譲れない戦い
屋敷の各所で始まった戦い。
ザインだけではない。
それぞれが譲れないものを背負い、強敵へと立ち向かう。
鈍い音が響いた。
ドンッ!!
「ぐっ……!」
ロイドの身体が壁へ叩きつけられる。
背中から衝突し、壁面に亀裂が走った。
それでも。
「……っし」
ロイドはすぐに身体を起こした。
正面。
ヴァルクは巨大な盾を構えたまま、微動だにしていない。
「理解したか」
「何を?」
「貴様の拳では、私には届かん」
「……。」
ロイドは自分の拳を見る。
握る。
開く。
もう一度握る。
「そうだな」
顔を上げた。
「だから面白ぇんだろ」
「……理解できんな」
「そりゃ残念」
ロイドが床を蹴った。
真正面。
ヴァルクへ。
「何度来ても同じだ」
盾が構えられる。
だが。
ロイドはそのまま突っ込まなかった。
右足。
強く床を踏みつける。
「――起きろ」
ズズズズズ……!
「……!」
ヴァルクの右側。
床が一気に隆起した。
巨大な壁となって迫る。
「ふん!」
ヴァルクが盾を振るう。
轟音。
隆起した壁が粉砕された。
「……脳筋かよ」
「貴様にだけは言われたくない」
「それもそうだな!」
砕け散る石片。
その向こうから。
ロイド。
「……!」
既に懐。
「おらぁ!」
拳。
ヴァルクが盾を戻す。
ゴンッ!!
「……。」
「ちっ」
止められた。
直後。
巨大な盾がロイドへ振るわれる。
「――っ!」
両腕を交差。
受ける。
ドゴンッ!!
身体が宙を舞う。
床を転がる。
「……っ、痛ぇな」
ロイドが起き上がる。
ヴァルクは追撃しない。
「まだ続けるか」
「当たり前だろ」
「結果は変わらん」
「やってみなきゃ分かんねぇだろ」
「既に何度も試したはずだ」
「じゃあ」
ロイドが笑う。
「もう一回だ」
「……。」
ヴァルクが小さく息を吐いた。
◇
ガキンッ!!
剣と魔力が衝突する。
「っ!」
ザインが剣を振り抜く。
だが。
薄い障壁。
刃はレオンハルトへ届く寸前で止められた。
「残念だったね」
「まだだ!」
ザインが剣を引く。
同時に踏み込む。
左拳。
レオンハルトが身体を捻る。
空振り。
ザインの背後へ。
「後ろだよ」
「――!」
ザインが振り向く。
蹴り。
剣の腹で受ける。
ドンッ!!
「ぐっ!」
押される。
だが。
倒れない。
ザインは床を踏み締めると、そのまま剣を返した。
「ほう」
レオンハルトが後ろへ下がる。
切っ先が。
服を僅かに掠めた。
「……。」
ザインはすぐに追う。
レオンハルトも迎え撃つ。
剣。
拳。
蹴り。
障壁。
魔法。
ザインはその全てに食らいついた。
「……ザイン」
イリスが。
呆然と二人を見ている。
あの日とは違う。
ギルドで。
何もできず。
一方的に倒されていたザインではない。
「兄様と……」
戦っている。
真正面から。
互角に。
少なくとも。
イリスには。
そう見えた。
「ザインさん……すごい……」
ノアも。
目の前の攻防を追っている。
ガキンッ!!
ザインがレオンハルトの腕を弾く。
剣。
レオンハルトの頬のすぐ横を通る。
レオンハルトが反撃。
ザインが避ける。
さらに踏み込む。
「……!」
レオンハルトが障壁を展開。
ザインの拳がぶつかる。
バキッ!
障壁に亀裂。
「……へぇ」
レオンハルトが笑った。
「本当に変わったね」
「そりゃどうも」
ザインも笑う。
だが。
「はぁ……っ」
息を吸う。
「はぁ……っ……」
吐く。
荒い。
戦いは。
まだ始まったばかり。
それなのに。
ザインの呼吸は既に乱れ始めていた。
額から汗が落ちる。
レオンハルトを見る。
向こうは。
まだ余裕がある。
「……。」
ザインは。
剣を握り直した。
(あんまり……)
息を整える。
(長引かせられねぇな……)
レオンハルトが。
再び構えた。
◇
ヒュンッ!
一本。
ヒュンッ!
二本。
ヒュンッ!
三本。
三本の矢が。
異なる角度からエルディアへ迫る。
「《障壁》」
ガガガンッ!
