ?」


「勝手に呼んでるだけだろ」


「国内じゃ英雄様。国外じゃ国斬り。いやぁ、出世したなぁザイン」


「だからやめろよ~」


笑いながらガレスの肩を軽く押す。


四年もいれば、この程度の弄りには慣れる。


……慣れた、はずだ。


「英雄様、ねぇ……」


自分でも聞こえるか聞こえないかくらいの声が漏れた。


「……そんなんじゃねぇよ」


一瞬。


頭の奥に何かが浮かびそうになる。


土。


血の臭い。


折れた剣。


そして――。


「ザイン副団長」


「うおっ!?」


真横から突然声がして、思わず飛び退いた。


いつの間にか男が立っていた。


黒い服。


ほとんど表情の動かない顔。


シグだ。


「団長がお呼びです」


「……シグ」


「はい」


「普通に来てくれない?」


「普通に来ました」


「絶対嘘だろ。さっきまでいなかったじゃん」


「いました」


「どこに?」


「後ろに」


「怖ぇよ!」


リナが小さく笑う。


ダリオは慣れているのか無反応。


ガレスに至っては腹を抱えて笑っていた。


「朝から元気ですね」


さらにもう一人。


ミレイアが呆れた顔でこちらへ歩いてくる。


「おはよう、ミレイア」


「おはようございます。ところでザイン副団長」


「ん?」


「昨日、右腕を怪我したと聞きましたが」


「ああ。もう治ったよ」


「見せてください」


「いや、本当に――」


「見せてください」


「……はい」


怖い。


素直に腕を差し出す。


ミレイアは俺の袖を捲り、傷が完全に塞がっているのを確認すると、ようやく手を離した。


「……本当に治ってますね」


「だから言ったじゃん」


「ザイン副団長の場合、信用できません」


「俺、副団長なのに信用なくない?」


「そういうところです」


「どういうところ?」


誰も答えてくれなかった。


なんなんだよ。


「副団長」


「あ、そうだった」


シグに言われて思い出す。


団長に呼ばれてたんだった。


「じゃ、ちょっと行ってくる」


「訓練は?」


「戻ってきたら!」


「書類は?」


「……戻ってきたら」


「今、間がありましたよね?」


「気のせい気のせい。じゃ!」


リナから逃げるように歩き出す。


背後から、


「絶対ですよー!」


と聞こえてきたが、聞こえなかったことにした。


     ◇


第一軍団長室。


扉の前まで来て、そのまま開ける。


「来たよ~」


「ノックをしろ」


部屋の奥。


大量の書類が積まれた机の向こうに、一人の男が座っていた。


アーヴェル・グランツ。


二十八歳。


王国騎士団第一軍団長。


そして四年前、俺をここへ連れてきた張本人だ。


「したよ」


「してない」


「心の中で」


「出ていけ」


「ごめんって」


適当に椅子を引いて座る。


アーヴェルが眉間を押さえた。


「……四年前はもう少し素直だった気がするんだが」


「気のせいじゃない?」


「俺はお前を騎士団へ入れたことをたまに後悔する」


「じゃあ辞めよっか?」


「それは困る」


「どっちだよ」


アーヴェルがため息を吐く。


こんなやり取りも、もう何度目か分からない。


「で、何?」


「まずこれだ」


一通の封筒が机の上を滑ってきた。


受け取る。


やたら豪華だ。


「……何これ」


「お前宛てだ」


「誰から?」


「西方の小国の王族だ」


「なんで?」


「《国斬り》を一目見てみたいそうだ」


「捨てといて」


「王族からだぞ」


「じゃあ丁寧に捨てといて」


「捨てるな」


なんだよ。


俺にどうしろっていうんだ。


「こういうの最近多くない?」


「諦めろ。お前の名前はもう国内だけのものじゃない」


「頼んでないんだけどなぁ」


「英雄様は大変だな」


「……」


英雄。


その言葉だけは、どうにも慣れない。


「……やめろって」


「ザイン?」


「そんなんじゃねぇよ……俺は」


自分の手を見る。


二年前。


戦争。


撤退。


俺一人が残って――。


そこから先が、ない。


何度思い出そうとしても。


俺の記憶は途中で途切れている。


そして次に覚えているのは――。


「ザイン」


アーヴェルの声で我に返った。


「……ああ。悪い」


「無理に思い出す必要はない」


「分かってるよ」


椅子の背もたれに身体を預ける。


「で? わざわざ呼んだのって、この手紙だけ?」


「いや。もう一つ――」


その時だった。


バンッ!!


