最終ラウンド
ついに本気を見せるレオンハルト。
圧倒的な実力差を前に、それでもザインは食らいつく。
そして、この戦いを見守っていた二人も動き出す。
決着の時は、近い。
「ここからは、手加減なしだ」
レオンハルトの声は静かだった。
「……マジかよ」
ザインは剣を握り直す。
冗談であってほしかった。
だが。
目の前の男から溢れ始めた魔力が、それを否定している。
空気が変わった。
先ほどまでとは、明らかに違う。
「では――」
レオンハルトが剣を構える。
「始めようか」
――消えた。
「――っ!?」
ドンッ!!
「ぐっ……!」
ザインの身体が吹き飛ぶ。
床を滑る。
すぐに顔を上げる。
「速――」
「遅いよ」
「――!」
目の前。
レオンハルト。
ザインは反射的に剣を上げた。
ガキィィン!!
「ぐぅっ!」
防いだ。
それなのに。
身体ごと押し込まれる。
「くそっ!」
脚。
出力を集中。
一気に距離を取る。
すぐに踏み返す。
「おらぁ!」
横薙ぎ。
レオンハルトは僅かに身体を逸らした。
空振り。
なら。
腕。
出力を引き上げる。
返す。
斬り上げ。
ガキンッ!
「なるほど」
「あ?」
レオンハルトの膝。
「ぐっ!」
ザインの身体が折れる。
続けて。
剣の柄。
ドンッ!
「がっ!」
床へ転がる。
「……っ」
ザインはすぐに立つ。
「先ほどは脚」
「……。」
「今度は腕」
レオンハルトが歩いてくる。
「必要な部位へ、その都度力を集中させているわけか」
「……何が言いてぇ」
「脚へ集中させれば踏み込みは速くなる。腕へ集中させれば剣は重くなる」
一歩。
「だが」
さらに。
一歩。
「全身で同じことをすれば、君の身体が耐えられない」
「……。」
「違うか?」
「……うるせぇな」
ザインが踏み込む。
「戦ってんだから黙ってろ!」
剣。
レオンハルトが受ける。
弾く。
「っ!」
ザインの懐。
既に。
レオンハルト。
ドンッ!
「ぐぁっ!」
ザインが吹き飛ぶ。
壁。
激突。
「……っ」
立つ。
また。
走る。
剣。
拳。
蹴り。
全部。
届かない。
レオンハルトの剣だけがザインを捉えていく。
「っ……!」
それでも。
ザインは前へ出る。
「まだ……!」
「やはり」
「あ……?」
「落ちているね」
レオンハルトがザインの剣を弾く。
「っ!」
「先ほどより遅い」
次。
「軽い」
蹴り。
「がっ!」
ザインが床を転がる。
「俺が本気を出した途端、この有様か」
「……。」
「君の力は徐々に落ちている」
ザインは剣を支えに立ち上がる。
「はぁ……っ」
腕。
震えている。
脚。
重い。
「その力は、君の身の丈に合っていないのだろう?」
「……。」
「見れば分かる」
レオンハルトがザインを見る。
「君の力で、君自身の肉体が悲鳴を上げているじゃないか」
「……は」
ザインが笑う。
「よく喋るな……」
「反論は?」
「ねぇよ」
剣を構える。
「事実だしな」
そして。
また。
前へ。
「だから何だよ!」
ガキィィン!!
剣。
衝突。
その後方。
ノアは。
動かなかった。
◇
『ノア』
屋敷へ入る前。
ザインがノアを呼び止めていた。
『なんですか?』
『一個頼みがある』
『はい』
『俺とあいつが戦い始めても、俺にバフ掛けんな』
『……え?』
『あいつ、多分めちゃくちゃ頭いい』
ノアの表情が変わる。
『お前が俺を強くしてるって分かったら、多分お前から狙う』
『……。』
『だから忘れさせる』
『忘れさせる……?』
『ああ』
ザインは自分を指差した。
『俺がずっと前にいる』
『……。』
『殴って、殴られて、また殴りに行く』
ザインが笑う。
『あいつの頭ん中を俺だけにする』
『ザインさん……』
『俺が呼ぶまで、絶対にバフを掛けるな』
『……。』
『どんだけ俺がやられてもだ』
ノアは俯いた。
『……できますか?』
『やってもらう』
『……酷いですね』
『悪い』
しばらく。
沈黙。
やがて。
ノアは顔を上げた。
『……分かりました』
『最後の一発』
ザインが言う。
『そこに全部くれ』
『……はい』
ノアは。
頷いた。
『任せてください』
◇
「ぐぁっ!」
ザインの身体が床を滑った。
「ザインさん……!」
ノアの手が。
動く。
だが。
止める。
『どんだけ俺がやられてもだ』
「……っ」
拳を握る。
レオンハルトの視線が一瞬。
ノアへ。
「……!」
動かない。
魔法も使わない。
レオンハルトはすぐにザインへ視線を戻した。
ザインが立つ。
走る。
倒される。
また立つ。
何度も。
何度も。
その度に。
レオンハルトから。
ノアという存在が。
薄れていく。
ザインの動き。
出力。
呼吸。
癖。
レオンハルトの意識は。
全て。
ザインへ。
「……。」
ノアは。
ただ。
待った。
◇
ガキンッ!!