全て。
透明な壁に弾かれた。
「……硬っ」
セレナが着地する。
だが。
止まらない。
そのまま地面を蹴る。
風。
身体を押す。
一気に加速。
「右」
エルディアが呟く。
「!」
セレナの進路上。
障壁。
「ちょっ!」
足を止める。
身体を捻る。
壁を蹴る。
風。
上へ。
「《魔弾》」
光弾。
「っと!」
空中で身体を捻る。
回避。
その姿勢のまま。
弓を引く。
「そこ!」
矢。
エルディアの顔へ。
だが。
カンッ!
また障壁。
矢が弾かれる。
セレナが着地。
「……。」
「……。」
二人の視線が合う。
「私、こういう相手嫌いなのよね」
「奇遇ですね」
エルディアが答える。
「私は動き回る相手が嫌いです」
「……意外と喋るのね」
「必要なら」
「そ」
セレナが。
矢を三本。
同時につがえた。
「じゃあ」
引く。
「もうちょっと付き合ってもらおうかしら」
三本。
放つ。
エルディアが正面へ障壁。
だが。
「曲がれ」
風。
「……!」
矢の軌道が変わる。
一本。
右。
一本。
左。
そして。
最後の一本が上空へ。
三方向。
「《三重障壁》」
右。
左。
上。
三枚の障壁。
カンッ!
カンッ!
カンッ!
「……これも駄目?」
「無駄です」
「即答しないでよ」
「あなたの矢では私の障壁は破れません」
「……。」
「速度は見事です」
エルディアは。
淡々と言う。
「ですが」
セレナを見る。
「あなたの攻撃は軽い」
「……。」
セレナの眉が。
ピクッと動いた。
「……へぇ」
「事実です」
「言ったわね」
セレナが。
弓を下ろした。
「?」
エルディアが僅かに首を傾ける。
セレナは。
小さく息を吐いた。
「……まあ」
再び弓を構える。
「まだいいか」
「?」
「こっちの話」
セレナの周囲に。
風が集まる。
「その澄ました顔」
髪が。
風に揺れる。
「絶対崩してやるんだから」
「やってみてください」
「言われなくても!」
セレナが消えた。
◇
バチッ!!
「うおっ……!」
カイルが。
後方へ跳ぶ。
その鼻先。
シオンの剣が通過した。
「危なっ」
「……。」
「無言で首狙うのやめてくんない?」
返事はない。
「愛想ねぇなぁ」
カイルが双剣を構える。
だが。
「……重い」
身体。
先ほどから。
明らかに動きがおかしい。
腕。
脚。
全身。
水の中にでもいるような。
「これがお前の魔法か」
「……。」
「相手を遅くする」
シオンが。
剣を向ける。
「気付いたところで意味はない」
「そう?」
カイルが笑う。
「だったら」
バチッ。
身体から。
雷。
バチバチバチッ!!
魔力が。
全身へ巡る。
「遅くされるなら――」
消える。
「……!」
シオンの目が動く。
右。
ガキンッ!!
双剣。
シオンが受ける。
「その分」
カイルが笑う。
「速くなればいいだけだろ」
「……単純な男だ」
「よく言われる!」
カイルが剣を弾く。
もう一撃。
シオンが避ける。
さらに。
右。
左。
双剣。
連撃。
シオンが捌く。
だが。
「……!」
一本。
シオンの頬を掠める。
細い傷。
「ほら」
カイルが。
双剣を回す。
「追いついた」
「……。」
シオンが。
頬へ触れる。
指先を見る。
そして。
カイルを見る。
「なら」
魔力。
「……?」
カイルの笑みが止まる。
ズンッ。
身体が。
さらに重くなる。
「……おい」
シオンが踏み込む。
速い。
「っ!」
カイルが双剣を交差。
ガキンッ!!
押される。
「さっきより……!」
シオンの剣。
カイルが避ける。
遅い。
服が切れる。
「ちっ!」
後退。
バチバチッ!!
雷を強める。
身体が。
再び加速。
「……。」
シオンが。
また魔力を上げる。
ズンッ。
「……。」
カイルも。
雷。
バチッ!!
シオン。
鈍化。
カイル。
雷。
互いに。
一段ずつ。
上がっていく。
「……は」
カイルが笑う。
「面白ぇじゃん」
だが。
心の中では。
(……こいつ)
シオンを見る。
(どこまで下げられんだよ)
笑みは。
まだ消さない。
「いいぜ」
雷を纏う。
「どっちが先に限界来るか」
双剣。
「勝負しようぜ」
「くだらん」
シオンが構える。
「先に死ぬのはお前だ」
「そういうの」
カイルが踏み込む。
「やってみてから言えよ!」
◇
ズンッ――!!
屋敷が。
揺れた。
「……!」
ヴァルディスの周囲。
床が沈み込んでいる。
重力。
見えない力が。
空間そのものを押し潰していた。
「昔より範囲が広くなったな」
その中心。
ギルド長は。
立っている。
「強がるな」
ヴァルディスが手を下げる。
ズンッ!!