団長室の扉が勢いよく開いた。


「団長!!」


一人の騎士が飛び込んでくる。


アーヴェルの表情が変わった。


さっきまで俺とくだらない話をしていた男の顔ではない。


第一軍団長の顔。


「何事だ」


「ラウゼン王国より、緊急伝令です!」


「ラウゼン?」


思わず俺も身体を起こした。


ラウゼン王国。


この国と長く友好関係にある大国だ。


「何があった」


「王都が――」


騎士が息を整える。


「正体不明の武装集団による襲撃を受けています!」


「……襲撃?」


アーヴェルが立ち上がった。


「規模は」


「不明です! ただ、既に王都守備隊だけでは抑えきれないとのこと!」


「……は?」


思わず声が出た。


ラウゼンは小国じゃない。


大国だ。


当然、王都を守る戦力だって相応のものがある。


それが――。


「抑えきれない?」


「はい!」


「敵の所属は?」


「不明!」


「目的は」


「それも不明です!」


「……ザイン」


「うん」


嫌な感じがする。


アーヴェルも同じらしい。


数秒だけ考え――。


「第一軍を動かす」


「了解」


即答した。


さっきまでの手紙のことなんて、もう頭には残っていなかった。


「先行部隊を編成する。俺とお前も出る」


「分かった」


「直属の連中を連れていけ」


「うん」


「十分で準備しろ」


「了解」


立ち上がる。


扉へ向かう。


「ザイン」


「ん?」


振り返る。


アーヴェルが俺を見ていた。


「油断するな」


「誰に言ってんの」


笑って返す。


アーヴェルも僅かに口元を上げた。


「そうだったな」


「じゃ、行ってくる」


「ああ」


     ◇


「悪い! 急ぎになった!」


第一軍の詰所へ戻るなり声を上げる。


既に五人ともこちらを見ていた。


シグから伝わったのか?


……多分そうだな。


「ラウゼン王国が襲われてる」


「ラウゼンが?」


ガレスの表情から笑みが消える。


「詳しいことはまだ分かってない。王都守備隊でも抑えられてないらしい」


「大国の王都守備隊が……」


リナが息を呑む。


「第一軍で救援に向かう。俺たちも先行部隊だ」


「了解」


ダリオが即答した。


相変わらず早い。


「準備は?」


「既に」


「さすが」


「副団長が呼ばれた時点で済ませました」


「俺より優秀じゃん」


「否定はしません」


「そこ否定してよ」


ガレスが笑う。


「で、今日は昼飯抜きか?」


「帰ってから食おうぜ」


「無事に帰ってこられたら、ですけどね」


ミレイアが淡々と言った。


「怖いこと言うなよ」


「誰に言ってると思ってるんです?」


「俺?」


「あなたです」


「なんで!?」


「一番怪我して帰ってくるからです」


「最近は減ったじゃん」


「最近は、ですね」


「はいはい。気をつけますよ」


剣を腰に差す。


「シグ」


「はい」


「着いたら先行して敵の情報を集めてほしい」


「承知しました」


「無茶はすんなよ」


「善処します」


「お前がそれ言うと怖いんだよな……」


俺が言えたことじゃないか。


「じゃあ――」


全員を見る。


ダリオ。


リナ。


ガレス。


ミレイア。


シグ。


この四年間。


色んな奴と出会った。


色んな奴と戦った。


そして今では、こいつらが俺についてきてくれている。


「行こうか」


五人が頷いた。


     ◇


ラウゼン王国へ向かう道中。


先行部隊の空気は重かった。


情報が少なすぎる。


誰が。


何のために。


どれほどの戦力で。


何一つ分かっていない。


「妙ですね」


リナが呟いた。


「何が?」


「ラウゼン王国ですよ。そこまでの戦力が、どうやって王都まで……」


「だよなぁ」


俺もそれが引っかかっていた。


国境を突破して軍隊が侵入したなら、もっと早く情報が入ってくるはずだ。


「二年前の戦争が終わってから、大規模な軍事衝突はありませんでした」


ダリオが言う。


「各国もまだ戦力を立て直している最中です。新たな戦争を始める余裕がある国が存在するとは思えません」


「……戦争、ね」


小さく呟く。


また頭の奥がざわつく。


『行け!!』


誰かに叫んだ。


いや。


俺だ。


『俺が残る!!』


大勢の足音。


遠ざかっていく仲間。


そして。


――何人いる?