ザインの剣が弾かれる。
カラン――。
「……っ」
剣が床へ落ちた。
ザインの膝も。
続いて。
落ちる。
「はぁ……っ」
「終わりだね」
「……まだ……」
拳。
握る。
だが。
身体が動かない。
「……くそ」
レオンハルトが歩いてくる。
「大したものだったよ」
「……。」
「ここまで俺に食らいついたことだけは、褒めてあげよう」
「……いらねぇ……よ」
「そうか」
レオンハルトが剣を上げる。
「では――」
「――待って」
声。
「……。」
レオンハルトが止まった。
ザインも。
顔を上げる。
「……イリス?」
ザインの前。
イリスが立っている。
その手は。
震えていた。
「何の真似だ」
「……。」
「退け、イリス」
震え。
止まらない。
それでも。
「……嫌です」
「何?」
「退きません」
「イリス!」
ザインが叫ぶ。
「何やってんだ!」
「ザイン」
イリスは振り返らない。
「少しだけ」
両手。
握る。
「私を信じて」
「……!」
レオンハルトがため息をついた。
「くだらない」
「……。」
「お前に何ができる」
「分かりません」
「なら退け」
「嫌です」
「イリス」
「嫌です!」
イリスが。
初めて。
兄を睨んだ。
「ずっと兄様が怖かった」
「……。」
「逆らっちゃいけないって」
震える。
それでも。
「言うことを聞かなきゃって」
魔力。
イリスの身体から溢れ始める。
「でも」
レオンハルトの目が細くなる。
「もう――」
イリスが両手を広げた。
「嫌です!!」
ゴォォォォッ!!
「……!」
炎。
レオンハルトとイリス。
二人を囲むように。
一気に。
燃え上がった。
巨大な炎の壁。
天井近くまで。
ザインたちと。
二人を。
完全に隔てる。
「……。」
レオンハルトが周囲を見る。
「何のつもりだ」
イリスは。
両手を前へ。
「ここから」
炎。
さらに。
強くなる。
「出しません」
「……。」
レオンハルトが。
呆れたように。
息を吐いた。
「そうか」
次の瞬間。
「はぁぁぁっ!!」
イリス。
全力。
炎弾。
一つ。
二つ。
五つ。
十。
次々と。
レオンハルトへ。
「……。」
障壁。
弾く。
左右。
炎。
レオンハルト。
剣。
払う。
足元。
炎柱。
一歩。
避ける。
「まだ……!」
イリス。
さらに。
魔力。
炎の壁から。
幾つもの炎。
レオンハルトへ。
「……。」
障壁。
剣。
回避。
全て。
捌く。
「っ……!」
イリスが。
後退。
それでも。
撃つ。
「はぁ……っ!」
炎。
炎。
炎。
だが。
その中を。
レオンハルトは。
歩いてくる。
「……っ」
「お前は」
炎弾。
障壁。
消える。
「相変わらず単調だな」
「……!」
「魔力を込める」
一歩。
「数を増やす」
炎。
剣で払う。
「追い詰められれば」
また。
一歩。
「さらに火力を上げる」
「っ……!」
「昔から何も変わっていない」
「まだです!」
イリス。
両手。
全力。
巨大な炎。
正面。
「はぁぁぁぁッ!!」
放つ。
轟ッ!!