さらに。
重圧。
床に亀裂。
「膝くらいついたらどうだ」
「嫌だね」
ギルド長が。
片手を上げる。
魔力。
重力場が。
揺らぐ。
「……!」
「よっ」
弾けた。
ヴァルディスの魔法が。
霧散する。
「……腕が落ちたな」
ヴァルディスが言う。
「お前こそ」
「何?」
「昔なら今ので屋敷半分くらい潰してただろ」
「……。」
ヴァルディスが。
僅かに目を細める。
「明日、式があるのでな」
「……は」
ギルド長が笑う。
「律儀だな、お前」
「壊して困るのは私だ」
「そりゃそうか」
ギルド長が。
構える。
「じゃあ」
魔力が膨れ上がる。
「俺も少しは気を遣ってやるよ」
「必要ない」
ヴァルディスも。
構えた。
「そうかい」
二人が。
同時に笑う。
次の瞬間。
轟音。
屋敷が。
再び大きく揺れた。
◇
「っ!」
ザインの身体が。
横へ飛ぶ。
床を滑る。
「ザイン!」
「大丈夫!」
すぐに立つ。
レオンハルト。
距離。
十歩ほど。
「……。」
ザインは。
息を吐く。
「はぁ……っ」
吸う。
「はぁ……っ……!」
苦しい。
明らかに。
先ほどより。
身体が重い。
「どうした?」
レオンハルトが笑う。
「随分と息が上がっているね」
「……うるせぇ」
「心配しているんだよ」
「嘘つけ」
「本当さ」
レオンハルトが。
一歩。
踏み出す。
ザインも。
踏み込んだ。
その瞬間。
脚。
魔素。
集中。
ドンッ!!
「……!」
レオンハルトの目が見開かれる。
先ほどまでとは。
明らかに違う速度。
一瞬。
懐へ。
「っ!」
レオンハルトが障壁。
ザインが。
剣ではなく。
拳を引く。
腕。
流す。
さらに。
さらに。
「おらぁッ!!」
ドゴンッ!!
拳。
障壁。
衝突。
バキィッ!!
「……!」
障壁が砕ける。
拳は。
そのまま。
レオンハルトへ。
直撃。
ドンッ!!
身体が。
吹き飛ぶ。
「兄様!」
壁。
激突。
亀裂。
レオンハルトの身体が。
一瞬。
瓦礫へ沈む。
「……!」
イリスが。
ザインを見る。
「やった……?」
「……。」
ザインは。
答えない。
「はぁ……っ!」
肩が。
大きく上下する。
「はぁ……っ……はぁ……!」
剣を持つ手。
僅かに。
震えている。
(……マジかよ)
瓦礫。
音。
ガラッ。
レオンハルトが。
普通に立ち上がった。
「……。」
服についた埃を。
払う。
確かに。
効いている。
だが。
それだけ。
(こっちはもう……)
ザインが。
奥歯を噛む。
(部分的に五十まで上げてんのに……)
レオンハルトが。
首を鳴らした。
(重傷すら与えられねぇのかよ……!)
「……なるほど」
レオンハルトが言う。
「何だよ」
「面白い」
ザインを見る。
「先ほどから、瞬間的に君の速度と威力が跳ね上がっている」
「……。」
「最初は気のせいかと思ったが」
レオンハルトが。
ザインの脚を見る。
「今の踏み込み」
次に。
拳。
「そして攻撃」
「……。」
「強化する場所を変えているね?」
ザインの目が。
僅かに細くなる。
「何のこと?」
「とぼけなくていい」
レオンハルトは笑う。
「先ほどは脚」
一歩。
「次に腕」
一歩。
「つまり」
ザインの前。
止まる。
「全身ではないな?」
「……。」
ザインは。
剣を握り直した。
(……もう気付き始めてやがる)
「しかし妙だ」
レオンハルトが。
ザインを見る。
「それほどの身体強化を行いながら、君からは相変わらず魔力を感じない」
「……。」
「何をしている?」
「教えないよ」
「そうか」
レオンハルトが。
楽しそうに笑う。
「なら」
魔力。
その身体から。
溢れる。
「戦いながら確かめるとしよう」
「……。」
ザインも。
構えた。
苦しい。
それでも。
まだ。
終われない。
◇
ドゴンッ!!
「ぐっ!」
ロイドの身体が。
再び吹き飛ぶ。
床を転がる。
「……。」
ヴァルクが。
盾を構えている。
「終わりだ」
「……。」
「これ以上続ける意味はない」
「……誰が」
ロイドが。
床へ手をつく。
「決めたんだよ」
立つ。
ヴァルクの目が。
僅かに細くなる。
「……。」
ロイドは。
明らかに消耗している。
呼吸。
傷。
足取り。
全て。
戦闘開始時より悪い。
なのに。
「来いよ」
拳を構える。
「……。」
ヴァルクが。
踏み込む。
盾。
ロイド。
避けない。
「おらぁ!」
拳。
正面。
盾へ。
ゴンッ!!