――千近い。


そこまでは覚えている。


その先は。


「ザイン副団長?」


「……ん?」


「大丈夫ですか?」


リナがこちらを見ていた。


「ああ。大丈夫」


「顔色が――」


「ほんとに平気」


笑ってみせる。


リナは少し心配そうだったが、それ以上は聞かなかった。


忘れろ。


今は関係ない。


目の前の仕事に集中しろ。


     ◇


そして――。


「……見えたぞ」


ガレスの声。


遠く。


地平線の先。


最初に見えたのは――黒煙だった。


「……おい」


誰かが呟いた。


近づくにつれて、その全貌が見えてくる。


ラウゼン王国王都。


大陸でも有数の巨大都市。


その街が――。


燃えていた。


「……嘘」


リナが息を呑む。


外壁の一部が崩れている。


街の至るところから煙が上がっている。


魔法が飛び交う光が、ここからでも見える。


王都から逃げ出す人々。


逆方向へ走る兵士。


負傷者。


泣き叫ぶ子供。


「……思ってたより酷いな」


さっきまでの軽い気分が、一瞬で消えた。


「ザイン」


隣からアーヴェルの声。


「うん」


分かってる。


剣の柄に手を置く。


「ダリオ、ガレス」


「おう」


「はい」


「俺と正面から入る」


「了解」


「リナ、後ろから援護頼む」


「はい!」


「ミレイアは負傷者優先。戦える奴まで無理に治す必要ない。まず死にそうな人から」


「分かりました」


「シグ」


返事がない。


「……シグ?」


周囲を見る。


いない。


「先ほど先行しました」


ダリオが答えた。


「……早ぇな」


まあいい。


あいつなら俺が言わなくても必要な情報を持ってくる。


「アーヴェル」


「なんだ」


「俺ら先行するよ」


「ああ。好きに暴れろ」


「それ団長が言っていいの?」


「今だけだ」


「了解」


剣を抜く。


久しぶりだ。


この感覚。


身体の奥へ。


周囲に存在する魔素を取り込んでいく。


足。


腕。


背中。


全身へ。


「行くぞ!」


地面を蹴った。


     ◇


「なんだこいつら……!」


ラウゼン兵の一人が剣を構えながら後退する。


目の前には、見たこともない装備の集団。


どこの国の紋章もない。


何者なのか分からない。


ただ――強い。


「くそっ!」


再び敵が迫る。


その時。


ドンッ!!


凄まじい音と共に、何かが戦場へ降り立った。


「……?」


砂埃が舞う。


その中から、一人の青年が歩いてくる。


黒髪。


一本の剣。


そして胸元には――。


王国騎士団第一軍の紋章。


「第一軍……?」


ラウゼン兵の顔に希望が浮かぶ。


「エルグラン王国の援軍だ!!」


歓声。


だが。


襲撃者の中に、一人だけ。


青年の姿を見た瞬間、動きを止めた男がいた。


「……待て」


隣にいた仲間が振り返る。


「どうした?」


「……あいつ」


「なんだ?」


「黒髪……剣……第一軍……」


男の顔から血の気が引いていく。


「おい?」


「嘘だろ……」


「だから何なんだよ!」


「知らないのか……?」


震える指が青年を指す。


「二年前……たった一人で……」


声まで震えている。


「敵軍を――」


青年がゆっくり剣を構えた。


男が後ずさる。


そして。


「《国斬り》だ……!」


その言葉が周囲へ伝わっていく。


「国斬り……?」


「まさか……」


「あの?」


「なんでここに……!」


ざわめきが広がる。


青年――ザインにも、その声は届いていた。


「……ったく」


ザインは小さく息を吐いた。


「ほんと、その呼び方嫌いなんだけどな」


剣を握る。


さっきまで笑っていた青年の目から、緩さが消えた。


「まあいいや」


一歩。


地面を踏み締める。


「行くぞ」


次の瞬間。


ザインの姿が――消えた。


お読みいただきありがとうございます!


第二章、開幕です!


第一章から四年。

ザインも二十歳になり、まさかの第一軍副団長になっていました。


新しい仲間たちに、《国斬り》という聞き慣れない異名。

そして二年前に起きた戦争。


この四年間でザインに何があったのかは、これから少しずつ明らかになっていきます。


そして、平穏な日々を破るラウゼン王国への襲撃。


四年前とは比べものにならないほど大きな世界で、ザインたちの新しい物語が始まります。


第二章もよろしくお願いします!


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