レオンハルト。
障壁。
炎と衝突。
爆発。
「……はぁっ」
イリス。
息。
荒い。
煙。
その向こう。
「……。」
人影。
「――え」
レオンハルト。
目の前。
「言っただろう」
手。
伸びる。
「単調だと」
「――っ!」
イリスの首元を掴む。
身体。
持ち上げる。
魔法が途切れる。
炎の壁。
揺らぐ。
「時間稼ぎのつもりか?」
「……っ」
イリスの目が。
僅かに。
ザインのいた方向へ。
「……。」
レオンハルトが気付く。
視線。
向けようとする。
◇
炎の壁。
その外側。
「……ザインさん」
小さな声。
ザインが目を開ける。
ノア。
「お前……」
「静かに」
ノアは炎を見る。
向こう側。
レオンハルト。
こちらは。
見えていない。
「今なら」
ザインへ。
手。
翳す。
「《ヒール》」
「……っ」
淡い光。
身体。
暖かい。
痛みが引いていく。
ザインはすぐに理解した。
目を閉じる。
(回復だけに……)
周囲。
取り込む。
身体へ。
力へ回さない。
速さにも。
攻撃にも。
いらない。
(全部……治せ)
ノアの治癒。
ザイン自身の魔素操作。
重なる。
「……!」
回復速度。
跳ね上がる。
ノアが目を見開く。
傷付いた身体。
動くところまで。
無理やり。
戻す。
「……。」
ザインが。
目を開く。
ノアを見る。
「……。」
ノアも。
ザインを見る。
言葉はない。
まだ。
その時ではない。
ザインは。
ゆっくり。
立ち上がった。
◇
炎が。
弱まる。
「……。」
レオンハルトが。
向こう側を見る。
先ほどまで。
ザインが倒れていた場所。
だが。
「……?」
いない。
その瞬間。
「よそ見してんなよ!!」
「――!」
ドゴンッ!!
ザインの拳。
レオンハルト。
吹き飛ぶ。
イリスの身体が解放される。
「――っ」
「イリス!」
ノアが駆け寄る。
支える。
ザインは。
イリスの前へ。
「……ザイン」
「ありがとな」
「……。」
「助かった」
イリスが。
僅かに。
笑う。
「……遅いわよ」
「悪いって」
ザインは。
前を見る。
レオンハルトが。
ゆっくり立ち上がる。
「……。」
ザインを見る。
「おかしいな」
「あ?」
「僅かな時間で、よくここまで持ち直したものだ」
視線。
ザインの全身。
「……。」
呼吸。
足。
腕。
魔力。
観察。
「だが」
レオンハルトが剣を構える。
「完全には回復していないようだな」
「……。」
「持って僅か、といったところか」
「……やっぱ分かるか」
「当然だ」
「ほんっと嫌な奴だな」
「褒め言葉として受け取っておこう」
「褒めてねぇよ」
ザイン。
剣を拾う。
構える。
「まあ」
息を吐く。
「こっちも時間掛けるつもりねぇよ」
「……。」
ザインが笑った。
「ここで最終ラウンドと行こうぜ」
「最終ラウンド?」
「ああ」
剣先。
レオンハルトへ。
「お前もさっきまで散々戦ってんだ」
「……。」
「まさか、まだ余裕たっぷりですなんて言わねぇよな?」
「……ふっ」
レオンハルトが笑う。
「随分と舐められたものだ」
「違うって」
ザイン。
腰を落とす。
「俺ももう長くねぇ」
「……。」
「お前だって無限に戦えるわけじゃねぇ」
ザインの目。
レオンハルトだけを。
捉える。
「だったら」
剣。
握る。
「お互い残り少ない余力」
レオンハルトも。
構える。
「存分にぶつけようぜ」
「……。」
静寂。
レオンハルトの口元。
僅かに。
上がる。
「いいだろう」
魔力。
溢れる。
「その挑発」
ザインの髪が揺れる。
「乗ってやる」
「そうこなくちゃな」
二人。
腰を落とす。
「行くぞ」
「ああ」
消える。
ガギィィィンッ!!
剣。
剣。
正面。
衝突。
「おおおッ!」
ザイン。
押す。
レオンハルト。
弾く。
横。
剣。
ザイン。
身体を沈める。
避ける。
脚。
踏み込む。
拳。
障壁。
ドンッ!!
「……っ!」
亀裂。
レオンハルトの目が動く。
ザイン。
止まらない。
身体が軋む。
腕。
悲鳴。
脚。
痛む。
その度に。
魔素を回す。
壊れる。
戻す。
また。
動かす。
(あとで絶対怒られるな……!)
老人の顔が。
一瞬。
頭を過ぎる。
(知るか!)
剣。
振る。
ガキンッ!!
レオンハルトが受ける。
「貴様……!」
「なんだよ!」
「戦い方が――」
「今更だろ!」
ザイン。
踏み込む。
レオンハルト。
迎える。
互いに。
もう。
余裕などない。
剣。
拳。
魔法。
全て。
残った力を。
叩きつける。
ガキンッ!