「……!」
ヴァルクの腕が。
僅かに。
下がった。
「……?」
「まだだ!」
ロイドが。
もう一発。
ドンッ!!
「……!」
今度は。
ヴァルクの身体が。
半歩。
後ろへ。
「……貴様」
「あ?」
「何故だ」
「何が」
「攻撃の威力が」
ヴァルクが。
盾を握り直す。
「上がっている」
「……。」
ロイドが。
自分の拳を見る。
「あー」
「……?」
「それか」
「何?」
「俺」
ロイドは。
何でもないことのように。
「追い詰められてからの方が強ぇんだわ」
「……。」
沈黙。
「……何を言っている?」
「知らねぇよ」
「……。」
「昔からそうなんだ」
ロイドが。
肩を回す。
「殴られて」
拳を握る。
「痛くなって」
ヴァルクを見る。
「もう無理だって辺りから――」
笑う。
「調子良くなるんだよな」
「……理解できん」
「俺もだ」
「……。」
「だから」
ロイドが。
地面を踏む。
ズズズズズ……!
「考えんな!」
左右。
壁。
「……!」
ヴァルクが前へ。
ロイドが地面へ拳。
床が隆起。
後方。
塞ぐ。
右。
壁。
左。
壁。
後ろ。
壁。
「……!」
ヴァルクの逃げ道が。
一つずつ消える。
残ったのは。
前。
「よぉ」
そこに。
ロイド。
「……!」
拳。
ドゴォンッ!!
盾へ。
「ぐっ……!」
初めて。
ヴァルクの口から。
声が漏れた。
盾ごと。
身体が後方へ。
だが。
そこには。
ロイドが作った壁。
ドンッ!!
背中がぶつかる。
「……なるほど」
ヴァルクが呟く。
「ようやく分かった」
「あ?」
「貴様の魔法」
周囲を見る。
「地形そのもので私を倒すためのものではない」
「……。」
「逃げ道を奪い」
「……。」
「自分の拳を当てるための魔法か」
ロイドが。
ニヤッと笑った。
「正解」
「……。」
「景品はねぇけどな」
ヴァルクが。
盾を構える。
だが。
今度は。
前へ出ない。
「……?」
ロイドが。
眉を寄せる。
「来ねぇの?」
「行く必要がない」
「あ?」
「貴様の性質は理解した」
巨大な盾。
身体全体を。
完全に隠す。
「傷を負うほど攻撃力が増す」
「……。」
「ならば」
ヴァルクは。
完全防御。
「これ以上、貴様を傷つける必要はない」
「……。」
「私はここに立っていればいい」
ロイドが。
黙る。
「貴様の目的は私を倒し、仲間のもとへ向かうこと」
「……。」
「私の目的は」
盾。
「貴様をここへ釘付けにすること」
ヴァルクの声が。
盾の向こうから響く。
「時間はこちらの味方だ」
「……。」
「貴様が私を倒せなければ」
静寂。
「それでいい」
「……なるほどな」
ロイドが。
拳を見る。
確かに。
これ以上。
ヴァルクが攻撃してこなければ。
今以上に。
力は上がらない。
「……。」
ロイドが。
ヴァルクを見る。
巨大な盾。
硬質化された肉体。
完全防御。
「……は」
笑った。
「何がおかしい」
「いや」
ロイドが。
拳を握る。
「頭いいなと思って」
「……。」
「でもさ」
構える。
「一個だけ」
脚へ力。
「間違えてる」
「何?」
ロイドが。
地面を蹴った。
一直線。
盾へ。
「俺がこれ以上強くならねぇと――」
右拳。
全身。
捻る。
今ある力。
全部。
「その盾を壊せねぇって――」
踏み込む。
「誰が決めたんだよ!!」
拳。
盾。
激突。
ドゴォォォォンッ!!!
「ぐっ……!」
ヴァルクの身体が。
大きく後ろへ。
一歩。
二歩。
三歩。
「……!」
止まる。
ヴァルクが。
盾を見る。
「……な」
中央。
小さな。
一本の線。
ピシッ。
亀裂。
「……馬鹿な」
「……お」
ロイドも。
それを見る。
そして。
ニヤッと笑った。
「いけそうじゃん」
最後までお読みいただきありがとうございます!
今回はロイド、セレナ、カイルたちの戦いを中心にお届けしました。
それぞれ全く違う戦い方をする三人ですが、まだ誰一人として決着はついていません。
そしてザインも、既にかなり無茶をしながらレオンハルトに食らいついています。
次回、それぞれの戦いはさらに激しくなります!