ドンッ!
ガァンッ!!
「はぁ……っ!」
「……っ!」
ザインの呼吸。
荒い。
レオンハルトの額にも。
汗。
初めて。
ザインが。
笑う。
「やっと」
「……何?」
「余裕なくなってきたじゃん」
「……!」
レオンハルトの表情が歪む。
「調子に乗るな!」
速度。
上がる。
「――っ!」
ザイン。
剣。
防ぐ。
弾かれる。
レオンハルト。
さらに。
踏み込む。
「これで――」
ザインの防御。
間に合わない。
「終わりだ!」
剣。
ザインを捉える。
「ザイン!!」
イリスの声。
ザインの身体が。
止まる。
「……。」
レオンハルト。
息を吐く。
「終わりだ」
剣を。
引く。
「……?」
動かない。
「……。」
もう一度。
引く。
「……何?」
ザインが。
顔を上げた。
「……は」
笑う。
「……捕まえた」
「……!」
ザインは。
全身の筋力で。
レオンハルトの剣を。
固定していた。
「貴様……」
レオンハルトの目が。
見開かれる。
「まさか……!」
「勝ったと」
ザインが。
自分の剣を握る。
「思ったろ?」
「離せ!」
「嫌だね」
「貴様、正気か!?」
「今更だろ!」
ザインの剣。
上がる。
「こうでもしねぇと!」
レオンハルトが。
初めて。
明確に。
焦る。
「お前捕まんねぇんだよ!!」
「――っ!」
ザイン。
振り下ろす。
「おおおおおおッ!!」
斬撃。
レオンハルトを。
袈裟に捉える。
「ぐっ――!!」
レオンハルト。
吹き飛ぶ。
剣。
ザインから抜ける。
ザインも。
膝をつく。
「はぁ……!」
荒い。
呼吸。
「はぁ……っ……!」
顔を上げる。
レオンハルト。
床。
「……。」
動かない。
「……。」
イリスも。
ノアも。
言葉を失う。
ザインは。
剣を支えに。
立っている。
「……終わった……か」
静寂。
その時。
レオンハルトの指が。
動いた。
「……。」
ザインの目が。
細くなる。
「……俺が」
声。
レオンハルト。
「この俺が……」
ゆっくり。
身体を起こす。
「……貴様に?」
「……。」
「こんな……」
魔力。
溢れる。
「こんなところで……!」
ザインの表情が変わった。
「……なんだ?」
レオンハルトの魔力。
膨張。
いや。
違う。
何かが。
変わっていく。
「認めない……」
レオンハルトが。
立ち上がる。
「認めるものか……!」
魔力。
さらに。
膨れ上がる。
壁。
軋む。
床。
亀裂。
「……なんだよ」
ザインの肌。
粟立つ。
「この嫌な感じ……」
知っている。
脳裏。
洞窟。
暗闇。
魔人。
フィル。
「……。」
ザインの目が見開かれる。
「……あいつみてぇだ」
「ふ……」
レオンハルトが。
笑う。
「ふは……」
異質な魔力。
身体を包む。
「ふはははははッ!!」
黒く。
染まっていく。
「俺は!!」
魔力。
爆発。
「こんな所では終わらないぞ!!」
ザインが。
剣を構える。
「終わらないんだ!!」
膨大な魔力。
レオンハルト自身すら。
制御しきれていない。
「貴様ら凡人が!!」
屋敷が。
揺れる。
「決して辿り着けない領域へ!!」
レオンハルト。
両腕。
広げる。
「俺は今!!」
黒い魔力。
さらに。
膨張。
「足を踏み入れるんだ!!」
轟ッ!!
「――っ!」
ザイン。
腕。
顔を庇う。
空気が。
変わった。
重い。
息苦しい。
肌が粟立つ。
部屋全体。
異様な圧。
「……。」
ザインは。
ゆっくり。
顔を上げる。
レオンハルト。
魔人。
そして。
この感覚。
覚えている。
洞窟。
魔物の巣。
フィル。
「……。」
ザインが。
周囲を見る。
(この感じ……)
逃げ場のない。
部屋。
魔人へと変貌した。
レオンハルト。
あの洞窟。
その後。
老人から教わったこと。
全て。
頭の中で。
繋がる。
(この状況……)
ザイン。
剣。
握る。
(ここしかねぇ……!)
意識。
切り替える。
周囲から。
取り込む。
限界まで。
「……!」
ノアが。
気付く。
ザインの身体へ。
凄まじい勢いで。
流れ込んでいく。
腕。
脚。
体幹。
剣。
全てへ。
巡らせる。
今まで。
身体を守るために。
保ち続けてきた。
均衡。
捨てる。
出力調整。
今だけ。
いらない。
必要なのは。
一瞬。
ただ。
一撃。
ザイン。
腰を落とす。
全身。
出力。
上げる。
さらに。
上げる。
今まで。
決して。
踏み込まなかった。
領域。
――一〇〇%。
「……!」
レオンハルトの目が。
ザインを捉える。
「貴様……」
ザインの身体。
軋む。
それでも。
止めない。
長くは。
いらない。
一瞬。
それだけ。
ザイン。
息を吸う。
「ノアァァァ!!!」
「はい!!!」
ノア。
即答。
待っていた。
最初から。
この瞬間だけを。
両手。
ザインへ。
今まで温存していた。
魔力。
全て。
解放。
「行ってください!!!」
最大強化。
ザインへ。
重なる。
「――っ!!」
全身。
力。
跳ね上がる。
ザインの一〇〇%。
ノアの全力。
周囲から取り込むもの。
全て。
一つへ。
レオンハルトの顔から。
笑みが。
消える。
「……貴様ァ」
そして。
レオンハルトも。
両手。
広げる。
「いいだろう……!」
空間が。
歪む。
「見せてやる!!」
重い。
さらに。
重く。
ザインの足元。
床。
沈む。
「ぐっ……!」
「我が父が得意とした魔法!」
重力。
部屋全体。
押し潰す。
「その極致を!!」
屋敷。
軋む。
壁。
崩れる。
天井。
亀裂。
「ザインさん!!」
ノア。
強化。
さらに。
流す。
ザイン。
剣。
両手。
握る。
「この凡人風情がァァァ!!」
レオンハルト。
全力。
重力。
叩きつける。
ザインの膝。
沈む。
「ぐっ……!」
それでも。
前。
一歩。
踏む。
「貴様に!!」
重力。
さらに。
「俺が!!」
ザイン。
もう一歩。
「負けるものかァァァァッ!!」
ザインが。
顔を上げる。
「……うるせぇ」
剣。
引く。
「お前は――」
脚。
最大。
床。
砕ける。
「とっとと!!」
ザイン。
踏み込む。
「くたばりやがれぇぇぇぇッ!!」
斬撃。
重力。
正面。
激突。
――轟音。
屋敷。
耐えられない。
壁。
崩壊。
天井。
吹き飛ぶ。
床。
砕ける。
視界。
白。
何も。
見えない。
ただ。
轟音だけが。
響いた。
◇
「……。」
風。
吹く。
ザインが。
目を開ける。
天井は。
ない。
壁も。
ほとんど。
残っていない。
瓦礫。
月。
夜空。
「……はぁ」
ザイン。
剣。
握っている。
「はぁ……っ」
立っている。
その先。
レオンハルト。
「……。」
身体を覆っていた異質な魔力は。
もう。
消えていた。
「……。」
ザインは。
何も言わない。
レオンハルトも。
暫く。
何も言わなかった。
やがて。
「……ふ」
小さな。
笑い。
「……今回は」
ザインが。
レオンハルトを見る。
「……。」
レオンハルトの目が。
ザインを捉える。
「お前の……勝ち……だ」
そのまま。
力が抜けた。
「……。」
ザインは。
動かない。
生きているのか。
死んでいるのか。
分からない。
確認する力すら。
もう。
残っていない。
「……はぁ」
ザインが。
空を見る。
「……二度と」
剣。
手から。
落ちる。
「こんな奴と……」
身体。
傾く。
「戦いたく……ねぇ……」
「ザインさん!!」
ノアの声。
聞こえる。
ザインは。
そのまま。
倒れた。
崩れ落ちた屋敷の向こう。
夜空だけが。
静かに。
広がっていた。
最後までお読みいただきありがとうございます!
ザインvsレオンハルト、ついに決着です。
ザイン一人では、レオンハルトには届きませんでした。
イリスが恐怖を押し殺して立ち向かい、ノアが最後の瞬間まで役目を全うし、ザインがこれまで身につけてきたものを全て叩き込む。
三人揃って、ようやく掴んだ勝利です。
そして、最後にザインが踏み込んだ一〇〇%。
当然、タダで済むわけがありません。
静かに終わるはずだったイリス奪還作戦も、気付けば屋敷がこの有様。
果たしてこの大事件、どう収拾をつけるのか。
次回、戦いの後始末へ。




